あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、1年を振り返る特別編「勝手にアカデミー賞!」です。2023年に公開された最新作の中から《主演俳優賞》、《助演俳優賞》、《ドキュメンタリー賞》、《アニメ賞》、《音楽賞》の5つの部門の受賞作品・俳優を勝手に選んでみました! その選考をしてくれるのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、交互に発表しました! さぁ、二人はどんな作品や俳優を選ぶのか、ぜひご覧ください。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから特別編​​「勝手にアカデミー賞!」を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、2023年の映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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有坂:今月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」のテーマは、「勝手にアカデミー賞」ということで、毎年恒例のこの企画。一応部門が5つあります。《主演俳優賞》《助演俳優賞》《ドキュメンタリー賞》《アニメ賞》《音楽賞》という5部門でお届けします。「なんで作品賞ないの?」って疑問に思う方もいると思うんですが、これはキノ・イグルーが毎年年末に発表する、映画ベスト10というのがあって、そこで僕たちは外国映画、日本映画を10本ずつ紹介するというのをやっているので、作品賞に関してはそちらを見ていただくということで、それ以外のなかなかフォーカスしないような部門に集中して、ここではご紹介していきたいなと思います。いつもだと、その作品が被った場合は別のものを、代案を用意してやっているんですけど、もうこの勝手にアカデミー賞はね。かぶったらかぶったで、それだけ素晴らしい映画ですということで、かぶりありでお届けしたいと思います。はい、じゃあいきましょう。まず、僕の勝手にアカデミー賞《主演俳優賞》は、この方です!


有坂の2023年《主演俳優賞》
ミア・ゴス

主演映画『Pearl パール』 監督/タイ・ウェスト,2022年,アメリカ,102分

有坂:今年は、『Pearl パール』に出た割と若手女優のミア・ゴスです。もうミア・ゴスを置いて他にはないんじゃないかぐらいな。主演した『Pearl パール』という映画、これはジャンルでいうとホラーになるんですけど、同じタイ・ウェストという監督とミア・ゴスで、実はX エックスっていうホラー映画をまずつくって、それのシリーズ第2作として公開されたのが『Pearl パール』です。一応、その前作の『X エックス』に出てきた、極悪老婆パールの前日譚。若き頃の、なんであのおばあちゃんは、あんなことになってしまったんだっていう、その若き頃のストーリーを、これは映画化した一作になっています。もう、このビジュアルが表すように、この無表情で手が真っ赤なんですけど、このミア・ゴスっていう俳優は、もちろん、僕も存在は知っていましたし、過去作も何本か観ているんですけど、もう圧倒的に、もう代表作が急に来たなみたいな。で、これってやっぱりこのミア・ゴス演じたキャラクター、パールっていうキャラクターありきの第2作になっていたなと思っていて、あとでパンフレットを読んだら、やっぱりその1作目に登場したパールとミア・ゴスが素晴らしすぎて、もうその脚本の準備段階、脚本ができて、演技も色々こういうアプローチでしましょうっていう段階で、これはもうパールに焦点を当てた2作目をつくるべきだって監督が思って。そのミア・ゴスと、もういろいろ2作目の構想も進めて、なんと1作目が完成する前に、これも続編の制作も決定したっていう、異例中の異例な制作体制でできた映画です。これ一言で言うと、女性版ジョーカーといってもいい役をミア・ゴスが演じてるんですけど、もともとこのパールっていう女性は、若き頃はミュージカルスターになりたいっていう夢見る少女だったんですよ。そこから、いろいろボタンの掛け違いで、もうどんどん負の連鎖が続いて、彼女はやがてシリアルキラーへと変貌していく、そのプロセスが楽しめるような映画になっています。これは、つくったのがA24という、世界の映画界をリードしている制作会社がつくっているっていうだけあって、さっきお話しした脚本段階で、続編のGOも出したっていう、続けて、実は3作目も、もうこれから撮影に入るということで、3部作になっています。ただ、2作目だけ観ても作品としても面白いし、本当にこれまでにはいないタイプの、また新しい魅力的な才能のある女優が出てきたなっていうのが、とにかく堪能できる作品です。見どころは、絶対に内容は言えませんけど、ラスト。もう本当に鳥肌が立つような、もう映画史に残るラストシーンが観られるので、それはぜひ楽しみにして観てほしいなと思います。
渡辺:オズの魔法使いみたいなね。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:ルックで、それでホラーやるっていう。
有坂:そうそう、だから絵は綺麗だし、音楽もやっぱりすごいこだわってつくってるので、そういう世界観、映画観るときに世界観を大事にしている人は、本当騙されたと思って、この赤とか白とか原色を多様した、この世界観も本当に素敵なので、ぜひホラーだからって尻込みせず、観てほしいなと、多くの人に観てほしいなと思う一作です。
渡辺:これは僕もホラー苦手ですけど、全然観られたし、観てよかったと思えた作品です。
有坂:それこそ順也は、『X エックス』は観てないんだよね。
渡辺:観てない。
有坂:でも、楽しめるので!
渡辺:じゃあ、僕のアカデミー賞《主演俳優賞》はこの方です!


