“ワクワクする団地ライフを一緒に作ろう!”をテーマに、団地にまつわる素敵なサムシングをお届けするプロジェクト「手紙社団地部」。団地での暮らしを楽しんでいる方に、我々手紙社がお話を聞いていきます。

第3回目は、手紙舎 つつじヶ丘本店の並びにアトリエを構える「kata kata」の松永武さんと高井知絵さんにお話を伺いました。kata kataは、型紙を手作業で彫り、布に模様を染め出す伝統染色技法「型染め」を中心に、様々な技法を用いて作品を生み出す染色ユニット。手紙社が主催するイベント・もみじ市に第1回目から参加し、「布博」や「東京蚤の市」など、様々なイベントに出店してくれています。今回は、“団地にある商店街の中”というユニークな場所での作家暮らしについてお聞きします。


団地で生まれるkata kataの作品




―――kata kataといえば「型染め」。細かく彫った型紙は破れたりしないのですか?

知絵さん:「渋紙」と呼ばれる耐水性の紙をカッターのような刃物で切り抜いて、表から「紗」と言うネットのようなもので補強するんです。全ての絵柄がどこかで繋がっている、というのが私たちのルールです。


―――型紙を彫るとき、間違えて彫りすぎてしまいそうです……。

知絵さん:実は、私たちでも間違えることはあるんですよ。でも、裏面からマスキングテープなどで補強すれば大丈夫! 意外とやり直しが利きます。


―――2023年のカレンダー「うさぎとかめ」は、細かいデザインと、カラフルな色合いが魅力的ですよね。

知絵さん:下書きも、型紙を彫っている最中も、頭の中にある絵柄は白黒なんですよ。型紙が彫り上がってから色を決めています。だから、まずは白と黒のバランスが良いように絵柄を考えるんです。それが良くないと、色をどれだけ入れて華やかにしてもどこかバランスが悪くなります。

武さん:最近は、染め始める前にiPadで色のシミュレーションできるようになったから、表現の幅が広がったよね。

知絵さん:以前は一発勝負だったので、染めた色が気に入らずにやり直すこともしばしば。妥協してしまうこともあったかもしれません。とにかく緊張感はありましたね。

武さん:僕は色数は少なめが好みで、1色にぼかしを入れたり、ワンポイントで別の色を入れたりとか。

知絵さん:逆にカレンダーは色数を抑えないほうがお客さんからの反応も良いんです。それでもこれで5色くらいしか使っていないんですよ。


―――このアトリエでは、主にデザインをされているのですか?

知絵さん:そうですね。型紙を彫ってサンプルを染めるところまで。その後、そのサンプルを注染の職人さんの工房に送るんです。紙ものなどを作るときは、型紙で和紙を染めてスキャンし、データを作っています。企業とのコラボレーション作品を作るときは、型紙自体をスキャンすることもありますよ。型染めという伝統的な技法を、タオルやマスキングテープなど、どんな製品にも落とし込めるようにすることを目標に活動しています。




2023年のカレンダー「うさぎとかめ」は韓国の昔話「うさぎの肝」がテーマ。よく見ると渋紙と紗が見える。




型紙を染めたいものに置き、糊を塗る。糊のある部分には色が入らない仕組み。




「うさぎとかめ」の原画。



偶然が重なって決めた団地への引っ越し




―――神代団地に拠点を移す前は、どこにお住まいだったのですか?

武さん:最初は、八王子市・多摩センターにある小さな庭付きの平家を拠点にしていました。染め作業をできる場所として選んだのですが、ちょっとした庭では効率の良い作業ができず……。知絵さんのご両親が静岡で染色作家をしているので、工房をお借りすることもしばしば。東京ではデザインと発送を主にしていました。


―――はるばる東京から静岡まで!

武さん:その後、手ぬぐいなどの在庫を保管する場所が足りなくなったこともあり、新しい拠点を探し始めたんです。そうしたら、ちょうど調布市・八雲台に広い一軒家があって。染め作業ができそうな庭もあったので、すぐに引っ越しを決めたんです。実際は、庭に布を干すようなポールを立ててみたりしたものの、染め作業はあまりしませんでした。

知絵さん:本当にやらなかったね! ちょっと想像してた作業は難しかった……!

