あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。前回からテーマを一新!「このヨーロッパの男優にフォーカスした映画」を切り口に、一人の男優をピックアップし、おすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月も有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

有坂:今月のキノ・イグルーのニューシネマワンダーランドのテーマは、前回は女優にフォーカスしていましたが、今月は「このヨーロッパの男優にフォーカスした映画」ということで、ヨーロッパの俳優の中で、お互い誰を取り上げるか。ここが被ると大変なことになるんですよ。
渡辺:大惨事になるけど(笑)。
有坂:大丈夫かな? 頼むよ。じゃあ、僕が勝ったので先攻でいきたいと思います。最初にそれぞれ発表しようか、誰かね。では、僕はイギリスの俳優、テレンス・スタンプです。被らないでしょ?
渡辺:いや、危ないよ!!
有坂:ほんとに!?
渡辺:すごい、それでよく自信あったなぁ。
有坂:僕はもうね、順也と被らないと思って代役を用意せずに臨んだんですよ。誰ですか?
渡辺:僕は、フランスのジャン=ピエール・レオです。
有坂:だよねー。ジャン・ギャバンか、ジャン=ピエール・レオ。前回、僕は女優で、フランスのアンナ・カリーナを紹介したので、まあ、ジャン=ピエール・レオとかね、大好きだけど、ちょっとそこは外そうということで。じゃあ、僕から行きたいと思います。

有坂:まずこのテレンス・スタンプって、皆さん、ご存知でしょうか? めちゃ渋なね。もう派手な人とかヒュー・グラントとか、いこうかなと思ったんですけど、こういう機会でないと知れない俳優さんを紹介したいなということで、テレンス・スタンプを紹介します。彼はイギリスのロンドン生まれの人で、もともと美大出身でアートスクールでいろいろ表現を学んできながら、演劇に目覚めて俳優の道に進んだというキャリアの人です。映画は、1962年にデビューしたということで、イギリスの60年代っていうと、いわゆるスウィンギング・ロンドン真っ只中! スウィンギング・ロンドンっていうのは、ファッション、音楽、映画、あらゆるカルチャーで、若くて世界的な才能が同時多発的に出て、そのジャンルの人たち同士もつながっていって、一つの大きなカルチャーになっていった。そのスウィンギング・ロンドンのど真ん中にいた一人が、このテレンス・スタンプと言われています。映画界でいうと、もう一人、マイケル・ケインもこのムーブメントのど真ん中にいた人なんですけども、今日はこのテレンス・スタンプのほうを紹介したいと思います。彼のキャリアは60年代から、まだ現役で活躍されている方なので、昔の作品から現代に1本ずつ近づいていくような流れで紹介していこうと思います。

まず、最初の作品は初期作にして代表作の1本。1965年の映画です。

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有坂セレクト1.『コレクター』
監督/ウィリアム・ワイラー,1965年,アメリカ,119分

渡辺:うーん!
有坂:これはかなりやばい! 猟奇的な殺人犯を演じているのがこのテレンス・スタンプなんですけれども、『コレクター』というタイトルからも分かるように、彼はあるものを収集することが唯一の趣味な、内気で孤独な銀行員フレディを演じています。このあるものというのが蝶々ですね。蝶々の収集をしながら、一人で誰ともあまり交わらないような生活を送っていた彼が、ある日、大金を手にして、それで一軒家を買い取って、その一軒家を拠点に、今度は蝶々じゃなくて、女性の収集を始めるんです。なんて怖い話……。なので、街中にいる、例えば、若くて美しい女子大生を誘拐して、蝶々を収集するかのように監禁して、っていう恐ろしい計画を始めるという役をテレンス・スタンプが演じているという作品です。いろんな人を誘拐して監禁する中で、だんだん物語が、彼にもやっぱり人間の心があって、そこから物語がちょっとずつ恋愛ドラマに移行していくという物語になっています。このテレンス・スタンプ初期作って最初に言いましたけど、この『コレクター』で彼が演じた猟奇殺人鬼のフレディ。これは、その年のアカデミー賞にもノミネートされたと。で、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したんです。なので、もう一気に彼はそれでスターダムにのし上がって、最初に話したスウィンギング・ロンドンのど真ん中に、映画界から参加するって言うと変ですけど、映画界の代表として、そのど真ん中に自分の立ち位置をつくったという、本当に彼にとっては最初の大きなきっかけになった一本です。やっぱりこのテレンス・スタンプっていう人の魅力は、何を考えているのかよくわからない。すごくクールで、なんかこう哲学的なことを考えていそうな表情とか、何を考えているのか分からない、けれども、すごくセクシーで、もう出会う人、出会う人が彼の魅力に引っ張られていく。そのもともと持っている魅力をこの『コレクター』っていう役にうまく落とし込んだので、そりゃカンヌ取るよねっていう。本当に自分の個性と、それを認めてくれた監督とのいい出会いがあったおかげで、彼はいい形でのキャリアをスタートさせたと。
渡辺:かっこいいからね。
有坂:そう、それで上品なんですよね。生まれ持ったもので、やっぱりその品の良さがあるからこそ、実は彼の裏側の顔としてのコレクターがこの映画の中では振り幅がね、ちゃんと恐怖映画として成立しているものになります。これ、監督がウィリアム・ワイラーって書いてます。ウィリアム・ワイラーというと、代表作はあのローマの休日です。オードリー・ヘプバーンの。なので、『ローマの休日』と『コレクター』の2本でもわかるように、ウィリアム・ワイラーというのはジャンルを絞らないで、いろんなジャンルにチャレンジしながらも、かなりハイアベレージなものをつくれる。なんか、職人監督の最高峰みたいな人です。その彼のつくってきた映画の中でも、サイコサスペンス的なジャンルでいうと、突出して素晴らしいのがこの『コレクター』となっています。ちなみに、これはちょっと余談なんですけど、ザ・スミスっていうバンドがいて、ザ・スミスの3rdシングルのレコードジャケットに、この『コレクター』のテレンス・スタンプの写真が使われたんですよ。オフショットが。でも、それが無許可でやったらしくて、テレンス・スタンプ側からクレームが入って、もう先に刷っちゃって、1回リリースしたものを引っ込めて、同じような写真をモリッシーが自分で演じてセカンドプレスで出した。そしたら、その後テレンス・スタンプからOKが出た。だから、最終的にはテレンス・スタンプ版が世に出回っているんだけど、それはサードプレスだから、テレンス・スタンプのサードプレス版よりも、その後、モリッシーがやった方が価値があるっていう。なんか謎な、でも、そういう映画の枠にとどまらず、やっぱり音楽の人も魅力に引き込まれてしまうぐらいの作品が、この時代の『コレクター』かなと思います。勇気のある方は、ぜひ観てみてください。

渡辺:はい、被らずにまずは。僕の俳優はジャン=ピエール・レオなんですけど、本当にヌーヴェルヴァーグを生き抜いた人です。なので、フランスのヌーヴェルヴァーグの時代を象徴する俳優なんですけど、その後もいろんな監督のもとで、映画に出ている人だったりするので、でも、やっぱり軸としてはヌーヴェルヴァーグのところがあるかな、という人だったりするので、僕もちょっと時系列でその作品と紹介しつつ、ジャン=ピエール・レオを辿ると、なんとなく一つの映画史が見えるみたいなところがあるなと思ったので、ちょっとそういう順番で紹介していけばと思います。


渡辺セレクト1.『大人は判ってくれない』
監督/フランソワ・トリュフォー,1959年,フランス,97分

有坂:うんうんうん。
渡辺:これは1959年の作品で、監督はフランソワ・トリュフォーです。本当にこの作品からヌーヴェルヴァーグは始まったというような時期の作品ではあるんですけど、これがまさに、このパッケージの少年がジャン=ピエール・レオなんですけど、なので、もう子役から出ていたと。フランソワ・トリュフォーの作品で、これが本格デビューになるんですけど。なので、もう子役の時代からヌーヴェルヴァーグの作品に出ていたというところでは、本当に稀有な俳優かなと思います。これ観ていない人もいるかもしれないんですけど、まあ、思春期の少年がいろいろ親をうるさいけど、あの友達と遊んで、なんかこう青春を謳歌しようとするんだけど、まぁ、いろんな悩み事もあってみたいな。ちょっとそういう、子どもの目線で描いた作品ではあるんですけど、これが当時のフランスでもかなり評価され、ここからカンヌ映画祭で監督賞をトリュフォーが獲ったりして、そこからこのヌーヴェルヴァーグ監督たちが、躍進していくというところが始まっていきます。その監督たちの本当にど真ん中にいたのが、役者としているのが、このジャン=ピエール・レオになります。この『大人は判ってくれない』が子役で出るんですけど、この役名がですね、アントワーヌ・ドワネルという役で出ます。実は、この後、このトリュフォーの作品で同じ役名、アントワーヌ・ドワネルという役名で、ジャン=ピエール・レオが違う物語をどんどん出ていくんですけど、これはドワネルシリーズというふうに言われていてですね。なので、けっこうそういう同じ役者で、また月日をまたいで作品を撮っていくっていうスタイルがありますけど、結構トリュフォーはかなり初期に、それをやっていた監督だなと。
有坂:ビフォアシリーズとかね。
渡辺:そうだね。日本でも北の国からとかありますけど、それより前にやっていたのがこのトリュフォーで、ジャン=ピエール・レオが、それに主演していたいう作品となります。なので、まず1本目は、『大人は判ってくれない』になります。ヌーヴェルヴァーグの作品もいろいろあるんですけど、けっこうこの辺は見やすいですし、この辺から入っていくというのもいいかなと思います。
有坂:ちょっと補足すると、ヌーヴェルヴァーグって何ぞやというところで、フランスの映画運動で、それまで、今出ているフランソワ・トリュフォーという監督とかは20代前半とかで映画を撮り始めて、同世代の監督とみんなで手を組みながら新しい映画をつくっていくんですけど、自分たちよりも上の世代、先輩たちの映画を全否定して、基本的には全否定。一方で、トリュフォーとか、ゴダールというのは、アメリカのカルチャーを一心に受けて育った世代。パリ解放で、アメリカ映画に限らず、音楽もそうだし、コカ・コーラもそうだし、そういうものを見て聞いて食べて飲んで育った世代が、これまでのフランス映画ってダサくねって言って、自分たちの時代の映画をつくっていく。その運動のことをヌーヴェルヴァーグって言うんですね。音楽で言うと、パンクとか、規制概念壊していくみたいな。もうその初期作だから、それはもうね、時代を超えてみずみずしいパワーにあふれていて。
渡辺:そうですね。監督たちが当時の若手で。
有坂:そうだね。
渡辺:イケイケで出てきた、そこに抜擢された少年。
有坂:しかも、トリュフォーの自伝的な話だから、分身的なトリフォーの分身としてジャン=ピエール・レオが抜擢されたっていうことで、もう運命的な出会い。
渡辺:はい。
有坂:じゃあ、僕の2本目、テレンス・スタンプの2本目は、1968年のイタリア映画です。


有坂セレクト2.『テオレマ』
監督/ピエル・パオロ・パゾリーニ,1968年,イタリア,99分

渡辺:はい。
有坂:これはまあ、説明がなんとも難しい映画なんですけど、ピエール・パオロ・パゾリーニっていうイタリアを代表する異才、鬼才がつくった作品なんですけど、あるブルジョワの家族が映画の主人公の中心にいて、そのブルジョワ一家に謎の訪問者が来ると。その謎の訪問者役をテレンス・スタンプが演じているんですけど、もう何の問題もなく穏やかな日々を過ごしていた、お城みたいなところに住んでいるブルジョワの家族の中に謎の美しい青年が来て、何の問題もなかった家族のバランスを崩していくという。何の前触れもなくやってきた人と、同居を始めるという時点で不思議な設定なんですけど、その不思議さを当たり前のように描いている。物語はあるんですけど、詩に近い、映像詩みたいな、ちょっと詩的な映画になります。こういうことって、映画に限らずいろいろ置き換えられるなと思って、関係性ができている中に、ある一人が入るだけでバランスが変わっていく。それをブルジョワの家族を起点に、みんなが彼の不思議なミステリアスな魅力とか、性的な魅力とか、そういうものに、例えば、娘とか、息子とか、女中とか、奥さん、とかみんながそれぞれ惹かれていって、やっぱりなんとかその美しい青年を自分のものにしたいと言って、家族が崩壊していくという映画になっています。これはその年のヴェネチア国際映画祭で国際カトリック映画事務局賞というのを受賞して、それがめちゃくちゃ物議を醸したらしくて、なんか猥褻罪に問われて裁判に発展し、もうイタリアのその時代もトップニュースみたいに扱われていたんだけど、結局、監督のパゾリーニは無罪になって、ただ、そのニュースがきっかけで映画は大ヒットしたということで、イタリア映画の中で、イギリス人のテレンス・スタンプが思わぬ形で注目されることになったということで、彼は本当にイギリスのみならず、ヨーロッパ全土でまた名を挙げるきっかけになった映画になります。ちなみに、音楽はニュー・シネマ・パラダイスとかもやっているエンニオ・モリコーネなんです。なので、本当に今観ると分かりづらい映画って言われてしまうかもしれないんですけど、でも一回観ると、この映画の世界観とかテレンス・スタンプの綺麗な瞳とかが脳裏に焼き付いて離れないので、これも本当に名作の一本だと思うので。
渡辺:ちょっと前にリバイバルやっていたよね。
有坂:そう、4K版がやっていたので、それで知っているっていう人もいるかもしれませんが。こうやって名作はね、語り継いでいきたいなということで、これもやっぱりそのテレンス・スタンプの色気とか、ミステリアスな魅力をきちんと役に反映させた意味で、本当に監督とか、役に恵まれている、そういう運の良さもテレンス・スタンプの魅力の一つかなと思います。
渡辺:なるほどね。そのリバイバル、観に行きたかったんだけどさ。4K版もね。また、今のとこさ、ちょっとデザインも変わっていて、いいデザインになってます。もともとデジタル素材じゃなかったやつだからね。
有坂:そうだね。35ミリフィルム。
渡辺:こういう、デジタル素材になって観やすくなるといいですね。はい、じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。僕の2本目はですね。ジャン=リュック・ゴダール監督作品です。


渡辺セレクト2.『中国女』
監督/ジャン=リュック・ゴダール,1967年,フランス,103分


有坂:おお。
渡辺:先月、言ったっけ? 『中国女』。
有坂:いや、なんか会話には出たけど。
渡辺:そうかそうか。でも、今の『テオレマ』にも出てたアンヌ・ヴィアゼムスキー、まさかのつながりで、という女優さんが主演の『中国女』です。ゴダールの中期?
有坂:初期に近いかな。
渡辺:ゴダールの初期から中期にかけての作品ではあるんですけど、ちょうど中国で文化大革命が起こっていた時期なんですけど、このときのゴダールが、割とそういうものに傾倒していた時期なので、ゴダールらしいカラフルでポップなルックではあるけれど、言っていることはめちゃくちゃ難しいっていうですね。政治的すぎる革命的なことを、毛沢東語録みたいなことを言ってみたり、でも、絵は限りなくポップでね。それを一緒にやってるのが、ジャン=ピエール・レオになります。やっぱりジャン=ピエール・レオって不思議な魅力があって、ジャン=ピエール・レオも本当に何考えているかよくわからないタイプのキャラクターです。なんか、すごい天然ボケな感じもするし、すごい深く考えているような感じもするし、何も考えてないような感じもするし、なんかそういう、ちょっととぼけたキャラクターみたいなところが、こういうポップな映像で難解なことを言っているみたいなところでも、ジャン=ピエール・レオがいるから、そのバランスを保てるみたいなところがあるかなと思います。監督はジャン=リュック・ゴダールなんですけど、これがやっぱりトリュフォーの盟友でもあって、もうヌーヴェルヴァーグのど真ん中を牽引した監督なので、やっぱりこのトリフォー、ゴダール。この辺の人たちに愛されて、主演で抜擢されている俳優っていうのは本当に珍しいので、その辺がやっぱりジャン=ピエール・レオの最大の特徴だし、すごい魅力なところじゃないかなと思います。これも一つ、ジャン=ピエール・レオいっぱいあるんですけど、その流れの中でゴダール作品として『中国女』を挙げてみました。
有坂:ゴダールの映画の中でも、これ赤じゃん。パッケージもそうだけど、映画のテーマカラーが赤で、夏のパリのアパルトマンが舞台で、白壁のアパルトマンに美しくバランスよく赤が配置されて、で、その赤をどれだけ綺麗に撮るかみたいなところも、この映画の良さだと思うよね。すごくインスタグラムの今の時代に本当に向いている。それはルックとして、これは自分もこのアングルで撮ってみたいなとか、こういう色の配置で撮ったら綺麗になるんだなっていう、インスタグラマーの参考にもなるような魅力があるなと。
渡辺:なんか、中国共産党の本なんです。あれも真っ赤な。
有坂:こうやって持っているやつね。
渡辺:そうそう、赤はすごい象徴的ですね。
有坂:この劇中に流れる、あの毛沢東のテーマ曲。「マオマオ」。あれを小西康陽がよくかけていましたよ。真夜中に、それを聞いて踊るみたいな。
渡辺:まあね、わかってる人はたまらないっていう。
有坂:そうそう、笑っちゃう。
渡辺:そんな2本目でございます。

有坂:いいねー。じゃあ、僕の3本目、テレンス・スタンプのわりとその1本目、猟奇的な殺人鬼。2本目、みんなを狂わせる謎の訪問者。わりとそのミステリアスな方に脚光を浴びた2作が続いたので、3本目はちょっとテイストを変えます。1994年のオーストラリア映画です。


有坂セレクト3.『プリシラ』
監督/ステファン・エリオット,1994年,オーストラリア,103分


渡辺:んー! へえー。
有坂:『プリシラ』というとね、去年公開されたソフィア・コッポラのプリシラという映画がありました。いやいやいや、こっちでしょ! この90年代を代表するロードムービーの象徴的な作品がこの『プリシラ』​​です。これはオーストラリアの広大な土地を舞台にした、いわゆるロードムービーです。主人公が3人のドラァグ・クイーン。彼らが、真実の愛を求めて旅をするという、本当にオーストラリアの広大な大地を旅する。トラックじゃなくてなんて言うんだろう、バスか、オンボロバス。そのオンボロバスの名前が、プリシラ号って言うんですけど、それに乗って3,000キロの旅に出るっていう。それはもう途中でいろんな出会いとかトラブルとかがもうすごくて、しかも、ドラァグ・クイーンていう人たちの、その時代の立ち位置の難しさとか含めて、本当にこれはロードムービーとしてもよくできてるし、やっぱり90年代中期に今ほどジェンダーとか、LGBTQとかが、まだそこまでではないような時代に、こういう3人のドラァグ・クイーンを主人公にした映画をつくったというだけでも価値があるし、そのドラァグ・クイーンの3人組の最年長メンバーをテレンス・スタンプが演じている。やっぱり、もうガチのテレンス・スタンプファンからすると、「彼がドラァグ・クイーンやるの?」っていう、もうファンの間では、相当公開前からざわついたっていう。
渡辺:ガイ・ピアースもね。
有坂:そう、ガイ・ピアースも。そうこれはね、後に名作って言われるような映画だったので、アカデミー賞でも衣装デザイン賞を受賞して、そういう意味では広く受け入れられた映画だったんですけど、とはいえ、やっぱりさっき話したようにゲイの人とかが、本当に生きづらい時代。この時代のそういったゲイコミュニティの映画っていうと、例えばフィラデルフィアとか、フランスだと野性の夜にっていう映画とか、どっちかっていうとゲイコミュニティの人が出てくるけど、エイズにかかってしまってという、エイズの恐怖みたいなのがまだあったから。
渡辺:そうだね。80年代。
有坂:そう、80年代後半から90年代って。なので、なんかその割と悲劇的な物語。なんかそういうのがまだ濃厚に色濃く残っていた時代の中で、カラッと爽やかなロードムービーとして『プリシラ』が出てきたっていうのは、その時代を知っている人ほど、インパクトは強かった。
渡辺:オーストラリア映画なんだね。アメリカ映画かと思った。
有坂:そういう意味ではね、テレンス・スタンプってオーストラリア映画でしょ、イタリア映画でしょ、アメリカ映画でしょ。もうなんか今の時代の人かのように、もう国境を軽々越えて活動していたっていう意味でも、すごくやっぱり魅力的な人だったのかなぁと思います。
渡辺:ドラァグ・クイーンはこれで知ったかもしれない。
有坂:そうそう。いや、本当に多いと思う。結局、この『プリシラ』は、映画が、いわゆるハリウッド映画的な大ヒットじゃないけど、スマッシュヒットして、それがビデオ、DVDレンタルでも、もう口コミで広がってファンが増えたので、そのブロードウェイでミュージカル化もされた作品です。なので、映画から始まっているってところがね、映画好きとしてはたまらないエピソード。でも、その当時はやっぱりゲイの役をやるっていうこともリスクがあった中、それをもう、この時代ではもうある程度スターだったテレンス・スタンプが、その最年長役を演じたってことで、他の人もうまく、それをリスクと感じずにチャレンジできたっていう、いい話もありますね。
渡辺:これは観られるのかな?
有坂:観られるはず。さすがU-NEXT。さっきからU-NEXTオンリーの映画が多いね。
渡辺:だいたい、押さえてますね。
有坂:そうそう(笑)。でも、夏の間に観てほしいタイプの映画なので、ぜひ観てください。
渡辺:じゃあ、僕の3本目は1973年のフランス映画で……
有坂:あれ!?


渡辺セレクト3.『ママと娼婦』
監督/ジャン・ユスターシュ,1973年,フランス,220分

有坂:でたー!!
渡辺:これは、監督はジャン・ユスターシュという監督で、1973年となると、もうあのヌーヴェルヴァーグの時代は終わっている時代なんですね。この時代になってくると、ポスト・ヌーヴェルヴァーグと呼ばれるような時代になっています。その代表格の監督がジャン・ユスターシュです。そのユスターシュの代表作が、この『ママと娼婦』なんですけど、これに主演してるのがジャン=ピエール・レオなんですね。なんで、ジャン=ピエール・レオは、本当にヌーヴェルヴァーグの子役として登場してトリュフォーとか、ゴダールとか、もうその辺のヌーヴェルヴァーグど真ん中の監督たちの作品に次々と出て、そしてヌーヴェルヴァーグからやや遅れてきた次の若き才能たち、ポストヌーヴェルヴァーグ時代の人たちにもまた愛されて起用されていると。この『ママと娼婦』っていうのもすごく評価の高い作品で、ちょっと長いんですよね。220分あるので3時間半とかある長い作品で、あと権利の関係とかであまり上映もされていなくて、たまに再上映とかあったと思うんですけど、2年前ぐらいにやったよね。あれがたぶん、だいぶ久しぶりの上映だと思うんですけど、そのぐらいちょっとこれは珍しい作品なんですけど、ドラマ性があるので、長いけどずっと観ていられるタイプ。テレビドラマを一気観しているぐらいの感じです。なので、そういう見やすさはある。これは一人の男と二人の女性のお話ではあるんですけど、このジャン=ピエール・レオがモテ男くんなんですけど、二人の女性と同時に付き合っているんですけど、なんかこう二股してるとか浮気してるっていう感覚じゃなくて、「いや、俺は2人とも好きなんだよ」みたいな、っていう、衝撃的なそれを堂々と言ってのける。「どういう根性をしてるの?」って思ったんですけど、それがフランス映画っぽいなって、すごい思ったんですよね。なんか愛の形を、堂々と主張できるみたいな。これが俺の愛の形だからみたいな。そういう、ちょっと日本だと通用しないような、でも、フランス男だったら、そういうこと言うのかもみたいなっていう。なんかちょっとフランス映画のラブストーリーものの独特の世界観を体現してたのが、このジャン=ピエール・レオ。本当になんかちょっと優しい、暴力的な男っていうのは絶対似合わないタイプの俳優さんなんですけど、でも、なんかそういうなんだろう、「俺二人とも好きだから」みたいなことを堂々と言えちゃうみたいな。で、またちょっと何考えているかよくわからないようなキャラクターと相まって、それがこうなんか地でいってしまって、観ている側もちょっと納得してしまうような存在感とか、演技ができるのがこのジャン=ピエール・レオで、なんで、ここでまたちょっと新しい役どころとして出てきたところでもあるし、このヌーヴェルヴァーグの象徴的なところから、このポスト・ヌーヴェルヴァーグのところでも、また代表作にいるっていうですね、そのスペシャルな存在感が、このジャン=ピエール・レオのすごいところだなと思っています。これもカンヌでグランプリを獲っています。
有坂:そうだね。これはあれだよね。その監督のジャン・ユスターシュって、ゴダールが神で、そのゴダールの映画にも出ているジャン=ピエール・レオだから、もう彼と一緒に映画がつくれるってことがうれしい。と同時に、これは、とはいってもお金がなかった。映画撮りたいけど、お金ないですっていうような時代に、ゴダールが男性・女性っていう映画をつくったときに、未使用のフィルムが結構あって、それを提供してもらってつくったんですよ。
渡辺:あったね。そんな話!
有坂:そういうエピソードも、ヌーヴェルヴァーグ。「仲間の映画の力になってあげよう」みたいな、そういう裏エピソードとかもあるし。あと、これ言ってみたらカフェ映画なんですよ。カフェでだらだら過ごしているシーンが延々続くので、僕、パリのカフェとか大好きだったから、「カフェ ドゥ・マゴ」とか「カフェ・ド・フロール」とか出てくるし、そこで変に物語展開させるよりも、本当だらだらしている姿を観たい。その空気感を映像で観たいと思ったので、そういう意味では、『ママと娼婦』はカフェ映画の最高峰だし、これ、僕、パリで観たんですよ。
渡辺:シネマテーク?
有坂:シネマテークじゃないんだけどね、パリのシネクラブでやっていて、それを観にいったら、なんと、爆笑してるの、フランス人。これを観ながら。別に爆笑シーンってないじゃん。
渡辺:どこで?
有坂:いや、ことあるごとに。
渡辺:(笑)
有坂:基本、ジャン=ピエール・レオのところで笑っている気がするから、一応自分の読みとしては、ジャン=ピエール・レオは、あの時代生きていて、もうあの世代にとっては、テレビとかにも出てくる面白いおじさんで、その面白いおじさんの昔の映像を観たら、「いや、今と変わんねえじゃん」みたいな、「ウケる」みたいな、「あの動き気持ち悪い」とか、そういう笑いだったような気がするんだよね。
有坂:だからね、日本でユーロスペースで観たときとは全然違う空気で。
渡辺:分かる気もする。
有坂:たぶんね、それぐらいしか想像できない。
渡辺:なるほど、そんなジャン=ピエール・レオです。これ観られるのかな? 観れないかな、さすがにこれは本当にちょっとレアなので、たまに劇場でリバイバルするので、そのときを逃さないと。
有坂:劇場で観たほうがいいよね。
渡辺:そうだね。
有坂:ほんとダラダラしてるんで。
渡辺:でもね、意外と観れちゃうんで。
有坂:そうそう、面白いよね。それが、面白いんだよね。はい、じゃあ、僕の4本目いきたいと思います。1999年のアメリカ映画です。


有坂セレクト4.『イギリスから来た男』
監督/スティーヴン・ソダーバーグ,1999年,アメリカ,89分

渡辺:うん!
有坂:これは、僕はもう大大大大好きな映画です。
渡辺:これは、監督がスティーヴン・ソダーバーグという人で、ソダーバーグって今も現役で映画はつくっているけど、そんなに監督の名前としては、今の若い人は聞いたことないなって人が多いと思います。そんなソダーバーグのキャリアの中でも、おそらく絶頂期の一歩手前。絶頂期前夜につくった映画が、この『イギリスから来た男』です。じゃあ、絶頂期はどんな映画かっていうと、ジュリア・ロバーツが出たエリン・ブロコビッチ。あとアカデミー賞も獲ったトラフィック。あとオーシャンズ11。その辺が公開される前につくった映画の一本が、『イギリスから来た男』です。これは言ってみたらハードボイルド映画で、テレンス・スタンプが演じるのは初老の前科者・ウィルソンという役です。彼は9年の刑期を終えて、出所して愛娘に会いたかったんだけど、その愛娘が死んでしまったと。なんで死んでしまったかっていう真相を探っていくと、とある大物音楽プロデューサーがいて、彼の愛人だったと。愛人であるプロデューサーと飲酒して車を運転したときに、交通事故にあってしまったと言われるんだけど、うちの娘に限ってそんなヘマはすることないと。ということで、真相を探るために、自分で追求していこうということで、一匹狼で危険なところに乗り込んでいく、そんな物語になっています。この映画は、99年というと、クエンティン・タランティーノの時代です。レザボア・ドッグスとかパルプ・フィクションがあって、やっぱりタランティーノフォロワーが一気に世界に増えて、いわゆる殺し屋とか、ハードボイルド映画とか、バイオレンス映画が全盛期。その中で、特に『イギリスから来た男』が素晴らしかったのは、銃をぶっぱなすみたいなシーンもあるんですけど、基本全編クールなんだよね。
渡辺:そう、無表情でね。
有坂:無表情で、変に「バンっ」て盛り上がるっていうよりは、淡々と進んでいく。だけど、映像の、例えば編集とか、カッティングとか、そこにザ・フーの曲を合わせるとか、ソダーバーグのセンスが炸裂している。とにかくかっこいい!
渡辺:かっこいいんだよね。おじさんなのに。
有坂:そのかっこいい映像の中のど真ん中にいる主人公が、やっぱり最もかっこいいんだよね。監督が、いかにテレンス・スタンプに惚れ込んでいるかっていうのが、よくわかるエピソードがあって、この映画の中で主人公の男・ウィルソンが、自分の過去のシーン、フラッシュバックのシーンが出てくるんですよ。そのフラッシュバックのシーンは、例えば、別の若い役者に演じさせたり、というのが普通ありますよね。だけど、そこのフラッシュバックのシーンは、かつてテレンス・スタンプが主演した、夜空に星のあるようにという映画の場面を使うんですよ。これはケン・ローチ、我らがケン・ローチの監督デビュー作。過去に自分が出た映画のシーンを、フラッシュバックで使うっていう、前代未聞。未だに聞いたことないもんね。60年代のテレンス・スタンプのやっぱりすごくキラキラした魅力と、あとはやっぱり他の代役では、やっぱり成り立たないというところで、もうそういうちょっとトリッキーなこともやりながら、すごく物語からそれが外れることもなく、逆にもう世界観を深めてくれる。もうね、最高のそれはテクニックだったと思います。もうぜひ、この時代のテレンス・スタンプとソダーバーグのコンビ絶頂期でもあるし、これが面白いなと思ったら、その同じ監督のソダーバーグのアウト・オブ・サイト、ジョージ・クルーニーとジェニファー・ロペス。もうこの2本はぜひ、改めて今観てもかっこいいと思うのでね。『オーシャンズ11』好きはマストです。ぜひ、観てみてください。これ、観られるんだよね。どこで観られるんだっけ。U-NEXTとAmazonプライム。これは、恵比寿ガーデンシネマで見ましたね。
渡辺:あ〜。そうだったっけ? パンフレットは覚えているな。
有坂:覚えてる、覚えてる。わかる、わかる。これ、ピーター・フォンダなんだよね、音楽プロデューサー役がね。これも60年代好き。これ、要はさっきのフラッシュバックのシーンが60年代の出演映画って言いましたけど、60年代オマージュがすごいんですよ。ザ・フーの曲を使ったり、そのピーター・フォンダもイージー★ライダーとか、60年代中心から出てきた人ですけど、そういうあの時代が好きな人にとっては、いろいろたまらない小ネタがいっぱいあるので。そこもポイントだね。
渡辺:あとさ、こういう相手のチンピラみたいなのからしたらさ、舐めてたおじさんがめちゃくちゃすご腕だった的なさ、そういう作品のけっこう走りじゃない。
有坂:多いよね。
渡辺:最近だとあるもんね。
有坂:リーアム・ニーソンとかでおなじみのね。
渡辺:そうこれもね、舐めてたおじさんが、めちゃくたすご腕だったみたいな。
有坂:でも、舐めてたおじさんとは思えないぐらいのビジュアルだよね。
渡辺:かっこいいんだよね。これはちょっとね、隠れた名作。
有坂:そうなんだよね。隠れたっていうポジションになっちゃったね。もう一回、日の目を当てたい。ぜひ観てください。
渡辺:じゃあ、僕の4本目いきたいと思います。僕の4本目は、1990年。
有坂:あれですね〜。わかっちゃった。


渡辺セレクト4.『コントラクト・キラー』
監督/アキ・カウリスマキ,1990年,フィンランド、スウェーデン,80分

有坂:今、一緒に言おうと思っちゃった(笑)。
渡辺:フィンランド映画。監督は我らが、アキ・カウリスマキ監督です。1990年になるので、またちょっと時代は飛ぶんですけど。今度、アキ・カウリスマキになってくると、ヌーヴェルヴァーグに憧れていた世代の監督です。その監督が、やっぱりまたジャン=ピエール・レオを主演に向かえて、映画を撮るというのがあるので、本当にヌーヴェルヴァーグど真ん中に生きてきたこの役者を、ヌーヴェルヴァーグ、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの人から、今度ヌーヴェルヴァーグに憧れて育ちました世代の人が、また使いたい役者というですね。
有坂:長生きするって大事だね。
渡辺:ね。この『コントラクト・キラー』、どういう話かというと、水道局に長年勤めた男がクビになってしまって、もう生きていてもしょうがないということで、張り紙かなんかにあった殺し屋に連絡して、自分を殺してくれという依頼を出します。なので、そういう契約殺人っていうのが、まあ、『コントラクト・キラー』なんですけど。その殺してくれとオファーをしたものの、その後に思わぬ出会いがあって、花屋の女の子に恋してしまうと。で、このそんな不思議な間抜けな主人公を演じているのが、このジャン=ピエール・レオです。で、花屋の子に恋してしまったので、死にたくないと。で、契約をキャンセルしてくれというコメディになっています。なので、これがまた不思議な、このおじさんを描かれているのが、このジャン=ピエール・レオなんですけど、カウリスマキの独特のものを言わない、淡々としながらの。
有坂:無表情で。
渡辺:その中で、くすっと笑わせるコメディの中でも、このジャン=ピエール・レオはハマるという。
有坂:ハマってたよね〜。
渡辺:ジャン=ピエール・レオって、本当に不思議な存在感で、何を考えているかよくわからないし、演技派ではまったくないので、存在感で見せるタイプ。でも、なんか過去の役のイメージみたいなものも、地でいっている役が多いのかもしれないですけど、そういうのをね、ちらつかせながら、なんかやっぱりこの辺の映画人に愛されて、映画ファンに愛されてというですね、不思議な存在感の役者だなと思いますけど。まぁ、本当に、で、この作品も確か、カウリスマキが当て書きというか、もう書き下ろしでね、ジャン=ピエール・レオのため書いたというのがあるので、まぁ、それもあってすごくハマっているっていうのがあると思うんですけど。という、特別な作品となっています。
有坂:ジョー・ストラマーも出てんだよね。
渡辺:そうだね。
有坂:これさ、すごい好きなエピソードがあって、やっぱりカウリスマキって、もともと彼自身が映画大好きなシネフィルだから、ジャン=ピエール・レオをぜひ使いたいと。で、そのジャン=ピエール・レオに現場で演技をつけるじゃん、こうやってやるんですよって。で、一生懸命ジャン=ピエール・レオにカウリスマキが演技をつけているときに、ふとなんかカウリスマキが我に返ったときに、これって、かつて自分がヌーヴェルヴァーグの映画を観てモノマネしていた、ジャン=ピエール・レオのモノマネを本人に向けてやっていると思って、「俺は何をやってんだよ(笑)」って。でも、それもね、映画ファンと映画監督が、何か交錯している感じがして、なんかエピソードとして大好きだったんだよね。
渡辺:なるほどね(笑)。
有坂:楽しい現場だったんだろうな。モノマネ見せているみたいなことになっちゃったっていう。
渡辺:だから、本当にそういう監督とかにね、ゴダールとか、トリュフォーとかの作品に憧れていたみたいなね。
有坂:そう、カウリスマキはね。
渡辺:けど、やっぱりそこを生きてきた、ジャン=ピエール・レオをやっぱり使いたいっていう。それが面白いよね。
有坂:第一線でずっと活躍しているからこそだよね。
渡辺:ジャン=ピエール・レオって役者を知らない人はけっこう多いと思うんですけど、実はいろんなところに出ていてですね、長らく愛されている人ではあるという感じですね。
有坂:じゃあ、僕のテレンス・スタンプの5本目は、これは観ている人、けっこういるかも。2008年のアメリカ映画です。


有坂セレクト5.『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
監督/ペイトン・リード,2008年,アメリカ,104分

渡辺:ああー、うんうん。
有坂:これはジム・キャリーが主演したヒューマンドラマなのかな、「イエスマン」って、タイトルもズバリです。これは「ノー」が無意識に口癖になっちゃってる人生後ろ向きな男をジム・キャリーが演じていて、人付き合い悪いし、ついには親友の婚約パーティーまですっぽかすと。「お前そろそろ生き方変えないと、このまま孤独で死ぬことになるぞ」と言われて、ついには孤独死する夢まで見て、そろそろ何かを変えないとってことで、ちょうどそのタイミングで知り合いから、あるセミナーをお勧めされるんですね。それが、どんなことに対しても「イエス」と答えなさいと。「イエス」と答えていくことで、自分の人生の風向きが変わりますよ、という相当怪しいセミナーに、ジム・キャリーが行くことになるんです。そのセミナーのカリスマ役をテレンス・スタンプが演じています。しかも、その自己啓発セミナーのカリスマの役名がテレンスです(笑)。これも、監督、かなり決め打ちのキャスティングだったのかなって。やっぱりもう「ノー」ばっかり言っていた人間が、そこから「イエス」に変わるときに、やっぱり自己啓発セミナーの雰囲気とか、カリスマって言われている人の、本当のカリスマ性がないと物語が成立しないわけですよ。説得力がなくなっちゃうわけです。そこにね、テレンス・スタンプ。彼の青い瞳と、圧倒的な存在感。そりゃ、もうここから「イエス」、イエスマンになるよねって、無意識に納得できるぐらいの、そういう役をテレンス・スタンプは演じています。ちょっとコメディ調でもあるので、真面目にやればやるほど面白い的な役柄が、テレンス・スタンプだったかなと思います。この映画の見どころって、割とそういうイエス、イエス言っていって人生全部上向きになるかというと、そこでうまくいかないことも出てくるんだけど、そのいかなかったことを通して、本当に大事なものが見えてくるという意味では、すごくポジティブなメッセージ性のある映画なので、そこは見どころの一つ。テレンス・スタンプも、もちろん見どころ。もう一個、僕のめちゃくちゃ推しポイントがあって、これは女優さんが出てくるんですよ。ズーイー・デシャネル。
渡辺:(500)日のサマー
有坂:『(500)日のサマー』でおなじみのズーイー・デシャネルがまたいい役で出ていて、これがバンドをやっているんですよ。彼女ね。「シー&ヒム」っていうバンドを実際やっていますけど、この役側でもバンドをやっているっていう設定で、これがガールズロックバンド「ミュンヒハウゼン症候群」っていう、ものすごいバンド名のボーカルなんですよ。で、割と「シー&ヒム」っていうのは、アコースティックなギターとか中心のバンドですけど、この「ミュンヒハウゼン症候群」っていうバンドは、エレクトロニカで、なんかね、ちょっとロボットダンスみたいなのを踊りながらやる、すごくコンセプチャルなバンドが出てくるんですけど、この曲がめちゃくちゃかっこいい! ぜひ、これは「イエスマン」っていう曲名だったかな。本当にかっこいいし、ジミヘンの演奏、パロディーにしていたりとか、音楽好きが観ても、「おー、わかってるね!」って言いたくなるような、そういうポイントもこの映画のいいところかなって思います。ちなみに、これは原作があって、イギリス人のダニー・ウォレスっていうライターが、まさにすべて「イエス」って答えてみたらどうなるかっていうのを、自ら試してみたっていう体験談が原作になってます。それを映画として脚色してできたのが、この『イエスマン』なんですけど、すごく笑えるシーンもあるし、音楽もいいし、ぜひ観てない人はね、多くの人にもっと観てほしいなと思える映画です。
渡辺:これ普通に面白いんで、観やすいですし。
有坂:ブラッドリー・クーパーとかも出ているし。
渡辺:これも配信で観れますか? いつものU-NEXTで見れますね。
有坂:ぜひ観てください!
渡辺:じゃあ、続く僕の5本目、ラストは2018年公開のフランスと日本の合作の作品です。