渡辺の2023年《主演俳優賞》
ケイト・ブランシェット

主演映画『TAR/ター』 監督/トッド・フィールド,2022年,アメリカ,158分

渡辺:これは、アメリカのアカデミー賞でも本命と言われていたところなので、結構王道というか、っていうところではあるんですけど、改めて観てやっぱりケイトすごいなっていうですね。
有坂:すごいよ。
渡辺:これはアカデミー賞ものですねっていう。本当にそういう感じだったなと思います。実際、彼女はアカデミー賞も獲っていますし、当然実力はあるという感じなんですけど、作品自体が結構ミニシアター的な公開だったので、改めて紹介すると、ターっていうのが人の名前で、ケイトの役なんですけど、彼女が世界最高峰のオーケストラの指揮者っていう立場です。なので、その世界では一番の権威みたいなところまで登りつめているのがケイトなんですけども。そこで、話としては、結構偉い地位にあるのでパワハラとまでは言わないんだけど、パワハラ、セクハラとまでは言わないんですけど、ちょっと立場が強いから偉そうにしてしまうとか、ちょっと部下の人を、自分の権力で思うようにしたいみたいなところが出てきたりしていくんです。そこからほころびが出始めて、だんだん追い詰められてしまうっていうのが、このストーリーだったりするんですけど。その現実とちょっと追い詰められていくところで、見えないものが見えてきたりとかっていうところの追い詰められっぷりの表情とかが、やっぱりもう絶妙で、この辺はケイトだからこそできる表現みたいなところが、めちゃくちゃ堪能できる作品です。作品としてもすごく面白いので、音楽もので、こういうのってセッションとかは、結構、鬼教師が生徒をガンガン追い詰めていくっていう話なんですけど、これの場合はちょっと自分がしたことがきっかけで、ほころびが出始めて、逆に自分が追い詰められてしまうみたいなっていう、微妙な精神の追い詰められ方みたいなのを、見事に体現してるっていうのがあるので、これはもう本当観てもらわないとわからないんですけど、もうさすがケイトだなっていうところを、堪能できる作品だと思います。なので、ちょっと『Pearl パール』も候補には上がってたんですが、僕はケイトの『TAR/ター』で、主演俳優かなと思います。
有坂:これはもうケイト・ブランシェットの無敵感、もう本当にもう完璧主義で、何の寸分の狂いもないみたいな。あの無敵感があって初めて成立する世界だよね。他の変えがきかないというか、もう演じる側もすごいし、キャスティングした人もすごいし、あの世界観をつくったからこそ余計にね、ケイト・ブランシェットの魅力が際立っていくっていうね。本当に作り手と、演者の幸せなコラボレーションだなと。
渡辺:そうね。これは本当に、お見事な感じです。
有坂:まあ、これは出るよね。はい、じゃあ僕の《助演俳優賞》にいきたいと思います。


有坂の2023年《助演俳優賞》
松浦りょう

助演映画『赦し』 監督/アンシュル・チョウハン,2022年,日本,98分

有坂:これはポスタービジュアルとかに、その松浦りょうさんの表情がドーンと使われていて、主演みたいな扱いなんですけど、主演はまた別の人です。これどんな物語かっていうと、いわゆる裁判劇なんですけど、松浦りょう演じる女性が、未成年で自分の同級生を殺害してしまった。で、その殺害された夫婦が、主役。特にお父さんなんですけど、お父さんが主役です。尚玄さんとMEGUMIさんが夫婦で、松浦りょうが、加害者の犯人役という。これは、作品としては、裁判劇なのにすきだらけ、ツッコミたい放題、そんなゆるくていいの? っていうような内容なんですけど、この松浦りょうさんの演技が圧倒的すぎて、演技というか存在感、たたずまい。本当に彼女だけ、映画の世界を生きているような、特別な才能を持った人が出てきたなって誰もが思えるぐらいの圧倒的な人の、これはもう代表作になるであろう一作です。彼女は、ようは、なんで自分の同級生を殺害しなくてはいけなかったのか。物語はそこに焦点が当たっていくんですけど、彼女はもうその収監されている身なので、基本的には私はこうしたかったんですとか、思いを述べる場があんまり基本的にはない。だけど、その思いを、複雑な感情を、表情とかでやっぱり見せるシーンというのが結構多いんですよね。そこがもうね、すごいのよ。もうね、いろんな感情が入り混じっているんだろうなっていう、表情とか、本当納得してないんだろうなとか、そういうのを滲み入るような感情で表現していく。あと、もうこのポスターもそうですけど、あの眼差しの強さ。もうこのポスターだけで映画を観ようって決めた人が、本当に多いらしくて。実際フィルマークスとか見ても、同じようにこの眼差しに惹かれて観ました。作品はでも……っていう割とコメントが多かったりはするんですけど、なんかそのやっぱり映画の面白いところって、その役者の表情がすべてを語っているわけではない。セリフとかもそうだけど、その向こう側の感情みたいなものを観ている側が、なんか読み取れるようなつくりの映画こそ、本当にこう何度も観たくなる映画だし、なんだろうな、特別な一本になっていくと思うんですね。で、さらに自分たちが、これまであまり聞いたこともなかったような、新人俳優がそんなもうすごい演技で出てくると、やっぱりもう観る側としては、同時代のスターが出てきたっていう楽しみ方もできて、なんか久々でした。僕の中では、吉高由里子さんが出てきた『紀子の食卓』と、あと、杉咲花ちゃんが出た、『湯を沸かすほどの熱い愛』とかに、本当に匹敵するぐらいの圧倒的な演技力。彼女はこの映画を撮る前かな、撮った後かな、事務所を辞めているんですよ。フリーでやるっていって、もう何でも苦労も全部自分で1回経験したいっていって、そういうところに身を置いて、今は割とあのPRADAとか、agnes b.とか、そういうファッション系からも声がかかって、多分、もうこれから観る機会が増えるような、そんな彼女の出世作。『赦し』は、本当に多くの人に観てもらいたいなと思う一作です。
渡辺:日本映画だと思わなかったもんね、最初。
有坂:そう、みんなやっぱり韓国映画だと思ったら、日本語喋っているみたいな。
渡辺:なるほどね。
有坂:U-NEXTとかで観られますね。ぜひ、松浦りょうさん覚えてください。パワープッシュしたい俳優の一人です。
渡辺:じゃあ続けて、僕の《助演俳優賞》はこの人です。


