あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。21回目となる音楽編は、年末ということで、紅白歌合戦ならぬ『TVアニメ・特撮ヒーロー/ヒロインもの歌合戦!』を開催します! なんだかワクワクするテーマですねー。今回も、まずは部員さんが選ぶ10曲を。その後いつものように堀家教授のテキスト、堀家教授が選ぶ10曲と続きます。史上最高の盛り上がりをみせたみんなの推薦曲。10曲にえらばらたのは……?
手紙社部員の「TVアニメ・特撮ヒーロー/ヒロインもの」10選リスト
1.〈すきすきソング〉水森亜土(1969)
作詞/井上ひさし,山元護久,作曲/小林亜星
『ひみつのアッコちゃん』ED
ひみつのアッコちゃんのエンディング曲です。大人気アニメで、歌われ続けているので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。とにかく理屈抜きに「かわいくてかっこいい」に尽きます。シンプルな曲に小さい子供でも覚えやすい歌詞、ノリノリのリズム、亜土ちゃんの声、すべてがパーフェクトです。そして、コーラスというのか、合いの手が60年代らしくて楽しいです。初めて聴く方も好きになること請け合いです。
(のぶこ)
2.〈幸わせをはこぶメルモ〉桜井妙子(1971)
作詞/岩谷時子,作曲/宇野誠一郎
『ふしぎなメルモ』ED
ふしぎなメルモのエンディング曲は、曲もさることながら、映像が素晴らしくかわいいです。メルモちゃんは、キャンディを食べると大人になったり、赤ちゃんになったり、別の動物にもなれますが、そのキャンディを妖精さんたちが作る工程の映像です。それこそ、最初にみたのは5歳くらいらしいですが、その妖精さんが一生懸命キャンディを作る内容はしっかり覚えていました。今回、これを紹介しようと改めてみたところ、変身キャンディの素が、火の鳥の卵だったと気がついて、更に感動が深まりました。5才子供が見るアニメにしては、曲も凄くしっとりしてステキです♪
(ぬりえ)
3.〈ペペロの冒険〉 堀江美都子(1975)
作詞/梅図かずお,作曲/山下毅雄,編曲/筒井広志
『アンデス少年 ペペロの冒険』OP
某少年は母でしたがこちらは父を訪ねて少年が旅をするアニメ。「コンドルは飛んでいく」オマージュのイントロ、民族音楽風からのダイナミックな転調とリズムの良いサビが大好きで、OPを聴くたびにワクワクしていました。ヒロインである記憶喪失の少女ケーナとのラブ感も良かったのです。アンデスという舞台も冒険心をくすぐった大好きな作品(と、音楽)。作詞はなんと赤と白の縞々のあの方です。
(MIYAKO)
4.〈誰がために〉成田賢,こおろぎ’73(1979)
作詞/石森章太郎,作曲/平尾昌晃,編曲/すぎやまこういち
『サイボーグ009』OP
好きなアニメの楽曲はたくさんありますが、一曲選ぶとしたら、石ノ森章太郎さんのサイボーグ009の主題歌です!