武さん:サンプルを染めるくらいですね。とにかく、当時は在庫の量がすごかった。手ぬぐいから、ポストカードから……、本当に。オンライン販売はしていなかったけれど、ポップアップストアやイベントに参加した時のためにたくさんの在庫が必要だったので。そんな時に、この神代団地に遊びに来る機会があったんです。

知絵さん:確か、おやつとジャムのお店・アノダッテさんが手紙舎 つつじヶ丘本店でイベントを開催していて。その時ちょうど、手紙舎の近くの物件を貸し出します、という情報をたまたま耳にしたんです。


―――たまたまこの物件に出会えたのですね。すぐに引っ越すことを決めたのですか?

知絵さん:そのとき、手紙社のお店を設計した建築家・井田耕市さんも一緒にいたのが実は決め手で。手紙舎 つつじヶ丘本店の内装も手がけていたので、間取りや奥行きも大体把握していたんです。大きな布を染められるか恐る恐る聞いてみたら、「ここだったらいけるんじゃない?」と。それでもうここだ! と思い立って申し込みをしたのがきっかけです。



団地暮らしを楽しんでいる証拠「野川研究クラブ」




―――団地のお気に入りポイントを教えてください!

知絵さん:スーパーも郵便局もカフェも、なんでもあるところかな。団地から出なくても生活できちゃいます。

武さん:印刷所「アクセスワールド」もあるので、欲しいものをすぐその場で印刷してもらえるのは助かっています。注染手ぬぐいのおまけ「しおり」も、よく印刷してもらいました。


―――敷地内には公園があって、お子さんがたくさん遊んでいますね。

知絵さん:そうですね。子どもには団地で知り合ったお友だちもいます。ママ友との交流も楽しいんです。


―――子育てしやすい環境でしょうか?

知絵さん:基本的に敷地内に車が入ることもないし、安心して子育てできますよ。他にも便利なことがいっぱいで、商店街の中にある緩やかな坂は、自転車の練習にぴったりでした。周りの子もよく練習してたから、自分から乗りに行ってましたよ。初めてのおつかい体験も、商店街の中にあるスーパーでした。あと、生まれた時から子どものことを知っている方が近所に多いので、「大きくなったね!」とよく声かけてくれたり、気にかけてくれたりするのも嬉しいです。


―――休日は何をすることが多いですか?

知絵さん:友人家族が「チェアリング」に夢中なので、一緒に野川で楽しんだりしています。チェアリングは、アウトドアブームの中で巻き起こった流行のひとつ。極力荷物は少なくし、コーヒーやカップラーメンなどのちょっとした食べ物を楽しみながら、イスに座ってのんびりすることが主旨のはずだったんです。最近はだんだん食べ物がレベルアップしてきて、串揚げをしたりもしてるんですよ。ミニマムを楽しむはずが、友人家族が持ってくる荷物は引っ越しの時くらいの量なんです(笑)。

武さん:本当に楽しいよね。野川は水の流れが程よいので、魚やザリガニも見ることができますよ。実は、野川の生物を観察する「野川研究クラブ」をこっそり発足しました。


―――野川の生物からインスピレーションを受けて生まれた作品はありますか?

武さん:まだ無いけれど、これから生まれるかもしれません(笑)。でも、アイデアが行き詰まった時にリフレッシュできる場所として野川があるのはとても良いですね。

知絵さん:夏は毎日行くくらい野川が好きなんです。以前に住んでいた八雲台のお家も、すぐそばに野川が流れていました。




―――気分転換できる場所が身近にあると良いですね。

知絵さん:今の環境は本当に楽しい! 実は、前は仕事ばっかりしていたんです。生活も不規則で、夜中に働いていたとこもありました。でも、団地の夜中はすごく静かなんですよ。子どもが生まれたこともありますが、団地に住んでから夜はちゃんと寝るようになりました。遊びに行く時間も作れるし、生活のスタイルが良い方に変わったよね。



“団地にある商店街の中”という立地




―――ところで、神代団地に拠点を移してからは毎週お店を開けているのですね。

知絵さん:毎週金、土、日曜日にお店をオープンしています。商店街の中の物件なので、お店を開くことが入居できる条件のひとつでした。


―――以前から「いつかはお店を開きたい」という願いはあったのですか?

