あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回のテーマは、「あの音楽の素晴らしさを思い知った映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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渡辺セレクト1.『イエスタデイ』/音楽:ザ・ビートルズ(The Beatles)
監督/ダニー・ボイル,2019年,イギリス,112分
有坂:(うんうんうん)
渡辺:これは、監督がダニー・ボイルなんですけど、イギリス映画で、「もし、ビートルズがいなかったら」の世界が描かれるラブコメとなっています。主人公は、冴えないミュージシャンなんですけど、あるとき、雷に打たれた後、みんなの席に戻ったら、まさかのビートルズがいない世界だったと。曲としては、このタイトルにもなっている「イエスタデイ」がキーとなっているんですけど、誕生日パーティーでギターをプレゼントされて、みんなに囃し立てられて、なんか弾けよって言われて、じゃあビートルズの「イエスタデイ」でも弾くかって言って、「イエスタデイ」って歌ったら、その後、みんながめちゃくちゃ感動して、「何? その曲すごいいいじゃん!」みたいになるっていう。いや、これ「イエスタデイ」だけどって言ったら、「何その曲、初めて聞いた」みたいになるところから話が始まっていくんですね。それで、おかしいと思ってネットで「ビートルズ」って検索すると、カブトムシの画像しか出てこないみたいな。それで、どうやらビートルズがいない世界になっちゃったみたいになって、ビートルズのコピーバンド的に曲をつくり出したら、どんどんスターになっていくっていうですね、そういう話です。なので、コメディではあるんですけど、ビートルズがいる世界と、いない世界がこうも違うのかとか、なんかビートルズの曲をやればやるほど、どんどんスターになっていくみたいな。ビートルズの今も昔も変わらない曲のすごさみたいな。そうだし、やる曲やる曲、僕らもだいたい全員がみんな知っている。
有坂:それがすごいよね。
渡辺:そう、知っていたりするので、現代のお話としてやってるので、エド・シーランとかが本人役で出てくるんですね。で、曲対決みたいな、ライブバトルみたいなのをやるんですけど、それで主人公がビートルズの曲ばっかりやるので、現代のヒットメーカーといわれるエド・シーランがまいったっていう、そういうシーンもあるぐらい、ビートルズのすごさをコミカルに伝えてくれる。そんな素敵な作品で、実際劇中もビートルズの曲に彩られて、曲としてもすごい良いと、そんな作品となっています。監督が、『トレインスポッティング』のダニー・ボイルなんで、ちょっとそういう青春要素もありな感じで楽しめる作品です。
有坂:テンポも良く。
渡辺:そうですね。
有坂:でも、これは本当に、じゃあビートルズ以外で成立するかといったら、ローリング・ストーンズでもどうかな?
渡辺:そうだよね。
有坂:あと誰?
渡辺:でも、あんなに何曲もやって、全部全員が知っているってね。
有坂:そう、知っている前提でつくっているわけじゃない。それはたぶん、ローリング・ストーンズだったらもっと狭くなってくるし、ビースティ・ボーイズでもどんどん狭くなってくるし、ビートルズだからこその企画だし、さすがダニー・ボイル、音楽大好きだもんね。
渡辺:はい、そんなイギリス映画からでした。
有坂:そうきましたか。ちょっと、じゃあ順也とはあれかもな。
渡辺:全然違う?
有坂:僕はね、どっちかというとジャンル、そのジャンルの素晴らしさみたいな、“特定の誰”というよりも。ちなみに、ビートルズの映画で個人的に好きなのは、やっぱり『A Hart Day’s Night』。『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』っていうタイトルだった、あれがもう今も昔も変わらず、オールタイムベストの1本です。では、僕の1本目は、ロックの素晴らしさを描いた作品。山ほどありますが、日本のアニメーションです。
有坂セレクト1.『音楽』/音楽:ロック
監督/岩井澤健治,2019年,日本,71分
渡辺:はいはい、なるほどね。
有坂:2019年のこれは、大橋裕之さんの漫画が原作のアニメーション作品になっています。これは岩井澤健治監督という、インディペンデントで作品をつくっている監督さんが、なんと7年かけてつくった、ほぼ手描きで、実際に実写の動きをトレースして手描きでやるっていう、それを7年かけてつくった、本当にすごい規模としては小規模なんですけど、時間も手間もかかっているっていう意味での大作アニメとなっています。話的には、このビジュアルのとおり、高校生の話です。で、全然楽器も何も触ったことのない不良少年たちが、ちょっと思いつきでバンドをやってみようかって言って、バンドを始めてからの青春ストーリーなんですけど、この最初にみんなで4畳半の部屋みたいなところで楽器持って、「せーの!」って最初に「ジャーン」って鳴らしたときのいわゆる初期衝動ってやつ。ジャーンっていうところで、もう弾いたみんなが感動しちゃって、もうロックに魅了されてバンド活動を始めるという青春映画となっています。僕自身は、音楽を聴くのが好きなんですけど、楽器はやろうと思ったこともない。やれるわけないと思ってるし、やろうと思ったこともないような人が観たときに、なんでこれだけ多くの人がギターを手に取り、バンドを組み、ミュージシャンを目指すのか。それが本当に理屈じゃなくて、最初のジャーンっていうところの、あの瞬間に、本当に肌感覚で伝わったんですよね。それってやっぱり、映画って客観的に観るメディアなので、あれだけ肌感覚で「そういうことなんだ」っていうのが理解できるっていうのは、これはもう紛れもなく映画の力だと思います。だから、岩井澤監督もその瞬間の、あのシーンへのこだわりというのはすごい大きいものだったのかなと思うんですけども、実際、この3人組の3ピースのバンドが映画の後半で野外フェスに出るんですね。すごいローカルな野外フェス。その野外フェスのシーンは、本当に実際に公園を借りて、そこにステージを組んで、そこでいろいろなミュージシャンに演奏してもらった映像をトレースしてアニメにしています。