あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「海」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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渡辺セレクト1.『ライフ・アクアティック』
監督/ウェス・アンダーソン,2004年,アメリカ,118分
有坂:うんうんうん!
渡辺:こちらは、みんな大好き、ウェス・アンダーソンの作品ですね。2004年の作品です。最近の『フレンチ・ディスパッチ』とかで、ウェス・アンダーソンの作品を観ている方もいらっしゃると思うんですけど、これはビル・マーレイが主人公ですね。いつものアンダーソン組が勢ぞろいな感じで。これは主人公が海洋ドキュメンタリーの監督という設定で、それがビル・マーレイなんですけど、最近ヒット作がないので「新作をつくるぞ!」ということで、クルーと一緒に冒険をするという、まあ、いつものウェス・アンダーソン節のコメディになっています。
有坂:うん。
渡辺:海洋ドキュメンタリーの撮影クルーの話なので、本当に海が主役として前面に出てきます。で、なんか船上の話だったりとか海で潜水艦に乗って潜っていったりとか、その海の様子っていうのが、ウェス・アンダーソン独自のアニメーションだったりするので、その辺の美術とか、そういうところの面白さもある作品が、この『ライフ・アクアティック』です。なので、ウエス・アンダーソン好きだけど、ちょっと遡って「この辺まだ観てない」みたいな方には、海というテーマもあるので、今の時季すごいおすすめの作品となります。
有坂:アニメーションがいいよね。
渡辺:そう、うんうん。
有坂:タツノオトシゴをコマ撮りで。なんか、レインボーの……七色のタツノオトシゴが、コマ撮りで動いたりするんですけど、やっぱり実写映像が基本になっている中で、ポイントでちょっとコマ撮りのアニメが入ってくるから、すごく、いい意味で現実感がなくなるよね、その瞬間。ちょっと絵本っぽくなるというか、ファンタジックになる。
渡辺:そうなんですよね。構図もね。またいつものビシッと決まっていて。あと青い制服に赤いニット帽っていう、それがね、この撮影クルーのスタイルになっていて、あれはちょっと、観ていてハマってくると真似したくなるような、そんなちょっとファッションとしても楽しい一面がある作品ですよね。
有坂:これ確かあれだよね、アディダスがオリジナルのスニーカーを提供して……
渡辺:そうなんだ?
有坂:そう、それで、後に『ライフ・アクアティック』モデルみたいな形で販売されたりとか。そういう広げ方がね、ウェス・アンダーソンはうまいよね。その時期からやっていた。
渡辺:ほんとにスタイルが確立されているっていう感じで、これは映画としても面白いので、未見の方はもうぜひ!
有坂:僕、個人的にはウェス・アンダーソンの中でトップ3に入るぐらい好き。
渡辺:ああそう? なるほど、先に言っちゃいましたね。
有坂:まあ、でもそれは来るだろうなんて思って、一応外しておきました。
渡辺:そうですか(笑)。じゃあプランは狂わず?
有坂:ほんと、それ1本目に持ってくるあたり、やっぱりちょっと性格悪いよね(笑)。
渡辺:なんでだよ!
有坂:もう、完全に潰しにきているよね(笑)。
渡辺:全然(笑)。
有坂:大丈夫。それは入れていないので、じゃあ、僕の1本目にいきたいと思います。
有坂セレクト1.『パイレーツ・ロック』
監督/リチャード・カーティス,2009年,イギリス、ドイツ,135分
渡辺:ああー! これね!
有坂:これ、『パイレーツ・ロック』はイギリスの映画なんですけど、あのワーキング・タイトル(・フィルムズ)っていう会社がつくっている作品です。
渡辺:イギリスのね。
有坂:そう、イギリスのワーキング・タイトルっていうのは、もう結構ハリウッド映画と勘違いする人もね、多いぐらい。例えば『ラブ・アクチャリー』とか『アバウト・タイム(愛おしい時間について)』、まさにその2つを監督したリチャード・カーティスが、監督を務めた作品になります。それで、これは1966年のイギリスが舞台なんですけれども、当時ですね、みんなポピュラーミュージックとかロックとかを聴きたい中、「BBCのラジオで流せるのは45分限定」という決まりがありました。そんな中でも、もういろんな情報をキャッチした若くて感度の高い面白い人たちが、「いやいやもっといろんな音楽聴かせろよ!」ってことで、もう陸は……地上はもういろいろ制限があるので、海に出て、船を、海賊船をですね、ラジオ局にしてしまうっていう、ちょっと奇想天外な設定なんですけれども、実際にあったようなエピソードも混ぜ込まれたコメディ。……一応コメディになります。この「海の上からもう24時間ロックだけをかける」っていう海賊ラジオ局。もう、この設定だけでワクワクする。で、この映画自体は、少年が主人公なんですけど、いろいろ、ちょっと問題がある18歳のカールっていう男の子が、まあ母親が「このまま彼を放置しておくと、どうにかなってしまう。更生させねば」ということで、知り合いのところに預けたところ、その知り合いがこのラジオ局のクルーの1人で、この海賊船にですね、その18歳のカールは送り込まれることになります。そうすると、やっぱりこう、世の中で「大人はこうあるべき」みたいな、ロールモデルみたいなところから外れた、もう面白すぎる大人たちばっかりとの出会いで、カールは成長していくという大枠の物語があります。
渡辺:うんうん。
有坂:やっぱりこの映画の面白いところって、その、本当に自分たちが好きなロックを聴きたい。それで、聴くために、やっぱり陸を離れないといけない。聴きたいだけなんだけど、実はそれが法に反していたりするので、そこで政府とぶつかり合ったりするわけですね。だけど、それでもやっぱり聴きたい音楽を聴こうとする若者たちがいた。今、僕らは何でも聴けるような時代にいますけど、そういう中で、今改めて『パイレーツ・ロック』を観てみると、やっぱりこう、いろんな制限があるなかで、それでもやっぱり聴きたいっていうエネルギーがあったことで、ロックっていうのがほんとカルチャーとして広がっていったなっていうのを、すごくわかりやすく感じられる作品になってます。もう、とにかく表現もいろいろ振り切っていて、ワイワイパーティーをやって楽しいシーンもあるし、60年代なので、スウィンギング・ロンドンのちょっとファッションみたいなものも入っていておしゃれだし、下品だし、もうとにかくそれでも泣けるようなエピソードもあったりするような、もう全部乗せみたいな、いろんな要素を持ったヒューマンコメディになっています。
渡辺:ふふふ。
有坂:サントラはもちろん、ローリング・ストーンズとかデヴィッド・ボウイとか、あとザ・フーとかね、ビーチ・ボーイズとか出てくるんです。「なんでビートルズは出てこないんだ?」って誰もが思うんですけど、まあビートルズはいろいろね、版権の問題が大変だということもあったと思うんですが、まあそんな60年代の空気感みたいなものが感じられるような作品になってます。
渡辺:いやー、取られたね、これは。
有坂:ほんとに? 危な! 来ないかなと思ったんだよね。
渡辺:いや、候補に入れてた。……ちょっと狂ったな。
有坂:よし! だそうです(笑)。
渡辺:これ、でも実話だもんね。
有坂:そうそう。
渡辺:60年代のイギリスって、本当にロック全盛期で、なのにラジオからロックが聴けないっていう、当時の若者の不満が、もう爆発寸前っていうところで生まれたのが、ね? 船の上からラジオ局にして、ロックだけを流すっていうね。それはもうなんか若者のニーズを、全部請け負って、違法だろうがなんだろうがそれに応えるみたいなね、そのなんか青春感とかがすごいいいんだよね、この映画ね。いやーあ、言いたかったよ。
有坂:今、言ったじゃん(笑)。満足ですか?
