あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「やさしいおばけに会いたくなる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
──
1.『イラストで見る ゴーストの歴史』
著・文/アダム・オールサッチ・ボードマン,訳/ナカイサヤカ,発行/マール社
日本の霊の本といえば黒と赤、血の滴りをイメージさせるフォントなど、おどろおどろしいものが多いですが、この本のかわいさはどうでしょう。中身も絵本のようなかわいさで、怖いものというよりはこの世界の不思議に触れている感覚になります。うーん、やっぱりおばけの世界は楽しいなあ。
2.『おばけのこ』
著・文/テルヒ・エーケボム、訳/稲垣美晴,発行/求龍堂
こちらはフィンランド発の長編絵本。と言っても文字はほとんどなく、それなのに非言語で伝わるストーリーが「沁みる」という現象が起きるのがまた興味深い。哀しみを背負って寂しい森に引っ越してきた女性と、おばけの子ども。ふたりの心の交流と傷からの回復を描いた物語です。
3.『さいごのゆうれい』福音館創作童話シリーズ
著・文/斉藤 倫,イラスト/西村ツチカ,発行/福音館書店
ジャンルに分けると児童書になってしまいますが、大人にこそ読んでほしい物語。薬の開発によって「かなしみ」という感情がなくなった時代の、最後のひとりかもしれないゆうれいのネムと少年の物語。「かなしみ」は決していらない感情ではなかったと気づかされるはず。
4.『ゆうれい犬と街散歩』
著・文/中村一般,発行/トゥーヴァージンズ
しばしば物語に登場する「やさしいおばけ」は、自分以上他者未満の、イマジナリーフレンドとしての意味があるのだなということをあらためて感じさせてくれる作品。主人公がただ「ゆうれい犬」と街を散歩するだけの作品にも見えますが、静かで安心できる場所で自分と話し合うことの大切さを教えてくれます。
5.『新オバケのQ太郎』
著・文/藤子・F・不二雄,発行/小学館
もしかしたら日本でいちばん有名かもしれないおばけ、それがQちゃんことオバケのQ太郎。藤子不二雄が大好きなのでいろいろ読んでいるのですが、ここまで特に能力がなく役に立たないキャラクターもめずらしい。しかしこのかわいさには心底癒されます。何の役にも立たないけど人の家に勝手にいて、ごはんを炊飯器3台分くらい食べる、そんな人にわたしもなりたい。
6.『盆の国』torch comics
著・文/スケラッコ,発行/リイド社
死んでこの時期に帰ってきた人たちの霊が「見える」少女、秋。ある年の夏、町はエンドレスに8月15日を繰り返し、8月16日に進むことができなくなってしまった−−。やわらかい絵柄とファンタジー的な要素、そしてちょっと悲しい物語が不思議に調和していて、ずっと好きな本です。お盆の季節になると読み返したくなる。
7.『これがおばけの考えです 貝がら千話選集』
著・文/モノ・ホーミー,発行/タバブックス
独特なイラストが大人気のモノ・ホーミーさんが手がける、超短編小説集。まず絵を描き、それに合わせて物語を書いていくという方法で作られたお話は、おばけの話ではないのですが昔の民話のようにちょっと怖くて、つかみどころがなくて、そこはかとなくおもしろい。眠れない夜にめくりたくなるような本。
8.『ツナグ』新潮文庫
著・文/辻村深月,発行/新潮社
死んでしまった人にもう一度会えたら、これを言いたい、これだけは聞いておきたい……親しい誰かを失った人なら、誰もが一度は思うことかもしれません。そんなチャンスを手にした4組の生者と死者は何を話すのか? 感動するだけでなく、ハラハラしたり、考えさせられたり、と小説の面白さを味わえる1冊です。
9.『異人たちとの夏』新潮文庫
著・文/山田太一,発行/新潮社
ドラマ「ふぞろいの林檎たち」の脚本家として知られる山田太一の小説。両親を早くに失い、孤独な日々を送っていた主人公はある日、死んだはずの両親と再会する。けれど両親と仲良くすればするほど主人公の体重は減っていき……。30年以上前の作品ですが、今も読み継がれる名作。心動かされるような小説を読みたい人におすすめです。
10.『ホーンテッドマンションのすべて』
著・文/ジェイソン・サーレル,訳/小宮山みのり,発行/講談社
日本のおばけの「暗くて怖い」というイメージが払拭されおばけが多様化したのは、明るく陽気な海外のおばけたちの功績も大きいかもしれません。日本だけでなく本国でも人気という、ディズニーランドのアトラクション「ホーンテッドマンション」ができるまでのメイキング本。内容はかなりマニアックですが、こういう「できるまで」系の本はついつい引き込まれます。
──
選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。