あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「やさしさに包まれたくなっている人のための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『ぼくは川のように話す
著・文/ジョーダン・スコット,イラスト/シドニー・スミス,翻訳/原田 勝,発行/偕成社




さっそくなんですがこれ、今年の個人的ナンバーワン絵本です。吃音をからかわれて苦しむ子どもとその父親の物語なんですが、絵もことばもストーリーも、すべてが最高・最高・最高。からかいや冷笑を押しのけて、こんな美しい川に心ごと飛び込みたい。



2.『まとまらない言葉を生きる
著・文/荒井裕樹,発行/柏書房




政治家たちが心のこもらない言葉、意味が破壊されたような言葉を当たり前に使ってのうのうとしている現実があって、どうにかして抗いたい日々ですね。わかりやすくてイージーなフレーズじゃなく、スプーンで一粒ずつ言葉の大切な魂をすくうようなエッセイ集。



3.『えーえんとくちから
著・文/笹井宏之,発行/筑摩書房




もはや伝説の1冊として本好きのあいだで語り継がれている本ですが、26歳の若さで亡くなった夭折の歌人による作品集。どんなに心が汚れてくたくたになってしまっているときでも、この本の短歌を読めば、すぐにひとり静かな森で深呼吸をすることができるんです。



4.『バー・オクトパス
著・文/スケラッコ,発行/竹書房




海底にあるバー・オクトパスはいつも海の生き物のお客さんたちで大にぎわい。彼らが織りなす人間模様(?)に毎ページ笑い、頬がゆるんでしまう。ああ、しあわせ……。ちょっとひねりの効いたユーモラスでとびきりやさしいこの世界、体験してほしい!



5.『MINIATURE LIFE at HOME
著/田中達也 ,発行/水曜社




個人的にやさしい気持ちになれるものといえば、田中達也さんのこのミニチュア写真集。人間サイズの何かとミニチュアが組み合わさって新しい世界が見える瞬間はいつも心がふわふわになります。たまにはこびとになってこの世界を見てみよう。



6.『上田淳子のチキンスープ
著・文/上田 淳子,発行/グラフィック社




心が疲れてしまったりトゲトゲしておさまらない日に、ていねいに作ったスープがあったらそれだけで少しは取り戻せそう。誰かに作ってあげるのでも、自分のために作るのでも。個人的にはつらいときなら「おいしいオムライス作るよ」より「おいしいチキンスープ作ってあるからね」のほうが泣けちゃうかも。



7.『まじめに生きるって損ですか?
著・文/雨宮まみ,発行/ポット出版




今は亡き雨宮まみさんのお悩み相談本。雨宮さんは決して「そんな男別れちまえ!」とか言わない。いや、そういう強い言葉が有効なときももちろんあるけど、雨宮さんは「わ、困りましたね」「でもここはすごいですよ」とひたすら肯定しまくり。や、やさしいよ……! やさしすぎてしみるよ!!



8.『長い一日
著・文/滝口悠生,発行/講談社




せわしないからっぽの毎日を嘆く現代人は多い。私ももちろんその一人です。こんなふうにゆっくりなんでもないような「一日」を眺めて、ていねいにすべてを感じて、感じることのひとつひとつを大事にしたい。生活、が愛おしくなる小説です。



9.『とっておきドラえもん おいしいうれしいグルメ編
著・文/藤子・F・ 不二雄,発行/小学館




最近テーマ別で新しく刊行されているドラえもんシリーズは装丁もよくて、ふと自分の本棚にも1冊差しておきたくなるたたずまい。ページをめくればなつかしいやらかわいいやらで(特に山盛りの和菓子に狂喜乱舞するふたり……和菓子ってところがまた)胸にじわーんとやさしさがひろがります。



10.『ベルリンうわの空
著・文/香山 哲,発行/イースト・プレス




ドイツに移住した著者の少しアウェイで心もとない気持ちを、受け止め、寄り添ってくれるのはいつもまわりの人たち。異国体験記として読むこともできるけど、それよりもこれは人と人のつながり、街ですれちがう人たちのやさしさの物語。やさしい世界をかたちづくるためには、まず自分もとなりにいる誰かにやさしさを差し出さなくちゃね。


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。