部員が選ぶ10冊。今回は特別に、現役部員でもあるmayukoさんにテーマを決めていただきました。そのテーマとは「終わりだけど始まりの本」。すべての物事には「終わり」があるものですが、それはきっと「始まり」と地続きなはず。そんな希望を抱かせてくれる本を、部員はいかに選んだのか?
✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!
1.『裏庭』
著/梨木香歩, 発行/理論社
13歳の少女が入り込んだのは、古い大きな鏡の中にある世界。「崩壊を促す礼砲」が響く「裏庭」から、元の世界に戻るまでのお話。心を試される試練の旅です。
願いを叶えるため、元の世界に戻るために、今ある裏庭の世界を崩壊させなくてはならないと分かった時、決心します。迷いはある、けれどやらなくてはならないと頭の芯ではわかっていること。自分がこの世界を壊す、と。裏庭は、代々育まれた庭によって、次へ、また次へと豊かな土壌を受け継いできました。壊れてもすべてがなくなるわけではなく、積み重ねが一つ増えるということです。
旅を終えた少女が造り出した新しい裏庭で、礼砲は、新しい世界への祝福の音を鳴らしています。さらに豊かになった大地に木々は芽吹き、きらきらと水が輝き、小鳥が空を舞います。
私たちの胸の鼓動も「礼砲の音」。終わりに敬意を表し、始まりを祝す音が、あなたの胸からも響いています。
(選者・コメント:mayuko)
2.『はてしない物語』
著/ミヒャエル・エンデ, 訳/上田 真而子, 佐藤 真理子, 発行/岩波書店
太っちょバスチアンが、古本屋から「はてしない物語」を持ち出して、物語は始まります。本の表紙はあかがね色の絹で、2匹の蛇が浮き出ている。ページをくれば、なかは2色刷り。(そう、1982年出版の単行本そのもの)。冒険は進み、バスチアンは読者から登場人物になってしまいます……架空の世界の命運を握る少年が、物語をつむぐことで自分自身を失っていく。読者は最後まで気を抜けません。
映画にもなりましたが、原作とはだいぶん異なりました。ぜひ悪しからず原作をお楽しみくださいませ。
(選者・コメント:まっちゃん)
3.『トムは真夜中の庭で』
著/フィリパ・ピアス, 発行/岩波書店
弟がはしかにかかったため、夏休みを「庭のない」家に住むおば夫婦のもとで暮らすことになったトム。退屈しかないと思っていた休暇が「庭のない」家で見つけた庭園によって色鮮やかに変化していく。
大時計の音、モミの木、イチイの木…いくつもの「むすびめ」をほどいていく中で、トムは自分なりに時を理解するようになる。そうして「時」を「永遠」にとりかえようと試みるが…。
床下のスケート靴を見つけた時、トムはどんな気持ちになったのだろう。
自分を通り越して会話が進んだ時、トムはどれだけさびしさを感じたのだろう。
ーそして再び、二人の時は交差する。
最後はトムのおばであるグウェンおばさんの台詞で終わるのですが、これがまたとても良いのです。少女はいつも、トムと遊ぶのを楽しみにしていた。だからこそ、の表現です。
庭園や川の情景の描写が秀逸ですが、そもそも「庭園」や「川」が何を象徴するのか、作者自身の言葉も載っています。それを知ってから再度本編を読み返すと作者の緻密な意図がより深く理解できるのではないでしょうか。
そしてここの結びの一文と同じ考えを『クレヨン王国』シリーズの作者である福永令三さんも述べられていて、感慨深いものがありました。
(選者・コメント:水の庭)
4.『まいにちがプレゼント』
著/いもとようこ, 発行/金の星社
いもとようこさんの優しさにあふれるとっても素敵な絵本です。これしかないとおもいました。
プレゼントっておくりものをおもいうかべるでしょう? でも プレゼントには別の意味もあるのです。。。どんな意味だとおもいますか?
やりなおすチャンスはまいにちやってくる。あなたのためにあたらしいきょうがやってくる。大切なあなたへ。今、まさに届けたい一冊です。
はい HAPPY✨
(選者・コメント:HAPPY弥生)
著/鶴見済, 発行/筑摩書房
突然ですが、人間関係って難しくないですか? 電話、メール、グループチャット、リモートワーク、コロナ開けの対面打ち合わせ、普段の会話…。様々なコミュニケーションの形が増えた分、人間関係の悩みの種類も増えています。
「半分降りる」という、孤独感とインパクト大のタイトルですが、著者の言葉の数々が、読み手の心にそっと寄り添ってくれます。「人と合わせる」のが美徳とされやすい世の中で、生きにくいと感じている方には是非手にとってほしいです。
「この人と話す機会が多いんだけれど、気が重たいな」
「家族を大事に。と良く聞くけれど、距離を離したい」
「恋愛願望も結婚願望もないのはおかしいのだろうか」
私が本を読む時に抱いていたモヤモヤです(そんな方にも是非)。
最後にこの本を紹介してくれた友人からいただいた言葉を。
『楽しく過ごせる人と、楽しく過ごして、楽しいことだけを考える』
この本を読む方に、この言葉を添えたいです。
(選者・コメント:ジャスコ)
6.『ゆうれい犬と街散歩』
著/中村一般, 発行/トゥーヴァージンズ
東京の下町の細い路地に忘れられた植物など何気ない風景を緻密に描いている散歩マンガです。
古い街がいつの間にか新しい街に変わったり、誰かが捨てた物から生命が生まれたり、散歩は奥深い。作者の中村一般さんが、普段我々が見ているようで見ていない世界を見せてくれます。
昔飼っていた犬の幽霊と話しながら街を散歩したり、読んでいくうちに引き込まれて自分も散歩した気分になります。メッセージがありそうですが、ないような。今回のテーマがまさにそれのような。他の人の感想が気になる本です。読んだら感想を教えてほしい。
(選者・コメント:三重のtomomi)
7.『笑う手伝いはできても流したなみだを消すことはできないんだ』
著/安野モヨコ, 編集・発行/朝日新聞出版
「終わりの本」でも「始まりの本」でも無さそうですが、何かしらの「終わり」や「始まり」に読みたくなる本です。みなさんが少しでも今日より「前に進め」ますように。
安野モヨコさんの『オチビサン』に出てくる言葉をチョイスして集めてある本です。オチビサンの世界観そのままの優しい言葉がたくさん集めてあります。
前向きな言葉。
ちょっと後ろ向きな言葉。
ユーモアのある言葉。
温かい言葉。
少し寂しい言葉。
ああ、私は私で良いんだな。
この本があなたのスタートに寄り添えると嬉しいな、、、。
(選者・コメント:ゆうこスティーブ)
8.『夜明けのすべて』
著/瀬尾まいこ, 発行/水鈴社
同じ会社に勤める 山添くんと藤沢さんは「パニック障害」と「PMS(月経前症候群)」を抱えていて、物語は交互に語られる2人のモノローグで進みます。
それぞれが 自分のことを語る部分は切なくて 特に読みはじめの頃は心の痛みも突き刺さるように届いて、読んでいる私まで辛くなるよう。なのに、それぞれが相手のことを語る部分は、どこかほのぼのとした分析と優しさが伝わってくるのです。
自分自身の辛さは持ったままだけど、その人の役に立つことだったら、できるナニかがあるかもしれない。弱った心の暗がりに 少しずつ届く優しい光。
読み終わったときに 明日のはじまりを少し心待ちにしている そんな一冊です。
(選者・コメント:KYOKO@かき氷)
9.『Beginning』
著/Shelley Moore Thomas, 絵/Melissa Castrillon, 発行/Simon & Schuster/Paula Wiseman Books
種の終わりは、花の始まり。たまごの終わりは、ひよこの始まり。いも虫の終わりは、ちょうちょの始まり。こんなふうにはじまる『Beginning』は、男の子がお父さんと一緒に、二人の暮らしの中にあるさまざまな「終わり」と「始まり」をみつけていく絵本です。
詩のような文章と美しい挿絵から伝わってくるのは、自然も、宇宙も、そこに生きるわたしたち人間も、「終わって始まる、大きなサイクルの中で生きているのだなぁ」ということ。「だから、物ごとが終わることを、怖がらないで」というお父さんのセリフと、それにつづく最後のページがこれまたとてもいいのです。よし! 前に進もう、という気分になれますよ。
(選者・コメント:くらら)
10.『置かれた場所で咲きなさい』
著/渡辺和子, 発行/幻冬舎
「咲くというのは、仕方がないと諦めるのではなく、笑顔で生き、周囲の人々を幸せにすること。そして咲けない日は、次に咲く花がより大きく、美しいものとなるために根を下へ下へと降ろして、根を張るのです」
心の持ちようを変えるだけで、どんな状況でも前向きに進んでいけるよ、とそっと背中を押してくれる本です。
今自分が見えている世界よりも、世界はきっともっと広くて、まだまだ知らない楽しいことが沢山ある。そして、その楽しさを共有できる仲間がいるともっと人生楽しくなる! 私が手紙社の部員を通して学んだことは仲間と体験を共有する楽しさです。
どんな節目も終わりではなく、はじまり。置かれた場所で咲きながら、人生を一緒に楽しむ仲間を少しずつ増やして、旅を続けていきたいです。
(選者・コメント:ひーちゃん)