あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「世界はガイドブックに満ちている、な本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.地球の歩き方W W32『日本のグルメ図鑑 47都道府県の名物料理を旅の雑学とともに解説』
編/地球の歩き方編集室,発行/地球の歩き方
「ガイドブック」と聞いて誰もが思い出すのが、この『地球の歩き方』の表紙ではないでしょうか。コロナ禍でみんなが海外に行けなくなり壊滅的な売上状況になるも、初の国内本『地球の歩き方 東京』が大ヒットし起死回生。情報の確かさや、その土地の魅力を的確に伝える力があったのでしょうね。というわけでその後も次々面白い企画本が出ているのですが、パラパラめくっていちばんワクワクするのがこちら。都道府県別のていねいな名物紹介がじわじわよい!
2.『東京手みやげと贈り物カタログ』新版
著・文、編/朝日新聞出版,発行/朝日新聞出版
何のひねりもありませんが眺めていて楽しい1冊。最新も定番も、東京の“イケてる”手みやげがずらりと並んでいて壮観です。おいしくてきれいなものは大好きだけど、いざデパ地下に行ってもあらゆるものがまばゆすぎて頓挫して買わずに帰ってきてしまうので、本で見ている方が安心です(?)。もはや買わなくても食べなくてもいい。こんなキラキラした食べものがあるんだねえと思うだけで幸せです。
3.『東京モダン建築さんぽ』増補改訂版
著・文/倉方俊輔,写真/下村しのぶ,発行/エクスナレッジ
何かとレトロが愛されている昨今ですが、モダンもよい! どう違うかと説明すると長くなってしまうのですが、とにかく戦後のビル建築を中心に、当時の「今らしさ」を表現した建物が多数掲載されています。ひとつひとつの写真が美しくて、ふだん気にしていなかった建物の魅力に気づかせてくれるのはさすが! 劇場から幼稚園、そしてあの有名書店まで。いやほんとうに、建物に関してだけは「昔はよかったなあ〜」とぼやきたくなってしまいます。
4.『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト 女性たちと映画をめぐるガイドブック』
著・文、編/降矢 聡・吉田夏生,発行/フィルムアート社
副題に〈女性たちと映画をめぐるガイドブック〉とあるので、おお〜、たくさん映画が紹介されてるのかな? とページをめくると思ってたのとちょっと違う。いわゆる“映画カタログ本”ではなく、どちらかというと映画の見方の教科書。フェミニズムがベースではあるのですが、そんな簡単なもんじゃない、というゴリゴリの熱意に溢れています。映画オタクでなくてもその面白さでつい読み進めてしまえるけど、それにしたって読みごたえありすぎる超濃厚な1冊。
5.『暮らしの図鑑 手紙の楽しみ 気持ちが伝わる手書きのアイデアA to Z×基礎知識×おすすめ文房具114』
監修/堤 信子,編/暮らしの図鑑編集部,発行/翔泳社
このシリーズいろいろ出てるのですが、全部いいんですよね〜。でも1冊ご紹介させていただくとしたら、「手紙社」だし、手紙の楽しみ方を教えてくれるこの本でしょうか。スクラップ帳のような写真やイラスト多めのレイアウトは、眺めているだけでワクワク気分に。LINEやメールでかんたんに連絡できてしまう日々だからこそ、手書きの手紙のスペシャル感は増してますよね。例文なども豊富で、すぐに手紙を書き始められそうな親切設計がありがたい。
6.「本を出したい」
著・文/佐藤友美,発行/CCCメディアハウス
こちらは同じ「書く」でも趣味ではなく、かなりビジネス寄り。シリーズで「書く仕事がしたい」もあります。文章術の本はたくさんありますが、「ライターになりたい」と思っても、なる方法なんてふつうはわからないですしね。「こんなの書いてみたけど、出版社に持ち込みすべき? それとも自費出版するしかないのかな……」なんて悩みにも非常に具体的に応えてくれるガイドブック。文章もビシビシっとしていて、なんかやる気が出る!!
7.14歳の世渡り術『 いっしょに翻訳してみない? 日本語と英語の力が両方のびる5日間講義』
著・文/越前敏弥,発行/河出書房新社
海外の小説を読むたび「この人の翻訳、読みづらいなあ」などと心の中で文句を言いつつも、実際の英語読解力は中2レベルの私。翻訳なんて夢のまた夢かと思いきや、そんな自分にぴったりの「翻訳ガイドブック」がありました! この本は翻訳家の越前敏弥さんが、中学2年生を対象に行った翻訳ワークショップの記録なんです。自分も実際に自分の訳を書き込みながら先生(越前さん)や他の生徒さんの考え方を聞くことができるので、ほんとうに参加しているような気分を味わえますよ。
8.『馬場のぼるのおえかき教室』
著・文、イラスト/馬場のぼる,発行/こぐま社
『11ぴきのねこ』シリーズでおなじみの絵本作家、馬場のぼるさん。ファンやかつての読者はもちろん、そうでない人もかわいい猫やデフォルメされた動物が描けるようになる本です。とは言え「ほら、こうすれば描けますよ〜」って「いやそれは見ればわかる」と突っ込みたくなるようなシンプルな説明ではあるのですが。でもだまされたと思って指示の通りに猫たちを描いてみれば、ちょっといびつではあるけどまあ猫だし、なんだか幸せな気持ちになれる1冊です。
9.ちしきのぽけっと『ひろった・あつめた ぼくのドングリ図鑑』
イラスト・文/盛口満,発行/岩崎書店
ガイドブックというよりは図鑑、図鑑というよりは絵本、という分類しがたい本です。大人にはニッチな本に見えても、子どもにプレゼントするとけっこうガチでよろこばれます。全部似たようなものに見えていたドングリも実は全然ちがうもの。精密なイラストもとてもいいです。ちょっと季節外れのご紹介になってしまったのが心苦しいのですが、秋になったらきっとこの本のこと思い出してください。大人もドングリ集めよう。
10.『クマにあったらどうするか -アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』
著・文/姉崎 等、片山 龍峯,編/畠山 泰英,発行/筑摩書房
しかしドングリ集めに夢中になっているうちに森に入り込んでしまい、クマと会ってしまうこともあるかもしれません。そんなときにもこの『完全・クマ・ガイドブック』があるので事前に読んでおけば安心です。アイヌ民族最後の狩人であり、クマ撃ちのプロへのロングインタビューとでも言うべき1冊。「死んだふり」は有効なのか、逃げたらどうなるのか、一言一言に経験の重みがすごい。普通に読み物としてめちゃ面白いです。そしてこの人が提案するクマ対処法は、多分常人には無理……ですね……、内容はぜひ本文でご確認ください!
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。