
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回は「このハリウッドの女優にフォーカスした映画」を切り口に、それぞれが一人の女優をピックアップし、おすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月も有坂さんが勝利し、後攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
有坂:僕は、今日ここに来る前に、10何年ぶりの友人と再会し、一緒に過去にイベントをやったことがある、北海道のお菓子ユニットなんですけど、また、10年以上ぶりにイベントを一緒にやることになって、打ち合わせがてらビールを2杯ぐらい飲んでいる。ちょっといつもよりも酔っ払い気味で、今日はスタートしたいなと思います。
では、今月のテーマから、「このハリウッドの女優にフォーカスした映画」ということで、僕と順也、一人ずつある女優さんを用意して、これからお話ししていこうと思います。「ハリウッドの女優」ということで、最初に誰を選んだか紹介しますか。
渡辺:そうですね。
有坂:順也は?
渡辺:僕は、フランシス・マクドーマンドという女優さんです。
有坂:渋い人、きましたね。僕は、キルスティン・ダンスト。これもまあね、「メグ・ライアンじゃないんかい!」とか、「ウィノナじゃないんか!」とか、いろんな意見があると思いますが、それぞれ選んだことにも理由があったり、その辺の話もしながら進めていこうと思います。
渡辺:じゃあ、まず、フランシス・マクドーマンドの一作目にいきたいと思います。僕の一本目は、1996年のアメリカ映画です。
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渡辺セレクト1.『ファーゴ』
監督/ジョエル・コーエン,1996年,アメリカ,98分
有坂:出た! 名作。
渡辺:これ、『ファーゴ』っていうのは、コーエン兄弟の初期作なんですけど、これもなかなか変な話で、すごい面白いんですけど、コーエン兄弟ってこの『ファーゴ』からどんどん有名になってくるんですけど、長編デビュー作が『ブラッド・シンプル』というサスペンス作品なんです。実は、その作品で女優デビューしたのが、フランシス・マクドーマンドなんですね。なので、そこからコーエン兄弟とは一緒にやっている作品で、この『ファーゴ』でも主演を務めています。話的には、偽装殺人を依頼したら、ポンコツの暗殺者がやってきて、どんどん事件を大きくしていってしまうという、クライムコメディですね。舞台となってるのが、アメリカのミネソタっていう田舎町で、雪に閉ざされているような閉鎖的な田舎町なので、そこで起こる事件なんですけど、どうにも田舎だし、なんかみんなのんびりしていたりとか、そういう雰囲気がすごくオフビートって言われていて、起こっていることはすごい殺人事件だったりするので怖い出来事が起こっているんだけど、みんなちょっとのんびりしている。あんまり緊迫した雰囲気のない感じで、どんどん事件が発展していってしまうという話です。フランシス・マクドーマンドは、主役の女性の警察署長さんなんですけど、それで犯人を追っていくみたいな感じなんですけど、犯人がもうポンコツすぎるので証拠がありまくっているんですよ。どんどん分かっていってしまうっていう話です。そのポンコツ犯人がスティーヴ・ブシェミ、これでまたスティーヴ・ブシェミも一気に名を上げてですね、「あの変な顔の役者さん面白い」みたいな感じになって、なので、この『ファーゴ』はいろんな意味で、コーエン兄弟もそうですし、フランシス・マクドーマンドもそうだし、スティーヴ・ブシェミとか、いろんな役者も有名になった作品になります。この作品で、“ミネソタなまり”の英語。僕らが聞くと分からないんですけど、いかにも田舎っぽいアクセントをマスターしたフランシス・マクドーマンドは、この作品でアカデミー賞の主演女優賞を獲得するということになって、一躍トップ女優の仲間入りをしたのが、この『ファーゴ』という作品になっています。なので、フランシス・マクドーマンドのちょっと地味な女優さんかなという感じではあるんですけども、すでにこの若いときに、アカデミー賞主演女優賞を獲っている。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:という、実力派の女優さんでございます、という1本目ですね。
有坂:これはね、「シネマライズ」で観たね。
渡辺:もう90年代を代表する作品の1本ですね。
有坂:なんかこのいろいろね、オフビートなところとか、犯人がポンコツでとかっていうところも面白いし、個人的にはそのビジュアル。真冬のもう一面雪で閉ざされてる真っ白なところに、殺人した後、殺された人の血がね、赤い鮮血がプワッてなっているところが、ちょっと美しかったりするんですよね。殺人事件なのに。
渡辺:そうそう。
有坂:その辺の観ている側の感覚を揺さぶってくるところは、なんかもうここで極まったみたいなところがあるぐらいの代表作。
渡辺:そう、で、Netflixでドラマ版がやっていて、シーズン3ぐらいまで。
有坂:そっちで知っているって人も多いよね。
渡辺:なので、気になる人はぜひ、ドラマのほうもチェックしてみてください。