武さん:お店というよりは、アトリエを開きたいという思いが強かったです。手ぬぐいを切るなど、自分たちの作業を手伝ってもらうときに、誰かを呼べるような家ではなかったので……。きちんとアトリエを設けて、いつでも誰でも来れるようにしたかったんですよ。

知絵さん:でも、お店をかまえているとみんなが来てくれるのですごく嬉しい! アトリエにこもって作業していても、自然と人と関わることができるんですよ。お店を開いてよかったよね。


――お客さんは、やはり団地にお住まいの方が多いですか?

知絵さん:そんなことはなくて、季節によって客層が変わる印象ですね。例えば、年末年始は里帰りしてきた遠方にお住まいの方や、カレンダーや干支のアイテムをリピートしてくれる団地にお住まいの方が多いです。団地の外にお住まいの方は、ここを目がけて来てくれることもあれば、神代団地中央商店街にある他のお店に遊びに来て、ふらっとここにも立ち寄ってくれることもありますよ。

武さん:団地に住んでいる方であれば、幼稚園を卒園するとき先生に贈るプレゼントや、里帰りするときのお土産など、特別なものを探しに来てくれることが多いですね。

知絵さん:あとは、この団地を見学に来た方が寄ってくれることも多いかも! 「住み心地はどうですか?」と聞かれることも多いよね。「いいですよ。お店がたくさんあって。スーパーは冷蔵庫のように使えるんですから!」って伝えてます。


―――商店街の他のお店と交流することはありますか?

知絵さん:私たちが引っ越してきた頃は、商店街も朝はシャッターを開けながら挨拶し合うのが日課でした。「商店会」もあったので、年末は忘年会をしたり、団地祭を開催したり、打ち上げをしたり、商店街の店どうしでの交流も盛んでしたね。集まって何をするわけではないけれど、楽しかったんですよ。今でも、同じ並びのお店どうしは遊んだりしています。2軒隣りの「pole-pole LAB」さんは、同じようにテキスタイルを手がけているので、道具の貸し借りをしたり、わからないことがあればすぐに意見を聞いてみたり。技法は違っても、仲間がいるのは心強いよね。

武さん:それ以外の交流は以前より減ってしまったんですが、近くにお店がいっぱいあるとイベントがしやすくていいですよね。去年開催した「神代団地クリスマスマーケット」は、とても楽しかった! 1ヶ月に1回くらいの頻度でも良いくらい(笑)。みんながあのときの気持ちを忘れないうちにまた開催したいですね。

知絵さん:実は、子どもも小学生になるし、引っ越すことも検討していたんです。でも、神代団地クリスマスマーケットの賑わっている様子を見ていたら、「やっぱりここにいたい!」と思ったよね。クリスマスだけでなく、夏祭りもやりたい! あとは、団地の住民としてはファーマーズマーケットも楽しそう。



新たな出会いが生まれるアトリエ




―――アトリエの2階は、居住空間になっているんですよね。

知絵さん:そうなんです、すごく楽! 自宅と職場の移動徒歩30歩と好立地。階段を上り下りだけなので。


―――仕事場と住居空間は近くても、階が異なることでオンとオフの切り替えがしやすのでしょうか。

知絵さん:そうですね。でも、常に生活や身の回りの出来事からアイデアが湧き出て来る感じで、生活の延長線上に仕事があるので、あまり仕事とプライベートを区別してないかも。リモートワークはオンとオフの切り替えが難しくて苦手な人もいるけど、私はむしろ居心地が良いです。ここで全ての仕事ができてしまうなら、楽なことはないなって。


―――生活と仕事が繋がっているのですね。そんなkata kataの1日のタイムスケジュールを教えてください!

