
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「人間と動物の関係を考えるための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『動物たちは何をしゃべっているのか?』
著・文/山極寿一、鈴木俊貴,発行/集英社

現在「僕には鳥の言葉がわかる」が大ヒット中の鈴木俊貴さんと、ゴリラ研究の第一人者である山極寿一さん。動物のことに誰よりも詳しいふたりのおしゃべりは目からウロコが止まらない! 知的好奇心をたっぷり満たしたい人におすすめの1冊。そして動物に比べて最近の人間の言葉ってどうなのよというパートもあり、動物好きだけでなくさらに言葉好きなら絶対絶対ハマるはず。
2.『ペットが死について知っていること 伴侶動物との別れをめぐる心の科学』
著・文/ジェフリー・M・マッソン,訳/青樹 玲,発行/草思社

さて、現代を生きる日本人にとっていちばん身近な動物といえばやはりペット。一緒に暮らしていると「何考えてるんだろう」「こういうことわかってるのかな」と疑問は尽きないですよね。とりわけ「死」を理解しているのかどうか……愛が深ければ深いほど別れはつらいものですが、悲しみを乗り越えるために、あるいはいつか来るその日に備えて読みたい。動物の心についての理解が深まります。
3.『わすれていいから』
著/大森裕子,発行/KADOKAWA

ペットについての大好きな絵本。飼い猫の目線から描かれる、「おれ(猫)とおまえ(少年)」の物語。ふたりは赤ちゃんの頃から友達みたいに一緒に大きくなったけど、「おまえはだんだん いないことがおおくなったよな」。猫の気持ちが切なくて、寂しくて、涙なしでは読めない!! あるいは人間の親が読んでも号泣かもしれません。かけがえのない関係だったからこそ、タイトルのとおりの感情に至るのだと思います。
4.『ねこがしんぱい』
著/角田光代,絵/小池壮太,発行/KADOKAWA

一方こちらは楽しくてワクワクがつまった、飼い猫についての絵本。家族のみんなが学校や会社に出かけてしまって、猫は寂しくないかなあ、事故に遭ってないかなあ、と心配になってしまうのは「飼い主あるある」。でも実際のところ猫は人間に内緒でイリュージョンワールドを楽しんでいるかもしれない。シュールで奇想天外だけど、意外とペットってやつはこういうところあるぞ、と思わせてくれます。
5.『私はヤギになりたい ヤギ飼い十二カ月』
著・文/内澤旬子,発行/山と渓谷社

都会育ちの自分は田舎で自然とともに暮らすことにまったく自信がないのですが、どこかで憧れもあります。動物好き(というかヤギ好き)が極まり、小豆島で5匹のヤギのしもべとなって彼らが気に入る雑草を探し、人間本位ではなくヤギたちの幸せを考えて暮らす内澤さんの暮らし。大変すぎて絶対真似できないけど、豊かな暮らしってこういうことかも。ユーモアがありつつ穏やかな文章に心がすーっと溶けていくようで心地いいです。
6.『ペンギンにさよならをいう方法』
著・文/ヘイゼル・プライヤ,訳/圷 香織,発行/東京創元社

野生味溢れる動物愛護生活は無理でも、動物とともに生きる方法は他にもある! ということで最近話題のペンギン小説です。主人公は85歳の偏屈なおばあちゃんで、遺産をどうしようかと考えているところにTVで南極のペンギンを見かけ、彼らに遺産を託してみようかと南極へ出かける、というすごい設定! とにかくペンギンのかわいさにしびれるのと、冒険小説でもあり、終活小説とも言える本書、動物好きならぜひ!
7.『羆嵐』新潮文庫
著・文/吉村 昭,発行/新潮社

さてさて、最近ニュースでも持ちきりのクマ問題。人間と動物の関係は、残念ながら友好的なものばかりではありません。人vs熊の本はいろいろ出ていますが、今ふたたび注目が集まるこちらはいかがでしょうか。大正時代に実際に北海道で起きた、ヒグマによる日本最大の襲撃事件を描いたドキュメンタリー。臨場感と緊迫感に満ちた骨太な読書がしたい方におすすめ。結局いつの時代も悪いのは人間なのか……。
8.『野生生物は「やさしさ」だけで守れるか? 命と向きあう現場から』岩波ジュニア新書
著・文/朝日新聞取材チーム,発行/岩波書店

人里に降りてきて殺される熊に、あるいは海岸に打ち上げられたアザラシに。我々が「かわいそう」と思うのもごく自然な感情だと思います。それを短絡的とSNSのように責めるのではなく、多角的な視点から知ろうというのがこちらの本。動物が好きだからこそ野生生物の命と向き合い、悩みながらも線引きや駆除の決断をする現場の人たちの声は、考えを深めるきっかけをくれます。
9.『ぼくらはそれでも肉を食う 人と動物の奇妙な関係』
著・文/Herzog, Harold、Herzog, Harold A,訳/守岡 桜、山形浩生、森本 正史,発行/柏書房

動物はかわいい。命は尊い。しかし牛や豚の肉はおいしい。この問題、いったいどうしたらいいんでしょう。日本だと肉食を責められる文化はほとんどありませんが、それでも駆除される動物に同情しながらマクドナルドのセットを食べているのは少し矛盾してるかも……? こちらも「動物を食うな」というメッセージ本ではなく、じゃあペットにするのは可哀想じゃないの? ヘビの餌に猫をあげるのはなんでダメなの? といろいろ俯瞰で考えさせてくれる本。
10.『メメントモモ 豚を育て、屠畜して、食べて、それから』
著・文・写真/八島良子,発行/幻戯書房

じゃあ動物を愛することと食べることは両立しないのでしょうか。現代アートの作家が家畜用の豚を一頭譲り受け、島で愛情たっぷりに可愛がり、自分の手で屠畜して食べるまでの約1年間の記録。その葛藤や迷い、最後の瞬間のことまでが細かく描かれています。みんながわざわざ読む必要はないかもしれないけど、「それってどんな気持ち?」と興味のある方はぜひ。動物の愛し方は、ひとつじゃないはずですよね。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。
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