渡辺の2023年《助演俳優賞》
ライアン・ゴズリング

助演映画『バービー』 監督/グレタ・ガーウィグ,2023年,アメリカ,114分

渡辺:『バービー』は、今年夏ぐらいに公開されたグレタ・ガーウィグ監督の最新作で、主演はマーゴット・ロビーなんですけど、バービー人形のバービーのお話です。そもそも、バービー人形からよくこんな話をつくったなっていうですね。それ自体もすごいなと思うんですけど。このバービーの世界なので、バービーが主役で、バービーたち、もう女性が基本的には主体となる世界観ですね。なので、ライアン・ゴズリングはケンっていう、バービーのボーイフレンド役なんですけど。
有坂:最高だったよね(笑)。
渡辺:男たちが本当に脇役でしかないっていう世界観で、ケンの肩書が、ビーチの人っていうですね、ビーチに立っている人っていう、サーファーでもないし、レスキューの人でもないし、ただビーチに立っている人っていう設定っていうですね、本当になんかこう中身空っぽ男みたいなっていうのをライアン・ゴズリングが見事に演じ切っていて、さすがだなっていう(笑)。ライアン・ゴズリングって、やっぱり結構ね、映画によってはすごいマッチョな男だったりとか、結構繊細な男とか、そういうのをいろいろ演じられる人なんですけど、このなんかあの金髪のがっちりした、見かけはいいけど中身空っぽみたいな(笑)。そういう男を本当によく演じ切っていて、ちゃんと脇役なんだけど、しっかり存在感あって面白いっていうところが、かなりすごいなと思いました。このなんか、映画の中でも、途中で人間の現実世界にバービーとケンがやってくるんですけど、そこでいろんな実際の人間界と出会って、なんかバービー界と違うところを感じたりするっていう話があるんですけど、その中でケンは、実際の人間界は男性優位社会でっていうことに衝撃を覚えて、男性っていうだけで仕事が得られるとか、同じ会社でも男性の方が賃金が高いとかっていうところに、影響をめちゃくちゃ受けちゃうんですね。で、それを地でいこうとして、なんか俺、ここで働きたいんだけど、俺、男だから行けるでしょみたいなことをやりだしたりとか、バービー世界に帰ってですね、その男性優位のマッチョなやり方をみんなに教えて、みんながそれを伝播していくとか、その風潮がうつっていったりとかっていうのを、コメディでそういったものを揶揄した作品ではあるんですけど、その辺の現代社会の男性優位みたいなところを、めちゃくちゃ皮肉った作品だったりはするんですけど、それの体現役としてケンが、めちゃくちゃいい働きをしてるんですけど、それを本当にライアン・ゴズリンが見事に演じ切ってるなっていうところの面白さっていうのがあって、もうずっとライアンは、残っていた俳優だったんです。
有坂:そうだね。中身空っぽの演技するって、なかなか大変だよね。しかも、これだけ経験も重ねて、あれだけ性格俳優って言われるような演技派が、あえてその中身を全部捨てるって、多分思ってる以上に大変なことだったと思うけど、もうそのものにしか見えないもんね。
渡辺:そうだね。作品自体もグレタ・ガーウィグらしい、本当にメッセージ性に富んだ作品だなと思うんですけど、これ原作があるわけじゃないんで、バーミー人形から、よくこんな話を思いついたなっていうのは、すごいなと思いますね。結構U-NEXTとか。見放題ではないけど、観れますっていう感じですね。まだ、今年の夏にやったばっかりだからね。
有坂:そうか、俺、まったくそこはノーマークだった。でも、本当に最高の役、また好きになっちゃったね。ライアン・ゴズリングのことね、好きになっちゃった。
渡辺:こんなのもできるんだ!っていう感じだもんね。
有坂:よくキャスティングしたよね。もっとなんかわかりやすいさ、もう見た目も含めてそういう雰囲気のある人をキャスティングしそうだけど、さすがだね、攻めてるね。
渡辺:これはなかなか面白い作品です。
有坂:じゃあ、3つ目。今度は《ドキュメンタリー賞》です。僕は、日本映画です。