なので、演奏しているシーンの躍動感とか、ロックの疾走感とかが、アニメでこれだけ表現できるんだっていうところで、もう本当に最初観たときから完全に虜になってしまった作品なんですけど。疾走感とか、初期衝動とか、いろいろ言いましたけど、でも映画全体は、すごい変な間があるんですよ。独特の間のある映画で、その間を埋められないタイプの人っているじゃない。そういう人が観ると、もう「ちょっと早く次!」っていうぐらい独特の間があって、でも、観ていくうちにだんだん間が癖になっていって、でも、演奏シーンになるとすごい疾走感あふれる。この緩急がすごくこの映画の魅力かなと思います。声優が、本当にこれは音楽、ロックへのリスペクトを感じる声優陣で、坂本慎太郎、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎とか、あとはどの役かは言えないけど、岡村靖幸、岡村ちゃんが出ていたりっていうところで、本当に音楽好きの人には、ぜひ観てもらいたいアニメかなと思います。これ、キノ・イグルーでもね、代官山のライブハウスの「晴れたら空に豆まいて」で、これは爆音上映やったんだよね。
渡辺:ライブ付きでね。
有坂:この3ピースのバンドのアニメを観た後に、3ピースバンドの静かなロックバンドという最高のキャッチコピーを持つSPORTS MENに来てもらってライブもあり、しかも岩井澤監督にも来てもらって、映画の裏側の話もしてもらうというイベントもやりました。ちょうど今日この『音楽』を紹介しようと思って、SPORTS MENと一緒にイベントやったなと思ったんだけど、ちょうど昨日SPORTS MENが新譜を出したんだよ。セカンドアルバム「明るい窓から」っていう。本当に新譜を出したばっかりで、僕もまだ聴いていないのでわからないんですけど、静かなロックバンドっていうコンセプトとか、あと3ピースなんですけど、実はもうウクレレの一人が脱退が決まり、今後は二人で活動する。3ピースとしての最後のアルバム。彼らは才能の塊でね、役者やっている子もいれば、映画音楽をやってる子もいたり、リーダーの豊田くんは映画監督としてカンヌに2回も参加しているっていう、本当に文化系ロックの、しかも「スポーツメン」って細野(晴臣)さんのね、曲名(スポーツマン)からバンド名ももらっているっていう、いろいろ気になるトピックのあるバンドなので、そちらもぜひ合わせて聴いていただければと思います。
渡辺:岩井澤さん、新作もあるらしい。
有坂:そうなんだ?
渡辺:今、つくっているらしいです。
有坂:じゃあ、それも注目だね。
渡辺:音楽と関係あるのかわからないですが。
有坂:どっちに行くんだろうね。悩ましいところだね。
渡辺:なかなかね、ゆるゆるのアニメですけど、これも面白いやつですね。……じゃあ、どうしようかな。
有坂:そんなに選択肢あるの? 余裕だね。
渡辺:順番をどうしようかなと思って。じゃあ、これいってみようかな。僕の2本目は、音楽というか劇中のとある曲です。
渡辺セレクト2.『落下の解剖学』/音楽:バカオ・リズム・アンド・スティール・バンド
監督/ジュスティーヌ・トリエ,2023年,フランス,152分
有坂:うんうんうんうん。
渡辺:これ『落下の解剖学』、どういうお話かというとミステリーなんですけど、雪山の別荘がある、山荘があるんですけど、そこで3人家族のお父さんが転落死してしまう。そういうお話です。第一発見者が、息子である少年なんですけど、その少年は目が見えないんですね。盲目なので、彼の証言とかが果たして信用できるのかみたいなところだったりとか、実は、事故じゃなくて事件だったんじゃないかっていう疑いが出たりして、疑われたのが奥さんっていう。これは事件なのか、事故なのかっていうミステリーでもあり、法廷劇でもあるっていう、めちゃくちゃ面白い作品なんですけど。この年、前年のカンヌ国際映画祭のパルムドールっていう最高賞を獲っているんですね。で、アカデミー賞でもノミネートされていて、その年のかなり注目された作品の一つという感じです。それで、これ、その事故があった日に、疑われた奥さんも家にいたんですけど、実は来客もあったんですね。来客があって、その来客の応対をしているときに、上の階にいた、部屋にいたはずの旦那さんが急に音楽をボリュームを上げてかけ出すっていうシーンがあった。で、爆音で音楽が流れ出して、映画館で聴いていると本当にすごいノイズレベルの音楽が流れ出すっていうですね。その来客者は、ちょっと早く帰れっていう合図かなと思って帰ってしまうっていう。奥さんも「ちょっと旦那が神経質でごめんなさいね」みたいな。そういうシーンがあるんですけど、そこで爆音でかかっていた音楽、これがすごい気になっていたんで、後でちょっと調べて聴いたりしたんですけど、そしたら、それが普通に聴くとめちゃくちゃいい音楽だったっていうですね、っていうのが印象的にあったんで、このテーマ「音楽」のときに思いついたのが、この作品でした。バンドが、「バカオ・リズム・アンド・スティール・バンド(Bacao Rhythm & Steel Band)」っていうバンドで、インストゥルメンタルの曲なんですけど、劇中で流れてたのが「P.I.M.P.」っていう曲で、ちょっとラテンっぽいアップテンポの曲で、歌のないインストゥメンタルなんですけど、ドラム缶をドラムのように叩いているような感じのかなりリズミカルでアップテンポの曲で、なんか作業しているときにBGMとしてかけている分には、すごい良いみたいなタイプの曲なんですよね。これが劇中では超絶爆音でノイズでしかないみたいな感じで表現されるんですけど、後から聞くと普通にめちゃくちゃいい曲っていうのが、映画の中の一つのキーアイテムとして使われていたっていうのが、印象的だったので選んでみました。
有坂:なんでこの曲にしたんだろうね。
渡辺:でも、なんか旦那さんは、DIYで作業している場だったので、そういうときにBGMとして流しているんだったら合うなとも思ったね。あと監督が好きだった。あと、この映画でキーマンで出てくるのが、犬がいるんですけど、その犬がね、名演技で、どうやって演出したんだろうっていうぐらいの名演技をするんですけど、カンヌには俳優賞以外にも……
有坂:獲ったんだ!