知絵さん:子どもの生活が基準になっていますね。まずは、武さんが子どもを保育園に送ります。その間に私はメールをチェック。武さんが帰ってきたら、ぬるっと二人で作業を始めます。11:00からショップが開くので、それまで家事もこなしたり、空き時間には発送作業をしたり、2階と1階を行ったり来たり。18:00くらいには仕事を終えて、子どもを迎えに行きます。週に一回大学で授業をする日があるので、その時だけ団地を唯一出ますね。


―――1階は、どのような間取りになっているのか気になります。

武さん:いろいろと試してきて、今では入り口から入って手前がお店のスペース、奥がデザインと発送のスペース、という使い方に落ち着きました。






知絵さん:1階の一番奥には「デザイン室」と呼んでいるスペースがあります。それぞれのワークスペースがあって、そこでデザインをしたりしていたけれど、最近は使わなくなりました。今ではすっかり水槽コーナーになりましたね(笑)。魚やエビが泳いでいます。


武さん:あとは、手紙舎で買った作家さんの作品を展示したり。仲良しの高旗将雄さんの作品がたくさんあります。“鮭”が可愛らしいんですよ(笑)。




―――1階の内装はどなたが手がけたのですか?

知絵さん:もちろん、井田さん。便利なアトリエにしてくれて、活動の幅がぐんっと広がったよね。実験的な制作もしやすくなりました。レジの裏には大きな染料の棚も作ってくれたんですよ。中には水道もあります。






知絵さん:アトリエに設置されている6本のポールがあれば、すぐに布を染めることも。その時は、大きいテーブルをずらっとアトリエに並べて作業するんですよ。作業場や作業道具を通して、自分の仕事をお客さんに見せられるようになったことも嬉しい! アトリエがあることでワークショップなども開催しやすくなりました。コロナ禍前は、和紙を染めるワークショップをここで開催しました。

武さん:ゴールデンウィークの期間中、kata kataのアトリエと手紙舎の3店舗を巡ってもらうイベント「世界旅行気分」を開催したことがありました。そのときも、染めのデモンストレーションをしましたね。自分の仕事を見てもらいやすくなったことは、新たな仕事にもつながっています。これまでは、紙袋いっぱいに見てもらいた作品を詰めて、取引先との打ち合わせに出向いていました。でも、ここで打ち合わせをすれば、これまで制作してきた作品を全部見てもらえるんです。さらに、神代団地商店街の他のお店に遊びに来た仕事関係の人が立ち寄って作品を見てくれたり、たまに飛び込みでデザインの仕事が舞い込むこともありますよ。




「張手(はりて)」と呼ばれる道具。風呂敷などを染める大きめサイズと、手拭いなどを染める小さめサイズがある。




―――アトリエを開いたことで、新たなお客さんやお仕事との出会いが生まれたのですね。新たな作家さんとの出会いはありましたか?

知絵さん:ありますね。どうやってここで作業をしているのか見にくる方がたくさんいます。学生さんも多いよね。

知絵さん:作家には、アトリエにできそうな場所を探している方が多いんです。自宅で作業しているとどうしても手狭になって来るので。どうやってここを探したのか、よく聞かれます。手紙舎みたいなカフェがあったり、pole-pole LABのように同じような仕事をしている仲間がいたり、探せばもしかしたら自分にフィットする団地も見つかるかもしれませんね。



《インタビューを終えて》
お揃いのワニ柄のパンツで迎えてくれた武さんと知絵さん。団地の暮らしにとても満足している様子でお話しを聞かせてくれました。お店が開いている日に伺ったので、インタビュー中もお客さんが続々と。「お店をかまえているとみんなが来てくれる」を実感しました。このような住民や他のお店との交流が、良い作品つくりのスパイスになっているのかもしれません。また、前回に引き続き登場した“野川”などの自然や、団地商店街の便利さも、快適な創作活動を楽しみながら続けていくための重要な要素になっていました。さて、手紙社団地部インタビューの最後を飾るのは、手紙舎 つつじヶ丘本店のお隣「山本牛乳店」さん。みんなを虜にするスイーツを手がけるお店は、団地に何を思うのでしょうか。




(取材・文=手紙社 / 川上愛絵 撮影=手紙社 / 上野樹)