有坂:はい。じゃあ、僕の1本目にいきたいと思います。まずは、キルスティン・ダンストという女優さんについて話をすると、彼女は1982年生まれのアメリカ人なんですけど、お父さんはドイツ人、お母さんはドイツ系とスウェーデン系の血を引いているというミックスの人で、彼女自身は、アメリカ人としてアメリカで育った人なんですけれども、キルスティンという名前も含めて、あんまり耳なじみのない、最初名前覚えるの大変だったなという記憶もある、そんな女優さんです。彼女自身は、子どもの頃に「キキ」っていう愛称があったらしくて、それは本人が自分のキルスティンという名前を発音できなくて、キキってあだ名で通していたらしいんですけど、そうしたら、それが巡り巡って1998年に宮崎駿の『魔女の宅急便』のアメリカ版の吹き替えを、キルスティンがやることになった。キキ役をキキがやることになったっていう、そういうストーリーもあるそうです。そのときの彼女は、16歳ぐらいだったらしいです。さっき見たらYouTubeかなんかで、そのキルスティン版もちょっと切り抜き動画みたいなものが上がっていたので、ぜひちょっと声の違いも含めて、気になった方は観てみてください。そんなキルスティンの代表作を若い頃から時系列で5本紹介していこうと思います。まず、1本目は1994年の作品です。
有坂セレクト1.『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』
監督/ニール・ジョーダン,1994年,アメリカ,126分
渡辺:うんうん。
有坂:この映画の中で、キルスティンは吸血鬼の少女・クローディアという役を演じています。彼女は当時12歳。これはどんな映画かというと、まず、主演はトム・クルーズとブラッド・ピット。さらに、クリスチャン・スレーターということで、当時を代表するスターが揃い踏みのバンパイアものということで、話題になった作品です。これ面白いのが、現代から始まって、サンフランシスコなんですけど、現代でクリスチャン・スレーター演じるジャーナリストが、ルイという名前の人をインタビューするんですけど、そのインタビューしたルイが、実は自らを吸血鬼と名乗って、自分の半生を語っていくということで、その語っていく半生は18世紀末。だから、人間ではとても超えられない数百年を生きているバンパイアというのを、現代からストーリーを始めていくという設定がまず面白かった。そのバンパイアの半生を語っていく上で、ルイだけではない別のバンパイア、レスタトというのが出てきたり、キルスティン演じるクローディアという少女のバンパイアが出てきたり、という物語になっていきます。この映画は原作があって、原作自体が話題になっていたらしいです。僕は知らなかったんですけど、その原作者が自ら脚本を務めているということで、すごく本人自身も思い入れのある、アン・ライスという原作者なんですけど、でも、映画化を進めていく上で、キャストが決まりましたというときに、原作者は「トム・クルーズだけはどうしても嫌だ。イメージに合わなすぎる」って言って猛反対したっていうエピソードがあって、ただ、どうしても2大スターでいきたいという制作者側の意向もあって、結果的にトム・クルーズとブラッド・ピットという、本当に宣伝する側としては最高の2人でやったんですけど、やっぱりトム・クルーズは、大スターのイメージの方ばっかり先行していますけど、俳優として誰よりもストイックで、この映画でも過酷な減量を自分に課して、本当に妖艶な雰囲気をつくって演じたら、その役が素晴らしすぎて、原作者が絶賛したっていう。本当にトム・クルーズ伝説の一つですよ。本当にこれはトム・クルーズのイメージ、『カクテル』とかね、ちょっとこうなんだろう、陽気なポップスターみたいなイメージがある人は、ぜひ観てほしい、彼の演技力みたいなものもちゃんと感じられる作品かなと思います。
渡辺:わかりやすい、主役みたいなところからね、ちょっと変わっていっている時期の。
有坂:そうだね、振り返るとそうだよね。このぐらいの時期からっていう。この中でキルスティンは、クローディア役、少女のヴァンパイアを演じたんですけど、これが高く評価されて、ボストンの映画批評家協会賞の助演女優賞を受賞したり、ゴールデングローブ賞の助演女優賞にもノミネートということで、次世代のスターということで、一躍注目を浴びたのが、この『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』です。で、ちょっとあと補足的に、この映画の音楽。ガンズ・アンド・ローゼズ。
渡辺:そうだっけ?
有坂:僕も、今回調べていて知ったんですけど、しかも、ガンズがある曲のカバーをやっていて、それがザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」。
渡辺:へぇー。
有坂:これ、YouTubeで聞けるので聞いてみてください。
渡辺:そうなんだ。
有坂:そう、まさかの。あと、これ、そのインタビュアー役を、クリスチャン・スレーターが演じたって言いました。クリスチャン・スレーターって、当時は『トゥルー・ロマンス』。あと、『告発』っていう映画などで、本当にもうどんどんすごい勢いで右肩上がりで、スター街道まっしぐらみたいな人だったんですけど、これ実はね、別の人が演じる予定だった。その俳優がなんと、なんと、リヴァー・フェニックス。
渡辺:へぇー。
有坂:だから、リヴァー・フェニックス、ブラピ、トム・クルーズの予定だったんだって。すごいエピソードだよね。で、これ、結局あのリヴァー・フェニックスが急死してしまったことで、クリスチャン・スレーターがその後を受け継いで演じることになったんですけど、クリスチャン・スレーターは、また株を上げるんだけど、彼はそのそのときの出演料を、すべてリヴァー・フェニックスが支援しているボランティア団体に、全額寄付した。まあ、それでクリスチャン・スレーターもまた、こういうビッグバジェットの映画で名を上げるきっかけにもなって、実はそんな裏話もあったという、まあそんな『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』から、僕は始めたいと思います。
渡辺:そうでしたか。
有坂:ガンズ聞いてください。
渡辺:じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。フランシス・マクドーマンドの2本目はですね、2012年の作品です。
渡辺セレクト2.『ムーンライズ・キングダム』
監督/ウェス・アンダーソン,2012年,アメリカ,94分
有坂:うんうん、ふふふ。
渡辺:こちらは、監督はウェス・アンダーソンですね。みんな大好きウェス・アンダーソンの、お話で言うと、少年と少女が駆け落ちするというお話です。少女のほうの家族のお母さんが、フランシス・マクドーマンドです。ウェス・アンダーソンの作品って、けっこうやっぱり豪華キャストだったりするので、「キャラクター誰だったっけ?」みたいなのはあると思うんですけど、前半はボーイスカウトの話で、そこに少年がいて、少年が少女と出会い駆け落ちしていくっていう話で、その背景の中で、お母さんも実は警察官と相引きをしているというですね、『ファーゴ』では女性警察官だったんですけど、この『ムーンライズ・キングダム』では、お相手の警察官というのがブルース・ウィリスなんですね。『ダイ・ハード』のブルースウィリスが警察官で、見回りしてくるフリして不倫しているっていう、そんな役がこのフランシス・マクドーマンドなんですけど。やっぱりこのウェス・アンダーソンのこの世界にもハマるんだっていうんですね。コーエン兄弟の作品の中から、またこの雰囲気の違うウェス・アンダーソンの作品にも、他にも出ているんですけど、最初に出たのがこの『ムーンライズ・キングダム』です。なので、本当に、この先もいろんな作品紹介していきますけど、いろんなけっこう巨匠というか、個性的な監督たちと組んでいたりするので、そのどの作品でもしっかり存在感があってハマっている、というのがフランシス・マクドーマンドかなと思います。
有坂:なんか、ウェス・アンダーソンの映画にさあ、大スター、いっぱい出ているじゃん。このクレジットを見るとね。あの人も出ている、この人も出ているって思うけど、基本なんかその、無表情じゃん。で、そのすごい人をキャスティングしているのに、その人の個性を消すように演出するっていうのが本当に面白いよね。みんな、なのに出たがる。
渡辺:ねっ。本当ね、ハマるからね。旦那さんがね、ビル・マーレイっていうのも面白い。
有坂:これでも、その駆け落ちの話のサイドストーリーみたいなポジションだけど、そこにね、こんな演技派が。
渡辺:そうなんです。
有坂:そこで不倫してくれるっていう。面白いね。
渡辺:キノ・イグルーでも何回か。
有坂:やったねー。……じゃあ、僕の2本目にいきたいと思います。キルスティン・ダンストの2本目は、1999年の作品です。
有坂セレクト2.『ヴァージン・スーサイズ』
監督/ソフィア・コッポラ,1999年,アメリカ,98分
渡辺:なるほどね。
有坂:この『ヴァージン・スーサイズ』の中で、キルスティンが演じるのは、5人姉妹の4番目のラックスという役です。当時、キルスティン17歳。これは言わずと知れたソフィア・コッポラの長編デビューということで、後に、ソフィア・コッポラは作品をたくさんつくりますけど、本当に彼女の一つの作家的な個性と言ってもいい。少女から大人に変わる狭間の一瞬しかない、きらめきを取り入れるのがソフィア・コッポラというのは本当に長けていて、その作風を一作目にして、もう全開で表現できたのが、この『ヴァージン・スーサイズ』かなと思います。これは、時代設定は1970年代のアメリカの郊外の街という設定です。リズボン家という家族の13歳から17歳までの5人姉妹が主人公です。この中で、一番下の娘セシリアが自死してしまうという、ちょっと悲しいところから映画の前半が始まっていって、その5人姉妹は家から出ることなく、家の中で4人姉妹すごい綺麗なワンピースとかを着て、本を読んだりとか、レコードを聞いたりして過ごしている。その姉妹に興味を持った同じ学校の男子たちが、家の外から彼女たちに何とか会って話がしたいみたいな、そういうちょっとした思春期のボーイ・ミーツ・ガール的なお話もありつつ、果たしてこの姉妹はというような物語が一応あります。このキルスティン演じるラックスというのは、家にある意味閉じ込められている姉妹の中で、唯一、外の世界に関心を持っている。特に、自分と同世代の男の子たちに興味を持っているというところで、家の中に閉じこもろうとしないということで、そういう意味で物語を動かしていくような役をキルスティンは演じています。この映画は、見どころの連続なんですけど、特に個人的におすすめなのは、外の世界にいる男の子たちが、当時携帯電話がない時代、家電で電話をするんですよ、みんなで。誰かの家に集まって「電話しようぜ」って言って、そこで電話して、その姉妹が出たとき、「今だ!」って言って、自分たちの電話の横に置いてあるレコードプレイヤーで、トッド・ラングレンという人の「ハロー・イッツ・ミー」という曲をかけるんです。それを電話越しに聞かせるっていう、超名シーンがあって、その「ハロー・イッツ・ミー」という曲に自分たちの思いを託して、なんとか女の子たちとつながるっていう青臭さとかが、最高にたまらないキュンとしちゃうような名シーン。で、それに対して、少年たちが電話を切った後、今度は逆に姉妹から少年たちに電話がかかってくるんです。そこで同じように姉妹たちが、彼らへのメッセージとして選んだ曲がギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」という曲です。
なので、自分たちの思いを曲に託して電話越しに聞かせるっていう、めちゃくちゃね、もうキュン死してしまうような名シーンを、この長編デビュー作で、ソフィア・コッポラはたっぷりと、美しい光の中で描いています。他にも、この映画はサウンドトラックがとにかく素晴らしいですし、キラキラしたとか、フワフワしたとか、映像の感覚が合う人は、本当にたまらない一本になりますし、物語的には悲しみみたいなものが根底にあるので、合わない人は合わないと思いますが、これもさっきの『ファーゴ』と同じ「シネマライズ」で上映された名作の一本かなと思います。キルスティンにとってもこの映画は特別だったらしくて、ちょっと、最後にキルスティンのインタビューを読みたいと思います。初めてソフィア・コッポラと仕事をしたことを聞かれて彼女はこう答えています。
「この映画は、私の心の中ではとても大切なもの。なぜならソフィアと初めて仕事をした作品でもあるし、このときに私は初めて美しい女性として見られて、それを与えてくれたのがソフィアだったと。あの年齢の私が、自分や自分の美しさについて感じていたことにとって、それはとてもエンパワーメントなことだった。あの年齢って特殊でしょ。私がキャリアを通して持ち続ける多くの自信をくれたのがソフィア。当時のプロデューサーは、私の歯並びを直したがっていた。人々は、若い女優を同じ外見にするために彼女たちを変えて操ろうとする。でも、ソフィアは私が私のままで美しいと感じさせてくれた。あれは私の人生の中で大きな自信を与えられた、とても大切な時間だった」
ということで、本当に女優としてこれからやっていくっていう意味で、一番大きなものをソフィア・コッポラに与えられたというのが、『ヴァージン・スーサイズ』となっています。
渡辺:なるほどね、ソフィア・コッポラのセンスが炸裂したって感じだったよね。打ちのめされたよね、最初見たときはね。「またすげえ監督、出てきたな」みたいなね。
有坂:パパとまた全然違う個性だからね。
渡辺:あのコッポラの娘だったっていうね。
有坂:『ゴッドファーザー』のね。
渡辺:なるほど、これは代表作だよね。……はい、じゃあ、続けて3本目ですね。フランシス・マクドーマンドの3本目は、2017年の作品です。
渡辺セレクト3.『スリー・ビルボード』
監督/マーティン・マクドナー,2017年,アメリカ、イギリス,115分
有坂:出た!
渡辺:出ました、名作!
有坂:俺らの『スリー・ビルボード』。
渡辺:この作品、めちゃくちゃ面白いです! 一言で言うと。その年のナンバーワンね、2人とも。毎年僕ら、その年の作品の中でトップ10を出しているんですけど、もうお互いナンバー1。
有坂:ぶっちぎり1位。
渡辺:だったのが、この『スリー・ビルボード』という作品です。どういう話かというと、ある女性が惨殺されてしまうんですけど、その母親がフランシス・マクドーマンドですね。事件がいっこうに解決しない、犯人が全然捕まらないっていうので、もう怒れる母親がフランシス・マクドーマンドなんですけど、アメリカって車社会なんで、道路沿いに看板があるんですけど、その看板のことをビルボードって言うんですね。そのビルボードに広告を出すんですね。「警察は無能だ」って言って、「捜査を早く始めろ」みたいに、3枚看板、スリー・ビルボードに広告を出して警察に喧嘩を売るというですね、っていうところから始まっていくお話です。この母親の怒りは収まらず、さらに暴走していくっていうですね。そこで、どんどん犯人を探す上で周りを巻き込んでいって、周りに被害をもたらしていくっていうですね、そういう勢いがありすぎる母親を演じています。無能な警官を最初は責めていくんですけど、警察署長が実はすごい良い人だったりとか、本当に警察が無能なのかとか、警察が仕事をサボっているのかみたいなことが、最初思っていた真実がちょっと揺らいでくるみたいな。この母親のほうが周りに迷惑かけてないかみたいなぐらい、最初事件が起こってそれを進んでいく中で、最初思っていたことが覆されていったりみたいな。そういう先の読めないサスペンスとして、この作品自体めちゃくちゃ面白いんですけど、その主人公として、どんどんこの話を引っ張っていく。さらに、その先が読めないっていう。それを見事に演じているのがこのフランシス・マクドーマンドになります。この作品で、また見事にアカデミー賞主演女優賞を獲得しています。これで、2度の主演女優賞を獲得しているということで、アカデミー賞でも堂々たる受賞という感じになっていました。監督のマーティン・マクドナーが監督、脚本をやっていて、脚本賞も獲ったのかな。なので、けっこうこの作品はこの年話題で、わりと主要部門をいくつか獲っているというところで、そういうアカデミー賞の真ん中にも来ているというのが、このフランシス・マクドーマンドになります。
有坂:これはね、なんかその今、順也が言ったように、最初はもうお母さんに観ている側が完全に感情移入して、もう警察悪だと思って観ていたら、雲行きが変わってきて、ちょっと善悪がある意味逆転するような流れになるんですよ。そこのキャラクターが、善だった人がなんとなく悪っぽくなって、悪だった人が急に善っぽくなると、物語の展開が一切読めなくなっちゃうんだよね。あれすごい不思議な体験だなと思って。それまでは善悪がそのままであれば、きっとこういう着地するだろうなとか想像できるんだけど、一気に想像できなくなって、なんかそのちょっとサスペンス感が強まるというかね。そんな脚本のつくり方があるんだっていうところも、なんか個人的にはグッときたポイントでした。
渡辺:本当に未見の人は、ぜひ観てもらえると。
有坂:役者がみんないいからね。そうなんです。脇役に至るまで。
渡辺:本当に面白いです。
有坂:じゃあ、そんな『スリー・ビルボード』に匹敵する、シリアスな映画をいきたいと思います。
渡辺:ハードル上げていいんですか?
有坂:キルスティン・ダンストの3本目は、2000年の作品です。
渡辺:あれですか?
有坂セレクト3.『チアーズ!』
監督/ペイトン・リード,2000年,アメリカ,100分
渡辺:んー、ふふふふふ。
有坂:すいません。真逆の作品です。これはもうタイトルのとおり、チアリーディングに打ち込む女子高生たちを描いたスポコン青春コメディとなっています。ビジュアルが出れば一発で伝わる、突き抜けた青春コメディ。全国大会の常連の強豪校のチアリーディングチームのキャプテンを演じるのが、キルスティン・ダンストです。いよいよ自分たちの代でまた全国制覇を目指そうぜっていうときに、そのチーム伝統の振り付けが、実は盗作だったってことが発覚すると。そんなわけないって言うんだけど、そんなことあったんですよ。で、そのライバルチームの振り付けを盗作していたんですけど、この映画、でも面白いなと思ったところは、そこでライバルチームっていうのが、ロスの貧しい地域にある学校で、そこの生徒たちは黒人とかヒスパニックとか、いわゆるマイノリティ。お金のない人たちが行っているような学校。一方、キルスティンのほうは、お金持ちでイケイケな、アメリカの青春映画に出てくるような、イケてるグループの代表格みたいな人たちがチアリーディングチームにいるということで、自分たちの独創性を武器に戦っていたけど、でも、実は一つ前の代のキャプテンが、そのライバルチームのダンスを盗作したということで、なんかこう文化の盗用みたいな。なんか、そういうちょっと今の時代にも繋がるようなメッセージが、このスポコンコメディの中に込められてるっていうところが、ちょっとやっぱり作り手の志を感じて面白いなと思いました。でも、基本的には、恋にチアに大忙しみたいな。
渡辺:そうだよね。
有坂:もうキラキラまぶしい主演をキルスティンだからこそ演じられたっていうスポコンコメディになっているので、これは本当に人を選ばない。で、最後ね、どういう結果が待っているかっていうのは、ちょっと観てからのお楽しみですけど、これは後に、ジム・キャリーの『イエスマン』を撮った、ペイトン・リードという監督のデビュー作。
渡辺:あ、そうなんだっけ?
有坂:そうなんです。あの『恋は邪魔者』っていうね、レネー・ゼルウィガーの名作もありましたが、あと『イエスマン』、後に『アントマン』をつくったペイトン・リードのデビュー作となっているので、ぜひこれもあんまりスポコンコメディを観ないなって人にも響く内容かなとも思うので。
渡辺:観られるな。けっこうでもわかりやすいもんね。
有坂:大筋はもうわかりやすいし、配信で観られるね。曲も、ミッキーの曲あるじゃん。
渡辺:ミッキーの曲?
有坂:あのおなじみのミッキー。ディズニーランドでも流れている。あれがもうバンバン使われる、すごくわかりやすい映画。
渡辺:アメリカンな(笑)。
有坂:そうそう!
渡辺:じゃあ続けて、4本目、2020年の作品です。
渡辺セレクト4.『ノマドランド』
監督/クロエ・ジャオ,2020年,アメリカ,108分
有坂:うんうん。そうなんだよ。
渡辺:そうなんですよね。最近の作品ですけど、監督はクロエ・ジャオという中国系の女性の監督です。この年は『ノマドランド』が、アカデミー賞も席巻するという年でした。この『ノマドランド』ってどういう話かというと、ノマドって言われるような定住しない人たちのことを指すんですけど、アメリカでいうノマドみたいな人たちが、実は白人の中流階級ぐらいの人たちでいて、キャンピングカーとか車で寝泊まりしていて、アメリカの物価高とかについていけなくなった中産階級の白人の人たちが家を失ってしまって、車で生活をして、しかもアマゾンとか、ああいう大企業のクリスマスの時期にものすごいクリスマスセールで人手が足りないみたいな、そういうときにアマゾンの工場があるところにみんなで出稼ぎみたいにしに行って、またその季節が過ぎたら、また違うところに仕事に移っていくみたいな。そういう現代のアメリカでノマドのような暮らしをしている人たちがいて、それが移民とかそういう人たちではなく、白人の中産階級にいたような人たちが、そういった生活を実はしているみたいな。そういう現代アメリカの闇みたいなところをドラマとして描いたのが、この『ノマドランド』なんですね。そこのちょっとしたことから家を失ってしまって、車で生活するようになってしまった白人女性を演じているのがフランシス・マクドーマンドです。彼女は主演でやっていて、本当に旦那さんと別れたか死んでしまったかで一人になって、それによって収入が減って、ちょっとした行き違いとかで家賃が払えなくなってくるみたいな。ちょっとしたことで、少し下に転落していってしまうみたいな。それまで普通だったのに、本当にちょっとしたことで枠からはみ出てしまうみたいな。そういったことを描いた作品だったりするんですけど、これの作品のプロデューサーにもなっているんですね、フランシス・マクドーマンドが。この年は、本当にこの映画が大評価されて、アカデミー賞の主要部門をかなり獲りました。そして、主演女優賞を、なんとフランシス・マクドーマンドがこれ3回目なんですね。でも、主演女優賞を、アカデミー賞3回獲るっていう人は、アメリカ史上でも何人かしかいないっていう、そういう快挙なんですね。なので、そういう快挙を成し遂げている女優。しかも、この作品はプロデューサーでもあったので、これ監督賞も獲ったんですね、クロエ・ジャオが。で、一番すごいのが作品賞っていう、その年、ナンバーワンの作品ですっていう、作品賞も獲って。作品賞を受賞したときに、オスカー像をもらう人って、プロデューサーなんです。それがフランシス・マクドーマンドっていう、すごいんですよね。こういうこの時代を背負ったような作品っていうのがアカデミー賞を獲るんですけど、そういうちょっと白人社会の闇みたいなところと、あとこのとき、MeToo運動とかがけっこう出てきている中で、そういう女性の自立とか、男性社会で生きる女性みたいな、そういうメッセージの作品っていうのがけっこう評価を集めていたんですけど、それをプロデューサーとして、主演自らやってのけたというのが、この『ノマドラント』ですので。なので、女優界の中でも、演技としてもめちゃくちゃ評価されていつつ、そういうMeTooみたいな中でも、ちょっとボス的存在になってきているのが、このフランシス・マクドーマンドという女優さんになります。これもこのとき話題の作品だったからね。ぜひ未見の方は、こちらも観てみてください。
有坂:じゃあ、時間も時間なんで次にいきたいと思います。僕のキルスティン4本目は、2006年の代表作と言っていいでしょう。
有坂セレクト4.『マリー・アントワネット』
監督/ソフィア・コッポラ,2006年,アメリカ,123分
渡辺:うんうん。
有坂:こちらもそうですね、ソフィア・コッポラ。いかにソフィアが、キルスティンに惚れ込んだか、『マリー・アントワネット』っていうのもタイトルのとおり、そのマリー・アントワネット役をキルスティンが演じるということで、主演の、誰をキャスティングするかというところに映画の成功・失敗がかかっているというところに、再びキルスティンを抜擢したという作品となっています。これはいわゆる伝記映画でもあるんですけど、その史実に基づいて、でも、細かいところまで過去に起こったこと、あったものを再現するという、これまでの伝記映画とはつくり方は違って、これはマリー・アントワネットの半生を描きながらも、ソフィア・コッポラとしては、マリー・アントワネットを一人の少女として描いてます。なので、今まで「マリー・アントワネットってこういう人でした」っていうことを、一生懸命伝えてきたマリー・アントワネット財団から猛烈な抗議が来た。しかも、カンヌ国際画祭のプレス試写で上映したときも、ものすごい批判のブーイングが起こったということでも、当時話題になった映画です。なので、伝記映画は史実に忠実でないといけないっていうところに縛られている人は、この映画をまったく認めていない。ただ、ソフィア・コッポラの世界観とか、マリー・アントワネットを一人の少女として捉える、そういう目線で観てみたい、それが面白いという人にとっては傑作という、本当に賛否両論の作品となっています。この映画はね、いろいろすごいポイントがありますけど、まず、その実際ベルサイユ宮殿で3カ月にもわたって撮影が行われた。さらに、この映画はこのビジュアルのとおり、いわゆるパステルカラーの世界観で、ドレスも、靴も、あとはそこに出てくるスイーツとかそういうものも、ソフィア・コッポラの世界観、色彩設計で構成されたマリー・アントワネットの世界。
渡辺:スイーツがすごいんだよね。
有坂:マカロン。
渡辺:現代のお菓子が、すごいおいしそうに出てくる。
有坂:これ観にいって、マカロン食べた人、世界にどれくらいいるんだっていうくらい、すごいおいしそうなマカロンが登場します。さらに、これはアカデミー賞では一部門しか獲っていないんですけど、衣装デザイン賞。これミレーナ・カノネロという、もう近年の衣装の世界ではトップデザイナーなんですけど、彼女がデザインをしていると。そのデザインしたドレスとかだけではなくて、これはたぶんソフィア・コッポラのアイデアだと思うんだけど、クローゼットのシーンでよく観ると靴がいっぱい並んでいるんですよ。ハイヒールのピンヒールの靴とかが並んでる中に、コンバースの「ALL STAR」があるんですよ。時代的に絶対ありえないんですよ。もうこの時点でソフィア・コッポラは、もうその史実に忠実にとかっていうことではない。なんか、自分のメッセージみたいなものを、このコンバースの「ALL STAR」を使って表現したな。骨太だよなって思いました。後にクエンティン・タランティーノも『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーとかね、出しましたけど、あれも史実に忠実ではないじゃない。過去に起こった悲劇を、映画の力で、そこを変えてやるんだという。本当に映画だからできるものっていうのを、ソフィアとかタランティーノの世代っていうのは、これまでの伝統に縛られないで大胆に変えていった。そういった意味でも、見た目はふわっとした映画ですけど、わりとそういう芯のしっかりした映画でもあるのかなと思います。個人的にはキャッチコピーも好きで、キャッチコピーが「恋をした、朝まで遊んだ、全世界に見つめられながら」という、本当にセレブリティであることの辛さを描いた作品でもあるのかなと思います。
渡辺:ソフィアっぽいよね。そういうところもね。
有坂:まさに、セレブリティの日常を描くことに長けている、彼女自身がそういう人生だよね。あとこれはあの音楽もね、80’sのUKロックとか、そこもぜひ注目して観てください。
渡辺:ソフィアの映画は音楽もいいからね。
有坂:こだわってますからね。
渡辺:なるほど。ではでは、僕の最後ですね。5本目、フランシス・マクドーマンドの5本目は、2022年の作品です。
渡辺セレクト5.『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
監督/サラ・ポーリー,2022年,アメリカ,104分
有坂:ああ!
渡辺:監督は、サラ・ポーリーというもともと女優さんなんですけど、『死ぬまでにしたい10のこと』とかの女優さんが、今、監督をやっていて、その最新作が『ウーマン・トーキング 私たちの選択』なんですね。どういう話かというと、ずっと昔ながらの暮らしをしているキリスト教の一派がいるんですよ、そこでは馬車があったり、中世ヨーロッパみたいな暮らしをしている人たちがいるんですけど、その中で、そういうコミュニティの中で起こった連続レイプ事件っていうのがありました。2010年なので、わりと現代。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:ただ、ものすごい古い価値観のコミュニティだったりするので、「それは悪魔の仕業だ。そういうことで犯人が検挙されないんです。」っていうところに、やっぱりこれはおかしいっていうふうに言い始めた女性たちの話です。なので、ものすごい封建的な昔の価値観で生きているコミュニティなので、女性にほとんど発言権がなかったりとか、もう被害を受けても、何かを発言しちゃいけないみたいな、そういう中で声を上げようって始めた人たちの話なんですね。それが『ウーマン・トーキング』という話です。サラ・ポーリーも、けっこうそういう女性目線の作品を監督として発信し始めていて、ここでこの女性たちの中のボス的な存在なのがフランシス・マクドーマンドなんですね。フランシス・マクドーマンドは本当に、今こういうMeeToo的な動きの中の中心にいる人で、やっぱり女優陣の中からも、たぶんもう姉さんみたいな感じなんだと思うんですよね。たぶんこういうメッセージを込めた作品をつくりたいっていう中で、おそらく姉さん相談させてくださいって最初に言われているんじゃないかなぐらいの、存在感を示しているのが、このフランシス・マクドーマンドです。
なので、その前作の『ノマドランド』ぐらいまでも本当にそうですし、そういう作品に自らプロデューサーになったりとか、というところで、今そういう動きの中の本当にアネゴ的立ち位置にいるのがフランシス・マクドーマンドじゃないかなと思います。で、アカデミー賞を3回獲っていると言いましたけど、実は他にもテレビドラマのアカデミー賞と言われるエミー賞、これも主演女優賞を獲っています。あと舞台ですね。ブロードウェイとか、舞台の賞がトニー賞なんですけど、これも主演女優賞を獲得しています。このアカデミー賞、エミー賞、トニー賞、これが演技の3冠と言われる賞なんですけど、これを全部獲っているっていうのがフランシス・マクドーマンドですね。アカデミー賞も3回獲っていて、なので、冒頭にちょっと地味かもしれない女優さんっていう話をしたんですけど、キャリアとしたらもう抜群に、アメリカナンバーワンじゃないかぐらいのキャリアを誇っている、現役のトップを走っている女優さん、というのがフランシス・マクドーマンドになります。ということで、僕はこの人を今回選んでみました。
有坂:『ウーマン・トーキング』ってさ、めちゃくちゃいい映画だけど、なんか観られてないよね、あんまりね。
渡辺:そうかもね。
有坂:あんまり話題にならなかった。
渡辺:ちょっと地味な感じではありますね。でも、作品はすごくいいんで。ルーニー・マーラとかもね。
有坂:そうなんですよ。……はい、本当に最近の作品まで、順也は選んだんだね。一方、僕のキルスティン5本目は、5本目にして最近のではなく、
渡辺:あれかな?
有坂セレクト5.『メランコリア』
監督/ラース・フォン・トリアー,2011年,デンマーク、スウェーデン、フランス、ドイツ,135分
渡辺:そっちか!
有坂:なんだと思った?
渡辺:『スパイダーマン』かと思った。
有坂:『スパイダーマン』も出ているんだけどね。『メランコリア』です。これは、主人公のジャスティンという役を演じています。これは監督がみんな大嫌い、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアーが監督した作品で、ストーリー的にはキルスティン演じるジャスティンっていうのは、大手広告代理店でコピーライターをやっているという役なんですけど、うつ病を抱えていて、そのうつ病を抱えている彼女は、マイケルという夫との披露宴をいよいよ迎えるというところから映画は始まります。ただ、彼女の心のバランスがそのタイミングで崩れてしまって、その披露宴を台無しにしてしまって、そのマイケルからも結婚を破棄してほしいということで、結果的に彼女は夫も失うし、職まで失ってしまうということで、一回ちょっと体と心を取り戻そうということで、お姉さんの夫の屋敷で静養することになるんですね。そうしたら、そのタイミングで、だいぶ話これ飛びますよ。巨大惑星メランコリアが、地球に接近しているということが判明するんです。お屋敷で静養しているときに。その巨大惑星が地球に衝突する可能性があるということで、主人公キルスティン演じるジャスティン以外は、みんなもう恐れおののいて、バタバタするんですけど、彼女自身は逆に心が落ち着いていって、だんだん生きるエネルギーが蘇っていくという物語になっています。なんで、そもそもこんな映画をつくろうと思ったのかなと思ったら、監督のラース・フォン・トリアー自身が、長い間ずっとうつ病を患っていて、彼自身、小さい頃から飛行機の音を聞くと第3次世界大戦が勃発するみたいに震えるぐらいの人だったらしいです。あるとき、治療のために行ったセラピーで、そのセラピストから言われた一言が『メランコリア』のモチーフになったと言われているんですけど、こんなことを言われたそうです。「悲惨な状況に陥ったとき、うつ病の人間は普通の人よりも冷静でいられるものなんだ」って、その一言が作品づくりのインスピレーションになって、これは『メランコリア』という映画につながったというふうに言われています。なので、もうとにかく自分が病気であることに苦しんで、もうそのスイッチが入ると、本当にもう未来がまったく見えないようなラース・フォン・トリアーにとっては、神の啓示に等しい一言。
渡辺:そういう映画だもんね。
有坂:まさに、それをそのまま映画にして、それを理屈じゃなくて映像で表現しているんですよ。ラストとかすごいですよ。
渡辺:本当にね。
有坂:そのジャスティンという役で、キルスティンはカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞したという意味で、彼女にとっても特別な一本。他にシャルロット・ゲンズブールとかキーファー・サザーランドとか、シャーロット・ランプリングとか、錚々たる俳優陣も出演しています。ここで順也に問題です。この『メランコリア』、主演が本当はキルスティンじゃなかったんですが、誰の予定だったでしょうか?
