「ヨハク」渡邊かおりさんにお話をうかがいました

にじんだ色彩に重なる色合い、ちりばめられた数字やスケッチの断片など、優しくみずみずしいデザインで紙ものや文具を制作する「ヨハク」。これまで100種類以上を発表してきたマスキングテープをはじめ、スタンプや付箋、メモ帳など多彩なアイテムを展開しています。そのどれもが、主張しすぎず、けれどたしかな彩りを添えてくれるものばかり。使い手に寄り添った、柔らかなデザインはどうやって生まれるのでしょう?

その秘密は、渡邊さん自身の「紙」への愛情と、インスピレーションにありました。




スクラップブッキングから始まったものづくり

「ヨハク」は、北海道・札幌市の丘の上に建つ自宅兼アトリエで、渡邊かおりさんがひとりで描画からデザイン、制作や発送業務まで行っています。今ではさまざまな店やイベントで目にする「ヨハク」のアイテムですが、こうした「製品」として自身のデザインを発表するようになったのは数年前からのこと。それまでは、コラージュやスクラップブッキングといった一点ものの作品を個展などで展示していました。




「子どもが生まれたことをきっかけに、スクラップブッキングでアルバムを作りはじめました。元々凝り性なので、やり始めたらどんどん面白くなって、作ったものをブログで発表していたんです」




当時は、SNSが今のように広がっておらず、インターネットでの発信はブログが主力の時代。ブログでの発表の傍ら、大好きなアメリカのスクラップブッキングのメーカー<Crate Paper>のコンテストに作品を応募。コンテストで優勝したことをきっかけに、DTチーム(提供された素材を使ってデザインを考案するメンバー)の一員として活動することになりました。さらに、フランスのスクラップブッキング雑誌『Esprit Scrapbooking』からも声がかかり、こちらでもDTチームの一員に。言語を超えて、視覚的に「好き」を共有できる仲間とつながっていくという体験が、制作の原動力になりました。

「紙が好きで、古い紙や旅で見つけたいろんな紙(チケットやキヨスクのレシートまで!)をコレクションしていたので、それを使うのが楽しくて。ロウ引きの手法なども、海外の動画を見て研究して教え合ったり。SNSなんてなかった時ですが、共感してくれる人が世界中にいることがうれしかったです」




作ったものが「製品」になるのを見てみたい

そんな活動は国内でも目に留まり、コラージュのワークショップや個展を行ったり、ショップカードのデザインを依頼されたりするようになりました。けれど、一点物の作品の良さを理解する一方で物足りなさや、クライアントワークゆえの難しさも感じて、立ち止まります。




「最初から今のように紙博など全国的なイベントに出店するようになるなんて、想像もできませんでした」

自分自身が紙が好きでコレクションしていたように、デザインしたものを「素材」としてたくさんの人に集めたり、使ったりしてもらえたら……。そんな夢を抱いたとき、真っ先に浮かんだのが、コラージュにも日常的にも使いやすいマスキングテープでした。ところが……

「最小ロットの数量が当時の私には多すぎて、とても無理だと思いました。でも、諦めずに調べていた時に少ない数からでも作ってくれる業者さんと出会うことができて『これなら始められる』と思ったんです」

そんなふうにして、初めは2型だけのデザインからスタートした「ヨハク」のものづくり。展示やイベントで販売するうちにたちまち人気者になり、どんどん種類が増えていきました。

「自分も紙ものが好きなので、イベントなどで楽しそうに選んでくださっている様子を見るたびに『やっててよかったな』って胸が熱くなるんです」



最初のデザインのベースとなったロウビキのコラージュパネル



1番最初のデザイン「ロウビキ」



形ないものにカタチを与える

たくさんの製品を送り出すようになっても、デザインを起こすときはまず、紙に触れ、手を動かすところから。スクラップブッキングやコラージュで培ってきた組み合わせのセンスと、紙という素材への愛情が「ヨハク」の原点です。




みずみずしさ、柔らかさ、晴れやかさ、キリリとした印象……と多種多様な絵柄と、それぞれに付けられたイマジネーションが広がるタイトルは、ヨハクさんの身近にあるさまざまなものごとが発想源となっています。

「窓から見える朝日の光だったり、緑の色だったり、景色や空間からイメージをふくらませることもあります。私はチェンバロやバロックバイオリンといった古楽器が好きで、アトリエではよくかけているので、その音楽から着想を得ることも。古楽器の音色って透明感があって、響きがすごくきれいなんですよ」



窓から見える朝焼けの景色



北海道の菜の花畑


透明感と響き。

それはまるで「ヨハク」のデザインから受ける印象そのものではないでしょうか。光、色、風、音……。見えないものやはっきりと輪郭のないものの印象を受け取って、目に見えるカタチへと変換し、組み合わせる。「ヨハク」の図案に、美しい風景や記憶をたどるような心地よさがあるのは、カタチを受け取った私たちが、ふたたび見えないものへと思いを馳せることができるからなのかもしれません。

素材として、道具として、忘れたくない心象風景のカケラとして、日々にそっと彩りを添えてくれる「ヨハク」の品々。その佇まいはさりげなく、ひかえめだけれど、いつまでも聞いていたい音楽のように使う人に寄り添ってくれるはずです。(文・大橋知沙)








渡邊かおり(わたなべ・かおり)
北海道在住。コラージュや水彩を組み合わせたデザインで、マスキングテープを中心にオリジナルの紙雑貨・文具を多数手がける。スクラップブッキングでアメリカのメーカーやフランスの専門誌などのDTチームに参加したのち、2016年「ヨハク」として初のオリジナルグッズを発表。2018年、手紙社主催「紙博」参加。以後各地の「紙博」などのイベント出展のほか、全国の取扱店で新作を発表している。年賀状デザインの掲載に『大人かわいいデジカメ年賀状』などがある。

Web site:http://yohaku.in.net
Instagram:@____3_1