あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「実在する『すごい人』の人生を味わう本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン
著・文/山内マリコ,発行/マガジンハウス





裕福な呉服屋の少女・荒井由実が「ユーミン」になるまでを小説として読める1冊。中学生なのに夜中に家を抜け出して街に飛び出し、都会の大人たちの中にどんどん入り込んでいってめきめき才能を開花させてゆく……当時の文化も含めて何もかもがうらやましい!! 「翳りゆく部屋」「ひこうき雲」など、好きな曲の誕生エピソードが読めるのもよいです。「やりたいことはあるけど、なかなか踏み出せなくて……」という人にもオススメ。


2.『RURIKO』角川文庫
著・文/林 真理子,発行/KADOKAWA




こちらは女優・浅丘ルリ子さんの人生を描いた小説。私自身は世代的にリアルなご活躍の姿はほとんど見たことがないのですが、それでもこの小説は面白かった! アイドル全盛期の昨今ではありますが、当時の“スター”たちの輝きってすごかったんだろうなとひしひしと感じます。美空ひばりや石坂浩二がちょっとだけ出てきたり、石原裕次郎との秘密の恋のエピソードがあったりとまばゆさでいっぱい!


3.『三淵嘉子 日本初の女性弁護士』朝日文庫
著・文/長尾 剛,発行/朝日新聞出版



大人気となった朝ドラ『虎に翼』の終了から早4ヶ月。まだとらつばロスな気持ちを抱えている方も多いのでは。寅子のモデルとなった三淵嘉子の一生を史実に基づいて小説家したこちらは、ドラマとは異なる部分やドラマでは描かれなかった晩年についても描かれていたりと、ボーナストラック的に楽しめます。寅子も嘉子さんもどちらもそれぞれに魅力的だと再確認しつつ、ドラマの余韻に浸っては。


4.『いわさきちひろ 子どもへの愛に生きて
著・文/松本 猛,発行/講談社



誰もが知っている国民的絵本作家、いわさきちひろ。彼女の息子さんによって綴られたちひろの一生は、その柔らかくやさしい作風からは想像もつかないくらいパワフルで壮絶なもの。やりたいことに突き進み、戦争体験を経て「再びこんなことがあってはならない」という思いから共産党に入党し、社会に対して声を上げていく。彼女の人生を知った後で再び作品を見ると、たしかに、ただやさしいだけの人が描いた絵ではないよな、と絵が違って見えるように。


5.『凛として灯る
著・文/荒井裕樹,発行/現代書館




ここまで書いていて気づきましたが、人物伝となると、差別や苦しみと闘い、激しく生きた人の本が多いかもしれないですね。穏やかに何事もなく生きた人の話ではつまらないからなのか、誰もが多かれ少なかれそう生きているということなのか。本書は障害者であり、障害者差別と女性差別、ときに利害が相反するふたつの問題と真っ向から向き合って闘い続け、『モナ・リザ展』で赤いスプレーを噴射し、抗議行動を起こした米津知子の人生にスポットライトを当てています。奥深く、とても考えさせられる1冊。


6.『あの時のわたし―自分らしい人生に、ほんとうに大切なこと―
著・文/岡野 民,発行/新潮社




宇宙飛行士から元厚生労働事務次官まで、何かを成し遂げ、生き方に芯があって、私たちの憧れとなるような女性がずらりと27人。それぞれに人生の転機となった「あの時」のできごとについて語るインタビュー集です。もともとは雑誌『暮しの手帖』の人気連載とのことで、静かな語り口ながら、秘めたる強さがすごい。一人残らず誰もが素敵で、まさに生き方のヒントにしたいような言葉がたくさん詰まっています。


7.『「烈女」の一生
著・文/はらだ有彩,発行/小学館




トーベ・ヤンソンやナイチンゲール、マリー・キュリー(キュリー夫人)など、世界の女性の偉人たちを「激しい女」いう意味を込めて“烈女”と名付け、彼女たちの一生を紐解くエッセイ集。誰もみな女性であることはもちろん、民族や階級の差別をもれなく受けながら、抗い、自分の人生を生きる姿は本当にカッコよく、しかし、はらださんの文章によってどこか友達のように身近にも感じられる、稀有なニュータイプの伝記本です。


8.『二人キリ
著・文/村山由佳,発行/集英社




阿部定、といえば、そういった話に興味のない人も「たしか恋人か誰かの男性器を切断して……持ち歩いていた人だよね」くらいの知識はあるのでは(私もそうでした)。当時から現在まで世間を賑わせ、嘲笑と卑猥な笑いの中で語り続けられてきた阿部定。彼女の人生の真実を、膨大な文献から掘り起こした決定版ともいうべき超長編小説。純粋で強い愛なのか、身勝手で倒錯した犯行なのか……読む人に判断を委ねるヘビーな衝撃作。

 

9.『BUTTER』新潮文庫
著・文/柚木麻子,発行/新潮社

 

 

連続不審死事件の犯人であり、死刑が確定している木嶋佳苗。本書は彼女そのものを描いたわけではないのでここまでご紹介した本とは少し異なるのですが、事件をモチーフにしていてかなり読み応えのある小説なので未読の方はぜひ。事件そのものというより、そこで描かれているのは「痩せてなければ女としての価値がない」というルッキズムや、私たちの欲望のありか。現在イギリスでも爆売れ中だとか。そしてバターしょうゆごはんが食べたくなるのでご注意を!


10.『PARIS The Memoir
著・文/パリス・ヒルトン,訳/村井理子,発行/太田出版




最後に、日本語版が発売されたばかりの話題のこちらを。正直、パリス・ヒルトンについてもあまり詳しくなく、とりたてて興味もなかったのですが、それでも読み始めたら止まらない。ADHDや性暴力の被害に苦しみながらも自分らしい生き方を貫く姿はとてもパワフルで、原文の面白さに村井理子さんの翻訳の良さがのっかり、ステーキを5段重ねで食べているような脂っこさ。自分とまったく異なる人生を追体験できるって、これはやっぱり本ならではの面白さですね。

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。