渡辺:いや。満足はできない(笑)。
有坂:はい、ということで僕はこの『パイレーツ・ロック』でした。
渡辺:はい、じゃあ僕の2本目は、ちょっと王道な感じでいきたいと思います。
渡辺セレクト2.『グラン・ブルー』
監督/リュック・ベッソン,1988年,フランス,132分
有坂:うん、絶対言うと思った! これは来ると思って外した。
渡辺:これはね、やっぱり一番最初に思いついたし……
有坂:そうだね。
渡辺:まあ、ありがちすぎるかなって、外そうかなと思ったけど、やっぱり残りました。で、これは当時、90年代ミニシアターブームの中で観て、ほんとにすごい映画、いい映画見つけた、みたいなのを今でも覚えていて。リュック・ペッソンっていう映画監督が、これで有名になって、この後、『レオン』っていう映画を撮って、一躍世界的なスターダムにのし上がったんですけど。このときからジャン・レノっていう役者とコンビを組んで、映画をつくっていたり。これはですね、素潜りの世界チャンピオンを決める大会を目指す男たちの話です。ジャック・マイヨールっていう実在するフランス人のフリーダイバーの人を主人公しているんですけど、あとライバルのエンゾっていう人がいて、
有坂:エンゾ……
渡辺:で、そのエンゾをジャン・レノが演じています。えっと、ジャック・マイヨールは結構クールな人で、もう心を通わせるのはイルカだけみたいな、そういうタイプの男で、ジャン・レノのほうのエンゾは、ジャイアンみたいな役で……
有坂:(笑)
渡辺:めちゃくちゃガタイがいいのに、すごい可愛い小っちゃい車に乗っているみたいな、そのキャラ設定もすごいよくて。で、この2人のライバル同士の素潜りの大会でストイックにやりながらも、ライバルなんだけど心を通わせていくみたいな、すごいいいお話で、ほんとに海が綺麗です。舞台が、イタリアのシチリアで、そこでの世界大会の話なんですけど、もうほんとに真っ青な海と、そこにこう潜っていって「無」になっていく感じだったりとか、もうほんとに海といえばこの映画ってぐらい、ど真ん中なんですけど、でもやっぱり外せない感じだったなというので、挙げさせてもらいました。
有坂:これさ、自分がまだ映画のキャリアが浅いときに観たからかもしれないけど、その、割とハッピーエンドな映画が多いなかで、またちょっと違うじゃん。
渡辺:うん。
有坂:バッドエンドではないんだけど、すごくなんかこうなんだろう。この観終わった後の余韻が深い作品として、すごく印象的だったけど、まあそこからね、リュック・ベッソンはアメリカに行って、『レオン』を撮って、新しく自分の制作会社をね。
渡辺:うん、あ、そうだね。
有坂:ヨーロッパ・コープっていうのを立ち上げて、『TAXi』とかね、フランス映画らしからぬハリウッドっぽいアクション映画をつくるようになる。まあ、でもその彼のキャリアをたどっていくと、やっぱり『グラン・ブルー』の世界的な成功っていうのは大きかったと思うしね。ジャン・レノはやっぱりノリに乗っている時期だったね。これ、キノ・イグルーでも、お台場のホテル日航東京で海をバックに、
渡辺:あー! そうだね。
有坂:野外上映をね、けっこう前ですけどやったことがあります。なので、これからぜひね、観てほしい一本だね。夏に向けてね。
渡辺:これはもう名作なんでね。まだ観ていない方は、ぜひ観ていただきたいです。
有坂:じゃあですね、僕の2本目もフランス映画です。
有坂セレクト2.『ぼくの伯父さんの休暇』
監督/ジャック・タチ,1952年,フランス,87分
渡辺:はいはいはい。
有坂:これはフランスを代表するコメディ監督であり、俳優であるジャック・タチの初期作ですね。デビュー作ではないんですけど、ただ、ジャック・タチのなかでは、この映画はある意味彼のスタイルを確立した1本としても評価が高いです。そのスタイルというのは、「ユロ伯父さん」っていうキャラクターが、彼の映画では、その後『ぼくの伯父さん』とか、他の映画でもユロ伯父さんっていう伯父さん役を、彼自身が演じる。そのキャラクターの第1作目になったのが、この『ぼくの伯父さんの休暇』です。
渡辺:モノクロなんだよね。
有坂:そう、モノクロで、ジャック・タチの映画っていうのは、ちょっとなんか言葉では説明しづらいところがあって、まあ、ストーリーでいうと、この映画は海辺のリゾートホテルが舞台で、そこにジャック・タチ演じるユロ伯父さんが来ると。で、ユロ伯父さんが動けば、必ずそこで何かトラブルが巻き起こるっていうコメディ映画。ほんとにそれだけの内容だよね?