戦争のために人間兵器として改造手術をうけながらも、9人のゼロゼロメンバーサイボーグたちは、組織に反旗を翻し、世界から争いを無くすために戦うのだ−(ホームページより)。
いろいろな国から集められ、それぞれに特殊能力を身につけた9人。「だが我々は愛のため/戦い忘れた人のため」。サイボーグである事への葛藤を抱えながらも、人々のために戦う姿に、毎回胸を熱く熱くしていました。この曲を聴くと、強く、やさしく、ユーモアも忘れないかっこいいゼロゼロメンバーたちに憧れていた気持ちを思い出します。どこを切り取っても本当にドラマティックです。
(hidemi)
5.〈夢色のスプーン〉飯島真理(1983)
作詞/松本隆,作曲/筒美京平,編曲/川村栄二
『スプーンおばさん』OP
元になったノルウェーの童話シリーズを子供の頃に読んでいたので、懐かしくてアニメを時々見ていました。ペンダントにしているスプーン位に小さくなったり元に戻ったりするおばさんが、「あらあらまぁ、どうしましょ」と戸惑いながら冒険するほっこりストーリー。スプーンをテーマにこんな素敵なオープニング曲ができるなんて! と思っていましたが、松本隆 / 筒美京平コンビの曲だったのだと今回知りました。曲調の変わる「でもだれか知りませんか~ しあわせとふしあわせ かき混ぜる~」の部分が後半の開放感につながっていいです! そしてエンディング曲もですが、可愛い曲にのびやかな歌声が魅力。飯島真理は、TVシリーズ超時空要塞マクロスの劇中歌をリン・ミンメイ(アイドル)として歌っていたのを聴いていましたが、いかにもアイドルっぽい曲より、この曲や「1グラムの幸福」の方が、当時は好きでした。
(はたの@館長)
6.〈Angel Night 天使のいる場所〉PSY•S(1988)
作詞/松尾由紀夫,作曲・編曲/松浦雅也
『シティハンター2』OP
アニメ「シティーハンター2」主題歌。摩天楼を俯瞰する感覚、夜の都市感すごく好きです。このアニメに合ってますね! いまみちともたかさんのバッキングギターもカッコいいです。PSY•Sって奇跡的なバランスのユニットでしたね! アートとサイエンスの融合、未来感。南流石のダンスとかアートワークも革新的でした。今聴いても色褪せません! この曲を収録しているNON-FICTIONというアルバムぜひ聴いて欲しいです。
(田澤専務)
7.〈謎〉小松未歩(1997)
作詞・作曲/小松未歩,編曲/古井弘人
『名探偵コナン』OP
「名探偵コナン」自体ほとんど見てなくてよくわからないのですが、この曲を聴いた瞬間、歌詞の内容とメロディーに衝撃を受けました。ビーイング系アーティストって登場の仕方がいきなりで、ある日突然いなくなることが多い印象ですが、Wikipediaで調べたところ現在の小松未歩さんは引退に近い状態と知りました。とても残念ですが、デビュー25周年記念の今年5月に楽曲がサブスク解禁されたそうです。この機会にもう一度見直されて良いアーティストだと思います。
(れでぃけっと)
8.〈DANZEN!ふたりはプリキュア〉五條真由美(2004)
作詞/青木久美子,作曲/小杉保夫,編曲/佐藤直樹
『ふたりはプリキュア』OP
初代プリキュアのオープニングテーマです。女学生が変身して戦うので、歌詞にも学生らしさがいっぱい詰め込まれています。そして元気いっぱい、前向きな歌詞で活力が貰えます。余談ですが、次作のふたりはプリキュアMax Heartの主題歌は、この曲にMax Heartなど少しコーラスとか付けて豪華にしただけのアレンジ楽曲が使われています。
(龍姫)
9.〈ノルニル〉やくしまるえつこメトロオーケストラ(2011)
作詞・作曲/ティカ・α,編曲/江藤直子
『輪るピングドラム』OP
「輪る(まわる)ピングドラム」という、2011年の深夜アニメの、オープニングテーマです。「生存戦略、しましょうか」「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」などキャッチーな台詞が印象に残るアニメでした。ビジュアルデザインがとてもおしゃれで、各所に散りばめられたパロディやオマージュも楽しく、隅から隅までじっくりと観ていました。「ノルニル」は、意味深なようでしっかりとアニメの内容に則った歌詞を、やくしまるえつこのウィスパーボイスが歌い上げます。どこか幼く、弱々しいような歌声は、主人公達を、「何者にもなれない」存在だと、印象付けるようでした。難解な物語でしたが、演出が素晴らしく「なんかわからないけどすごく感動した」という記憶だけはしっかり残っていて、イントロを聴くと泣きそうになります。
(ぷりん)
10.〈ミックスナッツ〉Official髭男dism(2022)
作詞・作曲/藤原聡,編曲/Official髭男dism
『SPY×FAMILY』OP
北島家ラジオでも話題になっていたSPY×FAMILYの主題歌。北島さんとたいちろうさんがアツく語っていたのを聴いて、配信と少年ジャンプ+で一気見してファンになりました。音の渦に飲み込まれてしまいそうなイントロから始まり、リズムも刻々と変化する、ジェットコースターみたいな楽曲です。アーニャ、ロイドさん、ヨルさんの複雑な心理戦の世界観が表れていてとっても面白いなと思います。曲の名前の「ミックスナッツ」はアーニャの大好物のピーナッツから着想したんだとか。木の実ばかりのミックスナッツの中に紛れ込んでいる、ピーナッツ。実はこれだけ土の中にできるそうです。スパイみたいですよね(笑)。ミュージックビデオはまた違ったストーリーが描かれていて次の展開が気になるハラハラドキドキ系です。ぜひまだの方はご覧ください!