有坂の2023年《ドキュメンタリー賞》
『チョコレートな人々』

監督/鈴木祐司,2022年,日本,102分

有坂:これは、2023年の1月2日に公開した映画で、いわゆる日本のドキュメンタリー映画界の中で、トップランナーと言ってもいい東海テレビが制作した作品になります。タイトルのとおり、これはチョコレートにまつわるドキュメンタリーなんですけど、愛知県の豊橋市に本店を構える「久遠チョコレート」、その「久遠チョコレート」のオーナーの夏目さんという男性に密着したドキュメンタリーなんですけど、やっぱり東海テレビテレビドキュメンタリーの良さとして、ローカルテレビ局の良さって、長年にわたって密着取材ができる。その撮りためた映像をもとに現在を描ける。それがやっぱり地方局の絶対的な武器で、特に東海テレビは、そういった取材力が素晴らしいし、それをこの映画でいうと19年、波乱万丈の19年を描き出す。その時間軸で、追っている人の現在の悩んでいる姿とか、悩みながらも壁を乗り越える瞬間とかが、カメラに記録されているわけですよね。この「久遠チョコレート」っていうのは、もちろん、ただおいしいチョコレートをつくるお店っていうだけではなくて、心とか体に障害がある人とか、シングルペアレントの人とか、不登校者とか、セクシュアリティマイノリティの人とか、そういう多様な人を受け入れて、働きやすくして、おいしいチョコレートを届けるっていう。すごく志を持ったチョコレートのブランドなんですね。もともとは、チョコレート屋として始めたわけではなくて、夏目さんは小さいパン屋さんを始めたんですよね。ただ、そういうマイノリティの人たちが働ける場をつくっていきたいという思いだけは、昔から変わらなくて、それがどういう労働環境、扱う商材、何がベストなのかなっていうのを、本当にもうトライアンドエラーを散々繰り返してチョコレートにたどり着いた人です。このキャッチコピーにもなってますけど、チョコレートって、溶けちゃっても、「温めればまたやり直せる」っていうところが、夏目さんの持っている思想と、チョコレートの特徴が上手く重なって、すごくいいストーリーができているなって思うんですけど、夏目さんの志に結構観ている間、何度も涙してしまう。本当にね、やっぱりこういう人って不器用なんですよ。不器用なんだけど、やっぱり自分の思いをとにかく大事に、どんなときでも、そこの軸がぶれない。だけど、やっぱりうまくいかなくて、もっとやりようがあるんじゃないかなって観ている側は思うんですけど、でも、その人のそういう思考であるとか、エネルギーがここまで「久遠チョコレート」を大きくしたことも間違いないので、全部をやっぱり肯定してあげたくなる。観ていて、すごい応援してあげたくなる。そして、チョコレートをすぐ買いたくなる。
渡辺:ここのね。
有坂:そう、実際劇場では、「久遠チョコレート」を販売していて、もう終わった後、長蛇の列。僕も買いました。
渡辺:僕も買いました(笑)。
有坂:なので、本当にこんなに思いを持って、社会を良くしていこうっていう人が、同じ時代を生きているってことも勇気をもらえるし、あとこれドキュメンタリーとしては、なんかね伏線回収的な、なんか気持ちよさみたいなのも、ちょっとあったりするので、割とそういう意味での観やすさもあります。まあ、東海テレビって比較的ヘビーなドキュメンタリーが多いんですけど、その中にあってね、人生フルーツは、全く違うベクトルで、多くの人に支持された大ヒット作がありますけど、どっちかというと、『人生フルーツ』よりの、ちょっとウェルメイドなドキュメンタリーになっているので、なんかそのメッセージ性だけではなくて、なんかこうあったかい気持ちに素直になれる一本でもあるので。
渡辺:これは、いい映画だよね。
有坂:これが年始一発目だったからね。
渡辺:東海テレビって、大体年始にやるじゃないですか。
有坂:やるね。
渡辺:これは、ちょっと1月は本当に要チェックなんですけど、大体「ポレポレ東中野」でドキュメンタリー専門でやっているような映画館なんですけど、そこで東海テレビのドキュメンタリーシリーズは、まずやるんですね。だって、やっぱりテレビ局ものなので、結構ね、今もないですけど、動画配信とかやらないんですよ。
有坂:そう、これね。
渡辺:やっぱり、テレビ局のそれはポリシーなのか、わからないんですけど、その自社の局以外には出さないみたいなのがあったりするので、結構ね、映画館で観ておかないと、後々観られないっていうのが、あったりはするんですけど、これはね、ちょっとまたやるかもしれないですけどね。
有坂:うん、やるでしょう。
渡辺:なかなかいい作品でしたね。
有坂:そう、東海テレビの最新作の公開のタイミングで、大体その「ポレポレ東中野」で東海テレビ特集をやるんですよ。なので、ぜひそのタイミングは見逃してほしくないなと思います。ちなみに、『チョコレートな人々』の前のさ、東海テレビの新作って、ヤクザと憲法とかだったりしたよね。振り幅!
渡辺:それもね、面白かったです。でも、これなんかすごいビジネスマンの人が観ても、なんかその障害者の人とかをすごい雇用していて、やっぱり生産効率とか普通で考えたらちょっと落ちるんじゃないかと思っちゃうんですけど、なんかそれをね、いろんな知恵でカバーしていたりするので、そういう工夫とかっていうのも、なんかすごい見どころの一つかなとは思いますね。
有坂:あと夏目さんが言っていていいなと思ったのが、その障害者の人を雇用して、最低賃金で働かせるっていうのは嫌だったっていうね。最低賃金を上回る給料を出すっていう、なんかそういうところも、本当にそれって理想的にはそうだけどって言われることを、実践しちゃう人。そういう大人ってやっぱりかっこいいなって思うはずなので。
渡辺:で、チョコレートっていうのがね。さっきもあったけど、失敗しても溶かせばまたやり直せるっていう。それが、その商材とこのビジネスとのすごいハマったところっていうのが、そこを見つけられたっていうのが、すごい一つだよね。
有坂:遠回りしてね。やっと見つけたっていう。
渡辺:何度でもやり直せるっていう。そのなんかコピーがね、いろんなところとリンクしていて、それもなんかすごい素敵だなと思うので、これはなかなか観られる機会ないですけど、機会あったらぜひという感じですね。
まあね、ドキュメンタリー。それもあるよねと思ったんですが、僕のドキュメンタリーを別のものにします。

 

