あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「17歳の時に観ておきたかった映画」です。あの頃観ていたら、どんな気持ちだったんだろうという映画、その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は久しぶりに有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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有坂セレクト1.『いまを生きる』
監督/ピーター・ウィアー,1989年,アメリカ,128分

渡辺:おお! 金八先生じゃなくて(笑)、そっちですか。
有坂:まあ、アメリカ版金八先生と言ってもいいですが、これは学園ものですね。きっとこの映画が好きっていう人、観た人はね、みんな好きになってしまうんじゃないかっていうぐらい、すごく大切なメッセージの込められた映画かなと思います。で、この映画の舞台は1959年のアメリカです。全寮制の結構厳格な学校に、ここのOBである教師が赴任してくるんですね。で、その赴任してくる教師のジョン・キーリングという役を演じるのが、ロビン・ウィリアムズです。ロビン・ウィリアムズ演じる先生は、もう厳格な、いろんな規律に縛られてる生徒たちの心をですね、解きほぐしていく。解放していく? もともとそれぞれの中にあるいい部分を、自分の授業の中で引き出していくというですね、本当に理想的な先生。教師は皆こうあってほしいと思ってしまうぐらい、本当に人生に悩んでる人とか、恩師を映画の中で見つけたい人は、まず、『いまを生きる』を観てもらえれば間違いないかなと思います。
渡辺:まあ、名作だね。
有坂:これはね、もうこのパッケージからね、先生と生徒とのいい距離感というか、雰囲気の良さが伝わってきますけども、これは、かつてそのジョン・キーリングという先生が学生だったときに、なんか、詩のね、クラブを作っていたと。それで、それを再開させようということで、自分たちの考えてることとか、思いみたいなものを詩に置き換えて、みんなそれぞれ自分の中にある本当の自分に気づいていくっていうような展開になっています。
で、もうこれは17歳の時に観たら、そのあとの自分の人生どうなったんだろうと思ってしまうんですけど、ただ実は、僕と順也はもともと中学の同級生なんですけど、ちょっとね、タイプはだいぶ違うけど、恩師って呼べる人がね。
渡辺:うん。
有坂:僕らは担任がね、恩師と呼べるような人だったので、僕はこの映画を初めて観たときは、その中学校のときの恩師の姿も重なって。
渡辺:なるほど。
有坂:そう、だから、やっぱりそういう人に出会えているかどうかっていうのは、結構その後の自分の人生におけるいろんな面に影響しているなっていうのは、だんだん分かってくるじゃない? やっぱり、目の前に先生がいるときは、自分もまだ未熟だったりすると、ちょっと感情的になってしまったりとかするんですけど、先生が思いを、ほんとに思いを持って何かしてくれたことって、一瞬なんか不条理なことをされたとしても、そこにちゃんと愛情があったりとか、先生なりに考えたものがあるっていうのが、年を重ねてだんだん自分も気づくことができると思うんです。
渡辺:うんうん。
有坂:当時、僕、中学生のときは全然映画が好きじゃなかったので、高校生の頃もまったく観ていなかったので、この映画をもしその年代で観ていたら、あの中学校の恩師のなんか本当の思いみたいなものを、もっと早く理解できたのかなと。
渡辺:うんうん。
有坂:そう思いました。でも、その僕らの恩師はこのロビン・ウィリアムズの演じる先生みたいななんだろう、品のいい先生じゃなかったね。
渡辺:なかったね(笑)。
有坂:もう昭和を絵に描いたような。
渡辺:熱血漢な感じだったもんね。
有坂:そうそう、熱血漢な先生なんですけど、でも、やっぱりこう千差万別、それぞれの個性でね、素晴らしい先生がそろっていればいいと思うので、僕らの恩師は本当に素晴らしい人だったし、この『いまを生きる』という映画を観ると、もしかしたらみなさんの中にもいるであろう。そういった恩師とか、思い出深い先生との記憶にもつながる、そういった楽しさもあるかなと思うので、ぜひ観ていただきたいなと思います。
ちなみに、これ、生徒役でイーサン・ホーク。
渡辺:あっ、そうなんだっけ。
有坂:イーサン・ホークが出演してるんです。面影がちゃんとあるんで、改めて観てみると、いろんな気づきもあるかなと思います。それで、これ『トゥルーマン・ショー』の監督のピーター・ウィアーが撮った作品で、その年のアカデミー賞では、脚本賞を受賞しています。ほんとに、80年代のアメリカ映画を代表する1本と言って間違いないかなと思います。
渡辺:舞台はイギリスだよね?
有坂:いや、アメリカ。
渡辺:アメリカだっけ?
有坂:そう、イギリスっぽいんだよね。アメリカの全寮制の学校。
渡辺:そうかそうか。
有坂:でもね、イギリスのあのハイスクールの雰囲気はある。
渡辺:ねぇ、ああいう寄宿学校っぽいのって、イギリスのいい映画が多いしね。なんか、そこのファンもいるじゃん。
有坂:いるね。いるいる。
渡辺:イギリスの寄宿学校ものみたいな。制服着ていて、シュッとしたイケメンの男子生徒たちがいるみたいなね。イーサン・ホークなんかも超イケメンなんで、そういうのが好きな人はぜひ! そういう目で観ても面白いかもしれない。
有坂:そういう目で(笑)。
渡辺:イーサン・ホークを探してみてください!
有坂:そうだね。ということで、1本目は『いまを生きる』でした。
渡辺:なるほど、そうきましたね。
有坂:候補に入ってなかった?
渡辺:入ってなかった。



