あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「大ボリュームなのに、なぜかすいすい読めてしまう本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『東京の生活史
編/岸 政彦,発行/筑摩書房




まずは刊行当時かなり話題になったこちらから。厚さ6cmのこの本、サイズ的には辞書くらい。で、中身は150人が150人の東京の人に「人生」を聞いて、それを書き起こしたという本なのですが、ほんとうにこれが読み始めたら止まらなくなるくらい面白い。さらさらと身体に入っていくような……この読書体験、ぜひ味わってみてほしいです!


2.『源氏物語』河出文庫 古典新訳コレクション
訳/角田光代,発行/河出書房新社



「いつかは読んでみたい」と思いつつ挫折する人も多いのが〈歴史的名作〉ではないでしょうか。海外文学同様、訳の不自然さや読みづらさは、仕方ないとはいえ心をくじけさせるには十分なもの。しかし、角田光代さんの訳ならどうでしょう? もうほんとうに読みやすく、わかりやすく、そして美しいんです! 大河ドラマにハマっている人はもちろん、そうでなくても今がチャンス!


3.『口訳 古事記
著・文/町田 康,発行/講談社



この数年は古典文学のリメイクブームと言っても過言ではないほどたくさんの名訳作品が生まれました。その中でもひときわ注目されていたのが町田康さんのこちら。神たちのめちゃくちゃなやりとりとコテコテの関西弁がぴったりで、とにかく読んでいて楽しい! 古典でこんな痛快さを感じられるなんて、と笑いながら感動してしまう1冊。


4.『一瞬の風になれ』講談社文庫
著・文/佐藤多佳子,発行/講談社




現代の小説でも長くて面白いものはたくさんあってキリがないですが、ひとつだけオススメするとしたらこちらかな。上下巻ならぬ全3巻とかなりの長さ。私自身運動も陸上も嫌いだし、スポーツや部活の感動押し付けドラマも大嫌い、なので、自分でも何故この本を一気読みしてしまったのか不思議です。多分佐藤多佳子さんが、人が何かにまっすぐ向き合っていく姿を描くのがほんとうに上手いから……。


5.新装版『まんが道
著・文/藤子不二雄A,発行/小学館クリエイティブ




まっすぐさに感動する、といえば、こちらの漫画も外せません。藤子不二雄という名で漫画家デビューしたふたりの少年の成長物語。でも仕事論でもあるので、この作品の真価は大人になってからじゃないとわからないかも。〈原稿落とし事件〉ともよばれる衝撃のシーンは、スッとしずかに原稿を落とすような描写が印象的で、今でもたびたび思い出します。長いけど一気に読みたい名作!


6.「丸かじりシリーズ
著・文/東海林さだお,発行/朝日新聞出版




ほのぼの系の食エッセイですが熱狂的なファンに絶賛され続け(私もそのひとりです)なんと今作がシリーズ47巻目。もはやマンネリズムを飛び越え「何回その話してんだ! 待ってたぞ!」という謎の境地に陥っています。御年86歳にして連載誌の休刊、ついに最終回かと思いきや今年に入って朝日新聞beで復活! ますます目が離せなくなっています。シリーズのどれから買っても全部同じ話なので安心してください。


7.『ムーミン谷の彗星』ムーミン全集[新版]1
著・文/トーベ・ヤンソン,訳/下村隆一,発行/講談社




知っている方も多いかもしれませんが、ムーミンの小説版はけっこう長いんです。そしてこちらも2019年に新訳が出てさらに読みやすくなり、装丁も部屋に飾っておきたいようなかわいさ。ほのぼのした世界観なのかと思って読むといきなり地球滅亡の危機(彗星がぶつかりそう)だったりしますが、個性豊かなキャラクターたちのやりとりと旅の情景が心を遠くへ連れていってくれますよ。


8.『旅の絵本
著・文・イラスト/安野光雅,発行/福音館書店




「大ボリュームなのにすいすい読める本」というお題で、字のない絵本を挙げるのはやや反則な気もしますが、現在全10巻が発売中。世界中を旅するように俯瞰のスケッチで描き続けています。もちろんぱらぱらめくっているだけなら一瞬で見終わりますが、隠れキャラが仕込まれているのを探したり「この人は何をしているんだろう」などと細かく見ていると心が浄化されていく気が……。

9.『ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記
著・文/おーなり由子,発行/新潮社




なぜでしょう、年とともに季節の移ろいを大切にしたくなるのは……。新緑の美しさをありがたがっている小学生なんて見たことないですもんね。さて、歳時記というほどかしこまらずに季節を楽しむためのヒントが365日分どっさりと載っているこの本。おーなり由子さんの言葉もイラストもやさしくて、すいすい読めるのはもちろんのこと、日々が無味になっているなと感じたら何度も読み返したい、そんな1冊です。

 

10.『死ぬまでに観たい映画1001本
編/ダSTEVEN JAY SCHNEIDER,発行/ネコ・パブリッシング

 

 

加入しているサブスクには一生で観きれないほどの映画が登録されているというのに、それでも「おもしろい映画」の情報は知りたい。私たちが探しているのは「それ面白そう!」と思う心のきらめきなのかもしれません。辞書並みのボリュームですが中身もぎっしりと解説が書かれていて極厚! でも、まずこの本の全部を読み終わる前に死んでしまいそうな気もしますが……。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。