
毎月生放送でお届けしている「キノ・イグルーのニューシネマワンダーランド」。今回は、キノ・イグルーのおふたりが企画に携わり、街なか複数か所での映画上映やマルシェ、トークや音楽や漫才ライブも楽しめる、千葉県松戸市で3月22日(日)に開催された映画イベント「yonder matsudo cinema」の会場から、公開収録でお届けしました! テーマは、「今、配信で観られる傑作映画」。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)です。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!
──
お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
──
−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
渡辺:じゃあ、早速いきたいと思います。それぞれ5本ずつ、合計10本紹介していくことになります。僕はですね。往年の傑作ではなくて、わりと最近の作品なんだけど、面白いんだけど、ちょっと見逃しているかもしれない作品を、選んでいきたいなと思ってます。
──
渡辺セレクト1.『リバー、流れないでよ』
監督/山口淳太,2023年,日本,86分
有坂:おおー。
渡辺:これは2023年の作品なので、3年前ですかね。なので、わりと最近のものになります。
有坂:ちょっと待ってね。会場の方、今、生配信のほうで、この僕らが紹介した映画の作品紹介をフィルマークスの画面を出してやっていたりするので、ぜひそちらの画面も見ながら、こちらも見ていただきながらお楽しみいただければと思います。
渡辺:自分で作品を検索していただいたりしても大丈夫です。この『リバー、流れないでよ』は、ヨーロッパ企画の上田誠さん脚本の作品です。上田誠節なので、本当にコメディで面白い。さらに、タイムリープものという作品になります。これ、舞台はとある京都の旅館なんですけど、「どうやらこれ、同じ出来事が起こってない?」みたいなことに、主人公が気づきます。そうすると、繰り返しているっていうことにあるとき、気がつきます。で、また2分経ったら2分前に戻ってしまう。でも、記憶は継続されて、「あれ? これさっきもあったよね」っていうことが起こって、その2分間の間に、今度別の人に話しかけて、「なんか2分を繰り返してない?」みたいなことを話していくことで、その2分がどんどん更新されていきます。で、仲間が増えていって、なんだなんだこの2分また繰り返してるぞみたいなことを、一人一人話しかけていって、何か解決する手段はないのかというふうになっていく話になります。このタイムリープものの面白さというと、同じことを繰り返すから、さっき起こったことは、事件はかわせるみたいなことが出てくるので、それが上田誠節のコメディであると、本当に面白い作品になります。けっこう上田さんの作品っていろいろあるんですけど、やっぱりタイムリープものにかなり定評がありますので、それの本当に傑作が、この『リバー、流れないでよ』になります。これ、下北沢にある「トリウッド」っていう小さい映画館があるんですけど、そこの企画としてつくった作品です。これが第2弾になるのかな。今年の6月ぐらいにその第3弾。また、下北沢トリウッドを、今度はまさにその映画館を舞台にした作品が、新作が公開されますので、その前の予習に『リバー、流れないでよ』を観てもらえると面白いんじゃないかなと思います。
有坂:あれだよね。ヨーロッパ企画、演劇も観に行ってたよね。
渡辺:そう、ヨーロッパ企画好きの人は、ぜひ観てもらいたい作品です。
有坂:はい、わかりました。じゃあ、僕の1本目にいこうかな。僕は5本。一応自分なりにテーマを決めて、「往年の超名作」にあえてしました。というのも今回ですね、この「yonder matsudo cinema」でいろんな映画を上映する。さらに、いろんな人の視点で、それを例えば字にして……マーケットやったり、それぞれの飲食店のブースにも皆さんの好きな映画を張り出してもらって、やっぱり映画の素晴らしさ。本当にもう好きな映画を語らせたら、それだけで多様性が見えてくるって思っているんですけど、だんだんそういう時代になればなるほど、往年の名作との接点が減ってきているなっていう感じがします。ということで、今回、「yonder matsudo cinema」ではスタンプラリーをやってるんですけど、そのスタンプラリーは黒澤明の『七人の侍』、七人の侍を集めてもらうというスタンプラリーをやっています。なので、ぜひ今回のこの企画が面白いなと思って映画に目覚めた方、ぜひこんな名作もあるよということで、5本紹介します。まずは、1977年のアメリカ映画です。
有坂セレクト1.『アニー・ホール』
監督/ウディ・アレン,1977年,アメリカ,93分
渡辺:なるほど! 『七人の侍』かと思ったら違うんですね(笑)。その振りじゃなかったんですか。
