前月の手紙社リスト“本”編で花田菜々子さんがセレクトした同じテーマで、手紙社の部員が10冊選んだら? 今回のテーマは「メッセージ性のない本」。すべての本にはメッセージがあるとも言えるわけで、なかなか難しいテーマでしたが、手紙社の部員の解釈や、いかに?
✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!
1.『新解さんの謎』
著/赤瀬川原平,発行/文藝春秋
この本は、少し風変わりな辞典、新明解国語辞典を赤瀬川氏が「新解さん」と呼び、謎解きを図る随筆です。まずは、過激なところから始まりますが…
“ー馬鹿ー
「記憶力、理解力の鈍さが常識を超える様子。また、そういう人」”
何もそこまで…、と思うと補足がある。
“「公の席では刺激が強過ぎるので使わない方がいい」”
とアドバイスをくれる。
また、新解さんの醍醐味は、例文にあると言っても過言ではない。家がシロアリに食われたり、刑事に疑われたり、苦労も多い。世の中を嘆き、物思いに耽る。とにかく人間臭くて、波乱万丈の人生の物語であるかのようなのです。
言葉はこの世の中で沢山の役割を果たしている。ある言葉の意味は厳しくつらいことの表現かもしれない。一方では微笑ましい事柄を表すのかもしれない。そう新解さんが言っているように思いました。皆様よかったら本屋さんで新解さんの頁をめくってみてください。
(選者・コメント:ハルツムギ)
2.『『ことばのべんきょう4 くまちゃんのかいもの』
著/かこさとし,発行/福音館書店
くまちゃんが家族で買い物に出かけて、爆買いし、帰っていく……。ただそれだけの内容ですが、さすがにタイトルが「ことばのべんきょう」なだけあって、たくさんの「言葉」が出てきます。特別なメッセージ性はなくとも、絵本好きな方(大人も子どもも!)ならば、自ら「メッセージ」や「意味」を考えだせちゃうのかもしれないです。
昔の発行なので内容はやや(?)古いですが、現在でも楽しく眺められると思います。特に大人になると「自分のためだけに」絵本を読む時間って無くなっちゃいますよね。大きくなってからの絵本の時間は、子どもの頃にはなかった新しい発見や感想が湧いてくるものです。
今日は自分のために絵本の時間を設けてみてはいかがでしょうか。 肩の力を抜いて読めるこの絵本だからこそ、特別な時間のお供にぜひ!
(選者・コメント:ゆうこスティーブ)
3.『たぷの里』
著/藤岡拓太郎,発行/ナナロク社
「たぷ」
ただそれだけです。
メッセージ性などありません。
むしろメッセージなど受け取ってはいけません。
「いつも一緒だよ、たぷの里」なんて、ただのキモいおっさんです。
「たぷの里はどこ?」なんて、陽キャイメージでもありません。
「たぷの里が来る」なんて、ただのホラーです。
ひたすら「たぷ」を楽しむ。
それが「たぷの里」なのです。
(選者・コメント:みやこ)
4.『とるにたらないものもの』
著/江國香織,発行/集英社
きらきらした何かが詰まった本である。それぞれ3ページに満たない短さで、好き。まだまだ。苦手。いい。足りない。無性に好き。かなり幸福。そんな瞬間を切り取っている。
江国さんにかかれば、石けんで手を洗う感触は「ほとんど官能的なまでの愛らしさ」だし、箱にどっさり入った輪ゴムは「贅沢」で、箒と塵取りは「たたずまいが可憐」とくる。
目次に並んだ版画文字がまた良いのである。書いてあるのは輪ゴムだが。いい。
(選者・コメント:まっちゃん)
5.『本漫画』
著/和田誠,発行/中央公論新社
この絵を見たら誰もが和田誠さんの絵だ! とわかります。どのページも言葉はなく、一コマ漫画になっていて、本を読んでいる人が描かれています。言葉は一つもない。意味があるようで、特にメッセージは感じられません。でも、どの人・動物・童話の世界の人も熱心に本を読んでいる。本を読むとこんな姿勢になるよね、夢中になると周りが見えないよねと、「自分の本を読む姿もこうだな」と思いながら気軽に読めます。オススメします。
(選者・コメント:三重のtomomi)
6.『死ぬまでに見たい! 絶景のペンギン』
著/澤井聖一,発行/エクスナレッジ
息を呑むようなブルーの美しい氷の世界と愛らしいペンギンたち。どのページを開いても見応えたっぷりです。動物園では出会えない珍しいペンギンや、ペンギンの生態、南極の気候まで気軽に知ることができますよ。
本の中のペンギンたちは、押しくら饅頭のように集まって寒さを凌いだり、巨大なクレバスの前で立ち止まったり、厳しい寒さの中、氷の上を懸命に生きています。そんなペンギンたちの姿に勇気づけられたり、赤ちゃんのもふもふの毛並みに癒されたり…。開いたときの自分の気持ちに寄り添ってくれる本です。
(選者・コメント:ひーちゃん)
7.『日本懐かし団地大全』
著/照井啓太 ,発行/辰巳出版
刺さる人には刺さる、そうでない人には何故に? と首をかしげられる「日本懐かし大全シリーズ」の「日本懐かし団地大全」。
昭和の団地(手紙舎本店のある神代団地も掲載されています)を徹底特集したこの本には、数多くの団地の写真のみならず、公園遊具、給水塔といった特定のマニアが喜ぶ特集も。
団地の価値が見直されつつあるという令和の時代、「ノスタルジー」「レトロ」「古くて新しい」…あなたはこの一冊から何を感じ取りますか?
(選者・コメント:マリー)
8.『ほとんどネコのこと 岩合さんの月曜日』
著/岩合光昭,発行/クレヴィス
写真家・岩合光昭さんといえば、世界中の猫に会いに行っては、それが写真集になったり番組になったりする、猫好きにはたまらんおじさまです。そんな岩合さんも、コロナ禍での仕事が激減・外にもでられない日々は、さすがに落ち込んだとのこと。そんな落ち込む背中に家族は提案します。月曜日のごはん当番とそれをTwitterに投稿することを。こちらはその投稿を連ねた1冊です。
「こんなに家にいるのは何十年ぶりだろう」というつぶやきから始まる投稿は、確実に腕をあげていく料理写真より、岩合さんを見守る猫2匹の写真がどんどん多くなっていきます。目で追うこちらはなんだかニマニマ。そして、やっと外にでる仕事が戻ってくると 猫たちに留守番を頼みながら岩合さんはつぶやきます。「出発日が辛くなります」と。
この本が発売されたのは2022年2月22日の にーにーだらけの猫の日。猫好きなおじさまが、猫に元気をもらっていく姿にニマニマしちゃう一冊です。
(選者・コメント:KYOKO@かき氷)
9.『あたりまえポエム』
著/氏田雄介,発行/講談社
「心を動かし疲れたあなたへ」と、本の冒頭にあります。感性豊かな言葉や感動など何もなく、ひたすら当たり前のことを、さも、特別なことのように書いてある作品集です。ゆれるのは心ではなくて、笑ってゆれるお腹でした。腹を抱えて笑いたい方へ。
(選者・コメント:ぬりえ)
10.『まさか逆さま』
著/中村航,イラスト/フジモトマサル,発行/キノブックス
主役は回文。最初から読んでも、終わりから読んでも同じに読める回文です。準主役はイラストと文章。意味がわかるような、わからないような回文(失礼!)も、1枚のイラストで、その光景が見えてきます。文章で物語が生まれます。例えば、こんな回文。
“『満月は発言魔』(まんげつははつげんま)。”
満月が、どこで発言するの、しかも魔、とな。なんのこっちゃ? 安心してください。ちゃんと物語が生まれてますよ。
『まさか逆さま』(まさかさかさま)も回文ですが、どうやらタイトルだけのことではなさそうです。逆さまの巧みさに驚きながら、気楽にお楽しみください。
まだスペースがあるので作文にチャレンジ。
夜に回文乱舞 イカ煮るよ
(よるにかいぶんらんぶ いかにるよ)
もっとうまい回文は、この本の中にありますよ!
(選者・コメント:mayuko)