渡辺:そうなんですよ。最高賞パルムドール賞って言うんですけど、なんと、名演をした犬に授ける賞が、パルムドッグ賞っていうですね、っていう賞もあって、それを受賞したのが、この作品に出てくるワンちゃんなので、このワンちゃんの名演もぜひ観てもらいたい作品となっています。
有坂:『落下の解剖学』っていうタイトルもいいよね。
渡辺:そうだね、このジャケットのとおり、お父さんが転落死してしまって、という。
有坂:けっこう、いろいろ配信で観られそうだね。
渡辺:そうですね。
有坂:そうきましたか。じゃあ、僕はまたジャンル縛りで、次はジャズの素晴らしさを思い知った映画いきたいと思います。1996年のアメリカ映画です。
有坂セレクト2.『カンザス・シティ』/音楽:ジャズ
監督/ロバート・アルトマン,1996年,アメリカ,118分
渡辺:なるほど!
有坂:これは一言で言うと、ジャズ愛あふれるクライムムービーです。1930年代のアメリカのカンザスシティが舞台になっている映画なんですけど、いわゆる当時ってマフィアがすごい力を持っていて、そのマフィアにバレないように、こそこそ強盗を働いている男がいるんですね。白人の男なんですけど、この白人の男が、自分の顔を黒く塗って黒人に化けて強盗をしている。でも、それがついにマフィアにバレて捕まってしまったんですけど、その男の彼女がまたすごい強気の女性で、私が彼を助けるということで、いわゆるヒロインですね。彼女が、自分の恋人を救っていくっていう、大きく言うとそういうストーリーがありながら、でも、この映画の主役はジャズです。1930年代の当時黄金期を迎えていたと言われている、カンザスシティの黒人ジャズのライブハウスとかが、けっこうメインで出てくるんですね。そこで演奏しているのが、20人ぐらいのジャズミュージシャン。もちろん、当時の雰囲気を完全再現するために、この90年代半ばのジャズ界の最高峰のジャズメンを集めて、で、その中でジャズバトルとかが行われるシーンがけっこうあるんですよ。だから、物語でもちろん大筋の物語を楽しむっていう見方もありつつ、終わった後、やっぱ印象に残るのは、もう壮絶なかっこよすぎるジャズバトルが、ものすごく印象に残る映画かな。
渡辺:即興でやるからね。
有坂:そうなんだよね。僕はこれ、96年、恵比寿ガーデンシネマでリアルタイムで観たんですけど、人生で初めてサントラを映画館で買いました。やっぱり、そのまだ頭の中を、脳内をさっき聞いたジャズが流れているうちに、CDウォークマンで再生したら、やっぱり映画の世界がそのまま。ようは映画の中で再現されたライブ音源がサントラでも聞けるので、本当にもうこれがサントラ1枚目で良かったなって思える。そんな作品となっています。これは、監督がアメリカのインディペンデント映画の父と言われている、ロバート・アルトマンという人です。彼は『M★A★S★H マッシュ』っていう70年代の映画とか、あとは『ロング・グッドバイ』っていうハードボイルド映画といえばこれ、っていうものとか、あと『ショート・カッツ』っていう群像劇とか、かなり長いキャリアでいろんなタイプの映画をつくっている。ただ、それがハリウッドメジャーみたいな、お金をかけた大作というよりは、自分のつくりたいものをいかにつくれるかっていうことにこだわって、ずっと映画をつくってきた人なので、本当に映画監督こうありたいなっていうことを体現してきた、そんなロバート・アルトマンの90年代の作品となっています。で、スティーヴ・ブシェミっていう、この90年代、もう助演で輝きまくった
渡辺:タランティーノとかね。
有坂:『レザボア・ドックス』とか、あとは、コーエン兄弟の『ファーゴ』とか、スティーブ・ブシェミもちょい役なんだけど、結構キレキレな演技で見せてくれる。そんなブシェミファンも必見の映画となっているので、ちょっと今これ配信で観られないんですけど、たぶんすぐにまた配信で上がったり、気になった人、ジャズが好きな人は、本当にDVD買ってでもいいかなって思う映画なので、ぜひチェックしてみてください。
渡辺:なるほど。これは良かったね。ジャズの即興って本当にかっこいいんだなって思えたやつだったよね。そうきましたか。じゃあ次は、これにしようかな。
渡辺セレクト3.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』/音楽:フォーク
監督/イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン,2013年,アメリカ,104分
有坂:うんうんうんうんうん。
渡辺:これ、今『ファーゴ』で言ったコーエン兄弟の監督作品なんですけど、これはシンガーソングライターの男が主人公の作品で、主人公をオスカー・アイザックがやっているんですけど。オスカー・アイザックを初めて認識したのが、この作品ですね。ニューヨークの売れないシンガーソングライターが主人公なんですけど、そこで音楽で食べていくために、いろいろオーディションを受けたりとか、新しくつくったりとか、売れてるやつと一緒に何かライブに出てみたりとかっていういろんな音楽活動をしている男の話なんですけど。もう年代的に、60年代ぐらいかな。60年代、70年代ぐらいだと思うんですけど、フォークソングみたいなのが出てきている頃で、なんかちょっとアメリカなんでカントリーとか、そういう音楽もありつつのロックとも違う、このフォークみたいな、アコギでギター1本で弾き語るみたいな、そういう感じの時代で。そこの後に、このラストシーンでボブ・ディランらしき男が出てくる。
有坂:そうなんだよ。
渡辺:そのボブ・ディラン前夜みたいな、フォークの時代を切り取った作品だったりします。けっこう役者陣がみんな生で歌っていて、それがちゃんとうまくて、全部良かったりするんですね。ジャスティン・ティンバーレイクとかも出ていて、彼は歌手なのでうまいんですけど、キャリー・マリガンとかそういう普通に女優さんもうまかったりして、なんかフォークなんで普通にハモったりするんですけど、そういうのも上手だったりとか、あとはこのとき、すごい変わった役者がいるなと思って覚えていたのがアダム・ドライバーですね。アダム・ドライバーが、すごいカウボーイハット被って、めちゃくちゃ変な歌を歌うっていう変わった役で出てくるんですけど、また変わった役者がいるなと思ったら、その後どんどんスターになって。
有坂:『パターソン』に出たりね。
渡辺:そうね。『スター・ウォーズ』まで出るっていう、とんでもない活躍をしだしたアダム・ドライバーもこれに出ていたっていう、なので、そういうアメリカのフォークの時代とかフォークの音楽の良さみたいなのが、けっこうぎゅっと詰まったタイプの映画かなと思いますので、挙げてげてみました。
あと、新作で、今度ティモシー・シャラメのボブ・ディランを描いた作品が、
有坂:そう、ティモシーがボブ・ディラン役。
渡辺:今度やるので、本当にそこにつながる時代の作品だったりするので、その映画がもし気になったら、ちょっと掘り返して『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』を観てもらえると面白いかなと思います。
有坂:デイヴ・ヴァン・ロンクだっけな。本当にボブ・ディラン前夜で、どんな人がいたかっていう、どんな時代だったのかっていうのを知るためにも、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 』は、すごく参考になる映画かなって。あと猫がね。猫映画としても好き!
