
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回は「この日本の男優にフォーカスした映画」を切り口に、それぞれが一人の男優をピックアップし、おすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、あえて後攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
有坂:今月のニューシネマワンダーランドのテーマは、「この日本の男優にフォーカスした映画」ということで、一人ずつおすすめの男優をピックアップして、5本の映画を紹介していこうと思います。
渡辺:まず、俳優の発表をしますか。僕は、リリー・フランキー。
有坂:僕は、西島秀俊です。
渡辺:というラインナップでいきたいと思います。では、まず僕の一本目ですね。僕、リリー・フランキーは、ちょっと時系列でいこうかなと思うんですけど、最初の作品が、2008年の作品です。
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渡辺セレクト1.『ぐるりのこと。』
監督/橋口亮輔,2008年,日本,140分
有坂:ああ、名作!!
渡辺:リリー・フランキーは、そもそも何者なのかみたいな。俳優なのか、何を生業としている人なのかみたいなところが、つかみづらいタイプの人ですけど。もともとイラストレーターで、いろんな連載をやったりとか、すごいタレント性があるので、いろんなところにちょこちょこ顔を出すような。なんか音楽、ミュージシャンと絡んだら作詞作曲までやるようになるとか、なんか歌も出すようになるとか、なんかちょっと関わった人たちに、たぶんすごい面白がられるんだと思うんですけど、それでたぶん俳優というかちょこちょこ出演もするようになって。そしたら、この『ぐるりのこと。』で主演を務めるっていうですね。しかも、ふざけた作品じゃなくて、ちゃんとした作品に主演で大抜擢されるというのが、この『ぐるりのこと。』ですね。共演が、当時まだ無名だった木村多江さんですね。これは、法廷画家であるリリー・フランキーの主人公と、その奥さん木村多江のなんかいろいろありながら、なんだかんだ夫婦で過ごしていくっていう、そういう10年を描いた作品なんですけど。映画自体もものすごく良くて、当時の映画賞とかにいろいろ賞を獲っていた作品です。その中で、主演のリリー・フランキーさんが、わりとこの役でいうとおとなしめな旦那さん。わりと無口で、あまり主張が強くないタイプを演じていて、それが見事にはまっていて、このときにブルーリボン賞っていう新人賞を獲って、45歳。だから新人賞としては、最年長記録なんですよね。45歳で俳優として本格的にスタートして、新人賞を獲ったっていうですね、そのぐらい、この映画で華々しく映画界に出てきたという最初の作品じゃないかなと思います。というのが、この『ぐるりのこと。』ですね。
有坂:これね、さっき言ったけど、コラムニストとか、リリーさんの表現活動として、「おでんくん」のイラストとかもそうだけど、それまでのリリー・フランキーのイメージを持っているサブカル好きほど、衝撃を受けていた。「この役、大丈夫なのか?」って思ったら、本当にその妻をサポートする法廷画家っていう役を演じているんじゃなくて、本当にその役を生きてるような存在感で、本当にここからまたリリーさんの違う表現が始まって、今や、海外の監督からも呼ばれるような俳優になった
渡辺:そうですね。これ1本目。
有坂:これ観られるかな? 観られるね。……分かりました。西島秀俊の1本目に行く前に、そもそも西島秀俊は、お父さんが大の映画好きで、そのお父さんの影響ですごく日常的に映画を観るような環境に育ったと。で、必然的に映画の世界に憧れを抱き、だんだん自分も映画に関わっていきたくなったんだけど、もともとやってみたかったのは裏側の仕事。裏方として、何か自分もそういう生き方をしたいと思っていたところ、友人からの誘いでオーディションを受けて、それが合格して俳優の道に行くことになった。というのが、西島さんのそもそものキャリアの出発点です。役者としては、僕ら世代は、93年のドラマの『あすなろ白書』。今日、ちょっと始まる前に話題になったキムタク。そこに西島秀俊も出演していて、そこから知ったっていう方も多いと思います。今やというか、一つ前は映画が中心で、今は映画もドラマもCMも、本当にマルチで活躍している俳優さん。その初期の頃の作品からちょっと紹介していこうと思います。1本目は、1997年の作品です。
有坂セレクト1.『2/デュオ』
監督/諏訪敦彦,1997年,日本,95分
渡辺:あーあ。
有坂:これは、西島さん演じる俳優志望の圭っていう役、ちょっとその西島さんの今と重なるような、当時と重なるような役なんですけど、同棲している恋人がいて、その2人の生活を描いています。なので、さっき紹介した『ぐるりのこと。』と似たような設定。恋人同士の同棲している2人の生活が描かれている作品です。この映画は諏訪敦彦(すわ・のぶひろ)という監督、後にフランスを拠点に活動し始める監督のデビュー作になるんですけど、けっこう衝撃作だったんです、当時。なんでかというと、この作品って脚本が存在しないんです。この俳優2人のアドリブから物語を立ち上げていくという、本当にもう実験中の実験的な映画。
渡辺:そうだったんだ。
有坂:そうなんですよ。なので、脚本のクレジットがないんですよ。で、なんかセリフのクレジットのところに俳優の名前が2人入っている。だから、もう事前に準備された台本を演じるのではなくて、もう実際にそのシチュエーションに置かれた俳優の中から出てくるセリフから物語をつくっていくという。もう、つくる側としてはすごい、何が起こるかわからないみたいな。そういうちょっとこう一回性みたいなこととか、ドキュメンタリーみたいな、そのなんかライブ感みたいなものを映画の中に、映画で表現したいということで、諏訪監督はこれをデビュー作としてつくりました。実際になんかまあ2週間使って、物語の中の1日を描く。1日分を表現するのに2週間かけて撮影したらしいんですね。その結果を受けて、また次どうするかみたいな設定だけ考えて、そこからはまた俳優の台詞でつくっていくという。途方もない作業の後に、これは完成した映画なんですけれども。結果、でもこれは作品としての評価がすごく高くて、諏訪敦彦監督の鮮烈なデビュー作として語られると同時に、やっぱりこれはもう俳優の力あってこそということで、西島秀俊さんは改めて実力派として、若手の実力派として名を上げた記念碑的な一作かなと思います。これちょっと観てもらわないと、なかなかこの映画の良さって伝わらないんですけど、そういった形でライブ感のあるつくり方をしながら、でも観ていると普通に物語が進んでいくじゃないですか。だけどね、途中で俳優の西島さんとかにインタビューをするパートが入っている。それは、監督の諏訪さんが、「なんであのとき、ああいうセリフを言ったんですか?」みたいな。だから、本当にフィクションなのか、ドキュメンタリーなのかがよくわからない、ちょっと不思議な感覚の映画。だけど、その映画にいろんな可能性を感じている諏訪監督と若手俳優の本当になんだろ、そのタイミングでしか表現できないものを追い求めてつくられた作品となっています。これはぜひ、ちょっとヒリヒリした映画ではあるんですけど、西島秀俊も俳優としての実力も垣間見れるので、ぜひ観てほしいなと思う一作です。
渡辺:即興演技は本当にね、俳優次第みたいなところがあるからね。これは長回しでね。
有坂:そう。
渡辺:でも、1時間半ぐらいあるわけでしょ。
有坂:監督としては誰を選ぶかでね、もうある程度決まってくるっていうところで、そこでもうキャスティングされている時点で、西島さんのね、実力が伝わっていたらいいかなと。
渡辺:かなり初期から個性的な監督と組んでいる。
有坂:そういうことなんです。もう映画好きだからね、西島さんは大の。
渡辺:なんか映画祭とか行くといるもんね。
有坂:東京フィルメックスっていう、それこそ監督の個性が際立った作品が世界中から集められる映画祭に行くと、当時って西島さん、普通に観客席にいたもんね。そうなんです。
渡辺:本当に好きなんだなっていう感じがするよね。……なるほど。じゃあ、僕のリリー・フランキー2作目は、2011年の作品です。
渡辺セレクト2.『モテキ』
監督/大根仁,2011年,日本,118分
有坂:ああ!
渡辺:『モテキ』は、東宝の大作としてやったので、わりとミニシアター系に出ているイメージのリリー・フランキーから、一気にエンタメど真ん中みたいな。そのときの一番話題作みたいなのが、この『モテキ』という作品でした。もともとテレビシリーズの映画化で、監督は大根仁さんですね。けっこう『モテキ』も代表作になっているんじゃないかなと。主演は長澤まさみですね。
有坂:森山未來とね。
渡辺:そうですね、森山未來ですね。森山未來が冴えない男の子なんですけども、もうモテ期を迎えて、モテまくる。美女たちにモテまくる。麻生久美子とか、いろんな人たちにモテまくるというお話です。で、その中で森山未來の上司にあたるのが、リリー・フランキーなんですよね。音楽ライターなので、いろんなフェスとかに行って、いろんな取材をしてやっていかなきゃいけないっていう。もう「ブラック企業だ」とか言って、森山未來も「もう死にたい、死にたい」とか言いながら普段過ごしているんですけど、そこの社長がリリー・フランキーで、ものすごい飄々とした感じで、「いいじゃん、楽しければいいじゃん」みたいな感じの、本当になんか無責任な感じで。何も考えてないんだろうなっていう、なんか「リリー・フランキーって、こういう人なんだろうな」って思わせるような、イメージと役柄がぴったりはまったみたいなのが、この『モテキ』のリリー・フランキーっていう感じですね。でも、映画自体もかなり大作だったので、ヒットして、音楽ライターが主人公なので音楽満載みたな。特に、日本のインディーズから、ヒットチャートから、フェスでやるようなアーティストたちも本人役でたくさん出ていたりして、っていうところも、音楽系も見どころの作品。あと、その音楽の中で、途中で森山未來が、なんかモテ期を感じて踊り出すシーンがあるんですけど、それがね、あの『(500)日のサマー』のダンスシーンを丸パクリした。
有坂:オマージュ!
渡辺:オマージュしたっていうね。 「大根さん、すごい『(500)日のサマー』、好きだったんだ」っていうのがわかるような、そういうなんていうんだろうな、もう幸せいっぱいについ踊り出してしまうっていうシーンなんかも、印象的なわりとなんかこうアゲアゲの、このポスターから見てもワッショイワッショイみたいな、そういう雰囲気の作品です。で、やっぱりこの中で本当に『ぐるりのこと。』と本当に違うリリー・フランキー。これは本当になんかパブリックイメージとピッタリはまった役っていうのが、このリリー・フランキー。で、リリー・フランキーと同じく出ていてるのがピエール瀧で。ピエール瀧もまたこう適当な感じの、いいな、それでいいよみたいな役どころで。ピエール瀧も同じく、俳優として出始めたところで、なんかこの大根さんがインタビューで言っていたんですけど、このリリー・フランキーとピエール瀧。特にピエール瀧は昔から知っていて、ちょっと怖い先輩みたいな、同じ学校の先輩みたいな関係性だったっていうところが言っていたので、たぶんピエール瀧とリリー・フランキーって、本当にそういう人たちで、そのままの役としてキャスティングされたのではと思われるのが、この『モテキ』ですね。
有坂:これ、音楽がやっぱり誰が使われるってすごい大事な中で、Perfumeとかね、在日ファンクとか、岡村靖幸とか、ももクロとか、けっこう幅も広くてね、Perfumeの曲が、さっき順也が言った『(500日)のサマー』オマージュのミュージカルシーンが、Perfumeだよね。ここぞっていうところで、Perfumeを使ってくる感じとかね、さすが大根さんっていう。長澤まさみも、いい役なんだよね。
渡辺:本当に! 長澤まさみが最強に可愛かった! 悶絶するほど(笑)。
有坂:本当に代表作の一本と言ってもいい。けっこう配信でもやってるね。
渡辺:本当に観やすい作品です。
有坂:じゃあ、僕の2本目、西島秀俊の2本目は、1999年の映画です。
有坂セレクト2.『ニンゲン合格』
監督/黒沢清,1999年,日本,109分
渡辺:おおー!
有坂:これはもう、僕が大好きな、大大大好きな映画の一本です。これは、黒沢清監督がついくった作品で、黒沢清っていわゆる恐怖映画のマスターと呼ばれている。本当に日本だけではなく、世界レベルで評価されている黒沢清がつくったヒューマンドラマになってます。物語的には、西島秀俊が主演で、24歳という設定で出てくるんですけど、この24歳の西島くんは、実は14歳で意識不明になって、24歳になって目を覚ましたというところから物語が始まるんですね。なので、10年間の記憶がない。その間に、自分の家族が崩壊していた、というところから物語が始まるんですね。崩壊した家族との関係を、またここから新たに築いていくという、家族映画にはなっているんですけれども、その西島くんの近くにいるのが、家族ではない役柄の役所広司です。なので、今やもう名優と呼ばれる2人の、もう99年だから、25年前の名演技が堪能できるのもこの映画の面白いところかなと思います。最初に黒沢清監督の話をしましたけど、彼の代表作っていうのは、いまだにやっぱり『CURE』。恐怖映画の代名詞と呼ばれる『CURE』。その『CURE』をつくった後に、黒沢監督って、いわゆる劇場映画じゃなくて、当時あったVシネ。劇場では公開せずに、ビデオにだけなってTSUTAYAとかGEOとかレンタルショップだけで取り扱うVシネで、その『蜘蛛の瞳』と『蛇の道』っていう2本を同じ年につくったんですね、Vシネ。どっちも哀川翔が主演。これがVシネなんだけど、劇場映画を凌駕する恐怖映画の傑作って言われていて、その『CURE』からの流れ、さらにそのVシネ2本。でも、「やっぱさすが恐怖映画つくらせたら、黒沢清最高!」って思った次が、『ニンゲン合格』だったんです。なので、もうみんなが黒沢清に夢中になって、次の恐怖映画を楽しみにしていたら、「ヒューマンドラマかい!」って思ったら、またこれもすごいと。ここで黒沢清っていう監督のレンジの広さ、本当にポテンシャルの高さを見せつけたタイミングだったんじゃないかなと思います。西島くんはこの中で、10年間の記憶が飛んでる24歳という役なんですけど、やっぱり自分が24歳であるってことを自覚していない24歳だから、子どものように、駄々っ子みたいに振る舞っちゃうシーンとかがあったりして、その絶妙な14歳感を出すのがすごいうまい! ここが嘘っぽくなると一気に冷めちゃうんですけど、本当にこの10年の記憶が一気に飛んだんだなっていうのを、そういうさりげない、ちょっと出てしまう子どもらしさみたいなもので表現している。それは、派手には全然演じていないので、よく観ないとわからないんですけど、そういうところに俳優西島秀俊のスキルを感じて、多分ファンが観たら、ますます好きになってしまう一作じゃないかなと思います。いわゆる、物語的にはバラバラになった家族が、またいろんな苦労をもとにまとまっていくっていう、想定できる物語には落ち着きません。それがどうなるかは、本当に観てからのお楽しみなんですけど、すごく映画らしいフィクションの良さと、でもすごくそんな簡単に現実うまくいかないよねっていう、リアルな部分を見事に着地させる、本当に素晴らしいラストが待っているので、ぜひ観てない方は観てほしいなと思います。
渡辺:分かりやすいヒューマンじゃないところが、黒沢清だなって。
有坂:そうなんだよね。でも、そういう映画ももっと増えていいと思うんだよね。心地よく裏切られるっていう。U-NEXTとか、Amazonプライムでも観られますので、キムタクばりのロン毛のね、西島くんが観られますので、ファンの方もぜひ!
渡辺:キムタク世代だからね。……なるほど。この名優同士のね。はい、じゃあ3本目に行きたいと思います。リリー・フランキーの3本目は、2013年の映画です。
渡辺セレクト3.『凶悪』
監督/白石和彌,2013年,日本,128分
有坂:なるほど。いい流れ!
