あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「東アジア」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今回も渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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渡辺セレクト1.『春江水暖~しゅんこうすいだん』
監督/グー・シャオガン,2019年,中国,150分
有坂:うんうんうんうん。
渡辺:1本目は中国映画で、これは本当に中国映画らしいというか、風景は本当にもう中国そのもので、富春江(ふしゅんこう)っていう川があるんですけど、そこの川沿いにある町に住む、とある一家のお話になります。そこは、おばあさんと息子が4人いて、それぞれ家族がいるんですけど、おばあさんの誕生日に一家が集まる。と、そういうところから物語が始まる作品です。ただ、そのおばあさんが誕生日に病気で倒れてしまって……みたいなところから、こう、物語が動き出すんですね。で、それぞれの家族も、それぞれのいろんな事情があったりで、息子が病気だったりとか、本人が病気を抱えていたりとか、そんな事情を抱えながら、物語が進んでいくっていう群像劇みたいな感じなんですけど、そこに現代中国のありのままの等身大の姿だったりとか、社会問題みたいなところも、さりげなく織り込まれていたりするヒューマンドラマになります。なので、ほんとにある一家のドラマを観ているような形で、いろんな背景が浮かび上がってくるっていうところが魅力なんです。あと今回、ちょっとこの「東アジア」っていうところで、テーマとしてフードとか……食べ物、料理とかの要素もちょっと入れたいなと思って。
有坂:おお、おお。
渡辺:この『春江水暖』は、長男がですね、中華料理店を経営してるんですね。なので中華料理がすごい出てくるので、冒頭のオープニングシーンのおばあさんの誕生日のところから、けっこう豪華な中華料理が披露されたりするんで、それも注目してもらえたら。まだ配信とかはやってないのかな、レンタルもまだないね。公開としては去年やっていたので、これから出るかもしれないですね。……なので、なんかこう中国人一家が家族で食べる中華料理みたいなところもポイントだったりするんで、ぜひそちらもチェックしてもらえればなと思います。
有坂:映像が綺麗なんだよね。本当に。
渡辺:そうそう、なんかこの中国っぽい川と、水墨画に出てくるような風景で。その川を泳ぐ超ロングショット、ワンシーンの。
有坂:そうそう。
渡辺:そんなシーンとか結構印象的な、映画的なシーンもありつつ。
有坂:これはゆったりした時間も楽しめるね。そんな作品になってます。
渡辺:はい!
有坂:まずは中国映画からですね。そのなんかちょっと、品の良さを出してきた?
渡辺:出しましたね(笑)
有坂:わかりました。じゃあ、僕の1本目はですね。台湾映画からいきたいと思います。
有坂セレクト1.『藍色夏恋』
監督/イー・ツーイェン,2002年,台湾・フランス,84分
渡辺:ああー!
有坂:2002年の青春映画になります。これはもう絶対に順也に言われたくないと思って、先攻でぜひ選びたかったんですけど、良かった!
渡辺:(笑)
有坂:これは、主人公が17歳のモンという少女なんですけど、いわゆる学園映画で、その彼女と、あと男の子、女の子を含む。一応でもね、三角関係の話なのかな。まあ、その「僕は誰が好き。私は誰が好き」っていう本当に王道の、そういった意味ではラブストーリーなんですけど。もう、この映画に関しては、ぼく……本当に台湾映画ってね、傑作がたくさんありますけど、ほんとにベストの1本と言い切ってもいい?
渡辺:おお。
有坂:このなんかパッケージを見ると、すごくなんか瑞々しいね、青春映画って感じだと思うんですけど、その瑞々しい青春映画が、こっちの想像を超えてきます。なので、映像もこれは夏が舞台なんですね。台北の夏が舞台なんですけど、20年前の台北の街並みも楽しめるとか、あとは青春映画としてこういうシーンがあってほしい……、例えば夜のプールとか、疾走する自転車とか、体育館とか、ラブレターとか、あとねダンスシーン。もうそういう、ぜひ入っていてほしい要素が全部てんこ盛りで、ちゃんと物語も切なさがね、すごくちゃんと入っているというか、観ていてちゃんと切ないからこそ、ラストすごくこう、希望を感じるような終わり方なんですけど、そこの振り幅がね。これは脚本がよくできてるので、観ているこっちのハートをギュッと掴んでくれるような一作になっています。で、ぼく、この映画を最初に観たのは、実は日本で公開される前、えっと東京国際映画祭でこれもコンペティション部門でノミネートされて、なんとなく気になって観に行ったら、ほんとにもう打ちのめされるぐらい感動してしまって。
渡辺:『藍色大門』のときだね。
有坂:そう、タイトルがまだ原題だったんですよね。日本での公開が決まっていなかったので。で、観て、もう1回期間中に上映があったから、順也とかまわりの知ってる人に、ぜひ観て、ぜひ観てって言わずにはいられなかった。ほんとに台湾映画の傑作です。本当にこれはマスターピースと言ってもいい映画で、比較的、映画の中で傑作って呼ばれるような作品って、割と重厚感のあるね、映画が傑作って言われがちなんですけど、そういった意味では重厚感とは対極な、映像的な軽やかさもあったり、あとは自分たちも経験したような共感できるストーリーだったりとか、あとはその台湾の青春映画って、本当にアメリカとか日本とかフランスとか、世界のどこの国と比べても1番瑞々しい?
