あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「移住で人生再スタートしたくなる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『中年女子、ひとりで移住してみました 仕事・家・暮らし 無理しすぎない田舎暮らしのコツ
著・文/鈴木みき,発行/平凡社




移住を考えるならまずはじめに読みたいのがこちらの本。コミックエッセイで絵もかわいくて読みやすく、いかにも“入門編”の風情なのに中身は超本気。都会育ちだけどとにかく山に魅了されて、山の近くに住みたくて、地方でもできる仕事を考えてみる、というスタートから、実際に移住してみてからの理想と現実とのギャップまで……。移住について知りたいことが全部つまってます!


2.『漂うままに島に着き
著・文/内澤旬子,発行/朝日新聞出版



ファンも多いエッセイスト・内澤旬子さんの、こちらは移住についてのエッセイ。乳がんの副作用から狭い部屋が嫌になり、東京をバッサリ捨てて小豆島へ! 淡々とした平熱の文章が、島暮らしにハマっていく様子をかえってリアルに伝えてくれます。ヤギを飼ったり獣をさばいたり、都会ではできないことばかり。移住なんか絶対にしたくないと思っている人にもこの本は絶対面白いはず。


3.『現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた
著・文/大滝ジュンコ,発行/山と渓谷社



こちらも同じく、自分が移住するかどうかはさておき、読み物として、そして生き様として非常に面白い1冊。誰もが何かを目指してそこに行くわけではない。存続も危ういような村に住むことになった彼女が、まるで異世界転生のように新しいものに次々と出会い、これまでの技術を生かして村に溶け込んでいくさまはほんとうにすごい。読んでいる間じゅうワクワクしっぱなしです。


4.『京都「トカイナカ」暮らし
著・文/グレゴリ青山,発行/集英社インターナショナル




ここまで猛烈な田舎での生活の本をご紹介してきましたが、そもそも「都会or田舎」みたいな考えに縛られなくてもいいのかも。一度山奥に住んでその不便さからリタイアした夫婦が次に選んだのは京都市街まで電車で20分で出られる「トカイナカ」。移住してみたいけど不安、そんな人にとってはぴったりの選択肢かも。コミックエッセイの先駆けであるグレゴリさんの、ユーモアあふれる移住レポです。


5.『神去なあなあ日常』徳間文庫
監修/三浦しをん,発行/徳間書店




こちらは小説ですが、田舎暮らしのよさを知るという点では非常にオススメしたい本! 高校卒業後、気楽なフリーターになるつもりだった主人公はなぜか三重の林業の現場で働くことになってしまい……。自然の美しさ、自然を扱う仕事の尊さが伝わると同時に、ゲラゲラ笑ってドキドキ楽しめる。たしかに都会の生活では100年続く仕事も、神様の存在も、あまり信じられないものなあ〜とうらやましさが募ります。


6.『サウナをつくる スウェーデン式小屋づくりのすべて
著・文/リーサ・イェルホルム・ルハンコ,翻訳/中村冬美、安達七佳,監修/太田由佳里,発行/グラフィック社




ところで、都会でできなくて田舎だからこそできることってなんでしょう? もちろんいろいろあるとは思うのですが「マイサウナを持つ」なんてどうでしょう。スウェーデンの女性大工によるサウナ作りの100%の実用書。都会ではサウナといえばスーパー銭湯で楽しむものですが、ほんとうの自然の中でのんびり入る手作りのサウナなんて……とんでもなく夢が広がります。


7.『北欧こじらせ日記 移住決定編
著・文/週末北欧部chika,発行/世界文化社




移住というと「都会→田舎」がメジャーな気がしますが、思い切って海外に行っちゃってもいいですよね。だってたった1回の人生だもの……。最初から友達もいないし言葉もしゃべれないし仕事もないのはみんないっしょなわけで、そんな状況からコツコツとひとつずつ課題をクリアし、夢を叶えた著者の勇気と行動力はほんとうにすごい! でも成功者の話というよりは友達のように身近に感じられるのがこのシリーズの魅力です。


8.『Masato』集英社文庫
著・文/岩城けい,発行/集英社




移住は、自分の意思ばかりで起きるとはかぎりません。父親の転勤で突然日本からオーストラリアに移住することになった家族。当然のように起こるいじめをを乗り越えて順応していく子どもと、いつまでも英語を話せず、家で英語を使う子どもを忌々しく感じる母親……。ぶつかり合って壊れかける家族を描いた小説ですが、それぞれがきちんと向き合っていく姿に心打たれること間違いなしの名作。

9.『レタイトナイト』路草コミックス
著・文/香山哲,発行/トゥーヴァージンズ




舞台はファンタジーの世界ですが、ぜひ移住のおともに(?)読んでほしい作品。人ってなんで「ここじゃないどこかで暮らしたいな」って思うのでしょう。新たな土地に住み始めるときの不安とワクワクが混じった気持ち、いい定食屋さんが見つかったらうれしかったり、少しずつ何かを手に入れていくことはロールプレイングゲームのようだなあと思ったり……。そんなことのすべてが不思議に楽しく描かれた、ジャンル判別不能の新時代コミック。

 

10.『日本に住んでる世界のひと
著・文/金井真紀,発行/大和書房

 

 

ここまでずっと「移住する側」としての本を紹介してきましたが、この街にも、この国にも、どこかから「移住」してきた人がいる。そんな人たちの話をまず聞いてみるというのもいいかもしれません。インタビューの達人、金井さんによる「日本に住む世界の人たち」へのインタビューは元気が出たり、泣けたり、ショックだったり、知らなかったことの連続。でも自分が移住する側・される側、どちらになっても、となりにいる人と助け合いながら生きていきたいですね。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。