月刊手紙舎8月号で花田菜々子さんがセレクトした「『パソコンを捨てよ、手紙を書こう』、な本」を、手紙社の部員が選んだら? 今回は、笑える本、ジーンとする本、心がほんわかする本、クリエイティブ魂を刺激する本など、読みたい本ばかり! 選者である部員のコメントともにお楽しみください!
✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!
1. 『漂流郵便局:届け先のわからない手紙、預かります』
著/久保田沙耶,発行/小学館
どこに宛てれば良いのか分からない、そんな手紙を受け止めてくれる場所が『漂流郵便局』です。それは瀬戸内海の小さな島にあります。2013年の瀬戸内芸術祭で、あるアーティストのアートプロジェクトとしてつくられた場所です。この本には、その『漂流郵便局』のある粟島のこと、アートプロジェクトのこと、そして実際に届いた便りなどが綴られています。
実録されている便りは69編。読むと思わず思いが込み上げて涙してしまうもの、にっこり微笑んで空を見上げてしまうもの、見知らぬ人の前向きな姿に元気を分けてもらえそうな気になるものと、実にさまざま。
人のやるせない思いがネット空間で瞬く間に広まってしまい、そんな様子にSNS疲れしてしまう今日この頃な私ですが、久しぶりに思い出して手に取ったこの本。
リアルに島に届いた手紙と、穏やかな波の流れの交差する瀬戸内の波音がイメージされて、心地よい読後感に包まれました。
(選者・コメント:家猫ぐらしのカズミ)
2. 『赤崎水曜日郵便局』
著/楠本智郎,発行/KADOKAWA
手書きの手紙が大好きです。
書き手の人柄・その時の気持ち……便箋に乗って、封筒に収まって届くお手紙。ポストに入っているのを見つけると、何とも幸せな気持ちに。
『赤崎水曜日郵便局』は、「自分の水曜日の出来事」を書いて送ると、「誰かの水曜日」が代わりに届く郵便局。
手紙を通してその時にしか会えない、知らない誰かの水曜日の日常が、たくさん詰まっています。お手紙の原本が載っていることで、知らないどこかの水曜日さんがぐぐっと身近に感じられて
「うんうん、分かるよー」
「大丈夫!私もそうだったよ」
「この先はどうなったんだろ…?」
と、お手紙の文字に、心の中で話しかけてしまいます。
赤崎水曜日郵便局はその後、宮城県の古い漁港・鮫々浦で再び開局しました。是非またどこかで出逢えるといいな。その時は是非“皆さんの水曜日”を送ってみて下さいね。
(選者・コメント:あんぬぷり)
3. 『ふたりはともだち』
著/アーノルドローベル,訳/ 三木卓,発行/文化出版局
仲良しのがまくんとかえるくん。性格も考え方も違う、だけど仲良し。
大人になって読み返した「おてがみ」という名の物語に、「口に出して伝える言葉」と「文字で綴り伝える言葉」、それぞれの良さについても考えさせられました。
手紙を待つ時間、文字を読み味わう時間、カタツムリのようにゆっくりと届いた言葉は深く心に染み渡ります。
誰かに大切な言葉を贈りたくなる、そんな物語です。
(選者・コメント:澤田麻里絵<マリー>)
4. 『フェリックスの手紙』
作/アネッテ・ランゲン,絵/コンスタンツァ・ドロープ,訳/栗栖 カイ,発行/ブロンズ新社
フェリックスという名のうさぎのぬいぐるみが、持ち主の女の子と旅先ではぐれてしまいます。しばらく家でしょんぼりしていた女の子の元に……なんとフェリックスから手紙が届くのです。それも外国から!
世界各地を旅しながら、好奇心たっぷりの様子を綴った手紙は5通(実物大で付いています✉️)。家族と会話しながら進むストーリーと挿絵だけでも面白いのですが、手紙をもらった女の子になったつもりで、封筒から便箋を取り出し広げて読む体験は、大人でもワクワクするはず♪
シリーズ本が数冊あり、特に4冊目の「サンタクロースとクリスマス旅行」が読みごたえがあります。どこかで見かけたら、手に取ってみてくださいね。
(選者・コメント:はたの@館長)
5. 『ライオンのおやつ』
著/小川糸,発行/ポプラ社
小川糸さんが書いた、ホスピスで旅立ちまでの時間を過ごす女性のお話。
そこでは毎週日曜日におやつの時間があって、旅立ちを待つ人たちが、もう一度食べたい思い出のおやつのことを書いてリクエスト箱に投函します。そのリクエストたちが、自分の人生への手紙みたいで、読んでいるとなんだか胸がいっぱいになりました。悲しいとかじゃなくて、愛しいとか優しいとか、そんな気持ち。
主人公が旅立ちの時につぶやく言葉は「ごちそうさまでした」。おやつの時間を楽しみにしていた彼女の置き手紙みたいです。
小川さんは、癌で亡くなったお母様に伝えられなかった想いを抱いてこの本を書いたそうで、この本全編が、作者からお母様への手紙のようにも思えてきます。
(選者・コメント:KYOKO@かき氷)
6. 『パン屋の手紙ー往復書簡でたどる設計依頼から建物完成まで』