渡辺:うんうん。
有坂:そんな青春映画が観られるのが、台湾映画だと思います。その中の本当にトップ・オブ・トップが『藍色夏恋』かなと思います。この映画が面白かったなという方は、ぜひ、『あの頃、君を追いかけた』とか、台湾映画の青春映画に傑作がたくさんあるので、ぜひ観ていただきたいなと思います。ぼく、今までこの言葉を使ったことがないんですけど、今日はあえて言いたいと思います。……“エモい”、映画です。
渡辺:(笑)
有坂:ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほどね、まあこれは傑作だからね。
有坂:もうこれでいいかな今日は。心置きなく。
渡辺:(笑)、ほんとに台湾映画をね、代表する1本なんでね。そうきましたか。いきなり出し切った?
有坂:はい。良かったこれ言えて!
渡辺:じゃあ、ちょっと僕の2本目は、台湾に行きたいと思います。
有坂:あっ、あわかった!
渡辺:いや、わかってないよ(笑)
有坂:あれだ。
渡辺セレクト2.『1秒先の彼女』
監督/チェン・ユーシュン,2020年,台湾,119分
有坂:ああ。
渡辺:これも去年かな? 公開されたばかりなんですけど、もう配信ももしかしたら出ているかもしれないんですけど、ジャンルで言うと、ラブコメディですね。女の子が主人公なんですけど、その子がデートの約束をして、バレンタインデーにデートの約束をするんですけど、目覚めたらなんと次の日だったんですね。で、バレンタインデーの昨日の記憶が一切ないのに、次の日になっている。「これはどういうことだ?」って、消えた1日を探し始めるという設定のお話になってます。で、この主人公の女の子が何をやるにもワンテンポ早い、ちょっとせっかちな女の子なんですけど、そういう子が、なぜか1日飛び越えてしまって、だけど、何かその前日に自分は何かしら行動していたっぽい痕跡はあるので、それを辿っていくっていう不思議設定の話なんですね。後半にもう1人男の子が出てきて、その子は何をやるにもワンテンポ遅いっていう。その男の子が絡んできて、また物語が動き出す。そういうラブコメディーになってます。なんかそういう消えた1日を探すみたいな、不思議設定っていうのもすごい面白いんですけど、テンポもすごく良くて、色合いとか、色彩とかもすごい良くて、あの割とポップな感じの作品になってます。
有坂:うんうん。
渡辺:で、ちょっとこの作品も、またフードの印象的な作品として取り上げたんですけど、この作品のおいしそうなポイントっていうのは、台湾スイーツなんですね。あの「トウファ」っていう、漢字でいうと「豆花」って書く、台湾スイーツのプリンみたいなやつがあって、それがキーアイテムとして登場するんですけど、めちゃくちゃ美味しそうなんですよね。いろんな種類があって、台湾スイーツって。あのタピオカとかもそうですけど、結構ブームになるものがあって、そのタピオカの次に来てるのが、このトウファらしいんですね。これがなかなかすごい、もう観た後に食べたいと思ったんだけど、日本だとなかなか売ってなくて。なんかね、吉祥寺にお店が……
有坂:あります。
渡辺:あるよね。行こう行こうと思って、行けてないんですけど、なかなかそのタピオカみたいに、手軽にどこにでもあるみたいな感じではまだなくて。でも台湾ではかなり主流のスイーツになってるらしいんですけど。ま、そういうちょっとおいしそうなポイントもあるというところで、この作品を選んでみました。
有坂:おおすごいね。「トウファ好きです」ってコメントが。
渡辺:チェックしている、さすがですね。
有坂:でも、食べながら見てほしいね。観るときは、トウファのご用意も忘れずにと。……はい、台湾映画かぶりでした。じゃあ僕の2本目、いきたいと思います。2本目は、韓国映画!
有坂セレクト2.『3人のアンヌ』
監督/ホン・サンス,2012年,韓国,89分
渡辺:うーん!
有坂:これは、キノ・イグルーのルーフトップシネマでもね、上映したことがある、ホン・サンスという監督が作った作品になります。で、さっきの順也の選んだ映画の説明だと、やっぱりストーリーとか設定がね、すごく面白い、面白そうって感じたかなと思うんですけど、このホン・サンスっていう監督の良さを説明するのって結構難しくて……。まあ一言で言うと、ほんとね“クセすご”監督。
渡辺:(笑)
有坂:クセしかない監督(笑)。で、割と韓国映画っていうと、あの『パラサイト 半地下の家族』を作ったポン・ジュノとか、あと他にもね『チェイサー』とか、割とハード系な、バイオレンスな、暴力描写が結構激しい熱い映画が多い中、ホン・サンスというのは、もうちょっと知的な映画を撮る人。彼にしか作れないような不思議な世界観の内容が魅力になっています。今、これパッケージの画像が映りましたが、このアンヌという主役を演じたのが、イザベル・ユペールというフランスを代表する大女優。ほんとカトリーヌ・ドヌーヴと並ぶと言ってもいいぐらい、世界中の個性的な監督から引っ張りだこなイザベル・ユペールがアンヌ役です。で、このアンヌという役をこのイザベル・ユペールは……ちょっと不思議なんですけど、「成功した映画監督」、「浮気中の人妻」、「離婚したばかりの女性」、それぞれ名前が「アンヌ」、で、それぞれをイザベル・ユペールが演じています。で、その3人のアンヌは、それぞれ3つの話みたいな形で展開されていくんですけど、その韓国の海辺の町にアンヌが来るところから物語が始まって、舞台は全部同じ。さらに、そこに出てくる登場人物、脇役も、3つ全部同じ人たちが出てきます。話の筋書きも基本的に一緒。あと、ライフガードの男の人が出てくるんですけど、その人と恋愛するっていう設定も同じ。なんですけど、ちょっとずつね、やっぱり3人のアンヌは、1人は映画監督だし、1人は浮気中の人妻だし、もう1人は離婚したばかりの心が傷ついた女性ってことで、物語がちょっとずつ変化していきます。そういうなんかこう反復していく相乗効果を、すごく映画として表現する、ものすごく難度の高いことにチャレンジした作品になっています。