渡辺セレクト1.『インビクタス/負けざる者たち』
監督/クリント・イーストウッド,2009年,アメリカ,134分

有坂:あー、うんうん。
渡辺:これ、監督はクリント・イーストウッド。なので、イーストウッド作品を好きな人だったら、きっと好きだとは思うんですけど、話としては南アフリカのラグビー代表チームの話です。実は僕、高校のときはラグビー部だったんですね。それで、ラグビーものってあんまりなくて。映画はほとんどないし、漫画とかもなくて。サッカーとか野球とかって結構多いじゃん。
有坂:そうだね。
渡辺:ラグビーを当時やっていたので、そういうラグビーものって、結構前にドラマで『スクールウォーズ』っていうのがあって、それはすごい一大ブームを起こしたんですけど、それぐらいしかないっていうときに、このラグビーが主役になっている映画を、こう部活とか自分のやってることとかを全肯定してくれるような、そういう作品とぜひ出会いたかったなっていうのはありました。
有坂:なるほど。
渡辺:で、これ内容的には、高校生じゃなくて、大人の南アフリカ代表の話です。時代がですね、南アフリカってアパルトヘイトっていう人種隔離政策をずっとやっていて、で、それをなんて言うんですかね、転覆させて就任したのが、マンデラ大統領。黒人が大統領になって、アパルトヘイトを撤廃させるっていうですね、そういう革命が起こった時期なんですね。で、マンデラ大統領をモーガン・フリーマン、名優がやっていてですね。そのアパルトヘイトを撤廃して南アフリカは変わったんだっていうことをアピールするために、ラグビーの世界大会、ワールドカップがあるんですけど、南アフリカっていうのはすごい強豪国なんですね。そこで、今までは白人しか代表になれなかったところを、黒人の選手を入れたりして、そこで自分たちが変わったんだってことを、一番世界にアピールできる場がワールドカップだと。
有坂:うんうん
渡辺:ということで、その使命を託されたのがキャプテンのマット・デイモンっていうですね。なので、このマンデラ大統領とマット・デイモンっていうのが、そういう使命感で、こう無理難題なところを乗り越えて、ワールドカップで優勝を目指していくっていう話になります。なので、スポコンものでもあるし、そういう大人の政治要素とかもまとった、ちょっと社会派な作品ではあるんですけど。そういう使命を持ってやる姿とかもかっこ良かったし、なんかラグビーが主役になっているっていう時点で、ちょっと嬉しくなるというか、ほんとにラグビーものというのが、もう漫画も含めて全然ないので、そういうのをなんか自分が実際にやっているときに観たかったなっていうのはすごいありました。
有坂:これさ、“スポーツものあるある”なんですけど、まあ、僕はサッカーをずっとやっていて、サッカーものの映画って確かにあるんだけど、そのやっていたからこそ、観る目が厳しくなるってあるじゃん。
渡辺:はいはい。プレイしているときに下手だったりとかね。
有坂:そうそう、ドリブル、明らかにこれ下手な人のドリブルだよなって思ってしまうと、そのスーパースター役なのに、全然そこへの思い入れが入っていかないみたいな。そういう意味では『インビクタス』ってどうなの?
渡辺:それはね。わりと平気だった。やっぱり、サッカーとかバスケとか、手に足にボールがついてないってのは、すぐ分かっちゃう競技でしょう。そういうのはね、バレやすいと思う。
有坂:そっかそっか。
渡辺:野球とかって割とバレにくいと思うんだよね。
有坂:スイングの仕方。
渡辺:そうそう、あのなんていうんだろ、日本のほうが野球って型にはまっている感じだけど、アメリカってみんな自由にさ、フォームで打ったり投げたりするでしょ。
有坂:そうだね。
渡辺:なんかね、ラグビーも割とそういうラフなスタイルが結構海外にはあったりするんで、その辺は割とね、観られたなって。
有坂:そこ大事だよね。
渡辺:大事、冷めちゃうからね。
有坂:そうそう。
渡辺:嘘つけ! ってなっちゃうから、それはね、平気でした。ほんとに僕らの時代で言うと、あの『スラムダンク』がめちゃくちゃ流行っていたので、バスケってレギュラー5人なんですけど、バスケ部には30人ぐらい部員がいて、ラグビーって15人なのね。でも一学年に15人もいないっていう、部員不足を感じていたので、やっぱり漫画の力ってすごいなって思った。
有坂:そうだね。サッカーだと『キャプテン翼』があって、ラグビーもそういうものがね、頑張ってラグビー界を盛り上げようとしてる中でね。
渡辺:一番やっぱり盛り上がったのがワールドカップで、ほんと日本が大活躍したときあったでしょう。あのとき破ったのが南アフリカだった。
有坂:そうだね。
渡辺:それぐらい南アフリカってもうめちゃくちゃ強い優勝候補って言われていたところを、日本代表は勝って。あれにみんな感動して、ラグビー部、ちょっと増えたらしいですね、人数が。
有坂:このさ、映画の中では南アフリカってそれぐらい強豪国だったの?
渡辺:強豪国。
有坂:そっか、じゃあ、その国がそうやって人種ミックスでやるっていうのは、すごいアピールになるわけだ。
渡辺:そうそう。で、そのレギュラーを変えるわけじゃん。だから弱くなるんだよね、一時的に。でも、そこをキャプテンは、強くいかなきゃいけないっていうのを託されるっていう。それを乗り越えていく話なんだよね。
有坂:でも、今のあれだね、なんか、そのハリウッドとかさ、もう今ほらいろいろアジア人だったりとかさ。
渡辺:そうだね。
有坂:何人まで役者として使わなきゃいけないとか、っていうのにちょっと似てるね。
渡辺:そうかもしれない。
有坂:何かをやっぱ変えていくときは、まずはその型から変えていくと。
渡辺:そうそう。



有坂セレクト2.『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
監督/ジョン・ファブロー,2014年,アメリカ,115分