(ひーちゃん)
TVアニメ・特撮ヒーロー/ヒロイン、あるいは歌謡曲の戯画
子どもの領分
アニメーション作品も特撮ヒーロー/ヒロイン作品も、もともとは映画からはじまっています。
そもそも映画を成立させる機構そのものが、1/24秒ごとに機械的に撮影された連続写真によるコマ撮りアニメーションであるとも理解できますが、実写映像に拠らない手描きの図画を時間軸上に継起させ、それゆえかつては漫画映画と呼ばれもした狭義のアニメーション作品でさえ、現存する最古のものに限ってみても、1917年には日本でもすでに短編『塙凹内名刀之巻』が製作され、上映されています。
図画で物語を説く漫画が子どものためのメディアとして発展してきたように、アニメーション作品もまた子ども向けの、あるいは子ども騙しのコンテンツと高を括られ、むしろこのことを理由に教育映画に採用されてきた経緯もあります。加えて、『白雪姫』(1937)以来、ウォルト・ディズニーのスタジオが童話やおとぎ話を原作にした長編作品を発表してきたことも、アニメーションを子どもの領分に固定する要因のひとつにはなったでしょう。
日本でもやはり、ディズニー映画を目標として東映動画が発足し、『白蛇伝』(1958)を完成させています。その後、高畑勲の演出による『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)が製作されるなどするなか、手塚治虫が自作漫画のアニメーション化に着手すべく虫プロダクションを設立し、やがて国産の連続TVアニメ番組の嚆矢となる『鉄腕アトム』(1963)の放送が開始されます。
特撮ヒーロー/ヒロイン作品の起源として、たとえば牧野省三が監督した忍術映画『豪傑児雷也』(1921)は、読本から歌舞伎、講談などで扱われてきた妖術を操る義賊を主人公に、映画ならではのトリック撮影や二重焼きといった編集の効果を存分に発揮しています。
こうした撮影や編集における特殊効果をめぐって、とりわけ戦時中に東宝映画文化部が戦意高揚的な国策指針に積極的に加担するなか、かつて衣笠貞之助の『狂った一頁』(1926)に撮影助手として関与した円谷英二は飛行機の空中撮影やミニチュア撮影を駆使した空襲爆撃場面の表現に余念なく、これが山本嘉次郎の監督作品『ハワイ・マレー沖海戦』(1942)における真珠湾攻撃の再現へと結実します。
戦後の東宝争議のさなかに公職追放されていた円谷のこうした映像表現上の成果は、追放を解かれた彼が東宝に復帰して携わった本多猪四郎の怪獣映画『ゴジラ』(1954)であらためて最適化の環境を見出します。テレビ時代の到来を看取してか、のちに東宝との専属契約を解除した円谷は特殊映像のための自前の制作会社を起こし、ここで『ウルトラQ』(1966)が、さらには『ウルトラマン』(1966)や『ウルトラセブン』(1967)が誕生するのです。
TVアニメの現場で手塚治虫の功績につづいたのは、『鉄人28号』(1963)の横山光輝や『オバケのQ太郎』(1965)の藤子不二雄、『おそ松くん』(1966)の赤塚不二夫といった、トキワ荘周辺の漫画家たちの作品を原作とした番組でした。また、実際にはすでに『ナショナルキッド』(1960)が口火を切った特撮ヒーロー/ヒロイン番組についても、わずかではあれ『ウルトラマン』に先んじるかたちで手塚の原作による『マグマ大使』(1966)が登場しており、やはり横山の原作である『ジャイアントロボ』(1967)などのほか、なにより石森章太郎の『仮面ライダー』(1971)が漫画の勢いをブラウン管に的確に投影することになります。
プロパー/タイアップ/レディメイド
