あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「心地いい音楽を聴きながら散歩したくなる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『たやすみなさい』
著・文/岡野大嗣,発行/書肆侃侃房
マイ・ベスト・オブ・散歩本。といってもこれは散歩についての本ではまったくなくナイスな短歌がてんこもりの歌集なのですが、全体を通して感じるせつなあたたかさが音楽のようで、ポケットに手をつっこんでひとけのない夜の街をぶらぶら歩きたくなるんです。
2.『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』
著/クリハラ タカシ,発行/ナナロク社
この本のよさを言語化するのが世界でいちばんむずかしい気がするけど、あたりまえみたいに人間のことばをしゃべる犬と風の強い夜明けにいっしょに海を見に散歩に行ったりする、ただそれだけのようなことを集めたなんともいいがたい最高&最高なコミック。
3.『わたしの好きな季語』
著・文/川上 弘美,発行/NHK出版
感じてますか、季節。行事も少なくなって、外に出かけることも少なくなって。それでも日々になにかを感じることができたらちょっとだけハッピー。季語。その手があったか。川上さんの文体も心なしかいつもよりまろやかで心にしみゆきます。
4.『たのしい路上園芸観察』
著・文/村田 あやこ,発行/グラフィック社
散歩をはじめていちばんに思ったこと。街、こんな花咲いてたの!? 緑、なんかすごいことなってんな。通勤して最短距離でコンビニを目指すだけの毎日では気付けなかった、路上のおもしろくてたくましい風景。無意味な散歩に役立つ最高の実用書。
5.『いつか中華屋でチャーハンを』
著/増田 薫,発行/スタンド・ブックス
どこにでもありそうな、何の変哲もない中華屋。その壁に「カレーライス」というメニューを見つけた瞬間から物語は始まった……。え、オムライスもある、だって?こんなところにも街のおもしろさは転がっているのか。ああ。
6.『自転車に乗って』
著・文/角田 光代,柴田 元幸,夏目 漱石,萩原朔太郎,真鍋 博,三浦 しをん,発行/河出書房新社
散歩もいいけど自転車もいいですよね。自転車についてのエッセイや短編小説、詩、漫画を集めたというありそうでなかったアンソロジー。昔の人の文章とか、こうやってあらためて読むのも楽しかったり。絶対自転車乗りたくなる1冊。
7.『うたうおばけ』
著・文/くどうれいん,発行/書肆侃侃房
なんてことない女子の、なんてことない日常を綴っただけのエッセイが、なんでこんなにもまばゆいのだ。すごい天気がいい日に土手にいって、川に反射する太陽の光を見ているときのような、そんな気持ちにさせてくれる名文。
8.『BACON ICE CREAM』
著/奥山 由之,発行/パルコエンタテインメント事業部
街を歩いているとすてきな感じの光に出くわしたりして、ああ〜、この感じ、いい、と思ってスマホで写真を撮ってみるけど、いつも「その感じ」は全然写ってなくて自分のセンスにがっかりするのですが。こういうせつなくきらめくような写真を撮りたいのですが。
9.『くちぶえサンドイッチ 松浦弥太郎随筆集』
著/松浦 弥太郎,発行/集英社
松浦弥太郎といえば暮しの手帖の名編集長を経て、文章も今やどこか校長先生のような貫禄さえありますが、初期のこのエッセイ集は若さがブチ上がってます。ときに恥ずかしいほどロマンチックだけど、今読み返してみれば、うーん、きらいじゃないよ。
10.『どこでもいいからどこかへ行きたい』
著/pha,発行/幻冬舎
まさに今のわたしたちの気持ちそのままのタイトルだけど、刊行はコロナ禍の前。観光地をめぐったりせず、ひとりでふらっと地方のビジネスホテルに泊まり、いつもどおりに部屋でごろごろするだけの旅をしてる人。だるい、でも、たのしい。こんなのも全然ありだなあ。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。