これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?



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第12回「遠出をしたいけどなかなかできない今をどう過ごす?」

 

月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。今年は春から寒暖差が厳しい気候が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。これから梅雨が始まりますが、雨でも快く出かけられるように、6月のはじめに雨傘と日傘のメンテナンスをおこなう予定でいます。骨やつゆ先が壊れてしまってそのままにしていたお気に入りの傘があるので、祖母がいつもそうしていたように修理に出して、できる限り長く使い続けていこうと思います。

今回の相談はtomomiさんから。2回目の相談を承りました。



【今月のお悩み相談】

相談者:tomomiさん

甲斐さんにお悩み相談2回目となります。

かなり、個人的な悩みで、手紙社さんがこれからイベントを沢山するのに逆行した内容になります。私はお仕事で、在宅と介護を結ぶ福祉の仕事をしています。まだ、在宅訪問はフェイスシールドをして短時間訪問。職場は、食事はつい立てをしても、1人で食べないといけない状況です。

県外に出る時は会社の許可と行ったあとにPCR検査をしないと職場に行けない為、県内以外行けていません。一度市町でコロナ発生0人の時に、内緒で県外に行きましたが、誰にも言えないかったのが辛かったです。沢山イベントや県外に行っていた2年前のように、自分がいつ動くのか、タイミングは会社次第か? 不安になってしまいます。

今の楽しみは、手紙社さんの“部活”でのオンラインミーティングやFacebookグループの“部室”やSNSで、「自分はここにいる。」と感じる事が唯一の救いです。かなり暗い悩みで、申し訳ありません。甲斐さんも、沢山取材などに行けないなか、どのように過ごされているのか? また、どのように外にこれから出られるのか、よろしければ、教えていただきたいです。

これからも、陰ながら応援しております。


コロナ禍のはじまりの2020年と比べると、少しずつ世の中が動き出していますが、まだまだ心配は尽きませんね。tomomiさんは福祉の仕事に携わっているとのことで、これからも気を遣うことがさまざまあることでしょう。社会の中で大切な仕事を担ってくださってありがとうございます。


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tomomiさんがおっしゃるように、この春くらいからじょじょに、手紙社のイベントをはじめ催しごとが再開されていますね。私自身、昨年までの2年間は全てオンライン開催だった講演会やトークショーも、対面開催の依頼が増えてきました。主催者側からは、人同士の距離をとったり、換気・消毒を徹底するという感染対策の提示がありますので、私もじゅうぶん注意しながらできることをお受けしている状況です。


私の仕事は、取材に出かけて撮影したりお話しを聞いたり、みなさんの前で講演やワークショップをおこなうことが大きな割合を占めているので、自由に出かけることができないこの2年は、気持ちのうえでも収入的にも厳しい時期がありました。それでも、生活習慣の見直しや徹底した健康管理、価値観の確認など、このような状況下でなければ真摯に向き合えなかったこともあったので、全てをマイナスととらえず、よかったこともあったと前向きに考えています。

 

 



tomomiさんからの質問にあった「どのように外にこれから出られるのか」という件に関してお答えしますね。私はもの書きという仕事をしているので、どこかへ出かけたり人と会う機会が他の方より多くあります。フリーランスという立場上、自己管理は比較的慣れており、自分で細かな感染対策のルールを作り行動しています。それぞれ異なる会社や組織からお仕事をいただくときには、コロナ禍においての組織内の取り決めを事前にお伺いし、その都度、関係者に合わせるようにしています。


一方、私がtomomiさんのように会社に所属していたとしたら、組織内で決められたことを守りながらも、やはり「私はどうしたらいいだろう」と不安になるでしょう。今のように世の中が少しずつ動き出し、周囲が旅行やイベントに出かけ始めたらなおさらのこと。自分だけ取り残されているような心細さを感じるだろうと思います。

私は感染症の専門家ではないので、安易に「もうしばらくの辛抱です」と言うことができず、「いつまでこの状況が続くか想像できない」のが正直なところです。それでもtomomiさんに、今の不安な気持ちから抜け出すための光はきっとあるとお伝えしたいです。


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前述した「どのように外に出ているか」は主に仕事に対してで、私もプライベートではまだ遠出を控えており、長い休みも家族の諸事情以外は遠出せず、東京都内で過ごしています。コロナ禍をきっかけに、「地元(現在暮らしている東京の近所)のいいところを見つめ直す」ことや、「暮らしに密接した身近な楽しみ」に気がつき目覚めたのも、大きな理由のひとつ。「悩みは“すき”の種」 5月号の冒頭にも書いていますが、この一年は生活の中心にある杉並区の善福寺川周辺を散歩したり、休日には川沿いの緑地にレジャーシートを広げてお弁当を食べたり読書して過ごすことが楽しくて、もっぱら近場を満喫中。平日は家から一番近いスーパーを利用していますが、休日は1~2駅分歩きながら、あらゆるスーパーをはしごするのにも凝っています。スーパーごとに置いてある食材が違っているので、“ここのスーパーにしかないもの”を把握できると、いざというとき役立ちます。たとえば、長年に渡り愛用している京都のお酢があるのですが、1駅歩いた隣町のスーパーで扱っていることが分かってからは、わざわざ取り寄せせず「杉並の小京都までお酢を買いに出かけよう」などと言って家を出発。リュックサックにコーヒー入りの水筒を詰めて、途中の公園を青空カフェに見立てて一休みします。


私は、寝転びながら映画を観たり、昼間から簡単な料理をして長い時間かけて食べたり、家でだらだら過ごすことも好きですが、やっぱり外に出ると気持ちが変わるので、疲れて体が重いときも、できるだけ外に出て歩く時間を持つようになりました。最近は、道端や公園の草花を眺めたり、鳥の鳴き声に耳をすませたり、川に浮かぶ鴨の親子を観察したり、ノラの猫を探したり……そんなことが心から幸せ。こんなことを同世代の友人に話すと「分かる! 私も」と思いがけない共感の声。「野の花を見て満足する、これが歳を重ねるということなのかもしれないね。そうだったとしたら、歳をとるのも気が楽でいいね」と笑い合いました。




県外への旅やイベントに行くことが難しい今のうちに、まだ行ったことがなかった近場の店や公園、図書館、美術館のような施設などを探して書き出し、“小旅行”の計画を立ててみるのも楽しいですよ。どんな服を着ようかな、あの本をカバンの中にしのばせておこう、誰と会うわけでなくとも、自分の中だけでもちょっとした変化を感じられると、自然と心が弾んできます。私自身、近所のスーパーや公園に向かうだけでも、お気に入りのワンピースを着て帽子をかぶり、物語の登場人物になったような心持ちで向かうのが好き。自分だけの秘密の時間がどこまでも広がっているような気がしてきます。

それからtomomiさんは、「自分はここにいる」と大切に感じられる場所を持っている。これが何よりの宝物。これは、誰にでもあることではありません。手紙社がつないでくれた仲間たちが、tomomiさんをあらゆる場所に連れ出してくれるはず。まだ今は会えなくても、次に会えたときの話をしながら、明るい方へ向かってゆっくり歩いていきましょう!


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甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2021年4月には『たべるたのしみ』に続く随筆集『くらすたのしみ』(ミルブックス)が刊行。