渡辺:ほう、ほうほう。
​有坂:これはね、大好きな人、多いんじゃないかな。この映画は、ロスの有名レストランで、もう総料理長、一流のシェフとして活躍してたあのジョン・ファブロー演じる、キャスパーって人だっけな? が、口うるさいオーナーと揉めに揉めて、「こんなレストラン辞めてやる!」っていうことで、辞めたはいいものの、さて、どうしようっていうことで、どっかのレストランに入るのではなくて、新たにフードトラックという形で自分の料理を提供していくっていうことを選んだ、そんな彼と彼の家族、あとは友人も含めた、これはすごく陽気で感動もできるロードムービーになっています。
渡辺:そうだねぇ。
有坂:で、この映画は、自分の、例えば、この主人公は料理に対する思いがあって、実際技術もあって、世の中から認められている、そういう人が雇われシェフみたいな形でいいのかっていう形で、物語が展開してくんですけど、これってシェフを例えば別の職業に置き換えたら、どの世界でも起こりうる話だと思うんです。
渡辺:うんうん。
有坂:で、実際にこの映画を監督したのは、この主演でもあるジョン・ファブローという人で、彼は有名な作品でいうと『アイアンマン』シリーズの監督をしてたりするんですよ。で、もうその『アイアンマン』とかも撮って、なんだろう、役者としてもね、結構いろんな映画にも出たりしてるので、はたから見るとすごい成功者に見えるんですけど、実は彼の中ではすっごい葛藤があって。というのは、もともと彼はインディーズの世界で映画をつくって、低予算で自分のほんとに表現したいものを作品にするっていうものをつくってきた人。で、その流れで認められて『アイアンマン』とかを撮ることになるんですけど、やっぱりそのある程度ビッグバジェットの映画になると、「これをやるな」とか、いろんなことを言われて、最終的にでき上がったものが、自分の思い描いたものからだいぶかけ離れたものになってしまう。で、それが彼にとってはやっぱり何度重ねてもストレスでしかなくて、もうこのままいくと、自分は映画が撮れないっていうところまで追い詰められたらしいんですね。で、もう1回、その自分自身の映画への情熱を取り戻さないとっていうことでつくった映画が、この『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』です。
渡辺:うんうんうん。
有坂:なので、この映画の主人公は、彼が演じないとダメだったんですよ。彼自身が、もう自分のある意味セラピー的な感じで、この映画をつくってこの役をもう自ら演じているということで、あの描かれてる世界はね、こういうシェフだったり、料理の世界なんですけど、あくまでジョン・ファブロー自身が次に進むためのステップとして、どうしても今つくらないといけない映画が、このシェフだったんですね。そのメッセージを、実はそういう裏メッセージがあったっていうのを聞いたときに、やっぱりぐっとくるじゃん?
渡辺:うん。
有坂:でも、なんかジョン・ファブローって人がほんと素敵だなと思ったのが、なんか、そのメッセージをシリアスな映画にすることだってできたのに、これ陽気じゃない?
渡辺:そうだね。めちゃくちゃ陽気。
有坂:陽気で、ポジティブで、ほんとにこれを観て、「いや、ひどい映画だったね」っていう人って、ほんとに一人もいないんじゃないかなっていうぐらい、もういわゆるフィールグッド・ムービーっていうやつです。で、やっぱりそれは彼のね、思いもそういった中に込められているし、もともと彼がこう持ってる、そういった映画監督としてのスキルもほんと最大限出ているし、しかも音楽もキューバのね、いろんな音楽が陽気だし、しかも、キューバサンドがおいしそう!
渡辺:これがね、絶対に食べたくなるよね!
有坂:なので、観るときはね。キューバサンド片手に観ないと、ほんとお腹がすいて集中できなくなっちゃうかもしれない、っていうぐらい、そういった料理映画としても最高の1本です。で、これ、やっぱり高校生、17歳の時に観ていたら、その自分らしく自分自身として生きるために、なんだろう、当時だとやっぱりどっか会社に入ることが当たり前だった時代だったんですけど、もっといろんな生き方ができるのかなとか、これはもちろん現代の話なので、Twitterとかね、そのSNSが結構物語の中でキーになってくるんですけど、まあ、僕らが高校生のときは、SNSはなかったんですけど、ないならないなりに本当に自分がやりたいことがあるなら、まずはそことしっかり見つめ合って、生きてくこともできるんだなっていうことを、この映画が教えてくれたであろう、ということで観たかったし、今の高校生にはもう「学校の授業とかで観せたい」って思う一本です。
渡辺:なるほど。いやぁ、まあ、完璧な映画だよね。これはほんとに名作だと思います!



渡辺セレクト2.『ビリギャル』
監督/土井裕泰,2015年,日本,117分

有坂:おお! ビリギャル!
渡辺:『ビリギャル』は、結構好きで。監督が土井裕泰監督っていう、『花束みたいな恋をした』を監督している人です。まあ、有名なんで話自体は知っている方も多いと思うんですけど、学年ビリのギャルが、受験で現役で慶応に受かりましたっていう、そういう簡単に言うと話。なんていうんですかね、とにかくポジティブになれるタイプの作品なんですけど、このギャルが心を決めて「受験しよう」ってなって、それでもう、中途半端じゃなくて、めちゃくちゃやろうって決めたっていうのが、まずすごいなって思うし、それをやりきったっていうのは、本当にすごいなと思って。僕自身は、受験をまったく真面目にやらなかったので、その後悔は結構あって、まあ、17歳、高2、高3ぐらいで受験を体験した人ってのも多いと思うんですけど、なんかほんとにこういうのを観ると、ちゃんと振り切ってやるってすごいなと思って。なんか、そのマインドもすごいし、やりきる力っていうのもすごいし、まあ、周りの支えがあってっていうのもあるんですけど、でも、なんかこの人の場合は、特に極端なので、それがすごくて。もう遊んでしかいなかったところから、なんだろう、もうトイレにいるときも問題が、漢字とか、英単語とかが貼ってあってみたいな。
有坂:ふふ。
渡辺:こういう、「もう寝る以外は全部勉強、受験に振り切った」みたいな。なんか、それぐらいの、短期間だから、それぐらいやってもよかったかなっていうのは、すごいね、後々思っていて。だいぶ大人になってからこれは観たんですけど、やっぱり、すごい人っていうのは、やるべきときはもうバシッと、完全にそっちに振り切ってやるっていうのは、ほんとにすごいことだなと思って、あの17歳のときに観せてあげたかったなっていう、自分にですね。これを当時の自分が観て、響くかっていうのは、またわかんないんだけど(笑)。でも、そういう中途半端にやったことって、結構後悔したりするじゃん。それだったら、やらなくても、どうせやるんだったら、一生懸命ちゃんとやったほうが良かったっていう思いがすごいあったので、これはなんかそういうのを感じた作品だったので挙げてみました。
有坂:これ、やっぱり実話じゃない?
渡辺:そうそう。
有坂:だからね、高校生に響くのは、「映画って結局、嘘じゃん」って言いたがる時期じゃない。だけど、「いや実話ですから」って言った時の説得力。
渡辺:そうね。
有坂:実話ものの強さ、『インビクタス』とかもそうだったけど--っていうのはね、やっぱりこの年齢の子におすすめするってなったときの一つの判断材料になるかもね。
渡辺:うんうん。このときはね、土井監督ってまったく意識していなかったんだけど。
有坂:そうだね。
渡辺:割とね、いい映画、撮っていたりするね。
有坂:あと、ギャルも好きだもんね!
渡辺:いやいや、言ったことないでしょ(笑)。初めて聞いたわ!
有坂:そうだっけ? そっかそっか(笑)。
渡辺:有村架純はよかったです(笑)。
有坂:はい、じゃあ、僕の3本目は『ビリギャル』から、まったく反対まで振り切ります。



