tegamisha

そのカレンダーに出合ったのは今から4年前。
独特の細長い紙片の中に、「この場所しかない」
というような具合で、静かに佇んでいる写真。
その美しい写真からは、それを撮影した人の美学や、
暮らしの匂いのようなものが漂ってきました。
「花と果実」「器と骨董」というカレンダー作りを続けて
今年で9年目。2009年のカレンダーの制作が
追い込み時期に入っていた2008年9月上旬、
椿野恵里子さんの“言葉”を聞くために、
大阪市にある、古い集合住宅の一室を訪ねました。

|第2回|暮らしに馴染む瞬間を撮る|

お手紙 先ほどスイカの話が出ましたが、「8月のカレンダーはスイカにしよう」とあらかじめ考えてスイカを準備するんですか?

椿野 いえ、撮るものは自分が動いている範囲の中で自然に出会ったものを撮るんですよ。

お手紙 「これを撮ろう」と思って買ったりするわけではなくて…

椿野 そうですね。先に何か、「今年はあれが撮りたいな」っていうのがあって、「時期があるから逃さないようにしとかないと」って意識していることはあります。でも、2009年のカレンダーの8月のスイカは、偶然高知に撮影に行ったときに出会ったものなんです。近所の人が作った農作物が売りに出されているような市があったんですね。良心市というんですけど、そこに連れていってもらって買ったものなんですよ。売っていたこのスイカを見て、「すごくきれいだなぁ、撮ろう!」って思っちゃったんです。前にも一度スイカを撮ったことがあるんですけど、もう一回撮ろうって思って、旅先にもかかわらず抱えて帰ったんです。こんな感じで、自分が行った先で出会ったものを、「あぁ、すごくきれいだから撮りたいなぁ」と思って持って帰ってきたっていうことの方が多いです。(部屋の片隅に置いてあった、ツルごと水に浸けてある葡萄を差し出して)あ、これ、兵庫の実家の葡萄です。父親が作っていて。葉っぱ付き。

お手紙 立派な葡萄ですね!

椿野 葉っぱがしおれちゃうんで、こうやって水に浸けているんです。昨日、持って帰ってきたところですよ。葉っぱ付きの葡萄は去年も撮っていて。実は、去年はせっかくなった実が全部猿に食べられてしまって(笑)、かわりに知り合いにいただいたんです。今年は無事でした。出荷用じゃないので間引きとかも全然していなくて。本来なら数を減らして実を大きくするように作るんですが、それを全くせずに自然のままで作っていて。このままの姿が美しいなと思ったので持って帰って来ました。

お手紙 では、これもまた撮影の時期を見計らって…

椿野 はい。また時期をみて。秋になるともう再来年のカレンダーの写真を撮ることになってカレンダー作りが忙しい時期なので、ちゃんと意識しておかないと、「あ! 撮ってなかった」っていうことになって、後でその月の写真がない、っていうことに…。もう来年のカレンダーの写真は決まっているのでね。9月くらいまでは、ぎりぎり撮ってすぐ次の年用に使うということもあるんですけど、10月から12月までの写真は、再来年のカレンダーのために撮るんです。だから、翌年のカレンダーを作りながら、翌々年のカレンダーの写真を撮っています。

お手紙 そうですよね。季節のものですもんね。

椿野 その季節ではないと撮れないですよね。特に植物は絶対無理なんですよ。“もの”はまだ「最終的にこっちの構図の方が良かったな」って思うと撮り直したりできるんですが。お花はね、そういうわけにはいかないので。

お手紙 確かにそうですね。写真の候補は常にいくつかあるんですか? たとえば8月なら、スイカではなく別のものも撮っていたりとか?

上/後日、椿野さんが撮影した葡萄

椿野 ありますあります。いくつかの候補の中から絞られてきているんですね。候補がひとつしかないこともあるんですけど。基本的に「何枚撮ろう」みたいなことは考えていないので。でもたくさん候補がある月もあって、「どうしよう」みたいなときも。お花が咲く季節とかだと撮りたいものもいっぱいあるし、果物もきれいなときは、「どうしよう」ってなっちゃいますね。でも制作の段階になって、「去年はこのお花を出しちゃったしなぁ」とかその辺りのことも考えて。あんまりこう…似たようなものにはしたくなくて。毎年カレンダーを買ってくださる方も多いので、なるべく前の年とは変えるようにしたいなって思っています。だけど撮るときにはあまり気にせず、撮りたいと思う気持ちを重視しています。

お手紙 8年間カレンダーを作っていて、同じものが2回、3回と出てきたりはしないんですか? 繰り返し形を変えて出てくるとか。

椿野 長く使っているものだったら、たとえば、花器とか、ものを乗せる器だったりとかは、被写体として一緒に写ることはあるんですよ。花器とかは本当に何回も出てきます。お花は変わっているけど、同じ器に生けたりっていうことは何回もあって。テーマが器のときは、ものがメインになるのであまり同じものは出さないようにはしています。でも、だからといってそのために次々出合いに行く、探しに行くっていうのも自分の中で違うな、と思っていて。出合って使っているからって、すぐに撮るってことばかりでもなくて、使っている中でふとこう…いちばんいい使い方が自分の中でしっくり来たり、本当に暮らしに馴染む瞬間っていうのを感じたときに撮ります。よく、「次々とものが集まって大変ですね」と言われるのですが、常に探していて新しく手に入れたものばかり撮るわけじゃないですね。

続きは次回をお楽しみに。

椿野恵里子さんからのお知らせ

風景のあとに-カレンダーのくれたもの

椿野恵里子さん初めての著書。椿野さんがカレンダーを制作する上で大切にしていること、ご家族とのエピソードなど、椿野さんの表現のルーツが見えてくるような一冊。写真はもちろん、文章の一文一文が、詩を読んでいるようで美しい。

種まきノート-ちくちく、畑、ごはんの暮らし

椿野さんが撮影を担当した、高知県の山間に暮らす布作家・早川ユミさんの初エッセイ。何ともいえない“暮らしのコク”が漂ってきそうな写真は椿野さんならでは。この本の撮影中に出合ったスイカが2009年のカレンダーに使われた。

このページのTopへ
このページの感想を送る