渡辺:これは、白石和彌監督ですね。『孤狼の血』とか、そういうヤクザ映画とかを得意とする、白石和彌監督がつくった『凶悪』という作品です。どういう話かというと、山田孝之が主演なんですけど、山田孝之を演じる新聞記者がですね、刑務所にいる男がいろいろ告白をしたいと言って手紙をよこしてきたから、編集長に「お前ちょっと行ってこい」と言われて、話を聞きに行くというですね、そういうところから始まります。そうすると、凶悪犯罪で強盗殺人かなんかで服役中の男が、実は他にも余罪があると。その余罪も自分のやつも、すべて先生って言われる黒幕がいるっていうことを告白するんですね。自分は、もう操られていただけで、自分だけ逮捕されちゃって悔しいから、その先生と言われているやつを捕まえてくれと。知っていること全部話すからっていうところから、山田孝之の取材が始まっていくというところなんですけど。そこで、その先生と言われている男が誰かというと、リリー・フランキーなんですね。で、リリー・フランキーと一緒にいるのが、ピエール瀧っていう(笑)。
有坂:出た(笑)!
渡辺:『モテキ』コンビが、まさかの雰囲気が『モテキ』のときとまったく一緒で、飄々とした感じのおちゃらけたおじさんたちみたいな感じなんですけど、その二人がやっていることがめちゃくちゃ凶悪だったっていう、そういう展開です。これ、どういう凶悪事件かというと、身寄りのない老人とかを騙して殺して、その人に遺言書みたいなものを無理やり書かせて、土地を売却して金儲けをするみたいなっていうところで、何人も亡くなっている人がいるみたいな。その、まだ事件としては明らかになっていないやつを山田孝之が探っていくという、そういう話なんですけど、本当に凶悪だったんですよね。で、『モテキ』のイメージだから、リリー・フランキーもピエール瀧も、まさかあのおちゃらけた人たちが、そんなことしないだろうっていう、そのパブリックイメージを逆手にとったキャスティングだったんですよね。なので、これは本当に衝撃で、『モテキ』のリリー・フランキーとピエール瀧しか知らないその当時の我々観客は、もう一気にあのイメージを覆されて、恐怖にドンと突き落とされるような、そういう本当は怖い人だったのっていう、その衝撃が本当にあったのが、この『凶悪』という作品です。で、この『凶悪』っていう作品でガラリとまたイメージを変えたリリー・フランキーと、ピエール瀧もそうなんですけど、なんで、ピエール瀧なんかはけっこうこの後、白石和彌監督の『孤狼の血』とかでもヤクザとして普通に出ていたりとか、わりともうヤクザ的な役柄がどんどん増えていったんですけど、そのきっかけがこの『凶悪』ですね。リリー・フランキーは、またここから怖い役だけじゃないっていうところに、本当にリリーさんの方が、なんかこう与えられたものを断らずに受けているうちに、なんかこなしていっちゃったみたいなところがあるかなと。ピエール瀧は逆に、この『凶悪』で凶悪なイメージがついて、凶悪な役が増えたみたいなところはありましたけどっていう。本当にパブリックイメージを覆す、そういうキャスティングってたまにあるんですけど、それが本当にハマったのがこの作品っていう感じでしたね。特に、この2人とも『モテキ』にそろって出ていただけに、2人とも一気に覆ったっていう。
有坂:これさ、ピエール瀧ってさ、体が大きいじゃん。フィジカルの威圧感みたいなものをこういう役をやると、それはハマるよね。ハマりすぎて自分の映画でも悪役やってほしいみたいな人が後を絶たなかったけど、リリーさんってね、もうちょっと中性的なところもあったり、何考えているのかわからない怖さみたいな、このフィルマークスのジャケットのあの表情とかさ、どっちとも取れる。そこはね、なんかもうそのフィジカルだったり、こうビジュアルの違いもあったり、個性の違いがね、その後の2人の道をつくっていったところもあったけど、いやー、『凶悪』だったよ、まさに。これは、『モテキ』と2本立てで観てほしい。
渡辺:そうですね。同じコンビです。
有坂:これはもう外せないね。……はい、じゃあ、僕の3本目、西島秀俊の3本目は、2005年の映画です。
有坂セレクト3.『トニー滝谷』
監督/市川準,2005年,日本,75分
渡辺:おお、いいね!
有坂:『トニー滝谷』に、西島くん出てったっけ? っていう話なんですけど、出ていません。これは、ナレーションです。このナレーションの西島秀俊がいなかったら、この『トニー滝谷』の世界は完成しなかったっていうぐらい、なんか映画のトーンを、やっぱりナレーションで表現していた。それが、こうなんていうんでしょう、映画のトーンになっていて、本当に西島くんあっての、この世界かなと思っています。主演は、イッセー尾形と宮沢りえ。音楽は坂本龍一で、原作はみんな大好き、村上春樹ということで、座組だけで言ったらね、もう本当にそれだけで観たいって思うけど、村上春樹と映画との相性はそれまではあまり良くないと言われていた中で、監督が自分の愛する村上春樹の世界を映画にしたいということで、けっこう低予算だったらしいんですけど、つくったのがこの『トニー滝谷』です。この映画自体は、イッセー尾形演じる人がもともと、生まれてすぐ母親を亡くしてしまって、ずっと孤独を感じて生きてきた男。その名も『トニー滝谷』。その彼が、一人の女性と出会って恋に落ちて結婚をしたんですけど、その大好きで大好きでたまらなかった妻が、事故で急死しちゃうんです。本当にもう孤独から一気に幸せになった後、また孤独になってしまう。そこから物語が進んでいきます。その中で、自分の働いている、イラストレーターなんですけど、その事務所のアシスタントとして一人雇うときに、自分の亡き妻にそっくりな女性と巡り合って、その妻との傷が癒えてない彼は、洋服が大好きだった妻の洋服ダンスから、アシスタントの子にもう1週間分の洋服を与えて、それを毎日着てきてほしいと。そういう中で、自分の傷を癒していこうというイラストレーターが主人公の映画です。その中で村上春樹の原作があるので、その原作にもあるセリフが要所要所にナレーションとして出てきて、それを西島秀俊が担当しているんですけど、予告でも使われているこんなセリフがあります。
「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった」
そこから始まります。その西島秀俊のナレーションの声のトーンとか、声から感じる透明感みたいなものが、映像のちょっと青みがかった映像とか、坂本龍一のピアノとかと、本当に綺麗に一つの世界をつくっていて、本当に最初に言ったように、このナレーションがなかったら、この映画の世界観は完成しなかったなというぐらい、やっぱり声だけでも西島秀俊というのはすごく魅力的な人だなと、改めて感じる作品かなと思います。後に、西島秀俊は『ドライブ・マイ・カー』で、村上春樹原作の映画で今度は主演を果たして、世界中の賞を総なめにしました。そう考えると、村上春樹の世界観と西島秀俊っていう役者の個性は、すごく相性がいいんじゃないかなと。もし、西島秀俊ではなく、今後、村上春樹の世界を、もし西島秀俊の代わりをつくるとしたら、個人的には中島歩がハマるんじゃないかなとか、ちょっと個人的には思ったり。そんな声だけでも魅力的な俳優の西島さんが、ナレーションを担当した映画が、『トニー滝谷』です。これは短編小説の映画化なので、映画自体も76分ですごく観やすい作品ではありますので、ぜひ、ちょっと観てない方は。これは名作だと思います。
渡辺:これはいい映画ですね。映像もいいし。
有坂:この写真もね、色が全然ないよね。モノトーンに近い。
渡辺:あっ、配信では観られないね。
有坂:TSUTAYA DISCASのみ。
渡辺:観られないんだね。村上春樹がストップかけてる(笑)。でも、他のは観られるもんね。
有坂:うん、まぁタイミングだろうね。
渡辺:やっぱ、村上春樹のさ、短編がいい映画になるよね。
有坂:そうそう、まぁそれはね、原作ものあるあるだよね。長編小説は、長編映画化に失敗しがち。短編小説の長編。
渡辺:なんか余白がある方が、こう映画作家のいろいろ空想が。
有坂:そうだね、イマジネーションを刺激して、できるのかもしれない。ちょっとでもぜひ、今、配信で観られなくても、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
渡辺:なるほどね。では、リリー・フランキー4本目は、2018年の作品です。
渡辺セレクト4.『万引き家族』
監督/是枝裕和,2018年,日本,120分
有坂:うん!
渡辺:もう、リリー・フランキー、『凶悪』と同じ年が、『そして父になる』なんですよね。これが、もうほんと真逆の設定の心優しい父親の役で、本当に、そのちょっと前ぐらいから是枝作品に、『海街diary』とかいろいろ出るようになって、そしてこの2018年の『万引き家族』。これでカンヌに行くっていうですね。是枝監督にもたぶん気に入られて、何作品もいろいろ出ているので、これで主演をやります。『万引き家族』っていうのはどんな話かというと、社会の片隅にいるような人たちが集まった疑似家族の話です。一見家族のようなんですけど、全員が赤の他人で、同じく他に行き場のない人たちが寄り添って生きていて、みんな仕事についていないので、万引きをして、日々食事だったりとか、必要なものっていうのを盗んで生活していると、当然そんなものは長続きせずみたいなところで、なんかこの日本社会の、こういうちょっと隙間に落ちてしまった人たちにフォーカスを当てた作品。社会派な是枝さんらしい作品なんですけど、これがフランスのカンヌ映画祭で大変評価をされて、最高賞のパルムドールという賞を受賞します。これは、今村昌平の『うなぎ』以来、20何年ぶりっていう快挙を成し遂げて、その後に日本で公開されたので、もう大ヒットして、その年の邦画の一番みたいな作品になりました。で、共演してる安藤サクラとかも、主演女優賞獲ったりとかしていて、かなりこれカンヌで監督賞を獲ったりとか、本当にその年のカンヌを席巻した作品が、この『万引き家族』というところなんですけど。これを、主演を本当に堂々と演じていた。これもまた、なんか『凶悪』ともまた違って、ちょっとどこか影のある、昔やんちゃしてたっていうような、でも今は真っ当に生きようとしているんだけど、やっぱり影、過去があるからちゃんと表では生きられないみたいな。そういう絶妙な役どころ。もともと持っている飄々とした感じはありつつ、ちょっと過去の悪さしていたみたいな影を感じさせるのは、やっぱり『凶悪』みたいな作品をやってるイメージっていうのも、こっちもあるから、そういうのがね、積み重なってこの役どころをうまく演じられている、そういう感じの作品でした。日本アカデミー賞でも、優秀主演男優賞を獲っているという感じですね。なので、本当にこの辺になってくると、完全に役者として認知されている。
有坂:そうだね。
渡辺:けっこう出演本数も多いんでね、リリー・フランキーって。で、主演も張ったりとか、助演としてもかなり出ていたりとか、主演じゃないとできないタイプでもないし、割と脇にいて個性のある役どころをやるみたいなタイプなんだけど、主演も張れるっていうね。っていうところで、本当にイラストレーターだったんですかっていうぐらい、役者としてどんどん幅を広げているっていう。45歳で新人賞を得た人とは思えないぐらい、短期間に大量の作品に出て、そしてアカデミー賞にノミネートされ、そしてカンヌに行ってしまうっていう。
有坂:レッドカーペットのファッションが素敵なんだよね。おしゃれだから。
渡辺:おしゃれなんだよね。けっこう洋服似合うからね。
有坂:洋服似合うからね(笑)。なんで上から目線で言うの(笑)。でも、やっぱり是枝さんの映画って、今の時代ってさほら、もうみんなが正義を、いろんな自粛警察がいたようにさ、何かやらかすとみんながわーって叩くみたいな時代の中で、でも、人間、白と黒だけじゃないよねっていう人を描くのが是枝さんの映画。いわゆるグレーの、灰色の人たちの集合体が、この『万引き家族』。ある意味、是枝さんが今まで描いてきたことのグレーのグラデーションが、かなりいろんなタイプがあって、そのど真ん中にいるリリーさんっていうのは、パブリックイメージでもどっちもあるじゃない。すっごいいい人そうだし、悪いことも当たり前のようにしてそうみたいな。それはもうなんかね、このタイミングで是枝さんとリリーさんが映画をつくっただけでも、ありがとうございますって。作品としての完成度も高い。それがちゃんと結果につながったっていうね。
渡辺:本当にここまで来ましたかっていう。そんな高みを見せてくれた。
有坂:そうだね。
渡辺:これはけっこう観られるんじゃないかな。けっこう新作でやったときも大ヒントしていたから、観ているっていう人も多いかもしれないですけど。
有坂:はい、わかりました。じゃあ、僕の西島秀俊、4本目は2011年の作品です。
有坂セレクト4.『CUT』
監督/アミール・ナデリ,2011年,日本,120分
渡辺:おお!
有坂:西島は、日本だけでは収まらないんです。リリーさんもそうだけどね。もうね、海外の監督からも求められるような存在になっているんです。2011年にしてこの映画を監督したのは、イランの名匠アミール・ナデリという人です。アミール・ナデリは、アッバス・キアロスタミの映画で脚本を手がけていたりとか、日本にはなかなか作品が入ってきてなかったんですけど、着実に実績も積み、でも、あの時代のいわゆる『友だちのうちはどこ?』とか、ああいうちょっと牧歌的なイラン映画とはまったく違う、めちゃくちゃエネルギッシュでパンクなイラン映画をつくる人として、同時代の監督とは違うポジションを築いていたのが、アミール・ナデリです。彼が、もともとこの『CUT』っていう映画を自分の中でいつかつくりたいって思っていたところ、最初にお話しした西島秀俊が映画館に行くとたまに会うとか、映画祭で見かけたって話をさっきしましたけど、その「東京フィルメックス」って映画祭で、西島秀俊は観客で通うところから、ある年に審査員になったんです。その同じ審査員だったのがアミール・ナデリで、日本にこんなに美しくて、こんなに映画を愛する俳優がいるっていうことと、自分のつくりたかった『CUT』っていう映画がバチッとつながって、一緒に映画つくろうぜってことで、西島秀俊主演で映画化された一作です。どんな内容かというと、西島秀俊は映画監督役です。いつもお金がなくて、お兄ちゃんからお金を借りて映画をつくっている秀二という役なんですけど、兄に借金しては映画をつくって、でも、そのつくった映画も映画館がかけてくれなくて、まったく未来の見えないノーフューチャーな若手映画監督。で、その頼りにしてたお兄さんが、借金のトラブルで亡くなってしまうんです。その兄の借金を肩代わりするために、自分がお金を稼がなきゃいけないという状況になって、そこで彼が借金を返済するためにヤクザからこんな仕事あるぞって紹介される仕事が、殴られ屋っていう、一回殴るごとに1万円もらえるっていう。なんか、ブラピの『ファイト・クラブ』みたいな世界。殴られ屋っていうのを、彼はやることになるんですね。自分の借金、お兄さんへの借金がきっかけで兄が亡くなったっていう罪悪感もあるし、でも、「俺はつくりたい映画をつくって、映画を通して世界を変えるんだ」っていう、ものすごい周りの見えない情熱を持った役を西島秀俊は演じていて、もう普通に理屈で考えると、いろいろおかしいことはこの映画の中ではあるんですけど、ただ映画へのまっすぐな情熱をここまで極端な形で、あとは表現としても観ていて、痛いみたいなところもあるんですけど、それでも西島秀俊はこの役をやりたかった。監督は、この役を演じさせたかったっていう、熱量が120%でこもっている映画になっています。実際に、映画に取り憑かれている監督なので、どんな映画監督とか、どんな作品が好きかっていう、過去の映画の名前とかもいっぱい出てくるんですね。監督でいうと小津安二郎とか、溝口健二とか、黒澤とか、あとバスター・キートンとか、ジョン・フォードとか、そういう名前も出てくる。でも、映画の後半なんて殴られるごとに、自分の好きな映画監督の名前を言ったりとか、もうなんかおかしい、よくわからない展開になってくるんですけど、でも、やっぱり自分の好きなもの、信じるものがある人の強さみたいなものを、映画的な形で表現している。本当に西島秀俊のフィルモグラフィーの中でも、かなり変わったポジションにある一作だと思います。西島秀俊がこの役を演じてほしいって言われたときに、監督から注文されたのがキリストみたいな体をつくれって言われた。実際、めちゃくちゃマッチョで、これだけ鍛えられている人なら、これだけ殴られても死なないなっていうような仕上がった体をつくっているからこそ、観ている側も痛いは痛いんだけど、それ以上に彼の情熱の方に心を持っていかれる。たぶん体をつくるのも相当大変だったと思うので、本当にもう作り手と演じる側が本気で120%で情熱を込めてつくった映画がこの『CUT』かなと思います。
渡辺:なるほど。これ、でもねこの映画に出るって発表されたときは、さすがに西島秀俊だなと思ったね。この頃には、完全に映画俳優になっていた。
有坂:そうだね。
渡辺:ドラマとかじゃなくて、完全に映画にいったなっていう。なんか、この90年代ぐらいで、そういう俳優、浅野忠信とかさ、もうテレビ出ません的な、そういう、映画ファンからすると、こっち側に来たみたいな。ちょっと特別になる役者のね、その中で、こういう海外にハリウッドじゃないところで行ったみたいなというので、西島秀俊はやっぱりそっち系のほうでかなり映画好きでやっているんだなっていうのが感じられた作品でしたね。
有坂:日本の俳優が、名のある海外の監督とタッグを組むってことがまだそんなになかったじゃない。加瀬亮が、ガス・ヴァン・サントと一緒につくるとか、そういうのが出始めた。たぶん、それは時代の流れもあったと思うんですけど、そういう意味でも日本の俳優が、自分が想像している以上の人たちなんだなって、あらためて感じるきっかけの一作でもあるかなと思います。あと、これでんでんが出てる(笑)。もう、あの怖いでおなじみの。ちょっとその話をすると長くなっちゃうんでやめときます。
渡辺:じゃあ、最後の5本目、行きたいと思います。ラストですね。リリー・フランキー5本目はですね、2024年のドラマです。
渡辺セレクト5.『地面師たち』
監督/大根仁,2024年,日本,52分
有坂:ふふふふ(笑)。
渡辺:映画でなく、Netflixドラマですね。これも『モテキ』と同じ大根仁監督です。これはやっぱり何だろう、やっぱりカンヌ行って、「その後なんだ?」ってなったときに、海外っていうのもありながら、Netflixもあるみたいな。やっぱりこの辺のどんどん幅が広がっていくっていうところのリリー・フランキーだっていうのが、ちょっと持ち味だなと思ったので。で、『地面師たち』は、つい最近のやつなんで、なんとなく土地を詐欺集団が騙して高値で売るみたいなっていうところが話題になった作品なんで、かなり話題になってたんで、あると思いますけど、この中でリリー・フランキーは地面師たちではなくて、地面師たちを追う刑事として出てきます。で、最後やられてしまうんですけど、ハリソン山中っていう豊川悦司が地面師のリーダーですけど、そのときに、高いところから落ちていくんですけど、リリー・フランキー、そのリリー・フランキーが、もうあの『ダイ・ハード』の、
有坂:ああ!
渡辺:完全にあれなの(笑)。『ダイ・ハード』ね、観た方はわかると思うんですけど、あの役者さんが落ちていく、ラスボスが最後落ちていくんですけど、なんかこうこっちを見ながら嘘だろみたいな顔して落ちていくっていう名シーンがあるんですけど、あれをやっているんですよね。リリーさんというよりかは、大根さんが『ダイ・ハード』大好きなんだろうなっていう、それをやりたかったんだろうなっていう、完全に再現してるっていう。落ちていくリリー・フランキーが地面師では観られます。
このときは刑事役で、娘もいて、でもいい父親ではなくて、でも最後にお父さんいい仕事を残したいみたいに、ちょっと頑張ったがゆえに事件に踏み込み過ぎてしまって、落とし穴に落ちてしまうというところではあるんですけど。でも本当になんだろう、そういうキャラだからそういう役みたいなのじゃなくて、本当にちゃんと演技力が必要となる役柄を、しっかりこなしているっていうところが、この『地面師たち』ぐらいの2020年代ぐらいになってくると、完全に演技派というか、個性派役者になっているので、いろんな役をやっているという。その中の『万引き家族』の後の活躍ぶりの一つとして、Netflixかなと思って『地面師たち』を挙げてみました。
有坂:観てないんだよね。すごいんでしょ。観た人がこぞって絶賛。しかもさ、これピエール瀧、出ているでしょ。もう、どっちかがバーターなんじゃないかっていうぐらい。
渡辺:(笑)、そうだよね。なんだっけ? あのー「もうええでしょう」だ。みんな言ってたからね。ミーティングの途中でも「言いたい!」みたいな感じになってくるからね(笑)。
有坂:いいよね、そういう決め台詞みたいなね。大根さんなんだね。
渡辺:しかも、リリー・フランキー、ピエール瀧コンビが、ここでも観られます。
有坂:僕の最後、今日の僕、西島作品は、『ドライブ・マイ・カー』とか、いわゆるメジャー作を外して、「そんな映画に出てるの?」っていうのばっかり並べているんですけど、5本目は、そのもう象徴的な1本です。
有坂セレクト5.『女が眠る時』
監督/ウェイン・ワン,2016年,日本,103分
渡辺:? 『女が眠る時』?
有坂:これは、監督があの90年代の名作『スモーク』のウェイン・ワンが監督した日本映画になっています。主演は、ビートたけし。たけしと西島秀俊、忽那汐里。
渡辺:ええ?
有坂:ちょっと知らないの? これさ、順也のラインナップに入っていなかったのショックで、リリー・フランキーが出ているんですよ。
渡辺:なんと! 完全ノーマーク。
有坂:友情出演みたいな、確かクレジットなんだけど、これもやっぱりいい役なんだよね。これは、皆さんフィルマークスのスコア見てください。「2.8」、あんまり見ないスコアなんですけど、でもね、そんな2.8ほどつまんなくはなくて、これは要は、ラストがすっきり終わるラストじゃないんですよ。観る側に委ねられて終わるから、どうしてもそういうものにアレルギーがある人とか、なんかよく聞いたのは、『スモーク』が好きで観ましたみたいな。でも、ウェイン・ワン監督は飽き性だから、いろんなタイプのものをつくる人で、『スモーク』のイメージで観るとまったく違います。どんな内容かというと、これは一言で言えばミステリーです。西島秀俊が演じるのは作家役で、スランプ真っ只中の作家が、1週間休暇をとって、奥さんと気分転換しようってリゾートホテルに行ってプールにいたら、そのプールの向こう側でたけしと忽那汐里の2人が、プールサイドで喋ってるのを目撃する。だけど、明らかにあの2人は、雰囲気的に親子じゃないよねっていう話を妻としていく中で、だんだんあの2人の関係はどうなんだろうっていう、作家としてのイマジネーションがかき立てられて、だんだん彼らの本当の姿が見たくなってのぞき見を始めるっていう作家役を西島がやってます。だんだん、そのたけし演じる主人公に巻き込まれていって、もうその何が現実か、何が虚構かわからないカオスの世界に突入していくっていう映画です。もうその狂気じみたなんか妄想に駆られていくっていう、なんか主人公はたけしなんだけど、受けの役で本当に西島秀俊の良さがかなり十二分に出ている役です。
渡辺:なるほど。
有坂:全然ヒットは当然せず、話題になることもなく、ひっそり終わっていってしまったんですけど、でも改めて西島秀俊のこれ2016年なので、これはさっきの『CUT』と同じで、海外の監督が西島秀俊をぜひ使いたいということで、やっぱり海外からも役者としての力を評価されているというところで、ぜひファンには観てほしいなと思う作品です。これ、もともと原作があって、スペインの作家が書いた短編小説です。それをウェイン・ワンが日本に設定を置き換えて、わざわざつくって日本に置き換えたからには、やっぱり日本人に脚本を書いてもらわないといけないって言って、3人ぐらい共同脚本でいて、その中の日本人の脚本家が砂田麻美っていう。
渡辺:ジブリのね。
有坂:そう、ジブリの『夢と狂気の王国』というドキュメンタリーを撮ったり、『エンディングノート』というドキュメンタリーをつくった砂田麻美が脚本家で、なんかいろいろ面白い座組でつくってる映画で、ただ簡単にすっきり終わらない、ちょっとアートフィルムみたいな側面があるので、フィルマークスの評価は圧倒的に低いんですけど、そんなここまで悪くないと思うので、ぜひ観てみてください。ぽかーんってする人もいると思う。
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有坂:という、最後の最後にめちゃくちゃ地味な映画を紹介するという形で、今月のニューシネマワンダーランドは、締めたいなと思います。じゃあ、何かお知らせがあれば。
渡辺:はい、そうですね。僕は今、フィルマークスのリバイバル上映で、『ライフ・イズ・ビューティフル』がちょうどやっているところで、この次にやるのが9月なんですけど、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』をやりますので、それもちょっと続けて、ぜひ観てもらえたらなと思います。
有坂:『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』、良作だね。
渡辺:90年代のちょっと洋画名作シリーズをやっていきたいなと思っております。
有坂:僕からはキノ・イグルーのイベント。まさに今週の土曜日、日曜日の夏の最後のイベント。もう十何年続いてますが、おなじみの横須賀美術館の野外上映会があります。8月30日、31日の2日間、今年の上映作品は『ルパン三世 カリオストロの城』を上映します。
渡辺:宮崎駿。
有坂:ね、天才・宮崎駿の初期作ですね。これは、美術館のイベントは予約なしで無料で入れます。海をバックに巨大スクリーンを立てて、芝生で楽しめるという最高の野外上映会。今年はちょっと新しい試みとして、美術館の展覧会のチケットを持ってきてくれた方に、キノ・イグルーの特製映画おみくじをプレゼントするということも、今年はちょっとやっていますので、ぜひその映画おみくじもインスタグラムの方には上がってますので、気になった方はぜひ今週末来てほしいな。天気も良さそうだしね。最高のね、この辺は本当に海も綺麗で、おいしいお店もいっぱいあるので、夏の最後の思い出をつくりに、ぜひ今週末、横須賀に遊びに来てください!
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有坂:ということで。ちょっと長くなってしまいましたが今月のニューシネマワンダーランドは以上となります。皆さん、遅い時間まで、どうもありがとうございました!
渡辺:おやすみなさい!!
有坂:横須賀でお会いしましょう!!
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)