渡辺:逃げちゃってね、猫を探してニューヨークを歩き回る。
有坂:しかも、真冬のニューヨークをね、あのなんかちょっと寒そうなニューヨークの風景もいいしね。……はい、分かりました。じゃあ、そんな渋い映画の後にふさわしくない一本。たぶんとか言いながら、でもみんな知らないだろうな。僕の3本目、1984年の映画。
有坂セレクト3.『ネバーエンディング・ストーリー』/音楽:ポップス
監督/ウォルフガング・ペーターゼン,1984年,西ドイツ、アメリカ,95分
渡辺:知らない……かな(笑)?
有坂:知ってますね。もう、頭の中であの曲が流れていると思います。これはもう言わずもがな、80年代のハリウッド映画を代表する一本かなと思います。原作はミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』。児童文学を映画化した作品。大ヒット作ですね。この映画は、あっそうだ、『ネバーエンディング・ストーリー』といえば、ファルコン。ちょっと今映せるかな、「俺、『ネバーエンディング・ストーリー』が好き」って言ったら、知り合いが急につくってくれた。しかも、その知り合いっていうのが、カレー屋さんで知り合った知り合いが、ちょっとね見えづらいんですけど、そうそうこれファルコンです。手のひらサイズのファルコンです。まあ、この『ネバーエンディング・ストーリー』といえば、もうファルコンが。この『ネバーエンディング・ストーリー』をなんで挙げたかというと、公開当時って僕はまだ映画が嫌いな時期で、まったく観ていなかった。で、映画好きになったのが94年なので、『ネバーエンディング・ストーリー』って、それよりも10年前の映画。それで、劇場で観ていない、で、その後テレビでももうけっこうやっていた。
渡辺:さんざんやってたね。
有坂:で、その知り合いの家に、幼馴染の家に遊びに行ったときに、『ネバーエンディング・ストーリー』をみんなで観始めた。だけど、映画好きじゃないから、自分だけは観ないで、隣の部屋でゲームかなんかやっていたんだけど、その『ネバーエンディング・ストーリー』のリマールの曲が聞こえてくる。それはなんかね、それに心が動いていることは確かで、すごい印象に残っていて。で、後に僕は大人になって、『ネバーエンディング・ストーリー』を観ていい映画だなって思って。そこから、またさらに経った今から10年くらい前に映画館でリバイバル上映を『ネバーエンディング・ストーリー』でやってて、それを観に行ったときに、多分同世代の親が子どもを連れてきて小学生のけっこう子どもたちがいたの、その回に。終わった後、映画館のロビーで、あの『ネバーエンディング・ストーリー』の曲を、子ども、同じグループの男の子2人がこうやって広げながらこうやって歌っているっていう。なんか、やっぱりあの映画の世界観と、どういう曲を合わせるか。しかも、そのほんとポップスのいいところってね、そのジャズとかだとやっぱり、どうしても音の強さとかこだわりがあって、好きな人、嫌いな人って分かれちゃうけど、本当にメロディーの良さとか、誰にでも分かる良さみたいなのが、『ネバーエンディング・ストーリー』のこのリマールの主題歌にあふれているなと思い、今回挙げてみました。と思って調べていたら、なんと『ネバーエンディング・ストーリー』、また映画化されるっぽい!
