あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「ぬいぐるみともっと仲よく暮らすための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』河出文庫
著・文/大前粟生,発行/河出書房新社




“ぬいぐるみ(と、ぬいぐるみを大切にする人たち)の物語”といっていちばんに思い浮かぶのはまずこれ。大学の「ぬいぐるみとしゃべる人たちで集まるサークル」という舞台だけですでによいのですが、誰かを傷つけてしまうことが怖くて、だから他者にうまく踏み込めない人たちの物語は、まさに今を生きる私たちのテーマかも。やさしさってなんだろう、とあらためて考える機会をくれる1冊。


2.『愛されすぎたぬいぐるみたち
著・文/マーク・ニクソン,訳/金井真弓,発行/オークラ出版




愛されて、人間と長くいっしょにすごすほど、汚れてボロボロになってしまう宿命を背負った彼ら。海外発のこの写真集は、そんな愛されすぎたぬいぐるみをプロが撮影し、彼らの人生のエピソードとともに紹介しています。最後のページには自分のぬいぐるみの写真を貼ってエピソードを書き込めるページがあるので、完成させれば大切な宝物になることまちがいなし。


3.『モフモフはなぜ可愛いのか―動物行動学でヒトを解き明かす―』新潮新書
著・文/小林朋道,発行/新潮社



こちらは実在(?)の動物についての話ではありますが、ぬいぐるみにしたってつるつるなのではなくモフモフ、ふわふわしているからかわいいというところは否めない……。この本では動物行動学という観点からヒトという動物の心理について解き明かします。ただこれ、“新書のタイトルあるある”なのですが、モフモフについて丸ごと1冊書いているわけではなく、ヒトについてのいろんな謎を明かす、という本なのでご注意を〜!


4.『こころをよむ 人形は人間のなんなんだ?』NHKシリーズ
著・文/菊地浩平,発行/NHK出版



というわけで、「この、ぬいぐるみへの愛しい気持ちってなんなんだろう?」ということをアカデミックに掘り下げてみたい方にはこちらがオススメ。ラジオテキストという形ですが、読み物として読むだけで十分面白いです。人形ホラー、ぬい撮り、トイ・ストーリー、TED(映画)、アクスタ文化など、さまざまなカルチャーから私たちの心象を読み解きます。そしてテキストゆえ、気になる方はぜひ早めにご購入を! 多分放送終了後は入手しづらくなります。


5.『はじめてでも作れるどうぶつぬいぐるみ もふもふの家族
著・文/ばんばぱえりあ,発行/日本ヴォーグ社




もちろん書店には“ぬいぐるみを作るための本”もたくさん並んでいます。「編みぐるみ」「羊毛フェルト」「ぽんぽん」など、派生系もかわいいものがたくさんあるので、作る派の方にとっては選びがいがありそう。私の好みとしては、西欧の香りがするおしゃれな子よりも、日本的なファンシー感のあるこんな子を作ってみたいかな。布地の種類や色、表情のニュアンスまで自分で決めて作れば、(ままならなかった部分も含めて)とても愛しい存在が生まれてしまいそうです。


6.『おしゃれぐまクゥクゥのたのしい一日着せ替えぬいぐるみ絵本
著・文/金森美也子、リネンバード,写真/キッチンミノル,発行/小学館




“ぬい撮り”といえば、通常はカフェや旅行先などにぬいぐるみを連れて行って撮影することですが、これは写真絵本とでも言えばよいのでしょうか。ぬい撮り+物語+手芸+ファッション……といくつもの要素が詰め込まれていてすごい! ぬいぐるみの造形も、次々に登場するお洋服も、撮影の背景もみなセンスに溢れていて、「自分もこんな作品を撮ってみたい!」と憧れがつのる1冊です。


7.『ふわふわ』講談社の創作絵本
著・文/村上春樹,絵/安西水丸,発行/講談社




タイトルもそのままの『ふわふわ』。村上春樹さんと安西水丸さんのタッグで作られた絵本です。長らく文庫サイズでしか読めませんでしたが、なんと去年になって突然絵本サイズで再発売されました! 「猫のふわふわ感について一番考えた」という水丸さんのコメントがあるのですが、たしかに明るい色彩と不思議なストーリーもあいまって、ふわふわ感がすごく伝わってくる気がします。それは猫の毛の感触だけではなく、大切な存在といっしょにすごす時間の感触なのかも。


8.『はじめまして、ムンゲです。 一匹の家族が教えてくれた、人生で大切なこと』
著・文/yeye,訳/菅原光沙紀,発行/PHP研究所




ふわふわの猫もいいけどふわふわの犬もいいですよね。というわけでこちらは韓国から届いたばかりの、犬が主人公(語り手)のイラストエッセイ。大好きな人間の家族との愛しい時間がページから溢れてきて、読んでいるだけで幸せな気持ちになります。犬を飼っている人、飼っていた人はもちろん、ふわふわのかわいい生き物にキュンキュンしたい人にもおすすめ。

 

9.『三國寮の人形たち
著・文/三國万里子,発行/トゥーヴァージンズ

 

 

最近のぬいぐるみブームに比べると、人形はやや冷遇されている気がします。素材が固いと親しみづらい印象があるのでしょうか。でもニットデザイナーでありエッセイストとしても人気の三國万里子さんのこの本を見たら「人形も楽しそうだなあ」と心が動かされるはず。三國さんは彼女たちの寮母として服を作っているという設定も楽しいし、紹介される手作りの服やアンティークの家具(ミニチュア)にうっとり。夢の世界が広がっています。


10.『こんとあき』日本傑作絵本シリーズ
著・文/林 明子,発行/福音館




知っている方も多いかもしれませんが、1989年の発売時からずっと長く読まれ続けている名作絵本です。でもお子さんがいなくても、お子さんの絵本の時期が終わっていても、ぬいぐるみが好きならこれだけは絶対読んでほしい! きつねのぬいぐるみの「こん」と人間の女の子「あき」のふたりっきりの旅行は非現実的なのだけど、イマジネーションの力、ふたりの絆の強さに胸を打たれます。そう、ぬいぐるみっていうのは、想像力っていうのは、私たちにとってこういう存在なんだと……。ほんとうにすごい作品なので、ぜひいつか手に取ってみてください。

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。