有坂:違う違う。『アニー・ホール』です。これはもう言わずと知れたウディ・アレンの名作中の名作。彼の代表作と言ってもいい、70年代の作品です。ウディ・アレンというのは、ちょっとその前に物語。彼は基本、ニューヨークを舞台にしたラブストーリーを得意としている監督です。この映画では、見た目は、ウディ・アレン本人が主役を演じてるんですけども、なぜかモテてしまう。内側からにじみ出る知性とか、そういうものがきっと彼の魅力なんだと思うんですけども、そういうなぜかモテてしまうスタンダップコメディアンを、ウディ・アレンが演じています。そのウディ・アレン演じるアルビーという男が、歌手志望の若いアニーという女性と出会って、意気投合して一緒に暮らし始めるという物語です。そんな物語がだんだんですね、もう本当に幸せな日常が、丁寧に丁寧に描かれていく中で、だんだん二人の間に亀裂が入っていくというところで、例えばこの『ノッティングヒルの恋人』とか、『ローマの休日』とか、そういうハッピーなラブストーリーともちょっと違う、ちょっとシニカルな視線も入っているような、ウディ・アレン節炸裂のラブストーリーとなっています。この映画はその年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞の4部門を受賞したということで、本当にその年を代表する作品となっています。ウディ・アレンの相手役を演じるのが、ちょっと前に亡くなってしまいましたダイアン・キートン。このウディ・アレンとダイアン・キートンのラブストーリーとしても魅力なんですけど、やっぱりこの映画を語る上で外せないのは、二人のファッションです。ウディ・アレンはいわゆるナードな、ちょっとオタクっぽい感じのそういう魅力を生かした、わりとカジュアルなファッション。ダイアン・キートンというのは、本当に彼女自身がすごくファッショニスタで、この映画でも自分の衣装を自分で決めています。白シャツ、黒ベストにちょっと長めのネクタイして、チノパンを履いてみたいな、なかなか映画ではその当時観ることのできなかったカジュアルファッションが、もう次々楽しめるというところもこの映画の魅力かなと思います。とにかく、名シーンの連続です。知り合って本当にもうラブラブな二人が、キッチンでザリガニを調理しようとして、そのザリガニが鍋を飛び出てきて二人が大慌てするとか、本当に物語の大きな軸とそんなに関係のない、さりげない二人の関係を描いたシーンがすごく多いんですけど、やっぱりそのシーンが積み重なることで、二人の心がどれだけ通じ合っているかというのを表現している。決して言葉には頼らない、という意味でもこの映画は特別な映画かなと思います。ちなみに作家のトルーマン・カポーティもカメオ出演しているということで、文学好きにもおすすめの一本です。
渡辺:本当に、ダイアン・キートンはめちゃくちゃおしゃれなんでね、この映画に限らず、ダイアン・キートンの映画とか、あとインスタでね、ダイアン・キートンのファッションを見るだけでも、かなり楽しめる作品ですね。これU-NEXTでやってますね。
有坂:観られますね。
渡辺:さっき言うの忘れちゃった。さっきの『リバー、流れないでよ』もNetflixとかAmazonとか、いくつか観られます。よろしいですか。
有坂:ちなみに、このニューシネマワンダーランドのYouTubeチャンネルは、僕の有坂塁のインスタグラムのストーリーにリンクを貼っているので、そこから飛んでよかったら観てみてください。
渡辺:では、続けて僕の2本目にいきたいと思います。僕の2本目は2022年上映のノルウェー映画です。
渡辺セレクト2.『ロスバンド』
監督/クリスティアン・ロー,2018年,ノルウェー、スウェーデン,94分
有坂:おお、おお。
渡辺:これも2022年上映なんで、わりと最近の作品になります。ちょうどこのときってコロナ禍だったりしたので、映画館にやっぱりみんなが行ってなかったりした時期なので、映画館で見逃しているという人も多いんじゃないかなというので。この『ロスバンド』どういう映画かというと、子どもたちのバンドの話なので、非常に可愛らしい作品です。ノルウェーのとある小さな男の子が主人公で、バンドを組むというので、それが大会があるのでこれに出たいというので友達を集めていてですね、バンドを組むんですけど、それも友達と二人だから全然足りないと5人必要だというので、庭でおもちゃのドラム叩いてるような女の子をスカウトして、仲間に入れたりと。ということで、何とか5人集めて大人も仲間に入れて、車に乗って大会に出ようというので出かけていくというロードムービーなんですけど。本当にちょっと子どもが主人公だったりすることもあって、ちょっとしたことが大事件だったり、そういう楽しさのある作品なんですね。なんかいろいろな出来事が起こるんですけど、その中でもすごい面白い事件というのがあってですね、ボーカルの子がいるんですけど、なんとボーカルがオンチっていうですね、致命的な出来事があってですね。「あいつ、オンチだから変えたほうが良くね」とか言うんですけど、「でも友達だから言えないよ」みたいな。そういう可愛いやりとりがありながら、みんなこういろいろちょっと何か人に言えないことを抱えていたりとか、実は、そういったことが旅をする中で明らかになっていって、一つ成長していくという物語になっているので、なかなか知られていない作品ではあるんですけど、こういうちょっと子どももののバンドの、ちょっと設定としてはよくあるパターンではあるんですけど、かなり感動もできるし、ほっこり楽しめるという、大人が観ても子どもが観ても楽しい作品なので、隠れた傑作ということで紹介させていただきました。『ロスバンド』ですね。これもAmazonプライムとか、U-NEXT、Huluなどで観られますので、ぜひ観てみてください。