渡辺:うんうんうん(笑)。
有坂:映画全体は、すごく、なんていうんですか、誰かの内面を掘り下げるとかとはまったく無縁で、「海辺のリゾートホテルの数日間のスケッチ」みたいな。そこで起こったちょっと楽しいことを一つにまとめたような、コメディ映画になってます。で、ジャック・タチっていうのは、ほんとにすごくのんびりしたゆるい映画っていうイメージ、まあ、実際そうなんですけど、ただ彼自身はすごく完璧主義者だったそうです。現場では、やっぱりちょっとしたズレとかも彼は許さないってことで、結構緊張感のあるピリピリした現場だったって言われているんですけど、でも完成した作品からは、そんな空気は微塵も感じない。
渡辺:ね、ゆるい感じだよね。
有坂:ほんとに、そのゆるいっていうのは、展開もそうなんですけど、例えばそこで流れるBGMだったり、あとはこの映画はリゾートホテルが舞台なので、割と全編にわたって波の音が聞こえている。そういう観ている側が意識しないような音の作用とかもすごく丁寧にやっている人なので、リラックスできる要素を五感を使って与えてくれる、そんな監督です。日本だと、もちろん、ジャック・タチというのは、ほんとうに歴史に残るコメディ監督なので、映画監督、あとはミュージシャン、いろんなクリエーターに影響を与えてるんですけれども、日本でいうとね、昔ソフトバンクのCMで、ちょっと関わりがあって。というのは、これ多分見たことがある人いると思うんですけど、ブラッド・ピットが出演したソフトバンクのCMがあって、それがビーチが舞台なんですよ。で、ちょっとブラピっぽくない、なんか、ちょっと飄々としたキャラクターを演じているCMがあったんですけど、あれは、実は『ぼくの伯父さんの休暇』へのオマージュとして作られた作品。つまり、ジャック・タチ役をブラピが演じているんですよ。しかも、そのCMをつくったのが、さっき順也が紹介した監督、ウェス・アンダーソンがそのCMを監督しています。
渡辺:すごいよね!
有坂:なので、何重にもわたって、映画ファンからすると、それをソフトバンクが、あんなメジャーな会社がCMとしてつくっていた。
渡辺:結構前だもんね。
有坂:結構前だよね。それこそ『ライフ・アクアティック』とかの時期だと思うんだよね。
渡辺:YouTubeとか、探せば観られます。
有坂:ぜひ、映画とセットで観てほしいです。で、ウェス・アンダーソンも、ほんとにディテールまでこだわるような、完璧主義な監督なんですけど、そこはやっぱりジャック・タチとシンクロするんですよ。なので、彼なりにジャック・タチへのオマージュとして作品をつくった。それを日本の大企業のCMとしてつくっちゃった。しかも、ブラピで。
渡辺:うーん。
有坂:だって、ウェス・アンダーソンの映画にブラピなんか出ないよね。ちょっとイメージがあまりわかないんですけど、でも、CMで彼らは一緒に仕事をしていたりするので、ぜひそれも併せて楽しんでいただけたらいいかなと思います。あと最後に、ジャック・タチがつくり上げたユロ伯父さんっていうのは、とにかくおしゃれで、彼自身の洋服にもスタイルがあるんですけど、僕が個人的に好きなのは靴下で、“靴下がボーダー柄”です。なので、ちょっとね映ったり、映んなかったりですけど、そんな細かいところもぜひチェックしてください。
渡辺:でもさ、この『ぼくの伯父さんの休暇』だと、水着がボーダーだよね。
有坂:そうだね。水着もボーダー。
渡辺:で、水着が男性用の水着なんですけど、当時なんでワンピースな水着で。
有坂:そうそうそうそう。
渡辺:男性なんだけどワンピースで、帽子をかぶって。で、水着を着ながら綱引きをするシーン。オーエス、オーエスって言いながら。あのシーンがめちゃくちゃ好き。
有坂:それを話し始めると、ほんとに面白いギャグがいっぱいあって、ほんと小ネタのオンパレードなんですよ。テニスをするシーンとか、あと、海にボートでぷかぷか浮かんでいて、そのボートが途中でこうパカっと折れて、それが陸から見るとジョーズに見えるみたいな。あのシーンって、……すみません、観ていない人には、ちょっとわからないかもしれないですけど、あのシーンってね、実は後から足したらしいんです。1980年代、……30年後くらいに、『ジョーズ』がヒットしてインスパイアされて、あのシーンを足したらしいよ。
渡辺:そうなの? そんなに経ってから。ありなんだ?(笑)
有坂:そう、もう完璧主義もそこまでいくとね。
渡辺:すごいね(笑)。
有坂:というところも、ぜひ注目して観てみてください。
渡辺:そうですか。
有坂:よかった! この2本を紹介できれば。あとは大丈夫だと思う。
渡辺:じゃあ、でも、この辺は被らないかな。僕の3本目を紹介したいと思います。僕の3本目は、2018年の日本のアニメです。
渡辺セレクト3.『海獣の子供』
監督/渡辺歩,2018年,日本,111分
有坂:うんうん、すごかったね。
渡辺:これはもう個人的にも大好きで、もともと漫画が原作です。で、海獣っていうのが「海の獣」て書いて海獣なんですけど、『海獣の子供』というタイトルで、話としては、ある女の子が夏休みに過ごした不思議な体験っていうのが、一言で言うとそういう感じなんですけど、でも、それがなんか不思議な少年と夏に出会うんですね。で、お父さんが水族館で働いているので、その水族館に遊びに行くと、なんかその不思議な少年っていうのは、この海の生物と会話ができる。そこからだんだんその少年と海に魅せられていって、そこから海の壮大な冒険が始まるっていう話なんですけど。これ、ほんとにもう全編、海の映像が素晴らしすぎて、アニメーションスタジオの「STUDIO4℃」っていうところがつくっているんですけど、このSTUDIO4℃っていうのは、けっこう映像表現に定評があるアニメスタジオなんですね。有名な作品でいうと、『鉄コン筋クリート』とか、そういう松本大洋作品とかですね。そういう割と個性的な作家のアニメ表現を、ちゃんと表現できるスタジオとして有名なんです。これも原作は五十嵐大介さんいう漫画家の人の同名原作なんですけど、このアニメ化の表現がほんとに素晴らしくて、できれば、あの、映画館とかそういう大きいスクリーンで、いい音響でこの海の表現のアニメを観ていただきたいなと思います。ほんとに作品も夏休みの女の子の話なんですけど、めちゃくちゃ壮大になってくるんですよね。こう、生命の誕生とか、もともと地球上から生命が生まれたのは海からなんだみたいな。そういうところまでですね、話が壮大になっていって、また帰ってくるっていうですね、なんかほんとに感想が難しいというか、ものすごいものを観せられたみたいな、そういう感想になるような、映画の世界に連れてっていってくれるタイプの傑作アニメーションなので、ぜひまだ未見の方は、ほんとにこれも観ていただきたいなと思います。
有坂:なんかあれだよね。その海も含めて、水の表現がアニメでは一番難しいって言われているんですけど、ついにここまで来たかっていう。なんかある種、現時点での到達点に感じるほど、その表現力というのはね、凄まじいものがある。
渡辺:ほんとに!
