あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「14歳の時に観ておきたかった映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は久しぶりに有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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有坂セレクト1.『音楽』
監督/岩井澤健治,2019年,日本,71分

渡辺:おお!
有坂:これは、2019年のアニメーション作品で、大橋裕之さんの漫画が原作のアニメーション映画となっています。これ、観ている人いるかな? 結構いるのかな。これは個人映画と言ってもいいぐらい、監督の岩井澤健治監督が、ほぼ一人でつくったと言われる、狂気の沙汰としか思えない、すごいよくできているし、本当に自分のつくりたいものをすべて出し切ったなっていう、完成度も高い一作となっています。ストーリー的にはシンプルで、高校生のお話です。楽器も触ったことがない不良学生たちが思いつきで、……パッケージのこの3人、思いつきでバンドを始めるっていう、それだけの話。上映時間71分なので、本当に変に長く話を引っ張らないで、割とそのバンドを始める、楽器を触ってぞわぞわってする、そういう初期衝動みたいなものを軸にした映画なので、これは音楽に限らず、そういう初期衝動に触れたことがある人は、きっと心震える作品となっていると思いますし、この絵からもわかるように、すごいね、シュールなんですよ。世界観として。
渡辺:ゆるいしね。
有坂:そう、ゆるいし、セリフも少ないし、こう独特の間があるんですね。なので、それに慣れるまでに、ちょっと時間のかかる人もいるかもしれないんですけど、慣れると本当にこのゆるさが心地良くなって、だんだんだんだん後半のバンドを始める流れになると、すごいエネルギッシュになって、最後のね、ライブシーン。これはもう伝説の野外フェスシーンだと思うんですけど、まあ伝説といいながらも、これも結構ゆるい。街の公園でやっているような野外フェスなんですけど、すごくね、その場面は『SLAM DUNK』のあの試合にも負けないぐらい、エネルギッシュなライブシーンが楽しめる作品となっています。やっぱりこの本当、必要最低限の線で描いて、セリフも最小限なので、観ている側が自分を投影できたりとか、過去の記憶が重なってきたりとかっていうね、そういう想像ができる余白があるのが、この映画のいいところかなと思います。ぜひ、14歳のね、中学生に、「来年受験で高校生活、俺、大丈夫かな」、「私いけるかしら」って不安な人たちに、なんか高校生からでも始められるものがある。そうやって高校生になることに前向きになれるような一作でもあるかなということで、『音楽』を選んでみました。これ、原作が大橋裕之さんという漫画家で、わりとインディーズ系の漫画をずっと描いていた人なんですけど、知る人ぞ知る人で、さらに、声優が坂本慎太郎、あと岡村ちゃん、岡村靖幸とかも声優をやってるので、この映画がきっかけで坂本慎太郎って誰だろうと思って調べると、「ゆらゆら帝国」とか、最近の坂本慎太郎の曲が出てきたり、そういうサブカルチャーへの入り口にもなるっていう意味でも、ぜひ中学生のうちにこういうものに触れるのもありなんじゃないかな、ということで、1本目は『音楽』を選んでみました。
渡辺:なるほどね。そうですか。確かに『音楽』は思い浮かばなかったな。
有坂:これ、最初に「狂気の沙汰」って言いましたけど、作画の枚数4万枚以上。それをほぼ一人で手描きして、しかも、ラストになっている野外フェスのシーンなんてね、すごいのが、実際に公園を使って野外フェスをやったんですよ。で、やっている映像を、実写の映像ですよね。実写の映像をカメラに記録して、そこに絵を当てて。
渡辺:トレースしてね。
有坂:そう、トレースしてアニメーションにしているんですね。なので、やっぱり躍動感もすごいし、ただ、その躍動感を出すために、本当のフェスをやってしまう、個人映画なのに。そこはやっぱり岩井澤さんの本気が感じられて、ぜひ中学生とかでも、例えば、「一人でこれつくったんだよ」って聞いたら、俺でもできるのかもとか、そんな人生の選択肢もあるんだなって感じてもらえるのもいいかな、ということで、『音楽』を挙げてみました。
渡辺:なるほどね。
有坂:これは入ってなかった?
渡辺:入ってなかった。じゃあ、僕の1本目いきたいと思います。僕の1本目は、2021年上映、新しめの邦画です。



渡辺セレクト1.『サマーフィルムにのって』
監督/松本壮史,2020年,日本,97分

有坂:出た!
渡辺:この『サマーフィルムにのって』も高校生のお話で、青春ストーリーなんですけど、映画部に入っている女の子が主人公の話です。彼女は映画部に入っているだけあって、映画好きではあるんですけど、彼女が特徴的なのは、時代劇大好きっていうですね、時代劇女子です。で、『座頭市』の勝新がいいとか、市川雷蔵がいいとか、そういう、チャンバラの時代のスターのことを敬愛している女子なんですけど。その主人公を元乃木坂の伊藤万理華が演じていて、“ハダシ”っていうあだ名の女の子なんですけど。で、この子が所属してる映画部が、キラキラ恋愛映画みたいなものばっかりつくっているのに嫌気がさして、仲間を集めて、自分たちで文化祭に向けて映画をつくろうっていうふうに動き出すっていう、青春映画になっています。やっぱり映画好きからすると、こういう映画づくりを始めるみたいな話とか、その主人公の女の子が時代劇好きみたいな、その辺の新しさとかっていうのもすごく面白いし、やっぱり、この青春、何かにひとつになってみんなを巻き込んで、突き進んでいくっていうところの面白さっていうのがすごいあるので。やっぱりなんだろう。さっきは音楽だったけど、映画で、学生のときにこういうのやっていたらどうだったんだろうっていう、僕らも映画好きではありますけど、「なんか8ミリで昔映画撮っていました」みたいな、そういうのはないので。
有坂:まったくないね。
渡辺:なんか、そういうのがあったらどうだったんだろうっていうのを、ちょっと思うような、そういう作品になっています。これ、映画自体もめちゃめちゃ面白いので、時代劇設定だけじゃなくて、SF設定だったりとか、結構いろんな要素がモリモリになってるので、映画好きの人も楽しめるし、普通に青春映画としても楽しめるという感じです。さっきね、(オープニングで)河合優実の話が出ていましたけど、この映画にも出ていて、この三人のうちの一人がその子なんですけど、このときはまだ無名で、なんかちょっと面白い子が出てきたなって思っていたら、あれよあれよという間に、面白い作品の出演作が続いて、もう今やスターになるだろうっていうね、存在になっている。
有坂:そうだね。
渡辺:河合優実、前にね、映画サイトの、
有坂:素晴らしいね、あれは!
渡辺:なんて言うんだろう、自分で文章を書いているコラムがあるんですけど、どうして女優になろうと思ったのかみたいなところのね、文章力もすごい。
有坂:そうだね、そのライフストーリーを自分の言葉で考えているんですけど、本当に1本の映画を観ているみたいなね。
渡辺:本当にそういう期待の、これからの日本映画を背負って立つような女優さんの、まあ出てきたときの作品でもあるという感じです。
有坂:「伊藤万理華ちゃんが好き」「可愛いですよね」っていうコメントが。そう、これでもね、伊藤万理華がその時代劇好き女子高生っていう役をやってるんですけど、ここにちょっと嘘っぽさというか、なんか違和感を感じちゃうと、映画全体に影響が出るようなキャラクターなんだけど、伊藤万理華が、とにかく素晴らしい!
渡辺:そうだね。
有坂:本当にこの子、時代劇好きなんだろうなっていうエネルギーが、もう全編に渡って出ていて、だから、周りがより生きてくる。これは素晴らしい映画だったね。
渡辺:本当に青春映画としてもすごく面白いんで。
有坂:でも、今のそれこそ高校生、中高生だと、本当に「バンド始めようぜ」っていうノリで、映画をつくる人も出てきているわけじゃない。
渡辺:iPhoneでね。
有坂:そうそう。
渡辺:そういうハードルは今ね、下がっているから。
有坂:そういう意味では『音楽』、『サマーフィルムにのって』、素晴らしい始まり!
渡辺:まあ、発想が同じっていうのがあるのかもしれない。そんな1本目でした。
有坂:じゃあ、続けて僕の2本目にいきたいと思います。1本目が日本映画の『音楽』。続けて2本目は、まったくタイプの違う映画にいきたいと思います。1998年のアメリカ映画。これ知らないだろうな……みんな。



有坂セレクト2.『アルマゲドン』
監督/マイケル・ベイ,1998年,アメリカ,150分

渡辺:笑。ど真ん中じゃん。
有坂:ということで、2本目はまったくタイプの違う、もうブロックバスタームービー、超娯楽大作の『アルマゲドン』を紹介したいと思います。これ、なんで『アルマゲドン』を挙げたかっていうと、あっ、その前にちょっと簡単に物語を説明すると。
渡辺:知ってるんじゃない?
有坂:知ってるか、まあ人類が滅亡するレベルの隕石が地球に迫ってきて、地球を救うために、ブルース・ウィリスが立ち上がるわけですよ。もうほんと、それだけの話。ブルース・ウィリスを中心にした14人の決死隊が、地球を守ると。守るために宇宙へ飛び立つという映画になっているんですけど。なんで、これを14歳向けに挙げたかっていうと、やっぱりこれぞ映画だと思っていて、例えば、『タイタニック』とかもそうだし、僕らの世代でいうと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、なんかこういう超大作、ハリウッドにしかつくれない、お金のかかった超大作で、話はシンプルなんだけど、シンプルがゆえに広い層に刺さるっていう映画は、やっぱりなくなっちゃいけないと思うんだよね。で、やっぱり映画の中でストーリーも大事なんですけど、音楽の効果ってやっぱり大きいじゃない。そういう意味でも、『アルマゲドン』、イコール、もうエアロ・スミスみたいな。観た人がみんなあの曲歌っちゃうみたいな。これぐらいわかりやすい主題歌のある映画、どんどんどんどんつくられなくなってきてるっていう意味で、でも、映画のいいところは、同時代のものだけじゃなくて、過去に遡れるのも映画のいいところなので、こんな『アルマゲドン』っていう超大作があるんだよ。観てみるってことで、観たらこのスケールの大きさに、話のシンプルさに打ちのめされるんじゃないかな、ということで選んでみました。まあ、本当に物語の中で、例えば人と人の信頼関係とか、あとは行動力、あと家族愛とか、あと14人のチームワークとか、やっぱり中学校のときに、まだ人とうまく馴染むことができないとか、まだ自分自身が確立されていないときに、すごくシンプルにそういうメッセージを届けてくれる映画でもあるので、なんか学校の体育館とかで上映してほしいなって。もう、体育館にあのエアロ・スミスのあの曲が響き渡るみたいな。そんな風景を想像して選んでみました。
渡辺:おお(笑)
有坂:これは、最後にエアロ・スミスの曲がかかるんですけど、そのボーカルのスティーヴン・タイラーの娘が、これはリヴ・タイラーが出演しているんですよ。なので、リヴ・タイラーとブルース・ウィリスの父・娘の話でもあるんですけど、実はその娘の出てる映画に父親が曲で参加してるんですね。なので、そういう意味でも、本当に意識してのキャスティングか、ちょっとわからないんですけど、なんか家族愛みたいなものを感じて、過小評価されがちなんですけど、僕はもうこれが大好きって。こう全力で『アルマゲドン』大好きって言いたくなるぐらい好きな映画です。で、スティーヴ・ブシェミとかね、ビリー・ボブ・ソーントンとか、この時代に活躍した助演俳優が実は出ていたりして、いい役をやっているんですよ。ブシェミなんか特にね。なので、そういうメジャー映画の中に、ちょっピリリとアクセントとしてきいてくる、そういった助演俳優にも、ぜひ注目して観てほしいなと思います。
渡辺:ベン・アフレックも普通にかっこいいもんね。
有坂:かっこいいね。ブルース・ウィリスが、そう最近ニュースで認知症。
渡辺:そうなんだ。
有坂:そうそう、なんか、認知症で結構難しい状況になっているっていうニュースもあったので、改めてブルース・ウィリス頑張れ、ということで、『アルマゲドン』を挙げてみました。
渡辺:なるほど、ど真ん中きましたね。
有坂:そう、個人でも映画つくれるし、それとはまったく対極のブロックバスター、どっちも映画、どっちも今だと配信で観れちゃうのかな。でも、この振り幅が映画の豊かなところだと思うので、2本目に紹介してみました。
渡辺:それはもう、分かりやすさで言ったらね、本当にこう上位にくる。でも普通に泣ける映画だし。
有坂:コメントで、「『アルマゲドン』、満天の星空のもと、山の中の大スクリーンで観ました」。それはいいね。
渡辺:そうなんだ。じゃあ、僕の2本目は、僕は1本目の『サマーフィルムにのって』に続きです。



渡辺セレクト2.『座頭市』
監督/勝新太郎,1989年,日本,116分

​​有坂:そういう続きね(笑)。
渡辺:『座頭市』シリーズかな。まあシリーズって挙げているんですけど、そんなに観ているわけではないんですけど、僕でいうと、中学のときっていうのは、ジャッキー・チェンにはまっていたので、そういうわかりやすい面白さみたいな、アクションの面白さっていうところで、カンフーものが大好きだったんだけど、チャンバラって観てなかったなと思って。チャンバラで、なんて言うんだろう、子ども向けっていうかね、若い人向けの新しい映画っていうのがそもそもなかったんで。でも、チャンバラの面白さってすごいあって、それがやっぱり『座頭市』。さっきの伊藤万理華がハマるように、自分もちょっとハマってみたかったなっていう。ただ、やっぱり古い映画だと、きっかけがなかなかないので。
有坂:これ、勝新のほうの『座頭市』。
渡辺:そうそう、シリーズものとして。で、やっぱり『座頭市』っていうのは、目が見えない盲目の剣士なんですね。で、依頼を受けて敵を斬るみたいな感じなんですけど、まあ悪いやつを斬るんですけど、刀の持ち方とかが逆手なんですよね。剣がこう下にくるような持ち方をして、独特の持ち方で居合斬りするっていう、なんか、絶対これ観ていたら、当時真似していただろうなっていう、独自のスタイルがあるので、そういうちょっと面白くてかっこいいチャンバラものに、はまってみたかったなっていうのはあったので、単純な男子とかだと、たぶんカンフーとか大好きになっちゃうような人だと、こういうわかりやすいチャンバラみたいのは好きだろうなと思って。僕でいうと、僕自身がチャンバラにはまってみたかったなっていうのもあり、その辺でわかりやすさでいうと市川雷蔵より、やっぱり勝新だなと、『座頭市』だなというので挙げてみました。
有坂:なかなかあれだよね、昭和の時代の日本映画を観ることってないじゃない。僕も、「なんで昔の何が楽しくて観るんですか?」って結構言われたことがあって。でも、令和の今から見たら、本当にある種、同じ日本とは思えないぐらい、ちょっとファンタジーというか、いろんなルールも違うし、ただなんかこうあってほしいなっていう人間味みたいな部分とかを、きちんと丁寧に描いているのは、実は昭和の映画のいいところでもあったりするよね。だから、単純にモラル的にいい悪いだけじゃなくて、もうちょっとその奥にあるその人、個人というか、人間的な部分が観られるので、そういうのも『座頭市』とかは、勝新って、本当に中途半端な映画はつくらない人なので、最初観たときは衝撃だったな。速過ぎて、殺陣が速過ぎて。
渡辺:目が見えないっていう設定なのに、剣の達人っていう。
有坂:本当に目が見えてないように見えるもんね。『サマーフィルムにのって』と2本立てで観るといいかもね。
渡辺:うん、伊藤万理華が真似してますからね、勝新の。それも面白い!
あの『スター・ウォーズ』のさ、なんだっけ、スピンオフの……タイトルど忘れしちゃいましたけど、そこから4になっていく前日譚みたいな話で、ドニー・イェンが盲目の最強の剣士みたいな、あれ完全に『座頭市』でしょ、元ネタが。そういう『スター・ウォーズ』のシリーズを観たことがある方は、もしかしたら、そのキャラクターを覚えているかもしれないですけど、ドニー・イェンっていうカンフーのスターの中国の俳優がいるんですけど、その人の役どころが盲目の最強の剣士っていう設定で、完全に『座頭市』でしょっていう、結構ね、海外にも影響を与えているような、そんな代表作です。
有坂:わかりました。じゃあ、僕の3本目にいこうと思います。3本目は、2018年のアメリカ映画です。



有坂セレクト3.『スケート・キッチン』
監督/クリスタル・モーゼル,2018年,アメリカ,106分

渡辺:んー!
有坂:これは、『スケート・キッチン』っていうタイトルのとおり、スケート。7人で構成されたガールズスケートクルーが「スケート・キッチン」っていう名前なんですけど、彼女たちが実際に主演したフィクション、ちゃんと物語のある、ドキュメンタリーではなくて、物語のある青春映画になっています。まさにこれは、もう新時代の青春スケボー映画と言ってもいいんじゃないかなという素晴らしい作品になっていて、このビジュアルですね。これは、主人公は17歳の女の子です。で、彼女はすごい内気で、でも、密かにスケボーに熱中しているんですけど、怪我をしてしまって、親からは「もうスケボーやめなさい」と言われて、家にも居場所がないしっていう、カミーユっていう女の子が主演です。そんなある日、彼女が、そのスケート・キッチンっていうガールズチームを知るわけです。知って、母親との関係はうまくいかないものの、スケートを続けるために、私は彼女たちと一緒に滑りたいっていうことで、もう意を決してそのスケート・キッチンのチームに出会い、そのメンバーになり、その中で謎のスケートボーダーに恋をするとか、そういった本当に青春映画の王道も押さえつつ、でも、しっかりスケボーを映像で気持ちをよく見せてくれる良作となっています。これ、カミーユがスケート・キッチンっていうチームと出会うきっかけになったのが、SNSなんですよ。そこがすごく今っぽいし、いいなって思うところで、要は中学生、14歳になんで観てほしいかっていうと、やっぱり高校に上がるときに、馴染めないんじゃないかなっていう、いろんな不安があるなか、やっぱり学生時代って学校がすべてじゃない? そこに居場所がないと、もう人生終わったみたいに思っちゃうんですけど、やっぱりSNSっていうものが今はあって、外と繋がることでなんか学校では出せない自分らしさを受け止めてくれる場所がちゃんとあるんだよっていうことを、この『スケート・キッチン』という作品が教えてくれるなと。だから、割とその気持ちがあるだけで、そんな気負わずに学校に通えるんじゃないかなとか、SNSとかを通してもっと広い世界を見たいなって思えるきっかけにもなるかなということで、選んでみました。
渡辺:なるほど、スケーターになりたかったわけじゃない。笑
有坂:そうそう、でも、それは、スケボーの映像って、僕、すごい好きで。
渡辺:好きだよね。
有坂:大好き! でも、1回ぐらいしか滑ったことがなくて、全然滑れないんですけど、やっぱり映像的にも気持ちがいいじゃん。すごい疾走感があって、滑っている人と並走してカメラが撮るんですけど。だいたいね、音楽もかっこいいんですよ。出てくる人たちもかっこいいし、さらにファッションも。もう、そういう世界観、こだわってる人たちなので、映像的にもかっこよかったりするので、なんか好きなんですけど、この『スケート・キッチン』って、もともと短編があるんだよね。
渡辺:そうなんだ。
有坂:そうそう、同じ監督がつくった13分の短編があって、それが元になってるんですよ。そっちはあのファッションブランドのMIU MIUのプロジェクトで、「女性たちの物語」っていうプロジェクトがあって、その女性たちの物語っていうテーマで、世界中の監督に映画をつくってもらう。日本だと河瀨直美とかも参加してるんですけど、そこでつくった13分の短編、『THAT ONE DAY』っていう作品が評価されて、長編映画化されました。そっちの短編のほうは、MIU MIUが衣装のほうで完全提供しているので、洋服も可愛いし、メイクとかもめちゃくちゃ可愛い。だから、こっちの『スケート・キッチン』のほうが、もうちょっとリアル。ドキュメントに近いリアルな世界で、短編の方は、もうちょっとファンタジーに近いような、でも、こんなおしゃれな格好をした子が、スケボーに乗っている映像だけでもすっごい面白いから、ぜひ併せて観てほしいなって思います。ちょうど今日、キノ・イグルーのホームページの短編に挙げているので、ぜひ機会があったら、そっちも観てみてください。
渡辺:なるほどね。
有坂:ちなみに、なんで「キッチン」ってつくのか気になると思うんですけど、これはあの意味があって、「女は台所へ戻れ」っていうお決まりの罵り文句を、ひっくり返してやろうっていう意図があるらしいです。なので、そういった本当に今の時代を象徴するような、やっぱり女性は女性として、きちんと社会の中で認めてもらいたいっていう人たちが、パワーを持った子たちが主人公の映画なので、気持ちいいと思います。スケボーに興味がなくても、ぜひ観てみてください。
渡辺:そう来ましたか。じゃあ続けて僕の3本目は、これです。



渡辺セレクト3.『スクール・オブ・ロック』
監督/リチャード・リンクレイター,2004年,アメリカ,110分

有坂:ああ!
渡辺:2004年のアメリカ映画ですね、これも、さっきの『音楽』みたいな形で、音楽なんですけど、ざっくりいうと「破天荒な金八先生」っていう、そういうお話です。
有坂:うまいこと言うね(笑)。
渡辺:主人公がジャック・ブラックなんですけど、ジャック・ブラックなんで、コメディなんですけど、彼がクビになっちゃって、仕事が。で、同居している友達になりすまして、教師として職を得るっていう。
有坂:臨時教師にね。
渡辺:そう、というお話です。それが結構、進学校みたいなね、アメリカなんですけど制服を着ているような、割とかっちりした学校に、小学校に行くんですけど、そこで、まあ彼はロッカーなんで、仕事はクビになっちゃったりするような人なんですけど。そこで子どもたちに音楽を教え始めて、みんなで大会に出るっていうことを目指し始めるというお話です。そこで、やっぱり彼は破天荒なんで、もう「決まりきったルールなんか破ってしまえ!」、「もっと自分を表現しろ!」とか、「自由でいいんだ」みたいなことを教えて、生徒たちからだんだん支持をされるようになって、一致団結して輪ができて、みんなでひとつの方向を目指していくというお話です。これは、お話としてもすごい面白いし、めちゃくちゃ感動するし。
有坂:震えたよ。初めて観たときね。
渡辺:そう、すごくいい映画なんですけど、やっぱりなんだろう、中学のときとかって、結構ルールを守るみたいな、日本の教育でいうと特にね。そういう、なるべく横並びで、みんな一緒で、しっかりルールの中で生きていこうみたいな教育をされるので、逆に、こういう破天荒なところで、「もっと自由でいいんだ」とか、「自分の個性をもっと生かして」とか、そういったところを、14歳ぐらいのときに、「あっ、それでもいいんだ」とか、「そういう可能性もあるんだ」とか、そういうことを教えてくれるような作品と出会えていたら良かったなっていうのをすごい思って。割とやっぱり、中高とみんなしっかり校則を守ってっていう人が多いとは思うんですけどね。その中で、まあ校則を破ればいいとか、そういうことではないんですけど、なんか、もっと自由な世界が外にはあるんだみたいなことを、知れるといいなと。で、これはコメディなので、楽しくそういったことを教えてくれるっていう意味で、いい作品だなと思って挙げました。
有坂:これ、ちょっと補足すると、そもそもジャック・ブラックが、なりすまして先生になったときに、教室でなにか授業を教えなきゃいけないってなったときに、「俺、何も教えられることないから、自習みたいな、好きなことやっていいよ」って言うんだけど、生徒たちは、「いや、そんなこと言わんないでなんか教えてくださいよ」って言って、「俺が教えられるのはロックしかねぇ」って言って、ロックの授業が始まるんですよ。その後、大会に出たって言いましたけど、大会に出たのも、じゃあ、音楽の授業やってみんなの意識が高くなったから、じゃあ、次のステップとして大会に出ましょうじゃなくて、大会に優勝したら賞金がもらえるんですよ。その賞金ほしさに大会に出るんですよ。そこがいいなと思って、『スクール・オブ・ロック』は、嘘っぽくないなって。なんか今回、僕、挙げてない映画で、これも入れたいなと思っていた映画のときに、ちょっとコメントで考えていたのが、そういう主人公が、動機。不純な動機ほど映画として面白い!
渡辺:うんうん。
有坂:やっぱり、もともとは動機は不純だったんだけど、その中で子どもたちの前のめりなエネルギーを感じているうちに、その不純な大人ではなくて、ジャック・ブラックの中にあるピュアな部分が、生徒たちからこう出されていく。お互いにいいところを出し合って、大会を目指していく。しかも、ロックやっているっていうところが、やっぱりこの映画のいいところかなって思うからね、その不純な動機の主人公を演じるには、ジャック・ブラックほどぴったりな人はいないよね。
渡辺:はまり役だよね。
有坂:しかも、ロックの歴史も、僕、そんなに詳しくないんですけど、本当にもうね、ものすごい詳しい評論家の人が観ても、正しいこと言っているって。
渡辺:なるほどね。
有坂:相当コアなところまで教えているって言っていたので、知ってる人も楽しめるし、知らなくても楽しめるっていうね。挙げればよかった。忘れてた。
渡辺:音楽もので。
有坂:そうだね。
渡辺:挙げました。
有坂:リンクレーターだよね、監督が。リンクレターってなんですか? おすすめ、代表作といったら。
渡辺:リンクレーター、あれじゃないすか。タイトルが……笑。長年追った。
有坂:そうそう、二つあるよ。シリーズと。
渡辺:ああ、「ビフォア」シリーズと、なんだっけ?
有坂:『6才のボクが、大人になるまで。』。割と、リンクレーターって個性的な監督、もう自分のつくりたい映画をつくるみたいな人だけど、割と王道のね、エンタメ映画つくったら、その中でこんな技術もあったのかというぐらい。
渡辺:そうだよね。
有坂:はい、じゃあ、僕の4本目にいきたいと思います。4本目はインド映画。



有坂セレクト4.『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
監督/カビール・カーン,2015年,インド,159分

渡辺:おお!
有坂:これは、2015年の映画です。別に中学生、高校生が出てくるわけでもない。そういう直接的な意味で選んだわけではなくて、なんて言うんだろうな、こう今ってネガティブなやっぱりニュースが続きすぎて、その中で、例えばニュースを見た子とかが政治家の言っていることがとかさ、オリンピックでどうとかさ、信用できない大人ばっかりみたいな。そこを変えたいと思ったんだよね。こんな大人もいるんだよっていう意味で、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』を選びました。
で、これは、本当に底抜けに、お人好しのインド人青年、バジュランギおじさんさんと、喋れない、声をなくしたパキスタン人の少女のロードムービーなんですけど、そのパキスタン人の女の子が、インドに迷い込んじゃって帰れなくなたことで、バジュランギおじさんさんが、家まで送り届けようというロードムービーです。だから、話の構造としては、すごいシンプルで、送り届けるまでのお話になっています。これは僕よりも順也のほうがちょっと詳しいので、インドとパキスタンのこととか、後ほど順也に任せますけど、やっぱりもともと政治的に対立していたり、かなり緊張感のある国同士だから、簡単にパキスタンに入国もできないし、できないことでドラマが生まれる。でも、そういった社会的なメッセージがありながらも、あくまでやっぱりインド映画らしいエンタメ映画として、つくっていることが素晴らしい。
渡辺:そうだね。
有坂:ロードムービーでありながら、もちろんそのインド映画なので、歌って踊ってもありますし、ラブロマンス的な要素とか、ちょっとドキュメンタリー的な要素もあったり、笑えたり、アクションがあったり、本当にもうてんこ盛りの159分の映画なんですけど。ちょっと詳しいことは言えないですけど、ただ、やっぱりこの映画を14歳に観てほしいのは、本当にこんなにまっすぐで、純粋な大人だっているんだよっていうことと、あとね、最後に「本当に世界ってこうあってほしいな」っていう、理想的なね、光景を見せてくれるんですよ。もう想像するだけで、ちょっとグッときちゃうんですけど、なんかね、やっぱり映画を観ることの大きな要素として、やっぱり夢を見る。こうあってほしいとか、なんか、そのみんなの中にある、そういった良心を刺激してくれるのも映画のいいところだと思います。それをもとに、自分で何ができるかなっていうことを考えるきっかけになるぐらいのエネルギーを与えてくれる映画が、この『バジュランギおじさんと、小さな迷子』かなと思いますね。
渡辺:フィルマークスでも、スコアがすごいいいけど、めちゃくちゃ感動するもんね。
有坂:そうなんだよね。しかも、そのインドとパキスタンの関係とか知っている人のほうが。
渡辺:いや、そうだよ。インドとパキスタンってバチバチな関係なんですね。戦争していたりするので隣の国どうしで。基本的に多分人種としては同じだと思うんですけど、宗教が違うんですよね。パキスタンはイスラム教なので、そういう宗教の違いで争いが起こっていて、戦争している国どうしで、これが、本当はバチバチの国どうしの女の子と、バジュランギおじさんによって、最後、ちょっと平和的な感じになるっていう感動的なところにいくんですけど、これ当時、映画観てめちゃくちゃ感動して、もう本当になんか世界平和にするための教科書にしたらいいんじゃないかぐらい思っていたら、翌日のニュースで、インドがパキスタンを空爆みたいなニュースが思いっきり出ていて、「お前らこれ観てねぇのかよ!」と思って、本当になんか、「全員この映画観て!」と思って。
有坂:国境で上映したいよね。
渡辺:本当に。あとね、プーチンに観せたい。もう、本当に争ってる場合じゃないよっていうことを、本当に心から感じられるいい映画なので。でも、観られないんだよね。
有坂:そうそう、配信でやってないんだよね。なんでだろうね。この前、公開していたのにね。
渡辺:これ、配給会社も、なんか普通の映画会社とかじゃなかったんだよね。
有坂:そうなんだ。個人の人とか。
渡辺:だから、なんかそういうのかもしれないですね。もしかしたら。でも、作品はめちゃくちゃ素晴らしいので、どこかでまたやってくれるかもしれないので。見つけたらもうぜひ!
有坂:そうだね。インド映画になんとなく苦手意識がある人、観たことないんだけど、なんかビジュアル的にも派手で、ちょっと長いしどうかなっていう人も、割とそういう人にはここから入るのがおすすめ。
渡辺:そうだね。
有坂:ストーリー性がやっぱり強いし、それでもやっぱり笑えて泣けるっていう、らしさもあるので、ぜひ一人でも多くの人に観てもらいたいし、親子で観てほしいな。もし、中学生のお子さんがいる方がいたら、もう一緒に観たら、その後の会話、めちゃくちゃ弾むと思うので、ぜひ親子で一緒に観てみてください。
渡辺:なるほど。じゃあ、僕の4本目は、新しめ、2022年の日本映画です。



渡辺セレクト4.『さかなのこ』
監督/沖田修一,2022年,日本,139分

有坂:ああー。
渡辺:これは、もう本当に去年公開された作品で、去年の僕の邦画のベスト10にも入れた作品なんですけど、さかなクンの生い立ちを描いた作品です。監督は沖田修一で、主演がのんです。のんがあの女優なんだけど、さかなクンを演じているというですね。さかなクンになるまでの学生時代ですね。“ミー坊”って呼ばれてたころを描いている作品です。それで、のんは朝ドラでね、「じぇじぇじぇ」って言ってたのが、この作品では「ギョギョー」って言ってですね、めちゃくちゃはまってます。で、これはやっぱり、好きなことを貫くっていうことの尊さみたいなことを、すごく教えてくれる作品なので、なんか、ミー坊、全然ブレてないんですよ。お魚が大好きっていう、そこがもう一切ブレてないんですね。どういう子だったかというと、すごくやっぱり変わり者で、友達も一人もいない、学校の勉強もまるでできないみたいな、だけど、魚は大好きで、魚のことはもうなんでも知っていて、好奇心がすごい強くて、まったく擦れていない、天真爛漫な性格っていうところに、実はこう周りが巻き込まれていって、すごく影響を受けていって、みんながこうミー坊のペースに飲まれていってしまうみたいな。そういう不思議な魅力を持った主人公を、本当にのんが、もう好演しているんで、のんじゃなきゃこの役、誰ができんだろうって思うぐらい、はまり役です。
有坂:そうだね。
渡辺:で、やっぱりまわりの家族とかもすごい良くて。
有坂:そう!
渡辺:お母さんね。
有坂:そう、井川遥。
渡辺:「この子はいいんです。それでいいんです」っていう、もう全肯定。やっぱりそういうのだからこそ、のびのびと自分の才能を信じて、伸ばしていけたっていうところはあると思うんで、やっぱり中学ぐらいってすごいブレると思うので、やっぱり芯がまだできていないし、どうしたらいいんだろうっていうところはあるんだけど、もう、それでいいんだって思えるような、そういうひとつのヒントになる、そういう作品だなと思うので、中学生の子どもがいる、でもいいかもしれないですけど、なんか、そういうちょっと思春期の道を外してしまいそうな、ブレている時期にとかにでも観られたらいいのかなと思ってですね、挙げてみました。
有坂:そっか、そういう意味で道を外した順也が。
渡辺:外してない!(笑)
有坂:昔、観たかったと。
渡辺:なんかね、あっちゃこっちゃ興味はあったから、なんか、どうしたらいいのかみたいなね。そういうのはすごい、やっぱり学生時代って思うだろうなと思って。
有坂:ちなみに、僕ら中学校の同級生なので、まさに14歳のとき、クラスは違ったのか。
渡辺:中2は違ったね。
有坂:中1、中3で同じクラスだったんですけど、中2のときはこの人やんちゃでしたよ。
渡辺:やんちゃじゃない(笑)。
有坂:今は、なんかこう見えて、「順也さんいい人」みたいな、優しさの塊みたいなことを言う人がいるんですけど、もう目立っているグループで、やんちゃなタイプでした。
渡辺:いやいや(笑)。
有坂:気を付けてください。騙されちゃダメですよ。
渡辺:先生がね、すごい怖かったからね。中学のときは。
有坂:うんそうね。
渡辺:もう、全教師が殴る人みたいな感じでしたね。で、全教師に殴られてました(笑)。 有坂:殴られるのには理由がある。
渡辺:美術の先生とかね。体育の先生ならわかるけど、美術とか。
有坂:そうですよ。昭和ですよ。
渡辺:国語の先生とかね。
有坂:もう武闘派の集まりだったので鍛えられました。ちなみに、『さかなのこ』は、僕、最初観たとき、のんがさかなクンを演じているっていう情報は、もちろん知って観に行ったんですけど、これ、映画の冒頭に出るじゃん。
渡辺:そうだね。
有坂:「男か女か、そんなの関係ない」みたいなのが、バンって出るんですよ。そこで初めて、あっそっか、女性がさかなクンを演じるんだって初めてわかった。それぐらい、自分の中でイメージ、人としてのイメージが、さかなクンとのんってぴったりだなと思って。なかなか、そういうキャスティングに出会えることもないと思うし。あと、ぜひこれは2本立てで観てほしいなって、今ちょっと話を聞いていて思いついたのが、これは、さかなクンがさかなクンになるまでの物語。もう1本は、チェ・ゲバラがチェ・ゲバラになるまでの物語の『モーターサイクル・ダイアリーズ』、それと、『さかなのこ』の2本立てで観るといいかなと。あっちは医学生の話ですけど、でも、その自分探しの旅に、中南米をおんぼろバイクで旅に出るんですけど、あれも中学生で観たら、めちゃくちゃ影響受けると思うし、その今、知名度のある人にも、やっぱり自分たちと同じような無名の時代はみんなあったわけで、その物語を映画として観られるっていうのは、すごい貴重だなと思うので、豊かだなって思うので、ぜひ観てみてください。はい、では、僕のラスト5本目は、1999年のアメリカ映画です。



有坂セレクト5.『遠い空の向こうに』
監督/ジョー・ジョンストン,1999年,アメリカ,108分

渡辺:なるほど!
有坂:もう、これは夢を描いた、夢のある作品だと思います。これは、時代設定が1957年という時代なんですけど、まあアメリカとソ連の冷戦の時代の、炭鉱の小さな町が舞台になっています。主人公は高校生のホーマーという男の子で、彼は自分の将来に不安を感じていたんですけど、そんななか、ソ連の人工衛星のスプートニクの美しさ、あと、その自分たちの日常とはまったく正反対の宇宙っていうものに魅せられて、彼は自分でそのロケットをつくってみたいという思いに駆られて、級友たちと一緒にロケットをつくる、「ロケットボーイズ」っていうチームを結成します。で、そのホーマーを中心にしたロケットボーイズと、ホーマーのお父さんっていうのが、もう本当にゴリゴリの炭坑夫みたいな人で、「そんな夢ばっかり見てんじゃない! お前も炭鉱で働けばいいんだ」っていうお父さんとの葛藤とか、確執が描かれた物語になっています。ロケットボーイズっていうのは、男の子4人なので、男の子4人のチームっていうと『スタンド・バイ・ミー』を連想するけど、向こうは、どちらかというと4人の友情を軸にした映画で、こっちの『遠い空の向こうに』は、あくまで主人公はホーマーで、ホーマーとお父さんの物語なので、その違いはあるかなと思うんですけど。すごくね、この映画は最初に「夢を描いた」って言いましたけど、本当にこう希望を持ち続けることで、希望があることで努力もできるしで、やっぱりそれを続けていくことで、さっきの『さかなのこ』と一緒で、まわりがどんどん感化されていく。大人も、どこか自分の人生を諦めたそういう大人の心にも火がつくみたいな、そういうことって中学生とか高校生でも、本気で何かに打ち込んでいる人っていうのは、伝えられるものがあると思います。まさにこの映画は、そういう夢に魅せられた男の子の話で、でも、これもさっきのさかなクンと一緒で、やっぱり恩師みたいな人がいるんだよね。いい大人がやっぱり一人はいて、それがホーマーにとっては先生なんですけど。
渡辺:ローラ・ダーンね。
有坂:そう、ローラ・ダーン演じる先生が、なんか言うセリフで、これ好きなのが、「時には他人の言うことを聞いてはいけないの、自分の内なる声を聞きなさい」、っていうことを先生が言ってくれるんだよ。「親の言うこと聞きなさい」じゃなくて。だから、その先生と生徒の関係の中でかけられる言葉って、やっぱりイメージできるものがあるけど、そこを超えた言葉をかけてくれたら、やっぱり誰かの人生っていうのは大きく変わる可能性もあるし、実際この映画は、実話の映画化です。なので、劇中の話だけじゃなくて、本当にその先生の言葉によって人生が変わった人がいて、彼はNASAで勤務するようになって、本当に自分の夢を叶えた人の映画なので、もう説得力が半端ない。やっぱ中学生の頃とかって、「映画なんてどうせ嘘だし」って言っちゃうような人も、「いや、これ実話だから」って言ったら、もうそれだけで観たくなるパワーも持った作品になっています。
渡辺:ジェイク・ギレンホールが、若いんだよね。
有坂:そう、これね、ジェイク・ギレンホールのデビュー作なんだよね。
渡辺:デビュー作なんだ?
有坂:いや、初主演作。そうそう、ちょい役では出ていたんですけど、初主演作。なので、この後、『ブロークバック・マウンテン』とかで、アカデミー賞にもノミネートされたり。
渡辺:いい映画にいっぱい出てますからね。
有坂:そうそう、これは僕たちも二子玉川ライズで野外上映を去年やって、やっぱりロケットが打ち上がってく映像を、空の下で観るっていうのは、本当にすごく解放感があったりするので、お庭とかがある方は、ぜひ外で観てみるのもいいかな。夜にね。あれだね、なんか希望が見えづらい時代だから、っていう意味で言うと、子どもだけじゃなくて、これも親子で観てほしいな。それによって親もこう夢とか希望を持ってほしいなって思う一本になっています。
渡辺:なるほどですね、じゃあ、僕の5本目、最後は1984年の日本のアニメです。



渡辺セレクト5.『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
監督/押井守,1984年,日本,98分

​​有坂:うんうんうん。
渡辺:これは、『うる星やつら』のアニメシリーズがあるんですけど、それの劇場版なんですけど。
有坂:名作!
渡辺:劇場版の中でも名作って言われている作品です。これ、押井守っていうアニメーション監督が手がけたものなんですけど、ベースとしては、『うる星やつら』っていう学園もののお話で、主人公とこのラムちゃんっていう宇宙人なんですけど、女の子のお話ではあるんですけど、この「ビューティフル・ドリーマー」の話がどういう話かっていうと、学園祭のお話で、学園祭の準備で学校に寝泊まりしなりしながら準備するみたいな、そういう盛り上がりを描いた作品ではあるんですけど、なんか、「あれ?」ってふと気づくと、「同じ日を繰り返してない?」みたいに気づくっていうお話になってます。で、こういうタイムループもので、割と今は多いんですけど、この当時は、全然まだそんなのあんまりなかったと思うんですよね。僕は、結構大人になってからこれを観たので、それでもすごい衝撃を受けた作品ではあったんですけど、やっぱりなんか14歳のときに観るって、結構なんかわかりやすいものしか観てなかった思うので、勧善懲悪だったりとか。こういうちょっと意味がわからなくて、なんか不条理であったりとか、なんかちょっと哲学的だったりとか、そういったものも、全然意味わかんないけど、ちょっと面白いみたいな。そういう感覚をこういうときにもちゃんと観ておきたかったなと思って。これは、話が高校生の文化祭のお話なので入りやすいし、普通に『うる星やつら』っていう、テレビシリーズとしてやってたもので、入りやすいみたいなところがあったので。なんだけど、やっていることがめちゃくちゃ哲学的なお話だったりとか、それを実は押井守がやっていたみたいな。そういうのは当時は、全然知らなかったんですけど、それをここで観たら、なぜか1日を繰り返していて、そこから逃れられなくて、それがなんで起こってるのかみたいなところが、すごい実は深いものがあって、でもそれもよくわからないみたいな。そういうなんか、不条理な話。頭で解決できるとか、普通になんか理屈で解決できるみたいなものじゃないものっていうのを、でも、なんか面白いっていう中で、それをこう体験させてくれるっていう、そういう意味で、こういうものを中学ぐらいで観ていたらどう思ったんだろうと思って、なんかちょっとわからないけど、ずっと心に残っていた。
有坂:そうだね。
渡辺:そういうものとして、観ておきたかったなっていうので、ちょっと挙げてみました。
有坂:確かに!
渡辺:わかりやすくないパターンで。
有坂:そうね。特に今だと気になったことを、もうその場でスマホで調べて、答えらしきものを得て納得してっていうことが、もう日常になってる時代じゃない。そのわからないものを調べる術がなかった昭和の時代ってさ、悶々と自分の中に残ってさ、自分の時間の中で考えてくっていう、このプロセスがない時代じゃない。
渡辺:そうだね。
有坂:この違いって、やっぱりすごい大きくて。でも、こういうビューティフル・ドリーマーみたいな映画を観るってことの意味って、多分、そういうことだと思うんだよね。すぐに消化して終わりじゃなくて、終わった後もずっと残っていて、こういうことなのかもって考える。もうちょっと時間経ってから振り返ると、その考える時間も含めて楽しかったなっていう映画体験もあるよ、っていうことだよね。
渡辺:そうね。
有坂:それを、でもそうだね、『うる星やつら』でやっているってところがいいんだよね。
渡辺:だいぶ大人になってから観た。
有坂:そうだよね。アート系映画とは思えないもんね。「『うる星やつら』でしょ、どうせ」みたいなね。そのバランスは確かに、この映画が素晴らしいところだよね。なるほど、そうきましたか。ほんとに被らなかったね。まったく選択肢にも挙がってきてない。ビューティフル・ドリーマー、たまに劇場でやったりするので、劇場で観てほしいね。
渡辺:そうだね。
有坂:やっぱり、もう名作っていう位置付けになったから、たまにやるんですよ。あと、クレヨンしんちゃんの『オトナ帝国の逆襲』とか、あの辺はたまにやるので、ぜひ観てみてください。


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有坂:では、最後になんかお知らせ。
渡辺:また、フィルマークスのリバイバル上映企画を、僕がやっているんですけど、それで今度、あの3月に『パンズ・ラビリンス』を。ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』が上映権がもう切れるということで、日本最終上映っていうのを、3月10日から1週間、映画館でやります。これが、もう映画館で観られる最後っていう。ちょうどギレルモ・デル・トロ監督がアカデミー賞で『ピノッキオ』っていう。ストップモーションアニメでノミネートされているので、長編アニメで。なので、ちょっと盛り上がる時期でもあると思うので、映画館で観られる最後なので、興味ある方は、ぜひ!
有坂:じゃあ、アカデミー賞、ドキドキだね。獲れ! 獲れ! って。
渡辺:そう。
有坂:必要以上に応援しちゃうね。劇場はどういうところでやるの?
渡辺:劇場は新宿ピカデリーほか、結構全国でやります。でも、東京は新宿と、あと何カ所かでやる予定です。
有坂:なるほど、初めて聞きました(笑)。順也は普段、フィルマークスの会社に勤めているので。じゃあ、僕からのお知らせは、3月5日の日曜日。来週の日曜日なんですけど、ラジオに出演します。これはまあ収録なので、もう撮ったんですけど、小山薫堂さんと、宇賀なつみさんがMCをやっている「SUNDAY’S POST」という番組に出ました。それが日曜日の15時、3時から放送されます。TOKYO FM他、全国38曲ネットにて、あとRadikoでも聞けます。で、これはキノ・イグルーの活動について。あとは、小山薫堂さんが脚本を手がけた、『湯道』っていう映画が公開されていますけど、それと連動して映画のパンフレットっていう話もしています。あとこの「SUNDAY’S POST」っていう番組は、毎回ゲストが結構なんかね、すごい大物ばっかり出ているんだよね。振り返ったら。で、その人たちも全員誰かにあてて手紙を書くっていう番組なんです。誰かは、もう完全にお任せします。で、その手紙を書いたものを本人が読むっていう。あっ「SUNDAY’S POST」、聞いている人がいる。僕も、誰とは言いませんけど、ある人に手紙を書きました。手紙を書いてね、読んだらもうこれが大変で。
渡辺:何が大変?
有坂:それはちょっと聞いてからのお楽しみなんですけど、なかなか、僕自身もすごい新鮮な体験をさせてもらいました。小山薫堂さんも、宇賀なつみさんもイメージどおり、あのまんまの本当にいい人、好奇心の塊で。そんな楽しいトークも聞けますので、ぜひ来週日曜日15時から「SUNDAY’S POST」を聞いてみてください。
渡辺:お風呂についてじゃないんだ。
有坂:お風呂とね。そうそう、サウナ、俺入ったことないから、その話になんなくてよかったと思って(笑)。はい、ということで、今月の「ニューシネマ・ワンダーランド」は以上です。ぜひ、みなさんも、14歳の子に何を観せたいかなとか、実際にお子さんがいる方はね、一緒に観てみようとか、そういうきっかけになってくれていたら嬉しいです。では、今月の「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これをもって終わりたいと思います。みなさん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! また、来月!
二人:おやすみなさい!!


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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe