
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、1年を振り返る恒例の特別編「勝手にアカデミー賞!」です。2025年に公開された最新作の中から《主演俳優賞》、《助演俳優賞》、《ドキュメンタリー賞》、《アニメ賞》、《音楽賞》の5つの部門の受賞作品・俳優を勝手に選んでみました! その選考をしてくれるのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、交互に発表しました! さぁ、二人はどんな作品や俳優を選ぶのか、ぜひご覧ください。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、2025年の映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
有坂:はい、毎年恒例の年末特別企画!「勝手にアカデミー賞」ということで、これからいろいろ5本ね、5部門あるんですけども、それぞれ今年のまあ一つ目の総決算かな。
渡辺:そうですね。
有坂:ということで、これから映画のお話しをしたいと思います。毎年この12月は、僕たちは年末恒例のベスト10発表会が12月30日に開催していることもあって、もうこの時期はね。
渡辺:追い込みの時期ですね。
有坂:見逃しがないように、追い込みで映画を観ている中で、今回、ちょっといつもより早めの「勝手にアカデミー賞」ということで、これから進めていきたいと思います。
渡辺:どういう順番でいきますか?
有坂:去年の逆からいこうか? ということで、今回は音楽賞、アニメ賞、ドキュメンタリー賞、助演俳優賞、最後が主演俳優賞という順番で行きましょう。はい、今回はかぶる可能性が、けっこうあるかもしれないです。
渡辺:まぁ、そうだよね。
有坂:けど、かぶったということは、それだけキノ・イグルーとしての評価が高かったということで、ご了承いただければと思います。あと、2025年の最新作の中からこの5部門を選ぶので、ぜひ、自分だったらこういうものを選ぶなということもちょっと妄想しながら、観ていただけると楽しいかなと思います。
渡辺:あと、ルール的におさらいでいうと、リバイバル上映は除外ですよね。
有坂:なし!
渡辺:あと、25年公開ですね。去年の12月に公開して、1月に観ましたはダメ?
有坂:ダメ! 大丈夫かな(笑)。ドキドキしてきた。
渡辺:やりがちだからね(笑)。
有坂:僕、前に1回やってしまうことがあって、よりによってベスト1が去年公開だったんでね。
渡辺:大チョンボをやりましたよね。
有坂:10年前くらいのことを、いまだに言われるんですよ。
渡辺:鮮明に覚えています(笑)。
有坂:ということで、先攻の僕からいきます。
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有坂の2025年《音楽賞》
『Ryuichi Sakamoto: Diaries』
監督/大森健生,2025年,日本,96分
渡辺:うーん!
有坂:これは、今まさに絶賛公開中のドキュメンタリー作品です。タイトルの通り、坂本龍一さんの最後の3年半をまとめた、病院での姿も含めて、彼の日常をまとめたドキュメンタリー作品で、これは元々NHKで放映された、それを劇場用に再編集、音とかもやっぱり劇場でやるっていうところで、音楽だけではなくて、例えば風とか雨の音、静けさも含めた音の構築ももう一回やり直して、構成された作品となっています。これ、先週観たばっかりなんですけど、音楽賞っていうところを抜きにして、まず坂本龍一さんの、本当に死ぬ間際までアーティストでい続けたいっていうところの欲。それにすごい打たれてしまって、要は、どういうふうに自分の命を全うするかっていうことを、彼は自分の意思で選んだ。それをカメラを向けて、自分が日々何を感じているかっていうことを、この「Diaries」ってタイトルにあるように、日記に言葉として綴っていくんですね。彼はもともとかなりのメモ魔ということで、言葉を綴ることは日常的だったらしいんですけれども、だからこそなお、自分が日々何を感じているかという、病状が進行したりとか、一喜一憂するみたいな、そういうことも赤裸々な言葉として綴っていくというところで、やっぱり今こうして自分に置き換えたら、すごく健康で当たり前のように幸せな日常を過ごしていることが、本当に当たり前ではないということを、坂本さんの姿を観て感じることもできるということで、本当に坂本龍一の音楽、好き嫌い問わず、観てほしいなと思うドキュメンタリーです。
渡辺:なるほど。
有坂:さらに、音楽家・坂本龍一としての凄み。それは、この中でも描かれる彼の演奏シーンもそうですし、あとは、日常的にどういう音楽を聴いているか。特に病状が進行しているときは、彼は音楽を聴けなくなったっていうエピソードがあるんです。そのとき、何も聴かないっていう選択もできると思うんですけど、坂本さんは雨の音だけが流れるYouTubeを延々見ていたらしい。
渡辺:へー。
有坂:で、雨の音を聴き続けて、そこから一回、病状が回復したときに、絶対に自分が忘れてはいけないこととして、「雨の音しか聞けない感覚を忘れずに作品をつくること」っていうメモを残したりしてるんです。なので、人間は生まれた以上、いつか死ぬわけで、その運命を受け入れながらも、やっぱりアーティストとして音とも真摯に向き合っているというところが、もう本当に亡くなる直前までスマホで記録された、カメラとかで映像が残っているんですけど、それはやっぱり親族。監督ではないんですよ。なので、そういう肉親しか見ることのできないような姿も、きちんと記録されているので、それをちゃんと自分の意志で作品にしてほしいと言った坂本龍一、さすがです、と。ぜひ、これは劇場の閉ざされた空間と、あとは雨音とか、今お話したようなエピソードもあるので、やっぱり雨の音とかもすごくこだわってつくっているので、ぜひ劇場で観てほしいなと思う作品となっています。
渡辺:まだ、始まったばっかりだもんね。まだ観られてないんだよな。
有坂:これまたナレーションがね、田中泯。
渡辺:そうなんだ。
有坂:もともと親交があった、やっぱり彼の言葉で坂本龍一の日記の言葉を表現してくれるっていうところも、本当に作り手の真摯な姿勢が見てとれて、本当におすすめの作品でした。
渡辺:なるほどね。坂本龍一の映画多いよね。でもね、けっこういろいろな切り口でありますけど。そうきましたね。はいじゃあ、僕の音楽賞は、ちょっともう全然違うタイプの作品です。
渡辺の2025年《音楽賞》
『KNEECAP/ニーキャップ』
監督/リッチ・ペピアット,2024年,アイルランド、イギリス,105分
有坂:うんうん!