有坂:だから、圧倒されるよね。圧倒されて、なんかこう言語化できない、感動が。
渡辺:とにかく本当にすごいものを観たみたいな。そういう感じになれる作品なんで。
有坂:(コメント見て)あ、「最近観た」って人もいるよ。
渡辺:最近? へー。
有坂:「つい。昨日観ました」「気になってました」。
渡辺:まあ、「気になっていた」って、あるかもしれないね。
有坂:「面白かったです。江ノ島に行きたくなる」「イカ焼き、食べたくなります」。
渡辺:(笑)、ほんとにこれはすごかったですね。あと、パンフレットもすごくて、レコードサイズのすごい真四角な、大きいサイズの。
有坂:そうだね、この映画のパンフレットは、大判サイズじゃないと成立しないというか。観終わった後、「頼むからパンフレットは大判であってくれ!」と思ったから。感動できた覚えがある。
渡辺:ちょっとしたトートバッグだと入らないぐらいの。
有坂:そうだね。収納に困るタイプのね。ではあるけど、やっぱり映画の良さをちゃんと生かした、デザインも含めて、パンフレットでした。
渡辺:これは傑作でした。
有坂:いいですか。じゃあ、僕の3本目に行きたいと思います。僕も日本映画いこう。
有坂セレクト3.『ホテル・ハイビスカス』
監督/中江裕司,2002年,日本,92分
渡辺:んー、なるほど、沖縄!
有坂:沖縄好きの人は、これは見ておかないとっていう作品です。これはあの原作があって、仲宗根みいこさんのコミックが原作のコメディ映画です。沖縄でホテルを経営してる3世代同居の家族を軸にした作品で、一応主人公は小学校3年生の美恵子っていう、超強烈な小学生の女の子。このビジュアルでいうと多分前列の左側で手を上げてる女の子なんですけど、もうね、この子のもともと持っていた、この蔵下穂波さんっていう彼女のキャラクターあってこそ成立した映画。ほんとにね、素晴らしい役で、とにかくもうね、周りが「うるさい!」って言いたくなるぐらい、とにかく天津爛漫で、男の子とかをこうなんか暴力で従えているみたいなタイプの……
渡辺:(笑)
有坂:なんて言うんでしょう、どっしりした強い女性でもあるんですけど、そんな小学校3年生の女の子が主人公のキッズムービーになります。で、このホテルハイビスカスっていうホテルが舞台で、そこにお客さんとしてきた人との交流だったり、あとは、日常がベースになっているんですけど、ちょっとファンタジックな要素も入ってきていて、それは詳しいことはちょっとここでは言えないので、観てもらってからのお楽しみではあるんですけど。それ以外にも、これは舞台が名護市の辺野古なので、その沖縄の基地問題だったり、戦争の傷跡みたいなものもさりげなく描かれているので、もうほんとキッズを主人公にしては楽しい映画ではあるんですけど、ちょっとそういったリアルな部分もさりげなく入れている、すごくバランス感覚のある映画かなと思います。
渡辺:うんうん。
有坂:この監督というのは、あの『ナビィの恋』という作品が一番有名なんですけど、中江裕司という監督です。彼は沖縄に魅せられて、沖縄に住んじゃったような人です。なので、映画だとストーリーがあって、主人公がいて、物語がどう展開していくかっていうことになるんですけど、やっぱり中江さんは、そもそも沖縄っていう場所に魅せられた人なので、すごく、その沖縄の空気感を映像に閉じ込めるのがうまい人。だから、観ていると、ほんとにもう今すぐにでも飛行機に飛び乗って、沖縄に行きたくなるような、そんな言葉にできない空気感が、ちゃんと映像から伝わってくるようなタイプの作品です。もう沖縄好きの人は、これはマストな1本かなと思います。主人公のその美恵子を演じた蔵下穂波さんは、今、もう20代半ばぐらいだと思うんですけど、女優として活躍していて、ちょっと前になりますけど、NHKの連ドラの『あまちゃん』で、アイドルグループのメンバーとしても活躍していたので、
渡辺:え! そうなんだ?
有坂:うん、もしかしたらね、そっちを先に知っている人もいるかもしれないんですけど、それを知っていたら、なお、彼女のキャリアの出発点がこの『ホテル・ハイビスカス』になるので、もうそれを観てね、圧倒されること間違いなしなので、もうみんな、美恵子が大好きになっちゃうと思うので、『ホテル・ハイビスカス』、ぜひ観てください。
渡辺:なるほどね。色彩感覚もいいよね。
有坂:いや、色いいよね。
渡辺:なんか青い空に、なんかこう真っ赤な服とか……
有坂:赤いハイビスカスとかね。
渡辺:そうそう、コントラストがすごい南国っぽい感じで。
有坂:なんかこうキッズムービーって、やっぱりその主人公の子どもが、ほんとに健気であったりだとか、頑張っていてという物語が多いじゃない? だけど、なんかこの映画のやっぱりいいところって、この女の子が、ほんと子どものそういう純心な部分もあるし、逆に、ちょっと残酷な部分みたいなのも、そのまま描いてる。「子どもって、こういうもんだよね」っていうのが、映像として伝わってくるのでね。ある意味、ちょっと新鮮かもしれません。
渡辺:「ヤギかわええ」ってコメントが(笑)。
有坂:ぜひ観てみてください! これ、候補に入っていた?
渡辺:いや、入ってなかった。まあでもね、沖縄、そうだよね。じゃあ、僕も次、4本目いきたいと思います。これはちょっと最近の作品なんですけど、2021年の日本の映画なんですけど……
有坂:お、なんだ?
