
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回のテーマは、「あのカルチャーの素晴らしさを思い知った映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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有坂セレクト1.『パルプ・フィクション』/カルチャー:ポップ・カルチャー
監督/クエンティン・タランティーノ,1994年,アメリカ,154分
渡辺:おお、なるほど!
有坂:言わずと知れたクエンティン・タランティーノの初期代表作です。これは、タランティーノの映画って好きな人は好きだし、ちょっとバイオレンス的なイメージで、まだ気になっているけど観てないっていう人も多いと思います。9作ぐらいつくっているのか、フィルモグラフィーの中でもこの『パルプ・フィクション』は監督第2作目。で、この1つの映画の中に、これは3つの物語があって、それぞれ犯罪ものなんですよ。3つの物語が、時間軸がずれたりしながら交錯していくっていう、始まりから終わりまで一直線に進む、分かりやすい構成ではないんです。パズルのように行ったり戻ったりっていう、ちょっと不思議な時間軸でつくられた犯罪映画です。この映画の魅力って、もちろん犯罪映画が大好きな人にとってはたまらないようなシーンだったりとか、キャスティングだったりとか、そういう見どころがたくさんあるんですね。と同時に、ストーリーに直接関係ないようなところのタランティーノらしいセリフだったり、あとは設定ですね。例えば、この映画でいうと、ユマ・サーマンとジョン・トラヴォルタ演じる二人が入るレストラン。これが1950年代をテーマにしたレストラン。
渡辺:クラシックカーがあってね。
有坂:そう、アメリカの巨大なクラシックカーがあったり、ディスコもそうだし、お金入れて音楽聴くやつ、なんだっけ?
渡辺:ジュークボックス。
有坂:ジュークボックス、そうです。ジュークボックスがあったり、50年代のレトロな世界観が楽しめるレストランっていうのも出てくるんですよ。それはもう、タランティーノが本当に大好きな世界を映画の一つの場面に再現したような、好きだからこそのディテールの面白さとかね、楽しめるようなシーンがあります。このポップカルチャーっていう視点で『パルプ・フィクション』を観ると、そういった50年代の例えばエルヴィスとかマリリン・モンローを含めた、50年代のカルチャーが楽しめるレストランが出てくる。あとは、日本人から見たら憧れのアメリカのダイナー、日本でいうファミレスみたいなもんだと思うんですけど、ダイナーの空間デザインとか、あとは1970年代に『サタデー・ナイト・フィーバー』で一躍大スターになったジョン・トラボルタを抜擢して、トラボルタといえばの見せ所のダンスシーン。
渡辺:ディスコのね。
有坂:そうそう、そういう70年代のポップカルチャーを90年代に再現するとか、サーフミュージックだったり、個人的に好きなのが、ハンバーガーが出てくるじゃない? ハンバーガーのエピソードが、この映画でいくつか出てくるんですけど、例えば、このセリフの中で、パリのマクドナルドではビールを売っている。「クォーターパウンダー」はフランスでは「チーズロワイヤル」、「ビッグマック」のことはフランスだと「ル・ビッグマック」とか、本当にどうでもいいような会話をあえて、セリフの中に入れている。
渡辺:タランティーノらしいよね。
有坂:そうなの。サミュエル・L・ジャクソンっていう殺し屋が、これから殺そうとしてるチンピラを前に、チンピラが食べていたハンバーガーを勝手に食べて、うんちく語って、ハンバーガーをスプライトで流し込むのが最高だとかっていうセリフもあったり、ハンバーガー好きにとっても特別な一本。ハンバーガーって、ある意味もう一つカルチャーになっているなと思っていて、マクドナルドとかウェンディーズとか、この映画に出てくるセリフもそういうメジャーのハンバーガーショップもあるけど、もっとさ、個人の面白いハンバーガーショップって増えてるじゃん。そういう人たちから観ると、やっぱりこの『パルプ・フィクション』っていうのは神映画だって言われているので、あらためてね、古今東西さまざまなポップカルチャーを引用した『パルプ・フィクション』は外せないかなと、いろんなカルチャーを引用して、引用しまくってつくった映画が、結果的に90年代のポップカルチャーの象徴になった。ポップカルチャーを語る上では外せない一本かなと思うので、一本目にこれを持ってきました。
渡辺:なるほど、この切り口は考えていなかったな。これは本当に今観てもめちゃくちゃ面白いもんね。
有坂:大スターが出ているけど、もう本当に主役が誰ってはっきりはしてない。
渡辺:ブルース・ウィリスとか出てるもんね。
有坂:みんな主役。
渡辺:なるほど。じゃあ、それを受けて、僕の一本目は2020年公開のアメリカ映画でにしたいと思います。。