渡辺:これは劇映画なんですけど、アイルランドの作品です。どういう内容かというと、舞台は北アイルランドのウエストベルファストで、アイルランドって基本は英語が公用語なんですけど、もともと独自のアイルランド語というのがあって、でも、アイルランド語を話す人はほとんどいないような状況なんですけど、この主人公のニーキャップの2人はですね、はっきり言って不良なんですね。不良で、警察に捕まっても英語じゃなくてアイルランド語しかしゃべらないぜみたいな、というので、本当に手を焼かす暴れ者ではあるんですけど。そこで通訳として呼ばれたのが学校の音楽の先生で、その音楽の先生は、アイルランド語もわかるというので、その2人を説得して、それで家に帰すみたいなところから、この先生とこの2人との交流が始まります。この先生が何の先生かというと、実は音楽教師なんですね。そこで、2人のアイルランド語のリリックに目をつけて、音楽をやらせようというところで、アイルランド語のラップをするグループがそこで誕生するという、そんな話になります。この先生は、「先生なので、そんな若者と一緒にラップをできない」と。しかも、ラップの歌詞がすごい過激で挑発的な内容だったりするので、覆面をかぶってですね、この映画のポスターみたいに、一人だけ覆面かぶっているのが先生で、バレたらまずいというので、ただアイルランド語の歌詞でアイルランドのことを歌うみたいな、ラッパーの彼らがどんどんメジャーになっていくっていう、そういう映画になっています。なので、アイルランド人なのにアイルランド語を喋れないみたいなことがあるんだっていう。なので、それってやっぱりイギリスの統治下にあると、本当は自分たちのアイデンティティである言葉があったはずなのに、もはや喋れる人が数パーセントしかいないみたいな。そういう状況であるっていうことが、映画を通して初めてわかったし、しかも、なんとすごいのが、このニーキャップっていうラッパーが実在するラッパーで、彼ら本当にめちゃくちゃ活躍していて、それの映画化だったっていうことなので、けっこうパレスチナ問題だったりとか、そういったことを割とメッセージ的なことを歌っていたりして、ヨーロッパでは結構有名なラップグループだったりするんですけど、それの彼らがどうやって生まれたかみたいなところも描かれていたりするので、そこがすごい面白いところだなと思います。この先生も、劇中のほうでは、この先生、見事にバレるんですけど、学校に「どうすんだお前」みたいなとこになってから、どうなるのかっていうですね、その辺の物語の展開も面白かったりしますし、やっぱりこのアイルランド語っていうのが、すごい注目されるきっかけにもなる作品だったりするので、そういったところもすごい意義深いなと思います。アイルランド語を話題にしたものだと、去年かな、『コット、はじまりの夏』っていうですね、これはもうテイストが全然違う、すごい綺麗な爽やかな話で、アイルランド語をしゃべる家族のお話だったりするんですけど。そういうアイルランド映画で、英語じゃなくてアイルランド語で話すとか、アイルランド語っていうものがあるっていうことをテーマにするような作品っていうのが、ちょっと増えてきているのかなっていうのを感じさせる作品でもあります。なので、ちょっとその音楽ものというところで、アイルランド語とラップみたいな、それでアイデンティティとか魂を歌うみたいな、そういったところで、ちょっと音楽ものの今年の作品として挙げてみました。
有坂:これはなんかあれだよね、その本人たちが本人を演じている。
渡辺:そうなんですよね。
有坂:なので、こういうある程度一時代を築いた、例えば、バンドとか偉人の伝記映画って、やっぱりある程度キャリアが晩年に差し掛かってとか、逆にもういなくなったときにつくられがちですけど、現在進行形でバリバリ活躍している人たちが、まだキャリアの浅い自分たちの自伝を自ら演じる。そういう意味でも、なかなかあんまり他に例を見ないような、
渡辺:そう、ドキュメンタリーじゃなくて、劇映画なんで。
有坂:そうなんです。これ、やっぱり劇映画にしたからこそ面白い。さっきの先生の顔がバレる、バレない問題とか。ちょっと話題にもつなげられるので。……じゃあ、2つ目。次はアニメ賞ということで、僕はね、3つ候補がある中から、ギリギリまで散々悩んで、最後の最後に変えちゃいました。結果、選んだ作品が、ラトビアのアニメーションです。
有坂の2025年《アニメ賞》
『Flow』
監督/ギンツ・ジルバロディス,2024年,ラトビア、ベルギー、フランス,85分
渡辺:おお! なるほど。
有坂:これは世界が大洪水に見舞われた中、一匹の猫が主人公で、その猫の目線で猫の旅路を描いたようなアニメーション作品となっています。これはもう猫が主人公で、船に乗って猫が旅をするんですけど、そこに猫だけではなくて、犬とか、カピバラとか、猿とかも一緒に旅をするということで、人間のいない世界を描いています。なので台詞は一切ありません。なので、字幕が読める、読めないとかっていうのも抜きにして、大人も子どももこれは絵と音だけを楽しめる、すごくシンプルにつくられながらも、85分、本当に見応えのあるアニメーション作品となっています。この映画をつくった人が、ちょっと名前覚えられないんですけど、ギンツ・ジルバロディスという人で、彼は、前作が『Away』というアニメーション作品で、これは監督、制作、編集、音楽全部一人で手がけた長編デビュー作。これが世界的に注目されたんですね。「ラトビアにヤバいアニメーション監督いるぞ」ということで、世界中の注目を集めた、第2作目としてこの『Flow』がつくられました。こちらは、個人制作ではなくて、大人数のスタッフと一緒に完成させたということで、監督としては個人制作から集団制作に切り替えるという意味で、できる可能性も広がりつつ、スタッフが関わる以上、その中でも自分の表現したいものをできるだけ失わないように制作していったということで、いろいろ紆余曲折があって、結果5年かかったそうです。完成した作品は、世界中のアニメーション賞で高い評価を受けていて、アメリカのゴールデングローブ賞では、ラトビア映画史上初の受賞を獲得したり、あとはアカデミー賞で長編アニメーション賞と国際長編映画賞の2部門にノミネートされて、長編アニメ部門を受賞したりということで、たったの2作で、オスカーを獲得したという意味で、アニメ大国日本のアニメファンは、絶対にスルーしてはいけない新しい才能が、このギンツ・ジルバロディス監督です。本当に映像と、自然の音だけの空間っていう、なんか心地良さもいいなと思いますし、個人的には、昔々、ディズニーがつくった『三匹荒野を行く』という実写映画があります。これは1963年の映画で、猫と犬のロードムービーなんですけども、それを感じさせる、あちらの作品も動物ばかりが出てきてセリフは一切ないということで、『三匹荒野を行く』をアニメーションでつくったような、そんなところも個人的にはちょっとグッとくる作品でした。これはできれば小さい画面ではなく。
渡辺:うんそうね。
有坂:大きいスクリーンで体感してもらいたいタイプの映画なので、また劇場でどっかでやると思うので、機会があったら、ぜひ観てみてください。
渡辺:映像もね、めちゃめちゃ綺麗だからね。これ、なんか世界観がすごい思ったのは、なんっていうんだろう、聖書っぽいんですよね。洪水で世界が流されて、一つの船にいろんな動物が乗るみたいな、ノアの箱舟みたいなもので、一回流されてしまった世界をまた再構築していくみたいな。そういうちょっと聖書っぽい世界観で、世紀末を感じさせるっていうのが、ちょっと今の世の中に響くところがあるっていう。なんか、そういうセリフが一切ないんですけど、人も出てこないんですけど、ちょっとそんな神秘的なものとか、そういうメッセージ性を感じるような
有坂:そうだね、セリフがないからこそ、それを観ている側の想像をすごく刺激してくれる映画でもあるよね。
渡辺:なんで、これはちょっと見逃してる方はぜひ。これ、観られるのかな? 配信でも。これそんな長くなかったよね。
有坂:85分。猫好きは、ハラハラドキドキしちゃうと思いますけど。ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほど。じゃあ、僕のアニメ賞は、またがらりと違う日本の作品です。
渡辺の2025年《アニメ賞》
『無名の人生』
監督/鈴木竜也,2024年,日本,93分
有坂:うん!
渡辺:こちらは、鈴木竜也監督。これはもう、一人でつくったっていう作品です。なので、最近のアニメーターは、「一人で全部、一からやりました」みたいな人が出てきていて、技術的にもそれができるようになってきたっていうことだと思うんですけど、本当にiPad一つでつくったらしいです。この『無名の人生』っていう作品が、本当にとんでもない作品で、このポスターの男性が主人公なんですけど、一大叙事詩なんですね。めちゃくちゃ壮大な話で、主人公はすごい無口な男なんですね。この主人公は、ほとんどもう劇中会話をしないんですけど、周りの人間たちがいろいろ移り変わっていくような話なんですけど、時代時代で、彼の呼ばれ方っていうのが違うんですね。親からは名前で呼ばれたり、友達からはあだ名で呼ばれたりとか、職場での呼ばれ方とか、相手によって呼ばれ方が変わって、一度呼ばれている人たちの間での自分と、また家で呼ばれているときの自分と、人格が違うみたいな。なんて言うんですかね、その人が存在する環境によって呼ばれ方が違うし、呼ばれ方が違うことによって、また存在している意味も変わってくるみたいな。同じ一人の人なんですけど、対面している相手とか呼ばれ方によって存在が違ってくるみたいな。そういう一人の男の長い人生を描くことで、実は、いろんな顔を、人って持っているみたいな。そういうことが、すごい描かれているのが面白い作品でした。また、この主人公の人生がとてつもなく壮大なので、いろんなパターンの人間関係とかですね、すごい無口なんですけど、いじめられているときも子ども時代あったりとか、かといって、ちょっと青年になってアイドルになったりとか、とてつもない破天荒というのかな、紆余曲折ある人生を歩んでいく、この一人の男の壮大な人生を観ているだけで、ものすごいドラマを観た気にさせてくれるっていうのが、この『無名の人生』という作品です。これ93分なんですけど、尺はめちゃくちゃ短いんですけど、描いてる内容はものすごい壮大だったりするので、とにかく最初観終わった後の感想が、「なんかすげえもん観た」っていう、そういうタイプの映画です。これは、一言でちょっと感想を言いづらい作品ではあるんですけど、えー、なんかこの壮大な人生を、わずか90分で観られるというですね、とてつもない。それも、しかも一人でつくったっていうすごいアニメーションなので、ちょっと今年のアニメ部門に挙げてみました。
有坂:これまたね、その無名の男の人生を描きながら、そこで描かれているアイドルの世界とかは、時事ネタだったりするんだよね。
有坂:某、日本のあのアイドル、何? 男性アイドルのあの会社です。それをちょっと皮肉っていたりとか、すごくなんか痛烈なユーモアみたいなものがね。
渡辺:けっこう踏み込んだ内容になっていますね。
有坂:ちなみに、この鈴木竜也監督の初長編作なんですけど、短編で何本かつくっていて、2022年につくった『無法の愛』という、20分ちょっとかな、短編があるんですけど、それは僕のその年の日本映画ナンバーワンに挙げました。ヤバい人、出ちゃったな。その人がつくる長編ってどうなんのかなと思ったら、最初に感じたヤバさが全然薄まることなく、むしろより濃厚になって、ものすごいエネルギーをぶつけられるみたいな、他のアニメではちょっと体験できない作品だと思います。
渡辺:そうだね。
有坂:迷ったよ、これも。マイルドなほうにしました。『Flow』で。……じゃあ、次はドキュメンタリー賞です。僕のドキュメンタリーは日本の作品です。
有坂の2025年《ドキュメンタリー賞》
『ジュンについて』
監督/田野隆太郎,2025年,日本,127分
渡辺:ほう!
有坂:順也じゃないよ(笑)。『ジュンについて』というドキュメンタリー作品を紹介したいと思います。これは、知らない人もけっこういると思います。映画好きな人ほど知らない。だけど、例えば、出版とか割とカルチャー好きな人は知っている。知っているけど意外と観られてないという人が多い作品です。これは、吉祥寺にある一人出版社、夏葉社というところの島田潤一郎さんを追いかけたドキュメンタリー映画です。はい、これです。これは島田さんの580日間に密着したドキュメンタリー映画となってます。手紙社好きの方だったら、夏葉社の本、1冊持ってるっていう方も多いかもしれない。
渡辺:これからやるんじゃないの?
有坂:いや、これはもうね、あれなんですよ。公開の仕方もちょっと特殊で、いわゆる一般公開をせずに、“焚き火のように”っていう言葉を使って、要は、監督が、監督、これ一人でつくっていて、その一人で一人出版社の島田さんに密着して、ずーっと撮っていたところ、島田さんに感化されて、普通にロードショーするような映画じゃなくて、これはもういろんな人とのご縁とか、ぜひやってほしいっていう人との縁の中で上映していこうということで、本当に小規模な上映で全国で単発で行われていて、吉祥寺の出版社なので、吉祥寺でも上映会はやっていました。僕は、吉祥寺に住んでいるんですけど、その吉祥寺の上映会は行けなくて、でも、絶対これは年内に観ておきたいと思って調べたところ、神戸で観られる、神戸の元町映画館で観られるっていう情報をキャッチして、元町映画館も行ってみたかったから、「じゃあ、もう、この『ジュンについて』を観に神戸まで行こう」ということで、元町映画館で観た作品です。これ、もともと僕も夏葉社の本ってけっこう持っていたり、島田さんのトークショーも行ったことがあったりして、夏葉社のことはまあまあ知っているつもりではいるんですけど、やっぱり文字で入ってきている情報と、あとは、実際この島田さんに密着することで、日常的な日々の業務もすごく丁寧に撮っているんですよ。彼は、編集もすれば、経理もするし、あと発送業務もすべて一人でやっていると。例えば、納品されてくる新刊を段ボールから開ける瞬間とか、あと、売れ残って書店から返送されてくる段ボールを、ちょっと切なさとともに受け止めるとか、なんか、そういう文字では表現しきれない、本当に彼の日々を真摯に記録したからこそ伝わってくる。夏葉社って、やっぱり一人でやっている分、出版できる本も1年に2冊か3冊のペースでしか出せないんですね。彼は、会社として規模を大きくしようっていう野心はなくて、このペースで本当に自分がいいと思うものを何年も何十年もつくり続けたいということで、本をつくるだけではなくて、それを書店に届けなきゃいけないという上で、1枚のA4サイズのチラシをつくって、1店舗ずつ回って注文を受けると。で、初版は2500部つくって、100店舗ぐらいのお店で売ってもらう。それが夏葉社の規模感だっていうふうに彼はインタビューでも言っているんですけども、そういう彼の日常を記録してます。僕、なんかずっと前から思っていて、ドキュメンタリー映画が手軽につくれるようになってから、要は映画がフィルムからデジタルに変わって、カメラ1個あれば誰でも映画がつくれる。ドキュメンタリーっていうのは、「この人を撮りたい」っていう対象を決めちゃえば、その信頼関係からつくりやすいじゃないですか。そのときに、例えば、すごく偉人とかそういうドキュメンタリーだけではなくて、本当に自分が好きな、例えば、喫茶店の店主とか、そういうすごく近くにいる人。けど、やっぱり人生かけて何かをやっているっていう人をドキュメンタリーでつくったらいいのに、それをシリーズ化してまとめて発信するとか、そういう動きになったらいいなって思っていて、でも、それを上映形態に含めて真摯にやっているのが、この『ジュンについて』。監督は田野隆太郎監督という人です。彼も制作から配給まで一人で手がけているということで、これまでの日本映画とはまったく違う軸でつくられてるんです。
渡辺:これでも12月19日ってなっているのは、どっかでやるのかな?
有坂:また、どっかであるんじゃないかな。ちなみに、ナレーションは俳優の宇野祥平。
渡辺:あそうなんだ。
有坂:宇野祥平の声もいい。ドキュメンタリーはナレーションも大事っていうのはね、さっきの坂本龍一もそうでしたけど、なので元町映画館は1週間やっていたけど、映画館でやることのほうが少なくて、なんとかホールとか、そういうとこでスポット的にワンデイとかでやってたりするので、ぜひ、ホームページとかインスタグラムもあったかな。チェックして、ぜひ手紙社ファンには観てほしいなという作品です。
渡辺:なるほど! じゃあ、ちょっと僕は、またがらりと雰囲気の違うドキュメンタリーをいきたいと思いますけど、僕の選んだのはこれです。
渡辺の2025年《ドキュメンタリー賞》
『黒川の女たち』
監督/松原文枝,2025年,日本,99分
有坂:出たー!
渡辺:もう、割とゴリゴリなドキュメンタリーな感じですね。これは、今年の夏に公開されたんですけど、一言で言うと戦争ものになるのかな。今年が終戦80年の年だったので、そこに公開されるっていうのも意味があったんだろうなと思う作品なんですけど。どういう作品かというと、日本が戦時中、中国の満州と言われていた地域に、すごく、なんって言うんですかね、移民じゃなくて入植していたんですよね。日本にとって進出していく拠点の場所になっていて、なので、軍隊だけではなくて、ちゃんと住民をそこに送って、村をつくって、ちゃんと拠点にしていこうと、そういう戦略のもと、満州の地域にいろんな日本人の村が当時できました。もともとそこの地域に住んでた人たちを追い出して、日本人が村をつくっていたみたいな状態になります。日本が戦争でだんだん不利になってきて、ソ連が攻めてきて、日本軍は一旦撤退するんですね。撤退したときに、残されたのが日本人村の人たちになります。で、いろんな日本各地から行っていたんですけど、いろんなやっぱり、もともと日本のある村の人たちがそのまま移住するというようなものを取っていたので、この黒川という日本の地域の人たちが移民したところだったので、黒川の村の人たちが、そのまま満州でも村をつくっていたという状態なんですけど、ソ連軍が攻めてきてソ連軍に囲まれて、そうすると満州のもともと追われた人たちも戻ってくるので、もう殺されるのを待つばかりみたいな、そういう状況だったそうです。なので、本当に村をまた取られてしまった日本人がいたりとか、それを恐れて集団自決をする人たちがいたりとか、という、村々でいろんなそれぞれの判断があって、自決するとかが多かったみたいなんですけど、この黒川の人たちは生き抜こうと決めて、それの手段として選んだのが、ソ連兵に和解を申し入れて、その条件を聞くということだったんですけど、そのソ連兵の言った条件というのが、女性を差し出せということだったんですね。黒川の村の人たちは、もうそこは生き抜くと決めて、既婚者以外の若い女性に、「頼むからちょっとみんなを救うと思って、接待という名前でソ連兵のもとに行ってくれ」というので、若い女性たちに接待をさせて、それでなんとか生き延びたというのが、この黒川の村の人たちの話になります。結果、生き延びることができて、みんな日本に帰ってくることができたんですけど、そのときに犠牲となってみんなの命を救った黒川の女性たち、特に若い女性たちなんですけど、みんなで日本に帰ってきたときに待っていたのが、誹謗中傷の嵐っていうですね。みんなの命を救うために自分たちが犠牲になったのに、帰ってきたら誹謗中傷を受けるっていうですね。さらに、とんでもない目に遭うっていう、そういう人たちのドキュメンタリーになります。今はもうみんな、おばあちゃんなんですけど、あるとき、数年前ぐらいだと思うんですけど、そのときにみんなのために犠牲になって、その後、誹謗中傷を受けたから、みんな村を離れて名前を変えたりとか、過去を隠してずっと生きてきた人たちが、おばあさんになって、「やっぱりこのまま黙っていられない」ということで、カミングアウトし始めたんですね。その人たちが、黒川の人たちが何人も同時に、実はみんな連携して連絡は取り合っていて、仲間として違うところに住んでるんだけど、連絡は取り合っていたみたいな。その人たちが次々とカミングアウトし始めたんですよね。それが話題になって、「実は、こんなことがあったんだ」っていうのがニュースになっていったっていう。それを追ったドキュメンタリーなんですね。もう、おばあさんになってるんで、新しい家族もいて、孫もいたりするんですけど、そういう中で、「実は自分、過去はそうだった」っていう、ものすごい勇気を持って告白をしたんですけど、なんかすごい感動するのが、孫の女の子っていうか、もう大人にはなってるんですけど、孫がおばあちゃんに「言ってくれてありがとう」みたいに、めちゃくちゃ受け入れて、それをポジティブにもっと発信した方がいいみたいな。そういう環境になれているっていうことだったりとか、やっぱり黙ってるのは良くないみたいに、立ち上がる女性たちみたいな。そういうのがしっかり描かれていて、本当に観ていて感動するし、涙すら出てくるっていう。強いおばあちゃんたちと、それを肯定的に支えている家族とかっていうのが、ものすごい感動できる作品だったりするので。そんなことがあったのかっていう、戦争の知られざる悲劇みたいなところっていうのは、こういうのが表に出ることで、やっぱり戦争って良くないんだなとか、戦争によって結局一般の人が一番被害を受けるので、そういったことがしっかり描かれているドキュメンタリーなんで、ちょっと過酷な部分を描いているテーマではあるんですけど、中身はおばあちゃんがヒーローみたいな、そういうヒーロー物語を観ているような話なので、全然重くないし、辛くもない。むしろ感動して泣けるっていう、そういう素晴らしい作品になってるので。これはもう、ちょっと今観られないのかな。ユーロスペースとかでやっていたんですけど。
有坂:これ、観れてないんだよ。
渡辺:もったいない! これはね、本当にめちゃくちゃいい映画なので、なんかドキュメンタリーとしても素晴らしいし、やっぱ反戦映画としてもすごい意味のある作品だったりするので。こういうのはね、やっぱなんか限定的に公開されて、その後、なかなか配信にならなかったりとかね、あるので、観られる機会が少ないものではあるんですが。
有坂:これはね、順也が観終わった直後に会ったとき、「『黒川の女たち』すごかったよ」みたいに語ってくれたんですけど、『黒川の女たち』? って全然ピンとこなくて、このチラシは持っていて、でも、読み込んではなかったから、全然なんかこう引っかかりがなくて、今みたいにそういう日本の知られざる歴史みたいなものを言ってもらうと、すごく一気に観たくなる。
本当に観た人がね、フィルマークスもそうだし、そうやって人から人に、公開は、その興行って1年で1回区切られちゃうけど、そうではなくて、やっぱりこれは日本人で生まれた以上、どんどん広げていくみたいな形で届くといいよね。
渡辺:そうだね。
有坂:コメントで、「『黒川の女たち』、気になっていましたが、重そうなのでちょっと……と思ってました。観たくなりました!」。
渡辺:はいはい、そうなんだよね。ちょっと重そうな雰囲気は感じちゃうもんね。
有坂:ナレーションが、大竹しのぶとか。
渡辺:そう、大竹しのぶがめちゃくちゃ良かったでしょ。
有坂:それ言ってた! 思い出した。
渡辺:そうそう、思い出した! あのナレーション、めちゃくちゃいいなと思って、最後エンドロールで見てたけど、気づかなかった。
有坂:さすがだね。
渡辺:そうなのよ。
有坂:ナレーションは大事って話が続きますね。いいですか?
