あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「おいしそうな本の最前線を行く 2024」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『ショートケーキは背中から
著・文/平野紗季子,発行/新潮社




おいしいものが好きな皆さんに声を大にして言いたいのは、おいしいもの自体だけでなく、おいしそうな本も毎年読みきれないくらいたくさん出るのでそちらもチェックしてほしいということです!

というわけで今年いちばんの「おいし本」ビッグニュースといえばカリスマ的な人気を誇る食エッセイスト・平野紗季子さんの新刊『ショートケーキは背中から』が発売されたことではないでしょうか。もし未読の方がいましたらぜひ読んでほしい……。ほぼ文章だけの本ですが、食べものへの愛、店への愛が溢れていて、こちらまで幸せ気分になる超オススメの名著です。


2.『アメリカ南部の台所から
著・文/アンダーソン夏代,発行/KTC中央出版



こちらも2024年イチオシの1冊。今やネットで何でもわかる時代で、アメリカもヨーロッパもアジアも、どこのごはんも知った気になっていましたが、読んで驚愕。アメリカ南部のことを全く知らなかったです。ちなみにそもそもアメリカ南部がわからない方のためにお伝えしますと(私もわかりませんでした)、テキサス州、フロリダ州とか、そのへんだそうですよ。とにかくピーナッツと豆が好きで、ホットソースが好きなんだ……。おいしそうなものがいっぱいの異文化エッセイ。


3.『明けても暮れても食べて食べて
著・文/はらぺこめがね,発行/筑摩書房



もっと脳に直接訴えかけてくる本をお探しの方におすすめしたいのがこちら。食の絵本作家として大活躍のはらぺこめがねさんの初の画文集! リアルなのだけど本物よりおいしそうに見える絵はどれも迫力いっぱいでかっこいい。芸術の秋ということで、この本を参考に(?)おいしそうなものをスケッチしてみるのも楽しいかもしれません。


4.『とびきりおいしいおうちごはん
著・文/野村友里,発行/小学館クリエイティブ




ビジュアル的な「おいしそう」度でいえば、この本が今年ベスト1かも。eatripなどで活躍していた料理人の野村友里さんが、子ども向けに考えたレシピの本なのだそうですが、昭和テイストのようでやっぱり令和テイストな写真とイラストが最高にかっこいい。チーズオムライス、お花しゅうまい、ナポリタンなど心からほっとできそうな料理がたくさん。大人向けの料理本ではやる気が出ない日も、これなら作ってみたくなります。


5.『サンドイッチ
著・文/大庭英子,発行/主婦と生活社




目にも胃袋にも響くレシピ本をもう1冊。サンドイッチなどの断面を「萌え断」と呼び始めたのは2016年頃からだそうで、ボリュームいっぱいの具がこぼれ出しそうな“あれ”もたしかに好きなのですが、2024年の今気になるのは、シンプルでしみじみおいしいサンドイッチ。そういえば日本に旅行に来る海外の方にはコンビニのタマゴサンドが異常にウケているらしいですね。コンビニも自己流もいいけど、本を見ながらちゃんと作ってみたらさらにおいしくできるかも。


6.『うどんねこ
著・文、イラスト/スケラッコ,発行/ポプラ社




こちらは小学生向けくらいの絵本なのですが、ほんとーーーーにかわいい&おいしそうなのでぜひ本屋さんで手に取っていただきたいです。なかなかお客さんが来ないうどん屋さんの店主・ボタンくんの前に現れた「うどんねこ」と「そばねこ」。ワクワクの冒険と3人のドタバタ劇がかわいすぎて信じられないくらい心にしみます……。あんまり重いことを考えたくない日はこんな本でほんわりしましょう。


7.『小さい午餐
著・文/小山田浩子,発行/twililight




芥川賞作家、小山田浩子さんによる初の食エッセイ。ふだんはなかなか外に出ないという著者の外食午餐(昼食)日記なのですが、お店の様子、お客さんの会話……作家の眼でスケッチした食の風景はなぜだか妙に細かくてめっぽうおもしろい。事実を書いているつもりがいつの間にか虚実入り混じってしまったとのこと……えっ、どこまでが本当なんだ? というのも気になります!


8.『酒場の君
著・文/武塙麻衣子,発行/書肆侃侃房




おいしいものを引き立てるのはやはりおいしいお酒、そしていい酒場。新進気鋭の酒ライター、武塙麻衣子さんによるほろ酔いエッセイ。居酒屋ガイドとしても使えそうなこの本は、まるでその場にいるかのような臨場感ある文章が魅力。仕事がつらくても毎日が微妙でも、こんな酒場でおいしいものをおいしいと感じられるならなんとか生きていけそう……そんなことを思わせてくれるハッピーな1冊。

9.『ぐつぐつ、お鍋』おいしい文藝 河出文庫
著・文/安野モヨコ、岸本佐知子,発行/河出書房新社




岸本佐知子、江國香織、川上弘美……といった現代の作家から池波正太郎、山口瞳なんてレジェンドたちまでずらりと名を連ねるこのアンソロジー、エッセイの題材はなんとすべて「鍋料理」。鍋奉行なんて言葉があるように、誰でも鍋というと何かひとつくらいは言いたいことがあるのかも。名文を味わいながらのんびりするのもよし、これからの季節の鍋アイデアに活かすもよしです。

 

10.『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』河出文庫
著・文/石井好子,発行/河出書房新社

 

 

「最前線」とテーマで言っておきながらこの本を取り上げたのは、実は文庫版がしばらく手に入りづらくなっていたのが、最近新装版が出てまた買えるようになったんですね。うーん装丁かわいすぎ。というかまずタイトルも強すぎますよね。「オムレツのにおい」が「流れる」って何なんだ。これって本文の内容に合わせて書いたら「巴里の下宿の部屋、バターのにおいがこもってる」くらいになるはずだけど、これだったら絶対売れないわけで……。そして本文もやっぱりいい! この世には何千何万もの「おいし本」がありますが、「おいしそうと思わせる文章」という点においてはこれを超える本は未だないのかも……恐ろしいほどおいしそうが溢れる本です!


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。