渡辺の2023年《ドキュメンタリー賞》
『燃え上がる女性記者たち』

監督/リントゥ・トーマ、スシュミト・ゴーシュ,2021年,インド,93分

渡辺:これはインドのドキュメンタリーです。けっこう評判が良くて、ロングランしている。まだ観られる劇場もあると思うんですけど、インドの女性記者を追ったドキュメンタリーなんです。その女性記者たちっていうのがどういう人たちかというと、インドってカースト制っていうのがあって、就ける職業とか決まっていたりするんですけど、その最下層にいる人たち。しかも、女性っていう、かなりマイノリティーだし、社会的な立場は弱い部類に属する人たちなんですけど、その人たちがスマホだけを持って、ジャーナリストとして取材していくっていう。そういうメディアが、新しく立ち上がったのが、この女性記者たちが働いてるメディアになります。なので、今の「久遠チョコレート」とリンクするところもあるかもしれないんですけど、これの場合は、スマホっていう新しいテクノロジーがあったからこそできたもので、ほんとスマホ一個あれば取材ができてしまって、YouTubeにそれをアップするみたいな。そういうやり方なんですね。彼女たちは、社会の片隅で困っている人たちを取材して、けっこうひどい事件があって、夫が仕事に行っている間に、家にいる奥さんが集団でレイプされてしまう。だけど、どこにも訴えられないし、泣き寝入りするしかない。で、夫は仕事に行かないといけないから、もう家を開けられないとか、そういう問題があるにもかかわらず、誰も知られていないっていう、そういうようなところを、実は彼女たちがスクープしていくんですね。YouTubeにアップして、それがバズって、それがニュースとして話題になるみたいな。それでみんなが知るようになって改善されていくっていう。そういう新しいムーブメントが起きているっていう。そういうことをやり始めている、新しいジャーナリスト集団みたいなのが、彼女たちっていうんですね。なので、その辺が、今だからできる技でやっているっていうところもありますし、もともと立場が弱い人がジャーナリストとして取材しているから、立場の弱い人たちの気持ちがわかっていて、本当に正義感が強くて、それを絶対暴いてやるんだっていう、正してやるんだっていう思いでやっているので、何か給料がいいからやっているとか、そういうことではない。ちゃんとした正義があるっていう人たちなので、そこの思いもすごい熱いものがあるし、仕組みとしてすごい、今っぽくて面白い。ちゃんと社会の役に立っているというか、良くするための存在としてすごく機能してるので、これはすごい面白いなと思うし、彼女たちをすごい応援したくなるっていう作りになってるので。これもね、すごい評判がいいので、かなりロングランしている。
有坂:まだやってるね。4館。
渡辺:まだやってるんで、東京もやってるかな?
有坂:東京はあんまりやってない。茨城県、栃木県、佐賀県、新潟。
渡辺:でも、けっこう地方にも広がって、こういうのってあんまり地方でやらないタイプのやつですけど、多分評判が良かったから広がってきている感じだと思いますね。これもなかなかいいドキュメンタリーなので。
有坂:社会派!
渡辺:社会派だね。この辺もちょっと機会があれば。ドキュメンタリーってなかなか観る機会がないですけど。
有坂:年々増えてるよね。
渡辺:まあそうだね。
有坂:社会派ドキュメンタリーとか日本もね、政治系のドキュメンタリー。
渡辺:ああそうね。
有坂:たくさん面白いのがあって、なんか社会が、こう良くない方に行けば行くほど傑作ドキュメンタリーができるっていうね。矛盾というかね、やりきれなさというか。
渡辺:最近もさ、あるじゃん。自民党の献金どうのみたいな。
有坂:絶対誰かカメラ回してるよね。
渡辺:誰か回してるよね。企業パーティーに潜入していたりする。
有坂:そうだよ。
渡辺:そういうのバンバン、ちょっと暴いてほしいね。
有坂:そうそう、でも、なんかそういう妄想をかき立てられるぐらい社会派ドキュメンタリーも充実してるので。けっこうスカッとするのが多いんですよ。なんか本当はこうやってほしいっていうものを、映像でちゃんと観せてくれると。そういうエンタメとしてもね、観られると思うので、ぜひ観てみてください。じゃあ、残るは2部門。
渡辺:そうですね。
有坂:ちょっとその前にビールおかわりもらえますか。
渡辺:よろしいでしょうか、お願いします。
有坂:じゃあ、おかわりをもらいながら続けていきましょうか。じゃあ、次の部門は《アニメ賞》です。《アニメ賞》は、めちゃくちゃ悩んだんですけど、これいきます。


有坂の2023年《アニメ賞》
『マイ・エレメント』

監督/ピーター・ソーン,2023年,アメリカ,93分

渡辺:へーなるほど。 有坂:まあ、皆さんご存知。ディズニー・ピクサーの最新作。これが傑作だったんですよ。ここ数年で僕は一番良かった。ダントツで面白かった。
渡辺:ディズニーアニメで。
有坂:そうそう。
渡辺:なるほど
有坂:これは、ご存知の方も多いと思いますけど、この火・水・土・風っていう、まあ、いわゆる元素、エレメントたちが暮らす世界を描いたディズニーアニメなんですけど、それぞれの火とか水とかの異なる特性のエレメントとは関われないっていうルールがあって、関われないんだけれども、同じエレメントシティっていう街で暮らしている。そんな彼ら彼女たちの出会いの物語になっています。で、なんか世界観、まあ、そのカラフルで本当にウキウキするようなエレメントシティの世界観も、しっかりつくり込んでいるし、あのなんだろうな、こう気分が高揚するような、うわーって、スピード感を持って、カメラがうわーって動くような映画的なシーンとかも、見どころもいっぱいあるし、なんといっても、これ胸キュン映画なんだよね。超胸キュンアニメで、この火と水のラブストーリーで、2人はお互いに好意を持っても、触れようとすると火と水なので消えてしまう。なので触れたくても触れられないっていう、その設定をうまくラブストーリーに生かしていて、だけど、そのなんかベタベタな展開も本当にね、素直に胸キュンできるような、やっぱり脚本とかもしっかりつくり込んでいるし、まあ、繰り返しになりますけど、その火と水っていうが、惹かれ合っていく。本当に恋に落ちていくっていう設定も、うまく使っているというところで、あとは、その同じ愛でも、なんか親子愛とかなんかそういった家族の物語っていうところにまで広がっていく意味で、すごくなんか全体的に共感性の高いアニメで、これはもう観終わった後、結構久々になんかディズニーアニメ観て、すげーよかったみたいな、気分になれた映画でした。で、ここ数日、なんかニュースになっているけど、最近のディズニーアニメのポリコレ問題。やりすぎなんじゃないかって言って、なんかディズニーのCEOかなんかが、コメント出していたよね。確かに、それはやりすぎなとこがありましたみたいな。で、この『マイ・エレメント』も、なんかそういった人種問題とか多様性みたいなメッセージってもちろん含まれているんですけど、あくまで、そこはさりげなく描いているというか、設定の中で無理なく描かれているので、そのメッセージ性が前に強く出るっていうタイプの映画ではなく、本当にもうラブストーリーとして素晴らしくよくできたディズニーアニメなので、あんまりこうディズニーアニメに馴染みのない人でも、ぜひなんか観てもらいたいなって思う一本で、超おすすめです。
渡辺:これ、火と水が絶対無理じゃんと思うもんね。それを、よくそういうまとめ方できるなっていうね、見事だよね。それはすごいなって思いますね。あと、まあそういうね、人種が違うとかっていうところのメタファーでもあるので、本当にそういう、なんかこう前向きなね。ポジティブなメッセージが込められていて、本当によくできた作品だなと思いましたね。
有坂:なんか一方で、ちょっとシザーハンズを思い出させるような、切ない場面もあったりして、いいんですよ。そういうエッセンスが入ってるのもいいですね。
渡辺:なるほどね。そう、ポリコレ、リトル・マーメイドじゃないですか。
有坂:そうそう、『リトル・マーメイド』をはじめ。
渡辺:あれはちょっとやりすぎ感が確かにあったけど、なるほど、まあさすがピクサーですね。
有坂:本当に。
渡辺:そう来ましたか。僕はですね、ちょっと違って、日本のアニメ。

