前月の手紙社リスト“本”編で花田菜々子さんがセレクトした同じテーマで、手紙社の部員が10冊選んだら? 今回のテーマは「だれかの日記の本」。誰かが書いた日記を読むということは、その人の人生をこっそり覗き見るようなもの? 笑ったり泣いたり、今回も名作揃いです。
✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!
1.『とくべつな毎日』
著/メグホソキ,発行/晶文社
毎日は、たいてい、いつもどおり、普段どおり。時にはしんどい日も、うまくいかない日もある。それでもいい、小さなとくべつがあればね、と教えてくれたのがこの1冊。サティの音楽を聴いたり、つぼみのポピーを買ってきて何色の花が咲くのか楽しみにしてみたり、仕事帰りに歩きながらアイスクリームを食べたり。まねしてみたら、心がふわっと跳ねた。そういういうことなのか。
夕焼け空のグラデーション、ふと見上げた夜空の満月、うまく焼けたマフィン、偶然入ったおいしいドーナツ屋さん…暮らしのかけらを心に留めたら、いつもどおりだけど、少しずつ違う毎日がやってきた。ゆっくり、ゆっくり読み進めて、最後のページをめくり終えたら、あなたの「とくべつな毎日」を見つけていますように。
(選者・コメント:mayuko)
2.『ガールイエスタデイ―わたしはこんな少女だった』
著/桐島洋子,発行/フェリシモ
日記には、時代の空気も、否応なく失う、育った家の空気も織り込まれる。ヒトの日記なのに、その特有な空気を味わう作品である。1937年というより昭和12年、不穏な時代に生まれた桐島洋子さんが「還暦を迎えそろそろ身辺整理しておこうかと思いついたときに押入れの奥から出てきた」、17歳から18歳の日記。何者かである自分を信じようと足掻く日々。
ノンフィクション作家となった彼女も自分の日記を読めば「なまなましく追体験」となる。が、「恥も風化して、むしろほほえましく」(P50)と、あっけらかん。今どきの子なら「黒歴史…」と絶句しそう。学生運動真っただ中、恋人との甘いやり取りまでノンフィクション。「シーリィ」「エヴァ」って呼び合うんだよ?! 読んでる方が、なぜか、照れる。
(選者・コメント:まっちゃん)
3.『はれときどきぶた』
著/矢玉 四郎,発行/岩崎書店
文章も絵もちょっぴり不思議で面白い、隅々まで読んだ児童文学のひとつです。小学生の主人公の則安くんが、”明日日記”に書いたことがどんどん現実のことになっていくというお話。タイトルにもなっている、はれときどきぶたと書いた日には、ぶたが空から降ってきます。面白いだけではなく、ふざけると良くないなと子どもながらこの本を読んで学んだり、こんな日記があったらどうしようかと想像力を膨らませてくれたりした本です。
(選者・コメント:たいちろう)
4.『ムンバイなう。』
著/U-zhaan ,発行/スペースシャワーネットワーク
タブラ奏者のユザーンさん(日本人)が、タブラ購入と師匠に習うことを目的に、インドのムンバイに行きますが、波瀾万丈の旅。まず、注文していたタブラが例年通り出来ていない。師匠の教えも、「音が小さいから、肉とミルク飲むといいよ」という教え。だんだんインドに馴染む(動じなくなる)著者がツイッターで日記のように記録した本です。ずっと笑っていられます。インド人思考でいけば、「自分はなにを悩んでいるのだろう」と思えてきます。是非笑ってください。
(選者・コメント:三重のtomomi)
5.『声を出して笑っていただきたい本』
著/西森洋一,発行/ワニブックス
モンスターエンジン西森洋一さんの日記。ムスメさんやムスコさん、オヨメさんのこと、お父さんのこと、お笑い仲間のことなど日常の些細なことを淡々と、そしてナナメの角度から鋭く、時に緩やかに書き綴っています。毎回「おやすみなさい」で締めくくられており、何があっても「おやすみなさい」で終わる。もう終わりか……と穏やかに納得できる時もあり。ええッ、もう終わるん?!……とツッコミ入れたくなる時もあり。クスッと笑いたくなる愛すべき日記です。
ABCラジオ毎週金曜日「金曜日のパパたち」の中の16:30すぎからの「朗読日和」で西森さんの書いた日記が、ご本人によって淡々と朗読されるのですが、その読み方で、ぜひこの日記も脳内再生してみてください。めっちゃハマると思います。おすすめです。ぜひ! おやすみなさい。
(選者・コメント:ゆうこスティーブ)
6.『一日一氷 365日のかき氷』
著/原田泉,発行/ぴあ
氷は 削られたその瞬間から、少しずつ少しずつ 水へとその姿を変えていきます。だから かき氷の一生は とても短い。その 儚いくせして美しい氷たちの姿が、365日の写真になって並びます。著者の原田泉さんは「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」などの名作をたくさんプロデュースしたお方。なぜか現在は夏になると宮島の旅館で自ら氷を削っています。
そんな原田さんのかき氷への愛が365日溢れた一冊。時には美しい景色を背景に。時には 相棒である削り機を従えて。時には美味しい顔をした誰かと一緒に。一日一氷。かき氷たちの物語が見えてきます。これはきっと日記なのでしょう。原田さんの。そしてかき氷たちの。
(選者・コメント:KYOKO@かき氷)
7.『アルジャーノンに花束を』
著/ダニエル キイス,訳/小尾芙佐,発行/早川書房
映像化されているが、原作も読んで欲しい一冊。主人公は知的障害のある32歳の男性。そんな彼のもとに、大学講師が「頭を良くしてあげる」と話を持ち込み、白ネズミのアルジャーノンと競うことになり、アルジャーノンと共に、主人公の知能も天才的に上がっていきます。頭が良くなった主人公は、たくさんのことを知り、感情を知り、過去を思い出し……そして主人公とアルジャーノンに異変が訪れます。
主人公の変化が日記形式で書かれており、主人公の喜びと悲しみと切なさがあり「幸せとは何か?」「生きるとは何か?」「優しさとは何か?」など……色々と自然も考えさせられます。あえて読みにくくなっていく文章がまたリアル。「アルジャーノンに花束を」のタイトルの意味が知りたい方は、是非ご一読下さい。
(選者・コメント:ジャスコ)
8.『Letter』
著/皆川明,発行/つるとはな
我が家の本棚から宝物の一冊です。mima perhonen の皆川明さんの本「Letter」です。まず手に取って、触っていただきたい。表紙も中のページも手触りが最高にいいんです。なんとも優しい赤地にゴールドの文字。本の頭の部分も(なんていいますか? この部分)もゴールドでとっても素敵なんです。ずっと触って見ていられます。
2011年から2020年の10年間、毎週、1週間に一度、自分に向かい合い、デザイナーとして日々、想い、感じていることを記し、その大切な時間を心の痕跡として自分との往復書簡のようにLetterに残したいという思いで作られたそうです。皆川さんの綴る言葉もとても素敵で目の前に情景がひろがります。優しさや強さ、葛藤や戸惑い、いろいろ気づきなど感受性豊かな表現があふれています。
はじめから読んでも、思いのまま開いたところから読んでも楽しめます。是非是非手にとっていただきたいおすすめの一冊です。
(選者・コメント:HAPPY 弥生)
9.『頁をめくる音で息をする』
著/藤井基二,発行/本の雑誌社
尾道で深夜に開く古本屋さん「弐拾dB」の記録。ぽつりぽつりと差し挟まれる詩が、キリキリと胸に迫る。詩というものは、もっとぽわぽわした柔らかくて優しいものだとばかり思っていたが、心地好く覆される。特に印象に残ったのはこんな詩だ。
“今借りて来たばかりの紙幣(おさつ)に
せめて星がすかしを入れて
霧が脱脂をしてくれるまでは家へ入るまいと
わたしは家の前の畑の暗がりに立つていました
小さいのが「お母ちやんは?」
大きいのが「帰るに決まつている」
安心し切つて灯りの穴んこに浮んでいる子供達
わたしは、天の灯りでもう一度紙幣をかぞへて
家の灯りへ入りました
港野喜代子「紙幣」”
詩集と似た構成で、行間が広くて読みやすいのも嬉しい。頁をめくり終わったら、天の灯りを頼りに尾道へ訪れたい。
10.『創作』
著/作者不明,編/田口史人,発行/リクロ舎
古道具屋で偶然見つけられた名もない若者の1973年から1975年の日記。
本になっていますが奥付もありせん。装丁が素敵な日記帳です。
天気、所持金、読んでいる本、その日のできごとが簡潔に綴られています。心の行方を探している作者に人間らしさを感じ、その思い巡らす素直な言葉は文学的で静か。幸せそうなところは見当たらないけれど、読み進めていくうちにじわじわ穏かな気持ちになります。
文学者を目指し、日雇いで働きながら賭け事でお金を使い、酒を飲み本を読んで、日々あれこれ考え巡らす若者の心の中を少し覗いてみませんか?
(選者・コメント:Jun:co)