著/中村 好文, 神 幸紀,発行/筑摩書房
建築家中村好文さんの下に、北海道のパン職人から1通の手紙が届きます。夢のパン小屋の設計依頼です。そこから始まる建物完成までの2人の往復書簡。
北海道の自然に散りばめられるうっとりするエピソードの数々。2人の瑞々しくも味わい深い手紙による交感。こんな手紙を自分も書きたいと、ため息が出ました。そして写真! 人、パン、建物、自然。パン窯の火入れ式で流れるリュートの音までも。清々しく、温かく写し出されています。
出来上がったパン小屋の美しいこと。その暮らしに思いを馳せ、またため息。幸せなため息が漏れ過ぎてガス欠しそうです。
丁寧に作った素朴な田舎パンは、焼きたてよりも冷えてからの方がより美味しくなる。この本も読み終えてから日が経つほどに、ふわりと広がる甘い酸味と小麦の香りの様な読後感が増していきます。
いつかこのパン屋さんに行って、羊蹄山を眺めながら冷たい空気の中でカンパーニュを頬張りたいです。
(選者・コメント:田澤 正)
7. 『往復書簡 限界から始まる』
著/上野千鶴子,鈴木涼美,発行/幻冬舎
1948年生まれの女性(上野千鶴子)と1983年生まれの女性(鈴木涼美)が、1年間(2020年~2021年)にわたり手紙で語り合ったことを、1冊にまとめた本。「母と娘」「結婚」「自立」「仕事」「自由」といったテーマに、ぼんやりとした不安、あるいは葛藤をもつ80年代生まれの女性には特に響くこと間違いナッスィング。
二人の女性の言葉の切れ味(と同時に真っ直ぐ、正直なところ)に舌をまくのだが、それは、一朝一夕には生まれたものではない。歴史を知り、データを解析し、情緒に流されず、合理性を貫いた先にあるもの。Address(宛先)を見据えた先に生まれるものなのだろう。そんな言葉を、私も紡ぎたいと思った。
(選者・コメント:S<1987年生まれ>)
8. 『〆切本』
著/夏目漱石 ,江戸川乱歩 ,星新一 ,村上春樹 他,発行/左右社
明治から現在に至る名だたる作家のみなさまが「書けない」と嘆く手紙、エッセイ、日記等々、よりぬき集大成です。タイポグラフィーで構成された表紙、見返しの言い訳デザインときて、目次で爆笑できます。
I 書けぬ、どうしても書けぬ
III 〆切なんかこわくない
V 人生とは、〆切である
……ははは。 夏目漱石先生は執筆の苦痛と困難を嘆き、島崎藤村先生も寺田虎彦先生も、吉川英治先生も誠心誠意、でも書けないんです。
〆切が近づくと怪我をする野坂昭如先生(P103)。西加奈子さんは「肉眼ではね」という断り文句を検討(P179)。吉村昭さんは〆切の恐怖に耐えられず「早くてすみませんが…」(P260)と書き添え、急いで原稿を送り、質が低い原稿と編集に思われているのではと悩ましい。さらに谷川俊太郎さんによる美しい散文のテーマは「時よ止まれ」(P326)。
そう、これは〆切によってすばらしい仕事は完成する、という編集部による人生応援企画なのです。
(選者・コメント:まっちゃん)
9. 『「手紙力!」が身につく本』
編/ 花田 紀凱,発行/中経出版
この本を読むきっかけは、手紙を書く機会が増えたから。実例集が載っている本を探していました。シンプルな表紙に沢山の著名作家の名があったので、きっとすごい手紙が掲載されているのに違いないと購入。今から18年前の本です。
『週刊文春』の元編集長として知られる花田紀凱さんが、『編集会議』という雑誌の編集長時代にまとめたたこの本、いま読んでも色褪せておらず、どのページから読んでも興味ある内容ばかり。手紙に対する魅力や心に残る一通が紹介されていて、共感できます。たった一晩で文字を上手に書く方法の実例もあり、確かに手紙力もつきそうです。
たまたま見つけた本が自分的にヒットした時、人に薦めたくなります。ぜひ、お試しください♪
(選者・コメント:三重の本好きtomomi)
10. 『Letter』
著/皆川明,発行/つるとはな
ミナ ペルホネンの皆川明さんが、オンラインショップで商品を購入されたお客様にご自身の手書きの詩と写真を毎週一枚の紙に印刷し同封したものをまとめた一冊。
本はテキストのみですが「時には友人に」「時には自分に」「時には細胞に」宛てた手紙のような、感情のままに浮かんだ短い言葉が、透明な清流のように綴られています。
その時その時の自分の感情にキュッとリンクすることがあり、本当に自分に宛てられた手紙のよう。ページ通りに読むのではなく、ポストを開けた時に友人から来た手紙を見つけワクワクしながら封を開けて読む感覚で、パッとページを開き、そこにある短い言葉をちょっとだけ丁寧に心と頭に染みこませていくことをオススメします。
布装丁の金赤、箔押しの小さなドット、辞書のようなさらさらとした紙、きちんとカットされた角丸も触れているだけで心が踊る、本棚に並んでいるだけでも嬉しい本です。
(選者・コメント:みやこ)