あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「太陽の塔が作られた『EXPO70』の時代に思いを馳せてみる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『自分の中に毒を持て : あなたは”常識人間”を捨てられるか
著・文/岡本太郎,発行/青春出版社




「太陽の塔」の作者、岡本太郎の本はもちろんたくさん出ていますが、何も知らなくても楽しく読めて人生に役立ちそうなのはこちらの1冊。「やりたいことをやれていない」「新しい世界に踏み出す勇気が出ない」なんて悩みに、バシーンっと背中を叩いて前に押し出してくれるような、エネルギッシュなエッセイ集。


2.『水曜の朝、午前3時
著・文/蓮見圭一,発行/河出書房新社




こちらは大阪万博がそのまま舞台となっている恋愛小説。作家の蓮見圭一さんはそこまで有名とは言えない作家かもしれませんが、この本は多くの人に愛され、今でも多くの人に「大好きな本」として語り継がれています。激動の時代だったのであろう当時の社会背景に思いを巡らせつつ、時代も価値観も超える、不変の恋愛に触れられるような大人の物語。


3.『ノルウェイの森
著・文/村上春樹,発行/講談社



こちらも「あの頃」を象徴するような作品かもしれません。村上春樹さんのベストセラーで村上さん自身も「100%の恋愛小説」と言っていたという特別な一作。寮生活、精神を病んで入院しているガールフレンド、そして新たに彼の前に現れた魅力的な女性……彼らの言い表しようのない喪失感が心に残る美しい物語は、クリスマスの時期に読むのにもちょうどよさそうです。


4.『青春とは、』文春文庫
著・文/姫野カオルコ,発行/文藝春秋




一方、こちらは地方の、普通の高校生たちが主人公の、タイトル通りの青春小説。この時代に青春を過ごしていた人にとっては細かな固有名詞まで共感となつかしさでいっぱいなのでは、と思わせるリアルさです。楽しい読み心地ながら、この時代ならではのことと、いつの時代でも変わらないものが感じられて、青春っていいものだなあと改めて思わせてくれます。


5.『トリニティ』新潮文庫
著・文/窪 美澄,発行/新潮社




平凡社やマガジンハウスの雑誌がカルチャーの最先端を作り、みんなが夢中になっていた時代。立場や性格の違う、けれどこの雑誌業界に関わっていた女性3人の歴史をたどる、大河小説のような読み応えの物語。「これってモデルはあの人かな」「この雑誌は○○のことだよね」と推理しながら読むのも楽しい。


6.『表参道のヤッコさん』河出文庫
著・文/高橋靖子,発行/河出書房新社




日本のスタイリストの草分け的な存在と言われる高橋靖子さん。普通の少女が60年代〜70年代の日本のカルチャーの世界に飛び込み、デヴィッド・ボウイやT・レックスとの仕事を手がけるようになるまで、怒涛のキラキラした日々を自ら綴ったノンフィクション。きっととんでもない大御所のはずなのに気取らないピュアな文章も素敵。


7.『グレープフルーツ・ジュース』講談社文庫
著・文/オノ・ヨーコ,訳/南風 椎,発行/講談社




こちらはまるでこの本自体がアートのような、思考実験のようなユニークな1冊。すべての言葉が「〜しなさい」と命令調で書かれていて、たとえば「掃除をしなさい」というようなシンプルなものもあれば「道を開けなさい。風のために」と難しそうなものもあります。でも読んでいるうちに心が軽くなっていって、自由さを取り戻せるような気がします。


8.『昭和インテリアスタイル
編/グラフィック社編集部,発行/グラフィック社




令和のインテリアの定番といえば、シンプルで品が良くて、うるさくないもの。もちろんその居心地のよさは十分わかっているのですが、こういう本を見ると70年代くらいって遊び心や色の組み合わせを大事にしていて、楽しそうでいいなあと思います。これは当時の写真ではなく、このテイストを愛する人たちの「現在」の写真なのでよりそう感じるのかもしれませんが……。

9.『ラブホテル
著・文/都築響一,発行/青幻舎




豪華だったりファンタジーな内装で、でもどこかB級、という「ラブホテル」の内装も、昭和インテリアと同様にやがて消えゆく文化のひとつでしょう。行ってみたいとは思わないけど、こうして本の形で見るとほんとうにすごいなあと思います。シリーズで「秘宝館」も出ているのですが、どぎつさへの嫌悪感よりは「時代、この数十年でさすがに変わりすぎでは?」とも思う。まさにあの頃に思いを馳せざるを得なくなる本。

 

10.『サーカスの子
著・文/稲泉 連,発行/講談社

 

 

サーカスって、楽しいもののはずなのにどこか怖くて寂しいようなイメージがあります。この本は「サーカスの子」(著者の母が各地を移動し巡業するサーカス団の食事係)だったという著者が、おぼろげな記憶を頼りに、当時いっしょにいた人たちに会いに行き話を聞いてまとめた1冊。せつないのだけれど、どこかやさしくてあたたかい著者の思い出が、じんわり伝わる不思議な本です。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。