渡辺セレクト4.『くじらびと』
監督/石川梵,2021年,日本,113分
有坂:ふむふむ。
渡辺:これは、舞台はインドネシアの小さい漁村の話です。ドキュメンタリー作品なんですね。で、インドネシアの小さな漁村なんですけれど、そこが伝統的にクジラ漁をしている、小さな村のお話です。で、石川梵さんっていう日本の写真家の方が、ドキュメンタリー作品をつくっていて、このインドネシアの伝統的なクジラ漁をしている村に密着した話なんです。それで、クジラ漁をしているんですけど、その漁の仕方がすごくて、もうほんとに、ものすごい小さな漁村なんで、みんな貧しいんですけど、本当に木の船にモーターを乗せたぐらいのモーターボートで、クジラ漁に出かけるんですね。で、クジラを見つけてどうやって仕留めるかというと、モリを持ってですね、男の人がジャンプして海の中に、手でモリを突くっていう、それでクジラに体当たりのようにモリを突いて仕留めるっていう、めちゃくちゃオールドスタイルな漁を……
有坂:ほんとに仕留められるんだ?
渡辺:そう、まあ1発じゃ当然無理で、1発、2発ってやりながら、そのモリにロープがついていて、それで船で弱るまで待ってっていう、そういうスタイルでやっていて。昔、江戸時代の……なんて言うんだろう、絵で見たことがあって。江戸時代の日本も捕鯨は、こういうスタイルでやってて、ふんどしはいた人が、船からモリを、鯨に飛び乗ってモリを突くみたいな。「そんなの嘘だろ?」と思って見ていたんだけど、めちゃめちゃリアルでドキュメンタリーとして観られるんで、ほんとにすごいです。で、やっぱりそれは危険も伴うんですね。危険なのが、モリを打った後に、モリにロープがついているんですけど、クジラがグッて潜っちゃうときがあって、ロープが絡まっちゃうと持っていかれてしまうので、それで実は何人も命を落としているっていう危険な漁ではあるんですけど、ずっとそのオールドスタイルで漁をし続けている村の人たちに、密着したというものです。で、やっぱり、そのモリを打つ人っていうのが一番名誉職で……
有坂:名誉職!
渡辺:一番尊敬もされていて、クジラを仕留めた後に、みんなでこう、肉を分配するんだけど、一番最初にもらえるのも、やっぱりその人で。そこで面白いのが、村人全員に分配されるんだけど、「船の持ち主はこの分だけ」とか、「こういう人たちはこれだけ」みたいに、ちゃんと分配されていくんですけど、漁に直接関わってない未亡人とかもいて、そういう人にも優先的に配られる仕組みがあって、やっぱりその未亡人の人たちって、なんで未亡人かっていうと、やっぱりその漁で、旦那さんが亡くなっちゃったみたいな。だから、かつては活躍していたけど、でも旦那さんがいなくなると一気にその仕事はない、収入がない、みたいな人たちにも、ちゃんと優先的に分配されるようなルールがある。なんかものすごい、東南アジアの小さな漁村の話ではあるんですけど、すごい社会ルールとしてよくできている、仕組みみたいのがそこから浮かび上がってくるみたいな、そういう意味でも、めちゃくちゃ良くできたドキュメンタリーなんですよね。本当に海に生きる漁師たちの話ではあるんですけど、そこからなんかこう生きていく知恵だったりとか、貧しいが故に、みんなで助け合っていくルールみたいなところが、実はなんか、今の競争社会みたいなところで、学ぶことがあるんじゃないかと。そういうのが見えてくる、すごいいい作品です。
有坂:インドネシアの漁村?
渡辺:インドネシアだね。
有坂:観てない。
渡辺:これはね、あんまり規模も大きくなかったし……。
有坂:どこで観た?
渡辺:どこだっけ、イメフォ(イメージフォーラム)かな……
有坂:ポレポレ(東中野)っぽいよね。
渡辺:うーん(笑)
有坂:まあ、どっちかだよね(笑)
渡辺:(笑)。はい、なんでこれはちょっとなかなか、観る機会もあまりないかもしれないですけど。
有坂:何きっかけだった?
渡辺:あ、でもね、これは普通にチラシとかで面白そうだなって。で、なんかね評判も良かったんで、評価も高かったので。でもね、観てよかったですね。「あ、スルーしないでよかった」と思えた作品なんで。
有坂:Amazonプライムでレンタルできるみたい。
渡辺:これはちょっとね、機会があれば。なかなかきっかけがないと観ないタイプの作品だと思うので。
有坂:そうだね。じゃあ、そんな小規模な低予算なドキュメンタリーの後に、僕はもうゴリゴリのハリウッド映画、いきたいと思います。
渡辺:おお!
有坂セレクト4.『キャスト・アウェイ』
監督/ロバート・ゼメキス,2000年,アメリカ,144分
渡辺:うーん、そこきた! 意外!
有坂:これ、トム・ハンクスが主演で、監督はロバート・ゼメキスっていう人です。まあ、ゼメキスとトム・ハンクスっていうと、もう二人の大出世作になった『フォレスト・ガンプ/一期一会』のコンビになります。『フォレスト・ガンプ』以来に、再タッグを組んだ作品。サバイバルドラマになってます。これはあのトム・ハンクス演じる主人公が、ここにも説明書いてますけど、フェデックスのシステムエンジニア、SEとして働いてる彼が飛行機事故にあって、無人島に漂着する。で、一人で生き残っていかなければいけないというですね、サバイバルドラマになってます。
渡辺:うん。
有坂:前回かな? 「宇宙な映画」のときに、マット・デイモンの『オデッセイ』を順也が紹介していましたけど、それの海版。無人島版といってもいいんじゃないかなと思います。まあ、現代版『ロビンソン・クルーソー』ともね、例えられていましたけども、この映画はトム・ハンクスが、要は「無人島で一人でどうやって生き残っていくか」ってことに、もう大部分が向けられているので、トム・ハンクスのほぼ1人芝居なんですよ。で、この映画って144分あるので、かなり彼が抱えた、なんていうんだろう、責任は大きいなと思いながらも、見事にやっぱり演じきって、またアカデミー賞の主演男優賞にノミネートもされるぐらい、評価された一本です。で、なんかね、実は僕、もともとトム・ハンクスってすごい好きで、自分が1994年に映画に目覚めて、最初に好きになったハリウッドスターの一人がトム・ハンクス。
渡辺:うんうんうん。
有坂:まさに、『フォレスト・ガンプ』の年だったので、それで彼の過去作とかも観て、いろんなコメディにも出たり、『フィラデルフィア』みたいなね、シリアスな役もできて、「魅力的な人だな」と思っていたんですけど、なんだったっけな、このちょっと前の『グリーンマイル』とかを含めて、映画は良かったんだけど、トム・ハンクスになんかちょっと苦手意識を持っちゃって……
渡辺:えー(笑)。
有坂:なんかアクが強くなってきたなと思って。
渡辺:ほうほう。
有坂:『キャスト・アウェイ』なんて、このパッケージもそうですけど、アクの強いトム・ハンクス全開な感じで、実は最初のロードショーのとき、観てないんですよ。なんとなくやっぱ観る気が起きなくて。でも、そのロバート・ゼメキスっていう監督は、すごくなんだろう、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とかもつくっている人で、エンタメ映画をさらにワンステップもツーステップも価値のあるものにできる人だし、なんか、「トム・ハンクスへの苦手意識だけで見逃していいのか?」と思って、多分、7、8年前ぐらいに映画館でリバイバルやったときに、観に行ったんですけど、めちゃくちゃ感動して……
渡辺:えー(笑)
有坂:なんで観なかったんだって、当時後悔するぐらい、作品として素晴らしかったです。144分、まあ途中、ダレるっていう人もいるんですけど、あのダレるっていうのは、この映画では多分大事な要素で、要は無人島で生き残ってく男が、「もうどうにもならない」みたいな時間、ちょっと宙ぶらりんな時間を、ちゃんと観客に体験させるようにつくっているのかなと思ったので、僕は、なんかそれも含めてほんとに素晴らしい映画かなと思ってます。見どころはいくつかあるんですけど、「あ、なるほどな」と思ったのが……これ観た?
渡辺:観た、観た。
有坂:バレーボールと友達というか、バレーボールが彼にとっては唯一の心のよりどころ。話せる相手がいないから、そのバレーボールに、彼はウィルソンっていう名前をつけて、ウィルソンに話しかけることで自分の心を保つ。そのウィルソンにどんどん観ている側が感情移入して、ちょっとネタバレになるので、この先は言えないんですけど、ウィルソンとのね、ちょっとした別れのシーンはね。ぐっときて涙しちゃうんだけど、バレーボールとの別れなんだよね(笑)。
渡辺:「ウィルソン」だったっけ?(笑)
有坂:うん、ウィルソン。「ウィールソーン!」ってトム・ハンクスがね。もうそれが夢にも出てくるぐらい、個人的には好きなシーンで。なので、観るときには、ぜひバレーボールのウィルソンにも注目していただけると。そういうやっぱ、小ネタを使わないと物語として成立しないので、やっぱり、改めてロバート・ゼメキスってね、すごくなんかうまいなって思っちゃいました。
渡辺:なるほど、でも意外だね。
有坂:そうそう。なんか、一人芝居とかも、その人にハマらなかったら、どうかなと思っちゃうから、観るのは結構ハードルはありましたけど、おすすめの1本です。
渡辺:なるほど。まあ、トム・ハンクスは好きだったよね。
有坂:好きだった。
渡辺:なるほど、そこきましたか! じゃあ、どうしよう。ラストいきたいと思います。割と最近の作品なんですけど、2019年のフランス映画でいきたいと思います。
渡辺セレクト5.『燃ゆる女の肖像』
監督/セリーヌ・シアマ,2019年,フランス,120分
有坂:おー。いいね。
渡辺:これはもう、この年の結構ベストに入るぐらいの作品でした。結構良かったよね?
有坂:僕は1位に挙げた。
渡辺:フランス映画なんですけど、どういう話かというと、舞台は中世のフランスです。で、貴族の人の肖像画を描くというので、画家の女性の人が、その貴族の家に行って、その娘の肖像画を描くというお話です。で、その時の肖像画ってどういう意味かというと、なんていうんですか、お見合い写真というか、貴族同士の結婚なので、女性の方の肖像画を描いて男性の方に送って、男性が気に入れば結婚するみたいな。そういう仕組みだったそうです。そのための写真とかもない時代なので、肖像画を描くという話なんですけど、その主人公の貴族の娘は、結婚したくないんですね。なので、なかなか肖像画を描かせないというのがあるので、その事情があるので、家族は画家をですね、家政婦として呼び寄せて、家政婦としてどんどん近づいていって、なので、その画家はですね。家政婦として接しながら裏で密かに肖像画を描いているというお話になっています。で、そこの貴族の館が、実は島にあるんですね。なので、画家の女性は船に乗って、海を渡ってその貴族の館に行くっていうところからシーンが始まります。なので、海を渡るところから物語が始まっていくっていうところで、結構海が印象的に登場します。
有坂:うんうん。
渡辺:で、島なので、海岸沿いだったりとか、そういったところで二人が過ごしていく、というところが描かれていくんですけど。この物語の中で、画家の女性はその貴族の娘の内面をしっかり知ろうと、家政婦として近づいていくんですけど、その肖像画を描くために観察しているので、どんどん彼女のことを知っていくんですね。彼女もどんどん家政婦に心を許していって、いつか次第にお互いが一番理解し合える人だってわかっていって、恋に落ちていくというお話です。作品としてもめちゃくちゃ素晴らしくて、今こういうLGBTQの作品をつくる人で、もう本当に第一人者になってるいるのが、この監督のセリーヌ・シアマというフランスの女性監督なんですけど、この人はほんとに今こういう表現ができる、本当に第一人者じゃないかなと思うぐらい、素晴らしい監督です。これの男性版が、多分、『君の名前で僕を呼んで』ですね。なんで、どっちか気に入ればこっちの作品も気に入るっていうぐらい、もうなんか今の時代を象徴するような、素晴らしい作品なんです。なんて言うんだろうな、本当に、映画としてもすごい素晴らしいし、その象徴的なシーンで出てくるのが海っていうところで、ちょっとこの作品いいなと思って、5本目に選びました。
有坂:これ、ラストがすごいんだよね!
渡辺:そうなんだよね。
有坂:ラストすごいんですよ。……ゾワってしてくる
渡辺:(笑)。あれは結構映画史に残るラストシーン。割とその……ヒントだけいうと……
有坂:いや、言うの?(笑)
渡辺:ヒントだけ……
有坂:淀川(長治)さんみたいにラストまで言っちゃうんじゃない?(笑)
渡辺:(笑)。音楽の使い方っていうところだけ。音楽の使い方がかなり印象的なので、それがほんとにラストにこんなに効いてくるとはっていう。これは、ぜひ観ていただきたい。
有坂:なんか、ながら観しない方がいいと思う、この映画は。
渡辺:そうだね、そうだね。
有坂:ちゃんと時間をつくって、その映画の世界に入れるような環境をつくった方が、やっぱりより特別な1本になる可能性は高いと思うので、今思い出してちょっとと鳥肌がたった。ラスト。すごかったあれは。
渡辺:これをラストに持ってきました。
有坂:なるほど、それはちょっと選択肢に入ってなかった。海っていうところでは。
渡辺:ああ、そうだよね。
有坂:素晴らしい映画だよね。じゃあ、僕のラスト5本目は、これはね多分、順也も含めて誰も知らない映画だと思う。
渡辺:誰も知らない?!
有坂:そんなマニアックな映画を紹介したいと思います。
有坂セレクト5.『崖の上のポニョ』
監督/宮崎駿,2008年,日本,101分
渡辺:(笑)。まさか、そんな誰も知らないやつを(笑)。
有坂:誰も知らないと思う。ね? 初耳ですよね(笑)。
有坂:『崖の上のポニョ』っていうね、これね日本映画なんですよ。多分、監督名言っても、誰もわからないと思うんですけど、宮崎駿っていうインディーズ監督。
渡辺:(笑)
有坂:怒られちゃう(笑)。ということで、宮崎さんの『崖の上のポニョ』が僕の5本目です。(Filmarksの点数)3.3って低くない? これ。まあ、これはもう、ほとんどの人が、観ているような気もするんですけどね、5歳の海辺の街で暮らしている宗介が主人公の作品です。これは、あのアンデルセンの『人魚姫』をね、モチーフにしていると言われておりますが、まあポニョとの友情物語。ちょっとファンタジー要素の強い作品になっています。で、やっぱりさっきの順也の、『海獣の子供』のときもそうだけど、やっぱりポニョも海の表現が圧倒的すぎて、宮崎さんってこの映画をつくるときにモチベーションとして、やっぱり手描きで描く。徹底的に手描きで描くっていうことにこだわった。それがまあ、彼のモチベーションだったって言われていて、もちろん、その目の前で画面の目の前で動く、例えば人間とか魚とかはもちろんなんですけど、動かない背景画も手描きで描くっていうこだわりようで、宮崎作品では最高記録。17万枚ぐらい描いたと言われた作品です。
渡辺:うんうんうん。
有坂:で、ポニョも言わずもがな名シーンだらけで、特に荒れ狂う波の上を疾走するシーン。……もう、あれを子どものころに観たら、どういう残り方するのかな。まあ、このポニョの作品も含めて、と思って。実は、僕個人的に初めて観たジブリ映画が、『崖の上のポニョ』なんですよ。
渡辺:そうなんですね(笑)
有坂:だから最近の子どもとデビューが一緒で、もともと僕は嫌いだったので、順也みたいに、「トトロとかラピュタとかをテレビで観て、ハウルとかもののけを劇場で観て」っていうタイプではなくて、ほんとテレビも含めてはじめて観たジブリ映画がポニョだったんです。それで、宮崎駿はいかに天才かっていうのを順也からもかいろいろ言われるし、周りからも言われて、「そろそろ観ろよ、観ろよ」ってみんなから言われて、「俺は劇場で全部観るんだ」ってね。ついに、はじめて観た作品がこのポニョだったんですけど、やっぱりこうジブリと宮崎駿への期待値が、ものすごい高くなった中で迎えた『崖の上のポニョ』は、僕の中ではもうね、ファーストシーンですべてをもうなんか、その期待をすでに超えた。あの海の中に、いろんな魚がいて、みんなが違う動きをしてるの。
渡辺:うんうん。
有坂:一つひとつのキャラクターが生きている絵が、いきなりオープニングできて、「観たことないアニメーションだな」って、もう乗っけから心を奪われて夢中になって観てしまいました。で、最後まで観た後に、これはもう1回、日曜日の朝に観に行きたいなと、子どもたちがいっぱいいる中で。観に行ったら、やっぱり終わった後はみんなあのポニョのテーマソングを歌っているし、エレベーターとかでもうなんか興奮が抑えられない男の子が、「宗介好き!」って、エレベーター中が爆笑みたいな。なんか、それぐらい観ている子どもたちの心に、なんかこう熱を灯してくれるような、やっぱり、そういうところは「宮崎駿天才だな」と、はじめて僕は『崖の上のポニョ』で知った作品でもあります。で、この映画って、大橋のぞみちゃんのポニョのテーマソング、有名ですけど、ちゃんと聴いたことがない方におすすめなのが、これあの配信だとちょっとどうなのかわかんないんですけど、CDだとデモバージョンが特典でついてくる。
渡辺:最初の頃。
有坂:そうそう、まだこう練習もちゃんとしてないような、まずちょっと歌ってみてっていう。そのデモバージョンがほんとに可愛くて、メロディーに歌詞が全然乗っからないんだけど、そのたどたどしさが、なんか子どもらしくて可愛くて、なんだったらこのデモバージョンを使った方が良かったんじゃないかって思うぐらい、キュンとするような1曲なので、まだ聴いたことがない方は……
渡辺:みんな聞いたことあるから(笑)。
有坂:ぜひデモバージョンの方ね。聴いてもらえればと。
渡辺:でも、ほんと当時、だんだん上手くなっていったなと思ったもん。最初はやっぱ音痴だったから。
有坂:そうだよね。それって何、完成版?
渡辺:でも、いや、結構そのテレビに番宣で出てたのよ。
有坂:いやもっと最初。
渡辺:そんな〜、知ったかぶって(笑)。
有坂:ジブリ知ってる?
渡辺:知ってますよ(笑)。
有坂:ほんとそれは最初の最初で、「まず1回録ってみよう」みたいなときの音源。だから、レア音源。それが特典でついている。
渡辺:なんの特典?
有坂:特典っていうか、カップリングみたいな。CDでメインに入っているじゃん。そう入っている。聴いてみて。
渡辺:そうなんだ、何で聴けるの?