 

渡辺の2023年《アニメ賞》
『BLUE GIANT』

監督/立川譲,2023年,日本,120分

渡辺:これは『BLUE GIANT』って漫画原作なんですけど、ジャズマンを目指す若者の青春ストーリーです。で、漫画も、なんかね最初の頃しか読んでなくて、ちゃんと全部読んでなかったんですけど、別にジャズも詳しいわけじゃないんですけど、それでももう全然観られるというかですね、そして号泣するっていう、なんか、これは本当にいい映画でした。あの青春を真っ直ぐやっているっていうところに、涙しちゃうんですよね。主人公は、高校生のときからサックスを弾き始めて、で、俺はもうプロになって、日本一のジャズマンになるんだっていう、大きい夢を持っているんですけど、まあ片田舎からやってきて上京してっていう中で、実際はけっこう上には上がいるみたいな世界の中で、仲間ができてですね、トリオを組んで、そして舞台に立っていくっていうストーリーではあるんですけど。なんだろうな、ストーリー展開としては、ちょっとスポコン的な要素があったりするので、いろんな凸凹チームが、だんだん勝ち進んでいくみたいな、そういうカタルシスもありつつですね、友情の話があったりとか、なんかけっこうね、こんなに泣くとは思わなかったっていうぐらい感動してしまった、いい作品です。音楽が、上原ひろみがピアノをやっていたりとか、けっこう本格ジャズミュージシャンが、音楽をやっていたりするので、音楽としてもすごい聴き応えがあるので、ちょっとまあ、音楽部門でもいいんじゃないかなと思うぐらいのものでしたが、アニメ部門でこれかなというので挙げました。
有坂:順也、あのスラムダンクでくるかなって思ってた。そしたら、こっちか。
渡辺:あれ、まあでも去年じゃん。
有坂:そっか。
渡辺:公開的にはね。
有坂:あー、そっかそっか。
有坂:でもいいよね、なんか、この映画とか漫画を読んで、ジャズをやってみたいっていう人って、劇的に増えていると思うんだよね。「スラムダンク」でいえば、バスケだし。
渡辺:そうだね。
有坂:なんかそういう意味で、なんか映画をモチーフにしたね。映画業界をモチーフにした漫画とか、映画とか、できてほしいよね。なんか夢を持ってそこの業界を目指したくなるような。
渡辺:なるほどね。
有坂:はい、わかりました。では、最後の部門です。最後は《音楽賞》。難しいね。毎度のことだけど。ということで、僕の《音楽賞》は、こちらです。


有坂の2023年《音楽賞》
『アステロイド・シティ』

監督/ウェス・アンダーソン,2023年,アメリカ,104分

渡辺:へー! なるほど。
有坂:まあこれは、あのウェス・アンダーソンという人は、すごく耳のいい監督。彼自身が、その自分の映画の中で使用する楽曲を選曲して、選曲するだけではなくて、あの毎回作曲家も入れて、あのオリジナルの曲ももちろん劇中に流れるんですけど、この最新作の『アステロイド・シティ』は、これですね。1955年のアメリカの南西部の砂漠の街が舞台になっています。で、なんか隕石が落下して、巨大なクレーターができていることが、観光名所になっているっていう街で、巻き起こる大騒動が、これはコメディとして描かれていて、まあ、その砂漠の街に宇宙人が到来するっていう、まあ本当になんか映画的な、こうワクワクするような楽しさが詰まっているんだけど、物語が意外と複雑で、何重の構造にもなっていて、僕は正直、物語理解しきれなくて、途中で完全に置いていかれました。だから、もう内容を追っていっちゃったら、ウェス・アンダーソンの楽しみ方の一つである。ビジュアル、色とか小物とか、そういうものが楽しめなくなるので、物語は、僕は一回放棄しました。なので、近々もう一回行きたいなと思っているんですけど。なので、このウェス・アンダーソンの映画を楽しむ要素の一つって、やっぱり世界観。一つ大きくあると思います。その中で、やっぱり音楽っていうのはとっても重要で、特に今回の場合って、そのアメリカの南西部の砂漠の街が舞台なので、なんかいくらでもこう乾いた、こう淡々とした映画をつくれる中、ウェス・アンダーソンがそこにはめた音楽って、カントリーとか、あと、いわゆるカウボーイソングとか、ヒルビリーっていう曲を割とストレートに当ててるんだけど、その選曲の仕方が、どれも可愛らしいんだよね。可愛らしいカントリーミュージックを選ぶ。だから、そのなんだろう、50年代の南西部っていう風景からずれてもいないし、ちゃんとウェス・アンダーソンの世界で鳴り響くような音を、きちんと選曲できているところは、やっぱり改めてすごいなって思いました。で、これはあの主題歌みたいな形で使われている曲があって、「Last Train To San Fernando」っていう曲で、これはなんか1952年にジョニー・ダンカンっていう人が発表した曲で、僕、聞いたことがあったんだけど、特に音だけ聞いたときに、繰り返し聞きたくなるようなものではなかったんだけど、この映画で流れて、こんなに素敵な音楽だったんだってことを、再発見させてくれた。それってやっぱりウェス・アンダーソンの力の一つなのかなって思うんですけど、なかなか馴染みのない、そういったカントリーとかカウボーイソングみたいなところを、改めて魅力的な音楽ですねってことまで提供してくれたのが、この『アステロイド・シティ』かなって思います。ぜひ、観るときは耳もすませながら、音楽とか、あとそうだな、中の効果音、効果音まですごいこだわってつくっているので、ぜひそこも含めてなんか耳をすませて、観てもらいたいなって思う一作です。
渡辺:これは確かに、絵と、物語の情報量で、物語が全然入ってこないっていうのはね、ありますが、まあでも絵を観ているだけでも、もう満足感は高いと思うので、
有坂:あと、これはジャーヴィス・コッカーっていうミュージシャン。元パルプのフロントマンですけど、ジャーヴィス・コッカーが、そのエンディングテーマをやっているだけじゃなくて、出演もしてるんだよね。
渡辺:あれ、そうだっけ。
有坂:そう。あとセウ・ジョルジってあのブラジルのミュージシャンで、ライフ・アクアティックの音楽、デビット・ボウイのカバーやった、あのセウ・ジョルジと、ジャーヴィス・コッカーが出演もしてるんで、音楽好きもちょっと必見の一作かなと思います。
渡辺:なるほど、そこは、ちゃんとチェックしとかなきゃね。なるほど。じゃあ、最後、僕の《音楽賞》です。


