
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「身近な謎に迫る本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『大人も知らない みのまわりの謎大全』
著・文/ネルノダイスキ,発行/ダイヤモンド社

とにかくすごーく“ヘン”な本。かわいい表紙をめくると、昭和の小学生向けオカルト漫画のようなテイストが一面に広がっています。内容は宇宙人が日本の住宅街に降りてきて、家のアンテナやマンホールや給水タンクを見つけては謎の物体だと大騒ぎし、それを地球人が全部解説するというもの。そしてこれがなぜか異常におもしろい。小学生はもちろん大人にも大ウケで、なんと発売してすぐ5万部突破のベストセラーに!
2.『日記シリーズ 警察官のこのこ日記』
著・文/安沼保夫,発行/三五館シンシャ

映画やドラマの世界でしか知らないお仕事ってたくさんある。けど、現実はどうなんだろうといつも思います。経験者が実情を語ることで人気のこちらのシリーズは「TVプロデューサー」「ディズニーキャスト」「消費者金融」など、「ねえねえ、ほんとのところどうなの?」と聞きたくなる職種を絶妙に押さえたチョイスと、告発でも自己啓発風でもない平熱の温度感が魅力。気になる仕事があったらぜひ読んでみてください!
3.『純喫茶図解』
著・文/塩谷歩波,発行/幻冬舎
空間認識能力というのでしょうか、自分が住んでいる家の間取りを書こうと思っても書けません。あれ難しいですよね。好きなお店をこんなふうにスケッチできたら最高に楽しそう。知ってるお店は「なるほどこうなってたのか」、知らないお店は「わあこんな感じなんだ」と、そして素敵な純喫茶をたくさん知ることができて、建築スケッチを味わうこともできる、楽しみもりだくさんの本。
4.『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』
著・文/三宅香帆,発行/ディスカヴァー・トゥエンティーワン

日常のいちばんの謎。なんで好きなものの話をするのってこんなに難しいんでしょう。面白かった本のことを心のままに話そうとすれば「とにかく最高。ほんとーーーにおもしろいの! これはすごい。まあとりあえず読んで」となってしまう……。まあ仕事上(というかこの文章でもそうですが……)そうならないようになんとかギリギリ文章をこねくり回しているわけですが、ああもどかしい。この本を読めばその謎は解けます。言語化できるようになるかは……まあとりあえず読んでください!
5.『字幕屋のホンネ 映画は日本語訳こそ面白い』光文社知恵の森文庫
著・文/太田直子,発行/光文社
ところで映画は字幕派ですか? 吹替派ですか? どちらもそれぞれのよさがありますが、映画の字幕プロによるこちらのエッセイは、笑って読めるけど知らないことの連続で目からウロコ。字数制限があって大変というのは聞いたことがありましたが、禁止用語、ジョーク、プロモーションの方向性……と、ここまで苦労が多いとは! 映画好きはもちろん、翻訳や言葉に興味がある人なら絶対楽しめるはず。
6.『僕には鳥の言葉がわかる』
著・文/鈴木俊貴,発行/小学館
翻訳といってもこちらはなんと「鳥語」の翻訳がテーマ。野鳥が大好きで野鳥を研究している著者は、「鳥は二語以上の単語を組み合わせて文章で会話しているに違いない」と確信します。が、それは動物界では「ありえない」とされていて……。学説をひっくり返し、鳥の頭の良さを科学的に立証するために著者は立ち上がった! ワクワクと知的好奇心が止まらない1冊。読後はもちろん鳥の言葉がわかるようになります。
7.『人は、こんなことで死んでしまうのか! 監察医だけが知っている「死」のトリビア』知的生きかた文庫
著・文/上野正彦,発行/三笠書房
死因を明らかにする監察医として二万体の検死・解剖を行なってきたという著者による「死のトリビア」。パンの早食いや笑いすぎ、扇風機をかけて寝ただけで死ぬこともあるという恐ろしい話が続々と綴られており、「うわっ」「ひえっ」の連続です。しかし怖いけどなぜか読むのがやめられない……、この知識、いつか役立つときが来るのかな……? 心が元気なときに読むことをおすすめします!
8.『謎の症状 心身の不思議を東洋医学からみると?』
著・文/若林理砂,発行/ミシマ社
同じ人間の人体についての本ですが、こちらは穏やかに。「疲れているときほどジャンクフードが食べたくなる」というような“あるある”から、手汗、ニキビ、口内炎……と病院に行くほどでもないような不調まで、東洋医学ではこんなふうに考える、というのをわかりやすく教えてくれる本。西洋VS東洋のどっちが正しいとかどっちを信じるかとかではなく、視点が増えることで身体と向き合う方法を増やすのがよさそう。
9.『謎の香りはパン屋から』
著文/土屋うさぎ,発行/宝島社
個人的に、「ミステリーってなぜ基本的に殺人事件なんだろう」というのも長年謎だと感じていることです。こちらは殺人事件が起きずに、あたたかな気持ちをくれる日常ミステリー。「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、今もっとも売れている1冊。謎を追っているうちにどんどんお腹が減ってきてパンを食べたくなること間違いなしの問題作。
10.『なぜ人は自分を責めてしまうのか』ちくま新書
著・文/信田さよ子,発行/筑摩書房

ラストは少し重めの本ですが、特にやはり女性に多いでしょうか、何でも「自分のせい」「自分がちゃんとしてないから」と自分を責めてしまう人。日本を代表するカウンセラーであり、母娘問題や家族との共依存の問題に詳しい著者の公開講座をしゃべり言葉のまま本にしたこちら。きびしい言葉がズバズバ飛び交いますが、「あっ、そういうことか!」と刺さること間違いなし。自責ループの謎が解ければ、そこから抜け出す一歩は必ず踏み出せますよ!
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。