tegamisha

そのカレンダーに出合ったのは今から4年前。
独特の細長い紙片の中に、「この場所しかない」
というような具合で、静かに佇んでいる写真。
その美しい写真からは、それを撮影した人の美学や、
暮らしの匂いのようなものが漂ってきました。
「花と果実」「器と骨董」というカレンダー作りを続けて
今年で9年目。2009年のカレンダーの制作が
追い込み時期に入っていた2008年9月上旬、
椿野恵里子さんの“言葉”を聞くために、
大阪市にある、古い集合住宅の一室を訪ねました。

|第1回|やわらかい光が入る部屋を探して|

お手紙 椿野さんのご自宅には、はじめておじゃまさせて頂きます。カレンダーの写真は、この部屋で撮影されているんですか?

椿野 はい。

お手紙 この部屋に引っ越してきたときには、もう写真を…?

椿野 撮っていましたね。だから、良い光が入る部屋を探すということが、とても重要だったんです。

お手紙 古いけど、雰囲気があるいい部屋ですね。どうやって見つけたんですか?

椿野 前の部屋を出ることを決めた時、知人や友人が住んでいることもあって、自転車でこのあたり(大阪の中心地)に出てこられる範囲だったらいいなとは思っていて。不動産屋さんに「古いところがいいんです」と言ったら、「そういうことをみんな言うけど、本当に古いところを案内すると、ここじゃイヤって言うんだよね」と言われてしまって。なかなか古い物件を紹介してくださらなかったんですよ。あと、この大きなテーブルを持っていくことは決めていたので、これが入ることと、他にもいろいろ…。白い壁がいいっていうのは、不動産屋さんは内装のことまではわからないだろうから言わなかったんですけど、広さはある程度ないと、とかいろいろ条件を言っていたら、このあたりは人気エリアなので「探す気がないでしょ!」って怒られて(笑)。

お手紙 そこは、ぱっと入った不動産屋さんですか? 古い物件に強いとか、そういうところではなくて…。

椿野 近くでお店をやられている方に「不動産屋さんもいっぱいあるから、どこに行ったらいいかな?」みたいな相談をしたら、「新しい不動産屋さんより、長くその土地で営業をしているところのほうが、持ち主の方との繋がりが深いからいいんじゃないか」って言われたんですよ。だから、いくつかある中で、いちばん長くやってそうなところを選びました。そこで3〜4軒見せてもらった中の1軒がこの部屋だったんです。部屋に入ってみたら、壁とか全部白じゃないですか。あと、光の回り方がすごく良かったんですね。明るすぎるのもあまり好きじゃないので。「ここだったら撮れそうだなぁ」となんとなく思ったのと、壁紙じゃなく白いペンキの塗り壁だったのが気に入りました。前の家は、白い壁だったんですけど壁紙で。やっぱり古かったんですけど、ここまでは古くない普通のマンションで、“引き”の写真が撮れなかったんですね。寄った感じの写真しか撮れなくて。入って欲しくないものも入ってしまったりするから…。余白がもっと多めの写真が撮りたかったんです。この部屋だと、ある程度引いた写真が撮れるんです。その点でも、ここに来て写真が変わりました。

お手紙 内見をしたときに、光が入る方角を見たりしたんですか?

椿野 方角というか、時間帯を変えて見に来ました。晴れの日と天気の悪い日も両方。この部屋は東向きだから、朝とか午前中はいいけどあとはあんまりかな、って思ってたんですけど、夕方に見に来たときも、5月だったと思うんですけど、そんなに悪くなくて。真っ暗にはならなくて、“撮れそう”だったんですね。そのときすぐには気付かなかったんですけど、西日が、真裏にある銀行の白い壁から跳ね返ってくるんですよ。

お手紙 へぇー、なるほど! レフ板効果になってるんですね。

椿野 あの壁は真っ白だから、そこに反射してこう来るんだなって。そのお陰で光が柔らかくなって、さらにすりガラスとカーテンにしている布で調整するので、かなりやわらかい光が入ってくるんですよ。

お手紙 じゃあ、撮影するときはカーテンを開けたり閉めたりして。

椿野 そうです。ちょっと調整することもあります。以前は午前中に撮ることが多かったんですね。仕事に出かける前に撮るっていう理由もあったんですけど。でもここに来てから、太陽が暮れる前の3時から4時くらいの反射してきた光で撮ることも増えて。だから、明るくて透明感のある感じよりは、暗くてちょっと陰があって、陰影がよく出るっていう感じに写真が変わってきて。いつも、この部屋の風景の中で、「今すごく綺麗だな」って思ったときに撮っているので、自分でもそれはいつなのかなって考えてみると、その時間帯だったりするんですよね。

お手紙 同じ対象物を時間を変えて撮ったりすることもあるんですか? 午前中と夕方と。

椿野 いえ、撮り比べたりはしていないです。そのときに置いてあるものを見て、「あ、今すごくいいなぁ」と思うときに撮っているから…。「午前中だから撮るぞ!」っていう感じではないんですよ。

お手紙 たとえばスイカを撮ろうと思ったら、そこにスイカをしばらく置いておいて「今かな」みたいな感じで撮るとか。

椿野 そうですそうです。そこに置いておいて。すぐには分からないからずっと待つんです。

お手紙 ということは、カレンダーに使っている写真が撮影された時間帯は、バラバラだったりするんですか?

椿野 バラバラです。これはいつ撮ったか? と聞かれたら、ちょっと答えられないのもあります。覚えてなくて(笑)。あまりデータとか取っていないので。

続きは次回をお楽しみに。

椿野恵里子さんからのお知らせ

風景のあとに-カレンダーのくれたもの

椿野恵里子さん初めての著書。椿野さんがカレンダーを制作する上で大切にしていること、ご家族とのエピソードなど、椿野さんの表現のルーツが見えてくるような一冊。写真はもちろん、文章の一文一文が、詩を読んでいるようで美しい。

種まきノート-ちくちく、畑、ごはんの暮らし

椿野さんが撮影を担当した、高知県の山間に暮らす布作家・早川ユミさんの初エッセイ。何ともいえない“暮らしのコク”が漂ってきそうな写真は椿野さんならでは。この本の撮影中に出合ったスイカが2009年のカレンダーに使われた。

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