有坂:これね、実はとあるイベントで上映したいなと思って配給会社に問い合わせたら、上映はできない。権利が切れてるということで上映はできないそうです。ただ配信ではね、今すぐにでも観られるので、ぜひ配信もね、権利が切れると観られなくなっちゃうので。
渡辺:そうですね。
有坂:ぜひ観てください。
渡辺:これも94分という短い作品なんで、サクッと観れます。
有坂:じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。2本目は、1997年のイラン映画です。
有坂セレクト2.『桜桃の味』
監督/アッバス・キアロスタミ,1997年,イラン,98分
有坂:これはね、イランの名匠、アッバス・キアロスタミ。彼が60年代後半から映画をつくっているんですけど、ある意味キャリアの一回頂点を迎えた作品が、この『桜桃の味』になります。その年のカンヌ国際画祭のパルム・ドールという最高賞を受賞した名作です。物語はシンプル。中年男、バディが主人公です。そのバディは、理由はわからないんですけども人生に絶望しています。そんな絶望しているバディが車に乗っているシーンから映画は始まるんですけども、何かを探しながらずっと車を、イランの田舎の砂ぼこりが立つような大自然の田舎を、ゆっくり車で走り続けている。なかなかそこから物語が進まないんですけども、ちょっとある人と出会ってお話をするんですね。そのときに、実は自分はもう生きていたくないんだと、自分は死にたいのでその手伝いをしてくれないかということで、自分の死を助けてくれる人を探している男。それがこの中年男、バディになります。もちろん、そんなこと誰もやりたくないわけです。なので断られたりするけど、断る人を必死に説得しようとするバディ。ただ、そのうまくいかないことが続いていった先で、そんな絶望しているバディに人生の希望を与えるおじいちゃんが登場します。そのおじいちゃんが彼に伝えるその希望を与えるメッセージに、この映画のタイトルである『桜桃の味』というのがつながってくるんですね。本当に理由はわからないけれども、“日常がつらすぎて”っていうことは、誰しも経験があると思います。ただ、そういうものを美談として簡単に描くのではなくて、じっくりゆっくりこれは丁寧に心の動きみたいなものを、イランの美しい風景の中で描いてくれるんですね。なので、見終わった後、良かったとか楽しかったではない、じわーっと心に余韻が広がるような魅力のある作品です。これは僕、公開当時、映画館で観たんですけど、まだそのときって映画に目覚めたばっかり。映画といえばトム・ハンクス、ウィノナ・ライダー、メグ・ライアンだった時期です。そういうものしか知らなかった自分が、まったく違った何か匂いみたいなものを予告編で感じて、これ観に行ったんですけど、本当にね、同じ映画でもこれだけ表現って違うんだなということで、より映画にのめり込むきっかけになった作品でもあります。ぜひ、『桜桃の味』、コンディションを整えてご覧いただければと思います。
渡辺:イラン映画ってね。なかなか観る機会がないかもしれないですけど、すごい面白いのが多いんですよね。あとけっこうね、今、イラン攻撃されて大変なことになってますけど、キアロスタミってけっこう市井の人を描く作品を撮ったりしてるので、実際、どんな人たちがいるのかみたいなことを知れる機会でもあると思うので、ぜひこういう機会に観てもらえるといいなと思います。
有坂:一個だけいい? そう、イラン映画って、初めて観た人、時間の流れがスローで、なかなか肌感覚が合わないって人いると思うんですね。僕が思ってるのは、例えば、同じ90分で物語を表現するときに、アメリカ映画っていうのは、90分で誰かの一生を描きます。でも、イラン映画は同じ90分を使って誰かの1日を描きます。なので、本当に1分とかの時間の使い方が全然違う。アメリカ映画だったら1分で5年後とかなるんですけど、イラン映画だと、朝起きて顔洗って歯磨いているまでで5分間。なので、時間の流れがゆっくりしている。速ければいい、遅ければいいってことではなくて、自分の体内リズムとどっちが合うかだと思うんですね。なので、自分のリズムってたぶん皆さんの中にもあると思うので、ぜひイラン映画を観ると、どっちのほうが好みかも、どっちのほうが自分らしいかも見えてくると思うので、ぜひそんな目線でも楽しんでいただければと思います。
渡辺:はい、じゃあ、いいフリをもらったということで。
有坂:おお!?
