これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?



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第8回「好きな人の本心を知りたいときは?」

 

月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。もうすぐバレンタインデーですね。


私が小中高生の頃は、バレンタインは一大行事で、誰にどんなチョコレートを贈るか、友達同士で大騒ぎしていました。けれども近年の傾向は、好きな人に愛の告白をすることと同じくらい、自分自身で好みのチョコレートを味わう時期として楽しむ人が増えているようです。それというのも昔に比べて、バレンタインやクリスマスなど特別な行事に頼らずとも好きな人に気持ちを伝えることがしやすい時代的な風潮もあるのだと思います。



日本で最初にチョコレートのバレンタインギフトを提唱したのは、メリーチョコレート。1958年(昭和33年)に、都内の百貨店で始めてバレンタインフェアを開催した際には、3日間の売り上げが、板チョコレート3枚、メッセージカード1枚、計170円だったというから驚きです。翌年にはハート型のチョコレートに、鉄筆で「TO」「FROM」と書き、自分と相手の名前を入れることができるサインチョコレートを発売したことで注目を集め、バレンタインが世の中に浸透していったそうです。


1960年頃は、女性誌が次々に創刊され、自分らしく自由に生きる、女性の生き方が見直されていたとき。それまで女性は控えめであることが美徳とされてきましたが、はっきり気持ちを伝えたり、自分を表現できる女性が増えてきたことと、バレンタインの広がりは、深く結びついているようです。

前置きが長くなりましたが、今回お答えするのは、なつめさんからの恋愛相談。



【今月のお悩み相談】

相談者:なつめさん

恋愛相談です。

会社内で好きな人ができ、告白しましたが「友達からお願いします」と言われてしまいました。今まで通りに遊んだり、職場内で話しかけたりしてほしいと言われました。その後、凧あげに行ったり、職場内ではお菓子のやり取りをしたりと告白する前のような感じが続いています。

みんなに優しい人なので、いつもにこにこしていますが、本心が分かりません。それとなく本心が知りたい場合、どうすればよいでしょうか?

よろしくお願いします。



最初になつめさんへ、好きな人に思いを伝えたことに拍手を送ります!

同じ職場の方に告白するのは、大きな勇気を要したこと思います。好きな人に好きという気持ちを伝えることができてよかったですね。全てはそこから始まりますものね。

彼の「お友達から」という言葉に、どんな気持ちが隠れているのかは分かりません。なつめさんを応援する側に立つ私は、“好意はあるけれど恋愛感情にはいたっていないのでもっとよくお互いを知ってから”という意味が込められているのかな、と捉えたくなりますが、それはあくまでも一方的な解釈。彼の返事を尊重することも大切ですから、へんに想像を膨らませすぎたり、期待するのは差し控えることにします。


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よく大人の恋愛マニュアルなどでは、「それ以上仲良くなると恋愛でなく友達になるのでNG」などという例が出てきますが、私の考えは、“お友達から上等!”。友達関係からお付き合いを始めた人たちを何組も知っていますし、恋愛感情がある相手に対して恋愛以前に、友達として気軽に誘ったり話したりできる関係性が築けることは、なんてステキなことだろうと思います。


これまで、なつめさんと彼が、どのような遊びをされてきたのか詳しくは分かりませんが、“いつもにこにこ、みんなに優しい彼”と凧あげに行ったと聞いて、穏やかな時間をともに過ごしたことが伝わってきました。そのつど勇気を要しますが、またなつめさんから「今度〇〇に行きませんか?◯◯さんの都合のいい日があれば教えてください」とお誘いし、それが実現できたときには、一緒にいる間に「今度は◯◯しませんか?」と、次の約束ができたらなによりですね。


もしくは二人の会話の中で、彼の趣味、得意なこと、行ってみたい場所ややってみたいことを聞いて、「案内してください」「教えてください」と彼に委ねてみると、より彼を知ることにつながるなあと思います。遊びに行く頻度は、彼にも友達としてのペースがあるはずなのと、なつめさんの心にも負担がかからないように、のんびりかまえてくださいね。

なんとなく、一緒に凧揚げを楽しめる彼には、“善は急げ”ではなく、“急がば回れ”の心持ちで接する方が向いているような気がしまして。




とはいえ、恋をすれば、一刻も早く相手の気持ちが知りたいし、お付き合いしたいという理想があれば、いい結果につなげたいと思うのは自然なこと。なつめさんの、もどかしい気持ちが膨らみすぎてもいけませんし、いつまででも“片想いでも自分の気持ちを貫きましょう”とも思いません。

最初は、なつめさんと彼のお友達としての時間を増やし、今以上に少しずついろいろなことを話せるようになったら、「お友達から」という言葉の中に、どんな気持ちや迷いが隠れているのか、ストレートに尋ねてみてはいかがでしょう。そうして頃合いをみて、再びなつめさんの気持ちを伝えてほしいです。彼には「あなたの返事次第で、私は気持ちを切り替えます」と示すことが、お互いにとって気持ちのよい未来につながるような気がします。

優しい彼を尊重しながら、なつめさんが恋する気持ちを大切に育てた経験は、これからのなつめさんをより輝かせてくれるはずです。


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私も以前、好きな人に思いを伝えたとき、「今この時点でお付き合いできないけれど、これからもでかけたり食事をしていきたい」と返ってきたことがありました。そのとき、なつめさんに提案したようにまっすぐに「変に想像したり期待したり不安にならないように、これからも自然に接することができるように、◯◯さんが今私に抱く印象や、恋愛や生活で大切にしていること、不安になることを聞いてもいいですか?」と伺ってみたところ、彼も真摯に胸の内を話してくれました。彼なりに、私のことをどう思っているか、その時点でお付き合いにはいたらぬ理由を。

それからはゆっくり負担のない頻度で彼を誘い、もっとお互いが一緒にいて楽な関係になれるように努めました。あくまでも重々しくない気軽な雰囲気で、けれども互いに他の人にはしにくい深い話しができるようにと。

これは人それぞれ価値観が異なるので、私の場合という一例ですが、負担のない頻度というのは月に1~2回、ゆっくりというのは半年ほど。彼への気持ちは変わらずとも、あまり長引かせすぎても自分の心が疲れてしまうので、ほどよい距離を保ちながら、ときどき展覧会に出かけたり食事を続けて、半年後くらいに再び気持ちを尋ねてみようと決めました。

 




なつめさんの相談が、かつての自分と重なる部分があったので、夢中で語ってしまいましたが、心から応援しています! 一番大切なことは、なつめさんの気持ち。納得できる選択をしてください。

ときに思いきっていい。つらくなったら諦めていい。自分自身への優しさも忘れずに、彼の本心にたどり着けますように。


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甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2021年4月には『たべるたのしみ』に続く随筆集『くらすたのしみ』(ミルブックス)が刊行。