これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?
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第16回「意識のずれがある同僚と折り合いをつけるには?」
月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。10月に入り、今年も残すところあと3か月に。歳を重ねるにつれ、一年という時の流れを速く感じるようになりましたが、それも我が道を進んでいるからこそと思えるようになってきました。仕事も暮らしもすべきことが絶えずあり「ちょっとばたばたしておりまして」と忙しなくとも、自分で選ぶ毎日に充足を感じる余裕がやっとのこと出てきました。師走へと向かう気配が漂いはじめてきた今、病院、掃除、処分するもの、買うべきもの……やり残していたことを書き出した中から、じわじわと消化しては「ああ~すっきり!」と爽快感を得ることが、ここ最近のささやかな楽しみです。
10月の相談は、みぃ先生から。8月の「夜ラジオ」で、メッセージを書き込んでくださってありがとうございました。
【今月のお悩み相談】
相談者:みぃ先生さん
甲斐さん、はじめまして。
私は人と関わり、育てる仕事をしております。仕事をしている中で、こんな人……「なんでも全て1人で私がやっています、私のいうことをすれば、うまくいくはず。」という意識の方に出会ったことありませんか?
口では「みんなに感謝してる」と言いつつも、日々承認したり、誉めたりすることはなく、やって当たり前という雰囲気しか伝わってこないのです。そして、同僚もそういう雰囲気に、怖さまで感じている中、日々のフォローをしたり、話しを噛み砕いてお話ししたりと、自分にできることをコツコツとしておりますが、それにも限界があります。
関わる人たちのためにと、学び考え、自分達で考え行動することこそが大切だと思い、その実践を日々しておりますが、「なんでそうやったの?」と問いつめられ、その方の思いと違うと、全てが否定されてしまいます。そうなると、考えることをやめてしまうのです。
完全に悪循環……。
このスパイラルから何か抜け出せる方法は何かないものか……。お話をお伺いしたいです。よろしくお願いいたします
「人と関わり、育てる仕事」は、やり甲斐とともに、さまざまなことへの気遣いも必要で、考えるべきことの連続ではないでしょうか。毎日お疲れさまです。
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家族、友人、学校の同級生(大人ならば同僚や仕事相手)、それから社会生活で一時的に関わりを持つさまざまな人(例えば、店員さんや病院の先生やスタッフなど)に、自然な形で感謝をしたり、認めたり、誉め合うことは、とても大切だと、それこそ歳を重ねるごとに深く思うようになりました。
それというのも若気の至りで、家族、友人、仕事相手に対して、当然自分が正しいように振る舞ってしまった過去があるからです。幸いなことに自分の愚かさに気がつき、「そうだった自分」を認め、受け止め、今は自戒を忘れないように過ごしています。
仕事や他者との付き合いという経験を重ねる中、いくつもの失敗を繰り返し、そのたびに本を読んだり映画を観たり人の話を聞いて、“自分自身が変わるべきところ”を考えてきました。その結果、「感謝をしたり、認めたり、誉め合うこと」を習慣化しようと意識の変化が。自分が変わったことで周囲の環境も整い、今は互いに感謝し、例え違う意見や価値観でも尊重し合える人と親しく付き合い、その関係性を大切にできています。
それと同時に覚えたことは、心を尽くして気持ちを伝えても分かり合えない人とは距離を置いたり、自ら身を引き別の場所へ向かうこと。波立つ心を鎮め、傷ついた自分の心を守るためには、諦めたり、口をつぐんだり、そこから去ることもひとつの策だと感じたからです。
人を育てる仕事に携わっているみぃ先生には、他者に対して自然な形で、感謝したり、認め合ったり、いいところを伝え合ったりできると、自分の心が軽やかでいられるし、いい仲間が集まってくることを、これからもぜひ伝えていってください!「学び考え、自分達で考え行動することこそが、大切」というみぃ先生の思い、それを実践されていること、心から共感しますし、尊敬します。