渡辺:大丈夫です。
有坂:じゃあ、残すところあと2つ。
渡辺:しかもメインの!
有坂:助演俳優と主演俳優に行きたいと思います。じゃあ、僕の助演俳優賞です。
有坂の2025年《助演俳優賞》
伊東 蒼
助演映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
監督/大九明子,2025年,日本,127分
渡辺:おお!! そうきましたか。
有坂:これ、お笑いのね、ジャルジャルの福徳さんが発表した恋愛小説が原作になっています。監督は『勝手にふるえてろ』の大九明子監督なんですけど、これ最初、ポスタービジュアル見たとき、フィルマークス出してもらったら、たぶんあのビジュアルになると思う。これ、萩原利久と河合優実が主演で、あっ、こっちか? このポスタービジュアルでもそうだったんだけど、まず河合優実って分かってなくて。ほんと観始めて初めて分かった。河合優実なんだみたいな、ラッキーみたいな。「河合優実が今から観られるんだ、ラッキー」と思っていたら、これっていわゆる大学生の恋愛ストーリー。本当一言で言うと、そういう話なんですけど。そこに、また3人目の人が絡んできて、実は悲しい出来事が二人を襲ってみたいな、ラブストーリーなんだけど、もっと深みのある物語になっているんですけど、その3人目、4人目、絡んでくる人がいる中で、この助演俳優賞で選んだ伊東蒼というのは、この大学生の小西くんっていう、萩原利久が演じる、その小西くんに恋をするバイト仲間のさっちゃん役です。この伊東蒼はね、これは大げさではなく、「伊東蒼の時代が来たな!」って思いました。これは別に僕だけではなくて、この映画を観た人は、ほぼみんなが思うんじゃないかなっていうくらいの名シーンがあるんですよ。これが。さっちゃんが恋をしている小西くんと、雨の中、道路で向き合うシーン。さっちゃんが雨にずぶ濡れの中、小西くんへの思いを語るんですけど。
渡辺:ね、独白すんだよね。
有坂:そのシーンが、小西くんはずっと聞いているだけで、一人で永遠、喋るんですよ。その時間なんと7分25秒! これをワンカット長回しで、本当に一人で喋り続けます。好きな思いを伝えたい気持ちもあるんだけど、でも、彼に迷惑をかけちゃいけないとか。もうね、さっちゃんが頭が良すぎるが故に、先回りしていろんなことを考えたことさえも全部言葉にしちゃって、なんかね独り言なんだけど、自分の中でいろんな葛藤があって、なんて言うんだろう、感情がバーンと弾けてもおかしくないのに、弾けちゃいけないっていう理性的な部分との戦いで、7分ずっと続くんですよ。それを、崩壊寸前の感情みたいなものを、ギリギリで寸止めしてる演技。それを演技でやっている。これは、他にできる人いるのかなっていうくらいの名演でした。
渡辺:確かにね。
有坂:これは、伊東蒼って、事務所がユマニテっていう事務所で、もう映画好きだったらね、安藤サクラもいるし、門脇麦もいるし、岸井ゆきのも、三浦透子も、岡山天音も、古川琴音もいるっていう、名優ぞろいの事務所の今やトップランナーと言ってもいい。ここからまた、主演としてブレイクしていくであろう、彼女の現時点での代表作となっています。もうこのね、さっちゃんの切ない恋心が物語のキーとなっていて、もう本当に作品に深みを与える、本当に重要な役となっています。これあの、ここまでのセリフを書く、大九さんが書いたのかなと思いきや、これ原作とほぼ一緒なんだよね。
渡辺:あっそうなんだ。
有坂:だから、ジャルジャンルの福徳さんが、やっぱりまずすごいっていう。なので、このビジュアルは、よくあるような邦画のラブストーリー的なビジュアルですけど、もっといろんな意味で深みのある、ちょっとトリッキーな作品でもあるんですけど、ぜひ見逃してはいけない。そして、これを観た人はみんな、伊東蒼ファンになってしまう。そんな魅力的な一作かなと思います。
渡辺:いや、本当に名場面ですからね。独白してさ、し終わってさ、ちょっと帰っていくところまでいいんだよね。
有坂:いいんだよー。
渡辺:路地に消えていくところまで。
有坂:それをワンカットでやっている。
渡辺:いやー、本当に天才! 伊東蒼は、あの子役で出て有名な作品でいうと、『湯を沸かすほどの熱い愛』で、あのオダギリジョーとね、宮沢りえの。杉咲花の妹でね。その後、『さがす』とかね。佐藤二朗さんのやつとかで、もうその辺でももう天才って言われていたのが、もうここに来て、さらにアップデートされてっていう。これはなかなか、そうなんだよね。河合優実もすごいのにさ、食っちゃうところがすごいよね。
有坂:この話すると、もう「すごい」って言葉しか出てこなくて、たぶん伝わってないと思うんですけど、観てもらえればわかると思う。この映画を観た人の感想も、だいたい伊東蒼になるんだよね。それぐらい、なんかこう持っていってしまうインパクトがあるので、ぜひ観てみてください!
渡辺:なるほど。……では続けて、僕の助演俳優賞です。
渡辺の2025年《助演俳優賞》
森 七菜
有坂:うん! はいはい。
渡辺:森七菜は、この作品というよりかは、今年めっちゃ活躍したので、そういう意味もあってです。一番新しい作品で言うと、『秒速5センチメートル』の実写版ですね。あと、今年でいうと、『ファーストキス 1ST KISS』、坂元裕二監督の『ファーストキス 1ST KISS』も出ていて、『フロントライン』っていう小栗旬のですね。
有坂:『フロントライン』も出てるの?
渡辺:そう、コロナ禍の最初の豪華客船の話のやつですね。
有坂:まだ観てない。
渡辺:観てないの? 出ています。あと『国宝』ですね。今年ナンバーワン邦画実写の、とかその辺に全部出ているっていう。あと映画じゃないんですけど、ドラマ『ひらやすみ』も出ていて、本当に全部、なんかぴったりの役どころというか。なんかこの『秒速5センチメートル』とかもね、種ヶ島の高校時代の片思いをして、好きがあふれ出ちゃっている女子高生みたいな、本当にこの子演技うまいなって思っちゃう。なんか、途中2人でバイクで通学してるんですけど、コンビニに寄って、紙パックのジュースをストローさして飲むんですけど、彼を見つめながらチューって飲んでたら、「ジュル」って言っちゃって「恥ずかしい!」みたいな。そういう演技とかが、いちいちうまいっていうですね。なんか、『国宝』も吉沢亮に、血統を見込まれて利用される、なんかちょっと女の子で不幸に振り回されちゃうみたいなところとかですね、それも良かったし、本当にあらゆるところで活躍して。で、ちゃんといい映画のいい監督におそらく指名されて、しっかりその役をものにしてるっていうところで言うと、本当にすごい大活躍の年だったんじゃないかなというので、森七菜、助演俳優です。
有坂:確かに。『秒速5センチメートル』とかね。
渡辺:そうなんですよ。本当に、『ひらやすみ』もめちゃくちゃ良かったですよね。あと、去年で言うと『アット・ザ・ベンチ』とかね。そういうのも出てるし。
有坂:コンスタントに出てるよね。
渡辺:めちゃくちゃ出てる。
有坂:『ラストレター』も。
渡辺:本当に、今年は大活躍だったんじゃないかなと思います。
有坂:……じゃあ、時間がないんで主演いきます。僕の主演俳優賞は、もうこの人しかいません!
有坂の2025年《主演俳優賞》
ティモシー・シャラメ
主演映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
監督/ジェームズ・マンゴールド,2024年,アメリカ,141分
渡辺:ね!!
有坂:これはさ、オスカー獲ってよってみんなが思った。
渡辺:本当にね。
有坂:なんかね、ティモシー、ディカプリオと同じ運命を辿ってんのかなって思ってしまうぐらい。これは、ボブ・ディランの伝記映画。伝記といっても、彼の無名の頃の19歳から、いわゆる『ニューポート・フォーク・フェスティバル』で、エレキギターで、伝説のボブ・ディランの、そこまでの前半の人生をまとめた伝記映画となってます。この中で、ボブ・ディラン役をティモシーが演じていて、誰もが知るロックンロールスターのボブ・ディランを演じるって、俳優としては光栄なことでありながら、一方でリスクも伴う。
渡辺:ね。
有坂:似てないとか、全然違うだろうとか、という中で、この映画のティモシー・シャラメはもはやボブ・ディラン。しかも、全部生歌、生演奏、全部自分でやっているんですよ。その曲数たるや40曲。僕もティモシー好きな分、大丈夫かって思ったけど、もう観てたらね、ボブ・ディランだし、しかも、声とかもボブ・ディランのちょっと特徴的な声を。
渡辺:歌声のね。
有坂:モノマネに見えないんだよね。そこがすごいなと思って調べてみると、これってパンデミックと何かが影響して。
渡辺:ああ、そうだよね。
有坂:そのストライキが重なって。
渡辺:練習できたっていうね。
有坂:結果、5年間猶予があった。その間、もう歌とギターの練習をし続けたら、もうまるでボブ・ディランになってしまったかのような役を、結果的にはつくり上げることができた。物語自体は、本当にこれは、ボブ・ディランは数々の伝説があるので、見たり聞いたりしたことがあるようなことが多いんだけど、でも、そこがシンプルな分、やっぱりティモシーのボブ・ディランとしての存在感とか、演技力とか、歌のうまさみたいなものが際立っていたかなと思います。あともう一個、個人的にはこの映画ってジェームズ・マンゴールドっていう監督がやっていて、彼は『フォードvsフェラーリ』とかもつくっている、アメリカの割と職人的な名監督なんですけど、彼は過去に『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』っていう映画を撮っていて、それはジョニー・キャッシュというミュージシャンの伝記映画です。今回は、ボブ・ディランの伝記映画。今回の『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の中に、ジョニー・キャッシュが出てくるっていうね。
渡辺:出てくるんだよね。
有坂:そうそう、それは多分、マンゴールドの映画が好きな人にとっては、過去の映画ともつながるっていうところで、ちょっと熱いなっていう思いがある作品でもあるかなと思います。ちなみに、ティモシーがオスカー獲れなくて、じゃあ誰が獲ったかというと、『ブルータリスト』という映画のエイドリアン・ブロディという人が、これは『戦場のピアニスト』以来、2度目のオスカー獲得。2度目だよ。しかもね、順也とも話してたんですけど、『戦場のピアニスト』と役も。
渡辺:そう、既視感があるんだよね。もうすごい。
有坂:いい演技だったんだよね。もう実力派だし、確かにいい役でいい演技だったんだけど、ちょっと既視感もあるし。であれば、ティモシーになってほしいし、ハリウッド映画としてもスターが生まれにくい時代の中で、ボブ・ディラン役をティモシーが演じてオスカー獲ったら、本当にここから映画変わるよねって言ってたら、獲れなかったっていうのが悔しくて。
渡辺:ね、本当に!
有坂:なので、自分の主演俳優賞は、ティモシー・シャラメに捧げたいと思います。
渡辺:……続けて僕、発表しますが、主演俳優賞は……
渡辺の2025年《主演俳優賞》
ティモシー・シャラメ
主演映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
監督/ジェームズ・マンゴールド,2024年,アメリカ,141分
有坂:ぶっ(笑)。
渡辺:これはね、ティモシーなんだよね。やっぱりね。アカデミー賞、マジで、「違うんかい!」と思ったもんね。ほんとにね。あのー、やっぱりなんか、「若いからまだいけるっしょ」で選ばないとね。もう、そういう流れとかあるから、ほんとにレオ様みたいになっちゃう可能性はあるから。で、ティモシー・シャラメの次の作品も話題になっているんですけど、ボウリングのプロボーラーの話なのかな。それも、次のアカデミー賞で、何かしらで入る可能性もあるらしいんですけど。でも、ちょっとなんかあのぱっと見、そのポスタービジュアル全然イケメンじゃないティモシーだったりするので。もうやっぱりなんつうんだろう、役を取るためにいろんなものにティモシーが、こう自分を崩して挑戦しだしちゃう可能性もあるので。
有坂:ディカプリオと。
渡辺:ディカプリオね、この前のニューシネマ・ワンダーランドでやったからさ、あれだけどね。やっぱり、『タイタニック』で名声を得て、アイドル的な人気を得たけど、賞には恵まれなかったみたいなところから、いろんな監督と組み出してね。それが結果良かったのか、どうなのか。
有坂:『タイタニックは』、結果、大ヒットしたから、やっぱり大スターになれたけど、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は、大ヒットという映画でもないし、だからこそ主演男優賞を獲って、次の時代の大スターとしてなってほしかったな。
渡辺:歌もね、本当にすごいからね。そうなんですよね。ティモシー、頑張れということで。
有坂:キノ・イグルーの一押しは、ティモシー・シャラメ。
渡辺:次の作品はこれですね。『マーティ・シュプリーム』。映画は、面白そうなんだけど。
有坂:149分。長い!
有坂:ちなみに、他の候補ってどういう人?
渡辺:『爆弾』の佐藤二朗とかね。
有坂:一緒! そこで迷った。じゃあ、助演は?
渡辺:助演は、ショーン・ペン。
有坂:確かに(笑)、忘れてた。そうだ! 俺はね、『ふつうの子ども』の瀧内公美。
渡辺:あー、なるほどね。
有坂:ドキュメンタリーは?
渡辺:ドキュメンタリーは、なんだっけな……。
有坂:先に言うと、『キムズビデオ』か、『Eno』というブライアン・イーノのドキュメンタリー。
渡辺:俺なんだっけな。あっ、また渋めの『太陽(ティダ)の運命』とか。
有坂:『太陽(ティダ)の運命』、よかったよね。じゃあ、アニメ賞は?
渡辺:アニメ賞は、俺も『Flow』とか。
有坂:『チェンソーマン レゼ篇』か、『ひゃくえむ。』。
渡辺:そうだね、俺も『ひゃくえむ。』は。『音楽』の岩井澤健治監督ね。
有坂:音楽賞は?
渡辺:音楽賞は、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』。
有坂:音楽賞は、坂本龍一で即決まった。ということで、一人に決めるのはなかなか難しいですけど、こんな結果となりましたが、いかがだったでしょうか。
──
有坂:じゃあ、何かお知らせあれば。
渡辺:またフィルマークスでリバイバル上映をやっているんですけど、今、『エターナル・サンシャイン』がちょうど始まったところで、なかなか映画館で観たことあるっていうのは少ないと思うので、好きな人は多いと思うんですけど、ぜひこの機会に観ていただけたらなと思います。
有坂:僕は、今週の土曜日なんですけど、神奈川県の横須賀市の秋谷っていう場所があって、葉山のちょっと先なんですけど、秋谷にある「Arts Lane」というギャラリーで、この秋にやった講演会の続編的なイベントを急遽やることになりました。
その秋にやった講演会っていうのが、好きを仕事にしていることについてということで、自分が好きなことをキノ・イグルーとして仕事にしている、自分の仕事論とか、どんな環境で育って来たって話を前回したんですけれども、もっとそこを深掘りしようということで、会場を小規模なギャラリーに変えて、ドーナツを食べながらいろいろと語る2時間になってます。
これですね。「好き」の「続き」という企画になってます。ご興味のある方は、ぜひご予約いただければ嬉しいです。
──
有坂:ということで、駆け足でしたが以上となります。まだクリスマスを迎えてないので、ちょっと師走感がないですけども、ニューシネマ・ワンダーランド2025年は、この回をもって終了ということで
渡辺:そうですね。
有坂:ということで、また2026年、皆さんとお会いできればと思います。では、今月、今年のニューシネマ・ワンダーランドは、以上となります。遅い時間まで、ありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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