あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「3月はまだ寒い! だからあったかい南国に行きたくなる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『タイランドクエスト てくてくローカル一人旅』だいわ文庫
著・文/小林眞理子,発行/大和書房





うちの店でよく売れている1冊。寒いのが嫌いでタイに通っているうちについに住み始めてしまった方のエッセイ&漫画。「南国暮らしってお楽しいんでしょう?」という我々読者の心の声に全力で「イエス!」と叫んでくれるような、タイの楽しさがビリビリ伝わる内容です。人生で一回は体験してみたい南国暮らし。とりあえずまずは1週間行くだけでもハッピーになれそうです。


2.『まぼろしハワイ』幻冬舎文庫
著・文/よしもとばなな,発行/幻冬舎




タイのような東南アジアもいいですけど、南の島、ハワイもよいですよね。ご自身もフラを習っていたり、ハワイ大好きというよしもとばななさんのハワイ小説なんていかがでしょう。3つの小説からなる短編集なのですが、それぞれに美しい土地と文化の中で癒され、自分を見つめる人たちが描かれていてやさしい気持ちになれます。ショッピングセンターとロコモコもいいけど、こういうハワイを体験してみたいな。


3.『月と六ペンス』新潮文庫
著・文/サマセット・モーム,訳/金原瑞人,発行/新潮社



日本人にとってハワイというと既知の場所というかんじもありますが「タヒチ」と言われるととたんに未知の南国感がありますよね。画家・ゴーギャンをモデルにしたと言われているこの作品で、タヒチの夢のような美しさを味わってみては。昔の小説なので読みづらいかな? と思いきや翻訳の力なのか、まったく抵抗なくするする読めます。異国のムードと芸術家の激しい情熱に酔いしれて。


4.『アジア多情食堂』わたしの旅ブックス43
著・文/森まゆみ,発行/産業編集センター



作家の森まゆみさんによる旅エッセイ。中国、台灣、韓国からタイ、ラオス、ベトナム、インド……ととにかくアジアを制覇してる! うーん、やっぱりアジアはいいよなあと再確認させてくれる1冊。ご自身が50代〜60代の頃の旅行をまとめたものだそうですが、こんなことを思った、考えた、という記述も多いので、中高年の旅の「内面のガイドブック」としても役に立つ。いつでも心は自由でやわらかくありたいです。


5.『オールド台湾食卓記 祖母、母、私の行きつけの店
著・文/洪 愛珠,訳/新井一二三,発行/筑摩書房




私たち日本人にとって台湾は、なつかしくもあり、ご近所感もあり、南国の憧憬も感じさせてくれる特別な国。表紙に「行きつけの店」と書いてあるので、ショップガイドのような本なのかな? と思っていたのですが、これが全然、三代にわたる女性たちの歴史と土地の物語、そして豊かな食文化があふれ出るようなエッセイで、読んで幸せになれる重厚な1冊です。ああしかし台湾に行きたくなってしまう……台湾が好き&台湾のごはんが好きならこれは必読。


6.『隙間』ビームコミックス
著・文/高 妍,発行/KADOKAWA




台湾出身で今もっとも注目されている漫画家・高妍さんの新刊、なんと舞台は「台湾」と「沖縄」。歴史的、政治的な問題で中国に苦しめられている台湾と、日本に基地問題を押し付けられている沖縄はとても似ています。若者のデモや社会運動を真正面から扱いながら、同時に主人公が抱える恋愛の問題も描く本作は、他の漫画にはない読み心地。熱帯のように熱く、ピュアな心の美しさに圧倒させられる傑作です。


7.『手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄
著・文/小澤典代,発行/技術評論社




沖縄の魅力を伝える本はたくさん出ているのですが、手紙社が好きだったりモノづくりが好きな方ならこんな本はどうでしょう。雑貨スタイリストの小澤典代さんが琉球ガラスややちむんをはじめとした沖縄独自の工芸を作って暮らす人を訪ね、話をきいてまとめた本です。工芸品自体の魅力やこだわりを感じられるのと同時に、この島で暮らすこと、伝統を継いでいくことの美しさも感じられます。


8.『島はぼくらと』講談社文庫
著・文/辻村深月,発行/講談社




国内の南国といえば沖縄もそうですが、瀬戸内海もあたたかそうでいいですよね。こちらは瀬戸内海の架空の島の高校生4人を中心に、島の人たちの人生を描いた爽やかな青春小説。もちろん狭い人間関係や古い慣習、大人になったら出ていかなければ……といった悩みはあるものの、愛する場所、帰れる場所があって豊かな青春時代を送る彼らがうらやましくなります。

 

9.『海の辞典
写真・文/中村卓哉,発行/雷鳥社

 

 

イメージの中の“南国”は必ず海。足ヒレつけてカラフルな魚と戯れたいものです。昔(2000年ごろ)は大きな判型の海の写真集とかたくさん出ていたのですが、最近はあまり見かけないですね。なんでも動画で楽しめるようになったからなのかな……。というわけで、最近書店でも人気があるのはこのような文庫サイズの写真集。海のきれいな写真と、海にまつわる「ことば」を集めた1冊で、楽しくてつい見入ってしまいます。


10.『ベンガル料理はおいしい
著・文/石濱匡雄,監修/ユザーン,発行/NUMABOOKS




タイ料理やベトナム料理も南国料理のはずですが、我々はもう知りすぎてしまったのか、あまり“南国”って感じがしない。個人的に「南国っぽいなあ!」と思うのはベンガル地方や南インド、スリランカの料理。ハーブやスパイス多めで、野菜や魚もよく使われていて、バターチキン+ナンの王道インドカレーとはちがうときめきをくれます(北インドでもナンはあまり食べてないらしいとはよく言われていますが)。この本は写真もかっこよくてレシピも面白いものばかり。ちょっと気合いを入れてチャレンジしてみませんか?

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。