みぃ先生がおっしゃる「なんでも全て1人で私がやっています、私のいうことをすれば、うまくいくはず。という意識の方」(仮にAさんとさせてください)。私のように自営業ならば、そこから去ることはできませんか? 別の場所で新たに土台を築いていきましょうとご提案できるのですが、職場でしたら簡単なことではありませんね。自分だったらと想像するだけで、ストレスが湧き起こります。同じ思いを抱える同僚をフォローする立場に回られているみぃ先生は、人一倍責任感が強いのだと思いますが、みぃ先生が苦しさを募らせるのは本当に悪循環。対策を練らねばいけませんね。
そう……対策。落としどころのない悪口に向かうのではなく、Aさんへのストレス軽減作戦会議をたててはいかがでしょうか。
・職場のみんなで集まって、改善したいところを伝え合う場を持てるように働きかける。
実は私もときどきしているのですが、一対一で伝えると角がたつことがあったとき、みんなを集めて話し合いの場を持ちます。そこでは、できていないこと、できていない人を責めるのではなく、まずは自分のこと、自分の改善点として話を切り出します。もちろん自分自身に全く思い当たることがなければそうすることはできませんが、少しでも自分にひっかかるフックを探して。もしくは、「私は」という主語をつけて話しにくいときは、人から聞いた(現に私がここでみぃ先生にお話していますし)ことにしていいと思います。
「ある人とのやりとりの中で、“気づき”があったのでみんなでシェアしたいです。ときどき人は、なんでも全て1人で私がやっています、私のいうことをすればうまくいくはず、という思い込みを持ってしまうもの。あらためて意識的にみんなで、感謝し合ったり、いいところを伝え合ったり、こうして改善点を話し合う機会を定期的に持つことで、よりよい環境を作っていきませんか?」
「ある職場でギクシャクすることがあったそうです。そこでは、お互いに日頃から感謝し合ったり、いいところを伝え合ったり、意識的に実践することで改善されたそうなので、私もみなさんにそうしてみようと思います!」
こんなふうに、自分自身が宣言をする形で、角をたてずに改善できたことが何度かありました。それなり労力やパワー、勢いを要するので、あくまでも私自身の経験からの一例です。
他にも、
・Aさんに問い詰められている人がいたら、お互いに軽やかに助け舟を出す
・Aさんはどうしたらこうなるのかと同僚と分析してみる
などなど……決してAさんをちゃかしているわけではないのですが。今後もAさんと同じ職場でやっていくために、みぃ先生はもちろん職場のみなさん一人一人がストレスを溜め込まず、前向きな形で吐き出していってほしいなと思います。
しかしながら一番は、Aさんに直接自分の気持ちを伝えられたらいいですね。私も最近は特に、仕事の関係者や友人との関係性の中で、傷つくことや改善したいことがあったら、できるだけもやもやを長引かせずに伝えるようにしています。「私はこういうことに傷ついたり、気になってしまって。これからはこうしていくことはできませんか?」と、冷静に穏やかに、具体的な例を出して、改善できないか、関係性を改善したい本人に思いきって相談してきました。そのうちいくつかは、相手もはっと理解してくれて、自分が思い悩んでいたのがおおげさだったのかなと思うくらい、さっと解決に向かうことがありました。直接伝えてもなかなか改善に至らないことももちろんありましたが、そんなときは自分の気持ちを切り替えて折り合いをつける方法をとりました。歳を重ねるごと、とにかくストレスフリーに生きたいという思いが強くなって、相手に働きかけることと、自分自身の意識を変えること、どちらもを実践しています。
そうして、組織の中のもっとも上の立場にある人に、みぃ先生が見てきたこと、感じていることを丁寧にお話して、把握しておいてもらうことも必要だと感じました。
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長くなりましたが、いくつか対策を試みた上で負のスパイラルから抜け出せないようでしたら、また相談してきてください! 月刊手紙舎読者のみなさんからも、秘策が出てくるかもしれません。
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甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2021年4月には『たべるたのしみ』に続く随筆集『くらすたのしみ』(ミルブックス)が刊行。