渡辺:それを受けて次の作品、僕の3作目にいきたいと思います。イラン映画ではないんですけど。
渡辺セレクト3.『ボイリング・ポイント/沸騰』
監督/フィリップ・バランティーニ,2021年,イギリス,94分
渡辺:これも2022年上映の作品なので、コロナ禍のときの作品なので映画館では公開されていたんですけど、たぶん観ている人はあんまりいないんじゃないかなという作品です。これ、何を今の話から受けてかというと、これ90分の作品なんですけど、90分間の出来事を描いた作品になります。ただ、今言ったイラン映画のゆったりした感じとは真逆で、怒涛の90分です。どういう話かというと、とあるレストランが舞台です。高級レストランなんですけど、もう怒涛の問題が起こった日のあるディナータイム。もうディナーのラッシュのときですね。そのときの90分を描き切った作品なんですよね。レストランで起こるいろんな揉め事だったりとか、トラブルだったりとか、そういったものが次々と起こってきます。
有坂:全部乗せだよね。
渡辺:主人公はオーナーシェフなんですけど、いろいろトラブルを抱えながら、その日オープンするんですけど、お客さんにすごい差別主義者がいて、黒人のウェイトレスの女の子を罵倒したりとかですね。かといって、中のシェフの一人が「別のレストランにこのまま給料上げてくれないんだったら俺は移るぞ」っていうふうに言ってきたりとかですね。あとは借金というか、お金を借りている相手が「早く返せ」みたいに言ってきたりとかですね。あと、なんか変なユーチューバーみたいなインフルエンサーですね、「俺はフォロワー5000人もいるんだぞ! 一杯おごれ」とか言ってくるみたいなですね。いろんなトラブルが、次から次へとやってくるっていう、これはなんかお店やってる人は、本当に観てもらえると“あるある”がたぶん詰まっていると思うんですよね。そういうのが、ある一晩に全部きたみたいな、その怒涛の一夜の90分の出来事を90分で描いています。で、これワンカットで描いているので、カメラが一回も切れずに、なので一発撮りで撮っているんですよね。そういう目線で観てもめちゃくちゃ面白いです。誰かが一回NG出したら、撮り直しになってしまうっていう。なんで、最初から最後まで、90分一気に怒涛の事件が起こるところを撮り切るっていう、そういうところも見どころの作品になります。『ボイリング・ポイント』って作品いくつかあるんですけど、最後に「/沸騰」っていう。お湯が沸騰する“沸騰”って漢字の2文字がついてるのが、このイギリス映画の『ボイリング・ポイント』になりますので、これもAmazonとかかな、いくつか配信ありますんで、これも94分とかの作品なんでもうサクッと観られますし、面白い作品なので、ぜひ観てもらえればなと思います。
有坂:これは、中目黒の「スターバックス リザーブ ロースタリー」で上映したこともあります。食器の音とかね、聞きながらこの映画を観るっていうのが、ある意味4D上映っぽくて楽しかった記憶がありますが、はい、わかりました。じゃあ、僕の3本目、ここはまったくリンクしません。僕は、1965年のフランス映画です。
有坂セレクト3.『気狂いピエロ』
監督/ジャン=リュック・ゴダール,1965年,フランス、イタリア,109分
渡辺:好きだね!
有坂:これはもう言わずとしれた、ジャン=リュック・ゴダール。もう意味わからないでおなじみのジャン=リュック・ゴダールの中でも、というか、映画史に残る名作と言われている一本です。これは一応ストーリーはあって、ピエロって呼ばれるフェルディナンっていう男をジャン=ポール・ベルモンドが演じています。彼は結婚していたんだけど、その退屈な結婚生活にもう嫌気がさして、家を抜け出して逃避行をすると。その中で昔の恋人アンナ・カリーナ演じるマリアンヌという人に出会います。で、2人がまた恋に落ちてオープンカーで、もうひたすらどこかに向かって突き進むというですね、言ってみたらロードムービー的な要素もある作品です。その中であるギャングと出会って大変な目にあったり、みたいな物語はあるんですけど、やっぱりこのゴダールの魅力って、物語ではない。彼、別の映画で『ソシアリスム』という映画の予告編を、彼が自分でつくったことがあって、それを観ると彼がいかに物語を拒否しているかがわかるんですね。というのも、映画の90分を超高速早回しで観せ切るっていう予告編をつくっています。だから、よく観るとラストシーンも平気で映っている。なので、彼にとっての映画というのは物語ではなくて、映画と音、彼は「ソニマージュ」っていう造語をつくってるんですけど、映画と音をどれだけ物語の中で表現できるかっていうところに、本当にある意味生涯を捧げたような監督です。
でも、その中にあって、割と『気狂いピエロ』というのは、物語の筋がわかりやすい。あと、夏のフランスの風景、南フランスの風景とか、あとは刹那的な生き方とか、あまり理屈ではないところに共感をしてしまう人は、激しく共感する。なので、本当にこの映画をオールタイムベストに上げている人もいますし、個人的には、たぶん今まで観てきた映画の中で一番回数を観ている映画です。観るたびに発見がある。それもこの映画の魅力かなと思いますので、ぜひこちらもご覧いただければと思います。
渡辺:本当にゴダールの映画ってセリフがすごい多いんですけど、物語の筋に関係ないセリフとかけっこうあったりして、理屈で観たり、ストーリーで一生懸命観ようとすると疲れちゃうかもしれない。
有坂:そうそう、真面目にセリフの意味を考えていると、完全に途中から置いてきぼりを食らうんで。まずはね、映像と音を体感するっていうぐらいの気持ちで観たほうが、ちょうどいいかもね。
渡辺:そうですね。セリフの意味を解釈しようというのを一回放棄して観たほうが、楽しめるタイプの作品ですね。……はい、わかりました。じゃあ、続けて4本目いきたいと思います。僕の4本目はですね、2022年の日本映画です。
渡辺セレクト4.『さがす』
監督/片山慎三,2022年,日本,123分
有坂:はいはい。
渡辺:これも同じく2022年なんで、コロナ禍で公開された作品なんですけど、このときはけっこうもうコロナだったっていうのもありますし、配信をわりとメインで最初から出していた作品になるんですけど。これはですね、すごい面白いです。主演がですね、先日、日本アカデミー賞でも賞を獲っていた佐藤二郎さんで、娘役が伊東蒼というですね、けっこう天才肌の女優さんじゃないかなという伊東蒼さん。この二人のお話になるんですけど、話としてはサスペンス映画で、お父さんと娘と二人暮らしで、娘は女子高生なんですけど、大阪の西成っていう地域に住んでいる親子の話で、「お父ちゃん、この前電車で指名手配犯、見つけたんや」みたいに言うんですね。「これ、通報したら300万もらえんやで」みたいなことを言っていた直後に、そのお父さんが謎の失踪を遂げるっていう。「お父ちゃんがいなくなっちゃった。絶対おかしい」って言って、娘が父を探すという物語です。これで、いかにも怪しい何かに巻き込まれたんじゃないかというような痕跡が、次々と見つかります。お父さんの名前か、ちょっと関係ある人の名前を娘が追うんですけど、そうすると「あそこの工事現場で働いているよ」って言うんですね。その工事現場に行って、その人の名前で呼び出して出てきた人が、全然知らない人みたいな。この人、誰なんだっていう。その人はなんでその名前を使ったかっていう理由もあって、みたいなことで、いろいろ明るみになってくるっていうサスペンス映画です。サスペンス映画としてもすごく面白いですし、父娘ものとしてもすごく面白い。佐藤二郎さん、相変わらず怪演していますし、娘役の伊東蒼、天才っていうのがこれで証明された作品になるので。本当に役者陣も素晴らしいですし、脚本もすごい練りに練られてよくできている作品。で、監督の片山慎三さんっていう人が、ポン・ジュノの助監督としてずっと付いていた人なんで、ゴリゴリに修業された人なので、かなり力強い作品を撮る人なので、いろんな才能が集まってできたコロナ禍の傑作が、この『さがす』になります。これもね、AmazonとかNetflixとかU-NEXTもやっていたかな。けっこういろんなところで配信で観られますので、ぜひチェックしてもらえたらなと思います。
有坂:佐藤二郎、この前の日本アカデミー賞の観た?
渡辺:観ましたよ。
有坂:もう素晴らしいね! コメント、受賞コメント。その日本映画界に関わるすべての人、あとはその日本映画を愛してる人に対してのね。本当にもう彼らしく、なんか本当に気持ちのこもったスピーチで、もう観ていたら涙せずにはいられない。そんな佐藤さんの、これも代表作の一本と言っていいね。
渡辺:そうだね。
有坂:ということで。じゃあ、僕4本目なんですけど、僕も日本映画紹介したいと思います。今回、『七人の侍』のスタンプラリーをやっているということで、もう1本これしかないでしょう。日本映画の代表作!
有坂セレクト4.『東京物語』
監督/小津安二郎,1953年,日本,135分
渡辺:『七人の侍』じゃないんかい(笑)。今のは来るかなと思った。
有坂:違うでしょ。
渡辺:小津の方ですか?
有坂:小津です。これも1953年のね、これは本当に世界的な大傑作と言われている一本です。僕もその順也と、昔、古い日本映画の話とかをするときに、ざっくり分けると順也は黒澤派、僕は小津派、やっぱりけっこう対照的です。静と動。
渡辺:そうね。
有坂:というところで、大きく魅力が違う監督、小津安二郎の代表作です。これは尾道、広島の尾道で暮らす老夫婦を主人公に、その子どもたちが東京で暮らしています。その尾道から上京したお父さん、お母さんが、久しぶりに会った息子たちなのにそれぞれ仕事で忙しいとか、なかなかね、
渡辺:かまってくれないんだよね。
有坂:そう、かまってくれない。悪気があってやっているわけではないし、親子関係ってそういうところありますけど、でも、やっぱりお父さんお母さんの目線で見ると、尾道からわざわざ来て、やっと会えた子どもたちなわけですよ。そこに対して、やっぱりなかなか心が通わないというような家族を描いた物語です。この映画に限らず、名作映画ってやっぱり観る側の年齢によって感じ方が変わるところって、名作映画の条件の一つだと思います。最初に観たときに自分が若かったら、やっぱり息子たち目線で共感するし、自分が50、60、70になってくるとだんだん広島から上京したおじいちゃんおばあちゃんに共感してくるということで、やっぱり年齢を超えても違った形で共感、刺激をもらえる作品が名作映画で、その代表作こそが、小津安二郎『東京物語』かなと思います。なので、今話したとおり、ストーリーはめちゃくちゃ地味です。家族の話です。ただ、そういう自分たちの日常的な風景を、小津というのはすごいねカメラの置き方、すごいローアングルで撮ったりとか、パキッと構図が決まった美しいショットの連続で、家族の物語を見せるんですね。絵はすごくアーティスティックなんだけど、物語は誰もが共感できる家族のお話っていうところで、やっぱり共感してくれる層が広いっていうところも小津の魅力かなと思うし、今の日本人が観るとやっぱりあの時代の人たちの言葉遣いの丁寧さ。今だったらこういう言葉遣いしないな、やっぱりきれいな日本語いいなって思うところもありますし、なんか小津ごっことかもね、したくなるんだよね。なんかそういうセリフのやりとりも結構ね、面白いやりとりもあったりするので、意外と楽しく観られる要素もありますので、ぜひ名作中の名作ですけど、あんまり緊張せずにチャレンジしていただければなと思います。
渡辺:僕は、『東京物語』は大好きです。この邪険に、子どもたちに邪険にされるんだけど、唯一優しいのがお嫁さん。息子はもう戦争で亡くなった。だから、もうあなたはそんな気をつかわなくていいのよっていうね。そのお嫁さんが一番義理堅いっていう。もうそこで泣いちゃうっていうね。
有坂:原節子。
渡辺:これは素晴らしい! ……はい、分かりました。早いもので、僕の5本目にいきたいと思います。これもですね、2022年上映、またコロナ禍の作品なんですが、アメリカ映画で『カモン カモン』です。
渡辺セレクト5.『カモン カモン』
監督/マイク・ミルズ,2021年,アメリカ,108分
有坂:うんー!
渡辺:これはもう、本当に名作だなという作品です。これは、けっこうコロナ禍だったわりには、たぶんヒットしたんじゃないかなと思います。ミルズ監督で、主演がホアキン・フェニックスです。ホアキン・フェニックスが本当にすごいなと思ったのは、この作品の前後で『ジョーカー』をやっているんです。もう何を考えているかわからない、殺人キラーのジョーカーをやる中で、この『カモン カモン』では、蚊も殺せないような優しい男の人を演じています。で、甥っ子の少年と一緒に、この子が不登校なんです。一緒に旅をして、優しい目線で、同じ目線で接して友情が芽生えていって、この男の子も少し成長していくっていう、とても素晴らしいヒューマンドラマなんですけど。本当にそういう優しい男の人にしか見えないっていうホアキン。この直後に『ジョーカー』を観ると、ほんまかいなと思うぐらい激変しているので、これがアカデミー賞を獲る俳優なのかっていうのを、本当に見せつけてくれる作品なので、『カモン カモン』単体でもとても素晴らしいんですけど、ホアキン・フェニックスっていう、このいろんな役を演じている、その後にやっているアリ・アスターの『ボーはおそれている』っていう作品だと、もうデブデブにデブっている。本当に情けない、トラブルにまみれる男の人を演じていたりとかするので、本当に違うんですけど、この作品は本当にもう心から優しい男の人で、こういうふうに過ごしていれば世界は平和になれるんじゃないかなって思わせられるような作品です。これ、あえて全編モノクロで撮られていて、ニューヨークとか、ロサンゼルスとか、シカゴとかいろんな街を転々と旅していくロードムービーでもあるんですけど、男性と少年の友情の話でもあり、ロードムービーでもあり、本当に素晴らしいヒューマンドラマとなっている作品なので、これはもし観てないって方がいたら、もうマストでおすすめしたい作品なので。
有坂:間違いないですね。
渡辺:観ていただければなと思います。これもねAmazonだったかな。けっこういろんなとこでやってたりしますので。そうですね、AmazonプライムとU-NEXTですねでやってます。ぜひチェックしてください。
有坂:マイク・ミルズはね、もともとグラフィックデザイナーの人だから、やっぱりタイトルのインサートの仕方とか。
渡辺:おしゃれだよね。
有坂:映像がとにかくこだわり抜いて、その中でね、マイク・ミルズもすごく繊細で優しい人で、その優しさもこの映画の中では十二分に発揮されている名作かなと思います。……じゃあ、最後、僕の5本目いきたいと思います。名作中の名作ばかり紹介してきたんですが、ちょっと最後だけ個人的な名作ということで、こんな作品を紹介したいと思います。1985年のアメリカ映画です。
有坂セレクト5.『ファンダンゴ』
監督/ケヴィン・レイノルズ,1985年,アメリカ,91分
渡辺:おお!
有坂:知ってますか?
渡辺:『ファンダンゴ』、知ってます。
有坂:これは、ケヴィン・コスナーが出演したロードムービーなんですけど、ケヴィン・コスナーがブレイクする前に出演した作品なので、日本では後追いで、再評価されたような作品になります。これは、5人組の大学の同級生が、一人が結婚をするということで、じゃあ、結婚を前にみんなで最後の旅に出ようぜっていうことで、仲間5人でオンボロのアメ車みたいなのに乗って旅に出るんですよ。ただ、これがベトナム戦争の最中の1971年の設定なんですね。なので、能天気にバカ騒ぎしてる5人組。ただ、その裏には戦争の影があるということで、だんだん物語もちょっとその暗い影が、そのバカ騒ぎの中に入り込んでくるということで、能天気に楽しい部分もあれば、ちょっとしんみり切ないみたいな要素もあるという、隠れた名作となっています。これ、監督はケヴィン・レイノルズという人で、彼の実は長編デビュー作です。ちょっとこれつくりが特殊で、ケヴィン・レイノルズが大学の頃につくった短編映画があって、それをセルフリメイク、自分で長編映画にしたのが、この『ファンダンゴ』になるんですね。それをスピルバーグの会社、アンブリン・エンターテインメントが出資してデビューさせたわけです。でも、その大学生がつくった自分の短編を、アンブリンがお金出してデビュー作で撮らせてやるよみたいな。そんなことってある? と思うんですけど、この映画を観てもらえると、やっぱりケヴィン・レイノルズの監督としての才能をちゃんとスピルバーグは分かった上で、彼の才能に賭けたんじゃないかなと思います。ある意味ね、社運を賭けるような、そんなプロジェクトに、きっちり期待に応えたケヴィン・レイノルズ、『ファンダンゴ』。本当に素晴らしい作品です。わりと、これ映画の物語もいいし、ロードムービーとしての映像も美しくていいんですけど、音楽もいいです。エルトン・ジョン、キャロル・キング、あと、エリック・クラプトン、ステッペンウルフ。要は、この映画の設定の1970年代のロックの名曲なんかも、そのロードムービーの中でたくさん流れます。ジュークボックスかのようにいろんな名曲も楽しめるので、ぜひこれからちょっと今肌寒いですけど、あったかくなってきた頃に観るとぴったりな作品かなと思いますので、ぜひ『ファンダンゴ』、観てない人がけっこうこれは多い映画なので。
渡辺:そうかもね。あんまり印象ないな。
有坂:えっ! 信じられない! そう隠れた名作とはこれだなと思いますので、ぜひご覧になっていただければと思います。
渡辺:U-NEXT。Amazonプライムでもレンタルで。
有坂:夏の日に窓を開け放って、爆音でビール飲みながら観るのがおすすめです。
渡辺:だそうです(笑)。
──
有坂:ということで、10本出そろいました。なんか後悔、この映画紹介しておきたかったなっていうのはありますか?
渡辺:いっぱいあります(笑)。それはいっぱいあります。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:でも、ちょっと僕はこの最近の、ちょっとコロナ禍で観られてなかったんじゃないかな、みたいなところで絞ってみました。
有坂:そう、僕はいわゆる名作映画を紹介するので、けっこう抵抗があって。
渡辺:抵抗があったんかい(笑)。
有坂:そう、こう見えて、例えば小津安次郎とか、ジャン=リュック・ゴダールっていう固有名詞を出した時点で、引いちゃう人がいるのって分かるじゃない。
渡辺:うんうん。
有坂:それは分かってはいながらも、でも、やっぱりこの名作映画の素晴らしさは伝えていかないと途切れてしまうのも寂しいし、やっぱり先人あっての今なんで、今回は改めて勇気を出して紹介してみました。ぜひ、これをきっかけに。
渡辺:そうですね、1本でも2本でも、ちょっと観てもらえると嬉しいなと思います。
──
有坂:じゃあ、最後に何かお知らせあれば。
渡辺:はい、どうしようかな、えーと僕、フィルマークスでリバイバル上映企画とかをやっていて、全国の映画館でリバイバル上映をやっているんですけど、ちょうど金曜日から始まったのが、アニメ版の『秒速5センチメートル』です。これは実写が大ヒットしたっていうのを受けて、それで桜の季節にやろうというので、ここに設定してやるっていうのを、今ちょうど始まりました。あと、4月なんですけど、『かもめ食堂』を、これが20周年になるということで、リバイバル上映を全国の映画館でやります。こっちもですね、さらに当時のパンフレットがすごい伝説的なやつで、めちゃくちゃバカ売れして品切れになってしまったという、デザイナーの大島依提亜さんが手がけた代表的な作品の一つなんですけど、それを今回復刻するというのがあるので、それを持っていない人はもうこの機会にぜひ手に入れられると。で、それの復刻記念トークイベントっていうのを、下北沢にあるB&Bっていう本屋さんでやります。で、大島依提亜さん、ゲスト有坂、そしてMC僕っていうですね、その3人でトークイベントをやるんですけど、会場のほうはもうチケット完売してしまって、配信のほうはまだやっているんですけど、そんなこともやってますので、ぜひ興味ある方は参加していただけると嬉しいです。
有坂:僕からはですね、今回この「yonder matsudo cinema」の中で、キノ・イグルーのニューシネマワンダーランドというイベントを公開収録という形でやらせてもらいました。この企画、ニューシネマワンダーランドというのは、手紙社のYouTubeチャンネルでいいのかな。で、月に1回配信しているプロジェクト企画で、コロナ禍から始まったんだよね。で、月に1回ずっとやっています。なのでもう60何回もやっていて、毎回テーマに合わせて5本ずつそれぞれ紹介する。もちろん、クラフトビール飲みながらということをYouTubeで無料配信しているので、ぜひまた来月もありますので、そちらをこれをきっかけに一人でも観ていただけると嬉しいなと思っております。
──
有坂:ということで、このニューシネマワンダーランドは以上となります。今日の「yonder matsudo cinema」は、この後いよいよ、こちらの春雨橋親水広場で、名作『ニュー・シネマ・パラダイス』を野外上映いたします。これを観ているチケットを持っている皆さん、ぜひ後ほどこの広場でお会いしましょう!
渡辺:防寒してください。
有坂:ちょっと今風がおさまったね。でも、予報どおりです。僕らが喋っているときに風速が上がって、この後、風速が下がるっていう予報なので、ぜひ最後まで楽しめたらと思います。では、キノ・イグルーのニューシネマワンダーランドは以上となります。今日は皆さん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました!
有坂:いっぱい映画観てね!!
渡辺:ありがとうございます!!
──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)
手紙舎 つつじヶ丘本店
手紙舎 2nd STORY
TEGAMISHA BOOKSTORE
TEGAMISHA BREWERY
手紙舎 文箱
手紙舎前橋店
手紙舎 台湾店