渡辺セレクト1.『mid90s ミッドナインティーズ』/カルチャー:90年代西海岸カルチャー
監督/ジョナ・ヒル,2018年,アメリカ,85分
有坂:うんうんうんうん。
渡辺:今、90年代っていうのがあったので、これは2020年代に最近つくられた作品なんですけど、舞台となっているのは90年代。90年代のL.A.を舞台とした作品となってます。90年代のもう西海岸、L.A.のカルチャーといったらスケボーとかですね。この90’sの音楽。ヒップホップが流行ってきたとか、あとはスケーターファッションみたいなものだったりとか、っていうのがもうひとつのカルチャーですね。これ、映画自体もすごくヒットしてですね。監督がジョナ・ヒルというですね、ジョナ・ヒルって俳優なんですけども、『スーパーバッド』とか、けっこうコメディにすごい出る、太っちょの若者の俳優さんなんですけど、彼の初監督作品でもあります。けっこうコミカルで面白い俳優さんなんですけど、「こんなかっこいい映画撮るんだ」っていう。しかも、これA24だったと思うんだよね。
有坂:そうだね。
渡辺:A24から、こんな90年代カルチャー丸出しのかっこいい映画をジョナ・ヒルが撮ったっていう。いろんな意味でけっこう面白い作品です。これ、物語としてはこのポスターの少年が主人公で、お兄ちゃんがいて、お兄ちゃんとはちょっと年が離れているんですけど、なので、彼は小さいし、お兄ちゃんも大きいので力づくでいつも抑え込められているっていう、そういう兄弟なんですね。お兄ちゃんは力づくで言うことを聞かせるタイプで。そんな彼があるとき、街でスケボー集団の人たちに会うんですけど、そこで一気に憧れてしまって自分も仲間に入りたいということで、彼らにくっついて回るようになって、それでファッションだったりとか、スケボーを始めたりとか、音楽聴き始めたりとか、彼らとつるむようになっていって、そういう西海岸のカルチャーに染まっていくんですね。面白いシーンが、あるとき、彼らと一緒にいるときにお兄ちゃんとすれ違って、お兄ちゃんは、弟に「なんでお前、こんなとこいるんだよ」っていつもの感じでおらついてくるんですけど、仲間たちが、スケボー軍団がすごい、今で言うと悪ガキのヤンキーみたいな感じなので、彼らに凄まれて振り上げた拳を下ろすっていう、超絶かっこ悪い結果になって、逃げ帰っちゃうみたいなシーンがあるんですけど。あれ最高だね(笑)。振り上げた拳を下ろすかっこ悪さ。
有坂:いや切ないよね。お兄ちゃんにとっては、トラウマ的体験だよね。
渡辺:男としても恥ずかしいのに、いつもいじめている弟の前で、お兄ちゃんがそれをやるっていう。本当にかっこ悪い名シーンがあるので、そこだけでも面白い作品ですね。これ本当に「90年代のアメリカカルチャーとはこれ」みたいなっていうのを象徴した青春ムービーになってるんで、青春ムービーとしても面白いし、そこの90年代のL.A.のカルチャーが詰まっているというところでも、見どころがある作品です。
有坂:ジョナ・ヒルが、90年代のカルチャーど真ん中だった人で、初監督作で、タイトルも『mid90s ミッドナインティーズ』っていう映画をつくるっていうところで、やっぱりあのスケーターカルチャーのドキュメンタリーとか、そういう映画のいいところは音楽がかっこいい。なので、そこはたぶん、いろんなミュージシャンの曲が聴けるので、ちょっと耳もすませて楽しめる作品ですね。
渡辺:スパイク・ジョーンズとかね、けっこうこの辺のカルチャーのものを作っているよね。
有坂:もうトップランナーだよね。スパイク・ジョーンズは。
渡辺:けっこう、配信で観られますね。
有坂:はい、そのスケボーカルチャーはね、考えたけど、僕は外しましたね。
渡辺:なるほど。
有坂:良かった。言ってもらって。じゃあ、僕の2本目にいきたいと思います。2014年のドキュメンタリーです。
有坂セレクト2.『A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー』/カルチャー:コーヒー
監督/ブランドン・ローパー,2014年,アメリカ,66分
渡辺:うんうん。
有坂:これはもうそのタイトルのとおり、コーヒーにまつわるドキュメンタリーなんですけども、世界の。2014年の作品なので、その当時のニューヨーク、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル、東京、だから2カ国だね。アメリカと日本、5つの都市で活躍しているコーヒー店のオーナーとかの、いわゆるプロフェッショナルにいろいろインタビューをして、コーヒーへの哲学とか、それぞれの仕事ぶりなどを追ったドキュメンタリーとなっています。この登場人物の一人として、「ブルーボトルコーヒー」の創設者のジェームス・フリーマンが出てきて、これがちょうど公開されたときが、ブルーボトルの世界初進出で、東京に清澄白河にできたタイミングだったんだよね。
渡辺:そうだったっけ?
