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あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「旅立ちの季節に。別れと出会いのための、よい本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『兄の終い』
著・文/村井理子,発行/CCCメディアハウス
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疎遠にしていた兄の、突然の死の報せ。部屋の片付けや死後の手続きのために東京から宮城へ向かった著者の怒涛の5日間を綴ったノンフィクション。といっても決して陰惨な内容ではなく、登場人物とのやりとりや著者自らの心の動きなどが丁寧に綴られ、読後はいいロードムービーをみたような爽やかな気持ちになれる。こんなかたちの別れもあるのだなあ。
2.『レニーとマーゴで100歳』(新潮クレスト・ブックス)
著・文/マリアンヌ・クローニン,訳/村松 潔,発行/新潮社
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死にまつわる明るい(?)イギリス発の物語をもう1冊。死期が近く終末期病棟で最期を迎えようとしている17歳の少女レニーは83歳のおばあちゃんマーゴと出会い、2人が生きた合計100年分の人生を100枚の絵にして残そうと計画する。短い日々の中で輝いた特別な友情に心が洗われる。
3.『旅をひとさじ てくてくラーハ日記』
著・写真/松本智秋,発行/みずき書林
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海外旅行好きな女子による写真と文章の本はよくあるもの(そして大好き)なのですが、この本がひと味違うテイストになっているのは、著者がシリアを含むイスラム圏を愛していたために途中からただの観光客ではいられなくなってしまったから。旅での出会いは「点」としてのポジティブな感想(やさしくもてなしてくれた、とか)になりがちだけど、いつか「線」になっていく。そんなことを思った1冊。
4.『針と糸』(毎日文庫)
著・文/小川 糸,発行/毎日新聞出版
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ベルリンでの暮らしのことを中心に、ラトビア、モンゴル、そして鎌倉での日々……生活の場所が変わるだけでもまるで新しい人生が始まるような感覚があるけど、そんな変化を凛とした文章で綴ったエッセイ。支配的だった母との確執や別れについても書かれていて、「人」「場所」さまざまな人生の季節の変わり目に読みたくなる。
5.『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい 部屋をめぐる空想譚』
著・文/岡田 悠,発行/河出書房新社
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別れが寂しいと思う感情は人やペットに対してだけとは限らない。そう、離れがたいモノとの別れというのもある。とはいえ、10年間飲みかけの……紅茶……? え……? というかまず腐ってるでしょ? なんていうこちらの想像を裏切るまさかの展開。いやいや一見バカバカしいようで、実はスローライフや瞑想にも通じる世界なのかもしれません(ほんとか)。
6.『そんなことよりキスだった』
著・文/佐藤文香,発行/左右社
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そもそも別れは寂しいものなのか? 失恋はつらく苦しいことなのか? 次に行けばいいじゃない。そんな言葉を体現するような俳人・佐藤文香さんの自伝的(?)恋愛私小説は「サバサバ」「肉食女子」「恋愛ジャンキー」、どんなワードも色褪せてしまうような鮮やかさで、超積極的な恋愛遍歴を描く。出会いや別れが怖い人の価値観をひっくり返すかもしれない1冊。
7.『ひらやすみ』(ビッグコミックス)
著・文/真造圭伍,発行/小学館
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たとえば学歴や年収、異性のパートナーの有無で人生の勝ち負けを決めるような考え方はもうだいぶ昔のものになってしまった感じがする。けれどじゃあどんな人生を目指したらいいのか? ていねいな暮らし? でもそれだけじゃないだろ? って疑問に答えをくれる。環境の変わる時期の不安によく効く、すてきな日常系コミック。
8.『オーラの発表会』
著・文/綿矢りさ,発行/集英社
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大学1年生の海松子は他人に興味が持てず、誰かを好きになる気持ちもわからない。本人はいたってマイペースに生きているが、ちょっとズレた言動に周囲は引き気味。そんな海松子が少しずつ外に目を向けて世界に参加し、他者とつながるまでの道のりを描いた青春小説。読めば海松子の独特なキャラクターを絶対に好きになる。
9.『大邱の夜、ソウルの夜』
著/ソン・アラム,訳/吉良佳奈江,解題/町山広美,発行/ころから
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独身時代には仲が良かったのにどちらかの出産を機になんとなく疎遠になってしまうことって「あるある」かも。男尊女卑のあり方が日本とよく似ているおとなり・韓国を舞台に、かつて仲良しだった女子2人が直面する女の生きづらさと、それゆえに壊され、またつながっていく友情を美しいトーンで描き出すグラフィック・ノベル。
10.『カミングアウト・レターズ 子どもと親、生徒と教師の往復書簡』
編/RYOJI・砂川秀樹,発行/太郎次郎社エディタス
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自分といちばん近い距離にいるはずの家族だからこそ、彼らはもう一度新しく出会い直さなければいけなかったのかもしれない。LGBTQの当事者たちとその家族や教師の、カミングアウト後の往復書簡。生々しい言葉で書きつけられたざらざらの葛藤と苦しみと、相手を思う書き手たちの気持ちが伝わりすぎて、立ち読みしていた本屋でぼろぼろ泣いてしまいました。私も少し落ち着いたら誰かに手紙でも書いてみようかな。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。