前月の手紙社リスト“本”編で花田菜々子さんがセレクトした「本が読みたくなる本」を、手紙社の部員が選んだら? 結局人間とは常に疑問を持ち、その疑問を解決しようとするために(実際に解決できるかどうかは別として)生きているのかもしれませんね。


✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!



1.『センス・オブ・何だあ? ― 感じて育つ ―
著/三宮 麻由子,画/大野 八生 ,発行/福音館書店




我が家の本棚からお届けします。 4歳のときに「光とさよなら」した著者が贈る、感じて育つことの大切さを伝える珠玉のエッセイです。大野八生さんの優しい絵がひとつひとつの言葉を抱きしめます。


さぁ、一緒に 目を閉じて 耳をすまして 何が聞こえる? 
ゆっくりゆっくり深呼吸してみて どんな香り? 
ほら風 気づいた? 気持ちいい〜 
あっ今 ほわわってあったかくなった お日様が雲からでてきたのかも 
うふふ なんてね


見えること、聞こえること、味わえること、触れられること、香りをかげること、日常の何気ないことを感じることや知ることの楽しさに気づきます。 見てるけど、見えてない。聞いてるけど、聞こえてない。食べてるけど、味わえてない。何年ぶりだろう。自分の掌をじっくりながめたのは……


いつもありがとう。私のからだ。なのに、ごめんね。忙殺されてちゃダメだなって……。ゆったりと丁寧に毎日を感じて生きていきたかったんだわ、私って。そうだ、そうだったって、素直な自分を思い出せる素敵な一冊です。是非 部員さんに読んでほしいなぁ。
(選者・コメント:HAPPY 弥生)



2.『四国はどこまで入れ換え可能か
著/佐藤雅彦,発行/新潮社

 



どういうこと? 疑問から始まる本のタイトル。 さっぱり意味がわからない。 2001年so-netでネット配信されていた『ねっとおやつ』というアニメーションを、ショートマンガにして加筆された本です。 作者は、だんご3兄弟、ポリンキーのCMなどの企画者として知られる佐藤雅彦さん。愛らしいイラストは見ているだけでも面白く、「発想や視点を変えて物事を見るとこんなに楽しい!」と教えられるようです。古さを感じさせない、何度も見返したくなる本です。是非読んで見てください。
(選者・コメント:三重のtomomi)



3.『どこまでやったらクビになるか
著/大内伸哉,発行/新潮社




(まさかこの本が選ばれるとは) この紹介文に目を止めてくださった方々は、労働大国で生きる者として、職場に不満を持ったことがある人が多いと思います。 一見ギョッとするタイトルの本ですが、日々働いている方々にとって、ためになる情報が書かれています。


今はネット社会。 本文内にある 「ネット社会はパブリックな空間」 「勤務時間中のネット遊びは危険」 の項目にドキッとした方もいるのではないでしょうか(あの人告発できたな〜とか、笑) 。また、ネットの書き込みでも、批評・悪口・内部情報の扱いの違いが書かれていましたので、是非ご一読を。


特に、職場に不満をお持ちの方々には読んで欲しいです。 個人的な結論としては 「会社員という立場は、かなり守られている!」
(選者・コメント:ジャスコ)



4.『お菓子「こつ」の科学: お菓子作りの「なぜ?」に答える
著/河田昌子 ,発行/柴田書店




お菓子はなぜ料理より難しいと言われているのか? その答えがいきなり本書の前書きに記載されています。


私は子どものころからお菓子作りも好きだったのですが、「卵白を泡立てるとき、ボウルに油分がついていてはいけない」ことを知識としては持っていました。でも当時のレシピ本に、その理由は記載がありませんでした。20代前半に旧版の本書に初めて出会って、長年の疑問が解消され、しばらくまたお菓子作りにハマったものです。


新版は、より専門書・科学書の要素が強くなりました。見開きページに疑問と解説が記載されているので、読み物としては、どのページから開いても楽しめる作りになっています。


ぜひ手紙舎本店のプリンアラモードを召し上がる時は、本書90ページの「カスタードプリンを作る時、加熱しすぎると気泡の『す』が残ってしまうのはなぜでしょう?」を一読してから味わってください。手紙社の丁寧な仕事ぶりが、より一層理解できますよ。
(選者・コメント:手芸部部長)



5.『とんとんとん! だれかな?
著/ミカエラ・モーガン,絵/デイヴィッド・ウォーカー ,訳/ひがしかずこ やく,発行/岩崎書店




とんとんとん! だれかがドアをたたいているよ。 ドアをあけると……よーく絵を観ると、最初のページに実は結末のヒントが隠されています!  ドアを叩く音がするたび、少年の胸は高鳴ります。そのドキドキ感が、1ページ1ページドアを開くたび、読者にも伝わるしかけ絵本。 たくさんの動物たちが次々と訪れ……。少年の待ち人は一体だれなのでしょう?  最後のドアを開けると……。誰もが幸せに満ちた気持ちになる一冊。 子供たちに読み聞かせをすると、”次に誰がとんとんするか当てっこゲーム”になる楽しい絵本です。
(選者・コメント:きっころ)



6.『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く
著/奈倉有里,発行/イースト・プレス




ことばが好きだという勢いのまま、2002年から20歳でロシアへ渡った奈倉有里さんの、留学時代の回想録です。奈倉さんはペテルブルグで語学を学び、モスクワのロシア国立ゴーリキー文学大学を2008年に卒業されました。


ロシアといえば現代の大問題です。ロシアはなぜ今、なぜ戦争を起こしたのでしょうか。


直球で応える本ではありませんが、奈倉さんの自分への問いかけが胸に迫ってきます。かの地がまとっている空気、そこで暮らす人々、広い国土。奈倉さんが文学を愛し、学問を愛し、出会った人々に深い敬愛を抱き、心から哀しんでおられること。そして文学のなかに世界の応えがあるという、その思いも伝わってきます。
(選者・コメント:まっちゃん)



7.『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
著/末永幸歩,発行/ダイヤモンド社




「たんぽぽを描いてください」 と言われたら、ほとんどの人は花だけ、もしくは花と茎と葉っぱのどれかやその組み合わせを描くことでしょう。 たんぽぽの根が約1mにも及ぶ事は有名ですが、真っ先にそれを思い浮かべる人は少ないでしょう。

この本は、アートって何? という疑問に対して、作品という花の部分がどうかよりも、いかに根を広げていくことが大事なのだという答えを提示しています。 人生を通してどのような根を広げ、どのような花弁をつけたから、このアーティストは評価されているのだという話にはそうだったのかと唸ります。

また単に花だけを上手に作るお花職人が居る(絵が上手であってもアーティストではない)なんて話には衝撃を受けました。 私はお花職人の才能は無いですが、生涯を通してアーティストになることはまだ出来るかもしれないと知ると、あちこちに根を張ろうと伸ばしかけては挫折を繰り返し、いびつな花を着けた自分の姿も認められたような気がしました。 タイトルの通り13歳で読めたらラッキーですが、何歳で出会っても少し人生が豊かになる本だと思います。
(選者・コメント:うさ ことみ)



8.『日本人はどう住まうべきか?
著/養老孟司、隈研吾,発行/新潮社




“これからは自分が住み処に選んだ場所が一種の自己表現になっていく時代だと思います。”


振り返ると実家だったり、一人暮らしのアパートだったり家族との住まいだったり。 色んなところに住んできました。 どんなところに住んでも、住めば都。 家に帰って、ご飯を食べてホッとしたり。テレビを見たり笑ったり。休みの日に朝寝坊したり。そこで誰とどう暮らすかが大事だなとも思います。


でも、この本を読み、どうせなら自分たちらしく暮らせる住まいがいいと思いました。 自分たちらしい住まいってなんだろう?  たとえば好きなコーヒーが、お気に入りのマグカップに入ることでよりおいしく感じるような。好きな音楽を流して飲むことで香りも際だつような! どう住まうか? は、どう生きていくか? なのです。 皆さんもぜひご読んでご一考を。
(選者・コメント:田澤専務)



9.『科学はこのままでいいのかな ─進歩?いえ進化でしょ
著/中村桂子,発行/筑摩書房




著者はゲノムを基本に生きものの歴史と関係を読み解く「生命誌」の提唱者。 生命科学について考えているうちに、生きているってどういうことだろう? という疑問を持った著者による、科学が明らかにする事実を生き方につなげていくことに挑戦する本です。


疑問に対して文学や哲学からではなくて科学から考えることは、自然科学と人文・社会学を繋げて生命論という大きな知で世界を見ることにつながる。一つ一つの過程を丁寧に重ねていくこと。急がず事実をよく見つめ、疑問を持ち自分で考えることによって新しい考え方を生みだす必要性を、科学的な実例をもとに繰り返し語り続けます。


ちくまQブックスは10代の若者向けの薄くて読みやすい本ですが、10代だけなんてもったいない!  巻末に載っている「この本の次に読んでほしい本」という本の紹介文も必見です。
(選者・コメント:井田耕市)



10.『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門
著/梶谷真司,発行/幻冬舎




本書は手紙社リストVol.7”本”編の「水中の哲学者たち / 永井玲衣」にも登場する「哲学対話」についての入門書です。「哲学」というと、気難しいおじさん達が喧々諤々口論するイメージがありますが、哲学対話の場には赤ちゃんがいてもいい。無理して話さなくてもいい。話がまとまらなくてもいい。そこからも考えることが始まります。 私が印象に残ったのはこんな一節。


“私たちは生まれてから(あるいは生まれる以前から)、他の人との間で、他の人といっしょに生きている。最初の自由の感覚は、そこで身につけたはずだ。その時他者は、自由の障害ではなく、むしろ前提だったにちがいない。 (中略) 私たちの自由を妨げるのが他者なら、私たちを自由にしてくれるのも他者だということは、実は大人になっても変わらないはずだ。”


はてさて、どういうことか、一緒に考えてみませんか。
(選者・コメント:部員S)