あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「どうしてもやる気が出ない日にぴったりの本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『palmstories あなた
著・文・その他/津村記久子、岡田利規、町田康、又吉直樹、大崎清夏,発行/palmbooks




どうがんばっても気持ちがパリッとしない日ってあるものです。そしてそんな日のほうが心にすっと沁みてくる小説もまたあります。小さな出版社palmbooksから刊行されたばかりのこちらは、人気作家たちが「あなた」や「きみ」に呼びかける、エッセイのような創作のような不思議なアンソロジー。ハードカバーなのに手のひらサイズなところもかわいくて、読みたい欲をそそられます。


2.『ねむたいひとたち
作・絵/M.B.ゴフスタイン,訳/谷川俊太郎,発行/あすなろ書房




手のひらサイズの本をもう1冊。寝て終わってしまった休日の罪悪感を薄めてくれそうな、いつもねむたい家族の物語です。ねむたいこともねむることも悪いことではないんです。だってねむたいひとたちはこんなにかわいくて幸せで平和なのだから。読んだ後はベッドサイドに飾ってもよいかも。


3.『これが生活なのかしらん
著・文/小原 晩,発行/大和書房




自費出版本『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』で本好きたちから注目を集め一躍人気となった小原晩さんのメジャーデビュー(?)エッセイ集。不安ややるせなさや悲しい気持ちがやさしいユーモアに包まれ、心にすっと溶けていくような読み心地が魅力です。元気がない日のオススメ本。


4.『ソース焼きそばの謎』ハヤカワ新書
著・文/塩崎省吾,発行/早川書房




やる気がない日というのは、やらなければならないことは全く進まないのにどうでもいいことほどはかどるもの。ならばいっしょに「なぜ焼きそばはソースという味付けで普及したのか」という問題について考えてみませんか。読み終えた頃には焼きそばを作ろうという“やる気”だけは起きているはず!


5.『片手袋研究入門 小さな落としものから読み解く都市と人
著・文/石井公二,発行/実業之日本社




どうでもいい問題その2。もうすぐ道に落ちている片手袋の季節ですね、って、なんだその季節、という感じかもしれませんが、そんな冬の風物詩「片手袋」を採集・分類し、研究を極めた1冊です。けれども片手袋について考えることは都市について考え、人々の営みに思いを馳せ、この世界の無常を知ることでもあった。……のかもしれません。


6.『評判すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』トーチコミックス
著・文・イラスト/ドリヤス工場,発行/リイド社




映画や動画を早送りで観る人たちがあれこれ言われる昨今ですが、本だって昔の文学作品は正直言って「読んでみたいけどちょっと面倒だな〜」という気持ちになるもの。水木しげるタッチの漫画で描かれるこのシリーズは、人気が人気を呼び、本作でなんと第4弾。不思議の国のアリスからラヴクラフト、太宰、谷崎……と一度は読んでみたい名作ぞろいです。


7.『酒・つまみ日和 「ひとり飲み」の小さな幸せ
著・文/パリッコ,発行/光文社




「難しいことは何にも考えたくない! ただ楽しくてくだらなくて、なんでもいいから明るい気持ちになれるやつくれよ!」とうめくように言われたならば迷うことなくこちらを差し出したいと思います。ライターとして人気のパリッコさんによる、低予算でひとり飲みを楽しむ実験あれこれエッセイ。読んでいるあいだじゅうずっと幸せ気分な1冊です。


8.『ドーナツの旅
著・文/溝呂木一美,発行/グラフィック社




いや、もう文字すら読みたくない、と、そんな日もありますよね。ならばかわいいドーナツの写真でも眺めながら寝てしまいましょう。もちろんドーナツ好きのための文字情報もたくさん入っているのですがそれはやる気のある日にもう一度チェックするとして、写真集として、丸くてふくふくとした彼らのかわいい姿をただ愛でるのもいいものです。

9.『すてきな退屈日和
著・文/宮田ナノ,発行/オーバーラップ




夏の朝風呂を愛し、掃除機の音を嫌い、「星占いが『5〜9位』くらいの日がいちばん心穏やかでいられる」と、マイペースで平穏に生きる夏子の日々を描くコミック作品。本屋でバイトしたり、おばあちゃんの買い物に付き合ったりと、特に何かが起きるわけではないけれど、何でもない日のよさを改めて思い出させてくれます。

 

10.『優雅な生活が最高の復讐である』ポケットスタンダード
著・文/カルヴィン・トムキンズ,訳/青山 南,発行/田畑書店

 

 

『グレート・ギャッツビー』の作家、フィッツジェラルドの作品のモデルともなったという夫婦の生活の記録。ピカソをはじめ一流のアーティストたちと交流しながらも、名声ではなく人の内面や生活そのものを愛し、「大事なのは何をするかではなくて、何に心を傾けるか」と語る彼らの言葉は、やる気なく過ごす我々の心にもどこか響いてくるような気がします。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。