これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?



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第13回「遅れてやってきた恋愛感情とどう付き合う?」

 

月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。「悩みは“すき”の種」が始まってから、早いもので1年が経ちました。毎月こうしてみなさんからの相談にお答えすることで、私自身の考え方にも広がりが出てきました。

ときに友だちのように、ときに同志として、みなさんと同じ立場に立って私の経験や考えをお伝えしていますが、結局のところ私には完璧な正解を導き出すことはできません。最終的に答えを決めるのはみなさん自身。その後、みなさんがどんな選択をして、どんなふうに歩んでいるのか、「種の芽の話し」をぜひ伺ってみたいです。

最近ことに感じるのが、自分に似た考えや価値観を持つもの同士、共感したり支え合うことも大切ですが、自分とは違う他者の悩みや価値観に触れたり、「自分と人は違う」という真理を自然な形で受け入れることがいかに大切かということ。金子みすゞさんの詩「私と小鳥と鈴と」に、「みんなちがって、みんないい」という有名な言葉がありますが、みんなが当たり前にそう思えたら、一人一人がもっと楽になれるし、世界は今より穏やかに近づくはずと想像します。

さて、今回届いたのは、ゆりなさんからのお便りです。



【今月のお悩み相談】

相談者:ゆりなさん

甲斐さん、こんにちは。
悩み相談というより、背中を押してもらえたらな……と少し甘えて投稿します。

仕事で時々一緒になっていた方をいつのまにか好きになっていたようです。
恋愛にはだいぶ疎い私ですが「会えるのが嬉しい。またお話しできると良いな。」と想っている自分に気づきました。

とはいえ、この気持ちを自覚した今後その方にお会いすることはもうなさそうで。身なりに気をつけたり、気持ちが弾んだのは自分の中のいい変化だったなぁと区切りにして、自分磨きに切り替えをしたいと思います。

何か前向きに頑張れる言葉をいただけますと嬉しいです!よろしくお願いします!


ゆりなさん、ステキなお話しをありがとうございます。ゆりなさんが綴る、「気持ちが弾んだ」「いい変化」「自分磨き」「切り替え」「前向きに頑張れる」などという文字の隙間から、きらきらまぶしい光がこぼれ落ちてくるようです。人を好きになるって、しみじみすばらしいことですね。今のゆりなさん、きっといい表情をしているでしょうね。


短い文章ではありますが、「人を好きになった」と自覚した今のゆりなさんからは、“正の力”が溢れているのを感じました。意識して身だしなみを整えたり、足取りも心も軽やかに弾んだりというのは、一人の人間にとって大きな変化。もちろんこれも人それぞれではありますが、長い人生の中、誰もがそうたくさん体験できることとは限りません。

 



私は人に対してだけでなく、お菓子、パン、建築、洋服、雑貨、土地など、さまざまなものに対して非常に惚れっぽい性質なのですが、好きなものを見つけた日や、好きな場所を目指す日は、お化粧するのも着替えるのも楽しくて仕方がありません。始終、顔はにんまりゆるみ、おおらかに機嫌よく過ごせます。普段の自分は容姿も性格もコンプレックスだらけですが、好きなものに向かって進む自分のことは好きでいられる。だからこそ、いつでも好きなものに満たされて生きていたいと思うのかもしれません。

私自身は、恋愛も結婚も決して“しなければいけない”という考えではありません。その上で、「恋がしたい!」と積極的にパートナーを求めている方が身近にいたら、ぐいっと背中を押すこともあります。同時に、恋愛やパートナーの存在に重きをおかず、自分で選んだ人生を謳歌している友人・知人に尊敬の念を抱いたり、誇らしさを感じることもあります。

どちらがいいということではなくて、心がときめくことや、楽しめることを進んで見つけて、好きなものに囲まれて生きている人こそすばらしと思い、自分もこんなふうにいられたらと憧れます。




自分を磨く楽しみを見つけたゆりなさん。自分を磨くことって本当に楽しいです。道端に咲く季節の花や夜空に浮かぶ月に気持ちを傾けることも、おいしいものを食べることも自分磨き。美術館に足を運んで美しいものにたくさん触れたり、お笑いを見てゲラゲラ笑うことも自分磨き。普段とは違うおしゃれをしてみたり、誰かに手紙を書いてみようと便箋を選んだり、知らなかったことを知ることも、全てが自分の輝きに変わります。ゆりなさん、こんな気持ちになれた今、思いきり、存分に、自分を磨いて楽しんでください。

もしかすると自分磨きに夢中になる中で、あらたな恋が待っているかもしれません。人って、前を向けば向くほど、思いがけない出会いがあるものですから。

あるいは、ひと月先でも、半年先でも、一年先でも……「会えるのが嬉しい。またお話しできると良いな」と想いを寄せたその方のことを、ふと思い出すことが続いたら、そのときまた相談してきてください。さらに一歩先へ進めるように、一緒に考えましょう!


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甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2021年4月には『たべるたのしみ』に続く随筆集『くらすたのしみ』(ミルブックス)が刊行。