有坂:それもあって、公開当時すごい話題になった一本となっています。で、僕は個人的に、この映画に出てくる東京のコーヒー店が「Bear Pond Espresso」っていう下北沢にあるところと、あと、今はなき表参道にあった「大坊珈琲店」が出てくる。両方とも好き、両方とも店主がすごいストイックで、とても話しかけられるような人たちじゃないからこそ。
渡辺:職人肌のね。
有坂:本当に。だからこそ、どういう思いを持ってコーヒーをつくっているかっていうところが、いろいろと知れて良かったなっていうのと、あと日本人として誇らしいなって思ったのが、「ブルーボトル」のジェームス・フリーマンとかが、日本の喫茶文化にすごくリスペクト。実は、ものすごい影響を受けているっていうインタビューがあるんですけど、その中でも特に「大坊珈琲店」のオーナーの大坊さんへのリスペクトをすごく語るんだよね。「大坊珈琲店」っていうのは、1975年から2013年まで38年間、表参道にあったコーヒー屋さんなんですけど、いわゆる手回しロースターの自家焙煎、ネルドリップのコーヒースタイルを貫いた、本当に小規模の喫茶店でした。僕もけっこう行っていて。でもね、本当に扉開けて出るまでの緊張感。でもね、あの緊張感がいいんだよね。音楽、流れてなかったような印象だけど、ジャズが流れていたんだよね。本当にシーンとして壁時計の音しか聞こえないぐらいの緊張だったんだけど、でも、なんかその一杯のコーヒーを、ああいう時間の中で飲むっていうことが、缶コーヒーとはまったく違う楽しみ方で、背伸びしてそういうコーヒーの楽しみ方を味わいたいなと思って、僕もけっこう行っていました。
その「大坊珈琲店」って、向田邦子とか村上春樹もよく行っていたっていう、本当にいろんな人たちが通っていた伝説のお店なんですけど、その大坊さんのインタビューで、これはちょっとドキュメンタリーに収録されているインタビューではないんですけど、その接客に関してすごいいいこと言ってたなと思ったので、ちょっと最後に紹介したいと思います。久しぶりにいらした常連さんに、「お久しぶりですね。お元気でしたか」って聞いたら、相手は答えなきゃいけない。だけど、答えさせたくない、大坊さんは答えさせたくないらしくて、だから、その代わりに「いらっしゃいませ」って声をかけるときに、「お久しぶりです」を含んだ視線を相手に送って、「いらっしゃいませ」を言う、と。だから、そういう、人間はそういうことを気づける生き物だと大坊さんが言っていて、全部言葉にして伝えることがすべてではなくて、そういう「お久しぶりです」を含んだ視線で、ちゃんと相手は受け止めてくれるから、その距離感が自分のコーヒー店としてちょうどいい距離感。本当に今って、すごい丁寧な接客の店っていっぱいあるじゃん。でも、丁寧すぎて居心地が悪いところがけっこうあって、「なんとかですね?」って見ればわかるのに、それを言葉にされたりとか、そういうことって本当に接客とはみたいなことを考えていくと、大坊さんのこの考え方っていうのは、すごくヒントになるなと思いました。そんな大坊さんの言葉も聞ける『A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー』。
渡辺:これ、配信で観られるかな?
有坂:観られるね。
渡辺:なるほど。そうね、あそこで結構本を読んだりね。コーヒーね。コーヒーの切り口はなかったな。じゃあ、僕の2本目にいきたいと思います。僕は「本屋さん」という切り口。
有坂:あれかな?
有坂セレクト2.『マイ・ブックショップ』/カルチャー:本屋
監督/イザベル・コイシェ,2017年,イギリス、ドイツ、スペイン,113分
有坂:そっちか!
渡辺:これはですね、劇映画なんですけど、舞台は、1950年代のイギリスの片田舎で、本屋さんのない街なんですね。そこで本好きの女性が、亡き夫の思いを継いで書店を開くというお話。本当に小さな書店を開こうという話なんですけど、自分らしく好きな本を並べて、それで読書の素晴らしさみたいなことを、街の人にも知ってもらいたいという思いで、小さな書店をオープンしようとするお話です。応援してくれるお金持ちもいればですね、邪魔しようとするマダムもいる、みたいなですね。そういうので、果たして無事にオープンできるのかっていうところを描いた作品だったりします。でも、やっぱりなんか書店に限らずですけど、一つの何かお店を形にしてオープンしようとする。うまくいったりいかなかったりみたいな姿っていうのが、物語としてまず面白いというのと、やっぱり本って、なんかもう電子書籍とかがすごいいっぱいあるし、電子化っていうのもどんどん進んだり、Amazonとか出てきて書店がどんどん潰れたりってなっても、やっぱり本屋ってなくならないし、残るし、紙の本ってすごく魅力があるし、なんだろうね、この紙ものの良さというか、手触り感とか、そういうのをより改めて感じさせてくれる作品でもあります。あと、そういう今の書店がどんどんなくなったりとか、電子化も進んでみたいな時代に、個人書店が増え出しているっていうね。けっこう個人で始められるような小さいタイプの個人オーナーの書店が、この時代に増えてきているっていう。それもすごい面白いなと思って、なので、この映画自体の舞台は50年代なんですけど、でも、なんかそういう今の流れにもすごく合っている話だなと思って。なので、そのちょっと書店、個人レベルでも書店オープンできるんだみたいなのもあるし、それがけっこう増えて、なんか東京だけじゃなくてもけっこう全国であったりするので、個性的なね、結構かわいいお店とか増えてきているので、なんか、そういうカルチャーとしてこれも一ついいなというので、挙げてみました。
有坂:この僕たちが今、配信している西調布のね、手紙社にもブックショップがあります。
渡辺:あれ、いい本ばっかり置いてあるもんね。『TEGAMISHA BOOKSTORE』は、みんなほしくなる。