このように、テレビにおけるアニメーション番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組は、いわば漫画の延長線上にあったうえに、その放送時間帯から考慮しても、まぎれもなく子どものためのものでした。のみならず、NHKによる最初の国産アニメーション番組の放送を、宮崎駿の演出による『未来少年コナン』(1978)まで待たなければならなかったことに象徴的なように、TVアニメについて、大人たちはこれを単なる子ども扱いどころか稚拙で馬鹿げたくだらないものとみなしていたわけです。
漫画やTVアニメに限らず、子どもを対象にしたさまざまな表現は、生真面目な大人たちにとっては、その文化表象における夾雑物として蔑まれる傾向にあります。たとえば、児童番組で発表された〈およげ!たいやきくん〉(1975)さえが、日本の音楽産業史上もっとも売れたシングル盤であるにもかかわらず、その由来ゆえに日本レコード大賞に一顧だにされませんでした。要するにそれは、テレビ時代の童謡として扱われ、歌謡曲の資格を承認されることすらなかったのです。
TVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌であればなおさらです。
というのも、そうした子ども向けの番組の放送が開始されて以来、その主題歌は当の番組そのもののために制作されることがもっぱらだったからです。実際、その歌詞には、番組の主人公を含む登場人物の名称や物語の状況設定にまつわる鍵概念などが織り込まれ、この楽曲が番組から独立して自律的に機能することをあらかじめ禁忌としていました。
そうした時代のTVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌とは、つまるところこれらの番組に“プロパー”の楽曲だったわけです。そしてこうした時代に、TVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌の作曲に積極的に関与し、ほとんどそれ専門に受注していたかのように量産しつづけた音楽家として、渡辺岳夫と渡辺宙明がいます。
渡辺岳夫は、映画音楽の作曲家として経歴を重ね、『眠狂四郎無頼控・魔性の肌』(1967)や『緋牡丹博徒』(1968)、『遊び』(1970)や『ゴキブリ刑事』(1973)といった映画作品の劇伴音楽を発表していました。
そのかたわらで、『巨人の星』(1968)を皮切りに、1970年代以降の映画産業の相対的な地位の低下もあって、『機動戦士ガンダム』(1979)に至るまで、スポ根ものや魔女もの、ギャグものや名作文学もの、歴史ものやロボットものなど、あらゆるジャンルのTVアニメ番組に主題歌を提供しています。
渡辺宙明もまた、映画音楽の作曲家として、『怪談かさねが渕』(1957)や『毒婦高橋お伝』(1958)、『東海道四谷怪談』(1959)といった中川信夫監督作品に携わったほか、『忍びの者』(1962)、『博奕打ち 不死身の勝負』(1967)、『眠狂四郎無頼控 人肌蜘蛛』(1968)、『傷だらけの人生』(1971)等の劇伴音楽を担当しています。
加えて、『マジンガーZ』(1972)のような事例もありますが、彼の場合にはむしろ、『人造人間キカイダー』(1972)や『イナズマン』(1973)、あるいは『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)や『仮面ライダーBLACK』(1987)に代表される、石森章太郎の漫画原作を中心とした特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌で知られています。
歌謡曲の戯画
かつてTVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組に密着する“プロパー”の楽曲だった主題歌は、やがて1980年代には、もはやその歌詞に番組の主人公を含む登場人物の名称や物語の状況設定にまつわる鍵概念などを織り込まず、だから番組から独立して自律的に機能することも可能な、自由度の高い“タイアップ”のかたちで採用される楽曲が増加します。そればかりか、あらかじめ番組とは無関係に存在している“レディメイド”の楽曲を主題歌に採用するTVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組も散見される時代を迎えます。
いうまでもなく、これらは子どものための楽曲ではありません。それらは、いわば一般的な歌謡曲として流通しうるような、またはすでに一般的な歌謡曲として流通しているような、表象文化の主調そのものです。
それでもなお、TVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組における主題歌の本質は、“プロパー”の楽曲のうちにあります。生真面目な大人たちにとっては口に出すのも憚られたはずの、番組の主人公を含む登場人物の名称や物語の状況設定にまつわる鍵概念を露骨に謳い込み、もっぱら子どものために歌われることを、さらには子どもたち自身によって歌割れることをも潔く前提とするそれらは、一般的な歌謡曲ではけっして賄えないだろう単純さ、わかりやすさを信条とします。
明確にして劇的な楽曲の構成、覚えやすく印象的な旋律の起伏、力強さや可憐さを前景化させた仰々しいな歌唱。よりかっこよく、よりかわいらしく。それは、一般的な歌謡曲では躊躇される態度を歓迎する挑戦の場でした。
しかしそれだからといって、TVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌は、番組との太く緊密な紐帯ばかりを自らの存立意義と頼っていたわけではありません。
『紅三四郎』(1969)のオープニングで堀江美都子が歌唱した〈紅三四郎〉(1969)は、美空ひばりの〈真赤な太陽〉(1967)やピンキーとキラーズの〈恋の季節〉(1968)と同一の系列に収まります。
『ふしぎなメルモ』(1971)のオープニングで出原千花子が歌唱した主題歌〈ふしぎなメルモ〉からは、皆川おさむの〈黒猫のタンゴ〉(1969)と同じ芳香が漂います。
〈ニルスのふしぎな旅〉(1980)は、『ニルスのふしぎな旅』のオープニング主題歌として、ザ・タイガースで沢田研二と並んでヴォーカルを担当していた加橋かつみが歌唱した楽曲です。仮にここに、Godiegoによる〈銀河鉄道999〉(1979)の出発の汽笛を聞いたとすれば、それは互いの作曲者が共通しているせいかもしれません。
潘恵子が歌唱した〈裸足のフローネ〉(1981)が『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』のオープニングを飾るとき、そこに松田聖子の影を感じることなくこれに耳を傾けることは困難です。〈裸足の季節〉(1980)でデビューした彼女の〈青い珊瑚礁〉(1980)なくして、この楽曲がそのように成立することはおそらくなかったはずです。とはいえ、当の松田聖子の存在性もまた、ブルック・シールズの主演で実現され、ネストール・アルメンドロスによる撮影が大いなる興味となった『青い珊瑚礁』(1980)なくして、そのように成立することはなかったにちがいありません。
結局のところ、TVアニメ番組や特撮ヒーロー/ヒロイン番組の主題歌とは、いわゆる一般的な歌謡曲を子どもにもわかるように煮つめた結果として、希釈のための不可解な饒舌さが揮発し、その濃厚な核心のみを濾過されてあからさまに露呈した気どりなき単純さの残酷な響き、すなわちその戯画的な要約なのです。