有坂:配信で聴けるのかな。配信で聴けなかったら、CD買うにもね、Amazonとかで買うか、TSUTAYAが近くにある人はTSUTAYAに行って。そう、これ本当におすすめなので、聴いてみてください。あと、最後の最後に、どうでもいい情報です。あの、ジブリ映画って「ジブリ飯」が話題で、ラピュタの、なんだっけ、目玉焼きとか、とにかくおいしそうなご飯が出てくるって有名なジブリ映画ですけど、まあこの映画は、卵とハムとネギのラーメンが出てきます。で、宮崎駿は、実はラーメンはネギじゃなくて、ほうれん草を乗っけるのが好きなんだって。
渡辺:へえ〜。
有坂:毎回、ほうれん草を乗っけていて、それで描いてみたんだけど、アニメーションとして絵的に、やっぱりほうれん草だと難しいということで、泣く泣くネギにしたそうです。仕方なく。……ということで、そんなラーメンにも注目して、まだ観ていない方、観返したいなと思う方は、そこにも注目して観ていただけたらと思います。
渡辺:なるほど。……まさかの(笑)。
有坂:よかった、ポニョ言われたらどうしようかと。ちなみに、僕そのあと、ジブリ映画は映画館でね、リバイバルやったり、京橋にある国立映画アーカイブでたまにやるんですよ。『魔女の宅急便』とか。結構その後観られて、一応、まだ観られていないジブリ映画は、あと3本で、『耳をすませば』『紅の豚』『ハウルの動く城』。今話題のハウル。変なほうのニュースでちょっと話題になっちゃっていますけど、その3本はまだ観られていないんですけど、それ以外は観られました。で、今のところ、そんな中でのベストジブリは、変わらずポニョ。
渡辺:(笑)。すごいよね。
有坂:なんか、やっぱりちょっと狂気すら感じる。
渡辺:いや、狂気は感じるよね。
有坂:なんか、もう物語の枠さえも飛び越えちゃって、芸術家としての宮崎駿のエネルギーを感じちゃったら、それを超えるものがまだ現れていない。なので、いつかみなさんとベストジブリ映画の話なんかもね、できるといいね。
渡辺:でも、だいぶ観たね。
有坂:だいぶ観た。もうここまで来ると観終わりたくないと思って、もう劇場で公開されても観に行くのやめようかなとすら……
渡辺:新作つくっているからね、今。
有坂:そうだよね。
渡辺:じゃあそれを観ない。
有坂:いや、観させてください(笑)。
──
有坂:はい、ということで以上10本になります。みなさん観ていた映画ってどれぐらいあったんだろう。「観てます」とか、「好きです」っていうコメントもちらほらありましたけど。
渡辺:全部観てる人いたらすごいよね。
有坂:順也の『くじらびと』まで含めたらね。あれはなかなか、僕も観てないからな。それぞれ配信とかでも、観られるものもあったり、劇場公開を待つ、リバイバル上映を待つっていうのも一つかなと思うので、この10本の海な映画、この夏にお楽しみいただけたらと思います。では、最後になにか。
渡辺:今日なんと映画監督からですね、告知、お知らせがあったんで、ちょっとそれを。なんと、映るかな。ドキュメンタリー映画の巨匠のですね、原一男監督という方がいるんですけど、その方のえっと新作の『水俣曼荼羅』っていうドキュメンタリーがあるんですけど、それが明日から、横浜シネマリンという映画館でやるということで、羊毛フェルト作家の緒方伶香さんが、「マブダチの原一男監督からメッセージをいただいてきた」ということで、見えないけど、手書きの明日から映画始まりますというメッセージが。
有坂:372分の映画です!
渡辺:水俣病の患者の人たちと、ずっと国と裁判で争っているというのを追ったドキュメンタリーになります。で、これなんかすごいシリアスな感じがするんですけど、めちゃくちゃ面白いんだよね。
有坂:いやー面白いね。
渡辺:割とエンタメ要素もすごいあって、長いんですけど、意外と観られちゃう作品です。
有坂:シリアスっていうのはもちろん、そのテーマ的にシリアスではあるんですけど、なんていうんですか、その水俣病患者と国との戦いとかだけではなくて、その実際、患者の人のプライベートな部分。ちょっとラブストーリー的な要素もあったり。
渡辺:そうそう、まさかのね(笑)。
有坂:そういうなんか、新しい視点を与えてくれるという意味では、ほんとに絶対に観た方がいいね。
渡辺:なんか本まで。こういう本もあるんですけど、こういう本も出ています。
有坂:途中休憩、あります、あります。
渡辺:まさかの巨匠から、告知が入るっていう
有坂:本当に世界的な巨匠です。原一男監督って。やばい人です。やばい映画監督で有名な。
渡辺:ぜひチェックしてみてください。
有坂:じゃあ、僕からは、キノ・イグルーの夏のイベントなんですけど、野外上映をね、二子玉川ライズで今年も開催します。去年はじめて開催した「原っぱシネマ」という企画で、これは二子玉川ライズの屋上に原っぱ広場っていう芝生のエリアがあって、そこを使った野外上映会です。7月30日、31日。土曜日、日曜日の2日間、アメリカ映画の『遠い空の向こうに』という、もう涙、涙のヒューマンドラマをやります。あのロケットボーイズの話ですね。これをやります。一応ですね。定員が180名限定なんですけど、去年先着でやったら、ほんとに瞬殺。ものの数時間で予約が埋まってしまったので、今年はちょっと長く告知期間を設けようということで、一応、あの抽選になってます。まだ、予約は受け付けていますので、ぜひ夏の野外上映会を体験してみたいなという方は、お越しいただけたらと思います。7月30日、31日です。キノ・イグルーのホームページと、Instagramの方に告知も出ていますので、よかったらそちらもご覧になってみてください。
──
有坂:ということで、海な映画、以上ですが、ちなみにあと何が候補作にあった?
渡辺:あとね、『海辺のポーリーヌ』とか、『ソング・オブ・ザ・シー』は前に出ていた。あとは、『夜明け告げるルーのうた』とかね。
渡辺:さっき、コメントにもあったね。『女っ気なし』とか出ると思った。
有坂:いや、候補に入れていた。最初候補で入れていたんですけど、フランス映画は1本にしようと、で、ジャック・タチにして。ポニョがかぶったらどうしようかと思った。
渡辺:それは絶対にない(笑)。
有坂:みなさんがね、今日初めて『崖の上のポニョ』という映画を知れたことだけでも、僕はもう満足です。
渡辺:よかったです(笑)。
有坂:ということでまた来月、このキノ・イグルーの『ニューシネマ・ワンダーランド』でお会いしましょう。今月は終わりたいと思います。遅い時間までありがとうございました。
渡辺:ありがとうございました〜!
──
選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)