有坂:あとあれね、本屋さんといえば、『丘の上の本屋さん』、イタリア映画、イタリアの最も美しい村と言われる小さい村にある個人オーナーのね。小さな本屋さんが舞台の映画もあったりするので、けっこうあるね、書店切り口の映画はね。……はい、わかりました。じゃあ次いきます。僕の3本目は、「野外フェス」。といえば、これしかありません! 1970年のアメリカ映画です。
有坂セレクト3.『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』/カルチャー:野外フェス
監督/マイケル・ウォドレー、マーティン・スコセッシ,1970年,アメリカ,185分
渡辺:うーん、はいはい。
有坂:これはもう野外フェスのオリジナルといっていい。「ウッドストックフェスティバル」の3日間を記録したドキュメンタリー映画です。これが初めての試みで、今だと、例えば事前に何か大きい野外フェスやろうと思ったら、いろんな下調べをして、いろんなことを想定して、先回りしていろんなことを準備するのが当たり前じゃん。でも、この1970年のラブ&ピースの時代は、もっといい意味で能天気で、朗らかで大らかがゆえに、主催者が何にも想定してない。何にもというか、想定してない事態になっていくっていう、ライブとしての楽しい側面だけではなくて、その裏側もきちんと記録されているドキュメンタリーになってます。なので、その野外フェスっていうカルチャーを考える上では、本当にこれはよくぞ記録してくれたなっていう映画だと思います。どんなことが起こっていたかというと、結果的に3日間で1日40万人来て、40万人が3日間居座った。居座ったんだけど、暴動が起きるとか、そういうことは起こらなかった。特に主催者側が規制をかけていたとかではなく、ルールもほとんどないし、規制もかけてないから、基本的にお客さんが自由気ままにその空間を楽しめた中で、大きなトラブルが起きなかった。これってすごく、これからイベントを考えていく上ではヒントになるなって思うし、僕たちがやっている恵比寿ガーデンプレイスのピクニックシネマも、できるだけルールをつくらないっていうやり方でやっていて、知らない間にウッドストックの影響を受けていたのかな(笑)って思っちゃいましたが。これが面白いのが、事前に販売したチケットが、18万6千枚。けっこう余裕でそれを上回る人が来て、結局来てしまった人たちが、なんで俺ら入れないんだみたいになって、収拾がつかなくなって無料コンサートにする。その現場判断で無料コンサートになった。
渡辺:そうだったんだっけ。
有坂:だから、多分それもあるんだよね。もう来た人たちをしょうがない。じゃあ、もう受け入れるよっていうことで、主催者が受け止めたから、みんなが悪魔ではなく、みんなの中にある天使が出てきて、みんなでその時代のジャニス・ジョプリンとか、ザ・フーとかね、ジミヘンとか、その時代のロックアーティストの音楽を、3日間心ゆくまで楽しめたのかなと思います。これ、ディレクターズカット版は、3時間44分あります。僕、このディレクターズカットを初めて観たのはコロナ禍。まさに、外出できなかったあの時期に、次、晴れたら窓を開け放って、朝から『ウッドストック』を観ようって奥さんと決めていて、すっごい暖かくて天気のいい日に朝から『ウッドストック』を流して、ビール飲みながら。
渡辺:俺もコロナ禍でDVD買ったもん。
有坂:本当に? ちょっと真似しないでもらっていいですか。
渡辺:知らなかった。今聞いたわ(笑)。いや、でも、ああいうときにちょっと観たくなる。
有坂:そうだね。真逆の世界だもんね。家に閉じこもっているときにね。
渡辺:そうなんですよね。
有坂:なので、これはもうそのライブ映像もいいし、その裏側をいろいろ知れるっていうのでも、ぜひ多くの人に観てほしいなと思う一作です。
渡辺:なるほどね。ヒッピーのね。
有坂:これ、脚本、編集、スコセッシがやっているんだよね。若い頃のスコセッシがやってる。びっくりした!
渡辺:さすがスコセッシ。じゃあ、僕の3本目はですね。それもあって、これにしよう。2012年のアメリカ映画です。
渡辺セレクト3.『オン・ザ・ロード』/カルチャー:本、カウンターカルチャー
監督/ウォルター・サレス,2012年,フランス、イギリス、アメリカ、ブラジル,139分
有坂:うんうんうん。
渡辺:これはカルチャーで言うと、本とカウンターカルチャーになります。で、『オン・ザ・ロード』ってどういう話かというとジャック・ケルアックという人の『路上』という本がありまして、それの映画化になります。どういう本かというと、若者がアメリカ中を旅していろんな人たちと出会って、それも自由に生きている人たちと出会って、いろいろ影響を受けていくっていう話なんですけど、これが1950年代とかの話で、ちょうど第二次大戦とかも終わった次の世代の話で、そこから、また違う新しい若い世代が、大げさにいうと反体制みたいな、今までの体制とは違う、もっと自由に自分を解放して生きようみたいな、そういう若者たちのカルチャーが出始めた時期。それを、本として発表して、その代表的なのがこのジャック・ケルアック。同世代というか、同じような時期にウィリアム・バロウズとかアレン・ギンズバーグという人たちが次々とそういう本を発表して、若者たちのカリスマになっていったというものになります。その中のジャック・ケルアックの路上という本が代表作なんですけど、それの映画化がこの『オン・ザ・ロード』になります。といっても、青春というよりかは、なんていうんですかね、酒、タバコ、ドラッグ、女みたいな。ひたすらそういう不良文化というかですね。そういう方の、ひたすらそれをやっていって、なんていうんですかね、人間として今見たらどうなのかみたいな。ちょっとまともに働くとかとは真逆の方向にいっている人たち、そういう人たちにどんどん出会っていって、感化されていくみたいな話だったりするので。なので、健全にハッピーエンドに向かうっていうのとは、もっと違う方向に向かっていく話だったりするんですけど、それが魅力的っていうやつですね。こういうのが、けっこう当時の若者に受けていって、それが当時のアメリカだと、60年代に入ってくるとベトナム戦争が起きたりして、そのベトナム戦争が長引いたりして、ちょっと厭世気分みたいな、みんなだるくなってくる。戦争をこのまま続けてどうなんだみたいな、そういうのと相まって、カウンターカルチャーといって、今の体制に対するカウンターとして、ヒッピーみたいな文化が生まれてくるっていう流れになっていきます。それが、まさにイベントとして出たのが、さっきのウッドストックですね。ファッションとしても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とかでタイムスリップしてお父さんお母さんの時代にいった50年代の世界のファッションを見るとわかると思うんですけど、男性とかだとピッチリ七三で、短髪でちゃんと刈り上げて、ズボンにシャツはインするみたいな。そういうファッションだった。かっちりしたファッションだったと思うんですけど、ヒッピーとか、カウンターカルチャーっていうのは、カウンターなんで真逆をやるってことなんですよね。なので、ロン毛でヒゲを生やしてシャツは出して、ピッチリしたのじゃなくて、パンタロンでみたいなっていう、真逆をやっていったのがヒッピーのファッションスタイル。なので、そういうカウンターカルチャーでやっていることって、それまでの50年代の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムリープした先のお父さんお母さんの、あのカッチリした時代の逆をやっていくっていう、そういうことだったんですよね。なので、そういう意味でもちょっとこうカウンターカルチャーの前の時代も知っておきながら、カウンターカルチャーのヒッピー文化を知ると、ちょっとその違いと、なんでこういうファッションになったのかみたいなルーツが分かったりするので、そこの文脈も知っていて観ると面白い。分かったりするので、そういうのも学べる作品かなと思います。
有坂:もうなんか、まさにウッドストックとかに行ってた若者たちのバイブルだよね。「路上」は。
渡辺:そうだね。みんなが買ってるみたいな。
有坂:みんな、こうデニムの後ろポケットにペーパーバック入れているみたいな。さっき言ったジャック・ケルアックとか、ウィリアム・バロウズとか、その世代のことをビート・ジェネレーションって言われていて、やっぱりその時代の表現として、今観ても響く人に響くし、その世代で深堀りしていくっていうのが面白いですね。
渡辺:はい、『オン・ザ・ロード』でした。『ウッドストック』を出してくれてよかった。
有坂:熱く語ったね(笑)。
渡辺:お膳立てありがとう(笑)。
有坂:なんか悔しい……。じゃあ、僕の4本目は、カルチャーとしては「ビデオレンタル店」。といえば、2022年のカナダ映画です。日本では去年公開された作品です。
有坂セレクト4.『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』/カルチャー:ビデオレンタル店
監督/チャンドラー・レバック,2022年,カナダ,99分
渡辺:うんうんうん。
有坂:これは、僕個人的に大大大好きで、去年の外国映画の第2位に入れました! これは、2022年の映画なんですけど、映画の時代設定は2003年です。だから、まだレンタルDVDが全盛期の時代のカナダが、そこの田舎町で暮らしてるローレンスっていう、めちゃくちゃこじれている。このポスターの子、いいな〜、これ見るだけで泣けてくるな。高校生だから、単にこじれているっていうよりは、まだ自分が、自分自身に出会えていない時代の話。そういう目線で観ると、大なり小なり、みんなやらかしたことはいっぱいあって、それを彼は映画が好きで、映画が好きすぎて、人よりも観ているっていうプライドが邪魔して、もう学校の生徒たちだったり、先生だったり、レンタルショップの店長を、いろいろ泣かせるようなことばっかりやってしまう、そんな彼を主人公にした青春コメディとなってます。彼は、とにかく映画が好きなんですけど、このレンタルショップで働いているところから始まるわけじゃなくて、働きたいっていうところから始まる。それでバイトの面接受けて、採用されて、 「よし! これでまた映画漬けになれる」っていう、採用されたときの喜びみたいなのも、描かれているところもいいなって思ったし、彼自身がリスペクトしてる映画監督っていうのが、トッド・ソロンズっていう人なんですよ。アメリカの監督なんですけど、『ウェルカム・ドールハウス』っていう映画とか、あと激ヤバ映画、『ハピネス』。『ハピネス』っていうタイトルに騙されて観たら、本当に地獄を経験することになります。僕、大好きなんですけど、でも、そのトッド・ソロンズをリスペクトしているっていう時点で、相当この子はこじれているなっていう、観ている人はわかるような、そういう設定の男の子です。このビデオショップで働き始めて、やっぱりバイトだし、店員だからお客さんとの距離感は彼なりに考えて接客するんだけど、どうしてもね、そのスイッチが入っちゃうとお客さんにまで迷惑をかけてしまうようなとこがありつつ、だけど、自分の長所を生かして、スタッフのおすすめコーナーをつくりたいってことを店長に直訴したら、「つくっていいよ」って言われて、おすすめコーナーをつくるんですよ。それって、映画好きでビデオレンタルショップで働いた人にとっては、やっぱり一つの夢なんだよね。自分のおすすめコーナーをつくるって。そういうものをきちんと物語の中に入れているっていう意味で、男の子の成長物語だけではなくて、もう今は失われてしまったレンタルショップっていうカルチャーへの監督の愛をすごい感じて。僕もビデオレンタルショップで5年くらい働いてたので、もうおすすめコーナーもつくったし、スタッフ、お客さんにおすすめ聞かれて、いろいろコミュニケーションの中から伝えていったりとか、あとはもうこじれて誰かともめたりとか、もう自分が経験したことばっかりでした。レンタルショップで働いたことがなくても、若かりし頃に色々やってしまったなってことを、もう一回見つめ直したい人は、ぜひ!
