あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「年をとるのが楽しみになる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『マダムたちのルームシェア
著・文/seko koseko,発行/KADOKAWA




今、未婚既婚を問わず「老後は仲のいい同性の友人とルームシェアしたい」と言う人が年々増えている気がします。もちろんそれぞれの本気度はわかりませんが、我々世代のひとつの夢であることは間違いなさそう。そういった意味ではこちらはまさに理想郷のような作品。のんびり、おっとり、ときどきちょっと変だけど、幸せな老後のイメージづくりに欠かせない1冊です!



2.『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた
著・文/藤谷千明、蟹 めんま、監修/LIFULL介護,発行/集英社




ルームシェアというよりは、同じ趣味のオタクで集まれる老人ホームを作りたい! という「夢」が実現可能なのかどうかを熱い心のままに調べ、専門家に話を聞きに行き、介護職につき、実現に向けて確かな歩みを進めているのがこちらのおふたり。死ぬまで趣味を大切にする生き方ができたら最高に幸せですよね。バンギャルでなくともぜひ読んでほしい『老後の実用書』です。



3.『へろへろ ─雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』ちくま文庫
著・文/鹿子裕文,発行/筑摩書房




一方こちらは、とんでもない特別養護老人ホームをすでに自力で作ってしまった人たちのお話。これはほんとうに介護や福祉の話なのか!? と思うくらい楽しくてバカで、そしてパワフルなノンフィクション。人間らしく生きるための施設を目指しながら、それは崇高な理念なんかではできない、という彼らの筋金入りの生き方に心が揺さぶられます。



4.『おひとりさまの最期』文庫
著・文/上野千鶴子,発行/朝日新聞出版




流行語とも言える勢いで広まった「おひとりさま」というワード。伴侶や家族のない老後は寂しいものだという固定観念も上野千鶴子さんのおかげですっかり弱まりました。シリーズの完結編であるこちらは「在宅ひとり死」のススメ。それまでは「ひとりで家で死ぬ→孤独死→いやだ」と思っていたのに、これを読んだらすっかり感化されて自宅でひとりで死にたくなりました(老後ね)。



5.『独り居の日記
著・文/メイ・サートン,訳/武田尚子,発行/みすず書房




いや、ひとりだろうが何人だろうが、実際のところ、ほんとうの自分の老後の不安は、「どんな魂で生きることができているのだろうか」ということなんですよね。ケチで意地悪で差別的な人間になってしまったら恐ろしいなと思う一方、悟りすぎて仙人みたいになってるのもそれはそれでつまらなそう。気高くありながら老成せず、もがき続ける彼女の姿は私にとってのひとつの理想かもしれません。



6.『ふたりから ひとり ~ときをためる暮らし それから~
著・文/つばた英子、つばたしゅういち、水野恵美子,写真/落合由利子,発行/自然食通信社




老後の理想、とは、つまり自分らしい生き方を実践できているかどうか、ということなのかもしれません。『人生フルーツ』という映画にもなった彼らの、自然の中でていねいに暮らす生き方は、やっぱりあまりにも素敵すぎる。昔から都会が大好きで、田舎暮らしなんて考えられない、と思っていた自分も、ついにこういう暮らしの良さが見えてきたような……。



7.『海が走るエンドロール』ボニータ・コミックス
著・文/たらちねジョン,発行/秋田書店




いくら今が高齢化社会だからといって、まさか65歳女子の青春漫画が大ヒットするとは、少し前なら考えられなかったのではと思います。映画を撮ることに魅せられていく主人公の姿が眩しい作品。安直に「青春=恋愛」じゃないところも、爽やかだけど甘くないストーリーも個人的には高ポイント。物語はまだまだ終わらなそうで、続きが気になります。



8.『50歳からのごきげんひとり旅』だいわ文庫
著・文/山脇りこ,発行/大和書房




旅好きな自分としては、「いったいいつまで海外ひとり旅とかできるのだろうか……最近は体力も落ちてきたし……」というのが今まさに差し迫る不安。だからこそ、生粋の旅好きである著者の体験が豊富に入っているこの本は最高でした。考え方も旅のプランも、「なるほど!」「こういうのいいかも!」の連続。旅初心者だけでなく、旅慣れている人にこそおすすめしたい1冊です。

9.『OVER THE SUN 公式互助会本
編/TBSラジオ「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」,企画・原案/ジェーン・スー、堀井美香,発行/左右社




オーバー・ザ・サン、オー…バー…サン……、つまりオバサン、というダジャレなのですが、これはコラムニストのジェーン・スーさんとアナウンサーの堀井美香さんによるポッドキャスト番組のタイトル。「年を重ねても楽しく生きようよ!」と言われても「うん、まあ」と戸惑ってしまうけど、彼女たちのトークを聞いたら楽しさが体に染み込んで拳を突き上げたくなる。ラジオを聴く習慣のない方も、ぜひこの本から。

 

10.『かっかどるどるどぅ
著・文/若竹千佐子,発行/河出書房新社

 

 

数年前「おらおらでひどりいぐも」(私は私らしくひとりで生きていく、の意)という小説で鮮烈にデビューし、芥川賞を受賞した若竹千佐子さんの最新作は、今度はみんなで助け合って生きることがテーマに。弱者をさらに追いやるようなこのひどい社会でも、少しだけ人に何かをしてあげたら、きっと自分が生きている意味を思い出せる。老女たちの生き様が沁みる1冊。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。