渡辺の2023年《音楽賞》
『キリエのうた』

監督/岩井俊二,2023年,日本,178分

渡辺:日本映画ですね。これは主演がアイナ・ジ・エンドなので、アイナ・ジ・エンドがストリートミュージシャンの役なので、もう本当に全編歌っているという感じです。アイナ・ジ・エンド好きは、もうマストで観たほうがいい作品なんですけど、あの彼女がミュージシャン、ストリートミュージシャン役なので、けっこうストリートで歌ってるシーンもあって、なので、有名歌手の往年の名曲とか、最近流行っているあの曲とかも、バンバン歌っているので、アイナ・ジ・エンドの歌声でけっこう有名なあの曲が、いっぱい聞けるっていう、そういったところが、わかりやすい音楽ものとして楽しいところがあります。松村北斗とか、彼のギターとかですね、そういったところも聞けたりしますので、その辺も音楽として見どころの一つかなと思います。アイナ・ジ・エンドが全編歌っているんですけど、フェスをやったりして、新宿の中央公園で、フェスをやって歌っているシーンとか、ストリートでやっているところとか、あと、話の中で、音楽プロデューサーみたいな人が出てきて、カフェで話をして、紹介されるんですけど、「この子、ミュージシャンなんで」、みたいな紹介をされるんですけど、「じゃあちょっと今歌ってみてよ」みたいな、すごい嫌な感じで、「今ここでですか」みたいな。普通にカフェの中で、他のお客さんもいる中で、「だって人前で歌うの平気でしょ」みたいなっていうね。なんかそういうのがあるんですよ。めちゃくちゃパワハラを受けるっていう。そこでどうするのかみたいなところとかも、なんかそのアンサーの仕方とか、そういうのもね、ちょっと音楽的なアプローチで。
有坂:あれ、名シーンだね。
渡辺:なんか、北村有起哉だっけ? なかなかいい役者だからね、嫌な感じで言ってくるんですよね。
有坂:スカッとしたね、あのシーンは。
渡辺:そういう音楽的なアプローチで、見せるシーンとかもあったりするので、これはなかなかちょっと面白いし、そうですね、アイナ・ジ・エンド好きは、本当に観たほうがいい作品かなと思います。
有坂:あと七尾旅人も出ているよね。
渡辺:そうだね。それもね、ストリートミュージシャン。
有坂:だから、アイナ・ジ・エンドが幼少期に音楽に目覚めるきっかけとして、ストリートミュージシャンで七尾旅人が出ていて、そこのキャスティングを間違えると、説得力がなくなっちゃうけど、そうきましたかみたいな、納得!
渡辺:そうだね。
有坂:あとアイナ・ジ・エンドといえば、「THE FIRST TAKE」っていう動画。一発撮りのあれのまだ「BiSH」だった頃に出た、「THE FIRST TAKE」やばいよ。オーケストラって曲。
渡辺:オーケストラって曲ね。
有坂:たぶん2回目、出ているんだよね。今回の『キリエの歌』のタイミングで。そっちはちょっと見てないんだけども、オーケストラ、本当もう涙が止まらない。もう彼女の歌の魅力がね。一発撮りの緊張感の中、伝わってくる。緊張しながら歌っている、あのヒリヒリした感じとか、まずそこから観てほしいなと。おすすめです。

 

──

 

渡辺:そういう感じで、かぶらなかったね。
有坂:全然、作品変えたりしていない?
渡辺:そうだね。
有坂:じゃあ、全くかぶらかったね。
渡辺:候補はいくつか用意しておいたけど。
有坂:そう、僕、《主演俳優》は、ダントツでミア・ゴスだったんですけど、といいながら、日本映画に絶対的な候補がいたんだよね。
渡辺:なんだろう。わかんない。
有坂:市子の。
渡辺:ああ、なるほどね!
有坂:今、公開している『市子』っていう映画の杉咲花。まあ、でもミア・ゴスね。その彼女のダントツ代表作っていうので、ミア・ゴスでしたけど、『市子』の杉咲花も、ぜひ観てください。本当、あの関西弁すごいよね。ネイティブにしか聞こえないけど、もうバリバリ東京出身だよね
渡辺:そう、『市子』ね。いい映画ですよ。俺も、エゴイストの鈴木亮平。
有坂:ああ、鈴木亮平ね。
渡辺:鈴木亮平が、ゲイの役なんですけど、なんて言うんだろう、そのちょっとおねぇな感じが醸し出されるぐらいで、もう思いっきりそうじゃないっていう、絶妙なラインがめちゃくちゃ上手なんですよね。それがね、さすがだなって思う。
有坂:いや、孤狼の血でね。あんな強悪なヤクザやってたのに。
渡辺:日本版ジョーカーみたいなね。
有坂:本当だよ。怖いよねー。
渡辺:それはちょっと挙げていたかな。
有坂:助演とか、他に候補いた?
渡辺:あとは、まあキー・ホイ・クァンとかね。でも、普通にアカデミー賞取っているから。まあ、そこはちょっとあれかなと思って。アニメは鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎とか。
有坂:観たんだ?
渡辺:めちゃくちゃ面白かった。あの犬神家の一族とかああいう感じなんですよね。そういうちょっとミステリーと、それと妖怪の世界観みたいなのが結構マッチしていて、なかなか面白かった。
有坂:僕、アニメはオオカミの家
渡辺:『オオカミの家』ってなんだっけ?
有坂:国どこだっけ、チリのアニメーション。
渡辺:ああ!
有坂:これはもう本当にアートアニメ。実写をコマ撮りで撮ったアニメーション。
渡辺:そうね。ヤン・シュヴァンクマイエルみたいな世界観ですね。
有坂:そう。ストップモーションアニメですね。それか、『マイ・エレメント』かで悩んだ。振り幅がありすぎて。
渡辺:ありすぎだろ(笑)。
有坂:そう、だけど『オオカミの家』は、やっぱりマイナーだし、紹介したいなと思いつつ、でもやっぱりあのメジャーでお金かけてじゃないとつくれない表現を、あそこまで『マイ・エレメント』で、あの完成度でつくってくれたことは、ちゃんと紹介しようということで選びましたが、まあ、皆さん、かぶったりとかしたのかな? ぜひ、なんかその目線で今年を振り返るっていうのも楽しいし。
渡辺:そうだね、こういう切り口で見ると面白いからね。今年観た中で、すごいこの人の演技がすごかったみたいな。そういう目で観るっていうのも面白いかなと思います。
有坂:楽しい遊びだと思います。なので、ぜひ年間ベスト10も含めて、この年末にその映画の楽しみ方をしてはいかがでしょうか。。