渡辺:だいぶ痛いやつだけどね。
有坂:でも、やっぱり映画のキャラクターとしては、ここまで痛いとね、愛おしいんだよね。ちょっとした成長はあるんですよ。成長がちょっとなのがいい。
渡辺:ちょっとなんだよね(笑)。
有坂:本当にちょっとなんだけど、そのちょっとが大きな一歩なんだよね、長い目で考えると。そういうところも含めて、すごく真摯につくられた映画だなって思いました。人は、プライドから解き離れたときに、初めて真っ直ぐな気持ちで好きな映画について語れたりっていう、そういう大事なメッセージも込められてますね。
渡辺:めちゃくちゃ生意気なんだよね、こいつが。
有坂:それが面白いんだよね。
渡辺:すごい、好きな映画に対してはすごい語るけど、ダメだと思う映画はディスりまくるみたいな、認めないみたいな。そんな奴が、『シュレック』をバカにしていたのに、店長にね、お前は、シュレック販売隊長になれみたいなので、私は、シュレック、売りますみたいな。私に聞いてください! シュレック売り係にさせられる(笑)。
有坂:プライドがズタズタになる(笑)。でも、たぶん映画を観終わって思うけど、きっとこのローレンスは、もう何年かしたらシュレックも好きになるんだ。
渡辺:2周ぐらいしたら。受け入れられるようになってくるからね。
有坂:なってほしいな。はい。
渡辺:なるほど。じゃあ、僕も続けて「映画」でいきます。2021年のインド映画です。
渡辺セレクト4.『エンドロールのつづき』/カルチャー:映画
監督/パン・ナリン,2021年,インド、フランス,112分
有坂:いいよね〜。
渡辺:これはインド映画なんですけど、歌って踊らないタイプの、しかも、2時間以内っていう。
有坂:短編だね!
渡辺:インド映画にしたらもう短編です。本当に、今時の人がつくったタイプのインドのフォーマットじゃない作品です。インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』って言われるぐらい、映画好きとして素晴らしい作品です。このポスターの少年が主人公なんですけど、お父さんに連れて行ってもらった初めての映画館で、映画に目覚めてしまい、それから映画館に通いたくてしょうがないというですね。それで映画館に行くんですけど、お金がないので入れてもらえなくて追い出されるんですけど、なんとか映写技師のおじさんに取り入って、この映写室の窓から映画を観せてらうっていう、まさに『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいな展開になっていくというですね。そのおじさんも、ただ優しいというよりかは、「お前のお母さんのつくるお弁当、おいしそうだな」みたいな。弁当と引き換えに観せてやる。
有坂:そこがいいよね。
渡辺:それで、この少年は映画少年としてどんどんすくすくと育っていくんですけど、そこから自分でも上映会みたいなのを開いたりするんですね。でも、最初は道具とかもないので、影絵みたいな感じで、ただ絵だけが動くみたいなところから、いろんな映画の上映とかっていうのを上映会をスタートしていって。なので、そういう上映会をやるっていう行為というかですね。そういうのに、やっていくっていう映画愛も素晴らしいし、この映画が面白いのがですね、この少年の成長とともに、実は映画史も描いているっていう。映画ってもともとサイレントって言って、モノクロで音がついてないところからスタートしたんですけど、この少年が、最初、道具がないから影絵みたいなところから上映会をスタートする。そこから始まって、だんだんフィルムの時代からデジタルみたいなところまで、物語が、少年も大人になっていくんですけど、その過程で映画も進化していくっていう描き方が、実は、映画史そのものっていうところもあるので、『ニュー・シネマ・パラダイス』っぽい映画好きが楽しめるところもありつつ、この監督の自伝的な話でもあるっていうところもあって、そういうインドの映画事情みたいなところも分かりつつ、そして、実は映画史全体を描いているっていう、っていうつくり方も非常に秀逸だったりするので。
有坂:厚みがあるよね。
渡辺:そうなんですよね。しかも、2時間以内で収まるっていうインド映画らしからぬ(笑)。
有坂:やればできるじゃん!
渡辺:歌って踊らなければ、ちゃんと収まるっていうね。まあ、歌って踊るのもインド映画の魅力ではあるんですけど、これはまたちょっと違うタイプとして、ちゃんと映画愛を描いているという、映画カルチャーというところで何か入れたいなと思ったときに、ちょっとこれを選んでみました。
有坂:このときってさ、これ2023年公開だった。このコロナから、コロナ明けの時期ってさ。本当にこういう映画館ものが立て続けにあったんですね。
渡辺:そう、スピルバーグの『フェイブルマンズ』とか、
有坂:そう、で、やっぱりコロナで未来が見えなくなったときに、つくり手は一回自分の内側に潜って。
渡辺:そうそう。
有坂:矢印を自分に向けて、過去に戻って、自分の少年期と映画みたいなテーマでつくる人は世界的に増えたと思う。本当に面白い。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:それはコロナの恩恵といっていいかもしれないけど、その中の代表的な一本だし、インドの映画館が観られるっていうだけでも、本当に空間好きにとってもたまらないと思うので、そっかこれね、忘れてました。これね、野外で上映したいなと思ってね。権利確認したらできなかったんだよね。
渡辺:そうなの?
有坂:そうそう、野外上映NGですって言われちゃって
有坂:観たいよね、野外で。
渡辺:そうなんだ、ぴったりなのにね。
有坂:では、僕の5本目、最後は超変化球でいきたいと思います。映画って言っているのに、これ紹介していいのかな。個人的なポップカルチャーへの目覚め、ここだったなって今回振り返って思ったので、最後に紹介します。1990年の日本のドラマです。
有坂セレクト5.『予備校ブギ』/カルチャー:日本のポップ・カルチャー
監督/遊川和彦, 1990年,日本,全12話
渡辺:意外すぎる!(笑)
有坂:これ、なんでかっていうと、ドラマとしては緒形直人と織田裕二と的場浩司の3人が主役の予備校もののドラマで、その時代の大ヒットドラマです。1990年というと、僕らは15歳。中3で同じくらいで、僕はまだ五分刈りだったあの時代。なんかね、なんでポップカルチャーかというと、主題歌なんだよね。これ、主題歌はフリッパーズ・ギターの「恋のマシンガン」。もうフリッパーズといえばの『予備校ブギ』。このフリッパーズ・ギターの「恋のマシンガン」が流れたとき、本当にね、雷が落ちた。で、当時って、なんか全然、いわゆるJ-POP。BOØWYとか、あとアイドルとか、そういうのしか聴いてなかった自分が、『予備校ブギ』で、あの「恋のマシンガン」のイントロ、シンバルから始まってダバダバダの、もうあれで、全然聞いたことのない音を初めて聞いて、めちゃくちゃおしゃれだな。でも、このドラマに全然合ってないなと思った。だから、その合ってない違和感も含めて強烈に残っている。振り返ったときに、もしこのドラマがその「恋のマシンガン」の雰囲気に近いドラマだったら、たぶんもっとインパクトが薄いと思う。だからいい意味で合ってないギャップ、ズレみたいなものがインパクトとして残って、ずっとこれは覚えていて。そのオープニングで緒形直人、織田裕二、的場浩司の3人が、車に乗ってとかっていろんなシーンが続いて、最後にある外国人のパズルをつくっている。で、顔だけなかなか映らなくて、最後にパンって顔が出て、その前で3人がポーズを決めるみたいなオープニングなんですけど、それを見返したら、ジェームス・ディーンだった。
渡辺:へぇー。
有坂:当時、僕は全然映画がまだ嫌いだった時代だから知らなかったし、
渡辺:そんなパズルなシーン、うっすら覚えている気がする。
有坂:この外国人、誰なんだろうって思っていたんですよ、ずっと。見返したら、でもそれがね、ジェームス・ディーンで。この曲の「ダバダバダ」ってなんだって、それが歌詞として成立していることも含めて衝撃だったんだけど、この「ダバダバダ」の部分で、実は昔のある曲のサンプリングなんだよ。それが映画のサウンドトラックで、あの『黄金の七人』っていう1965年のイタリア映画のサントラから、それをサンプリングしてフリッパーズ・ギターがつくった曲。映画とも、実はつながっている。
渡辺:この渋谷系じゃん。渋谷系って言われた90年代のカルチャーで、そこの中心で音楽でいたのが小沢健二とか、フリッパーズ・ギターで、彼らがやっていたっていうのは60年代のリバイバルだったって。それを、今の現代でやったら新しいっていうのが90年代に受けて。その90年代の文化が今、2020年代でまたサンプリングされたりしているんで、けっこう時代は巡っているっていう象徴でもある。
有坂:こういうフリッパーズ・ギターとか、こういうメジャーな仕事とか、「けっ!」って言いそうじゃん。けど、それをやっていたことの意味ってすごいあって、今振り返るとあるし、それはね、この前の年に『はいすくーる落書』っていうドラマで同じことを感じていて、そっちはね、THE BLUE HEARTS。
渡辺:それ、的場浩司だった?
有坂:斉藤由貴の主演のドラマで、そっちはねTHE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」。それで、THE BLUE HEARTSが一気にブレイクして。だから、音だけ聞くとそういうなんかメジャーな、そのトレンディードラマに曲とか提供しなさそうなんだけど、したからこそリーチした、こういう人たちが影響を受けて、こういうカルチャーの活動している。
渡辺:全員がTHE BLUE HEARTSだったからね。
有坂:そういう意味でね、なんかこれからなんか、こういろいろカルチャーを考えていくときに、なんかこうイメージに合ってるってところだけを大事にするのもどうなのかなって、改めて『予備校ブギ』で思い直しました。
渡辺:考えもしなかった。予想外のものでしたが、じゃあ、僕の5本目いきたいと思います。僕は、2017年のイギリス映画で、ドキュメンタリーです。
渡辺セレクト5.『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』/カルチャー:60年代
監督/デビッド・バッティ,2017年,イギリス,85分
有坂:うーん、うん。
渡辺:この『マイ・ジェネレーション』は、俳優のマイケル・ケインがナビゲーターとなって、60年代のカルチャーを紹介するという作品となってます。今も90年代の音楽の元ネタが60年代でしたみたいなのがありましたけど、けっこうカルチャーとして激動の時代だったっていうのが、やっぱり60年代なんですよね。これはもう音楽でも、ファッションでも、映画でも、アートでも、60年代っていうのはとにかく激動で、政治とかもそうだったんですけど、日本でいうと学生運動ですね。ヘルメット被って火炎瓶投げるみたいな、強烈な時代ですね。そこにビートルズが来日するみたいな。とにかく、エモーションとしてものすごい振り切ってカルチャーが動いたのが、この60年代だったのかなと思うんですけど。60年代のカルチャーの発信地っていうのがロンドンだったんですよね。その時代に青春を生きた俳優のマイケル・ケインが、その当時を振り返って紹介するというドキュメンタリーになってます。なんで、もういろんなカルチャーの原点がここにあるみたいなところが紹介されていくので、それはすごい楽しめるなと思います。音楽でいうと、本当にビートルズとかローリング・ストーンズとか、そういうのが当時のイギリスから出てきて、まったく新しい音楽っていうのが世界中に発信されていって。あと、ファッションとかも、ヘアスタイルとかもヴィダルサスーンが出てきてですね、女性のショートヘアみたいのを流行らせたのが、ヴィダルサスーンっていうカリスマ美容師がいてですね。それで、一気にショートヘアみたいのがブームになっていって。あと、ファッションとしても、女性でいうとミニスカートがこの時代に一気に流行って、モデルのツイッギーとかが、それの象徴となって、ボブカットでミニスカートの女の子みたいなのが、その時代の象徴みたいになってくるんですけど。日本でも、JCBカードとかがツイッギーをイメージにしたカードをつくったりとか、定期的にツイッギーもフォーカスされたりとかもしてるので、映画も60年代っていうとヨーロッパだとフランスのヌーヴェルヴァーグがあったりとか、本当にいろんなカルチャーが、このときに出てきたっていう。
本当にその発信地のロンドンを、当時の映像とかも交えて紹介しているので、いろんなカルチャーがここから出てきたんだみたいなことが学べる作品だったりするので、これはあのちょっとあんまりマイナーだったんで、知らない人も多いと思うんですけど、その辺のカルチャーが詰まった作品となっているのでおすすめでございます。
有坂:スウィンギング・ロンドンがね。当時の。
渡辺:そうだね。
有坂:たぶん60年代のカルチャーの中で、ロンドンは華やかさがあったね、その中でも。でも、これは時代を俯瞰して見られるっていう意味でもおすすめだね。
渡辺:そうなんです。これも配信で観られるのかな? 観れないんだ。
──
有坂:ということで10本、出揃いました。
渡辺:かぶらなかったね。
有坂:全然かぶらない。あと、何か挙げていたのあった?