有坂セレクト3.『時計じかけのオレンジ』
監督/スタンリー・キューブリック,1971年,イギリス,137分

渡辺:おおー、やばいじゃん!
有坂:やばいよ! これからもう物語を説明するのも、ちょっとはばかられるぐらい。これ観たことがない人、『時計じかけのオレンジ』を観たことない人って、どれぐらいいますか?
渡辺:タイトルはね。有名だから。
有坂:(コメントを見ながら)気になるけど、怖くて観られないって人もね……。あれ、ないですよね、ない、観たことない人ばっかりだ。
渡辺:そうなんだね。
有坂:やばい、えっとですね。これ、あのスタンリー・キューブリックっていう、『2001年宇宙の旅』をつくった、もう映画史に残る名監督の代表作の1本なんですけど、ここに書いてあるあらすじを読んでもね、結構すごいハードな、今観てもハードな内容です。まあ、アレックスっていう非行少年が、もうとにかく暴力とか、もう自分の欲求のままに、なんていうんだろう、暴力だったり、もう非行に明け暮れる日々を過ごしてるんですよ。で、あるとき、その彼が、アレックスが逮捕されて刑務所行きになるんですけど、そこから、今度、国がこういう非行に走った人間を更生させられるかどうかみたいな。そういう実験をするときの被験者になっちゃうんですよ、アレックスが。なので、ちょっと言い方違うかもしれないですけど、加害者だったのが映画の後半では逆に被害者になるっていう、ちょっと2部構成みたいな内容になってるんですけど、まあ、その1部のアレックスが非行に走っているところは、まあ彼がですね、ホームレスを、寝ていたホームレスをこう殴る蹴る。仲間と一緒に。
渡辺:ひっどいよね。
有坂:酷いシーン。なんですけど、なんで、この映画が、僕がここで挙げたのもそうですし、これだけ評価が高いかっていうと、とにかくその映像の美しさとか、あとはその美術も、このパッケージからも、「なんだこの世界観!」っていう、ちょっとゾクゾクってするような世界観が、まず完璧にでき上がっているんですね。だから、その暴力をしているシーンも、なんかトンネルの中でこう殴る蹴るをしているのを結構引いたところから撮っているんですけど、そのすごい光が反対側から差し込んでいて、影がこうすごい伸びるんですね。映像的にはその光と影のコントラストがすごい美しいっていう映像なんですけど、そこで行われてることは、ものすごいひどいことが展開されている。で、その映像にベートーヴェンの第九がかぶさったり、なんか、そのシーンに合わない曲なんじゃないかなと思うんですけど、その第九がはまりすぎていて、今度その音だけ聞いたときに、その映像が蘇ってフラッシュバックする。
渡辺:うんうん。
有坂:っていうぐらい、ある意味、それもキューブリックの発明と言ってもいいんじゃないかなと思うんですけど、やっぱり映像、映画っていうのは、映像と音でできてるものなので、そういった物語をどういう映像で、そこにどういう音楽をつけるかっていうことに長けたのが、スタンリー・キューブリックという監督です。で、なんかね、この映画は、当時、その1970年代でも、もう大問題、社会問題になって、この映画のアレックスに影響を受けて同じような犯罪をする若者が急増したんだって。
渡辺:うん。
有坂:で、そんな映画をつくったスタンリー・キューブリックに対して、今度は、いろんな人から脅迫状みたいなのがキューブリックのもとに届いて、で、もうだんだんこれ上映ができる空気じゃなくなってきて、キューブリックの判断のもと、上映を中止したんだって。
渡辺:おお。
有坂:中止というか、禁止、「もう禁止してください」って。そうじゃないと、たぶん自分の命も危ないぐらいだったらしいんですけどで、一切、もうその後、イギリスでは上映ができなくなってしまって、なんとキューブリックが生きてる間は1回も上映できなかった。
渡辺:ええ! そうなんだっけ。
有坂:そう、それでやっと公開できたのが、2000年。2000年まで、イギリスでは『時計じかけのオレンジ』が公開できなかったっていうぐらい、社会問題になった映画なんですけど。でもね、アメリカのアカデミー賞では、その1971年の作品賞とかね、監督賞にノミネートされてるの。でも、最有力って言われていたんですけど、結局、『フレンチ・コネクション』って映画が獲ったんです。だけど、『フレンチ・コネクション』、あ、監督賞も獲ったんだ。で、その監督はそのときのインタビューで、「この年の監督賞は僕じゃなくて、スタンリー・キューブリックだ」って、そう認めるぐらい、やっぱり作品としての完成度が圧倒的に高い。で、その暴力っていうのも、なんっていうか、快楽としての暴力が物語の中では描かれているんですけど、もちろんそのメッセージは、もっと深い意味が作品としては込められている。ただ、それを受け取る側が、どういうふうに解釈するかってところで、当時の若者たちは間違って解釈してしまって、社会問題になってしまった。で、だんだんだんだん時間とともにこう俯瞰して、この映画のことを観ることができるようになると、改めて名作だし、メッセージとしても大切なメッセージもあるし、ということで、アメリカ議会図書館っていうところでは、「文化的、歴史的、美学的にとても重要な作品」と評価されて、今、国立フィルム登録簿に保存されている。
渡辺:うんうんうん。
有坂:そんなに保存されてる作品ってないらしいんですけど、その中の1本に『時計じかけのオレンジ』は選ばれている、ということなので、確かにちょっと暴力的なシーンが苦手って人にはすすめられないんですけど、作品として素晴らしいものであることも確かなので、何か自分の心のタイミングと合ったときに観ていただきたいなと思う1本です。で、なんで17歳のときに観たかったかっていうと、やっぱりね、表現として圧倒的じゃない? この映画って。
渡辺:うん。
有坂:で、もし、17歳で僕がまだ映画に全然興味がないときに観たら、やっぱり、もうとにかくショックで、何かが変わったと思う。
渡辺:暴力に狂っていたんじゃない(笑)。
有坂:そっちには絶対行かないね。
渡辺:刑務所行ってたんじゃなない(笑)?
有坂:ないない。でも、やっぱり映画って、自分が想像していたものと全然違うなってものでも、映画のなんか魔力みたいなものに吸い寄せられたんじゃないかなってぐらい、やっぱりこう若い頃に観たほうが、いい意味で影響を受けられる1本かなと思うので、今回挙げてみました。
渡辺:観なかったから、よかったかもしれない(笑)。
有坂:まあね、どっちもあるかもね。そうね。コメントにも、「人生変わりそう」と。
渡辺:まあでもね、観てない人が多かったから、これはもうほんと名作なんで、この機会にぜひ!
有坂:『雨に唄えば』っていうね、あの映画が大好きっていう人は、絶対観ないほうがいい。
渡辺:すごいオマージュの仕方していますからね。
有坂:あそこが、もう最大の名シーンなんだけどね。
渡辺:なるほど。また振り切ったねー。じゃあ、僕の3本目は割と最近の映画です。



渡辺セレクト3.『スウィート17モンスター』
監督/ケリー・フレモン,2017年,アメリカ,104分

有坂:うんうん。
渡辺:これは2017年なんで、割と新しい作品なんですけど、「17歳」ってつく映画って結構あるじゃん、タイトルで。割と17歳っていう映画、すごい多いなと思って。で、なんか17歳が主人公の作品ってどんなのかなと思ったときに、この作品はすごく好きだったんで。それで、ちょっと自分が昔思っていたアメリカの17歳と違うなと思ったタイプの作品だったんで、そういう意味でちょっと紹介したいなと思ったんですけど。割と昔の映画だと、アメリカの高校生ってキラキラした青春映画が結構多かったりしたんですけど、これはもう今時の作品っぽくて、思いっきりこじらせ女子が主人公の作品です。なんで、こじらせ女子映画のトップ3ぐらいには入ってくるタイプの作品かなと思います。で、17歳のこのパッケージの女の子が主人公なんですけど、とにかくいろんなことがうまくいかなくて、「私、あとは自殺するだけです」みたいなことを、先生に告白するっていう。まあ、そこから物語が動き出してっていう話だったりするんですけど。なんか、自分が高校生のときに観ていたような映画だと、ほんとにアメリカの高校生って、もう「ウェーイ!」みたいな。
有坂:(笑)
渡辺:アメフトやって、チアリーダーと付き合って、なんかもう「ウェーイ!」みたいな。割とこの今って、いじめられてる側が主人公だったりとか、そういう作品って結構多くなってきたけど、昔って結構逆で。
有坂:勝組だよね。
渡辺:そうそうそう、勝ち組の映画が多かったから、そういうものなんだろうなと思っていたけど、なんか割とそうじゃない側に視点を当てた作品っていうのもあるよみたいな、アメリカでもそうだよみたいなことを、なんか昔の段階でもっと知っておきたかったなっていうのは、すごい思って。
有坂:そうだね。
渡辺:なんか、その実態を知れていないというか、一部の表面的なところしか知ることができていなかったなっていうのはあったので。そういうのを知っていたら、すごい安心感にもなるし、いろいろ価値観も変わったんじゃないかな、っていうのがあって。いろんな価値観を知ることができるし、等身大の17歳っていうところで、それを知ることができるっていうのは、すごいいいなと思ったので、こういう作品を観ておけたら、また変わったんじゃないかなと思って挙げた1本です。
有坂:これ、あのウディ・ハレルソンがね、教師役で出て、あの先生も変じゃん。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:だから、やっぱり高校生の頃って、良くも悪くもピュアで、もう実直なときに、なんかほら、「高校生とはこういうものだ」って決めてかかると、そのレールから外れちゃいけないとかさ。特にうちらが高校生のときって、やっぱりそういう勝ち組の映画とかねドラマばっかりだったから、やっぱり「そうならなきゃ悪」みたいな。でも、みんな個性は違うし、それぞれにいいところがあってってことを、もっといろんな映画から知ることができたらいいなと思って。やっと、だから時代が追いついてきた感じだよね。
渡辺:そうだよね、ほんとに。
有坂:これはもう、『スウィート17モンスター』はアメリカ版『勝手にふるえてろ』だね。
渡辺:そうだね。
有坂:松岡茉優のね。
渡辺:あれもすごいですからね。松岡茉優、天才だなって思ったね。
有坂:天才だね。キノ・イグルーでも、上映したね。クラスカののルーフトップシネマで、『スウィート17モンスター』やりましたね。
渡辺:割と旬なタイミングでねやったもんね。
有坂:そうそう。で、あの、80年代とか90年代でいうと、いわゆるマイノリティって呼ばれるようなグループじゃない? こじらせている人とかって。でも、そういう人が主人公になってきて、もうもはやマイノリティじゃない。いつの間にかそういう時代になってるわけじゃない、今って。なんかこう名画座の2本立てとかで、なんか同じような、例えばその勝ち組の時代の映画と、『スウィート17モンスター』の2本立てをやることで、このアメリカの30年がわかるみたいなこととかも、検証してみるのも面白いかなって今ふと思っちゃいましたが。はい。じゃあですね、僕の4本目は、また全然違うタイプの映画です。



有坂セレクト4.『存在のない子供たち』
監督/ナディーン・ラバキー,2018年,フランス、レバノン,125分

渡辺:おお!
有坂:これもヘビーだね。
渡辺:そうだね。
有坂:『時計じかけのオレンジ』よりも、もっとリアルな、ちょっとシリアスな内容の映画になっています。これは、主人公が12歳の男の子です。これ、予告編とかでも使われていたけど、12歳の男の子が裁判を起こした。その訴えた相手が……
渡辺:なんとね。
有坂:なんと自分の両親なんですね。で、「何の罪で?」って聞かれたときに、その12歳の男の子は「両親が僕を生んだ罪」と答えたっていう、もうほんとに想像するだけで悲しくなる、なんで僕を産んだんだっていう男の子が主人公です。で、まあ、とにかく貧困で、生きることがほんとにままならないみたいな両親が、子どもを捨ててしまうんですけど、捨てられても彼は生きていかなきゃいけないわけで、なんとか生きていこうとストリートで物を売ったりとかして頑張るんだけど、もちろんできることは限られているし、さらに彼はその出生届を両親が出してないから、そもそも自分の誕生日も知らないし、で、ある意味は法的にはね、社会、この世の中に存在していないっていう。だから、『存在のない子供たち』っていうタイトルになっているんですけど、それぐらい日本に住んでると、ちょっと想像することがなかなか難しいぐらいのかなりハードな環境で育った男の子が主人公の映画です。まあ、その中で、彼がストリートで頑張って一人で生きていこうと思う中で、ちょっとした出会いがあって、少し家族の温かさに触れたと思ったら、そのお母さんと小さい赤ちゃんだよね。
渡辺:うん。
有坂:なんか、赤ちゃんいるお母さんと二人で知り合ったんですけど、今度、そのお母さんがいなくなって12歳の男の子はなんと一人で生きていくのも精一杯なのに、赤ちゃんと一緒に生きていかなきゃいけなくなるっていう。もう、ほんとに喋っててちょっと泣きそうになる、過酷すぎて。その彼の人生を描いた作品なんですけど、もちろん内容はシリアスだし、変にこう夢見物語みたいにした作品でもないけど、ただただ重くて暗いだけの映画ではないなと思っていて。
渡辺:そうだね。
有坂:それはやっぱりね、映像が綺麗だったり、なんかね、所々から感じる優しさみたいなものがあるんですよ。これってなんか男女論で語るのはちょっと違うかもしれないけど、この映画って女性監督がつくっていて、やっぱりなんかね、母性に包まれてるなっていう安心感は、なんか俺はあったんだよね。
渡辺:うんうん。
有坂:ほんとに辛いんだけど。だけど、やっぱりその辛いなりに、こういう男の子を主人公にして作品をつくりたいって思っている監督の思いもあるわけだから、これは中途半端な内容にするよりは、やっぱりもう振り切ってどれだけ大変かってことを世界に向けて発信する、っていうところでつくられているので、辛さはあるんですけど、でも、僕は、これを例えば高校生のときにもし観ていたら、やっぱり今自分がいる日本ってどれだけ安全で、安心で、もちろん皆さん環境は違うので一概には言えないんですけど、恵まれているか、って思います。
渡辺:うんうん。
有坂:で、映画を観ることの良さっていっぱいあると思うんですけど、その中のひとつにやっぱり、例えば、ほんとになんだろう、こう自分の今食べたい、もうお腹すかせて何か食べたいんだけど、食べるものもないとか、あともういろんな不自由で、日常的な当たり前の生活もできない人が、例えば主人公とか、そういう映画も多いじゃない? だけど、そういう人でもやっぱり前を向いて生きていこうって思うものを、高校生のときに観ていたら、ほんと奮い立つと思うんだよね。なんか恵まれてるし、やれることももっとあるし、いろんなことに甘えていたなっていう気づきになる。自分のことを客観視できるきっかけになるのが映画のいいところだと思いますし、この『存在のない子供たち』ぐらいの振り切った内容だと、どれだけ影響受けちゃうかなっていうぐらい、その当時の自分にちょっと観せたいなって思う1本です。
渡辺:すごいとこ来たねぇ。
有坂:そう、やっぱり想像したらね。なんかせっかく、何を観てもさ、吸収できる年代だからいいんだけど、それを振り切るとどこまで行くかなと考えた結果、レバノンの。
渡辺:移民だっけ?
有坂:移民じゃなかったかな。
渡辺:これはでもね、さっきFilmarksのページが出ていましたけど、めちゃくちゃ高評価。すごい評判いいんですよね、これ。僕もこの年の確かトップ10に入れていたと思うな。
有坂:僕も入れていた。
渡辺:これはほんとに出来がいい作品なんですよね。ほんとにか、設定はめちゃくちゃ辛いけど、割と眼差しは優しかったりするので。
有坂:あっ、そうだ、これ難民の子なんだ。
渡辺:そうだよね。
有坂:そう、しかもね、この主人公のこのゼインって男の子は、本当にリアルな難民なんですよ。ただ、演技経験ゼロ。でも、その難民の子じゃないと、やっぱり醸し出せないようなオーラみたいなものが、やっぱりこの映画にとっては大事で、そういう人からキャスティングしたって言っていたので。だから、映像から感じる説得力はすごいあるよね。
渡辺:そう、なんか中東のね映画で、いいのがちょいちょいあるからね。
有坂:あるよね。なんか、あの子のなんだろう、まだ12歳とかでさ、小学生ぐらいなのにさ、なんか、もうすべてを悟っちゃっているような、なんか目にすごい、こうよく言えば落ち着きがあるっていうか、でも、なんか悟っちゃってるような、もっとなんか12歳だったらね、はっちゃけていいのに、そういうことも許されないような環境に育ったやっぱり子どもにしか醸し出せないようなものは、やっぱり伝わってくる映画だと思うので、ぜひ観てほしいなと思う1本です。
渡辺:なるほどね、これは全然かすりもしなかった(笑)。はい、じゃあ、僕の4本目は、こちらにします。日本のアニメーションです。



渡辺セレクト4.『時をかける少女』
監督/細田守,2006年,日本,100分

有坂:あー、うんうんうん。
渡辺:これは細田守監督のアニメ版のやつですね。で、これも、もう高校生が主人公の話なので、そういう等身大のもので、同じ高校生として観られていたら、もうこれはドハマりしていたんだろうなと思う作品だったので挙げました。これは結構有名なので、内容とかはご存知の方も多いと思うんですけど、まあ「タイムリープ」できるようになっちゃった主人公が、高校生なんでタイムリープを面白がって、遊んでどんどん繰り返していたら、実はリミットがあってとか、なんでできるようになったのかっていうと……みたいなところが明らかになってくるみたいな話なんですけど、やっぱり面白いのが、そういうタイムリープとかっていうSF的な要素がありつつ、青春ものとして、すごくいい映画だったりするので、まあ、特にアニメだし、なんかこういう時期に観られて、等身大の高校生として観られていたら、ほんとにのめり込んだだろうなって思ったので。こういう名作に、やっぱり同じタイミングで出会えていたら、どれだけ興奮しただろうと思ったので、ほんとに、これはちょっと、まあ、大人になってからも大感動するんですけど、これはなんか同じ高校生のときに観たら、またちょっと受け取り方が、だいぶ違ったんだろうなと思って。
有坂:違うだろうね。
渡辺:それでこれだ! と。
有坂:高校2年生なんだね。まさに17歳なんだね。
渡辺:で、こう男2人、女の子1人みたいなね、関係性だったりとか、まあこれはキノ・イグルーでもやりましたね。
有坂:やりましたね!
渡辺:とんでもない人数で。
有坂:はい。東京国立博物館で、5,000人ぐらいの。
渡辺:野外上映を。しかも、この映画は、「魔女おばさん」っていう、おばさん、理解のあるおばさんがキャラクターとして出てくるんですけど、その魔女おばさんが働いている設定になっているのが東京国立博物館。
有坂:そうそう。
渡辺:まさに聖地で、野外上映をやるっていう。
有坂:そうだね、あのときは『時をかける少女』を上映して、その日は特別に夜まで開館してもらって、映画を観た後に、さっき観た映画の世界を、今度は自分が体験できるっていう内容のイベントにして、初めてのあれだよね、東博(東京国立博物館)でのイベントだったので、その聖地で観られる。しかも、リアルに上映後に体験できる。「この内容でやってお客さんどれくらい来てくれるかな。椅子1,000席あるし、1,000人超えたらどうします?」って、最初冗談で言っていたら、ふたを開けたら5,000人近く来たっていう。
渡辺:すごかったよね。
有坂:でも、なんか覚えているけど、その東博ファンのおばあちゃんの横に、ほんとに、この映画の主人公みたいな制服を着た女の子が観ている絵がね、あの背中が忘れられない。なんか、やっぱ、それをなんかこう望んで、若い人にも東京国立博物館を楽しんでもらいたいっていうことで、あの野外上映っていうのは、毎年アニメーションっていう縛りでやっているのでね。まさに、その絵がね。
渡辺:だから、あの高校生は幸せもんだよ。
有坂:ほんとだよね。もっと感謝してほしいね(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:しなくていいよ、全然。自分なりに楽しんでくれていれば。
渡辺:ほんとにね、羨ましい。高校生のとき、これちょっと観たかったなっていう。
有坂:そうだね。「いっけええ!」っていうのを、あの野外の解放的な中で思い出すとちょっと興奮してきました。
渡辺:(笑)。そういうね、まさに青春映画を挙げてみました。
有坂:(コメントみながら)クラスの中で、千昭がどハマりしていた女子が多発。
渡辺:いいね。いいエピソードですね。
有坂:じゃあ、僕の最後5本目はドキュメンタリー映画です。



有坂セレクト5.『マン・オン・ワイヤー』
監督/ジェームズ・マーシュ,2008年,イギリス,95分

渡辺:ええ!!
有坂:これは、2008年の映画で、フランスの大道芸人、フィリップ・プティって人がいるんですけど、この大道芸人がとんでもない男で、なんとアメリカの今はなき、ワールドトレードセンターの2つのタワーを使って、綱渡りをするんですね。しかも、命綱もつけずに。つけようがないけどね。ということを実際にやったんですよ。やった男がいて、それを当時関わっていたスタッフのインタビューとか、残された映像で、実際にその綱渡りしてる映像とかもあるんですよ。で、いろんな記録写真とか、いろんな角度からこの1974年の8月7日のあの伝説の1日を振り返るドキュメンタリー作品になってます。(パッケージを見ながら)これですよ、これ! こわ! もう風も、もちろん、すべて計算して、「この天候であればいける」っていう日を選んで、彼は実行するわけですけど、ほんとにミリ単位で何かがくるったら、即、命を落としてしまう。で、「なんでそんなリスクしかないようなことを、あなたはやるんですか?」って劇中にもインタビューされているんですけど、彼は、あんまり理由はないというか、もうほんとに自分の中ではシンプルで、「挑戦し続けることが人生だ」って言ってます。
渡辺:(笑)
有坂:まあ、彼なりに多分、いろんなことに挑戦してきた人生で、その流れの中で、このワールドトレードセンターを使って綱渡りをするっていうアイデアがひらめいて、もうひらめいた以上、やるしかない。やらないっていう選択肢は、きっと彼の中にはなかったんだと思います。で、これは当然、許可を取ってやれることではないですよね。ゲリラでやっているわけです。なので、やっぱりもういろんなこのロープだったり、ロープを止める金具だったりとか、全部そういったものを持ち込んで、どうやってまず屋上まで行くかとか、そういったものもきちんと事前に固めた上で、実行してるので。そんな勢いだけで、できることではないよね。もちろんバレたら、逮捕されることは間違いないという。まあ、成功したって逮捕はされるんですけど、それでも彼は、やっぱりやるっていうことを決めて、この写真にありますけど実行してしまったわけですね。
渡辺:観ているだけで怖いもんね。
有坂:ほんとに怖い。高所恐怖症の人はね。もう耐えられないかもしれないですけど、なんでこれをね、挙げたかっていうと、この作品の中でビルのガードマンっていうのかな、が、当然、彼を止めなきゃいけない立場で止めるんですけど、後々のインタビューで、「すごい美しいものを観てしまった」って。
渡辺:うん。
有坂:もう、自分の仕事、やらなきゃいけないこととかを超えて、「もうこの世のものとは思えない美しいものを観てしまった」みたいなことを、そのガードマンだったり、あとはそれを地上から観ていた人たち、「天使がいると思った」って言っていて。で、どうしても人間って、やっぱり関係性の中で生きているから、迷惑をかけちゃいけないとか、そういう理性とかそういうところからいろんなことを考えがちだけど、ほんとは別にそういうのに縛られないで、もう人間だって動物だし、「まずやりたいこと何?」ってなったら、「ワールドトレードセンターで綱渡り」ってことだと思うんですよ。ただ、そのやっぱり人々の理解を超えるようなことをやりたいって、実行してしまったときの感動っていうのは、やっぱりね、言葉なんかでは説明できないようなものなんですよね。心がとにかく動いてしょうがないみたいな。だから、逮捕されるんだけど、みんなから祝福されているっていう。ほんとになんだろう、もう理解なんかとてもできないような世界が、このドキュメンタリー映像には込められています。これをやっぱり高校生のときとかに観たら、別にこれを真似したいとはまったく思わないけど、自分のやっぱり思考とかを、もっともっと、もっともっと広げていいんだなって思えたことは間違いない。凝り固まっちゃいけないなとか、何かそういうヒントはこの映画が与えてくれたんじゃないかなと。
渡辺:なるほど。
有坂:で、これ後にアメリカで映画化されて、フィクションとして映画化されて、あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキスが監督して、『(500)日のサマー』のジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演したフィクション版もあります。
渡辺:3Dでね。
有坂:そうそう。で、キノ・イグルーではね、田町ビルの屋上で、この『ザ・ウォーク』という映画を上映しました。それはもうね、びゅうびゅう風を受けながら『ザ・ウォーク』を屋上で観るっていうね。あれはある意味4D上映だね。
渡辺:そうだね(笑)。
有坂:っていうのをやりましたけど、ぜひ、なんかこう自分の想像をはるかに超えたものを観たいっていう方には、ぜひおすすめの1本です。
渡辺:最近さ、ニュースで見た? あのフランスのクモ男って知ってる?
有坂:知らない。
渡辺:知らない? クモ男って言って、スパイダーマンって言われているんだけど、ビルをよじ登る人、命綱なしで。
有坂:なんか見た気がする。
渡辺:で、その人何回もビルを無断で登って、登頂してっていうことをやっているのね。それでこの前、つい最近もやったんだけど、その人の60歳の誕生日で登った。で、毎回逮捕されている。
有坂:同じだね!
渡辺:そう、フランス人で。なんかあるんだろうね、大道芸人魂みたいなものが。
有坂:でも、やっぱり、そういう意味でフィリップ・プティが、その基準を上げたわけじゃん? ワールドトレードセンター、やろうと思えばそこまでいけるよって。
渡辺:その人は、なんか60歳でも、やればできるってことを伝えたかったみたいなメッセージを残して、逮捕されていったんだけど。
有坂:ロマンがあるね。
渡辺:つい最近だよ。
有坂:そっか。
渡辺:ここ1週間ぐらいのニュースだと思います。いるんですよ、そういう人がね。
有坂:いいね。そういう世界であってほしい。
渡辺:なるほど。じゃあ、僕の最後は、日本映画です。



渡辺セレクト5.『七人の侍』
監督/黒澤明,1954年,日本,207分

有坂:おお!
渡辺:これは黒澤明監督のもう名作中の名作ですけど、これはやっぱり僕が、初めて観たときに、とにかくめちゃくちゃ面白いと思ったんですよね。で、白黒の映画っていうだけで、敬遠していたりとか、日本の昔の映画っていうだけで敬遠していたっていうのがずっとあって。まあ、特に高校生の頃なんて、ハリウッド映画しか観ていなかったんで、まったく眼中にもなかった。
有坂:「眼中にもない」ってなんか懐かしい(笑)。
渡辺:(笑)。ほんとにそんな世界すら知らなかったっていうところだったんだけど、やっぱり観たら面白いので、本当に世界が広がるっていう経験をしたので、そういったものをやっぱりほんとに高校生のときから感じられていたら、全然違っただろうなと、思いました。まあ、それは映画っていうのもそうだけど、映画っていうところ以外にも、なんかこう食わず嫌いとかっていったもので、知らなかった世界っていうのを、ほんとに1歩踏み出すだけで、だいぶ広がるっていうことを、僕は本当に『七人の侍』っていうので感じたので。
有坂:うんうん。
渡辺:これはなんて言うんですかね、日本の古い映画だけどアート寄りというよりも、完全にエンターテインメントで、ハリウッド映画好きな人が大好きっていうタイプの作品なので、ほんと高校生のときの自分でもハマれただろうなっていう、ある程度いろんな経験を積み重ねて大人になったから理解できるっていうことって、映画とかすごいあるんですけど、そういうのを抜きにこれは楽しめるタイプの作品なので、これをね、高校生のときに味わっておきたかったなと思って挙げました。
有坂:実際、ジョージ・ルーカスとかね。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:そのアメリカのコッポラとか、スピルバーグとかが影響を受けている監督だし、作品でもあるので。
渡辺:黒澤明の撮影に来ていたりとかしていた。
有坂:そうそう。
渡辺:『スター・ウォーズ』なんか結構有名ですけど、あのC-3POと、えっとR2-D2のコンビは、『隠し砦の三悪人』だっけ。
有坂:うん。
渡辺:そのコンビだったりとか、もうそもそもね、『スター・ウォーズ』の世界観、着物を着て、剣を差しているっていう、あの世界観がもう侍の世界観だったりとかね。黒澤の影響を受けまくりという、そのぐらいやっぱりエンタメとして面白い作品で、あのこの『七人の侍』のエピソードがすごい、制作のときのエピソードが面白くて、黒澤明が結構潤沢な資金を前半で使い切っちゃったらしいんですね。で、困ったプロデューサーが試写を開いて、東宝の重役を招いてやったらしいんですね。
有坂:前半部分だけのね。
渡辺:そう。で、いよいよ山賊が来て、屋根の上に三船敏郎が乗って、「あいつらが来やがった!」みたいな、いよいよこれからいいところっていうところで終わったっていう。で、東宝の重役は、「なんで途中で終わらせるんだ」って言ったら、ここで制作資金が実はなくなっちゃって、あの追加資金が必要ですって言ったら、重役たちが続きが観たいって言って、追加資金を出したっていうね。
有坂:出すよね。
渡辺:っていう有名なエピソードがあるぐらい、もうほんとに面白い作品です。なのでこれはほんとにね、ちょっと観ていない人はもったいないんで、ぜひ観てほしいですし、世界がやっぱり黒澤、小津とか、溝口みたいに言う監督の本当に代表作なので、日本人としてやっぱり観ておいたほうがいい作品ですね。これはもう世界に誇れる名作だったりするので、そういう意味でちょっとこれは高校生のときに体験しておきたかったなという。
有坂:覚えてるけど、その映画に自分がハマって、昔の映画とかを観るようになったときに、順也が「お前、黒澤は見たほうがいいよ」って、「『七人の侍』を観ろ観ろ」ってすっごい言われた。
渡辺:言った?
有坂:だけど、言われれば言われるほど観たくない(笑)
渡辺:(笑)
有坂:天邪鬼だからね。母親からも、『ウエスト・サイド物語』は観たほうがいいって言われて、その2本はね、やっぱりちょっとね、そういうふうに言われなかったら観ていたのに(笑)。
渡辺:なんだよ、それ(笑)!
有坂:(笑)。いや、でも、それで『七人の侍』をなんか自分のタイミングが来て、劇場で観たんだよね。ほんと震えました。僕、どっちかというと洋画から入って、洋画の方がたくさん観ているんですけど、だからこそ、昔の日本映画って一番ハードルが高かったんだよ。モノクロで、「しっとりしてるんだろうな」「じめっとしていて、ちょっとこう湿度の高い感じの映画かな」と思ったら。
渡辺:はいはい。
有坂:もうどんなハリウッド映画よりもカラッとしたアクションで、日本人がこんなダイナミックな映画が撮れるんだってことは驚きだった。
渡辺:確かに。
有坂:なので、それはもう多分黒澤明の唯一無二の才能で、それがやっぱり日本っていう枠を飛び越えて世界に影響を与えて、今でもあれだもんね、世界の映画史ベスト100みたいなのだと、もうほんとにベスト5に入るような。
渡辺:そうだね。
有坂:名作の1本なので、ぜひ劇場で観られると最高だね。
渡辺:そうだね。たまにやるよね。
有坂:やるやる。なるほど、そうきましたね。


──


渡辺:いや、全然かぶらなかったね。
有坂:そうだね、見事に。じゃあ、実際に今日ね10本紹介しましたけど、みなさんも観た映画、観てみたい、これ観たいなと思う映画とかありましたか? 1本、2本でもね。みなさんの映画ライフに貢献できるものが。
渡辺:全部観ている人がいたらすごいよね。
有坂:うん、でもいるよ。(コメント見ながら)おっ、『シェフ』。「また『時かけ』を観たくなりました」。うんうん。何度観ても面白いよね。
渡辺:そうだね。
有坂:「まずはシェフを」、うんうん。その裏のストーリーを今日語ってしまったので、多分、もう涙なしには観られないと思います。
渡辺:主人公のおじさんがね。まさか、そんな監督もやっている、すごい人だとはね。


──


有坂:はい、ということで、今月の会は終了となります。まあ、告知的なものでいうと、もう今回はあれですよ。ついに多摩川に帰ってきましたよ!
渡辺:そうだね。
有坂:「もみじ市」。僕たちも、もう「もみじ市」のためにつくったテント映画館で、今年も参加することが決定しました。拍手!!
渡辺:青いテントで、お待ちしております。
有坂:何年ぶり?
渡辺:3年?
有坂:あのテントね、もうどうなることやらと思ったけど、今年はついに。 渡辺:みんな反応してくれて。
有坂:10月15日(土)、16日(日)の2日間です。で、2日間ともテント映画館はオープンします。予約制とかではないので、(画面を見ながら)あっ、これですね。この青いテントがね、河川敷に立ちます。この中に15人ぐらい入れるんですけど、短編を2、3本観られる、買い物感覚でサクッと映画が楽しめる。もう、この2日間限りの映画館なので、ぜひこの受付に来て、「この回予約します」って言ってもらえれば入れますので。
渡辺:お子さんだけでも大丈夫なので。
有坂:大丈夫。託児所みたいになったりする。たまにね(笑)。なんか、そのときはぜひ、この「ニューシネマワンダーランド」を観てますよとか、声かけてもらえると、僕たち相当喜ぶので、お願いします! はい、これから準備を始めないとという感じですけども。あと、あれか「もみじ市ラジオ」にもね、出ることになったりしていますので。
渡辺:あ、そうなんですか?
有坂:その辺りもまた追って、Instagramでお知らせもしますので、ぜひチェックしてください。では、今月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これをもって終了となります。今日もみなさん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!
有坂:『時計じかけのオレンジ』観ちゃダメですよ〜!
渡辺:(笑)。いっぱい観てください!!


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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe