あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「もっと犬が好きになってしまう映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は久しぶりに有坂さんが勝利し、先攻を選択。どうやら今回は、同じ「これを1番に紹介したい!」という作品がありそうです。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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渡辺セレクト1.『パターソン』
監督/ジム・ジャームッシュ,2016年,アメリカ,118分

有坂:だよねー。プランが狂った。
渡辺:これはもう、最初に取らないと! これはジム・ジャームッシュの監督作品です。物語自体は、パターソンという男がバス運転手なんですけど、彼の淡々とした日常を、ひたすら描いていくという作品です。これがすごくいい映画で。日々のルーティンを描いていて、毎日同じような日常を生きているんだけど、そういう中にもちょっとした変化があったりとか、普通ってことがどれだけ素晴らしいかみたいなことを描いた、非常に感動できる作品なんです。
有坂:ね。
渡辺:このパターソンの中で、本当にいいアクセントを出してくれるのが、ワンちゃん。「マーヴィン」という名前なんですけど、やっぱり名シーンといえば郵便ポストのね。毎回、郵便ポストがちょっと倒れてるのを、パターソンがなんでいつも倒れちゃうんだろうって直しているんですけど、直した直後に、実はマーヴィンがやってきて、カリカリカリカリって可愛く郵便ポストを、また倒すみたいな。そのエンドレスなやりとりっていうのが、めちゃくちゃほっこりさせてくれるシーンだったりして。本当に、すごい素敵な助演をしてくれている、ワンちゃんになります。で、カンヌ国際映画祭の最高賞って「パルム・ドール賞」っていうんですけど、なんとですね、ワンちゃんに捧げられる賞っていうのがあるんですね。それが、「パルム・ドッグ賞」っていうですね、パルム・ドールをちょっともじった、粋なはからいの賞があるんですけど、それを受賞しているワンちゃんと作品になります。なので、ちょっと脇役の中でキラリと光って、いい役っていう中では代表作かなというところで、これはやっぱり先行じゃないと取られちゃうやつなので出しました。ということで一発目、『パターソン』です。
有坂:ちなみに、パルム・ドッグ賞は、普通の映画祭だとトロフィーとかそういうものがもらえますけど、パルム・ドッグ賞を獲った犬には、革でできた首輪がプレゼントされるそうです。結構、パルム・ドッグ賞の受賞作を追っていくだけでもね、「この映画、確かにこの犬」っていうのも見えてくるので、ぜひ、wikipediaにも出ているので、検索してみてください。
渡辺:よかった!
有坂:そうそう、そうなるんですよ……。ということで、じゃあ僕の1本目いきたいと思います。僕は、日本映画いきます。



有坂セレクト1.『いぬのえいが』
監督/犬童一心・黒田昌郎・祢津哲久・黒田秀樹・佐藤信介・永井 聡・真田 敦,2004年,日本,96分

渡辺:好きだねぇ。
有坂:ちょっと、これは紹介中、僕、泣くかもしれないので、そのときはご容赦ください。この『いぬのえいが』というのはオムニバス映画です。犬と人間の交流をテーマにしたオムニバスで、実写映画もあれば、アニメーションもあったり、あとはヒューマン系もあれば、コメディもあったり、本当に雑多ないろんな作品で構成されたオムニバス作品になっています。7人の監督が、犬をテーマに映画をつくっているんですけど、なかには、『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督のエピソードもあったりするんですけど、僕が強烈におすすめするのは、この映画の最後、フィナーレを飾る映画、『ねえ、マリモ』です。今、『ねえ、マリモ』って言っただけでグッときた。
渡辺:笑。
有坂:これ本当に、さっき雑多な映画って言ったんですけど、本当に正直、出来はけっこう「あれ?」っていうものも中にはあって、ちょっとこれ失敗しちゃったかもって思う人もいるかもしれないんですけど、もうすべてラストの作品が持っていくぐらい、強烈なインパクトを残す作品が『ねえ、マリモ』です。マリモっていうのは、犬の名前です。このマリモを飼っている家族とマリモの話なんですけど、つくりがすごい上手くて、これ10分の短編なんですけど、前半は家族が犬を迎えて、犬と幸せな時間を共有していくっていうのを、ちょっとダイジェスト的に見せていくんですね。赤ちゃんだったマリモがだんだん大きくなって、いろんなトラブルもありながら成長して、さらにその先……みたいな形で5分間描かれるんですね。で、ちょっと悲しい感じで終わってしまったと思ったら、後半の5分で今度は同じエピソードを、犬目線で語るんですよ。人間目線で犬に対して、すごく愛情を持ったエピソードをいっぱい聞いた後「犬はこう感じてました」ってことを、犬目線で語ってくれるんですけど、もうね、そのね、愛情あふれるエピソードと、あと、そこにかぶさる音楽がね、とにかく素晴らしいです。なので『ねぇ、マリモ』を観るときは、ちょっとね、ボリュームを上げ気味で観ていただいた方が、感動がより大きくなるかなと思うので、ぜひ、パンカチ、ティッシュ、いや、タオル? タオルを用意するぐらいでいいかなと思います。この映画は真田敦という人が監督をしてるんですけど、真田さんはこの4年後ぐらいに、『ホノカアボーイ』をつくったんですね。今のところ映画は、このマリモと『ホノカアボーイ』しかつくっていません。
渡辺:そっか、2本だけなんだ。
有坂:そうそう、なので、『ホノカアボーイ』が好きだよっていう人にも、ぜひ観ていただきたい映画だと思いますし、あと、これは後に絵本にもなっているんだよね。絵本は、Suicaのペンギンとか、ダイハツのカクカクシカジカのキャラクターでおなじみの、坂崎千春さんが絵を描いているので、ぜひ、絵本も合わせて観ていただくのも面白いかなと思います。もう本当に、涙腺が決壊すること間違いなしな、『いぬのえいが』から『ねぇ、マリモ』を1本目にお届けしました。
渡辺:なるほど、好きですね。
有坂:大好き。
渡辺:宮崎あおいが主演して、配信とかあったかな。だから観られる方は、ぜひ涙に注意して、ぜひ観てみてください。犬を飼っている人とかはね、結構グッときすぎてしまうかもしれない。
有坂:そう、重なるよね。ものすごい日常を描いているので、やっぱり、自分の過去と現在と重なるので、そういう意味でも、共感度がすごく高いタイプの映画かなと思います。
渡辺:はい。では、続けて2本目いきたいと思います。僕の2本目は、2002年、フィンランド映画です。



渡辺セレクト2.『過去のない男』
監督/アキ・カウリスマキ,2002年,フィンランド・ドイツ・フランス,96分

有坂:うんうん、はい。​​
渡辺:これは、アキ・カウリスマキ監督の作品です。実は、これもパルム・ドッグ賞を獲っている作品となります。『過去のない男』、どういう話かというと、記憶をなくした男がバラック小屋みたいなところにたどり着いて、まわりの人たちの優しさで、自分を見つめ直していくみたいな作品となっています。カウリスマキらしくて、底辺にいるような人たちを優しい目でスポットライトを当てて、物語にしていくという作品ではあるんですけど、ここでもですね、やっぱりいい名脇役となっているのがワンちゃんで、最初記憶をなくした男が、身一つで転がり込んでくるんですけど、そこの宿を貸してあげようという人がですね、ちょっと最初に脅すんですね。「お前、家賃払わなかったら猛犬に襲わせるからな」みたいな。猛犬という紹介のされ方で登場したのが、めちゃくちゃ可愛いワンちゃんっていうですね、そのギャップもすごいギャグとして面白いんですけど、その犬の名前が「ハンニバル」っていうね、このハンニバルっていうのが、『羊たちの沈黙』のレクター博士のあだ名だったりしますので、なんか、ちょっと人殺し的なイメージがあって、でも猛犬として紹介されるのに、めちゃくちゃ可愛い、大人しい犬っていう(笑)。そのギャップが、まずすごい面白いんですけど、その相棒的なワンちゃんとして、物語にアクセントを加えているという犬になります。​​
アキ・カウリスマキは、けっこう犬を使うんだよね。毎回、愛犬を登場させてくるんですけど、その代表的なワンちゃんが、このハンニバルになります。映画もすごくいいんですけど、見事にパルム・ドッグ賞も受賞されていると。ワンちゃん好きには必見の作品となってますので、ぜひ観ていただきたいなと思います。 有坂:たぶん、愛犬家であるアキ・カウリスマキからしたら、パルム・ドールを受賞するより嬉しかったかもね。パルム・ドッグ賞の方がね。​​
渡辺:笑。​​
有坂:もう3代目とかだよね。歴代の愛犬を映画に出演させているので。そんな目線でアキ・カウリスマキ映画を観るのも、面白いかなと思います。​​
有坂:じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。2008年のアメリカ映画です。



有坂セレクト2.『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』
監督/デヴィッド・フランケル,2008年,アメリカ,118分

​​渡辺:うーん、はいはい。
有坂:これはですね、オーウェン・ウィルソンとジェニファー・アニストンが夫婦役を演じた、家族を描いたヒューマンドラマになります。結婚したての2人が、子育ての予行演習みたいなつもりで犬を飼おうと。それは、旦那さん、オーウェン・ウィルソンの友人から、友人というか悪友から、子どもなんて最悪だから犬を飼えと。犬を飼ったら、奥さんはもう犬が可愛くて、子どもをほしがらないからっていう、そんなひどいエピソードから始まるんですよ。ラブラドール・レトリーバーの子犬を飼い始めるところから物語が始まります。「マーリー」と名付けたその犬が、もう想像を超えるやんちゃさ。散々、手を焼くどころじゃないぐらいエピソード満載なラブラドールの子犬と、一緒に家族として過ごしていくっていう、家族の一代記みたいな内容になっています。やっぱり、「お馬鹿な犬が教えてくれたこと」っていうタイトルにあるように、もうトラブルが起こっている最中は、人間の方もいっぱいいっぱいだし、怒っちゃったり、「なんでそんなことするんだよ!」って思いながらも、思い出となってしまったら、すべてが愛おしいという。そういう家族の時間軸が体験できるところもいいし、この犬はね、かわいいんだよね。
渡辺:うんうん。
有坂:かわいいし、ちょっとしたいたずらとかも、ちゃんと映画として笑える。特に前半。前半は笑える。後半はちょっとしんみりするような、グッとくるようなエピソードということで。映画全体としても、本当に完成度の高い一本かなと思います。なので、マーリー中心の話ではあるんですけど、どちらかというと家族の物語のほうに比重を置いた作品なので、わりと広い層に届くような内容となっています。これは、監督がデヴィッド・フランケルという人で、名前だけだとね、ピンとこない人もいると思いますが、みんな大好きなあの映画を撮った人です。『プラダを着た悪魔』。この監督の作品なので、やっぱり、その人間の描き方とかね、ちょっとグッと期待できる人も増えたかなと思いますが、ぜひ多くの人に観ていただきたい犬映画となってますので、観てみてください。ちなみに、マーリーは、生まれたてからずっと老犬になるまで描いているので、各年代のマーリーを、それぞれ別の犬が演じているんですけど、トータルで22匹の犬がマーリーを演じています。
渡辺:そうなんですね。
有坂:すごいよね。でも、全然違和感なくね、同じ犬の成長を見ているように。
渡辺:小っちゃい頃から、最後けっこう大きくなるもんね。
有坂:そうそう。これね、昔、恵比寿ガーデンプレイスの「ピクニックシネマ」っていう野外上映でやったんですけど、マーリーが「ワン!」って鳴いたら、散歩に来てる犬も驚いて「ワン!」って鳴くっていう、リアル4D上映。そんな楽しい思い出もある一本です。ぜひ観てみてください。
渡辺:まあ、コメディとして面白いし、観やすいのでね。なるほど、どうしよう。ちょっと悩んじゃったな。
有坂:プラン狂ったよ。「俺の『パターソン』返せよ!」って思いですよ。
渡辺:笑。じゃあ、どうしようかな。ちょっと切り口を変えて、僕の3本目の作品は、2014年のアメリカ映画です。



渡辺セレクト3.『ジョン・ウィック』
監督/チャド・スタエルスキ,2014年,アメリカ,101分

有坂:好きだね(笑)。さっきも話してた。
渡辺:『ジョン・ウィック』ってどういう作品かというと、殺し屋の話です。伝説の殺し屋・ジョン・ウィックなんですね。「ジョン・ウィックって誰なんだ?」って説明が一切されない状況で、話が進んでいくんですけど、敵役となる相手が、「えっ、ジョン・ウィックなの?」みたいな。「あいつ、ジョン・ウィックだったの?」とか、急にビビり出すっていう。「お前、あの伝説のジョン・ウィックですか?」みたいな。ジョン・ウィックの説明がされないんですけど、敵のリアクションでどれだけやばい奴かっていうのが知らされていくっていう、そういう面白さがある作品です。キアヌ・リーヴスなんですけど、キアヌ・リーヴスがアクション俳優として、おじさんになってから大ブレイクした作品が、この『ジョン・ウィック』で、人気を博してシリーズ1・2・3とあって、なんと今年4作目が公開されるというぐらい、人気のシリーズなんですけど。そのジョン・ウィック、伝説の殺し屋で引退したはずだったジョン・ウィックが、なぜ復讐に立ち上がったのかというと、愛犬がきっかけだったという内容です。ジョン・ウィックは、亡くなった奥さんが可愛がっていた犬と、殺し屋を引退してひっそりと暮らしていたんですけど、そこにジョン・ウィックだとも知らないチンピラが絡んできて、なんとそのワンちゃんを殺してしまう。だから、ちょっとワンちゃん好きとしては、かわいそうな一面もあるんですけど、それによって伝説の殺し屋が、怒りに燃えて立ち上がるという話になっています。もう敵はビビりまくりながら、容赦なくジョン・ウィックが立ち上がって、やっつけていくという話になっています。なので、この面白いシリーズのきっかけをつくったのが、実はそのかわいいワンちゃんだったと。ストーリー上はちょっと悲しい結末にはなってしまっているんですけど、当然、実物のワンちゃんは元気に飼い主のもとで暮らしていまして、最初は「アンディ」という名前のワンちゃんだったらしいんですけど、この映画を終わって、「ウィック」という名前に改名されたそうです。
有坂:困るね、ワンちゃんもね(笑)。
渡辺:それで、ジョン・ウィックの続編の撮影所にも遊びに来たらしくて、飼い主と。またキアヌ・リーヴスと再会を果たす、と。
有坂:そんな感動的なバックストーリーが!
渡辺:ちょっとほっこりした、感動したエピソードもあるので、劇中はちょっと可哀想なところもあるんですけど、安心して、映画としてはめちゃくちゃ面白いので、そういったところも注目して観てもらえればなと思います。
有坂:僕は、これ観られてなくて、劇場でやっぱり観たいなと思って。タイミングを逃し続けて、もう4作目? そうか。名画座で2本立てとかでやってくれるといいんだよね。でも、そういう動機だったんだね。全然知らなかった。でも、そりゃね。復讐に燃えるよね。
渡辺:そうなんです。
有坂:それは、順也しか選べない映画でした。じゃあ、僕の3本目は『パターソン』を取られてしまったので、その代わりに選んだ映画です。1970年のイラン映画。



有坂セレクト3.『パンと裏通り』
監督/アッバス・キアロスタミ,1970年,イラン,12分

渡辺:ああ!
有坂:「あった、あった!」でしょ。
渡辺:なるほどね。
有坂:これは、アッバス・キアロスタミという世界的な名匠と呼ばれる、イランの監督の初期につくった短編映画です。12分の短編なんですけど、けっこう話的にはシンプルで、パンを買いに行った男の子が、「さぁ、この細い路地を通って家に帰ろうか」と思ったら、その細い路地に犬がいるんですよ。
渡辺:野良犬がね。
有坂:そう、野良犬がいる。で、その男の子は結構ビビリなタイプの、パッケージの下の子ですね。2つ、今映ってますけど、ビビリでもう犬が怖くて、そこの道を通れない。なんとかして行こうとするんだけど、行けないみたいなことが、どんどん続いていって。これちょっとすぐ観られる映画じゃないと思うので、ちょっと内容を言ってしまうと、そこで彼がひらめいたのが、パンをあげればいいんだということで、パンをちょっと遠くに投げて、その隙にこの道を通って帰ろうと思って、実際に成功するんですよ。成功するんですけど、そしたらその犬が必要以上に懐いて、彼の家までクンクンっていいながらついてくるっていう、すごいかわいいエピソードでまとめられた映画です。イランの田舎が舞台なんですね。なんですけど、僕はすごいこの映画が面白いなと思ったのが、そこにかぶさる音楽が、ビートルズの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」(Ob-La-Di, Ob-La-Da)のカバーだと思うんだけど、インストバージョンかな。すごい、なんか陽気な曲が、そんなちょっとほっこりするような物語にかぶさってくる。だから曲、どういう曲を当てるかで映画の印象って全然変わってくるので、本当にここに「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」を当てられるキアロスタミって、相当、当時世界に衝撃を与えただろうなと。これ後に、キアロスタミが有名な監督になって、黒澤明と対談することがあるんですけど、そのとき黒澤明は『パンと裏通り』を観て、なんて言ったんだっけな。「力のある人は初期の短編から、もう名匠である」みたいな言葉を残すぐらい、黒澤明も認める短編映画が、この『パンと裏通り』です。ちょっとDVDとかも廃盤だと思うので、なかなか観る機会がないと思うんですけど、もしかしたらYouTubeとかに上がってるかも。ぜひ探して、セリフはほぼないので。YouTubeで探して観てもらえたらなと思います。
渡辺:なるほどね。確かに!
有坂:そう、これは思い出しました。
渡辺:野良犬って今いないもんね。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:だから、あんまり実感がないかもしれないけど、昔はいたもんね。ガルルルとか言われたら超怖いっていうね。それがもう一本道にいたら、超絶ピンチっていう感じ。
有坂:それを映画のネタにしちゃうところがいいよね。共感できるよね。
渡辺:なるほどね。じゃあ、4本目にいきたいと思います。僕の4本目は、2021年のわりと新しいアメリカ映画です。



渡辺セレクト4.『クルエラ』
監督/クレイグ・ギレスピー,2021年,アメリカ,134分

有坂:これね!
渡辺:『クルエラ』ってどういう作品かというと、『101匹わんちゃん』、ディズニーなんですけど、その『101匹わんちゃん』のヴィランですね。悪役の女性、それがクルエラなんですけど、そのクルエラが、普通の貧しい少女だったエステラが、どういうことを経て、悪女のクルエラになってしまったのか、というのを描いたのが、この『クルエラ』という作品です。映画としてもめちゃくちゃ面白いんですけど、1970年代のイギリスを舞台にしているので、パンクロックが出てきた時代で、クルエラがファッションデザイナーを目指している設定なんですね。なので、ファッションだったりとか、パンクロックみたいなところとか、そういうパンクなファッション、メッセージみたいな、あと音楽みたいなところで、クルエラが、虐げられていた少女が復讐を果たしていくという物語なんですけど。それをファッションとか音楽で表現していくというところが、まず映画としてすごい面白いです。『101匹わんちゃん』というと、白黒のダルメシアンという犬がメインなんですけど、このクルエラになる前のエステラ時代に、貧しかった少女が捨て犬のバディを相棒にしていくんですけど、これは雑種の犬なんですけど、なので、ダルメシアン以前は、普通の雑種を、捨てられた犬を相棒として、エステラという少女は育っていたというんですね。それで、もう捨て子みたいな感じで、空き家とかに住んでるんですけど、そういう設定で、でも相棒は犬みたいな。そういう感じの少女時代のエステラが描かれています。ディズニーらしいなと思った裏エピソードが、実はこのバディ役の犬っていうのは保護犬らしいんですね。なので、この『クルエラ』にワンちゃんがいっぱい出てくるんですけど、そのほとんどが保護犬らしいです。そういうエピソードもすごいディズニーっぽいなと思って、なんかこういう隙のない感じっていうのが、さすがディズニーだなと思わせる内容だなと思いました。これ、映画としてはね、すごい面白いので、こんな展開になるんだっていうのは、わりと予想外だったんですけど、なんかこう、ヴィランを描いてはいるんですけど応援したくなる。そういう、実はちょっと不幸だった過去がありながら、復讐のためにクルエラになっていったという姿を、ぜひ。ディズニーなんでディズニープラスでしか観れないないのかな。
有坂:いや、Rakuten TVも。
渡辺:レンタルだと観られるんだ。
有坂:そうだね。
渡辺:なので、ちょっとそういうところでも、未見の方は、これ本当にいい映画なので、ぜひ観ていただければと思います。
有坂:これ、想像をはるかに超える面白さだね。なんか、そのやっぱり世界観のつくり方。つくり込みがやっぱり素晴らしいなと思っていて。僕は、この映画で好きなのは、とにかく衣装。
渡辺:そうだよね。
有坂:これはジェニー・ビーヴァンっていう女性衣装デザイナーが手掛けていて、オスカーを獲ったのかな。
渡辺:そうだよね、確か。
有坂:オスカー、ノミネートか。
渡辺:ノミネートだっけ? 獲ってないんだっけ。
有坂:ジェニー・ビーヴァンって『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でオスカーを獲っているんだよね。そのときに、その怒りのデスロードの象徴となるドクロ、スカルのダイヤかなんかであしらったライダースを着て、オスカーの授賞式に。
渡辺:いたね!
有坂:いたでしょ! それがめちゃくちゃかっこいい! あのマダムみたいな感じで話題になって、そのジェニー・ビーヴァンが、今度はディズニー映画やるらしいみたいな。なので、ぜひそこの衣装にも注目して、本人自体もかっこいいので、なんかシュッと美しいっていうタイプではなくて、本当にこの人、骨太な人なんだろうなっていう、反骨精神の塊みたいな。そんな衣装を着ていっちゃうので、賛否両論あったらしいんだよね。
渡辺:そうなんだね。でも、かっこよかったよね。
有坂:だけど、これが自分にとってのドレスだ、みたいなことを言って堂々と着てきたっていう。
渡辺:なんかね、生き方がこうファッションに出てますみたいなタイプの人だよね。
有坂:で、その人がこのクルエラの物語の衣装を手掛けたってことで、よりクルエラというキャラクターの説得力も増すと思うので、そんなことも考えながら観てもらえると面白いかなと思います。なんか、自分が紹介したぐらい、ちょっと熱くなっちゃった。
渡辺:笑。
有坂:もう好きな映画を挙げるから困りますよ。はい、じゃあ、そんな空気を一気に変える僕の4本目は、1958年のフランス映画です。



有坂セレクト4.『ぼくの伯父さん』
監督/ジャック・タチ,1958年,フランス・イタリア,120分

渡辺:んー!
有坂:これは言わずと知られた、フランスの喜劇俳優と言っていいのかな、ジャック・タチの代表作になります。この映画自体は、本当にストーリーっていうのは、あってないようなもので、超モダンな住宅に住む夫妻。そこに一緒に住んでる息子・ジェラールが、一応その物語の軸としていて、ジャック・タチ演じるユロ伯父さんというのは、このジェラールの伯父にあたります。で、そのジェラールという息子は、超モダンな本当にもう埃一つないような、ツルっとした住宅に住んでいることに、どうやら息苦しさを感じていると。で、ふと出会った伯父は、もっと庶民的なところに住んでいて、なんかひょうひょうと自分らしく生きている。その伯父に、このジェラールというのはなついていくっていう、そんな2人の物語になっています。もちろん、そのあってないような物語の向こう側には、いろんな文明批判とか、そういうメッセージというのは込められてるんですけど、そんなことを考えずに、本当にくすっと笑えるようなものでできているフレンチコメディになっています。これはもう、ジャック・タチの代表作と言われるもので、ここにも書いてありますけど、アカデミー賞の外国語映画賞と、あとカンヌ国際映画祭でも審査員賞を獲っているので、もうその年を代表する一本と言われています。で、このポスターにも犬がいますけど。これはジェラールの家で飼っている、飼い犬なんですけど、この飼い犬だけじゃなくて、これも野良犬がいっぱい出てくるんだよね。映画のオープニングに、特に印象的に出てきます。まだ、ジェラールもユロ伯父さんも出てくる前のオープニング。その町、彼らが住んでいる町にいる野良犬たちをカメラが追って、ゴミ箱を漁って餌を食べたり、「じゃあ次行くぞ」ってどっかへみんなで走っていって、そしたらその中の一匹が洋服を着ていた一匹が、野良ではなくて飼い犬で、その飼い犬がジェラールの住む超モダンな家の中に入っていってストーリーが始まる。
渡辺:そうだったっけ。
有坂:そう、その野良犬が、要所要所に、けっこうコメディリリーフ的な形で出てくるんですよ。魚を食べちゃったりとか、ちょっとあまり言えないんですけど、とにかく犬の使い方が、すごくジャック・タチらしさ。ユーモアもあるし、犬への愛情も感じるような犬の登場のさせ方をしているので、ぜひ犬好きの方にもそういった意味で観ていただきたいなと思う映画です。ジャック・タチ自身は、本当に自分の世界観をつくるのに、もう本当に完璧主義だって彼は言われているんですけど、ミリ単位で物を動かして、すごく綺麗な画面をつくって、さらに、そこに当てる音楽とか効果音。そんなところにまでこだわって世界をつくる人なんですね。そういう同じようなスタンスで映画をつくっている人、今いますよね。ウェス・アンダーソン。ウェス・アンダーソンも、実はジャック・タチのことを尊敬していたりするので、ウェス好きの人にも観てもらいたいなと思いますし、いろいろオマージュを捧げるようなシーンとかも見つかるかもしれないので、ぜひじっくり、1回とは言わず何度でも観てもらいたいなと思う映画です。
渡辺:なるほど。オープニング、そうだったんだね。
有坂:もう大好き。犬ばっかりが出てくるんですよ。どういう物語が展開されるか、まったく想像ができない。でも、どうやって演出したんだろうってぐらい、これは観てもらえれば、きっとみなさんも思うはずなので、ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほどね。じゃあ、いよいよ5本目ですね。僕の5本目は、1985年のアメリカ映画です。