 

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有坂:はい、ということで、じゃあ、最後に何かお知らせがあれば。
渡辺:けっこう毎回フィルマークスのほうの旧作リバイバル上映の告知とかもしてもらってるんですけど、1月に、あれなんです、今敏監督の千年女優をやることになったので。
有坂:攻めてるねー。
渡辺:1月19日なんで、まだちょっと先なんですけど、これも全国の映画館で上映しますので、なかなか、あの結構なんていうんだっけ、まあアートアニメじゃないけど、あの割と個性的なというか、アニメーションなんですけど、パーフェクトブルーを前にやったときに、めちゃめちゃ大ヒットして。
有坂:ああそうなんだ。
渡辺:そう、これですね。やっぱり今時ないタイプのアニメだったりするので、本当にクリエイターの人が、世界観をつくり込んだタイプの作品なので、これを映画館で観られるって、なかなかない機会なので。
有坂:そうね。
渡辺:ぜひ、この辺も観ていただけたらと。けっこうね、全国100館ぐらいでやるんだよ。すごい、なんか劇場側の反応がすごいよくて。
有坂:そうなんだ。
渡辺:そう、やりたい!みたいな。
有坂:好きな人が、じゃあ多いんだ。
渡辺:そうだね。まあ、『パーフェクトブルー』が大ヒットしたっていうのを知っていたっていうのもあると思うんだけど。
有坂:ある意味プレッシャーだね。同じ大ヒットを期待されている。
渡辺:そうそう、ちょっとそういう背負っているものはあるけど(笑)。
有坂:じゃあ、僕からはちょっと繰り返しになっちゃいますけど、この著書。『18歳までに子どもにみせたい映画100』が絶賛発売中です。で、ここ今の西調布の手紙舎から、この配信をお届けしているんですけど、このね手紙舎にも「TEGAMISHA BOOKSTORE」が、先月かな、オープンして、そこでも取り扱ってもらっていますので、ちょっと気になってネットで見て気になっているなという方は、あのこれ、ぜひ実物を本当に見てほしくて、意外としっかりしたハードカバーなんですね。ということを喜んでくれる人が多いです。で、本当に長い18歳までずっと本棚で、何度も何度も読んでほしいっていうような本としてつくっているので、紙にはこだわりました。この紙代が高騰している昨今ですけど、もうそこだけは譲るまいとして、担当編集の人も頑張って、何とか形にした一冊なので、なんかこの本に関しては、僕たちキノ・イグルー、今年20周年ですけど、キノ・イグルーの歩みと同じように、なんかゆっくりゆっくり届く人にちゃんと届いて、ロングセラーになったらいいなっていう思いでつくっています。なので、2週間で重版というのは完全なる想定外で、嬉しいだけなんですけど、ぜひ引き続きよろしくお願いします。
渡辺:まあ、大人でもいいもんね。
有坂:そう、これはもう本当に言ってるけど、100本、なんか今のところ読んだ人の声を聞くと、100本中何本観ているかな、っていうのを、まず数えるのが楽しいとか、あとなんか友達の子どもに送ったら、早速子どもが観たい映画に付箋を貼って、付箋だらけになっていますとか。そう、なので、ぜひこれはのギフトとしても、クリスマスギフトとしてもすごくおすすめの一冊かなと思うので、映画にちょっと興味を持っているとか、興味持ってほしいなっていう子とかが周りにいたら、ぜひギフトとしてもお送りいただけるとうれしいです。で、これのプロモーションで、明日またラジオの生放送に出るんですけど。
渡辺:誰のですか?
有坂:明日はね、鈴木おさむさんのTOKYO FMの番組で、14時10分から14時半、20分ぐらい、この本の話を中心にちょっといろいろと話すつもりなので、ぜひラジオの向こうから応援していただけると励みになります。うれしいです。よろしくお願いします。

 

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有坂:ということで、じゃあもう大丈夫ですか、思い残すことはないですか?
渡辺:思い残すこと?(笑)
有坂:最後にもう一回乾杯しておく? ありがとうございました。
ということで、2023年、最後のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これをもって終わりたいと思います。遅い時間まで、皆さんどうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! 皆さん、良いお年を!
有坂:そうだ! 良いお年を。また来年もよろしくお願いします。そしてメリークリスマス!
渡辺:メリークリスマス! 本もよろしくお願いします!
有坂:買ってねっ!

 

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe