
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「『新生活』という言葉に踊らされずに、頑張りすぎずマイペースで乗り切るための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』
著・文/中田 考,発行/実業之日本社

この時期、どうしても世間にあふれがちなのが前向きなアドバイスのあれこれ。「新しいことを始めてみよう」「友達を作ろう」「少しずつ貯金しよう」などなど……。もしそんなポジティブさに少し疲れてしまっているなら、真逆を行くようなメッセージ集はいかがでしょうか。タイトルもすごいですが内容は「友達を減らそう」「お金はあげてしまおう」そして「自分に生きる権利なんてないことに気付こう」(えっ?)。……実は著者はイスラム教の専門家。決してふざけているわけではありません。新たな人生観が見つかる1冊です!
2.『ゆるストイック ノイズに邪魔されず1日を積み上げる思考』
著・文/佐藤航陽,発行/ダイヤモンド社

根性論(徹夜で仕事するのあたりまえ、的な)の時代が終わり、「がんばらなくてもいいんだよ」もイマイチ効き目がなくなってきた私たちの2025春。死ぬほど頑張りたいわけじゃないけど何かはしたいのよ、という今の気分にぴったりなのは「ゆるストイック」な姿勢なのかもしれません。今の時代らしいエッセンスがいっぱいで、はりきりすぎずに、自分がなすべきことをコツコツやればいいんだよな〜と思わせてくれる本です。
3.『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』
著・文/牟田都子,発行/KTC中央出版
転職したり、新たな道を選ぶ人を見ていると、自分にとって仕事とは何だろう? と改めて考えてしまう……春はそんな季節でもあります。本が好きな人にとっては知られつつある仕事ですが、本書を読むと、校正ってほんとうに地味で大変で苦労ばかり多いのだなあとつくづく思わされます。しかし、それにもかかわらず彼らの真剣さや仕事への誇りがかっこよすぎて「自分もこんなふうに働いてみたい!」と心がキラキラしてきます。やる気落ち気味の方、仕事に迷い中の方にオススメ。
4.『午前7時の朝ごはん研究所』
著・文/小田真規子,イラスト・漫画/スケラッコ,発行/ポプラ社

疲れて外食やコンビニ食が続くと、自分ってなんてダメなんだろうと自己嫌悪……と負のループへ陥りがち。昼のお弁当作りや夜ご飯作りのハードルが少し高いなら、「朝だけは作ってみる」というのはどうでしょう。しかもスケラッコさんのかわいい漫画や図解がいっぱいの朝ごはんの“実験”は試してみたくなるアイデアがいっぱい! 家事だと思わず「私は朝ごはんを研究しているのだ」という気持ちでいるが大事なのかもしれません。
5.『菊池亜希子の ありが10(とう)ふく、みせて!』
著・文/菊池亜希子,発行/扶桑社
自分らしい装いをしている人を見ると憧れますが、「いったい何を着たらいいのだろう?」というのもよく聞く悩みです。個性的な装いが素敵な15人の女性たちに、「そばにいてくれてありがとう」と感じている服や小物を教えてもらうことをきっかけに、ファッションについてのおしゃべりを繰り広げる、眺めているだけでも楽しい本。そう、似合うも年相応もラクチンも大事だけど、やっぱり“好き”が大事なんだな〜と再確認。今の服、好きですか?
6.『女の子が死にたくなる前に見ておくべきサバイバルのためのガールズ洋画100選』
著・文/北村紗衣,発行/書肆侃侃房
日々の「つらい」の何パーセントかは、「女性はこうでなければならない」あるいは「誰しも普通でなければならない」と押し付けてくる社会のせいかも。そんなときに効く映画ばかりを紹介したこのブックガイド、若い女性向けのものですがぜひ大人も参考にさせてもらいましょう(そういえば『オトナ女子』って、気がついたら誰も言わなくなってますね……)。実際の映画を観ずともこの本の解説だけですでに元気になれるような力強い1冊です。
7.『心はどこへ消えた?』文春文庫
著・文/東畑開人,発行/文藝春秋
心、は私たちの日々のほとんどであるような気もします。「仕事に行くのがめんどうだ」とか「ごはんがおいしい」とか思っているのはきっと心。でも自分自身でさえよく正体がわからない、心。臨床心理士であり日々カウンセリングを通じて多くの人の心を診ている著者が、カウンセリングの事例を通して、物語のように軽やかにやさしく、心の不思議について教えてくれる本。先生であるはずの著者のわたわたっぷりも含め、ユーモアと誠実さに満ちた言葉が「心」を軽くしてくれます。
8.『幸あれ、知らんけど』
著・文/平民金子,発行/朝日新聞出版
元気がない日、落ち込んでいる日に読みたい本って難しい。本をめくることすらしんどいじゃないですか。しかしそれでもなんとか開いてもらえたらいいなと思うのがこの本です。神戸に住む40代1児の父であるライターの日々雑記的エッセイなのですが、テンション低め、だけど愉快、けど浮かび上がる情景がとても美しくて、心にじわじわ沁みます。知らない誰かの幸せを願えたら、きっとみんな大丈夫。
9.『花のうた』
編/左右社編集部,発行/左右社
イライラしたり心がざわざわしているとき、ほんとは瞑想とかできたらいいんだと思いますが、なかなか難しいですよね。こちらは春に読むのにふさわしい、「花」が出てくる短歌を100人分100首集めたアンソロジー歌集。心を研ぎ澄ませてひとつひとつをじっくり読んで、「こういうことかなあ」と思いを馳せていると、心が外に連れ出されて静かになっていくような。ひとつずつ作風が違うので、次のページではいったいどんな作品が来るのだろうというワクワク感もいいんです。
10.『やりたいことは二度寝だけ』講談社文庫
著・文/津村記久子,発行/講談社

しかし短歌を読んで背景を想像する、そんな気力もないよという人にもまだ救いはあります。そうです、二度寝です!全編が世のセオリーを裏切るような「季節のうつろいにはほんとに心を動かされない」「花火を観に行くのもめんどうなのでまぶたの裏でも見ていよう」的ダウナーな笑いの波状攻撃で、すべての文章が楽しい夢のようなエッセイです。津村さん、ほんとうにすばらしい小説もたくさん描かれているのになぜこんな……。いや、だからこそなのか……。「自分だけじゃないんだ」と思わせてくれる最高の本かもしれません。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。