渡辺セレクト5.『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
監督/ロバート・ゼメキス,1985年,アメリカ,116分

有坂:あー。
渡辺:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のワンちゃんといえばドクの愛犬の、その名も「アインシュタイン」です。ドクは科学者なので、アインシュタインを敬愛しているんですけど、そのまま愛犬にもアインシュタインっていう名前をつけました。このアインシュタインが活躍する場面がどこかというと、駐車場でタイムスリップの実験をするときに、まず実験台としてデロリアンに乗ったのが、この愛犬・アインシュタインです。なので、ドクとかマーティが乗る前に、実はアインシュタインが実験台として乗っているので、「世界初のタイムトラベラー」って言われているらしいです。それぐらい、実はタイムトラベラーとしてアインシュタインが先駆者だったというのが、エピソードとして残っています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、かなり有名な作品なので、ご存知だと思うんですが、やっぱりここでも、実は脇役として活躍していたのがワンちゃんだったというのがあるので、これはね、金曜ロードショーとかでも何度もやってるので、2回、3回観ているような作品だと思うんですけど、なので「確かにワンちゃんいたね」というのがあったと思うんですけど、あのワンちゃん、名前はアインシュタインです。ドクが命名したっぽい感じの名前だなと思います。世界初の実はタイムトラベラーだったんだというエピソードも、また一緒に覚えてもらえたらと思って5本目にあげてみました。
有坂:これ、なんか今聞いていて思ったんだけど、昔さ、宇宙船のスプートニク2号を宇宙に打ち上げるときに、なんか実験的な意味合いで、犬を乗せてさ、ライカ犬を乗せてやったじゃん。それが『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』ってスウェーデンの映画の中で、セリフとしてすごい印象的に出てくるけど、なんかそれへのオマージュみたいな感じなのかな? 犬を乗せてって。
渡辺:なるほど!
有坂:なんか、ちょっとそんな、今ここにコメントしてくれていますけど、「世界初のタイムスリップ犬、ややかわいそう」って。あのライカ犬もね。
渡辺:そうだね、実験台だからね。人間が行く前のね。
有坂:もしかしたら、そこを考えての演出かもしれないね。らしいね、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。なるほど、じゃあ僕の5本目は、カウリスマキかぶりで、1996年の映画です。



有坂セレクト5.『浮き雲』
監督/アキ・カウリスマキ,1996年,フィンランド,96分

渡辺:うんうん。
有坂:もうおおかた、さっき順也が『過去のない男』を紹介したときに言いましたけど、このアキ・カウリスマキという監督は、まあとにかく愛犬家で、映画の中に、さらっと印象的に犬を使うことが上手な人なんですね。で、この『浮き雲』っていう映画は、そもそも物語が夫婦の話です。電車の運転手をやってる旦那さんと、レストランで働いている奥さんで、本当にそんな別に派手な生活とかではなくて、つつましやかな生活を送って、日々を楽しく暮らしていたところ、2人が同じタイミングで失業してしまうんですよ。そこから、自分たちの人生を再生させていくっていう物語になっています。今、旦那さんの右腕には可愛いワンちゃんが映っていますけど、このワンちゃんとこの夫婦の話になっています。で、本当に失業して、旦那さんは特になんかプライドを持って仕事をしてたのに首を切られてしまって、なかなか現実が受け入れられなくて、ちょっと自暴自棄になってしまったりするんですけど、そんなときでも犬はかたわらに寄り添ってくれていたり、犬に当たるとか、「もうドッグフードをあげるのも大変だから、犬を捨てる」みたいな、そんな方向にやっぱり話はいかないんですよね。当然、家族の一員として、ちゃんと物語が進んでいく。そこにやっぱりカウリスマキの愛犬家としての面が、すごく滲み出ていていいなって思います。あと一つ、面白いのが、このアキ・カウリスマキっていう人は、すごく画面に特徴がある人なんですね。例えば色遣い、壁とテーブルとかが、色遣いがすごく独特な、色彩設計が独特なんですね。で、すごく陰影のコントラストの強い照明を当てて、出てくる人たちは基本みんな無表情なので、スチール写真1枚観ただけで「あっ、カウリスマキの映画だね」ってわかるぐらい個性的な映画をつくります。画をつくります。それで、すごく静かな映像なんですよ。あまり動きがない。その中で犬がいるとどうなるかというと、犬の動きってやっぱり人間はコントロールできないので、さささっと歩いたり、あと嬉しいときいはすごい尻尾を振ったりするんですけど、もう画面全体が静かなので、尻尾を振っているとき、本当に嬉しそうだなって伝わってくる。なんか、そういうところまで計算して、犬をキャスティングしていたりもするのかなと思ってしまいます。
渡辺:うんうん。
有坂:この『浮き雲』という映画は、あの実は『かもめ食堂』にもね、影響を与えているような映画なので、『かもめ食堂』好きの人にも観てもらいたいなと思う映画ですし、あと、これもちょっと裏エピソード一つ、最後にお話しすると、これ主演は女優さんがカティ・オウティネンっていうカウリスマキ組の女優さん、旦那さん役はカリ・ヴァーナネンっていう人なんですけど、本当はこの旦那さん役はマッティ・ペロンパーっていう人が演じる予定でした。マッティ・ペロンパーは、カティと同じで、もうカウリスマキ組。監督もマッティ・ペロンパーも、まだ無名時代から一緒に映画をつくってきた、いわゆる盟友と呼ばれる人です。この『浮き雲』も当然マッティ・ペロンパーに演じてもらうということで、カウリスマキは脚本を書いていたんですけど、その途中でマッティ・ペロンパーが急死してしまうんですね。で、カウリスマキは、そのショックっていうだけではなくて、もう映画が1回つくれなくなっちゃったんですよ。1年ぐらいって言ってたかな、つくれなくなった後、もう1回、でも書き始めていた『浮き雲』を、マッティ・ペロンパーへの追悼としてつくろうということで、また映画をつくり始められたんですね。で、劇中、この夫婦の家に、よく見るとね、子どもの写真が飾ってあるんですよ。どうやら、この夫婦には過去に子どもがいたっていうのを匂わせる、言葉では全然説明がないんですけど、だから、そういう悲しみを背負った夫婦っていう多分設定なんですね。その子どもが、マッティ・ペロンパーが子どものころの実際の写真なんですよ。だから、そういう形でマッティ・ペロンパーへの追悼を、『浮き雲』の映画の中でカウリスマキはやっていると。これも泣けるエピソードだよね。
渡辺:うん。
有坂:でも、もうカウリスマキっていう人は、今までわりと、絵とか、映像とかはすごく映画的なんだけど、そこで描かれる人間のドラマは、やっぱりリアルでありたいということで、基本ハッピーエンドで終わる映画ってほとんどなかったんですよね。ハッピーエンドで終わると人間は考えなくなるから、やっぱり現実の辛さを考えてもらうために、バッドエンドで終わる映画が多いんですけど、このマッティ・ペロンパーへの追悼としてつくった映画は、どうしてもバッドエンドで終われなかったということで、カウリスマキ映画で初めてね、ハッピーエンドで終わる。ハッピーエンドっていっても、ほんとちょっとしたハッピーエンドなんですよ。すごくささやかなハッピーエンド。でも、そこにカウリスマキらしさが詰まっているなと思いますし、そこからカウリスマキは、逆にハッピーエンドの映画ばっかりつくるようになったんだよね。だから、自分の心に従って映画をつくっている人の、本当に転換期になった一本でもあるので、ぜひ、そんな目線でも観ていただきたいなと思いますし、最後の最後までワンちゃん大活躍というか、印象に残る演技を観せてくれるので、そんな目線でも楽しんでもらえたらと思います。
渡辺:カウリスマキはね、僕たち、キノ・イグルーの名付け親でもあるので、なのでキノ・イグルーっていうのは、実はフィンランド語になっています。そんなね思い出深い監督でもあり。
有坂:大好きだよね。
渡辺:2本出たね、だから。
有坂:順也が言ったからといって、外すわけにはいかない。ゴッドファーザーであるカウリスマキの映画は、ぜひ知っていただきたいなということで、僕も紹介しました。『過去のない男』、『浮き雲』になります。


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有坂:ちなみに、今日は他にどんな映画を考えていた?
渡辺:他はなんだろう。犬が思いっきり主人公の作品とかもいろいろあるんで。
有坂:あるよね。
渡辺:でも、それ以外でいうと『アーティスト』。モノクロの現代の映画なんですけど、サイレント映画風につくったやつも、けっこうワンちゃんが名脇役として出てきたり、あと『ウェンディー&ルーシー』とか。
有坂:そうだね。
渡辺:あと、『スナッチ』。
有坂:ああ、ポスターにもいるよね!
渡辺:ギャングの抗争、コメディなんですけど、ダイヤモンドを飲み込んじゃう犬がいて、それによってみんなが振り回される。そういう感じですかね。
有坂:王道でいうと、『僕のワンダフル・ライフ』とかね。
渡辺:そうだね。いや、出すかと思った。
有坂:出すかと思った。そこは、あえて外そうと思って、なるべく「犬_映画」で検索して、出てこないものを選びたいなとは思いつつ。ちなみに僕は、『マリー・アントワネット』。ソフィア・コッポラの。なんか中国の犬かなんかを飼っていて、アントワネットが。でも、フランスの犬を飼いなさいって言われるような、印象的なセリフがあったり。あと、これは王道ですけど『三匹荒野を行く』。ディズニーのつくった実写映画。犬2匹とシャム猫の3匹が旅をするっていうロードムービー。これは本当にもうね、犬が自分たちが住んでた場所まで、大自然の中、いろんなトラブルもありながら帰っていく、壮大なロードムービーなんですよ。でも、これは今観ると、やっぱり賛否両論。けっこう否定的な意見が多くて。というのも途中である動物と戦ったり、川に流されちゃったりするシーンがあって、それは虐待だろうっていう意見がすごくあるんですよね。だけど、いろいろ考え方はあると思うんですけど、もう作品は完成していて、その作品を完成させるにあたって、頑張ってくれたワンちゃん、ニャンちゃんがいて、そう思えば観ることで報われるなって思うので、個人的には観てほしいなって思いますし、映画としてはすごく面白い。本当によくできている映画だなと思うので、『三匹荒​​野を行く』も機会があったら、ぜひ観てみてください。あとは、言い残したことはないですか?
渡辺:犬映画ですか。まあ、でもそうね。本当にいっぱいあるよね。作品としては結構あるなと思いました。なんかちょっと名脇役的に出てくる感じで、今回は紹介できればなと思ったので。
有坂:そうだね。やっぱりちょい役でもさ、やっぱり犬の存在感って、すごい印象に残るよね。映画の中に出てくると。
渡辺:あと、どうやって演出しているんだろうってね。大変だろうなっていう。犬待ちとかすごいありそうだもんね。
有坂:現場は大変だろうね。今だとそれをCGとかでできちゃうけど、でも、CGで動物の感触を本気で伝えるのは難しいからとかね、いろいろ考えるきっかけに僕たちもなりました。で、今回、「もっと犬が好きになってしまう映画」というテーマで紹介したんですけど、今月から大きく1年間のテーマが変わりまして、この新シリーズは、「どっちかじゃなくてどっちも」っていうテーマです。ということで来月は、「もっと猫が好きになってしまう映画」。ということで、猫映画を紹介するコーナーとなっています。今から考えちゃうね。
渡辺:好きになるっていうね。
有坂:そうそう、どっちも好きになってほしいなということで、その振り幅のある2つを1カ月ごとに紹介していくというテーマになってますので、ぜひ、そんなところも楽しんでみてください。はい、最後にお知らせがあれば。
渡辺:そうですね。僕は、キノ・イグルーと別に、今、フィルマークスでリバイバル上映企画をやってるんですけど、ちょうど先週末の3月24日から、『パルプ・フィクション』という作品を、全国でリバイバル上映しているんで、劇場ではまだ観てなかったみたいな方は、ぜひこの機会に観てもらえればなと思います。あと、4月7日から『ヤクザと家族』という日本映画をやります。これは藤井道人監督という今売れっ子の監督がいるんですけど、その人が横浜流星主演で『ヴィレッジ』という作品と、綾野剛主演で『最後まで行く』っていう韓国映画のリメイクが、4月、5月と立て続けに新作が公開されるんですけど、それの公開記念みたいな形でやります。4月7日(金)からですね。あと、4月21日(金)から『ムーンライズ・キングダム』を公開10周年ということで、これも全部1週間限定なんですけど、劇場でリバイバル公開しますので、まだ観てない方とか、スクリーンでもう一回観たいみたいな方は、ぜひこの機会に観てもらえればと思います。
有坂:『パルプ・フィクション』はね、一度はスクリーンで観たい映画かなと思いますし、僕も去年か一昨年観て、やっぱりすごいね。これはもう時代を変える一本だなっていう。
渡辺:当時はあの時系列がさ、理解できなかったんだけど。今だったら当たり前なんだけどね。 有坂:だから、そこからやっぱり映画の作り方そのものに影響を与えていったんだなっていうのがわかるね。じゃあ、僕はキノ・イグルーのイベントなんですけど、4月は、まず8日(土)に神奈川県の葉山にあるお寺で野外上映会をやります。これは去年もやった、玉蔵院っていう葉山の御用邸の向かいあたりにあるお寺で、野外上映会をやります。これは「花まつりWEEKEND」っていうイベントの一企画なんですけど、ブッダの誕生日をお祝いするマーケットが土曜日、日曜日に開催されて、その土曜日の夜に野外上映会をやります。上映する映画は、チャプリン、ロイド、キートンの三大喜劇王。まだ映画に音がなかった時代のサイレント映画の三大喜劇王の映画を上映します。100年前の映画を、歴史あるお寺で上映するというですね、タイムスリップ企画になっていますので、これは予約なしで参加できますので、ぜひ情報をチェックしていただけたらと思います。あと、4月30日(日)ちょっと先になっちゃうんですけど、30日に東村山にある酒蔵でイベントやります。これは、毎年秋に開催していた蔵開きのタイミングのイベントなんですけど、「豊島屋フェスタ」という豊島屋酒造でやるイベントです。その敷地内でライブが行われてたり、クラブスペースがあったり、みんなで日本酒を飲みながらいろんなエンターテイメントを楽しむという企画の中で、大きな倉庫を映画館にします。そこで酔っ払ってる人たちに向けて、短編映画を何本か無料で上映するという企画です。
渡辺:みんな酔っ払っているからね。
有坂:これ、本当すごくて、多いとき1,000人くらい敷地にいるんですけど、全員酔っ払っているので、もうね、もはや僕らも飲んでるんですよ。スタッフも飲んでるので、ゾンビにしか見えない(笑)。自分も含めて。でも、そんなお酒を愛する人たちで、いろんな音楽とか映画とか、時間を共有するというのも本当に特別だと思うので、そちらもぜひ参加いただけたら嬉しいなと思いますし、僕らも現場にいるので、よかったら声をかけてください。
渡辺:酔っ払っているけどね(笑)。
有坂:酔っ払ってます。今も酔っ払ってるけどね。はい、ということで、今月のキノ・イグルーの「ニューシネマワンダーランド」は、以上となります。ぜひ、みなさん犬映画1本でも多く観て、来月の猫に備えていただけたらと思います。
渡辺:コメントもいろいろありがとうございます!
有坂:ありがとうございました! また来月お会いしましょう。さようなら。
渡辺:ありがとうございました。バイバイ!


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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe