あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「メッセージ性のない本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『これが好きなのよ 長新太マンガ集
著・文/長 新太,発行/亜紀書房




《メッセージ性がない本》としてまずいちばん最初に思いついたのが長新太さん。「ナンセンスの神様」と呼ばれるほど確立した独自の作風は年齢を問わず多くの人を魅了しました。今から1冊手に取るなら、ベストアルバム的なこちらはいかがでしょうか。あまりの自由な展開に、頭がムニュムニュとスライム状に溶けてしまいそう。



2.『しかもフタが無い』ちくま文庫
著・文/ヨシタケ シンスケ,発行/筑摩書房




今や大人気の絵本作家であるヨシタケシンスケさんのデビュー作は、実は「こんな人がいた」や、「こんな人がこんなことを言ったらおもしろいな」をちょこちょことスケッチした本。なんと今月中旬に文庫化されることになったので、ぜひ入手してニヤニヤ眺めてほしいです。人生の役に立つとか、そういうことはあまりなさそうです。



3.『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション
著・文/山下メロ,発行/東京キララ社




メッセージ性がない本の代表格とも言える、コレクションカタログのようなビジュアル本。もちろん資料的な価値はあるのかもしれませんが、一般人としてはただわいわい見るのが正しい楽しみ方。今や流行語でもある「平成レトロ」なアイテムを集めたこの1冊は、ページをめくるたびに「うわーこれ知ってる」「これ持ってた!」「あったね~」の感嘆が止まりません。



4.『ちょっと踊ったりすぐにかけだす
編/澁谷知美・清田隆之,発行/筑摩書房




先月もたくさんご紹介した日記本ですが、たくさん出ている日記本のなかでもメッセージ性のなさがとりわけ際立ち、かつ、個人的にとっても大好きなのがこの本。母の視点から子どもたちとの楽しい生活を綴っているのですが、これが今までに読んだことのないような愉快さ。家族ってこんなに楽しくていいのか、と心がキラキラする1冊。



5.『おやつギャグつめあわせ
著・文/カナイガ,発行/新評論




ジャンルでいうと現代アートなのでしょうか。いや、ちがうか。ショートケーキが将棋の駒になっている「将トケー棋」や、とうもろこしの「コーン約指輪」など、食べ物をモチーフにかなりの予算をかけて制作しているカナイガさんの作品集。「このダジャレを言うだけのためにわざわざこれだけの無駄な手間を……?」というところにグッときます。



6.『ちくわぶの世界
著・文/丸山晶代,写真/渡邉博海,発行/ころから




私も好きだし、好きな人は多いと思うのですが(ちなみに関東にしかないらしいです)、あまりスターのオーラのない食べ物、それがちくわぶ。そんなちくわぶに光を当て、まるごと1冊ちくわぶの魅力にせまったのがこちら。いったい誰がこんな本を買うんだろう? と思いながらなんだかんだ私も自分の店に仕入れており、そしてけっこう売れています。



7.『柴犬二匹でサイクロン
著・文/大前粟生,発行/書肆侃侃房




最近ちょっとしたブームになっている短歌。誰でも気軽に作れるのが魅力のひとつかもしれません。作家としても人気の高い大前粟生さんのはじめての歌集は、シュールな魅力に満ちていて「お?お?」の連続。さながら言葉のトランポリンのようで、ここを歩くのは難しいけど、思い切ってはずんでみたらきっと楽しさにハマってしまうこと間違いなしです。



8.『Museum of Mom’s Art 探すのをやめたときに見つかるもの
著・文/都築響一,発行/ケンエレブックス




それはたとえば、あなたの実家や、田舎のおばあちゃんちのテレビの上に飾ってある謎の手作りマスコット。日本じゅうのあらゆる場所で発生し、特に販売もされず、正直もらってもうれしくないような「おかんアート」を集めた1冊です。しかし本書を通じてその無意味さに触れているうち、私たちみんなが心に持つ「何かかわいいものを自らの手で作りたい」という欲望の不思議さになぜか感動してしまいます。/p>

9.『東京の生活史
編/岸 政彦,発行/筑摩書房




150人の聞き手が150人の語り手からその人の人生の話を聞き、ただ記録するーー約5cmの信じられない厚さとともに、そのテーマが発売当初から話題になっていた1冊。何かのメッセージがあるわけでもなくただそこにある語りの集合は、逆に、とてつもなく大きな海を眺めているような気持ちにさせてくれます。寝る前に少しずつ読む、というのがよさそう。

 

10.『無用の効用
著・文/ヌッチョ・オルディネ,翻訳/栗原俊秀,発行/河出書房新社




「役に立たないものは価値がないのか?」という、今回の選書の種明かしのような本を最後に1冊。ちょっとアカデミックな内容にはなりますが、もちろん(?)「そんなはずはない!」という立場から文学や哲学、芸術のような無償の知ーー要するに「金儲けにならないもの」の役割を掘り下げる本です。ご興味のある方はこちらもぜひ!


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。