あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「こんな仲間と出会えてよかったの本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『風が強く吹いている』新潮文庫
著・文/三浦しをん,発行/新潮社




仲間の素晴らしさを味わうことができるジャンルといえばやはりスポーツ、しかも団体競技。というわけでまず最初におすすめしたいのは、箱根駅伝をテーマに描いた三浦しをんさんの超名作であるこちら。「スポーツ」も「絆」も縁遠い自分ですが、これを読んだら最高の仲間に出会えてコースを走り抜けた気分になってしまいます。



2.『待ち遠しい』毎日文庫
著・文/柴崎友香,発行/毎日新聞出版




逆に感動もしないし、ほとばしる熱い思いも青春の輝きもないのがこちら。年齢も性格も生き方もバラバラの、女3人の物語。柴崎さんの小説は、普通の人なら見落とすような細かな心の動きや、何でもないような会話がとんでもなく面白くて、いつまでも読んでいたくなります。親友や家族ではなく、こんな距離感の仲間こそいいものだなと思わせてくれる1冊。



3.『くもをさがす
著・文/西 加奈子,発行/河出書房新社




いま大きな話題となっている西加奈子さんのガン闘病エッセイ。闘病のことだけでなく、社会、コロナ、さまざまなテーマが盛り込まれた作品なのですが、「仲間」について深く描かれた本でもあります。人と助け合うってどういうことだろう、と、無の状態から改めて考えることは難しいですが、この本からはたくさんの気づきと学びが得られるはず。誰かを抱きしめたくなるような素敵な本です。



4.『今夜すきやきじゃないけど
著・文/谷口菜津子,発行/新潮社




こちらは仕事にバリバリな姉と自由気ままな弟、ふたりの物語。大事にしているものがちがうとときにぶつかり合うこともあるけれど、ちがうからこそ支え合えることもあるし「こんな生き方もあるよ」って見せてあげることもできる。それまで信じていた価値観を崩してくれるような出会いは、きっと幸せなもの。



5.『ペーパー・リリイ
著・文/佐原ひかり,発行/河出書房新社




女同士の連帯、いわゆる「シスターフッド」モノは近年どんどん魅力的な作品が生まれていますが、その中でも特に注目なのがこちらのロードノベル。結婚詐欺師に騙された女と、結婚詐欺師の姪で、その男から500万円を奪ってふたりで旅に出る。ラストのまさかの展開も含めて、観光とはまったくちがうこんな旅、人生で一度は体験してみたいなあと憧れます。



6.『are you listening? アー・ユー・リスニング
著・文/ティリー・ウォルデン,訳/三辺律子,発行/トゥー・ヴァージンズ




同じくロードノベル、ひとつの旅を描いた物語ですが、こちらは海外発のグラフィックノベル。過去から逃れるために旅に出たふたりは、迷い猫を拾ったことから怪しい男たちに追われ始めてーー。幻想的で叙情的な美しい作風は、ジブリやHUNTER×HUNTERからも影響を受けているのだそう。こんな旅をともにした仲間のことは一生忘れられないだろうな。



7.『アーモンド
著・文/ソン・ウォンピョン,訳/矢島暁子,発行/祥伝社




韓国の作家による小説ですが、日本でも大きな話題を呼んだ1冊です。頭の中の「扁桃体」が小さく、人の感情がわからないユンジェ。怪物と呼ばれたユンジェはやがてひとりぼっちになるけど激しい感情を持つ少年ゴニと出会い、人生が動き始めます。「とにかくいい小説が読みたい」という人にもおすすめ。誰かと出会うことの意味を考えさせられる1冊です。



8.『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日
著・文/パリッコ、スズキナオ,発行/スタンド・ブックス




大人になると、自分で遊びを作ることって難しいなあと痛感します。そんなときに見習いたいのがこのふたり。タイトルどおりの「ご自由にお持ちください、という何かを見つけるまで帰れない」という企画を始めてみたり、「ニセ正月」をやってみたり、お金がなくても楽しいことはいくらでもできると教えてくれます。こんなことをいっしょにできる友達がいるのはうらやましい!

9.『ここはとても速い川』講談社文庫
著・文/井戸川射子,発行/講談社




「仲間」とは生涯を支え合うパートナーや親友のことだけではなく、人生のある時期を共にした、今はもう会えない人のこともそう呼んでいいのかもしれません。児童養護施設でいっしょに暮らす小学生、集とひじりが過ごした日々。その時間のきらめきが胸を打つ、最高に美しい小説です。あの頃大切なものを共有した仲間との思い出は、その後もずっと心をあたためてくれると思う。

 

10.『黄色い家
著・文/川上未映子,発行/中央公論新社

 

 

この衝撃作を「こんな仲間と出会えてよかった」の枠に入れていいものかどうか悩みますが、どうしてもご紹介したいのでこちらも。貧困とネグレクトの中で育った花は家を出て、血の繋がらない女4人で生きていこうとみんなで働き始めます。しかし追い込まれてついに犯罪に手を染め、そして花はたよりないメンバーたちを支配するように……。「金」や「罪」について考えさせられる小説ですが、その一方で、傷つけあって別れた人ともいつかまたやさしさを持ち寄り、愛を伝えられるようになる日が来るのかもしれない、そんなふうに思わせてくれる作品です。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。