堀家教授による、私の「アニメ・特撮」10選リスト
1.〈アクビ娘の歌〉堀江美都子(1969)
作詞/丘灯至夫,作曲/和田香苗
『ハクション大魔王』ED
のちに小泉今日子もカヴァーした楽曲のできの良さはいうまでもないが、歌詞における「パンチ強くて」の語句について、このころすでにこうした表現が流通していたことに驚かされる。それとともに、エンディング映像での楽曲紹介テロップに堀江美都子について「12歳・横浜市」の注記があることに、当時のプライバシーに関する意識のいかにも粗雑な具合いが表出している。なお、レコード版での楽曲の表題は〈アクビ娘〉。
2.〈帰ってきたウルトラマン〉団次郎,みすず児童合唱団(1971)
作詞/東京一,作曲/すぎやまこういち
『帰ってきたウルトラマン』OP
TVアニメや特撮ものにおける主題歌の、ひとつの金字塔である。のちにゲーム『ドラゴンクエスト』の音楽も担当するすぎやまこういちによる、モータウンのリズムを基盤に最初から最後まで一分の隙もなく緻密に構成されたこの楽曲は、弟子格の筒美京平が『サザエさん』や『美しきチャレンジャー』に提供した主題歌と容易に共鳴し、この師弟関係をもっとも率直に物語る説得力を保持している。
3.〈ルパン三世 その2〉チャーリー・コーセー(1971)
作詞/東京ムービー企画部,作曲・編曲/山下毅雄
『ルパン三世』ED
特定のTVアニメのためにあつらえられた主題歌でありながら、4小節を2回繰り返されるAメロが唯一のコードで成立していることや、Bメロのコード進行、サビの転調など、子ども向けのTVアニメの主題歌たらんとする意志のきわめて希薄なこの楽曲は、それゆえ当初から青年向けマンガとして発表されたこの作品の矜持を示すといえる。地味ながらAメロの各小節で2拍目のみに和音を奏でるヴィブラフォンが肝。
4.〈緊急指令10-4•10-10〉水木襄,ザ・ブレッスン・フォー(1972)
作詞/東京一,作曲/渡辺岳夫,編曲/松山祐士
『緊急指令10-4•10-10』OP
『巨人の星』から『アタックNo.1』まで、『天才バカボン』から『赤胴鈴之助』まで、『キューティーハニー』から『アルプスの少女ハイジ』まで、『キャンディ・キャンディ』から『機動戦士ガンダム』まで、1970年代を中心とする日本のTVアニメや特撮ものの成熟期に、まさしく多彩にして多様な名だたる番組主題歌を作曲しつづけた渡辺岳夫の傑作。変身ヒーローの登場しない円谷作品とあって『ウルトラQ』や『怪奇大作戦』の系譜に収まる『緊急指令10-4•10-10』は、それゆえ『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の系譜の作品のように広く知られた番組ではなく、渡辺による主題歌も埋もれてしまっていることがいかにも惜しい。Gmにはじまりマイナー・コードが連なるなか、SOSを意味する「テン・スリー・フォー」のフレーズが投じられるやいなや、「テン・フォー・テン・フォー・了解!!」とこれに呼応するフレーズが返され、短調の緊迫と悲愴は、平行調のB♭への転調に向けて、そのⅤ7に相当するF7をもってたちまち解放される。この解放の直前の危機感を努めて煽るファズのギターのおどろおどろしさ。
5.〈眠れマッハバロン〉すぎうらよしひろ(1974)
作詞/阿久悠,作曲・編曲/井上忠夫
『スーパーロボット マッハバロン』ED
なるほどサビに顕著ながら、その全篇をとおして聴くことのできるシティ・ポップス感は、やはり7thコードの多用、わけてもⅠ△7やⅣ△7といった△7thコードの響きがそれを確固たるものとしている。こうした感覚が、まだSugar babeの音盤さえ発表されていない1974年の時点で実現されていたことは、まぎれもなく井上忠夫の才覚に拠るところであるとともに、これが特撮もののED主題歌という実験の場だからこそ叶えられた僥倖だったことも見逃せない。そのうえ作詞を阿久悠が担当している、贅沢にして強力な布陣。
6.〈裸足のフローネ〉潘恵子(1981)
作詞・作曲/井上かつお,編曲/青木望
『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』OP
その表題からして〈裸足の季節〉を、そして曲調からは〈青い珊瑚礁〉を、つまるところ前年の松田聖子の登場と活躍を明確に前提した楽曲。そもそもこの番組それ自体を、ブルック・シールズの主演で公開された映画作品『青い珊瑚礁』の成功を踏まえて企画されたものと捉えるべきか。歌唱の潘恵子は『機動戦士ガンダム』のララァ・スンの声優であり、やはり声優の潘めぐみは彼女の娘。声域が狭いのか、この楽曲の旋律の高音部では裏声による歌唱が聴かれるが、しかし彼女の声はむしろその地声の高音部においてもっとも魅力的に響く。ED主題歌〈フローネの夢〉も名曲。
7.〈星空サイクリング〉ヴァージンVS(1982)
作詞・作曲・編曲/ヴァージンVS
『うる星やつら』ED
〈赤色エレジー〉のあがた森魚によるニュー・ウェイヴ流のバンドが演奏したテクノポップ。イモ欽トリオによる〈ハイスクールララバイ〉がこの前年に発売されている。Y.M.O.による〈君に、胸キュン。〉はこの翌年の発表。キティ系列のTVアニメこそが、主題歌に番組の事情を謳い込まない楽曲をタイアップしたりレディメイドの楽曲を採用したりしはじめた嚆矢だろう。事実、『うる星やつら』と同じく高橋留美子のマンガが原作だった『めぞん一刻』では、ギルバート・オサリバンの〈アローン・アゲイン〉が主題歌として使用されたことがある。
8.〈はじめてのチュウ〉あんしんパパ(1990)
作詞・作曲・編曲/実川俊晴
『キテレツ大百科』OP
サビは典型的な歌謡曲のコード進行だが、ここに至るBメロは、コード進行はおろか旋律やコーラス・ワークもろとも、The Beatlesの〈Nowhere Man〉からのあからさまな引用であることを微塵も隠そうとしていない。
9.〈あなたには言えない〉矢野顕子(1993)
作詞/宮沢和史,矢野顕子,作曲・編曲/矢野顕子
『有言実行三姉妹 シュシュトリアン』ED
ウェディング・ドレス姿で回転遊具に乗った番組の主役3人のスローモーションに、演者本人たちの幼少期からの写真が重ねられ、ついには並んで階段から降りてくる3人に参列者から紙吹雪が投じられる映像を背景に、この楽曲が重く流れる。日曜日の朝のことである。いわばタイアップ式の主題歌でありながら、むしろ映像の側が番組の文脈から遊離して楽曲の側に加担していくような感覚を提示する印象的なED。
10.〈Make It Home〉フジ子・ヘミング(2004)
作詞・作曲・編曲/蓜島邦明
『MONSTER』ED
ピアニストのフジ子・ヘミングを歌唱に迎えながら、演奏の中心にはギターのアルペジオが響き、ピアノの音は聞こえてこない。彼女が発表した唯一の歌唱曲にして、曲想と歌唱の驚異的な合致を達成。
番外.〈ニルスのふしぎな旅〉加橋かつみ(1980)
作詞/奈良橋陽子,作曲/たけかわゆきひで,編曲/チト河内
この楽曲の軽やかさにもかかわらず、Godiegoによる〈銀河鉄道999〉の残響のやむなき干渉のゆえに番外とした。
文:堀家敬嗣(山口大学国際総合科学部教授)
興味の中心は「湘南」。大学入学のため上京し、のちの手紙社社長と出会って35年。そのころから転々と「湘南」各地に居住。職に就き、いったん「湘南」を離れるも、なぜか手紙社設立と機を合わせるように、再び「湘南」に。以後、時代をさきどる二拠点生活に突入。いつもイメージの正体について思案中。