渡辺:うんうん。
有坂:ただ、難易度が高いって言いながらも、そこで展開される会話劇とかっていうのは、基本、言葉が通じない。韓国人とフランス人でなかなか言葉が通じないんだけど、でも、「私はこの人に恋してます」っていう恋心だけは確かで、なんとかこうコミュニケーションを図ろうとする。そういう誰もが、まあ経験したことはなくても想像できるような、話はわかりやすい。……ただ、設定がちょっと癖があるから、なんかこれをどういう風に自分で消化していいんだろうっていうのは、観終わった直後にすぐ消化はできないタイプの映画です。なので、余韻がすごく残ります。で、だんだんその映画の余韻が時間とともにこう自分の中で繋がっていく気持ちよさ。そういうのも味わえる一作かなと思います。もう笑えるシーンもたくさんあって、このライフガード役の韓国人の俳優が、めちゃくちゃ面白いね。
渡辺:ふふふ。ね、不思議設定だよね。ホン・サンスって基本ね。
有坂:そうだね。
渡辺:最初、ちょっと「どういうこと?」って、わかりにくいところがあるよね。
有坂:そうだね。
渡辺:なんか同じ登場人物なのに、違う設定でまた始まったりとかするので、最初そこについてけないんですけど、慣れると癖になるタイプだね。
有坂:そうだね。
渡辺:そう、不思議な感じの監督ですね。
有坂:なんかこう、すれ違いの物語。ちょっととぼけた感じのすれ違いの物語で、気持ちとしては、ほのぼのした気持ちで観られるんだけど、作り方がアーティスティック。そういう監督、そのバランス感覚を持った人ってなかなかいなくて。でも、このホン・サンスは、もうヨーロッパでもすごい高い評価を受けている監督で、やっぱり韓国映画の中でも異質な人なので、1本観ておいても損はないんじゃないかなと思うので、その最初の1本としては、ぜひ『3人のアンヌ』が個人的にはおすすめかなと思います。ホン・サンスの脳内に、なんか迷い込んじゃったような体験ができる映画かなと思いますので、興味のある方はぜひ観てみてください。
渡辺:なるほど。では僕の3本目、いきたいと思います。3本目、僕は香港映画です。
渡辺セレクト3.『花椒の味』
監督/ヘイワード・マック,2019年,香港・中国,120分
有坂:おー。
渡辺:これも去年公開ですね。割と最近の作品なんですけど、これはお父さんが料理店をやっている娘が主人公なんですけど、そのお父さんが亡くなっちゃって、お葬式に行ったら、実は他にも子どもがいたっていうことが分かって。異母兄弟、まあ姉妹なんですけどね。その主人公は香港に住んでいて、台湾と中国にそれぞれ同い年ぐらいの娘がいたっていうことがお葬式でわかって、そこで3人が鉢合わせするというか、出会うっていうお話なんです。ただ、この3人はすごく意気投合して仲良くなってですね、なんやかんやありながら、そのお父さんが残した火鍋のお店っていうのを、3人で手伝い始めるというお話になってます。すごい心あたたまるヒューマンドラマで、めちゃくちゃいい映画なんですけど、この映画のその料理ポイントとしては、火鍋ですね。
有坂:ふむふむ。
渡辺:これがもうめちゃくちゃ美味しそうで、特にお父さんがやっていたお店っていうのが、すごい地元に愛されていて、お客さんが付いていて。その娘たちが試行錯誤してお父さんの味を継ごうとするんですけど、その秘伝のレシピが見つからないっていうので、試行錯誤するっていうところとかがあって。それでもね、なんかこの料理シーンだったりとか、香辛料を色々混ぜて鍋をつくっていくところとかっていうのは、とにかくおいしそうなので。なんか鍋って、家族で囲んでコミュニケーションを図るみたいなところがありますけど、そういう香港の風景が見られたりとか、そういう魅力もある作品だったりします。
有坂:これ観られてないんだよね。まだ。
渡辺:そうなんだ? これね、すっごい、いい映画です。ぼくは新宿武蔵野館ってところで観たんですけど、なんかね、その映画に向かっていくときに、映画館から出てくる人とすれ違って、その人がなんかものすごいド派手な格好したマダムだなって思ったら、あの……名前忘れちゃった……
有坂:え(笑)
渡辺:なんか言わなかったっけ、その話?
有坂:うん、なんか聞いた気がするけど(笑)
渡辺:えー……
有坂:この人、自分で話振っておきながら(笑)
渡辺:(笑)、あの人、えっと『千と千尋の神隠し』の湯婆婆の声優をやっていた……夏木マリだ!
有坂:うんうんうん。
渡辺:たぶん夏木マリさんじゃないかなっていう、すごいショッキングピンクのコートを着て、顔がめちゃくちゃ小さくて、金髪の短髪で、颯爽と歩く人とすれ違って、絶対素人じゃないなという感じのオーラが……。という風に夏木マリさんにそっくりな女性とすれ違って、それがこの『花椒の味』で。
有坂:そういう体験も込みになるよね、映画館だとね。
渡辺:はい、という作品です。これも、すごい素晴らしい映画なのでぜひ!