渡辺:ええー?
有坂:アメリカ人ではなく、ヨーロッパの女優さんで国際的に活躍してる。
渡辺:誰だろう……。エマ・トンプソン?
有坂:いや、違う。正解はペネロペ・クルスです。
渡辺:ええ! 全然違う。
有坂:ペネロペって最高だけど、この役に関しては、キルスティンのちょっと影のある感じがハマってたから、ちょっと意外だよね。
渡辺:意外!
有坂:ペネロペ・クルスが、ラース・フォン・トリアーはすごい好きで、いつか一緒に仕事をしたいってことで立ち上がったらしいんだけど、何かの理由で頓挫して、キルスティンに役が回ってきた。結果的に、それでカンヌで主演女優賞を獲っているから、本当に巡り合わせとは不思議なもので、ただ本当にこれは素晴らしい映画だし、さっき、みんな大嫌い『ダンサー・イン・ザ・ダーク』って言いましたけど、あれはね、本当にもう二度と観たくない映画ナンバーワンに上がる、ダントツナンバーワンなんですけど、でも一方で大傑作っていう人もいるので、でも、苦手な人も、この『メランコリア』は大丈夫だと思います。
渡辺:一番好きだね、これが。
有坂:『アンチクライスト』じゃない?
渡辺:あれは観れない。
有坂:本当は?
渡辺:本当にこれです。
有坂:これはね、唯一ポジティブっていうか、外に向かっていっている感じがあるよね。
渡辺:精神破綻したキルスティン・ダンストと、まともなシャルロット・ゲンズブールの姉妹で、この世紀末が近づいてくる。惑星が衝突するかも、近づいてくるにつれて、だんだん心が解放されていくキルスティンと、だんだん追い詰められていくシャルロット。正反対だった人がクロスして、また正反対になっていくっていう。本当にそれがすごい。
有坂:どっちが正常なんだってね。
渡辺:とか、どっちが幸せなのかが、わかんなくなるっていう。これは、ラース・フォン・トリアーじゃないと撮れない傑作ですね。
有坂:これはなんか機会があれば、なんか大きいスクリーンで観てほしい。
渡辺:いや、本当ね。映像がめちゃくちゃ綺麗なんですよね。
有坂:これさ、音楽もワーグナーのめちゃくちゃ仰々しい、音楽がバーンてかかって、その美しい映像とともに楽しめるので、機会があれば、ぜひスクリーンで観てほしいなと思う一本です。
──
有坂:はい、ということで10本そろいましたが、いかがだったでしょうか。ハリウッドの女優さん。他にも挙げたかった人、いたでしょ?
渡辺:いっぱいいたけど、なんかタイミング的に、ダイアン・キートンとか来るかなと思った。
有坂:考えた! 考えました。そこはね、あの人もこの人もってありますが、その目線で自分が観てきた映画を振り返るのも楽しいと思うので、ぜひ皆さんも自分なりの5本考えてみてはいかがでしょうか。
有坂:じゃあ、最後にお知らせあれば。
渡辺:僕は、またフィルマークスでリバイバル上映をやっているので言うと、来週かな、10月31日からですね。『攻殻機動隊』、押井守監督のアニメ『攻殻機動隊』が30周年ということで、また期間限定で映画館で上映します。これってAIの話なんですね。これを30年前に考えられてたってすげえなって思える。それを現代に観る意味っていうのはすごいあるかなと思うので、ぜひ映画館で観てみてください。
有坂:どれくらいの期間?
渡辺:2週間です。
有坂:じゃあ、僕は11月12日、神奈川県の葉山で、「6校フォーラム」っていう葉山町にある小学校、6校のPTAの方たちが主催する講演会で2時間お話をします。それでも参加資格は、葉山町、横須賀市、逗子市、鎌倉市在住に住む方しか参加はできないんですけれども、入場無料で「好きを仕事にしていることについて」というテーマで、好きで始めた映画の上映会が仕事になり、そこからいろんな手紙社との出会いがあって、月1でオンラインの配信をやったり、いろんなことをやっていますが、それを一回振り返るとともに、どういう自分が足跡で好きなことを続けていられるのかとか、どういう思いを持ってキノ・イグルーをやっているのかとか、あとは、そもそもそういう人間を育てた僕の母親はどんな人なのか、そんなことについていろいろとお話ししようと思っています。会場が600人も入る大ホールらしくて、そんな絶対集まらないよと思いながらも、PTAの皆さんは満席にするぞと頑張ってくれているので、もし、その地域にいる方は来てほしいなって思うし、その地域に友達がいる方は、ぜひこんなイベントがあるよとお知らせいただけると嬉しいです。
──
有坂:はい、では以上ですね。来月はハリウッドの男優だったかな? です。誰を挙げるのか、そちらもぜひ楽しみにしててください!では、今月のキノ・イグルーのニューシネマワンダーランドは以上です。皆さん、遅い時間までありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさいー。
──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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