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2022.08.24

【手紙社団地部インタビューvol.1】安心して「好き」を追いかけられる場所

“ワクワクする団地ライフを一緒に作ろう!”をテーマに、団地にまつわる素敵なサムシングをお届けするプロジェクト「手紙社団地部」。街を歩けばふと目に入る団地は馴染みのない人からすると、ちょっと年季の入った古いイメージを持たれるかもしれません。

そんなちょっとレトロな風合いと上手く付き合いながら、理想的な団地暮らしをしている方に、我々手紙社がお話を聞いていきます。自ら創作活動を行なっている方、遠方から移住してきた方など全4回でお送りします。これからの住まいを考えている方の新しい指南書になるかもしれませんよ。

第1回目は、元手紙社のスタッフであり現在は団地にお住いのイラストレーター・火詩さんと、建築家・久米岬さんにご登場いただきます。お二人がお住まいの団地は、公園や幼稚園のほか、スーパーや八百屋、郵便局など、お買い物に便利な商店街もある大規模なもの。クリエイティブに活躍されるお二人によって、お部屋も相当手を入れているそうです。リノベーションされたお部屋にて、団地生活についてお聞きしました。

ずっと憧れていた団地暮らし


―――どうして団地に住むことを決めたのですか?

火詩さん:私は上京するときから、ずっと今住んでいる団地に住みたかったんですよ。特に最寄り駅から団地までの雰囲気が好きだったので。最初は家賃などもネックな部分もあったので泣く泣く諦めていたのですが、久米さんと一緒に暮らすとなったときはこの団地一択で、内覧して一日で決めてしまいました。

―――他の団地は見ずに、この場所に決めたのですか?

火詩さん:見ていないですね。職場との距離がちょうど良かったということもありますが、もともと小学校から大学までずっと団地育ちなこともあり、団地が好きで、親近感やなじみがありました。家選びのとき、最初から団地がいいかな、と思っていました。それで下見に来て、気に入ってしまって。

―――ピンときたポイントなどあったのでしょうか?

火詩さん:URさんがネットで間取りなどを公開しているので、気になった広さや形のところをいくつか内覧し、その中でこの部屋が一番開放感があったんです。あと、これは作り話みたいで嘘みたいに思われるかもしれないのですが(笑)。内覧に来たら2018年の手紙社のイベント「もみじ市」のフライヤーが落ちていたんです! その年のテーマが「DISCOVERY」(“まだ見ぬ何かを探し出し、出会い、見つける”という意味)。きっと私たちの前に内覧に来た人が落としていったのでしょうか。たまたまそれを発見してしまったので、これは何かの運命かも、と。

久米さん:これは住んでみてからわかったことですが、エレベーターが無く階段の上り下りなど大変なところはありつつも、防音がしっかりしているからかとても静かです。子どもの声が遠くに聞こえるくらいなのも良かった点かもしれません。

火詩さん:隣家も遠いので、視線も気にならないです。窓を開けると風通しが良いのもうれしいですね。

古いつくりと共存するように生まれた内装


お部屋に入るとそこには賃貸とは思えないほどアレンジされた空間が広がっていました。壁から床、ふすま、家具までDIYが施されたアトリエ(奥)とダイニングキッチン(手前)。ほとんどが原状復帰可能なよう工夫が施されている。

―――すごい完成度ですね……。ではまず最初に手を入れたのはどの部分なんでしょう。

久米さん:まずはじめは床の木部分ですね。古材を買ってきて、それを元々のフローリングの上に敷いてます。材料は広島のWOOD PROさんで足場板を買ってきて、一枚一枚カンナで削ってはとめて、削ってはとめての繰り返し。床が変わると部屋の印象が一気に変わるので、これが一番最初に取り掛かったDIYの部分でした。実は住みながら1年くらいかけてコツコツ進めていきました。

古材なので材料によってサイズも少しずつばらつきがあるそう。それでも丁寧に貼り合わせて完成した床には、傷や色が味わいとなって魅力となり浮き出ている。

火詩さん:テーブルは長野県のReBuilding Center JAPANさんで最近買ってきたドアに、脚を金属の溶接したものを専用で作って取り付けたりしてます。頻繁に場所を変えられるようにドアの天板と脚はあえてビス留めなどはしていません。

―――ふんだんにアンティークの材料が使われているので、居心地の良さを感じます。普通の賃貸だと色々DIYの決まりがあると思うのですが、ここの団地は何かありますか?

久米さん:実はほとんどのことは許されていて。

火詩さん:木部は自由にものを打ち込めることができますし、私たちはまだ手をつけてませんが、模様替え申請を出せばコンクリート部分も可能です。壁の塗り替えも申請を出せばできますし、ふすまも退去時にふすま代を払えばペンキを塗ることもできちゃうそうです。私たちは元の部屋の構造を生かしつつ、「ここは、こうしたい!」と思ったところを、時にはベニヤ板を使いながら自作したりしています。自由度が高いので、次はどうしようかと考えることも楽しみながら手を入れてます。

部屋には自作の壁も。中は空洞になっており、なんとそこに元々のふすまを収納している。壁の上部は壁紙を剥がして出てきた表情が素敵だったので、ペンキは塗らずに整え、ディスプレイスペースとして活躍。
キッチンの棚も手作り。市販の棚と組み合わされて、ちょうど良いサイズ感。
お気に入りの調味料も、手の届きやすい場所に棚があるだけで料理の時間が楽しくなりそう。瓶や缶にも火詩さんの遊び心が感じ取れます。

―――部屋のコンセプトは決まっていたのですか?

火詩さん:作っていく間に、住みよい雰囲気に落ち着けていきました。整いすぎているのではなく、居心地の良さを大事にしています。

久米さん:2人の好みが似ており、素朴なものだけど、あんまり甘くならないのが好きです。

―――DIYで一番大変だったのは何ですか?

久米さん:全部大変でしたが、特にアトリエにある本棚が大変でした。

火詩さん:木材の塗装があったので……。ワックスを塗り込み、つやを出したり余分なワックスを拭き取るために磨いて、最後にウエスで仕上げるので、3、4回は全面に手を入れることになりました。匂いに関しては、塗ってしまえば気にならないのですが、新品のワックスを開けると結構匂います。うっかり缶を開けたまま作業をしていたら酔ってしまい、半日ダウンしたこともありました。

アトリエの本棚には、お気に入りの作家さんの作品やこれまでコツコツ集めていた古雑貨、仕事で使うものから趣味の本まで所狭しと並べられている。

―――天井までの本棚、圧巻ですね。

火詩さん:この部屋は元々5畳ほどの広さなのですが意外と窮屈に感じないですね。見晴らしの良い外を眺められるのもいい気分転換になります。

―――えっ? 5畳!? 素晴らしい設計で真似したい方もたくさんいらっしゃいそうです。

久米さん:アトリエはコート掛けを作ったり、棚を追加したり、まだ手を加える予定です。

さりげないけど安心する場面も


―――団地の良さってどんなところに感じますか。

火詩さん:そうですね、団地は子育てに良さそうですよね。毎日清掃員の方(クリーンメイト)が、公園など共有部分を整備してくれるので、ゴミが全然落ちておらず治安がいいです。台風の後も、朝は枝が落ちていたのに、夜には無くなっていました。広い範囲を整備してくれるのは、団地やマンションならではです。

―――それは安心ですね。

火詩さん:ちょっと前に大きな冷蔵庫をいただいたのですが、運んできたは良いものの久米と二人で一階から階段で上げようとしたらびくともしなくて……

久米さん:そしたらたまたま通りかかった男性が「どうしたの? 冷蔵庫運ぶならこうしたほうがいいよ」と手伝ってくれたこともあって。お陰様で無事部屋まで運べてお礼もしたかったのですが、「また会えるよ」と言って颯爽と行かれてしまったり(笑)。そんな優しい人も団地にはいますね。

火詩さん:他にもURさんのエコ活動の一環で、グリーンカーテンを作りエアコンの使用量を減らすことを目的としたゴーヤの苗と土、肥料が希望者に無料で配られるんです。ベランダが広いので植物がたくさん育てられることもあり、だんだん育てるのが楽しくなって、「今年は大きな実を作るぞ!」と張り切っています(笑)。自家受粉にもチャレンジしてみようかなと。

―――遮光物がないので、日光がよく入りそうですね。

火詩さん:かなり暗くなるまで、ほとんど電気を点けずに過ごす日もあったりしますね。自然の光だけで家にいられるのはとても心地よいですね。

閉店5分前に欲しいものに気づいても大丈夫です!


―――団地の商店街は利用することはありますか?

火詩さん:食料品が揃うのはありがたいです。団地の商店街が無かったら、かなり遠くのスーパーに行かないといけないので。個人商店もあって、店主が明るく、会うと元気になります。現金しか使えず、ある時手持ちがないことに気がつき、「急いで取って来ます!」と慌てていたところ、優しく店主の方が「後で払ってくれればいいから持って帰っていいよ」と言ってくれたこともありました。団地内の顔見知りだからこそ感じる人の温かさです。毎週金曜日には手作りのお惣菜などを売りに来てくれるワゴンもあったり、意外と活気もあるんですよ。

久米さん:閉店5分前に欲しいものに気づいても、急いで買いに行くことができる距離なのも有難いですね。実は印刷所があるのも助かってます。仕事柄コンペの時などすぐに印刷しなければならない、なんてことがあるのですが、困ったときはお願いしたりしています。

建築家の久米さん。部屋には建築物の模型がたくさんある。

居心地良いオンとオフの切り替え


壁一面の本棚が壮観のアトリエ。以前は別々の部屋で仕事をしていた火詩さんと久米さん。同じ部屋で作業するようになってから、集中力が上がったそう。

―――仕事は自宅でされているのですか?

火詩さん:たまに気分を変えて外に行きますが、アトリエが完成してからは基本は自宅です。本がたくさんあるので、アトリエに本棚を作ってからは資料が見やすくなりました。

久米さん:居心地よく仕事ができてます。手を伸ばせばなんでも届くような設計にしたこともあって、使いやすくなったのもポイントかも。

―――確かに、この空間だけで外に行かなくても落ち着けそうですよね。休日と仕事の日は部屋の使い分けなどあるのでしょうか?

火詩さん:あまり意識はしてないのですが、アトリエとダイニングキッチンでオンとオフの切り替えをしています。アトリエで仕事をして、お昼になったらダイニングキッチンで過ごします。仕事の日でもたまにダイニングに移って作業してみると景色が変わるのも退屈しないメリットです。

好きなものに囲まれているから、好きを追いかけられる


ガラスはliir・森谷和輝さんの涼しげな作品が部屋中に散りばめられている。日々使う器から眺めて楽しむインテリアまで、ふとした瞬間に作り手の魂が感じられると、それだけで気分が上がることも。

―――よく見ると作家さんのものが自然に置かれてますよね。

火詩さん:作家さんの作品もそうですし、お互いの持っている趣味のものなどリビングには並べています。特に好きなliirさんの作品は増えすぎて専用の棚ができてしまいました(笑)。

―――いたるところに愛を感じますね。

火詩さん:自然と溶け込むように家具の色など意識しています。床やテーブルのように全体的に古びた印象のものが多いかもしれません。

久米さん:僕は音楽も好きなので、レコードやお気に入りのスピーカーを置くスペースが作れたのも嬉しかったですね。

火詩さん:一目惚れでお迎えした未草さんの古い机は、お気に入りのディスプレイコーナーになっています。

―――お気に入りのものに囲まれているから、飽きがこない良い部屋になっているんですね。

久米さん:寝室はまだあまり手を加えられていないので、部屋を区切り、手前に木工作業スペースを作って、奥をロフト状にするつもりです。ロフトは下に小さい読書室、上にベッドを置きたいです。これまでダイニングキッチンでDIY作業をしていたのですが、部屋中に木粉が舞い、掃除の時間もかかるしストレスにもなるので、そこに専用の作業できる空間も作りたいんです。

火詩さんが描いてくれた“今のお部屋とこれからの部屋の未来予想図”。スペースを無駄なく生かした「これからゾーン」は、読書に映画鑑賞、木工など、趣味に没頭できること間違いなし! 本当に団地の住まい? と思ってしまうような夢のある空間は秘密基地のよう。ワクワクが止まりません。

インタビューを終えて

入った瞬間、古民家カフェのような雰囲気を感じさせる火詩さん、久米さん宅。DIY物語が詰まった家具たちに囲まれながら、これからのリノベーション計画について楽しそうにお話をする2人の姿が印象的でした。壁に画鋲を指すことさえ躊躇させる賃貸物件が多い中、リノベーションに対して寛容な団地だからこそ見ることができた光景です。また、団地はそこに暮らす人々が安心できる工夫が詰まっており、それも2人がリノベーションやクリエイターとしての仕事など「好き」を追求することに集中できる要因の一つなのではないでしょうか。残りあと3回、団地にお住いの方にお話を伺います。この記事を読んでくださっているみなさんも、最後にはきっと団地に暮らしてみたくなるはずです。

(取材・文=手紙社/川上愛絵 撮影=火詩さん、久米岬さん、手紙社/上野樹)


【火詩・久米岬プロフィール】
手紙社のオンラインショップ「えりすぐり手紙舎」やイベント「布博」を担当し、現在フリーランスのイラストレーターとして活躍する火詩さんと一級建築士である久米岬さん。YouTubeチャンネル「くらしの学校」を運営し、美術や動画編集をそれぞれの得意分野で手掛けながら、世界の名建築を紹介している。
火詩:hiuta.net
久米岬:misakikume.com
YouTubeチャンネル:「くらしの学校」