有坂:香港の映画なんだね。
渡辺:香港、うん。
有坂:なんか中国っぽいじゃん。
渡辺:ああ、なんとなくね。でも、アンディ・ラウとかが出ていたりして。
有坂:へー、そうなんだ。香港って知ったら、余計観たくなる。
渡辺:え? そう?
有坂:ちょっと意外性がある、香港って。ということで、僕もですね、次は香港映画を紹介したいと思います。
有坂セレクト3.『天使の涙』
監督/ウォン・カーウァイ,1995年,香港,96分
渡辺:お!
有坂:もう僕はね、香港といえばウォン・カーウァイ監督ということで。
渡辺:おお!
有坂:あのウォン・カーウァイというのは、90年代にほんとに彗星の如く現れた映画監督。『恋する惑星』で、本当に世界的なブレイクを果たして、アメリカだとクエンティン・タランティーノが、『恋する惑星』に一目惚れして自分で買い付けて、アメリカ公開にこぎつけるっていう。そういう伝説もある監督なんですけども、その『恋する惑星』で世界的な名声を得て、さて次、どんな映画を出すかなっていうことで発表されたのが『天使の涙』です。で、実はこの映画って、……その『恋する惑星』って2つのエピソードからなってるじゃない。
渡辺:うんうん。
有坂:だけど、実はもともと3つだったらしくて、その入りきらなかった1つのエピソードを膨らませて作ったのが、『天使の涙』なんです。これは、ほんとにネオン煌く香港、あの香港です。あの香港を舞台に、主人公は殺し屋、すごくクールな殺し屋と、そのパートナーのエージェント。あとは、香港で店を営んでる金城武が演じる青年とか、あと金髪チャイナドレスの女とか。なんか5人の主人公がいて、その5人の群像劇になっています。で、ウォン・カーウァイの映画はちゃんとストーリーはあるんですけど、もうちょっとこういろんなイメージをつないでいくような、断片的な魅力があるかなと思うんですけど、『天使の涙』は、そういった意味では主人公が5人いるので、余計にそういう彼のつくり出す世界観……1人1人をなんかこう内面を掘り下げるんではなくて、一応ストーリーはあるんだけど、舞台が香港で、彼らを主人公にしてどういう映像にして、その映像にどういう音楽をつけるか、そういうなんか自分の作りたいイメージ、世界観に、徹底的にこだわったのがこの『天使の涙』かなと個人的には思っています。で、これ後で予告編とかYouTubeに上がっているので観ていただきたいんですけど、そこで、この映画で使われてる印象的な曲があって、フライング・ピケッツって人の「オンリー・ユー(Only You)」っていう曲で、本当に昔の曲なんですね。ウォン・カーウァイのセンスって、やっぱりその映像の美しさだけではなくて、スタイリッシュな映像だけではなくて、そこにどういう曲を被せるかで、もう完全に自分の世界をつくる作るじゃん。
渡辺:うんうん。
有坂:で、『天使の涙』のこの「オンリー・ユー」もそうだし、『恋する惑星』でいうと、フェイ・ウォンっていう女優がこう踊ってるところで、「カリフォルニア・ドリーミング」とかをかける。僕、この初めてウォン・カーウァイを97年に観て、やっぱり衝撃を受けたのってそこで、その自分の知ってる香港の映像に、そういう昔のアメリカの曲が重なると、アメリカでも香港でもなくて、ウォン・カーウァイの世界がそこに生まれるんだってことを初めて知ったんですよ。なので、監督の仕事っていうのはいろいろありますけど、やっぱりその人にしかつくり出せない世界をつくるっていうのも監督の個性だし、そういう映画の楽しみ方もあるんだなっていうのを、ある意味、教えてくれた存在が、この『天使の涙』のウォン・カーウァイだったかなと思います。
渡辺:クリストファー・ドイルのね、カメラもいいんだよね。
有坂:そう! そうなんだよね。だから、ウォン・カーウァイのつくりたいイメージを映像にしてくれる撮影監督がクリストファー・ドイルって人なんですけど、やっぱりその人を見つけたことも大きいし、見つけたとて、やっぱりお互い個性の塊だから、バッチバチで多分ぶつかり合って、あの世界をつくってくれたんじゃないかなと思うんですけど、まあこのね、雰囲気とかイメージばっかりは観てみないとわからないので、「まだ観てないよ」っていう人は、『天使の涙』をぜひ。
渡辺:いや、これから観られるって幸せだよね。
有坂:そうだよね。金城武もかっこいいですよ。
渡辺:いや、かっこいい。
有坂:改めてやっぱりね魅力的な人だなって感じるかなと思います。最後にウォン・カーウァイは、この後もキムタクが出演したね『2046』とか、あと『花様年華』という映画もつくったりして、どんどん世界的な評価を高めていった結果、2015年にアメリカのメトロポリタン美術館で開催された、中国をテーマにした、「鏡の中の中国」という大きな展覧会の芸術監督をウォン・カーウァイは担当しました。その裏側はドキュメンタリー映画で、『メットガラ ドレスをまとった美術館』という映画で、その裏側が描かれているので、ぜひウォン・カーウァイいいなと思った方は、そっちも合わせて観ていただきたいなと思います。
渡辺:メットガラはメットガラで、めちゃくちゃいい映画だからね。ドキュメンタリーなんですけどね。
有坂:そう、あれを観るとね、「仕事頑張ろう!」って思えるよね。ほんとにプロフェッショナルってかっこいいと思えるドキュメンタリーなので、ぜひそっちも観てみてください。
渡辺:なるほど、ウォン・カーウァイは言われちゃったか。
有坂:でも、他にもいい映画いっぱいあるからね、ウォン・カーウァイ。
渡辺:まあね、でも、そこはちょっと被らずにいこうと思います。じゃあ、ちょっと違う感じで、えっとぼくの4本目は、北朝鮮でいきたいと思います。
有坂:あれかな?
渡辺セレクト4.『レッド・ファミリー』
監督/イ・ジュヒョン,2013年,韓国,99分
有坂:ああ! 面白い面白い。
渡辺:北朝鮮とはいえ、韓国映画なんですけど。『レッド・ファミリー』っていうのは、なんて言うんですかね、ヒューマンドラマというか、まあコメディーなんですけど、北朝鮮の工作員の家族が、韓国で情報収集活動のために、普通に一家として住んでいるという話になります。で、隣の韓国人一家はもう喧嘩ばっかりしている一家なんですけど、その横に仲の良さそうな一家がいるんですけど、実は北朝鮮の工作員の家族で、家族って言っているけど、ほんとは全然家族じゃないんですね。で、家の中に入った途端に、急に超軍隊式になって、お母さんが隊長で、おじいちゃんがいるんですけど、おじいちゃんに向かって「同志、さっきの言動はなんだ?」みたいな、「はい、すいません!」みたいな敬礼するみたいな(笑)。家の中に入った途端に、急にすごい体育会系になるっていう。
有坂:(笑)
渡辺:で、家族を装っているんですけど。そんな一家は、もう隣の韓国人一家がもうしょっちゅう喧嘩して、料理をつくってないだの、ゴミを出し忘れただの言っているのを、「あいつら本当に資本主義の成れの果ての腐った奴らだ」みたいな。
有坂:(笑)
渡辺:「我々は、絶対そんなふうにならないぞ」みたいに言ってくんですけど、いつしかやっぱりその家族と交流し始めて、自分たちがやっていることは合っているのか?」とか、「家族って本当は本音をぶつけ合って喧嘩し合って、それでも一緒にいるのが家族なんじゃないのか?」みたいな。「我々のこの偽家族はどうなのか?」とか。あとはお互いを監視し合って、お互いに何かちょっとあったら本部に報告して、で、本部に報告されると本国にいる自分たちの本当の家族に被害が及ぶみたいな、そういう緊張関係の中で、北朝鮮のその偽家族は暮らしているんですけど、そこがだんだんやっぱり「どうなのか?」っていう、揺らぎ始めるっていう話なんですね。なんで、普段はそんなコミカルなやり取りがあるので、面白おかしく進んでは行くんですけど、割と訴えていることは結構シリアスな部分があったりとか、あとはその隣同士の家族同士の話ではあるんですけど、それがそのまま、もう韓国と北朝鮮の関係を表していたりとか、「こういうことがあれば対立せずにこの2つの家族は仲良くなれるんじゃないか」みたいなメッセージも、しっかりと込められているっていう、実はめちゃくちゃいい映画になってます。
有坂:うんうん。
渡辺:この映画も料理ポイントがあってですね。それは、普通に家庭料理なんですけど、それがやっぱり、いわゆる韓国料理のチヂミとか、そういうものなんですね。で、2つの家族が「パーティーしましょう」みたいな感じで、一緒にご飯を食べたりするんですけど、そういうときに食べているのが、やっぱりチヂミとか、トッポキとかなんですね。ぼくらが韓国料理としてイメージするようなものが、実はもう家庭料理として普通に食べられているというのが、感じられる作品でもあります。あと、2家族でキャンプに行ったりするんですけど、そのときもなんか肉を焼いたりして。焼肉もね、韓国のメジャーな料理だったりしますけど、そういうところもさりげなく描かれているのが、また面白いポイントかなと思います。なんで、メインは料理じゃないので、そういう北朝鮮の偽家族の話ではあるんですけど、日常で食べられているものみたいなところで、料理も出てきたりするので、そこも韓国料理が出てくる面白いポイントかなと思います。
有坂:面白いよね(笑)。
渡辺:面白い(笑)。
有坂:これは、その設定だけでもね。コメントでも、「面白そう」っていう人がいますよ。
渡辺:そうね、北朝鮮ものってね、韓国映画でちょいちょいあるんですけど、この切り口はすごい面白かったですね。
有坂:そうだね。ドキュメンタリーとか、割とストレートな映画が多い中で、しかもコメディーなんだけどっていうね。
渡辺:これね、Amazonプライムで今やってるので、観られる人はぜひ!
有坂:はい。じゃあぼくの4本目は、中国映画をいきたいと思います。
有坂セレクト4.『一瞬の夢』
監督/ジャ・ジャンクー,1997年,中国・香港,108分
渡辺:うんうんうん。
有坂:これは、ジャ・ジャンクーという監督のデビュー作になってます。このジャ・ジャンクーって、今はもうカンヌ国際映画祭とか、ベルリンとか、世界中の映画祭で賞を取るような、ほんと世界的な大監督になったんですけど、この1997年にデビュー作を発表したときは27歳でした。だったんですけど、彼は中国って検閲を通さないと映画がつくれない。脚本、シナリオの段階で1回検閲を通して、やらないと映画がつくれないんですけど、その検閲を通さずに勝手に映画をつくったんですよ、中国国内で。なので、自分の故郷である中国でだけ上映ができないデビュー作ということでも話題になった監督です。この映画のキャッチコピーが、「スリに生きる青年が、ある日、心を盗まれた」。もうこれが物語のすべてです。主人公はスリ(盗み)を稼業にしてというか、スリで日銭を稼ぐ、ほんとにもうどうしようもない男が主人公です。で、周りの仲間は、中国がどんどん変化していく中で更生して、ちゃんとした職業に就くんだけど、彼だけはなんとなくそういう流れに乗れないまま、なんとなくスリをして毎日過ごしてる。そのときに、カラオケバーで働いているメイメイっていう女性と出会って、その彼女にちょっと恋をして、少しずつ彼の人生もほんとに少しずつ変わってくるんですよ。変わっていくんだけど……っていう映画です。割となんか、そのジャ・ジャンクーは、中国のリアルな姿を切り取りたいということを、ずっと信念を持って映画を撮っている人なので、検閲を通さずに、ちゃんとしたリアルな中国を撮りたいと。これ、もし検閲を通してしまうと、やっぱり中国のリアルな姿、世界に発信してほしくない姿を作品にするってことなので、結果的にこの映画自体をつくらせてもらえないっていうリスクがあったんですね。なんですけど、通さないことで、国内では上映ができないんですけど、海外の映画祭とかで観てもらったらすごく高い評価を受けて、あのアメリカのマーティン・スコセッシにも大絶賛されたデビュー作で、ほんと世界的な形でデビューを果たした監督の長編デビュー作です。で、東アジアの映画って、実はあのぼく、順也と違って……順也は割と好きじゃない?
渡辺:うん。
有坂:香港映画とかジャッキー・チェンとか観て育ってるのですごく馴染みがあるというか。
渡辺:うん。
有坂:中国映画もずっと好きだよね?
渡辺:そうだね。
有坂:なんですけど、ぼくはどっちかっていうと、東アジアの映画にすごい苦手意識があったんですよ。なんかこう近すぎるというか、映画に多分求めてるものが、もっと知らない文化を知りたいとか、遠い世界のものを見たいっていう気持ちが多分強くて。なので、アメリカ映画、ハリウッド映画から始まって、フランス映画とか、南米のアルゼンチンの映画とか、いろんな国の映画観るんですけど、どうしても東アジアだけ、なかなか観られなくて。で、その『一瞬の夢』を観たときに、「あ、これだ!」と思ったんだ。なんで、これだと思ったのかなと考えると、世代的に近いんですよ、監督が。多分、僕らの3、4個上。だから、同世代の監督、同世代のつくった東アジアの映画だったら面白いかもと思って、そこからさっき紹介した韓国のホン・サンスとかを観ていくと、なんかすごくフィットする。で、中国ってこの前の北京オリンピックの開会式を務めたチャン・イーモウっていう監督は、第5世代にあたるんですけど、このジャ・ジャンクーは第6世代なんですね。どちらかというと、第5世代まではすごさはわかるんだけど、ほんとに気合入れないと、いまだにあまり観ようと思えない。
渡辺:(笑)
有坂:けど、やっぱり同世代だと感覚のところで共有できるものがあるからなのか、もっと素直に観られる。
渡辺:なるほど。
有坂:というところがあって、なので自分にとっては特別な1本ということで、『一瞬の夢』は紹介させていただきました。多分、ちょっと配信では観られないかもしれないんですけど、ぜひこのジャ・ジャンクーっていう人、すごくそうやって厳しい環境の中でもきちんと作品をつくって、どういうふうに届けていくかっていうことまで含めてやっていけるっていう意味では、すごく現代的な監督かなと思うので、気になった方はぜひ。
渡辺:本当にジャ・ジャンクーは、面白いもんね、映画として。海外の映画祭ではめちゃくちゃ賞を取っていて評価されているのに、本国、中国で上映されていないっていうタイプのね、ほんとにそういう感じですね。で、やっぱり中国の闇みたいなところをしっかり描いてるので、そういう目に合っているんですけど。
有坂:そうだね。
渡辺:その分、面白い。内側からちゃんと描いているのが、すごく面白いですね。
有坂:あと、今思い出したんですけど、そのジャ・ジャンクーが言ってていいこと言うなと思ったのが、その中国って、海賊版のDVDとか、勝手にダビングしてそれを販売するみたいな、違法行為なんですけど、海賊版の映画がいっぱいあって、海賊版を摘発してゼロにしようという運動がある中で、それは理屈としてはわかるんだけど、でもやっぱり中国に住んでいると正規のルートで、例えば、日本の是枝監督の映画が観られないとか、フランスの昔の名作が観られない。もうほんとに限られた映画しか観られない。そういう人たちにとっては、ほんと海賊版があったおかげで、黒沢明も観られたし、スピルバーグも観られたので、そのおかげでこういうジャ・ジャンクーっていう監督が育って……。なので、やっぱりその確かに違法行為だから良くないのは確かなんだけど、それによって救われて、その人の作品にまた救われる人もいるというのもある意味一つの現実なのかなと。日本にいるだけだとやっぱり分からないような感覚。
渡辺:日本はね、なんでも観られるからね。
有坂:そうだね。恵まれている。まあそういうことも。
渡辺:思い出したけど、中国といえば『ファイト・クラブ』(笑)
有坂:(笑)
渡辺:『ファイト・クラブ』っていうアメリカの映画ですね。あの有名な映画が、最近中国で、あれはリバイバル公開?
有坂:違う、上映じゃない。テレビ放映かな、テレビかインターネット。
渡辺:放映されたんですけど、まさかのラストを改変されているっていう状態で流されたらしくて、「さすがにこれは無いだろう」って、中国人からも大ブーイングをくらうっていう。そんなニュースが、つい最近だよね。
有坂:本当に先週、先々週ぐらいの話だね。そのラストをいわゆる体制側が負けるみたいな終わり方だったのを、やっぱりそれは中国としてはよくないってことで、そのラストシーンにいく前に、パッと画面が暗転して、「この後、こうなりました」っていうテロップ入れて。要は、「この後、警察が乗り込んで無事に制圧しました」、終わりみたいな。
渡辺:あんな有名な映画をね、バレるだろうっていう(笑)。
有坂:散々、観たことある人だったら、もうずっこけるような、ある意味レア版だよね。
渡辺:これ多分ね、ちょっと検索すれば出てくるニュースだと思いますから(笑)。
有坂:そうそう、ぜひそれも最近の面白ニュースの1つだね。
渡辺:そんなこともある中国映画。まあね、いい映画もいっぱいあります。
有坂:あるある。
渡辺:じゃあ、ついにラスト。ぼくの5本目は韓国です。
渡辺セレクト5.『エクストリーム・ジョブ』
監督/イ・ビョンホン,2018年,韓国,111分
有坂:うんうんうんうん。
渡辺:食のつながりで今回は選んでいるんですけど、これも最近、2年前ぐらいに公開された新しい映画です。どういう映画かというと、主人公は警察の麻薬捜査チームです。で、麻薬捜査チームの張り込んでいる対象の、まあギャングというか、組織があるんですけど、そこの張り込みをするために、その事務所の向かいにスペースを借りて、そこで張り込むってことになったんですね。で、偽装するために、そこでチキン料理屋さんを始めるんです。で、偽装で始めたんですけど、めちゃくちゃ料理が上手いやつがいて、まさかの大繁盛店になってしまうっていうコメディです(笑)。これ映画としてもめちゃくちゃ面白いので、普通に笑い転げて観ていられるっていうタイプの作品なんです。
有坂:テンポもいいよね。
渡辺:そう。で、韓国ってすごくチキン料理が実はメジャーで、フライドチキンとか、そういうチキンっていうのが、すごく実は一般的にも食べられているメジャー食なんですけど、これが、もうすごく美味しそうで、映画館にこれを当時観に行った帰りに、もう真っ直ぐケンタッキーフライドチキンに向かうっていうぐらい、これ観たら、もうチキンが食べたくてしようがなくなる作品です。
有坂:(笑)
渡辺:ほんとに料理も全面に出てきて、おいしそうなんですけど、映画としてもめちゃくちゃ面白くて、もうお店が忙しくなりすぎて、「敵の組織がちょっとなんか動き出しました!」って言っても、「今ちょっと注文が入って、それどころじゃない!」って断ったり(笑)
有坂:どっちがどっちかわかんない(笑)。
渡辺:っていうね、ドタバタコメディなんですけど、わりとアクションもちゃんとしっかりやったりとか、話の伏線もすごく回収されていたりとか、実は感動する場面があったりとか、エンタメとしていろんないい要素が盛り込まれているので、ほんとに映画としても面白い作品です。これも多分配信とかで、今、観られるんじゃないかな。Amazonプライムとかでやっていますね。これは本当に観やすいし、誰が観ても面白いタイプなんで、家族で観てもいけると思いますので、ぜひ!
有坂:これ、ウディ・アレンの『おいしい生活』の設定なんだよね。『おいしい生活』のほうは、銀行強盗を企んで、そのカモフラージュのために、向かいにクッキー屋さんをつくる。そしたら、そのクッキー店が大繁盛しちゃうっていう、まったく同じ設定。そこからね、もうちょっとアクションのほうにいくか、笑いのほうにいくかっていう違いは出てくるんですけど、ベースになる設定は一緒だよね。
渡辺:うんうん(笑)。
有坂:でも、あれだよね。『おいしい生活』って、幡ヶ谷にあるSunday Bake Shopの嶋崎かづこさんが、『おいしい生活』、すごい好きなんだよね。
渡辺:あ、そうだっけ。
有坂:うん。多分、あの映画のイメージで、Sunday Bake Shopは。
渡辺:なるほど(笑)。近くの銀行強盗を(笑)。
有坂:気をつけた方がいいですよ(笑)。
渡辺:近くで穴掘ってる(笑)。
有坂:Sunday Bake Shop気をつけた方がいいです。怒られちゃうか(笑)。
渡辺:そこも行列のお菓子屋さんなんでね。
有坂:繁盛しちゃってるから。
渡辺:近くの銀行の方は、ぜひ注意してください(笑)。
有坂:……はい。じゃあ、ぼくのラスト、ぼくも韓国映画です。
有坂セレクト5.『昼間から呑む』
監督/ノ・ヨンソク,2009年,韓国,116分
渡辺:出たー!
有坂:これは2009年の映画なんですけど、もうね、『昼間から呑む』ですよ、タイトルが。のんべえには、もうたまらないうタイトルになってるんですけど、この映画は主人公のヒョクジンっていう男の子が失恋をしてしまって、「俺、失恋してしまったよ」ってことで、友達三人に話を聞いてもらったら、「よし、じゃあその傷を癒すために、明日からみんなで旅に出ようぜ!」って盛り上がって、翌日、待ち合わせ場所に行ってみたら誰もいない。俺一人みたいな。
渡辺:(笑)
有坂:で、「もうここまで来たら行くしかない!」ってことで、結局その傷心旅を一人ですることになるっていう男の人のロードムービーになってます。で、このヒョクジンっていう男の子は、すごく自己主張がない、受け身なタイプの人なので、一人で旅をしてるとどんどんいろんな人からアプローチかけられて、なんか巻き込まれる。巻き込まれ型のコメディ映画になってるんですね。で、誰かに出会うたびに、酒を飲んで酒を飲んで、またやらかして、また酒飲んでやらかしてっていうことが、116分延々続きます。これはさっきの順也が紹介した『エクストリーム・ジョブ』みたいな、ほんとに起承転結、アップダウンのあるストーリーとはまったく違って、ほんと平坦な、「この後、何が起こるんだろう?」って。確かに何か起こるんだけど、そんな大きなことが起こるわけじゃない。でも、そのだらだら観られる感じがすごく面白くて、ぜひこれを観るときは、韓国の焼酎のね、チャミスルっていう……
渡辺:うん、緑色の瓶のね。
有坂:そう、見たことありますよね。韓国映画でよく出てくる、チャミスル片手にほんとに平日の昼間、なんだったら有給とか取っちゃって、だらだら観るのに本当にもってこいな一本。なんか、その映画の見方がたぶん一番楽しいんじゃないかな思います。
渡辺:おちょこをね、一気しながらね。毎回こう乾杯しては一気してみたいな。あれは酔っぱらうよね。
有坂:そうだから、その主人公の体験を自分も4D感覚で、主人公が飲んだら自分も同時に飲むみたいに、そして最後まで観られるかどうか、チャレンジするのも面白いかもしれない。
渡辺:インディーズ映画なんだよね。
有坂:これね100万円でつくった。
渡辺:そう超低予算のね。
有坂:役者以外は、例えば、音楽、撮影、編集、脚本、全部同じ人がやっている。すごい才能だよね。
渡辺:本当に、このアイデア1本を映画にしたっていう感じでね。ワンアイデアで面白い、低予算でも面白いものをつくっちゃったという作品ですね。
有坂:一人旅していて、「もしかしたらこういうことが起こっちゃうかな?」って、なんか悪い予感がするけど、でも予感だけで何も起こらないじゃない。でも、この映画では全部起こるんだよね(笑)。
渡辺:巻き込まれながら(笑)。
有坂:そう、巻き込まれながら、「また起こっちゃったー」みたいな(笑)。
渡辺:酔っぱらってね。大体やらかしちゃうっていう。
有坂:だから、一人旅なんだけど、一人酒することはほとんどなくて、二人酒とか、三人酒とか、いろんなパターンのいろんなバリエーションの飲み方が楽しめる映画なので、ほんとお酒好きの方は、もうこれはマストだと思います。
渡辺:昼間から飲んでね。
有坂:そう、だから昼間からチャミスルと、あとねカップラーメンも忘れずに、これカップラーメンはね、見ていればわかる。
渡辺:そうだね。キーアイテム。
有坂:そう、焼酎とカップラーメン、キーアイテムで出てくるので、ぜひ平日の昼間から『昼間から呑む』を観てみてはいかがでしょうか。期待しないで観てくださいね。
渡辺:(笑)
──
有坂:はい、という5本になります。どうですか。
渡辺:そんなに被らず。ちょっとね、ウォン・カーウァイは出そうかなと思ってはいたけどね。
有坂:何を出そうと思った?
渡辺:おれは『恋する惑星』。
有坂:うんうん。
渡辺:やっぱり香港の屋台飯みたいなのが、すごい出てくるから、ちょっと料理つながりではいいかなと思って。
有坂:ぼくはね、もう1本、サブって用意してたのは北朝鮮映画で、『わたしは金正男を殺してない』っていうドキュメンタリー映画。なかなかの衝撃作。
渡辺:ああ! 北朝鮮映画ではないけどね。
有坂:そうだね、北朝鮮を描いた。あの金正男を。
渡辺:あの金正男ってね。今の金正恩のお兄さんにあたる人がマレーシアで暗殺されたっていう衝撃の事件の実行犯たちのね、ドキュメンタリーっていうね。それがどういうことだったのかみたいな真相が暴かれているっていう、すごい映画だよね。
有坂:すごい。「え、そんなことで?!」っていう。これも超巻き込まれ型だよね。あってはならない巻き込まれ方をした、本当に衝撃のドキュメンタリー。
渡辺:いや、でもそんな手を使ってね。っていう。ちょっとあんまり言うとね。
有坂:ネタバレになっちゃう。
渡辺:でも、ネタバレといっても、それがもうニュースで報道されている事実ではあるんですけど。でもニュースで報道されている以上のことがね。ちゃんと描かれているんで、あれはほんとにすごい。なるほどね。それも面白いね。
渡辺:北朝鮮って面白いんだよね。映画になっているものが。
有坂:振り切ったものが多いよね。
有坂:という、合計10本の作品でした。多分配信で観られるものも結構あると思うので、ぜひ気になった方は観てみてください。
──
有坂:じゃあ、最後に何か。
渡辺:そうですね、二人ともインスタとかで、日々の映画ネタをそれぞれ発信していたりするので、その辺もぜひチェックしてもらえると嬉しいです!
有坂:はい、僕からは、キノ・イグルーのイベントは、ちょっと予定してたイベントが延期になったりしていて、春にかけてまた開催されます。あと、そうだな、発表できるのはちょっとすいません、今のところないんですけど、思っていた以上にイベントをやりたいという、お声がけが増えているので、コロナに負けずに、また面白いことをやっていきたいなと思いますので、ぜひリアルイベントの方にも参加いただけたら嬉しいですし、その際は、この「ニューシネマワンダーランド」を見てますって言っていただけると、僕たちめちゃくちゃ喜びますので、ぜひよろしくお願いします。はい、では今月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」はこれにて終了です。今日は、みなさん遅い時間まで、どうもありがとうございました!
渡辺:また、来月〜!!
──
選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)