tegamisha

そのカレンダーに出合ったのは今から4年前。
独特の細長い紙片の中に、「この場所しかない」
というような具合で、静かに佇んでいる写真。
その美しい写真からは、それを撮影した人の美学や、
暮らしの匂いのようなものが漂ってきました。
「花と果実」「器と骨董」というカレンダー作りを続けて
今年で9年目。2009年のカレンダーの制作が
追い込み時期に入っていた2008年9月上旬、
椿野恵里子さんの“言葉”を聞くために、
大阪市にある、古い集合住宅の一室を訪ねました。

|第7回|「もうやめよう」と思うくらい悩んだ|

お手紙 ところで、カレンダーは現在、どれくらいの部数を作られているんですか?

椿野 2種類合わせて2000部くらいですね。2009年のカレンダーは3000部作ります。

お手紙 すごいですよね。最初は手作りのコピーから始まって…。最初の頃はどれくらい作られていたんですか?

椿野 最初の頃の数は…よく覚えていないんです。多分そんなに多くないと思います。お店の人に「何部お願いします」って言われてから作っていたと思うんですよ。ロスがない方がいいですしね。カレンダーを扱ってくれるお店がだんだん増えて、600部まではコピーで作っていました。追加があればその分をまた作るという感じで。

お手紙 そうなんですか。販売してくれるお店は、どんな感じで広がっていったんですか?

椿野 だいたいお店の人達の方から「置きたい」と言って下さいました。とてもありがたかったです。それに、カレンダーを使ってくれた人が何かのときに周りの人に紹介してくれたり、カレンダーって飾ってあれば自然に見てもらえるものだから、それが勝手に宣伝になっていたり…。そういうことも理由だと思っています。でも最初は、それ以上広げるつもりはなかったんですよ。印刷物にするって決めてなかったから、部数が増えすぎると対応ができなくなるので。2005年から2006年に渡って印刷物にするって決めるとき、本当に悩みました。「もうやめよう」と思ったくらい悩んだんですよ。

お手紙 それはどうして?

椿野 なんていうか…。「自分が撮った写真で、カラーコピーとはいえ最後まで手作りする」という、この作り方や販売の方法も作品のコンセプトじゃないですか。だから部数やお店を限定して、このままずっと手作り感を残していくっていう方法もあったと思うんですよ。それで、その方法でやるのかどうするのか、どうしてカレンダーを作るのか…とか色々と悩み過ぎちゃって、「もうやめよう」となってしまったんですよね。今思えば、ちょっと考えが狭くなっていたと思います。でも、そんなときにクリエイターのRARI YOSHIOさんに会ったんです。

お手紙 RARIさんに?

椿野 RARIさんに、会社の上司の紹介でお会いして、今の話をご相談したんですよ。そのときRARIさんが言って下さったのは「自分がひとりで手作りして出来る範囲というのは限られている」ということ。「でもそれを仕事にしてやっていくんだったら、ライセンス契約をするとか、印刷をして商品化するとか、人の力も借りながら表現をしていかないと、やっぱり無理だと思うよ」という風に言われたんです。「自分が手作りで見せる部分、たとえば展示会のときの作品の展示の仕方だったりとか、見せるべきところはちゃんと手作りで見せ続けていけば、いくら量が増えて作品が出回ったとしても大事なところは薄まらない」って。それを聞いて、手作りにして数を減らすか、手作り感を減らして大量生産にするかどっちかにしなきゃって焦っていたのが、「あ、両方やればいいんだ」って思えたんですよ。それが2005年の8月で、もうすぐにでも制作しないと間に合わない時期で、ぎりぎりまで制作しないで悩んでいたんです。でもその言葉を聞いて、気持ちを切り替えて制作を初めて、カレンダーを印刷するまで持っていったんです。だから、今でもその言葉をもらえたことに、すごく感謝しています。

お手紙 そうだったんですか…。コピーから印刷に切り替わった年の制作背景に、そんな葛藤があったんですね。

椿野 はい。だからその年は仕上げ時期がちょっといつもより遅れたんですけどね。印刷物にするとなると、部数は最低でも1000部とかにしないと一部当たりの単価が下がらないので、それからはお店も少しずつ増やすように意識しました。声を掛けてくださったら、だいたいは断らずに置いてもらって、どんどんと…。全国的に満遍なく広がるように考えて。今年は50店舗になりました。

お手紙 やっぱりご自分で営業したわけではなくて、お店の方から?

椿野 そうですね。ほとんどはお店の方から言ってきて下さいました。自分でお願いしたことも多少はあると思いますけど。ホームページを作ったことも大きかったと思います。あ、花市に出店して、関東近郊のお店で扱ってくださるところが増えてきました。花市には関東近郊の方が来られてますもんね。今まで都内以外、関東圏は置いているお店がなかったんですけど、おかげさまで増えてきて(笑)。

お手紙 あ、そうなんですね。それは良かったです(笑)。

続きは次回をお楽しみに。

椿野恵里子さんからのお知らせ

風景のあとに-カレンダーのくれたもの

椿野恵里子さん初めての著書。椿野さんがカレンダーを制作する上で大切にしていること、ご家族とのエピソードなど、椿野さんの表現のルーツが見えてくるような一冊。写真はもちろん、文章の一文一文が、詩を読んでいるようで美しい。

種まきノート-ちくちく、畑、ごはんの暮らし

椿野さんが撮影を担当した、高知県の山間に暮らす布作家・早川ユミさんの初エッセイ。何ともいえない“暮らしのコク”が漂ってきそうな写真は椿野さんならでは。この本の撮影中に出合ったスイカが2009年のカレンダーに使われた。

このページのTopへ
このページの感想を送る