渡辺セレクト5.『ライオンは今夜死ぬ』
監督/諏訪敦彦,2017年,フランス、日本,103分

有坂:あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ。
渡辺:これ、監督は日本人監督の諏訪敦彦監督です、なので、ついに日本人監督にまで愛されて、起用されてというジャン=ピエール・レオです。これもう2017年の作品なので、もうこのとき、おじいちゃんですね。なんですけど、この映画がすごく面白くて、諏訪監督って結構ドキュメンタリーなのか、フィクションなのかみたいな、そういうタイプの演出をする人で、なので、ジャン=ピエール・レオも本当にそのままの人として演出されているんですけど、この映画の役どころ、どういう人かというと、昔は有名だった、今おじいちゃん俳優という、本当にジャン=ピエール・レオそのままの役どころになっています。かつては有名だったおじいちゃん俳優が、子どもと一緒に映画づくりをするというワークショップをするみたいなお話になっています。その中で、ジャン=ピエール・レオは、ガチガチに演じるとかじゃなくて、映画っていうのは楽しむものだからみたいな。なんか「自然でいいんだよ」みたいなことを子どもに話しかけたりするんですけど、それが本当に、そのときのジャン=ピエール・レオそのままなんじゃないかなっていうような。なので、これは今挙げてきたようなジャン=ピエール・レオの作品を時系列で追ってきた映画ファンにはもうたまらない! 今のジャン=ピエール・レオが、本当にかつてのものをいろいろ背負って今があるっていう、ジャン=ピエール・レオがそのままそこにいるっていうような。これから映画をつくっていくかもしれない子どもたちに、「とにかく楽しめばいい」みたいなことを教えているっていうのが、なんかすごいね。
有坂:泣けるよ。めっちゃ泣けるんだよ。
渡辺:ちょっとグッとくるっていうのがあるので、ジャン=ピエール・レオって、本当にヌーヴェルヴァーグのところからすべて背負ってきている。本人に背負っている悲壮感とかまったくないんですけど、本当にフランス人に笑われるくらいの面白いおじさんだと思うんですけど、その飄々としながらも、いろんな監督に愛されて各国の巨匠の作品に出ているという、やっぱり映画史を体現しているようなところがあるので、そういう人の歴史を一本一本観てきた人ほど、なんか、その集大成的なジャン=ピエール・レオがここで味わえる。そして、それを監督しているのが、日本人っていうですね。なので、今日、フランスの映画から始まって、フィンランド行って、日本行ってみたいな。他にもイタリアの巨匠だったりとか、いろんなところの作品に出ていたりするんですけど。なので、そういう意味で、ジャン=ピエール・レオという一人の役者を追っていくだけで、ちょっとヨーロッパとかの映画史が少しわかってくる。
有坂:そうだね。
渡辺:そういうところが、一つ、この一人の俳優のすごさだなというのがあったので、なんでちょっとヨーロッパの男優というところで、やっぱりジャン=ピエール・レオいいなというので、改めて取られないでよかったなと思いました(笑)。
有坂:本当だよ。大変だよね、それ取られていたら。
渡辺:この『ライオンは今夜死ぬ』は、本当にメジャー映画ではないですし、あんまり知られてないと思うんですけど、これもアマプラとか楽天とかその辺で観られるので、機会があればぜひこれも観てもらいたいなと思います。
有坂:ジャン=ピエール・レオさ、自分が出るだけじゃなくて、自分も映画をつくる側になってみたいって思っていた人で、ゴダールの『男性・女性』に、彼は助監督で参加しているんだよね。
渡辺:そうだっけ?
有坂:で、その助監督の​​ジャン=ピエール・レオ、『男性・女性』の舞台裏をまとめた本があって、『気狂いゴダール』という本があって、それ、古本屋とかじゃなきゃないんですけど、もしジャン=ピエール・レオ、いいなって思った人は、その本を見つけて、それもぜひ読んでほしくて、もう彼の人柄がね、一番わかる。普段、どういう人かがわかりづらい人でしょ。だけど、もうゴダールの助監督付くって、そんな怖いポジションをよく自ら進んでやるなっていう。実際、ビクビクビクビクしながら現場に関わってみたいな。もしかしたら、それが彼のナチュラルな姿かもしれないんですけど、わりと貴重な文献として、彼の素顔が垣間見える本なので、それもぜひ合わせて読んでほしいなと思います。
渡辺:売ってないんだ。
有坂:もう、かなり昔に出た本。まあまあな値段すると思うんですけど、それでも読みごたえがあると思う。ちなみに、ジャン=ピエール・レオはまだ生きていて81歳。テレンス・スタンプも、まだ生きていて85歳。4つ、テレンス・スタンプのほうが上だったんだね。それも意外(笑)。

 

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有坂:ということで、まだ未来のある2人なので、新作がまた観られるかもしれませんので、これを機に、ぜひ彼らの映画も観てみてください。

有坂:じゃあ、最後にお知らせをどうぞ。
渡辺:僕は、フィルマークスでリバイバル上映企画をやっているんですけど、来週末7月4日からスタジオジブリの海がきこえるという作品を、全国初のリバイバル上映でやります。で、ジブリ作品で動画配信とか一切なく、TSUTAYAも今もうないので、レンタルはあったんですけど、なかなかちょっと鑑賞機会がないやつなんですけど、スクリーンで観られるっていう機会もほぼないので、ぜひこの機会に観ていただけたらなと思います。
有坂:いい映画だよね。
渡辺:去年、「Bunkamura」でリバイバルやっていて、思わず良すぎて3回も観に行ったんですけど、なんか東京と高知が舞台で、土佐弁がね、すごい心地いいんですよね。今ちょうど朝ドラで、高知のやつやっているんで、あれが映画でも観られます。ぜひ!
有坂:あと、あれに出ているじゃないですか。あなた。
渡辺:あのはい、CINRAっていうウェブメディアに取材をされて、で、リバイバルと、この『海がきこえる』のね、ちょっと話させていただきました。
有坂:語ってますよ。
渡辺:語ってしまいました(笑)。
有坂:でも面白かった。ああやってなんか改めて順也がしゃべっていることを、記事として読むっていうのは面白いなぁと思いながら、読ませてもらいました。
渡辺:あんなのは、初めてなんでね。
有坂:しかも、あのページ見て、一個めちゃくちゃ気になったことがあるんだけど、言っていい? ボーダー着てたでしょ(笑)。
渡辺:着てるんだよ、俺! 本当にお前がいないところで着てるんだよ(笑)。
有坂:そうだね(笑)。僕がもうボーダーばっかり着ているから、「お前のせいで着れない」って言われてたけど、着てんじゃん!
渡辺:着てるよ。全然着てますよ。
有坂:まず、それが最初に気になったポイントでした。でも面白いので、記事としてすごく面白いし、なんか順也の考えがね。ちゃんと言葉になっているんで、ぜひ読んでみてください。

有坂:じゃあ、僕はもう現在開催中の「ピクニックシネマ」。恵比寿ガーデンプレイスのピクニックシネマは残りあと6日間です。金・土・日。今週と来週で終わりです。で、アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリンっていう音楽ドキュメンタリー、オードリー・ヘプバーンのパリの恋人、『ロボット・ドリームズ』アニメーション。で、来週がI Like Movies アイ・ライク・ムービーズ、岩井俊治の四月物語、で、最後グランドフィナーレはリトル・ダンサー デジタルリマスター版。予約なし、無料で観られるイベントで、これはもう場所取りしている時間で、芝生にシートを敷いて、おいしいものを食べたり飲んだりして、気持ちよく屋外で時間を過ごしているとだんだん日が暮れてきて、夜になってみんなの拍手とともに映画が始まると、本当に最高の映画体験だね。毎年やってて思うよね。素直にそう思えるいいイベントだと思うので。
渡辺:もう後半も後半になってきたね。
有坂:そうだよね。こんなに、いい映画やるんだね。誰が選んだんだろうな。
渡辺:(笑)
有坂:でも、本当にそう思えるぐらい、いい映画ばっかり揃えたので、ぜひ好きな映画を観に来るもよし、一番嬉しいのは普段自分じゃ選ばないようなものにチャレンジしてほしい。それが面白ければ、映画の好みも広がるし、自分自身の世界を広げる一つのきっかけになるので、無料なので、ぜひチャレンジしてもらえればと思います。

 

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有坂:ということで7月のニューシネマワンダーランド、6月? 6月のニューシネマワンダーランドはこれをもって終了です。遅い時間まで皆さん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
有坂:恵比寿で会いましょう!!

 

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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