渡辺:え? どういうこと。
有坂:ミヒャエル・エンデの原作を映画化しているんだけど、原作のいい部分を端折ってしまったとか、あとラストシーンがエンデが望んだラストシーンじゃなくて、公開の後、大揉めしたの。訴訟とか起こって大揉めして、ついにそれが解決したらしくて、また、『英国王のスピーチ』をつくっている会社が映画化権を獲得して、つくりますっていう情報が去年の初めに出ているので、もしかしたらもう動き始めているかもしれないです。噂によるとシリーズものになるんじゃないかって言われてます。ただ、この84年の『ネバーエンディング・ストーリー』の良さは、ファルコンも含めたアナログ感だと思っていて、それを最新の技術でやったときにどうなるか、どっちに転ぶかっていうのは観てからのお楽しみだと思いますが。まだ観てない方、子どもに観せたいという方。配信でもたぶん観られるので、チェックしてみてください。
渡辺:テレビでは散々やっていたけどね、当時ね。どんだけ観たかっていう(笑)。吹き替え版しか知らないからね。
有坂:あと、この当時の映画は、やっぱり『グーニーズ』はシンディ・ローパーでとか、『ロッキー』も『トップガン』も『スタンド・バイ・ミー』ももれなく分かりやすい主題歌があったり。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:だから、あれだけみんなが映画を楽しんでいたっていう側面もあったと思うから、もう一回ね、なんかそういうポップスをメインとした主題歌が、日の目あたってもいいのかなと思ったりしました。
渡辺:なるほど! ……はい、では僕の4本目はですね。ちょっとどうしようかな。音楽、なんだろうな、「この映画でそんな新人の歌手を知りました」っていうもので、挙げてみたいと思います。2020年のアイルランドのアニメーションです。
渡辺セレクト4.『ウルフウォーカー』/音楽:オーロラ(AURORA)
監督/トム・ムーア、ロス・スチュワート,2020年,アイルランド、ルクセンブルク、アメリカ,103分
有坂:あ! そっちか。
渡辺:『ウルフウォーカー』っていう作品は、アイルランドのアニメスタジオのカートゥーン・サルーンっていうところがつくっているんですけど、このカートゥーン・サルーンっていうアニメスタジオはすごくてですね、過去に4作品かな、出しているんですけど、全部アカデミー賞のアニメーション部門にノミネートされているっていう。新作出せば、アカデミー賞にノミネートされるっていうぐらいクオリティが高くて、評価されている作品です。その中で、この『ウルフウォーカー』がどういう話かというと、イギリスとアイルランドの話なんですけど、イングランド軍がアイルランドをどんどん占領していくっていう中で、どんどん森を切り開いていくんですけど、その森には狼たちがいて、人間対自然みたいな、そんなちょっと構図が生まれてくるっていう内容になってます。このカートゥーン・サルーンの監督のトム・ムーア監督がですね、大好きなアニメスタジオがあって、それが日本のスタジオジブリなんですね。なので、このカートゥーン・サルーンの作品ってどこかちょっとジブリっぽいっていうのがあったりします。過去に紹介した『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』っていう作品なんかは、アイルランドの人魚伝説がもとにはなってるんですけども、ちょっとポニョっぽいところがあったりするんですけど、この『ウルフウォーカー』は何っぽいかというと『もののけ姫』なんですよ。なんか、この自然対人みたいなところだったりとか、なんか森を切り開いちゃう、それは良いのか悪いのかみたいなとことか、あと狼が出てくるみたいなところとか含めて、あと山で鹿が逆光の中を振り返るみたいなシーンとかあったりして、すごいもののけオマージュが散りばめられていたりするんですけど。それがこの『ウルフウォーカー』という作品で、この印象的な音楽が、オーロラ(AURORA)という女の子の新人アーティスト、当時新人アーティストとして出てきた子なんですけど、ノルウェーだっけな、ノルウェー人とかだと思うんですけど、すごい透明感があって、美しい歌声をする女の子で。この主題歌の「Running With The Wolves」っていう曲も、すごい印象的に劇中で使われてたりするんですけど。こういう映画で印象的に使われた曲で新人アーティストを知るっていう、そういうのも音楽体験としてすごくいいなって思っているんですけど。これですごい気に入って、オーロラの曲をその後聴きまくるみたいなのがあったりして、そういうのも思い出として良かったりもしましたし、映画も曲もすごい素晴らしいので。この『ウルフウォーカー』があれなんですよね、AppleTV制作の作品なので、劇場公開はしていたんですけど、配信はもうAppleTVのみ。
有坂:今は、しかもないんだね。
渡辺:AppleTVのみだから出てない。
有坂:そうかそうか。
渡辺:なので、無料お試しとかで入って、そしたら観られます。だからAppleTV以外ちょっと、現状だと観るところがないんですけど、観ようと思えば観られるという感じですね。
有坂:このカートゥーン・サルーンもそうだけど、世界的にスタジオジブリみたいな、スタジオで語れるところって、意外と少ないよね。
渡辺:海外はね。
有坂:そうそう、監督一人の名前で有名な監督っているけど、それがスタジオの名前でってなかなかいないから。
渡辺:あとピクサーとかも、超巨大になっちゃうし。
有坂:そうだね。どうしても個人規模でつくるっていうのが主流の中、カートゥーン・サルーンは、それをすごいうまい形で、ジブリへのリスペクトも込めつつ成功している。なんか合わせてそこもチェックしてほしいね。
渡辺:そうですね。
有坂:わかりました。じゃあ、僕の4本目は渋めの映画でいきたいと思います。ジャンルで言うと、クラシックです。1945年のアメリカ映画です。
有坂セレクト4.『アメリカ交響楽』/音楽:クラシック
監督/アーヴィング・ラパー,1945年,アメリカ,130分
渡辺:ん? んん。
有坂:これは本当は、僕、ウディ・アレンの『マンハッタン』を真っ先に選んだんだけど、前に紹介していました。悔しいと思って、あの映画の冒頭が、ニューヨークのマンハッタンの風景がつながっていく中に、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」っていう超名曲、あのシーンが大好きで、今回紹介しようと思ったら紹介済みだったので、そのジョージ・ガーシュウィンの伝記映画が、『アメリカ交響楽』です。この『アメリカ交響楽』は、ガーシュウィンというのはもともと楽譜出版社が営んでいるお店の、雇われピアノマンみたいな形で、お店でピアノを弾くみたいなキャリアから始まって、朝から晩まで楽譜を買いに来たお客さんにピアノを弾いて聞かせていたら、だんだん彼の実力を認める人が出てきて、ガーシュウィンが作曲した「スワニー」という名曲があるんですけど、だんだん話題になって、当時のブロードウェイの超スター、アル・ジョルソンという人に認められて、彼の舞台の作曲をガーシュウィンが手がけることになって、もう全米の有名人になった。そのガーシュウィンのキャリアを描いた映画なんですけど、彼自身は短命で、38歳で亡くなっています。その短いキャリアの中で、今言った「ラプソディー・イン・ブルー」とか「スワニー」とか、あと「パリのアメリカ人」とか、「ポーギーとベス」とか、もう名曲をたくさんつくっています。いわゆるスタンダードですね。それで、どんなふうにこの曲ができたかみたいなところを描いてるんですけど、僕の大好きな「ラプソディー・イン・ブルー」のコンサートシーンは本当にもうね、ファンにはたまらない名場面となっているので、観るときはぜひ、ウディ・アレンの『マンハッタン』と2本立てで観ると、こっちの映画の良さも伝わるかな、と思います。
さっき言った、この当時のブロードウェイのスターだったアル・ジョルソンという人は、なんと本人が本人役で出ている。これ偶然なんだけど、最初に紹介した『カンザス・シティ』で白人の男性が黒塗りして、強盗してたって言ったでしょ。アル・ジョルソンって人は、顔を黒く塗って、黒人っていう体で歌を歌うっていうスターだった。今となっては、結構いろいろ問題ありな表現でもあるんですけど、そういうアル・ジョルソンという一時代を築いたスターが本人役で「スワニー」という曲を歌っています。アル・ジョルソンを知ることもできる。で、ぜひもう一本観てほしいのが、そのアル・ジョルソンの自伝映画。『ジョルスン物語』という映画があって、これはね、パート2もあるんですよ。どれだけやっぱ、当時アメリカで大スターだったかというのは、観てもらえればわかるかなと思うんですけど、なんでこれを紹介したかというと、たぶん手紙社好きの人には多いであろう、和田誠さん、和田誠ファンは多いかなと思うんですけど、和田誠さんが『ジョルスン物語』が大好きで、彼の有名な映画本『お楽しみはこれからだ』。もう8冊、10冊ぐらいある。あの本っていうのは、映画の名台詞をイラスト付きで紹介するっていう本なんですけど、その『お楽しみはこれからだ』っていう台詞は、『ジョルスン物語』のクライマックスに出てくる台詞なんです。いかに和田さんが『ジョルスン物語』が好きかっていうのがね、表れているエピソードかなと思うんですけど。……ちょっと最後の最後にもう一つだけエピソード。その和田誠さんに、生前1回だけ会うことができて、会ったときっていうのは、小規模でお酒を飲む会にたまたま呼んでもらえて、和田さんとお話ししていて、僕が趣味でやっている映画のノート。出会った人に好きな映画を書いてもらうっていうノートを30年くらいやっているんですけど、大好きな和田さんに会えたから書いてもらおうと思って書いてもらったんですよ。で、もうね、和田誠が本で紹介していた映画が出てくるわけ。でも、和田さんはワイン飲みすぎてて、あと何があったかなーって途中でペンが止まったんですよ。でも、僕、和田誠より和田誠に詳しいので、『ジョルスン物語』ですよって和田さんに耳打ちして、それを書いてもらったという個人的なエピソードも込みで、この『アメリカ交響楽』、『ジョルスン物語』っていうのはぜひ観てほしいなと思いますし、なかなかねこのパッケージ見ても、すぐに心は動きづらいかなと思うので、ウディ・アレンの『マンハッタン』からの流れで、もしよかったら観てほしいなと思います。U-NEXTで観られる。
渡辺:はい、なるほど。いやー、どうしよう。ちょっとそうですね。僕の最後5本目は、アニメでいきたいと思います。ちょっと映画じゃないんですけど、Netflixでオリジナルでやっていた作品です。
渡辺セレクト5.『DEVILMAN crybaby』/音楽:石野卓球
監督/湯浅政明,2018年,日本,全10話
有坂:うん、うん。やっぱりね。
渡辺:ちょっと映画じゃなくてアニメジャンルではあるんですけど、この『DEVILMAN crybaby』っていうのは2018年にNetflixオリジナルでやったんですけど、監督が湯浅政明。天才で、『夜は短し歩けよ乙女』とかね、っていうので、楽しみすぎて、実際に観たらドハマリしてしまったアニメだったんですけど、これがアニメシリーズなんで、全10話とかそういうやつだったんですけど、そこの音楽を石野卓球がやっているんですね。この卓球のテクノ音楽と、このデビルマンを現代風にリメイクした作品とのマッチングが、こんなに合うのかっていう。なんか、そういう昔の作品を今に蘇らせて、で、石野卓球のテクノミュージックと融合させて、なんか本当にすごい、それで新しい作品ができ上がったっていう世界観を、なんかその音楽ですごい感じられたなという作品でした。これ、テレビアニメシリーズなんで毎回オープニング曲、エンディング曲っていうのがあるんですけど、最終話の1個手前だけ、エンディング曲が、石野卓球と七尾旅人の「今夜だけ」っていう曲がかかるんですけど、そこだけエンドロールがめちゃくちゃ長い。いつもと違うエンドロールがかかるっていう。そういうエンディングだったんですよね。それが僕はめちゃくちゃ印象的で、終盤に差しかかって次で最後っていう、その手前だけエンディング曲を変えるっていう、その演出もすごいなと思いましたし、その曲が本当にめちゃくちゃいいんで、Spotifyとかで聞けるんで、「卓球と旅人」みたいなアーティスト名になってると思うんですけど、「今夜だけ」っていう曲で、それはね、もう今でも聞くとデビルマンのすごいいいシーンが浮かび上がってくる。これ好きすぎてフィルマークスで、このテレビアニメシリーズなんですけど、一気見で劇場で観られるっていうのを企画して、やったほど好きな作品なんですけど。
有坂:それ、僕、お客さんで行きました。お世話になりました(笑)。
渡辺:ありがとうございます! そうなんですよね。本当にもうなんか湯浅さんのアニメーションですごいポップなんだけど、グロいみたいな。
有坂:けっこうね。『ダークナイト』に似ているよね。
渡辺:そうね。デビルマンの本当にちょっと本質的なグロさとか、悪さみたいなところを、絵はポップみたいな。そういう湯浅流の料理の仕方で表現してくれたみたいな。そこに石野卓球の音楽っていうのがすごいハマっていたんで、これはちょっといいかなと思って挙げてみました。
有坂:……最後は映画じゃないって言いました?
渡辺:そうなんですよ。
有坂:実は、僕もそうなんです(笑)。
渡辺:でた!(笑)
有坂:かぶったって言っても、作品はまったくかぶっていないんですけど。
渡辺:アニメ?
有坂:いや、じゃないです。僕の最後の作品いいですか? 5本目は、アーティストで言うと、ビョーク。ミュージックビデオ3本です。
まず1本目、スパイク・ジョーンズが監督した『It’s Oh So Quiet』。2本目がミシェル・ゴンドリーが監督した『human behaviour』。3本目がクリス・カニンガムが監督した『All is Full of Love』という3本の作品です。
有坂セレクト5.Bjorkのミュージックビデオ3本/音楽:ビョーク
『It’s Oh So Quiet』
監督/スパイク・ジョーンズ
『human behaviour』
監督/ミシェル・ゴンドリー
『All is Full of Love』
監督/クリス・カニンガム
渡辺:あはは、なるほど(笑)。3本。
有坂:これ、今紹介した監督、スパイク・ジョーンズ、ゴンドリー、カニンガムっていう3人は、ミュージックビデオで他にそれぞれ、例えばビスティ・ボーイズとかエイフェックス・ツインとか、なんだ、とにかくその時代を代表するミュージシャンのMVを撮ってきた気鋭の3人。監督、スパイク・ジョーンズは、後に映画監督になって、『マルコヴィッチの穴』から始まり、『her/世界でひとつの彼女』を撮ったり、『かいじゅうたちのいるところ』を撮りました。
ミシェル・ゴンドリーは超傑作『エターナル・サンシャイン』を撮った人。クリス・カニンガムだけ、長編映画は撮ってないんですけど、短編映画で『ラバー・ジョニー』っていう超ヤバい映画とか、あともともとこの人は『2001年宇宙の旅』とか、『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリックの元でスタッフとして働いてた人、超完璧主義者の人で、そんなクリス・カニンガムも含めた3人のMVを最後に紹介しようと思います。なんでこの3つを上げたかというと、やっぱり何がすごいって、ビョークがすごい! ビョークって曲をつくるだけじゃなくて、自分の世界をどう伝えるかっていうところ。それは、もう音楽だけの時代じゃない中で、ちゃんとそれをキャッチして、その時代を、空気をつくれる監督に自らオファーをしてつくっているんですよ。だから、そのスパイク・ジョーンズ、ゴンドリー、カニンガムっていう、みんな異なる個性の人に合う曲をオファーして、例えば、スパイク・ジョーンズだったら、往年のミュージカル調のすごいキュートなビョークが楽しめる『It’s Oh So Quiet』。ゴンドリーのMVっていうのは、なんかぬいぐるみみたいな動物が動いたり、コマ撮りで動くみたいな、ちょっと摩訶不思議な、一夜を描いた作品なんですけど、これはあのロシアのユーリ・ノルシュテインというアニメーション監督の『霧の中のハリネズミ』を完コピした。
渡辺:完コピだよね(笑)。笑っちゃうくらい。
有坂:コマ撮りとビョークで完コピした。
渡辺:実写でそれをやるから。
有坂:それでゴンドリーもビョークもそのフェイバリットムービーに『霧の中のハリネズミ』があるっていうのをわかって、完コピすることになったらしいです。で、問題児クリス・カニンガムの『All is Full of Love』は、本当にもう世界に衝撃を与えたMVって言われていて。
渡辺:どんなやつだったっけ?
有坂:ビョークがね、ロボットで登場するやつ。ロボット同士がキスするっていうちょっとセクシャルな内容で、本当にものすごい、あれだけ衝撃作をつくってきたビョークの、本当にもう最高点じゃないかって言われる。実際、過去30年におけるベストミュージックビデオみたいなのが、有名な雑誌で紹介されていて、その中でマイケル・ジャクソンの「スリラー」とかジャミロクワイのMVとかと並んで選出されるぐらい、MV史に残る一作となっています。これがね、すごく今観ても今っぽい表現だなと思うけど、90年代にすでにつくられていたっていう衝撃を含めて、これ本当3本続けて観ると個性も違うし、でも、その歌っている人はビョーク、本人も出ているし、そのビョークっていうミュージシャンの持っているポテンシャルみたいなものも感じられるので、ぜひこれはね、3作続けてみてほしいなと思います。
渡辺:YouTubeとかで上がってんのかな?
有坂:上がっている。全部観られます。ちょっとこれは後ほど、コメントのところに、あれかな。タイトルだけとかあげてもらおうと思います。
今はもうMV撮っていた人が映画監督になるっていうのは、もう当たり前の時代ですけど、それを先取った作品を最後に紹介しました。
渡辺:なるほど。でも、ビョークってすごいね!
有坂:本当だよ。
渡辺:その時代のね、でも本当にトップの才能と仕事してきているみたいなところがあるからね。
有坂:マドンナとか、ビョークとかね。
渡辺:そうだね。
──
有坂:はい、以上です。みなさんの映画とは、かぶったものがあったでしょうか。僕らは、まったくかぶりませんでした。
渡辺:そうですね。
有坂:ちなみに、他はなんかあった?
渡辺:いやなんか、やっぱり過去に出しちゃっていたから。本当にね、俺、『ロボット・ドリームズ』とか、まさに「セプテンバー」はね、あらためていい曲っていうのを教えてくれたやつだったとか。ねぇ、だからそういう、本当なんかテーマ曲みたいなのだと、『ロッキー』とか、『ゴッドファーザー』とかいろいろあるし、なんかサントラ的なものでは、『パルプ・フィクション』とか、『トレインスポッティング』とか、そういうのもあるしっていう。
有坂:そこいきたかったんだよね。『トレインスポッティング』を紹介したいなと思ったら、もう紹介済みで、『トレインスポッティング』のいいところって、あれってさ、なんて言うんだろうサントラ的って言ってたけど、いろんなジャンルを超えてさ
渡辺:そうだね、UKロックの。
有坂:時代もジャンルも超えた音楽をコンパイルするっていう、それを映画の世界観に合わせてダニー・ボイルがコンパイルするっていうことが、やっぱりなんか新しいというか、あの時代らしいじゃん。タランティーノもそうだし、ソフィア・コッポラもそうで、それまではモリコーネとかさ、ミシェル・ルグランとか映画音楽の作曲家がつくるのが当たり前だったのが、だんだんね、ヒット曲をトム・クルーズとかスピルバーグがやるようになって、とはまた違う概念で、その世界観をコンパイルするっていうことの象徴が『トレインスポッティング』。アンダーワールド、ボーン・スリッピーもあれば、イギー・ポップもあるっていうね。あれはもっともっと評価されていいなと思って、紹介したかったんですけどできなかったので、最後に補足で取り上げました。
渡辺:俺も、『恋する惑星』とかねなんかフェイ・ウォンのなんか、あの広東語の歌であんなになんか洋楽っぽいっていうのが、あれが初めてだったよね。だって、それまで広東語の歌って言ったらジャッキー・チェンだったから(笑)。それしかなかったのに。すごいフェイ・ウォンの透明感ある歌声で。
有坂:それがね、『レザボア・ドッグス』も含めて、全部公開されていた劇場が「シネマライズ」ですよ。PARCOの向かいにあった伝説のミニシアター。それも含めて、時代の象徴かなっていう気もしますが、いかがでしょうか。
有坂:じゃあ、最後にお知らせなどあれば。
渡辺:お知らせは、フィルマークスで、またちょっとリバイバル上映のお知らせなんですけど、2月7日からかな、えっと『キサラギ』という日本映画が、これが権利の関係で、配信とかになくて。
有坂:何だろう?
渡辺:なんかね、当時の会社が倒産しちゃったらしくて。それでずっとDVDは、当時、最初は発売されたけど、その後発売されてないとかで。最近ね、TSUTAYAもないし、だから観られる環境がなかなかない。それを17年ぶりのリバイバル上映をやります。2月7日かな? もうすぐです。キャストの5人の人にも応援コメントもらって、小栗旬とか、香川照之とか、塚地さんとか、ユースケ・サンタマリアとか、小出恵介とか、応援コメントをもらったりしました。それも、1週間限定で映画館でやるんですけど、密室劇なんですよね。1年前に焼身自殺したアイドルのファンが一周忌ということで集まって、そしたら、あれは実は事故じゃないんじゃないかみたいな話が盛り上がるっていう。そんな密室劇。
有坂:面白いよね。
渡辺:すごい面白いんで、なかなか他で観られないんで、観られる場所がないんで、ぜひ映画館で観てもらいたいなと思います。
有坂:それ、やっぱり自称・小栗旬だったから?
渡辺:言ってませんよ。自称したことはない。
有坂:たまに言われるね。
渡辺:言われてファンにディスられるっていう。
有坂:言われて、すごい嬉しそうな顔して。
渡辺:いやいやしてません。
有坂:会ったら言ってあげてください。たぶん、なんか奢ってもらえると思うんで。
有坂:じゃあ、僕からはキノ・イグルーのイベントで、3カ月連続企画で、その2回目が2月9日にあって、告知は、予約開始もこれからなんですけど、中目黒にあるスターバックスロースタリー、超巨大なアミューズメントパークのようなスターバックスで、先月から新しいイベントを立ち上げました。「ROASTERY CINÉCLUB」という企画で、去年までは同じ名前で上映会をやっていたんですけど、今年からは上映会ではなくて、日曜日の朝9時半から11時までっていう朝活です。これは上映するわけではなくて、映画を介したコミュニケーションをベースにしたイベントで、すでに1回やって、めちゃくちゃ盛り上がった。
渡辺:コーヒーとおいしいパンを食べて。
有坂:食べながら、僕たちが、例えばこれから公開されるおすすめ映画を紹介したりとかっていうのもあるんですけど、ベースは集まった人たちの中にある映画ストーリーみたいなものを僕たちが引き出しつつ、参加した1時間半で、配信で観たい映画が20本、30本増えるみたいな。いろんな映画を知るきっかけとして、一方通行のコミュニケーションじゃなくて、もう双方向でね、みんなの中からも楽しい映画体験をいろいろ聞きながら、終わったときにはもう一体感がすごいみたいな。
渡辺:そうですね、友達できる感じだね。
有坂:そうだね。っていうことをやってます。一応、1月、2月、3月はもう日程も決まっていて、2月の予約開始がもう間もなくかな? 今日とか言っていたかな、今日明日にたぶん始まると思いますので、この辺はインスタグラムでお知らせしたいと思います。ぜひ、来てほしいね。来た暁には「ニューシネマワンダーランド」を観ていますと言ってもらえると、順也からビールが(笑)。
渡辺:スタバで?
有坂:朝から、怒られちゃうね。
渡辺:でも、すごい人数限定なんで。
有坂:そう12人限定なんですよ。一瞬で埋まっちゃうかもしれないですけど、日曜日の朝に、おいしいものを食べながら映画の話をするって、こんな気持ちいいんだなって、やってみて思ったね。
渡辺:朝は早いけど。
有坂:お昼前に終わるので、映画のスイッチが入った状態で映画館にも行けると。ぜひ、そちらにも来ていただければと思います。
──
有坂:では、初のYouTubeライブ、問題なく終われそうと信じてますけど。
渡辺:実は、音が出ていなかったとか(笑)。
有坂:でも、さっきのクリス・カニンガムとか、MVもちゃんとコメント入れてもらえたので、ぜひ皆さんの映画ライフに役立てていただければと思います。では、今年最初のニューシネマワンダーランドは、これをもって終わりたいと思います。遅い時間までありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
。
──
選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)