
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「ますますパンが好きになる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『こんがり、パン おいしい文藝』河出文庫
著・文/津村記久子、穂村 弘、他,発行/河出書房新社

これぞパン文学の決定版! 江國香織、川上弘美、角田光代……などなど、第一線にいる作家たちのパンに関するエッセイだけを集めたアンソロジー。「面白い」「おいしそう」「パンが食べたくなる」のはもちろんのこと、戦時中のエピソードや海外のパンの話、日本のパンの歴史まで知ることができて、パン博士に一歩近づけそう。
2.『日本全国 地元パン』
著・文/甲斐みのり,発行/エクスナレッジ

最近ではガチャのキーホルダーや文具まで出るほど人気の「地元パン」。独特のレトロなパッケージと素朴なパンのビジュアルはいつ見てもなつかしかわいくて、手元に置いておきたくなる存在。提唱者・甲斐みのりさんが手がけた「地元パンの定本」とも言えるこちらは、カタログのように日本全国のパンを見ることができてワクワクな楽しい本。国内旅行へお出かけの際はぜひこの本で予習を!!
3.『おかしなパン 菓子パンをめぐる おかしくてためになる対談集』
著・文/池田浩明、山本ゆりこ,発行/誠文堂新光社
いわゆる「菓子パン」に分類されるあんぱんやメロンパン。おしゃれなベーカリー特集ではあまり日の当たらない存在ですが、パンオタクと菓子研究家のふたりが集まって甘いパンに焦点を当てれば、そこは「わかる人だけわかればいい!」の超アツアツトークランド。何かを好きな気持ちってどうでもいい部分ほど光輝くし、ふたりの強烈なパン愛に憧れてしまいます。
4.『トーストの発想と組み立て コク、甘み、塩味のバランスで作る おいしさの探求』発想と組み立てシリーズ
著・文/ナガタユイ,発行/誠文堂新光社

この「〜の発想と組み立て」というシリーズ、もともとプロに向けた専門書で「サンドイッチの発想と組み立て」や「デザートの〜」「スパイス&ハーブ料理の〜」とプロユースだったんですが、ここにきて、トーストを……組み立てる……? とは? と訝しがりながらページを開くと、一応プロ向けというぎりぎりの面子は保ってはいるものの、実際もう完全に人を誘惑するためのトーストの写真集でした。そもそもこの表紙からして確信犯ですから。
5.『サンドイッチ・バー』
著・文/坂田阿希子,発行/東京書籍
せっかくなのでビジュアルが大優勝している本をもう1冊。「パンは朝食べるもの」という先入観のある方も多いと思いますが、夜のため、あるいはお酒のためのサンドイッチ本がこちら。たしかにどれもおいしそうで、逆に朝食べるにはちょっと重いかも……なレシピがいっぱい! 休日の夜、最高のサンドイッチとお酒を用意してどっぷり読書タイム、なんていかがでしょうか?。
6.『へとへとパン 小麦粉を使わない白崎茶会のかんたんレシピ』
著・文/白崎裕子,発行/マガジンハウスマガジンハウス
パンを家で作るための本、といえばそれはもう用途に応じてたくさん出ているわけですが、その中でも特に気になる1冊。小麦粉を使わないことで有名な白崎茶会さんのパン作りの本です。米粉がメインですが、他にもオートミールや豆腐を使ったおどろきのレシピがいっぱい。どれもかんたんそうだし、ちょっと実験のようでもあって、作ってみたくなります!
7.『パンどろぼう』
著・文/柴田ケイコ,発行/KADOKAWA
パンの本特集なら、これを取り上げないわけにはいきません。令和でいちばん売れている絵本といっても過言ではないこちら、なんとシリーズ全体で現在400万部を突破しているらしいです。1万部売れたらヒットと言われるこの時代に……すごすぎる……。この、かわいいのかどうかよくわからないキャラ(パンの中に入っているのはネズミです)とはちゃめちゃなストーリーが人気の秘密のよう。未見の方はぜひチェックを!
8.『昨日のカレー、明日のパン』河出文庫
著・文/木皿 泉,発行/河出書房新社
大人向けの小説で「パン」「パン屋」が主役になっているものって意外と少ないんですよね(本来であれば『謎の香りはパン屋から』をご紹介したいところなのですが、なんと先月のこのコーナーですでに紹介してしまい……)。本作は人気脚本家、木皿泉さんのはじめての小説。正直この作品でもパン自体はそこまで活躍していませんが、読む人をじわりとあたたかな気持ちにさせてくれる、やきたてパンのような物語です。
9.『ベッカライ・ビオブロートのパン』
著文/松崎 太,発行/柴田書店
意外と知らない、パン職人の人の話。現在も兵庫でオーガニックにこだわったドイツパン屋を営む著者、松崎さんのまっすぐな人生がまるごと伝わってくる本です。華やかで色とりどりなパン屋さんも大大大好きだけど、独自のパン作りを深く掘り下げ、静かに追求し続ける姿勢に心打たれます。パン職人になってみたい人はもちろん、仕事や人生に悩んでいる人にも効く1冊!
10.『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』
著・文/梯 久美子,発行/文藝春秋

10冊目にむりやりねじ込みますが、アンパンマンの作者の本も広い意味ではパンの本だよね? とういことで……。朝ドラ「あんぱん」も話題ですが、見てない人もこれは面白いのでぜひ読んでほしい! タイトルどおり、アンパンマンの作者の評伝なのですが、やなせさんがアンパンマンを描いたのって実は50歳過ぎだったり、それまでの人生もいろいろ紆余曲折すぎてすごい。けど両親との別れや戦争体験が彼らの「原型」になったのだなと……。静かな感動がこみ上げる名著です。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。