tegamisha

そのカレンダーに出合ったのは今から4年前。
独特の細長い紙片の中に、「この場所しかない」
というような具合で、静かに佇んでいる写真。
その美しい写真からは、それを撮影した人の美学や、
暮らしの匂いのようなものが漂ってきました。
「花と果実」「器と骨董」というカレンダー作りを続けて
今年で9年目。2009年のカレンダーの制作が
追い込み時期に入っていた2008年9月上旬、
椿野恵里子さんの“言葉”を聞くために、
大阪市にある、古い集合住宅の一室を訪ねました。

|第6回|本を通して伝えたかったこと|

お手紙 椿野さんが撮る季節の草花や、器や骨董を“美しい”と思う気持ちというのは、育った環境とか、ご家族の存在とかも関係あるのでしょうか?

椿野 そうですね…。うーん。多分そういうものの積み重ねなんじゃないかなって思います。でも、器や骨董などがたくさんある家というわけではなかったんです。そういうものに囲まれて育ったわけではないんですよ。ただ、実家のお茶のこともそうなんですけど(椿野家では自宅でお茶を育てていて、毎年初夏になると家族でお茶摘みと手揉みのお茶作りをしている)、お米や野菜も家族が食べる分を作っているんですが、それらはすべて植物ですよね。その植物と、人の手で手づくりしたものを食べ続けてきたという、目に見えない積み重ねのようなものが、自分の価値観にすごく影響を与えていて。そういうことも、今自分がシャッターを押す基準みたいなものを作っている気がするんですね。

お手紙 著書(『風景のあとに-カレンダーがくれたもの』)の中の、ひょうたん棚の話がとても印象的だったんです。温かいご家族だなって。小さいときはなんとも思っていなかったことを、大人になってから、それが良かったんだなって思う椿野さんがいる…。そういうことを、もう一回今の自分に繋げているようなところがあるのかなって思って。

椿野 そうですね。そういう環境はやっぱり親に作ってきてもらったものだから…。親から受けるものっていうのは、言葉で言われたことではないものがほとんどだと思うんですね。だから、言葉にしてなかったことを私が覚えているっていうことを、両親はすごく喜んでくれていました。親は「こういう風に伝わったらいいな」と思ってやっていると思うんですよね。それを本の中での言葉を通して「受け取ったよ」って見せられたのはよかったなと思って。こういうことでもないと、口では話さないですもんね。それを伝えられたことはよかったし、そうできたのは、やっぱり写真を撮ってきたからだと思います。私は写真に出合えたから、こういうことにも気付けたんだと思うんです。

お手紙 うんうん。

椿野 写真に出合えたからそれにも気付いて、両親に感謝もできたし、それをお互いに伝え合うこともできたし。伝え合って残りの年月を過ごすのと、伝え合えないまま過ごすのって、私は大きく違うと思うんです。これからもこんな感じでやりとりをしていくのが、また楽しみで…。

お手紙 そうですよね。著書を読んでいて、椿野さんの写真やカレンダーに対する思いのお話も素敵なんですけど、親子の繋がりというか…そういうところに私はぐっときました。

椿野 そうですね…私も同じようなことをいつか自分の子供にしてあげたいと思いますし。子供としては、親がずーっとやり続けてきたことを「それでよかったんだよ」って伝えてもいいかなと思うんですよ。ひと言でも書いて伝えることが私にとっては、今まで答えの出ないまま子育てを続けてきた両親への感謝の気持ちでした。私は本を通して返事をしたつもりで、両親もそれを受け取ってくれて、よかったと思っています。

お手紙 立派ですね、それは。普通は伝えられないですよね、そういうことは。

椿野 やっぱり最後になって伝えるより、元気で生きてる間に気持ちのやりとりがちゃんとできてる状態でお互いが暮らしていくことができたら、その方がもっといいと思うんですね。そういうのって、私もそうだったんですけど、ただ伝えるのが恥ずかしいとか、そういうことでしょ?

お手紙 確かに、親にそう言うのはちょっと、いや、かなり恥ずかしい(笑)。

椿野 結局はそういう理由なんですよ。ほら、ちょっとしょうもない感じ(笑)。

お手紙 しょうもないと言われてしまいました(笑)。でもそういうのってどういう風に伝えるんですか?

椿野 やっぱりきっかけがいるんですよ。もちろん、私もすぐに言えたわけじゃないんです。

お手紙 言葉に出して言うんですよね。

椿野 はい。言った方がいいと思いますね。でも私も言えなかったんですよ、ずっと。父親に対しても言えなかったし。一緒に山とか行くようになって、写真に写すものとかを採りに行くときに、いろんな話をしてくれるんですよね。お花の話とか。そういう風にしていると共通の話題ができてきて。今まで実家に帰ってもそんなに喋らなかったのが、だんだん話しやすい環境になっていくんですよ。そういった助走がやっぱりいる。突然は、やっぱり言えないですよ。母親は同性だから、前からいろんな話をしていましたけど。そんな感じで両親とも話ができるようになって。でも本を書いているときは、どういうことを書いているか全く両親には黙っていて。一方的に両親のことを書いていたから、了承を得た方がいいかなって思ったときもあったんですね。でも、もう考えるのはやめて、もしかしたら読んだ両親が「これちょっと違う」と思う点もあるかもしれないけど、私はこう受け取ったから。言った側からしたら違うこともあるかもしれないけど、それはもう許してね、という感じで。だから、本ができあがってから両親は読んだんです。

お手紙 絶対嬉しいですよ! あの本自体が両親への感謝の言葉ですもん。

椿野 はい、泣いて喜んでくれていました。書いてよかったと思っています。

続きは次回をお楽しみに。

椿野恵里子さんからのお知らせ

風景のあとに-カレンダーのくれたもの

椿野恵里子さん初めての著書。椿野さんがカレンダーを制作する上で大切にしていること、ご家族とのエピソードなど、椿野さんの表現のルーツが見えてくるような一冊。写真はもちろん、文章の一文一文が、詩を読んでいるようで美しい。

種まきノート-ちくちく、畑、ごはんの暮らし

椿野さんが撮影を担当した、高知県の山間に暮らす布作家・早川ユミさんの初エッセイ。何ともいえない“暮らしのコク”が漂ってきそうな写真は椿野さんならでは。この本の撮影中に出合ったスイカが2009年のカレンダーに使われた。

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