渡辺:まあ、でもけっこうね、いろいろなんだろう、どこを切り口とするかみたいなね。音楽でいうと、『あの頃ペニー・レインと』とか、あと、ニューヨークとかの落書きの文化で、『Style Wars』っていうドキュメンタリーがあるんですけど,『スタイルウォーズ』が配信になかったからちょっとやめたんですけど、あと『バスキア』とか、アートでいうと。
有坂:そうだね。
渡辺:あと、『バッド・チューニング』っていうアメリカの学生の夏休み最後に飲みまくるぞみたいな、そういう学生文化みたいなやつとか。あと『フレンチ・カンカン』とかね、クラシックで言うと。そういうのとか、あと、『ミッドナイト・イン・パリ』、黄金期にタイムスリップするみたいな作品ですけど、そういうそっちのカルチャーとか。
有坂:カルチャーって切り口だと、ほんとね幅広いし、
渡辺:でも、なかなかいいお題だったなと思いますけど。
有坂:最近の日本のものとかも入れられたらなと思いつつ、紹介しきれなかったので、またいつかの機会にご紹介できたらと思います。
有坂:じゃあ、最後に何かお知らせがありますか?。
渡辺:告知で、またフィルマークスでリバイバル上映を企画しているんですけど、今度2月28日から『バンパイアハンターD』っていうですね、超絶マニアックなアニメーションをリバイバル上映します。これは25年前の作品なんですけど、配信とかもなくて、しかも当時アメリカで先行で公開されて、アメリカの声優さん、日本語字幕っていうので公開された、カルト的人気の作品があるんですけど、日本語声優バージョン。これですね。日本語声優バージョン、山寺宏一さんとか、林原めぐみさんとか、けっこう錚々たる声優さんのバージョンっていうのが初上映になるんで、これを2月28日から限定公開します。で、この作画がね、今どきのアニメーションではない、昔のタッチの作品タッチだし、なんかこのセル画の手描き時代の本気を凝縮したみたいな、力強い作画の作品なんだよね。ぜひ、めちゃくちゃレアなんで、配信ないんで、これネット番組でバズって、AmazonからDVDが消えたっていう。よけい観られなくなっているっていう作品なんで、ちょっとこの機会にぜひ。
有坂:いいタイミングだね。
渡辺:ぜひ観てもらえればと思います。
有坂:なんか別のもやってなかった?
渡辺:デビルマン。
有坂:デビルマンか。そうだそうだ。
渡辺:そうなんですよ。デビルマンもちょうど今やっていて、それもOVAといって劇場用じゃなくて、ビデオ用に作られたやつを初上映っていうのも今やってます。
有坂:アニメが続いているんだね。はい、という順也のフィルマークスでの仕事。
有坂:キノ・イグルーとしては、3月は前回も紹介しましたけど、中目黒にあるスターバックスロースタリーで3月9日、日曜日の朝に朝活として「ROASTERY CINÉCLUB」というイベントをまたやります。これは映画は上映せず、コミュニケーションベースの企画なので、サンドイッチとコーヒーを飲みながら、食べながら、もうみんなで映画の話をしまくるっていう。終わったら、配信で観たい映画リストが10本、30本増えるっていう。しかも、お昼12時前に終わるので、そこで僕らも、今日この後、観られるおすすめの映画とかも紹介するので、そのイベント終わりで映画館に行くこともできるし、前回行ってくれていたね。順也がおすすめした『ロボット・ドリームズ』を観て最高でしたって。
渡辺:そうか、そうか。
有坂:そういう映画との出会いもありますので。
渡辺:でも、超限定人数。
有坂:12人限定。あっという間に、即日完売らしいんですけど、うちのインスタのストーリーで来週ぐらいかな。もう数日後かなやりますので、気になった方はぜひチェックしてください。あと3月のこのイベントは、3月末ぐらいで、花見の季節? 花見が始まってしまっているかもしれないので伝えておくと、去年もやった花見企画、またやろう?
渡辺:あそうか。
有坂:全然、順也と相談してなかったんですけど(笑)。去年、花見をみんなとする。みんなと花見しようっていう企画を立てたんです。
渡辺:昼から飲もうっていうね。
有坂:そうそう。ところが、当日大雨で花見ができなくなったので、吉祥寺の飲み屋を5軒ぐらいはしごして、合流できるタイミングで来れる人はインスタにDMくださいという形で、いろんな人が来たり帰ったりを繰り返した1日飲み会みたいなのをやったんですけど。
渡辺:飲みだけやったっていう。
有坂:花見は諦めきれないので、やりましょう、今年も。
──
有坂:ということで、そんなこともやりたいなと思います、では、また来月、ニューシネマワンダーランドでお会いしましょう。今日は遅い時間までありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
──
選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)